『献心 警視庁失踪課・高城賢吾』

興味を覚えてシリーズ第1作を読んだ。気に入ったので既刊のシリーズ各作品を順次読み進めた。既にシリーズ10作品が揃っている状態である。纏めて入手し、毎日のように各作品を読み続ける羽目に陥った。「羽目に」としたが、本当に「停められない…」というように読み進めたくなってしまうシリーズなのだ。

↓今般、10作品在るシリーズの第10作を夢中で読んだ。読了して凄く深い余韻に浸る。

献心 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課で活動する高城警部が主要視点人物となっている。身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった高城が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。各作品は、高城の一人称による語りという体で綴られ、何処となく外国作品の翻訳的な感じがしないでもない。探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂うのだ。

シリーズの小説にも色々な感じのモノが在ると思う。本作の作者は警視庁の警察官達が活躍するシリーズを何本も展開している。何れも、シリーズの作品が重ねられる中で半年や1年というような時間が過ぎ、何作も続く中でそういう時間経過が5年間以上にもなる。そういう時間の流れの中、作中で起こる様々な事案の顛末と共に、シリーズ各作品に登場する主要な人物達の身近に起こる事やその展開も描かれる。そういうことで「人の人生の中での動き、変化」が読者の側に迫って来る。

この「失踪課」のシリーズは、高城警部が向き合うことになる様々な事案の顛末と合せて、彼の中での変化、変化を反映した行動というようなことが描かれる。7歳の娘が失踪してしまったという出来事が在り、全く事情が判らないままに年月が過ぎる。7年間程というもの、高城は離婚もしてしまって、酒浸りになってしまっていて、配属された所轄署で半ば居眠りしているばかりのような有様だった。そういう状態から、明確な結論が出ていない娘の件に関しても調べるというようになって行く。やがて娘の死という事実に直面するのである。こうした高城の足跡が各作品を通じて順次描かれるというシリーズだと思う。

そして本作の物語になる。

冒頭、次の人事を巡って、人事問題を司る関係者達が話し合っているような描写が在る。そして物語が始まる。

高城の警察学校の同期に長野警部が在る。捜査一課で“長野班”を率いて活躍している。この長野の案内で、高城は或る会社員に会って話しを聴こうとしていた。

高城の娘が失踪してしまったのは12年前のことである。が、他殺を示唆する頭部に傷が在る状態の白骨遺体が、全焼してしまった家屋の基礎部分から発見されてから、未だ2ヶ月弱である。他殺の可能性が高い白骨遺体ということで捜査本部が設けられ、捜査活動が行われていた。長野は部下達も動かしてこの事案の捜査に携わっていた。そういう中、12年前の高城の娘の一件の時に、それらしい女児を視たと思うとしている人物が現れた。

高城の娘の件に関して、高城自身は「近親者の事件」ということで捜査に携わることを禁じられてしまっていた。が、長い付き合いの友人でもある長野は、高城がこの或る会社員に会って詳しく証言を聴くべきだと考えたのだった。

そしてこの会社員と会って話してみたのだが、最初に「視た」としていたものが「判らない」と曖昧な話しになってしまった。

不自然な話しであるので、長野は部下達を動かしてこの会社員の様子を探ろうとした。そうした中、会社員は弁護士を雇い、その弁護士を差し向けて行き過ぎた捜査活動で迷惑を被っていると抗議をした。やがてマスコミがこの件を取上げるかもしれないというような動きを見せ始めた。

その他方、白骨遺体の発見とDNA鑑定によって身元が確定してから2ヶ月程度とは言え、実質的に12年も前の事件なので捜査は難航している。結局、高城自身や失踪課第三方面分室の捜査員達も捜査本部を手伝うことになって行く。そして高城の娘が失踪した当時の、小学校に在った児童達やその保護者達への聴取が薄かったということになり、当時の全校児童を対象に接触を試みる運びになる。

なかなか連絡が付かない人物が何人か在った中、事件から少し経って都内で転校し、その後は秋田県に移っているという高城の娘の同級生と母親とが在った。母親の実家の旅館で仕事をしていたらしいのだが、旅館が廃業していて行方がよく判らなくなってしまっていたのだった。高城はこの母子に関して調べるべく、盛岡へ出て、母子の足跡を探って秋田県の東寄りな地域を走り回る。

証言の趣旨を翻すようなことや、弁護士を依頼して警察に強硬に抗議するような真似をした会社員の意図は何なのか。行方がよく判らない様子の同級生母子の行方と、その方々を転々としたような行動の理由は何なのか。そして高城の娘が死亡して埋められた経過の真相は如何だったのか。高城は必死にそれらを解き明かそうとし、明らかになる事実に向き合って行くことになる。

本作は、この作者が時々やっている「他シリーズの主要人物達の客演」が見受けられる。刑事総務課の大友(「アナザーフェイス」)、「追跡捜査係」の西川と沖田が登場している。捜査を巡って新聞社が動いているようだということが在って、その辺のことを調整し、その顛末を新幹線で東北へ出発する高城に伝えるべく東京駅に現れる大友。12年も前に起きた事件の被害女児が白骨化して発見という異常な事態の中、捜査本部に入って活動している西川や沖田。そういうような様子が一寸面白い。「追跡捜査係」の2人に関しては、過去の捜査で及ばなかったと見受けられる事柄を掘り起こして「これをやろう!」と提言し、捜査本部の参謀長のように活躍する西川、本部の設けられた署の駐車場片隅に設けられた喫煙コーナーで高城と語らう沖田というような感じだったが、何か凄く印象に残る。

ゲストの他、このシリーズのレギュラーと呼ぶべき第三方面分室の面々も各々に活躍する。更に第三方面分室が間借りしている渋谷中央署の警務課に異動し、分室時代は「オヤジさん」と慕われていた法月や、その娘で弁護士の法月はるかも大事な役割を果たしている。

レギュラーと呼ぶべき面々の中、女性の明神刑事もシリーズで描かれた日々の中で少しずつ変わった。尖っていて不機嫌な感じだったのは、不本意な「玉突き人事」での失踪課への異動であったからだ。やがて、不機嫌な感じは後退し、基本的に多少尖っているものの、硬軟使い分けて捜査活動に励み、頼もしい存在になって行く。そしてキツい言い方をするような場面も在るが、個人的な心の問題を抱える高城に親身かもしれない。他方、第9作に至って明神自身に個人的な問題が生じ、それに何とか折り合いをつけて仕事に勤しんでいる。この第10作でも高城を援けて活躍する。

『献心』という本作の題である。これは「献身的」の「献身」を少しアレンジしたのだと思う。他社へのサポートというような「献身」だが、「身」というよりも「心」ということ、精神的に応援する、応援されるというような意味であるような気がする。そして本作中、この「精神的に応援する、応援される」に何重もの意味が込められているように感じる。

素晴らしいシリーズに出逢い、全10作を読了して善かった。本作を、同時にシリーズ各作品を広く御薦めしたい

『闇夜 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第9作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も「続き」が気になってドンドン読み進めた。

闇夜 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

物語は前作の出来事の少し後という時期2月、3月頃というような様子の中で進む。

冒頭、高城警部が自宅ソファで酔い潰れたように眠っていて、「夢の中?」という男女の話し声のようなモノが聞こえるという気がしているというような辺りがら始まる。

男女の話し声というのは、高城警部が配属されている失踪課第三方面分室の醍醐刑事と明神刑事だった。施錠せずに眠ってしまっていた高城の家に上った2人は、少々手荒なやり方で高潮を起し、支度をさせて連れ出す。

高城は、身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした時期も在った。事件とは当時7歳の娘の失踪だった。失踪課での活動を続ける中、高城は生存を信じて娘を探そうとするようにもなっていた。が、その死亡が確定した。娘の失踪当時は建築中だった戸建て住宅で火災が発生して全焼してしまうという出来事が在った。その基礎部分から子どもの白骨遺体が見付かった。DNA鑑定等の結果、高城の娘であると確定した。

高城はこの娘の葬儀を済ませた辺りで酒浸りになってしまい、無断で欠勤して自宅で酔い潰れていたのだった。「全員出動」という事案の発生を受け、朝一番に醍醐刑事と明神刑事が連れ出しに現れたのである。失踪課第三方面分室の中では、高城は無断欠勤していたということには「なっていない」というのだ。戸惑いながら高城は捜査に参加する。

失踪課第三方面分室の全員で動くことになったのは7歳の少女の失踪であった。ピアノ教室から帰らないので探し、小学2年生の未だ幼い女児が動き回るような時間帯を過ぎていると夜遅くに交番に相談が入り、所轄署に加えて失踪課へも連絡が入って、第三方面分室の面々が活動を始めた。高城は自身も「7歳の娘が失踪」という経過を経験していることから、事件を何とか解決することを願いながら捜査活動に参加した。

やがて女児は絞殺死体で発見された。最悪な結果である。高城は娘を喪った両親に寄り添おうともするが、殺されてしまった顛末を解き明かすことが必要であると、執念深く事態を調べようとする。そうしていると、女児絞殺の一件が在った地区から然程遠くない辺りで、また女児の失踪が発生したという報せが在った。高城は走った。

こういうことで、自身の身に降りかかった事態であったような、7歳女児の失踪というような事態が相次いだ中で、脱力状態から立ち直る高城が執念深く証言を追って被疑者を特定し、取り押さえる顛末である。被疑者を捜査員達が追跡して犯行を繰り返しそうな場面での逮捕を試みる。その場面が凄く緊張感溢れる感じで夢中になった。

本作では、高城とコンビで動くことが多い明神愛美刑事に個人的な問題が生じてしまうというような場面も在る。また高城が長く付き合う居酒屋の店主が事務局長を務めているという「犯罪被害者の会」関係も出番が多い。こういう辺りは、同じ作者による少し後の、犯罪被害者の支援を担当する人達の物語のシリーズに通じるのかもしれない。

自らも無念を胸に、許すべからざる卑怯で歪んだ犯罪者を執念深く追って奔走する高城達の様子は、読んでいて力が入る。また前の巻の事案について、この巻での事案に少し関連が生じる。そういう辺りはシリーズらしい。

同じ作者の他シリーズに「失踪課の高城」と出て来るというのが在って興味を覚え、シリーズ各作品を紐解き始めた。そういう切っ掛けだが、各作品に出会えて善かったと思う。最も身近な家族が失踪し、それを巡って考え方や感覚の違いが判明して徹底的に不和となった配偶者と別れ、何やら酒浸りのようになっていた高城が、失踪課での活動や仲間達の支えで立ち直って行くシリーズだ。色々な人達の物語を解き明かすような捜査活動なのだが、許すべからざる悪には厳しく立ち向かっているという感じが好い。この愉しいシリーズは10作ということだが、終に第9作に至ってしまった。

『牽制 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第8作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も夢中になった。

牽制 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は年始の休暇時季が過ぎた1月前半頃ということになっている。

物語の冒頭、高城警部が自家用車を駆ってアクアラインを往き、千葉県を目指して移動中という状況から始まっている。(本筋と然程関係が深くない話題だが、個人的には飛行機に乗っていて眼下に見たものの、何らかの形で走った経過が無い道路なので、気に入っているシリーズの小説の主人公がこの道路を移動する様子が凄く興味深かった。)

物語の話題に戻る。高城が酒浸りというような状態に陥ってしまい、更に離婚に至る切っ掛けとなった、乗り越え難かった身に降りかかった事件というのは娘の失踪であった。姿を消してしまった当時、娘は7歳の小学1年生だった。その娘の失踪から7年程を経た頃、高城は失踪課へ異動し、その活動を続ける中、間違いなく死亡したということが判明したのでもない限り、娘を探すことは続けるべきだと考え、行動するようになっていたのだ。そういう中、時間が経って19歳になっている娘の状況ということで、当該の年齢で身元がハッキリしない女性の遺体が発見されたというような情報が在ると、現場に出向いてそれを視るということをしていた。3時間程度以内であれば、車を飛ばして現地へ向かうのが動き易いと、高城は自家用車を求めるということもしたのであった。

7歳の女児であった娘も19歳になっているであろうが、黒子や3歳の頃の火傷の小さな痕等の特徴は変わらないと見受けられるので、それを確認することや、コンピュータで造った「19歳を推定する顔の感じ」という画も持っていて憶えており、更に失踪した頃に提供したDNA鑑定向けのデータもデータベースに在るので、照合もできるということで高城は方々を訪ねていた。今般は千葉県の富津へ向かっていた。遺体が発見され、その件の対応をしている地元警察署と連絡を取り、案内役として若手捜査員が出るというようなことにもなり、高城は富津を訪ねて地元警察署の捜査員と会い、発見された遺体を検め、発見現場の様子等を視た。

富津の遺体は娘ではないと確かめ、高城は食事を摂って都内へ引揚げ、渋谷中央署の中に在る職場である失踪課第三分室へ顔を出そうというようなことを考えていた。そこで連絡を受けた。

失踪課第三分室に寄せられた相談は、高校3年生が姿を消したという内容だった。甲子園にも出場した高校の中心選手、強打者で、ドラフト1位指名でプロ野球入りということになっている生徒だった。この生徒は富津の出身で、高校進学時に東京都内の高校に進み、寮生活をして練習に励んで試合に出場して活躍していたのだという。高城がこの失踪者の出身地である富津に偶々居合わせた。そこで富津に居る中学時代の友人達や両親等、本人を知り得る人達の事情聴取を行って欲しいということになった。が、プロ野球の各チームがキャンプ入りする前の、新人選手がチームの寮に入るような予定が近いことから、姿を消した件が不用意に拡がらないように慎重な捜査が求められた。

この高校球児の事案の他方、渋谷中央署管轄下の恵比寿駅前交番に在る21歳の巡査が、制服着用で勤務をしていた中で姿を眩ませた。按配が悪いことに、件の警察官は拳銃を持っていたらしい。渋谷中央署の中に間借りしていう失踪課第三分室の面々もこの巡査の失踪の件でも奔走することになった。

高城は高校球児の問題の捜査に勤しむ。件の高校生の高校は荻窪に在った。高城が嘗て妻や失踪した娘と住んで居た地区である。高校球児の問題に取組む中で、高校の生徒達が絡む別件や、その別件に件の生徒の関与が噂される等、高城は嘗て高校球児であった経過も在る醍醐刑事を主な相方にしながら事案に取組んだのだが、荻窪で動き回ると色々と思い出す事柄も在る。そして、10年程を経て、嘗ての顔見知りに出くわすというような場面も在った。

こういうようなことで、自身の問題に向き合いながら、捜査対象の若者が妙な不利益を被らないように、何とか探し出して彼を案じる両親等を安心させたいと高城は奔走する。やがて高城が衝撃を受けてしまう出来事が待っている。

シリーズ各作品の事案の中では、「事の次第が明らかになってみれば…」という「ドッキリ」的な感じが強い内容かもしれない。が、何か好い事にも好くない事にも向き合いながら動く人生を静かに見詰めながら生きる様子が折り重なる社会というようなことに想いが巡る。本作は何か酷く余韻が深い。事件関係者達の「その後」が殊更に気になる。加えて、高城のその後が気になる。そんなことで素早く、これの次となる第9作を手にせざるを得なかった。

「失踪してしまう」という異常な事案には、事案の数だけの事情、物語が在るものである。そういうモノに向き合う、自身がかなり「訳アリ」な主人公が登場するこのシリーズは非常に興味深い。巡り合って善かったシリーズだ。広く御薦めしたい。

『遮断 警視庁失踪課・高城賢吾』

振り返ってみると、何やら事件が生じて捜査員達が活動して解決を目指し、同時に捜査員達の生活や人生が描かれるというような、所謂「警察小説」というような系統の小説を随分と多く愉しんで来たかもしれない。その種の小説は、好評を博してシリーズになるという例も少なくない。色々なシリーズに親しんで来た。現在もそういうシリーズ作品を愉しんでいる。

↓幾つものシリーズを愉しんで来たのだが、最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第7作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も夢中になった。

遮断 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は寒くなって行く時季の或る日ということで始まる。

冒頭、高城警部は名刺を示しながら高校1年生の少年に話し掛けている。少年が小学1年生位であったような頃に関する話しをしている。

高城が酒浸りというような状態に陥ってしまい、更に離婚に至る切っ掛けとなった、乗り越え難かった身に降りかかった事件というのは娘の失踪であった。姿を消してしまった当時、娘は7歳の小学1年生だった。その娘の失踪から7年程を経た頃、高城は失踪課へ異動し、その活動を続ける中、間違いなく死亡したということが判明したのでもない限り、娘を探すことは続けるべきだと考え、行動するようになっていたのだ。

高城の娘が失踪して、通算9年となり、同じ年だった子ども達は高校1年生という年齢になっていた。そういうことで、娘が失踪した当時に近所に住んでいた子ども達の話し、遠い記憶を探ろうと高城は手が空いた時間に活動していた。

そんな最中、失踪課第三方面分室に相談者が訪れ、事案が発生したという連絡を受けた高城は分室へ向かった。

相談が寄せられた事案というのは、IT系企業で仕事をしているインド人のエンジニアが行方を眩ませてしまったというものだった。勤務していた会社の総務部長の話しを聴き、インド人エンジニアを探すべく活動を開始しようとした時、また別な連絡が入った。

連絡が入ったのは、厚労省から警察庁、警察庁から警視庁、そして警視庁の部内で失踪課にという経路で寄せられた事案であった。厚労省の六条審議官が行方不明になってしまったのだという。六条審議官は、昼食を摂るとして厚労省のオフィスを出ていて、午後からの出席予定であった会議に現れず、連絡も取れないというので厚労省部内で問題が生じたと考えた。やがて自宅にも戻らず、更に家族とも連絡が取れなくなってしまっていた。六条審議官の自宅が在る辺りを管轄する第三方面分室に加え、厚労省等の官庁が在る辺りを管轄する第一方面分室が捜査員を出して事案に取組むということになった。

六条審議官というのは、失踪課第三方面分室に在る女性捜査員の六条舞の父親である。第三方面分室の六条舞の母親は大手製薬会社創業者一族の出で、所謂「御嬢様」で、何故警察官になって働いているのかよく判らないという様子で、定時退庁が常で合コンやら習い事と出歩いていて、外での捜査活動を積極的にするのでもなく、オフィス内でデータ整理を専らとしているような様子だった。父親の行方が判らなくなってしまったということで、六条舞はとりあえず自宅待機ということになっていた。

インド人エンジニアの事案には、交通部から異動して来ていて、掴み処の無い人物として余り評判が芳しくない田口警部補を取組ませるということになり、高城警部以下の第三方面分室の面々は六条審議官の事案に取組むことになった。

六条審議官は労働省に入省して官僚としてのキャリアを歩んで来た。近年は国外のエンジニアや研究者を迎え入れる「高度人材」というような事案等に取組んでいたのだという。その関連で接触した企業等の中に、行方を眩ませたインド人エンジニアが勤めていた会社も在ったらしい。2つの事案に意外な接点が生じたかもしれないという状況だった。

少し前の事案の後、何か覇気が無くなってしまっていた第三方面分室の阿比留室長だったが、父親の件で衝撃を受けている六条舞を援けようと、また高級官僚である失踪者の件で警視庁部内の方々からしつこい問い合わせが入って対応しなければならないことから、以前の精力的な様子が少し戻っていた。阿比留室長は、六条舞の様子を見舞うと称して六条邸を訪ねた。

その六条邸を訪ねていた阿比留室長から、高城は連絡を受けた。六条邸に脅迫電話が架ったのだという。六条審議官を誘拐したので、1億円の身代金を用意せよということなのだという。高城を含む関係者に衝撃が走った。

というように「六条審議官が姿を眩ませた!?」という事案の波紋が拡がって、次々と様々な出来事が起こり、それらの渦中で高城や、仲間の明神刑事や醍醐刑事が奮戦する。眼が離せない展開が続き、頁を繰る手が停められなくなってしまって、素早く読了に至った。そして読後の余韻に少々浸った。

本作は「そう来たか?!」と次々と色々なことが起こりながら展開し、失踪課第三方面分室の捜査員達が奔走し、警視庁の各課の捜査員達の動きも在って、事態が意外な方向に向かって収束するのが面白いのだが、途中の様々な細かい描写も凄く面白いと思った。行方を眩ませたエンジニアの会社の総務部長による「役所が絡むと」というような話し、六条審議官による行政や政治を巡る話し、評判の芳しくない田口警部補が動き回ってみた顛末等、興味深く読んだ。そして、六条舞が警察官として勤めようとした経過の噂に、父親が渦の中心になった事案と向き合う中で経験する心境の変化や行動というような辺りも興味深い。

身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまっていた高城警部は、シリーズ各作品での出来事や活動を通じ、少しずつ変わって来た。如何いうようになって行くのか、益々夢中になりそうだ。

『波紋 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズであるが、本作はこのシリーズの第6作ということになる。既にシリーズ10作品が揃っている段階で第1作を手にして読了して大変に気に入ったので、各作品を順次読み進めている。

波紋 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズである。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は、警視庁で人事異動が行われた3月最初の頃の或る日から始まる。

高城警部は失踪課第三方面分室で一緒に活動していた法月警部補が制服姿で現れた様子に多少驚いている。私服姿の見慣れた様子とは違う。定年が近く、心臓を患った経過の故に、閑職というように見做されていた失踪課に異動していた法月だが、頼もしいベテラン捜査員で高城は頼りにしていた。法月は年長者として高城に助言をする場面さえ在ったのだ。分室内では「オヤジさん」と仲間たちに慕われていた。高城がそういうように呼び始めたのだったが。そういう様子であって、法月自身も失踪課勤務継続を望んでいたが、制服着用で出勤して様々な事務等を行う渋谷中央署の警務課に異動ということになったのだった。異動して程無く、同じ渋谷中央署に間借りしている失踪課第三方面分室に法月が現れ、高城と話している。

高城が失踪課に異動して以来、色々な事案が発生して分室のメンバーが奔走していたが、異動で分室を出た法月には心残りが在った。古い失踪事件を少し調べてみようという思いを遂げられなかったのだ。法月は関係の概要資料の写しを持っていたのだが、それを高城に託した。

法月が高城に資料を託したのは5年前に発生した事案である。介護関係で用いるロボットの研究に取組んでいた技術者が会社から姿を消して帰宅しなかった。行方が判らないということになった。そしてその旨を警察へ届出たということが在った。が、行方が判らないという話しになった頃から39時間程度を経て、高速道路で多くの車輛を巻き込む事故が発生した。事故現場で、事故車の1台に乗っていた男性が如何した訳か抜け出して姿を消してしまっているということが判明した。この姿を消した男性が、行方が判らないと届出が在ったロボットの研究を手掛ける技術者に似ているという話しになっていた。

事故現場で姿を消した男性が似ているようだという話しが出て以降、件の技術者に万する情報は全く無かった。銀行口座の資金の出し入れ、クレジットカード等の利用、携帯電話の使用というような記録も無いのだ。が、何らかの事由で死亡してしまったというようなことが断定出来る何かが在るのでもないのだ。飽く迄も「行方不明のままに5年」である。

加えてこの5年前の技術者に纏わる事案の頃、失踪課というような、行方不明者の捜索を専らとするような部署が在ったのでもなかった。そうしたことも踏まえ、高城は分室の各員を動かしながら事案の捜査に取組んで行くことにした。

そういう他方、分室の阿比留室長は以前とは様子が変わってしまった。刑事部の傍流と見做される失踪課から、本流と見做される捜査一課等でのポストへの異動を希望するという上昇志向が見えなくなった。定時に出勤し、定時に退勤するという様子で、自席でデスクワークをしているばかりとなった。高城としては、法月の異動を断るというような、分室の陣容を護るような、可能であった筈の動きを見せなかったこと、そして後任に刑事部で捜査活動をした経験が殆ど無い交通部の然程評判が好いのでもない人物を容れたこと等、不満が多くなっていた。そして、偶々手間が掛かる事案が無かった中で、分室内の活気も失われたような様子だったのだ。

こうした中で5年も前の技術者の行方不明事案の捜査が始まる。そういう中、行方不明の技術者の生存を示唆する出来事が発生した。勤めていた会社に、本人の署名が入ったメッセージが届くのである。

こういう中、進行する会社での事件と、事件の重要参考人または被疑者となってしまった行方不明者の捜索という状況が進み、高城達が奮戦することになる。捜査陣が行き当たった真相は如何に。

こういうことで意外な事態が次々に起こって行くことになるのだが、少し夢中になってしまった。

力が入り過ぎる纏め役というのも困るが、力が抜け過ぎる纏め役というのも困る。そんな中で分室のナンバーツーということになっている高城は、各員を巧く動かして事案に取組む。そして事案に関して乗り出して来た熱血漢、高城の警察学校の同期である捜査一課の長野警部と組んで動く場面も在る。また分室の捜査員を著しい危険に晒す訳にも行かないと、長野とやり合うような場面も在る。

「5年間も行方不明」という異常事態と向き合うというような事に関して、高城が様々に考えを巡らせるような描写も一部に在るのだが、少し考えさせられる。そしてこれは、高城自身の乗り越え難かった身に降りかかった事件にも通じることとなる。更に、事案が解決した後の後日談的に、高城、法月、加えて分室の捜査員である明神が語らう場面が在るのだが、その場面の余韻が深い。

何本もの警視庁の警察官達が活躍するシリーズを手掛ける作者は、或るシリーズで別のシリーズに登場する部署や主要人物の名を出すようなことをする場合が多く在る。そんな中で「失踪課の高城」というのが在る程度頻繁に出る。そんなことからこのシリーズに関心を寄せたのだったが、出逢えて非常に善かったシリーズである。

『裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズである。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズであるが、本作はこのシリーズの第5作ということになる。

本作の物語は梅雨時の或る月曜日から木曜日という感じの物語になっている。

高城警部は頭が上がらない存在である元上司に呼ばれて会食をする。席上、高城警部が渋谷中央署に間借りする失踪課第三方面分室に異動して以来、様々な事件の捜査で実績を挙げていて、第三方面分室は評価を上げているというような話しを聴かされる。

そういうことが在った後、渋谷中央署の失踪課第三方面分室に出勤してみれば「課長査察」という事案が待ち受けていた。半年に一度、普段は本庁に在る課長がやって来て色々と確認するという査察で、事前の準備書類が膨大なものになってしまう。室長の阿比留真弓警視と相談しながら取組まなければならないと高城警部は考えた。

そういうことで高城警部は阿比留室長に相談しようとするのだが阿比留室長の姿が見えない。何かの会議に出るということや、「庁内政治」というのか上昇志向の強い阿比留室長は色々な人に会いに行くことが多く、席を外しているという場合も少なくはない。が、行先を誰かが聞いているというのが普通である。今般は誰も知らない。面倒な作業が生じる査察対応準備を放り出して姿を眩ませてしまっている形だ。

高城警部は、とりあえず「時季外れのインフルエンザで高熱が出て休んでいる」という「ことにする」として阿比留室長を探してみようとする。が、阿比留室長は住まいのこと、家族のことというような個人的な事柄を全然話さない人物だった。第三方面分室の中では誰も聞いたことが無かった。世代が近い同性ということで連れ立って昼食を摂るような場面が無いでもない事務職員の小杉公子も、阿比留室長の個人的な事柄は聞いた記憶がないという様子だった。

阿比留室長の件で活動をしようとした矢先、失踪課第三方面分室に相談者が現れた。やって来た若い男性は大学生で、同じ大学に在る交際中の女子学生の行方がよく判らないのだと申し出る。土曜日に会った後、月曜日に相談をしている。少し性急であると思いながら話しを聴けば、訪ねてみた女子学生のアパートは施錠されておらず、扉を開けて中を覗くと誰かが家探しをしたような荒れた状態であったのだという。そこで警察に相談と思い立ったのだという。何かの事件を感じさせる状況であることから、この女子大生の事案にも取組むということになった。

やがて査察に向けて拳銃の保管庫を見ると、阿比留室長の拳銃が持ち出されていることが判った。阿比留室長は拳銃を持ち出して行方を眩ませてしまったということなのかと、高城警部達は危機感を強める。

高城警部を先頭に失踪課第三方面分室の面々は奔走する。「査察」は木曜日の午後3時に予定されていることから、それまでに阿比留室長の事情を探って、本人を見付け出す必要が在った。他方で女子大生の件も気懸りな話しが出て来る。懸命の捜査の果てに辿り着くことの真相は如何に。

という感じなのだが、本作は失踪課第三方面分室の面々が各々に全力を絞り出して奮闘する。そういう様に夢中になってしまう。頻繁に雨が交じる中で駆け回るが、次々と色々なことが起こり、やがて緊迫する展開になって行く。

本作の題名である「裂壊」だが、これは「破れてしまう」というような意味合いだ。「破れてしまう」のは何なのか。色々な意味合いが込められているようにも思う。

高城警部は「訳アリ」だが、阿比留室長も「訳アリ」であり、そこから拡がる波紋が本作の核心かもしれない。そういうような部分の他方、失踪課第三方面分室の面々が力を合せて難しい事態に立ち向かうというような感じが育まれている。益々、目が離せないような感じになって来たシリーズだ。

何本もの警視庁の警察官達が活躍するシリーズを手掛ける作者は、或るシリーズで別のシリーズに登場する部署や主要人物の名を出すようなことをする場合が多く在る。そんな中で「失踪課の高城」というのが在る程度頻繁に出る。そんなことからこのシリーズに関心を寄せたのだったが、出逢えて善かったシリーズである。

『漂泊 警視庁失踪課・高城賢吾』

「失踪課の高城」というシリーズが気になり、第1作が気に入ったことから、シリーズ各作品を順次読んでいる。こういうようなことをするのは実に愉しいものだ。

↓シリーズの第4作である。身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。警部の階級に在る高城から見れば“部下”ということにはなるが、失踪課第三方面分室の面々の中に「気心の知れた仲間」という存在の人達も生じている。そんな中での出来事が展開する本作だ。

漂泊 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られている本作は、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。そういうのもかなり気に入っている。

本作の物語は、冬の或る日の出来事である。作中、東京ではやや珍しい、雪が降り積もるような場面も在る。真冬である。

高城が愉し気にしている様子から物語は始まる。「気の置けない仕事仲間」という感にもなっている明神や醍醐と外で呑んだ帰り道だった。久し振りに外で愉しく呑んだという様子であった。

少し後方から明神が高城を大きな声で呼び、呑んでいた店に携帯電話を忘れていたことを指摘する。高城は振り向いて明神に歩み寄って携帯電話を受け取ろうとした。その時、明神が吹き飛ばされた。高城と、もう一人居合わせた醍醐は慌てた。

明神が立っていた辺りのビル内で火災が発生していて、バックドラフト現象の風で明神は吹き飛ばされたのだった。救急車や消防を呼んで明神を病院へ搬送した。彼女は脳震盪を起こしていたのでそのまま入院した。

明神が吹き飛ばされたバックドラフト現象を起こしたのは、ビル内で営業しているバーの火災の故であった。火災の現場から男性2名の遺体が発見されており、そこには他殺を疑わせる傷も見受けられた。発見された遺体の中、バーの店主は特定されたが、もう1名の遺体が身元不明ということであった。

高城はこの身元不明の遺体の身元を割り出す必要が在ると考えた。捜査一課が乗り出し、失踪課第三方面分室も間借りしている渋谷中央署に捜査本部が設置され、他殺を疑わせる傷も見受けられる遺体の一件を捜査することになった。高城達はこの捜査本部を手伝うような形になって行く。

その時、失踪課に届出が在ったばかりの男性行方不明者が話題に上った。身元不明な男性の遺体と身長や、火災で傷んでいたにしても推定される年代とが一致すると思われる男性だった。それは少し人気が高い作家であった。連絡が取れず、出版社の担当編集者が探し始めたが、アパートを引き払ってしまったらしい様子で、銀行や携帯電話等も解約してしまっている様子で困ってしまった。そこで本人の妹と共に失踪課に届出を行ったというのだ。

こうして高城は行方不明な作家の件を入口に、火災に見舞われたバーで何が在ったのかを解明して行くことになる。

本作はミステリーを手掛けている作家の行動や想いという要素がなかなかに興味深いようにも思った。老練な高城が、色々な関係者の証言を巧みに引き出し、事件の全体像を何とか描き出そうと奮戦する。失踪課の公用車となっているスカイラインを駆って、色々な場所を訪ねて調べる。そして窮地に陥った仲間を援けようと迷わず飛び出すような熱さを見せる場面も在る。

「訳アリ」な主人公の高城が、そういう部分と折り合いを付けながら奮闘する様子が非常に面白いと思う。このシリーズに巡り合って善かったと思う。広く御薦めしたい。

『京都の歩き方:歴史小説家50の視点』

↓大変に愉しいエッセイ集だと思う。雑誌連載を基礎にした50篇にも及ぶエッセイが集められているのだが、ドンドン読み進めて素早く読了に至った。

京都の歩き方:歴史小説家50の視点 (新潮選書)



↑週刊誌で1年間という連載であったという。そうなると毎週掲載で50篇程度だ。そして雑誌の刊行時季を意識していたのか、または後から季節毎の話題というように整理をしたのか、「秋」、「冬」、「春」、「夏」というように章を設定している。

「歩き方」と称して、個別具体的に何処かを訪ねるというようなことを積み上げているという程でもない。「歴史小説家の視点」と称して、歴史に纏わる話題ばかりという程でもない。京都で暮らすようになった両親の下、京都で生まれ育って、そのまま京都に住み続けて活動しているという筆者が、普段動き回っている様子が伺えるような内容や、そういう普段着の中で思い出した話題を少し掘り下げるという感じの内容が本書であると思う。

生まれ育っていて、そのまま住み続けて活動しているということで、筆者は「京都」を「訪ねてみる場所」というように考えることをし悪い。そういうことで、実際に住んでいる人達の何倍もの人達が訪れて、「〇〇は京都で観たい」と拘りの在る人達も相当数になる筈だが、筆者は「住んでいる場所が深い歴史を持っている」という様子、長く歴史に興味を持っていて関連の題材を求めて小説も綴っているので歴史関係の事項を想い出す場合が多く在るというような、「自然体」で本作のエッセイ各篇を綴っているというように感じた。その筆者の「自然体」が実に心地好い。

「京都」は、或いは「“京都”というイメージが消費される場所」という性質が在るかもしれない。が、偶々そこで生まれ育って、大学迄卒業してそのまま住んで活動しているということであれば「“イメージの消費”と無関係な自身が居合わせている街」という目線が在る筈だ。本書のエッセイ各篇では、そうした目線で綴られたモノが大半であると思った。

或る程度の規模である他地域の街を訪ねると、その街や、街が含まれる圏域で「棲むように滞在して時間を過ごす」という意識で動くと愉しい場合が在ると個人的には思っている。そうした意味で「消費されているイメージ」と関連が薄い、「自然体」な本書のエッセイ各篇は、何か「響く」というような気もする。出逢えて善かった一冊であった。

『従属の代償 日米軍事一体化の真実』

↓詳しく語られているのか否かもよく判らず、通暁している人が多いとも思い悪いテーマだが、大変に大切な内容なのだと思う。そういうことを解り易く説く本書に出逢えたことが善かったと思っている。

従属の代償 日米軍事一体化の真実 (講談社現代新書 2754)



↑非常に「新書らしい」という感じの読書体験が出来たと思う。

防衛を巡って様々な用語が飛び交う場合が在る。そういう用語が一定期間飛び交うと、特段にその種の話題が出るでもない様子になってしまい、何時の間にか忘れている。そんなことが多いように思うのだが、本書はその種の用語に纏わる経過を少し掘り下げながら、1950年代という少し旧い辺りから2020年代の近年の新しめな様子迄を要領よく纏めていると思う。そうした中で「何時の間にかこういうような様子になっている…?!」という提起をしている。知っているような知らないを、広い層の読者が判り易いように纏めて伝えるという「新書」の感じというものだと思う。

結局、様々な経過を経て、日本国内に「対岸の敵性施設を狙い撃つ」という性能を有したミサイルが配置されるようになり、同盟国の指揮下で「何時でも撃てる」というような様子に「なっている?!」という様子な昨今である。「本当にこういうので善いのか?!」とううのが筆者の問題提起であるというようにも思う。

「シームレス」という「だ段差が無い」という用語の下で、実質的に「米軍の一元的な指揮の下」という状況で、「ミサイル」と呼ばれる「誘導弾」を方々に配置している日本の様子に関して、鳥瞰的に解説しているのが本書であると思う。こういうような事柄は「知っておくべき」というように思う。こういう一冊は貴重だ。出くわしたことを善かったと思う。

『邂逅 警視庁失踪課・高城賢吾』

同じ作者の別なシリーズの作品に部署名や人名への言及が在ることで興味を覚えていて、シリーズ第1作を手にした。そしてその第1作が気に入って「続き…」とシリーズ各作品に手を伸ばし始めている。

↓第3作である。これも非常に愉しく読み進めた。そして夢中になり、素早く読了に至った。

邂逅 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署に所属して活動する警察官が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られている本作は、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。そういうのもかなり気に入っている。

題名にも示されているが、物語を語る主要視点人物は高城賢吾である。警視庁の警察官で階級は警部だ。同期の中でも早めな時期に警部へ昇進した高城であったが、そこに個人的な事件が降り掛かる。降り掛かってしまった事件を乗り越え切れなかったような面が在り、酒浸りのようになってしまい、幾つかの所轄を異動し続けていたという「訳アリ」な人物だ。高城は現在でも酒は止められず、序にヘビースモーカーである。

この高城が「失踪者捜索の願いに関する聴取を真摯に行い、必要に応じて捜査を行う」という建前の失踪課、渋谷中央署に間借りする同課の第三方面分室に配置されている。建前は建前だが、警視庁部内では“盲腸”呼ばわれする者も少なくないような部署で、本流は外れてしまっている感は否めない。そういうことで、高城自身も含めて「訳アリ」な捜査員達が配置されていると言われている。

このシリーズは、この失踪課の高城警部や仲間達が出くわした様々な事件の顛末、向き合う人々の様子等が描かれているということになる。

本作の物語である。8月の或る日の出来事だった。

酷い暑さに辟易している最中、高城は酷い二日酔いであり、倒れてしまいそうな酷い状態でオフィスに在って書類仕事に取組もうとしているが、全く捗らず、周囲は飽きれる、または苦笑を漏らすという様子だった。

そこに法月が現れた。仙台へ出張し、用務を終えて戻ったのだという。捜査に着手した行方不明だった女性と見受けられる遺体が仙台市内の川の中州で発見された。法月は現地を訪ね、失踪課に相談していた本人の妹と一緒に遺体を確認し、捜していた女性で間違いないということになり、とりあえず用務終了であったのだ。

法月は心臓を患った経過を持っている。妻はかなり以前に病死していて、弁護士を務めているという娘が在る。その娘が高城に連絡を寄越す。高城は会った。上司として法月の心身に負担が掛かり過ぎないように配意願うという申入れが娘の用件だった。高城も少し気になっていたが、法月は周囲が少し懸念する程度に精力的に仕事に取組もうとしているように見えた。

そういう出来事が在った日の退庁時間に近くなった頃、失踪課に相談者が現れた。高城は女性捜査員の明神と2人で相談者に対応した。

現れた相談者は年配の女性で、息子が不在で全く連絡が付かない状態になって1週間程になるということだった。息子というのは大学の理事長を務めている。仙台近郊の街に在る中学・高校を発祥としていて、30年程前に東京に大学を開いたという学校法人で、現在の理事長は5年程前に理事長に就任した「3代目」であった。東京の大学の他に仙台近郊の中学・高校も経営していることから出張のようなことも多いが、それにしても不自然に過ぎるというのが相談者の訴えだった。そして社会的に高い地位を占める人物でもなる訳で、何としても問題の解決を図って頂きたいと強い調子だった。

高城は明神と組んでこの件に取組むことにした。翌朝に早速に相談者が大学理事長の息子と一緒に住むという邸宅を訪ねて捜査を開始した。高圧的、或いは強圧的な迄に息子の件の解決を促した相談者であったが、携帯電話に連絡が1本入った辺りで、不意に少し冷淡になった。高城や明神は不自然さを感じた。

高城達は行方が判らなくなった理事長の大学を訪ねた。大学の事務局で関係職員達の話しを聴こうとするのだが、「話すこと等は何も無い」というような酷い対応をされてしまう。益々妙な状態である。

不可解な状況が続く中、高城はこの大学の理事長の事案に向き合い続ける。そして明らかになる意外な真相は如何に?

という物語なのだが、今回は関係者の事情や想いを探って真相に近付くべく、老練な高城が執念深く動き回る。仙台方面へ出て色々と動き回る場面や、緊迫する展開も在って引き込まれる。或いは「ややほろ苦い?」という事件の結末かもしれない。

本筋から逸れるが、本作に仙台の街の食事を摂る場所や呑む場所が出て来るのだが、モデルになったような場所でも在れば、訪ねてみたいというようなことも思った。この作者の各作品に見受けられるが、作中人物達が飲食店等に立寄る場面の描写が凄く細かい。好き嫌いが判れるように見受けられるが、自身は嫌いではない。

作中での高城は幻影を見る場面が在る。このシリーズに少し夢中な自身は、高城が何やら動き回っているという幻影を見るようになってしまうかもしれない。何れにしても「訳アリ」なベテラン捜査員が執念深く事案を追う様子が一人称で語られるこのシリーズは、出逢えて善かったシリーズだ。