『新書 昭和史 短い戦争と長い平和』

↓「昭和史」というような題名の本は、何やら難しそうと手に取らないという人も少なくないかもしれない。が、本書はそういうように敬遠する必然性は全く無い。普通の小説やエッセイのような感覚でドンドン読み進められる。そうした意味で素晴らしい一冊だ。

新書 昭和史 短い戦争と長い平和 (講談社現代新書 2767)



↑2025年が「昭和100年」で「戦後80年」ということを踏まえて、「この100年?」というようなことを想い、考える材料を提供しようというのが本書だ。

「昭和」と一口に言っても、「昭和XX年」と明確に言い得る期間だけでも1920年代から1980年代までの60年間余りに及び、色々な要素が在る。加えて、「昭和XX年」の出来事や、「昭和」の或る時期の動きが極々最近迄の様々な事柄に繋がっているというのも多い。本書はそういう問題意識で、1926年頃から2025年に至る迄の「昭和100年」を通史的に論じようとしている。

本書では「グローバリゼーション」、「格差」、「デモクラシー」、「戦争と平和」というような4つの柱を想定し、過去100年の各時期に関して、こうした柱に関連する話題を、様々な人達が遺した証言等を一定の基礎に据えながら論じている。

世界の国々との関係が築かれ、それが進展する「グローバリゼーション」というのは昭和期以降に拡大する。世界の国々や地域間での、また国内の社会の中での「格差」というようなことも、昭和期以降には様々な変化が在る。選挙とその結果というような「デモクラシー」ということに関して、昭和期以降には様々な話題が在り得る。そして実際に軍事行動に携わる、携わらないの区別と無関係に「戦争と平和」というような課題は在り得る。

こうした4つの柱という問題意識の下、種々の“証言”を拾い集めながら論じると、「100年間に国、社会、人々が辿った経過」というようなことを通史的に網羅出来ようというものである。

本書で引かれた種々の“証言”、更に本書そのものを材料とし、過去の世界に踏み入ることを試みて、自分自身の人生等に照らしながら考え、自分自身の言葉でその考えを整理してみるというようなことが「知って学んでみる歴史」ということに他ならないのであろう。本書の冒頭部に挙っている「目指すこと」に通じる話しだが、本書はその「目指すこと」を実現出来ていると観る。

極々個人的な内容にもなる。自身の場合、興味を持って歴史関係の本を読む、テレビニュースや新聞や雑誌で社会の動きに纏わることを知ろうとするということをするようになったのは、恐らく1979年や1980年頃、小学校の高学年であった頃以降であると思う。とすると、本書に在る1979年頃から2025年に至る迄の色々な事項は「自身の人生の記憶に重なる」ということにもなる。

こういうのは読者各々によって些かの差異は在ろうが、多くの読者が共有し得る感覚のように思う。本書は「昭和史」と称して最近100年間程度の通史を打ち出しているが、結局は「あなたの人生の背景」を問うようなことになっているのかもしれない。

本書は、非常に読み易いと同時に、非常に読み応えが在ると思う。2025年が「昭和100年」で「戦後80年」ということことで、歴史への問題意識が少し高まっているかもしれない中、広く御薦め出来る一冊だ。

『新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝』

↓紐解き始めると、本当に頁を繰る手が停められなかった。短い篇が集まった本で、1篇を一気に読み、一呼吸置いて次の1篇を一気に読むというようなことを繰り返すと、既に収められた7篇を読了してしまっていた。

新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝 (中公文庫 と25-56) [ 堂場 瞬一 ]



↑10作品在る、刑事の鳴沢了が主要視点人物となるシリーズの「外伝」とされている作品だ。シリーズの各作品は鳴沢了の第一人称という体裁で綴られている。対して本作は、鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かの視点、第三人称的に鳴沢了という人物が綴られる。そういう様を「証言」と呼んで題名に冠したのであろう。

鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かというのは、偶々出くわしたという人達や、シリーズ各作品に登場している人達ということになる。そういう形で7篇が綴られている。

『瞬断』は「鳴沢了」のシリーズの後に登場した「失踪課」のシリーズに登場する高城賢吾や、行動を共にする場面が多い女性刑事の明神愛美が鳴沢と出くわすという顛末だ。

『分岐』は鳴沢と組んで事件に取組んだ経過が在った後に何度か登場していて、刑事を辞めて、実家である静岡県の寺で僧侶として活動している今敬一郎が自身の活動に関連することで鳴沢に協力を依頼するという顛末だ。

『上下』は新潟県警に在った鳴沢が行動を共にした、当時は新米刑事だった大西海が登場する。大西海は幾つかの作品に登場する。東京の事件の被疑者が新潟に現れるという経過が在って、大西海は鳴沢と接することになる。

『強靭』は幾つかの作品に登場した、新聞記者から小説家になった長瀬龍一郎が、新作の作中人物の造形の参考にしようと、鳴沢を知る人達にインタビューを試みる。インタビューに応じるのは、横浜地検の城戸南検事と大沢直人事務官で、或る事件現場で出くわした鳴沢に関して語る。

『脱出』はシリーズ第8作以降で連続して鳴沢の相方を務めていた藤田心が登場する。事件捜査の現場で鳴沢と共に活動中、思い掛けない窮地に陥ったという時の顛末だ。

『不変』は東京で警視庁に職を得た鳴沢が、東京で初めて配置された多摩署で行動を共にした小野寺冴が登場する。警察を去って探偵となった小野寺冴だが、幾つもの作品で登場する。鳴沢が小野寺冴に協力を依頼するという顛末が描かれる。

『信頼』は鳴沢の家族となった内藤勇樹の目線での物語となる。鳴沢は交際していた内藤優美との間に娘が生まれたことを契機に結婚している。内藤勇樹は義理の息子となったので「鳴沢勇樹」である。米国で俳優活動をしていて、その活動で映画撮影をしているハワイに鳴沢がやって来ての出来事が描かれる。

各篇は何れも「その後の鳴沢了」という感、シリーズ10作品の後の時期ということになる。

『上下』の大西海は、第10作に「昇任試験に一発合格」で東京に研修に出ていたということで登場していたが、この篇で上司達に更に昇進する昇任試験の受験を強く薦められているという様子が在る。ということは、昇任試験を受験可能となるような期間を経ていることになる訳で、少なくとも「数年経っている」と判る。

この辺りに関しては、『信頼』が判り易い。第10作で11歳であった勇樹が16歳と判るのだ。ということは5年を経ていることになる。

シリーズ10作品を通じて、鳴沢了は色々な経験を重ね、少しずつ変わる。その結果に出来上がった「鳴沢了」という人間を「他の人達」の目線で提示しようというのがこの「外伝」ということになるのかもしれない。

自身はこの「外伝」の各篇を、シリーズ10作品の後に読んでいる。が、逆にシリーズを読む前に導入として読んでみるのも好いかもしれない。

例えば『瞬断』、『強靭』というような篇は、ストイックな私生活をする強靭な肉体の持主で、原理原則に照らして強い意志で自身の判断を信じ、迷わずに突き進む凄い男という「鳴沢了」というイメージがよく判ると思う。

更に『上下』、『信頼』は鳴沢自身よりも若い人達を導く、背中を押すという側面が感じられ、『分岐』、『脱出』、『不変』は強い絆が在ると感じられる仲間を真摯に思いやるような側面が感じられる。

各篇各々に面白く、甲乙点け難い。各篇を読みながら「鳴沢了」に出逢って善かったという想いを新たにした。広く御薦めしたい作品だ。

『久遠(下) 刑事・鳴沢了』

↓上下巻の小説で、上巻が面白く、素早く下巻に進むと、下巻は上巻以上の勢いで読み進めてしまう。頁を繰る手が停められなくなってしまう。そういう感じで呆気ない程に素早く読了に至った一冊だ。

久遠(下) 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-55) [ 堂場 瞬一 ]



↑大変に気に入ったシリーズの刑事モノの小説で、上下巻から成る第10作の下巻である。

シリーズ各作品で一貫しているのだが、この作品は刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。第10作でもその様式は健在だ。

下巻なので、当然ながら上巻の続きの部分から始まっている。

殺害された人物達と、最後に会っている、或いは殺害前に盛んに連絡を取ろうとしていたということで、そして見付かったモノに関連して妙な疑いが向けられている鳴沢了である。同時に何度か襲撃を受けてそれを退けるというようなことも在った。そういう現場の一つの後始末というような様子から下巻は始まる。

鳴沢は、自身を陥れようとする者達、襲撃をした者達の正体を探りながら、その動きを阻止し、発生してしまっている事件の真相を明らかにして自らを護るべく奔走する。その行き着く果ては如何にという物語となる。

過去の作品に色々な形で登場している人達が、本作で非常に多く再登場する。異色の経歴で警視庁入りして活動している鳴沢は当初から周囲に馴染み難いような感じは在ったが、それに加えて原理原則は曲げないとし、独自路線のような仕事のやり方も厭わず、更に私生活もストイックで、煙たがられるような感じの人物である。が、自身が思う以上に“味方”も多い。本作ではそういう“味方”という人達が色々と鳴沢を援ける。

鳴沢には交際するようになった女性、鳴沢を慕うようになっているその息子という大切な存在が在るのだが、2人はニューヨークで活動している。殊に息子の方は、子役俳優として出演したドラマが大人気と成功もしている。鳴沢の米国研修の際にはこの息子が事件に巻き込まれ、鳴沢は救出と解決に向けて奔走し、色々と軋轢を起して予定より早く帰国したという経過も在った。この息子が、日本での放映が決まった出演作品のプロモーションで来日し、会ってゆっくり話したいとするのだが、鳴沢が事件で取り込み、色々と危険な目にも遭ってしまい、息子と会えずに居る。この個人的な事柄にも動きが在るのが本作だ。

シリーズを通しての「鳴沢の遍歴」が行き着いた辺りというのが明かされる本作である。真直ぐに我が道を行き、周囲に煙たがられても、“味方”は自身で思う以上に生じるようになり、その一部は生命や立場や名誉を賭して援けようと手を差し伸べて動いてくれるという本作の物語に心動かされる。

危険な、または得体のしれない悪漢達の企みを解明しようとするようなハードな物語ではあるのだが、作中人物達の会話等にユーモアが紛れ込み、そういう雰囲気も読んでいて愉しい。小説を原案に映像作品でも制作すると、非常に画になりそうな悪漢達との対決というような場面も在るのだが、丹念に訊き込みをして、訊く人達の環が拡がる中で新たな事実が少しずつ明らかになって事態の全体像が徐々に明らかになって行くという様が「リアルな事件捜査?」という風で、非常に引き込まれる。

「鳴沢了」のシリーズは、初登場してから少し長く時日を経ているかもしれないが、古い感じは全くしない。大変に愉しいシリーズだ。シリーズ各作品を順次愉しんだが、その「一応の終幕」を愉しむことが叶って善かった。御薦めだ。

『久遠(上) 刑事・鳴沢了』

↓大変に気に入って、各作品を順次読んでいる刑事モノのシリーズだ。第10作である。この作品は上下巻からなっていて、その上巻だ。上巻に第一部、第二部、下巻に第三部、第四部というようになっている。

久遠(上) 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-54) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。

題名の「久遠」は「永遠」にも通じる語だが、遠い過去を、または遠い未来を意味する表現なのだという。シリーズの第10作で「区切り」となる中で、主要視点人物の過去や未来への様々な想いが籠った内容であることを示唆するような題名だと思う。

物語は早朝に鳴沢が自宅に在る辺りから起こる。

日頃から午前6時頃に起き出して、天候が悪いか取り込んでいるかでもなければジョギングに出るという鳴沢だが、午前5時に電話が鳴って起こされてしまった。なっていた電話に出れば無言電話である。

目が醒めてしまったので如何しようかと思案していれば来客である。何者が現れたのかと訝って対応すれば、青山署の捜査員だった。捜査員達は有無を言わせずに同道を求めている。事件の容疑者や重要参考人への対応そのものである。鳴沢は着替えて同道することになった。

鳴沢は青山署の取調室で聴取された。岩隈という男が前夜遅くに殺害されたのだという。鳴沢が過去の事件で接触した経過が在る、自称“ライター”という男である。前夜、急に「会いたい」という連絡を受け、余り気乗りもしなかったが、鳴沢は岩隈に会った。結果的に、殺害される以前に「最後に会った」という形になっているのだった。

聴取を終えた鳴沢は職場である西八王子署へ出た。捜査員達は取り込んでいて誰も居ないという様子の中、課長や署長と話す。そして「自宅待機」ということになったので帰宅した。

鳴沢は殺人の嫌疑を掛けられてしまったような状況である。事の真相を明らかにし、自身の窮地を脱しなければならない。そして鳴沢の孤独な闘いは始まるのだ。

こういうことで、様々な出来事が次々と起こる中で鳴沢が奔走する物語だ。過去の作品で縁が在った人物達が次々と登場する。「嵌められた?」という妙な状況の真相は如何に?目が離せない展開が続き、ドンドン読み進めざるを得ない。

素早く読了した上巻だ。そして下巻に素早く移行である。

『疑装 刑事・鳴沢了』

↓各作品を愉しく読み進めている刑事モノの小説のシリーズだが、本作はシリーズ第9作である。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

疑装 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-53) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

題名は「疑装」(ぎそう)となっている。「ぎそう」という同音異義語が幾つか在ると思うが、知られているのは「偽装」ではないだろうか。「擬装」という字を使う場合も在るが、これは所謂「カムフラージュ」というようなことや、事実を見分け難くしてしまうことという意味合いだ。そういう状況が在るのだという感じなのだが、敢えて「うたがう」という意味の「疑」を当てている。事実を見分け難くしてしまう「偽装」または「擬装」という事柄が在ると「疑われる」というような感じなのであろうか。少し興味深いが、そういうことを解き明かしながら読み進めるという感じでもあると思う。

冬の日の夕刻、西八王子署刑事課のオフィスから物語は起る。

刑事課の署員達は定時で順次帰宅していて、2人だけ残っていた。鳴沢と藤田だった。前作で本部の捜査一課の捜査員としてやって来て、鳴沢と行動を共にした藤田は西八王子署に異動していた。前作の一件の後、異動で署員は大きく入替っていたのだった。藤田は、暇とは聞いていたが、聞く以上に暇だとぼやいている。鳴沢はそれを半ば聞き流し、自分達も帰宅しようと促す。そんな中で電話が鳴った。

電話の用件は、交番で住民からの通報を受けて、身元や事情が不明の身体が少し弱っているような少年を保護したという事案だった。保護した少年は10歳前後と見受けられるが、言葉を発しない。妙な様子である。電話を受けた藤田は、刑事課の担当すべき事案なのか否かが判らないと思いながら、とりあえず行くと返答した。藤田と鳴沢は現場の交番へ駆け付けた。

交番の責任者である警部補が待っていたので、藤田と鳴沢は詳しい話しを聴くことにした。児童の安全に気を配るとして、交番とも連絡を取り合う間柄の住民達が在って、その人達の1人で、自身も小学生の母親であるという女性が交番に連絡し、交番から署へ連絡が入ったという様子だった。少なくとも際立って特徴が在る外見とも見えないが、言葉が通じないのか、外国人なのかもしれないということになった。怪我を負っている様子は見受けられないが、少し弱っている様子なので病院に収容したということであった。通報者にも事情を訊ねた後、鳴沢は少年の様子を視るべく病院へ足を運んだ。

持っているバックパックに触れることを拒み、言っていることを解っているのか、いないのか、少し伺い悪いような様子の少年に、医師や看護師等の病院関係者も難儀しているという中に鳴沢は訪ねた。交番で噂をしていたが、少年事件担当の、生活安全課の女性刑事を連れて来て、事情を訊ねるようなことをすべきであろうと鳴沢は考えた。鳴沢は、勇樹と似たような年齢と見受けられる少年が1人で居て困っているのであれば、何とか援けたいと思うようになった。

やがて鳴沢は、国内に居る多くの人達と変わらない外見で、言葉が通じ悪いのだとすると、何処かの街に居る日系ブラジル人の子という可能性が在るのではないかと思い付く。鳴沢は、極々僅かに知るポルトガル語のフレーズを発すると、少年が反応した。少しずつ心を開いて、少年の事情を知り、何とか援けようということになったのだったが、驚くべき事態となった。病院から少年が姿を消したのだ。

少年は逃げたか連れ出されたかで慌ただしく姿を消していた。少年のモノが残っていて、群馬県の小曽根に住んでいるカズヤ・イシグロであるらしいと判明した。鳴沢は八王子から延びる八高線の沿線である群馬県の小曽根―※架空の地名であるようだ。県内に同じ地名は在るが、そういう鉄道駅は無い。―へ乗り込み、カズヤに纏わる事情を調べる。鳴沢が見出す事実は如何に?そして行方が案じられるカズヤは如何なるのか。という物語だ。

子どもと接することが得意ということでもなさそうな、少し大柄で厳つい感じの鳴沢だが、「俺は真面目に君のことを気に懸けている」として、心を閉ざしたような様子の少年に何とか踏み入ろうとする様子は応援したくなる。少年が、何処かの街の日系ブラジル人の子であるらしいとなって、もう少しで何かが判りそうな中での急速な事態展開である。物凄く引き込まれる展開だ。

鳴沢が乗り込んだ、ブラジル人が多く働く工場を擁する小さな町の様子だが、所謂“多文化共生”というようなことが盛んに取り沙汰されるようになっていた、本作の最初の発表時期の問題提起というようなことが、小説の物語としてうまく整理されているというようなことも思った。色々と論じられたこの種の事柄だが、「最近は?」というようなことを、読みながら思ったということも在った。

前作で行動を共にした藤田が、硬い感じの鳴沢に対して少し軟らかいイメージで「好い相方」という感じだったのだが、今作でも同じ署に異動で机を並べているという形で再登場し、また好い感じで相方を務めている。本作ではヒロイン的な雰囲気の、生活安全課の女性刑事である山口美鈴が新たに登場している。また、シリーズの過去作品にも出ていた、鳴沢の相方だった小野寺冴は探偵を生業としていて、本作にも登場する。

本作も何やら色々な意味での余韻が深いと思う。真直ぐで熱い刑事の物語という体裁ではあるが、作品発表時期の「世の中の“気になる”」も巧みに入り混じっているように思った。御薦めな物語である。

『被匿 刑事・鳴沢了』

↓第1作が気に入って、以降の作品を順次愉しく読んでいる刑事モノのシリーズで、本作は第8作となる。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

被匿 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-52) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

このシリーズは、漢字2字の語句を題名としているのだが、一般的な語句に少し変わった字を当てるというようなことをしている。今般の「被匿」(ひとく)である。「秘密にして隠しておく」という意味で「秘匿」という語が在る。それと似ているのだが少し違う。「匿」は「隠す」、「かくまう」というような意味である。これは一般的な「秘匿」も、本作の題の「被匿」も共通だ。題では「被」としている。「かぶせる」という意味(例えば「被服」)、好ましくないことを「こうむる」という意味(例えば「被害」)、何かを「される」というような意味(例えば「被告」)という用例が在る。「被匿」に関しては、何かをされた、こうむったという経過が隠されること、或いは覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと等、幾つかの含意が込められていると観た。それを解き明かそうとするかのように、本作の頁を繰り始めるのである。

物語は西八王子署刑事課のオフィスから起こる。鳴沢了は西八王子署に異動で、着任初日ということでオフィスに出勤し、課長と話していた。

話題になったのは着任前日の出来事であった。地元選出の代議士が、自邸へ向かう辺りにを流れる川で遺体で発見された。前日はその対応をしたが、夜に都心で酒が入る席に出て、帰って来た時に少し辺りを歩きたいということを言い出して歩いたと見受けられる。その際に橋の辺りから川へ転落して死亡と観て「事故」という話しになっていたのだった。

鳴沢はニューヨーク市警での研修をしていたが、現地で色々―前作の物語―なことが在って、予定を短縮して研修を切り上げて帰国した。帰国後、島嶼部を除いては最も静かであるという西八王子署に異動ということになった。非常に暑い時季ではあるが、暑さで力が入らないというような次元を通り越し、何か気が抜けたような職場であると鳴沢は感じた。

新たな署へ異動し、管轄区域の様子を少し知ろうと、鳴沢は動き回ってみた。「代議士が川に落ちて死亡」という「事故」の現場とされる橋の辺りを通り掛かり、鳴沢は様子を観た。酒が入っていたにしても、不注意か何かで川へ転落してしまうような橋なのだろうかと、鳴沢は疑問を抱く。そして鳴沢は、急ぐような課題が在るのでもないことから、代議士が川へ落ちたと見受けられる時間帯に関する目撃情報を探そうと、近隣で訊き込みを試みた。

やがて鳴沢は、死亡した代議士らしき男性と、何者か判らない女性が橋の辺りに居て、遠目に言い争っているようにも見えたという目撃談に行き当たる。この話しをしたのは、夜に様子を視た翌朝に旅行に出ていたという近隣住民で、「事故」ということで西八王子署が活動していた日には居なかったので、刑事に事情を尋ねられるようなことも無かったというのだ。鳴沢は、目撃談を話した人達の事情という以前に、近隣への訊き込みも熱心に行わず、「事故」である「ということにしてしまった」というようにも感じていた。

やがて死亡した代議士に関しては、不正な献金、贈収賄というような事案でも名前が挙がっているらしいという噂も在って、その件での自殺という可能性も排除し得ないと鳴沢は思った。それにしても、「言い争っていたように見えた」という目撃情報が在る以上、他殺という可能性も排除し悪い。やがて「事故」での処理は不適切であったかもしれないということに警視庁内部でなって行き、捜査一課の要員が西八王子署に派遣され、事案の究明に取組む運びとなって行く。

こうして鳴沢が見出す事の真相は如何にという物語だ。少し夢中になってしまう。

少し遡った時期のことを知っている市役所OBの郷土史家と偶々知り合って情報源としているようなことの他方、死亡した代議士の後援会長に恫喝を受けるような場面や、第1作で出逢っていて以降の作品にも登場場面が在った人物やその家族の関りが在るというような場面も在る。また捜査一課の捜査員を投入しての活動という中、藤田心という捜査一課の刑事が登場し、鳴沢の相方ということになる。藤田は、離婚してしまった際に元妻が連れて行ってしまった幼い娘に会い悪いのが辛いと零しながらも、軽口を叩く明るい男で「鳴沢ストッパー」等と称し、事件解決へ向けて只管突進する感も否めない鳴沢を援け、支えようとする気の好い男という感じだ。この相方とのやり取り、そういう中で進む事態が興味深い。

八王子は「東京都」の中、「都下」と言われる地域であるが、何か保守系有力政治家を中心とする地方に見受けられるような様子が在るとされている。そういう中での色々な事情の中で起こった「事故」という「ことにされた」という「事件」を真直ぐな鳴沢が浮き上がらせて解決へ導くのである。

前作の物語は“警視庁”を代表して交流が在るニューヨーク市警へ研修に出ている中、パートナーとなる筈の女性の息子で「近い将来の義理の息子」が巻き込まれた事件とは言え、色々な事情を度外視して少年を援けようと奔走し、所謂“組織犯罪”の関係者を蹴散らすような暴れ方をしてしまった。そして「彼を置いておき悪い」と東京へ送り返されてしまった。そうした意味で西八王子署赴任は「左遷」だ。が、それでも飽く迄も抱いた疑問の答えを見出そうとする鳴沢の真直ぐさが好い。そうした中で「“事故”という話しではない…自殺か、他殺か、これは“事件”だ!」ということになって行くのである。

本作を読んで清々しい気分になった。「ことにする」と声の大きな人達が言って、それに従って何とか形を作ろうとする人達も在るような中、鳴沢は真直ぐに「少し変ですよね?」と調べ始め、やがて「色々と考えるべき」となって行く。そしてことの真相が明かされる。明かされる真相は、「過去の遺恨が解かれる」という“金田一耕助”というようなモノを感じさせる面も在った。

「覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと」に鳴沢が挑む。気の好い男という感じの藤田とのコンビで事態を突破する様子が非常に爽やかかもしれない。広く御薦めしたい感だ。

『血烙 刑事・鳴沢了』

↓細かい時間を設けてドンドン読み進めることを停める術が無い。紐解き始めるとかなり夢中になり、早朝、日中、夕刻、深夜、早朝とドンドン読み進め、素早く読了に至った。

血烙 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-51) [ 堂場 瞬一 ]



↑興味を覚えて第1作を読んだ後、順次各作品を読んでいる「鳴沢了」のシリーズの第7作である。このシリーズは、第1作で新潟県警、以降は東京の警視庁で刑事として勤めている鳴沢了が主要視点人物で、一貫してその第一人称で綴られている。本作もその例に洩れない。

物語の冒頭である。リョウ・ナルサワがミックことミケーレ・エーコと夜の街で、要注意人物の行動確認、所謂“張り込み”をしている場面から起こる。「リョウ・ナルサワ」とは「鳴沢了」に他ならない。鳴沢はニューヨークで活動しているのだ。

前々作(シリーズ第5作)で交際している内藤由美が息子の勇樹と共にニューヨークで活動する話しが持ち上がっている。前作(第6作)では、優美と勇樹は既にニューヨークで活動していて、思った以上に成功している。そうした中、鳴沢はニューヨークへ渡り、暫く滞在する術を模索しているということが示唆されていた。今作(第7作)でその鳴沢が模索していた術が明らかになった。警視庁からニューヨーク市警へ研修に出るという話しに乗り、鳴沢はニューヨーク市警で研修中なのだ。

ニューヨークで研修中の鳴沢は、ニューヨーク市警の色々な人達の話しを聴く他、様々な活動の現場に出て動き回り、見聞を拡げて様々な経験をしていた。ミックの張り込みの相方を務めるというのもそうした研修の一環であった訳だ。そうした研修の件の他、鳴沢は優美と勇樹のコンドミニアムを頻繁に訪ねる等して、パートナーや義理の息子と過ごすというような私生活の充実も満喫していた。優美にプロポーズして結婚するということも思い描いたが、タイミングがズレて正式な結婚ということにはなっていなかった。

優美の兄である内藤七海は、鳴沢が米国中西部の大学に1年間留学した時のルームメイトで、互いに親友と呼べる間柄だった。この内藤七海は将来を嘱望された野球選手でもあったが、怪我で野球選手としての活動を断念していた。そして故郷のニューヨークで警察に奉職し、刑事として活動していた。ニューヨーク市警の現場の刑事達の一部で、鳴沢は「ナナミの古くからの友人で、妹のパートナーで、甥の義理の父になるというリョウ」として馴染んでいた。

優美の息子の勇樹は、人気テレビドラマに出演する子役俳優として活動して成功していた。日頃のレッスン等と自宅を往来する際には関係会社の社員が同行していた。そういうことなのだが、最近は単独で寄道をしたがることが在って、そういう中で行方を見失うという状況が生じてしまったのだという。優美は動揺する。鳴沢も連絡を受けた。

鳴沢が優美と勇樹の自宅へ駆け付けると、内藤七海が何人かの親しい仲間を率いて現れ、勇樹を何とか探し出そうということになる。鳴沢も加わって動き回ると、勇樹が誰かに追われるようにしていて、路線バスに乗り込んだらしいと知れる。そして、そのバスがバスジャックされてしまい、通常の運行経路を離れて動いているらしいということも判明した。

鳴沢、内藤七海と仲間達はバスジャックされてしまったバスが入り込んだという倉庫に駆け付ける。銃声が聞こえたと、慌ただしく警察関係者が踏み込んだ中、バスジャックの容疑者が射殺された状態であった。そしてバスに乗っていたと見受けられる勇樹の姿は現場には無かった。やがて、姿を消した勇樹の周辺にチャイニーズマフィア関係者と見受けられる人物達の影が見え隠れする。

如何いう思惑なのか、勇樹を誘拐したらしいチャイニーズマフィア幹部の関係者達という様子の中、鳴沢は内藤七海と仲間達の支援を受けながら勇樹を探し出して救出しようと走り回る。

こういう物語なのだが、本作は「誘拐された義理の息子を取り戻すべく、親身になってくれる協力者達に援けられながら方々を動き回って奮戦する刑事」という「米国の刑事ドラマ」の主役を「東京の警視庁の鳴沢」が英語と日本語混じりで演じているというような、何か独特な様子である。そういう様子が凄く面白い。事件解決に向けて「真直ぐ!」で、クールなようでいて酷く熱いという鳴沢は、米国でもそのままだ。そしてパートナーたる女性の息子で、「大切な友人」としょうして鳴沢にも懐いている少年を無事に救出したいという一途な想いで戦う様は麗しいとも思う。

事態の進展に連れて、ニューヨーク以外の地域に迄踏み出して奔走する鳴沢が行き着く先が気になり、夢中で読んで素早く読了に至った。御薦め!

『讐雨 刑事・鳴沢了』

↓最近読み続けているシリーズの第6作だ。頁を繰る手が停められなくなり、夢中で素早く読了してしまった。と言うより、そうならざるを得ないとも思う。

讐雨 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-50) [ 堂場 瞬一 ]



↑本作もシリーズ各作品同様、主要視点人物たる刑事の鳴沢了の目線で綴られる。一人称で綴られる感じは何処となく外国の探偵モノの小説の翻訳という雰囲気も帯びるように思う。

本作の題名である。「驟雨」(しゅうう)という言葉が在る。急に降り出して、急に止むというような、不安定な感じの俄かな強い雨のことを示すようだ。これと同じ音だが、「讐雨」(しゅうう)は少し独特な字を使った造語になるのだと思う。「讐」という字は「復讐」というような具合で用いるが、これは「むくいる」、「あだ」というようにも読ませる。「讐雨」(しゅうう)という語句には、恐らく「むくいる」という意図が、雨のように強弱様々で降り注ぐという様子を示しているのかもしれない。実際、本作の物語は雨の時間帯も少し多い梅雨の時季に展開している。

物語は鳴沢了がハンドルを握り、東多摩署の同僚である萩尾聡子と共に車で移動中という様子から起こる。

鳴沢は青山署から東多摩署に異動した。異動して早々に捜査本部が設けられる事件が発生する。本部の捜査一課の捜査員達も加わり、連日のように事件に取組んだ。2人の子どもが在って、子育て中なので「ママ」というニックネームの萩尾聡子とは行動を共にする場面が多く、苦労を分かち合って来た。事件の被疑者が確保され、事件の様子を確かめる裏付け捜査という段階での活動中であった。事情を聴取に出掛けて東多摩署へ引揚げようとしていたのだ。恐らく、捜査本部は近々に解散ということになる状況だ。

鳴沢を含む多くの捜査員達が取り組んだ事件とは、小学校低学年の女児を誘拐して殺害し、髪の毛を切って束にして保護者に送り付け、遺体の首を切って埋めてしまうという、誘拐、殺害、死体損壊、死体遺棄という恐るべき内容の事件だった。しかもそれが3件も立て続けに発生した。そんな恐ろしいことを仕出かした男、間島を確保することに力を尽くしたのである。

大掛かりな活動で連日忙しかったことから、萩尾は少々休暇を取って休みたいというようなことを車中で話題にした。そういう穏やかな様子であったのだが、少し先の路肩に車輛が停止した状態であるのが見えた。妙な停車だと首を傾げると、不意に爆発が起こった。停まっていた車輛の直ぐ脇を走行中の車輛が爆発で弾かれ、後ろの車輛にぶつかり、そのぶつけられた車輛が鳴沢と萩尾が乗った車にぶつかったのだ。

鳴沢が気付けば病院だった。爆発で3台の車輛が影響を受けた。鳴沢達も病院に搬送されて手当てを受けた。萩尾は余り気にならない傷だったが、鳴沢は少し頭にダメージを受けた。切れてしまった箇所の出血を止めた。頭のダメージなので、病院に居て検査をする等した方が善いという医師の勧めを度外視し、鳴沢は萩尾と共に東多摩署に向かい、状況を報告した。

そして妙なことが判った。「間島を釈放しろ」という要求、要求が容れられなければ無差別に爆破を行うという脅迫状が東多摩署に届いていたのだった。その脅迫状の関連で路肩の車輛が爆破という事態が起こったと見受けられる。間島を確保する迄の捜査は段落しているが、今度はこの「間島を釈放しろ」という要求と爆破の脅迫に対処しなければならなくなってしまった。

街で暮らす多くの人々を人質にするかのような脅迫という中、鳴沢を含む捜査員達が奔走する。「間島を釈放しろ」という要求の真意は何なのか。何者がそのような要求をしているのか。そして爆破という危険を阻止しなければならない。そして行き着く真相は如何に。

ということで、緊迫する最終盤迄、眼が離せない様子が続く。手紙や電話で警察側と接触する犯行グループは、その動きを弄ぶように、要求を押し出し、そして爆破を繰り返す。変なパニックにもなりかねないので、警察側の対応も難しい。捜査員達は色々な角度で事態を調べて行く。鳴沢も今般は非常に熱い。

こういう事件の展開の他方、鳴沢個人の周囲でも色々と在る。鳴沢は親友の妹で、家庭内暴力に悩んで離婚し、息子と共に暮らしていた内藤優美と交際するようになっていた。優美の息子の勇樹も鳴沢に懐いていて、遠からず結婚を意識もしている。が、優美の友人の話しが切っ掛けで勇樹がテレビドラマの子役にスカウトされたことから、優美と勇樹はニューヨークに行っていた。メールや電話で優美、またはその兄とやり取りという状態が少し続いている。今般の難しい事件の最中ながら、そうした部分の動きも在る。

警察に確保された凶悪犯の釈放を求めるというだけでも異様な感じなのだが、要求を通すべく爆弾を使って脅迫というのは更に途轍もない。そんな異常事態でスリリングな物語ではある。他方、本作は「罪と罰」、「罪の報い」、「深い傷を負わされた、または心を壊された被害者周辺の想い」というような事件や事件を扱う刑事達の根源的な事柄を論じようとするかのような面も在る物語であったと思う。緊迫のクライマックスの後の終章部分を読むと、何か涙ぐむような気もした。余韻が深い。御薦め!

『帰郷 刑事・鳴沢了』

↓かなり夢中になり、頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至った一冊だ。

帰郷 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-49) [ 堂場 瞬一 ]



↑気に入ってしまったので次々と読み進めている「鳴沢了」のシリーズの第5作である。

主要視点人物の鳴沢了の目線、第一人称で綴られている作品だ。何か外国の探偵モノの翻訳という風情も漂うかもしれない。詩情溢れる情景描写の中、主要視点人物の想いが巡り、協力的な人達や敵対的な人達とのイオいろな出来事が在って、そして事態が展開して行く。丹念に色々な人達に訊くということを積み上げて、事の真相に近付き、やがて緊迫する対決場面というようなことも生じる。物語は全くのフィクションではあるのだが、何かリアリティーが溢れる感じで、凄く読ませる物語である。そういうことで駆け抜けるかのようにシリーズ作品を次々と紐解いている。

物語の冒頭部は、新潟の実家に鳴沢了が在るという場面から起こる。

鳴沢の父は新潟県警の刑事部長を務めていたが、癌で闘病生活を送っていた。この父と鳴沢との関係は微妙で、鳴沢は余り父を訪ねるようなことも無かったのだが、先が長くはないと判ってからは何度か見舞いにも訪ねていた。危篤と聞き、急いで駆け付けると、着いて間も無く父は他界してしまった。そして葬儀ということになった。その葬儀の翌日であった。

そうした経緯を想い起し、父がかなり整理を進めていた家の中で過ごしていると、知らない少し若い男が訪ねて来た。父の葬儀の日、15年前の殺人事件が時効を迎えたのだという。(※本作の発表された時期には時効という制度は在った。その後、殺人事件等の時効という制度は止めた。)若い男の父が殺害された事件だ。時効にはなってしまったが、何とか真相を知りたいと男は訴える。そして鳴沢の父は手掛けた事件を悉く解決していたが、この殺人事件だけは未解決に終始してしまっていた。

鳴沢は訪ねて来た男の父親の一件で、当事の色々な事を知り得る人達、関わった環境保護関係の団体の関係者等を見出し、丹念に訊き込みを行い、事件に関して改めて明らかにしようとするのである。そして新潟で、「忌引の休暇中」ということで、私人として活動する中で色々な事が判り、或いは父が至っていたのかもしれない推理に至る。

こういう、何か警察の捜査員、刑事が動くというよりも探偵か記者が色々と探っているような感じで動いている。雪が交じる時季の新潟の街を動き回るのだが、情景描写が何か好い。

第1作で鳴沢は新潟県警に在った。その第1作の事件で行動を共にした大西が再登場している。大西は孤軍奮闘の鳴沢を援けようとする。第1作から4年が経っているのだ。その「4年の中での変化」という心情等が丁寧に描かれている感じが凄く好い。

父との関係ということで、鳴沢自身のことを考える部分も在るが、結局は訪ねて来た男の父との関係という部分も在る。何か身近な父のような人物との関係というような個人的なことにも想いが巡る。そうした意味でも、何か余韻が深い作品だ。御薦め!

『執着 捜査一課・澤村慶司』

シリーズの第3作である。頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至らざるを得なかった。「続き」が気になって停まらなくなるのだ。余人には理解し難い独自な理屈で犯行を重ねる被疑者を必死に追う捜査員達ということで、眼が離せない展開が続く。
本作は県警捜査一課に勤める刑事の澤村慶司の目線で綴られる。向き合う事案を澤村慶司の目線で追うということになるのだが、一部に犯行に及んでいる者の目線で綴られる箇所が交じる。これは第1作と同じような形式だ。第2作は少し違った形式であったように感じたが、第3作になって最初の感じが戻っていると思う。
冒頭に事件が発生する場面が、犯行に及ぶ者の目線で綴られる箇所が在る。事件の舞台となるのは新潟だ。そして「そういうようなこと?やってしまう?」というようなやり方での殺人事件が起こってしまう。
そんな頃、澤村慶司は休暇に入ったところだった。県警本部の捜査一課から、長浦(※架空の地名)市内の所轄署の刑事課に異動することが決まっていた。異動の前に休暇を取るということになったのだった。
休暇期間に入り、澤村慶司は過去に捜査に携わった事件で亡くなってしまった少女の墓参りに足を運んだ。墓が在る寺の住職と偶々言葉を交わした。住職から新潟での事件について告げられた。新潟での事件となれば、遠くの他県のことなので、澤村自身は余り関係無いとした。が、住職は疑問を呈した。長浦市内の警察署でストーカー被害を訴えていながら、それが取上げられず、故郷の新潟に戻って少し過ごそうとしていた女性が新潟で殺害されたのだという。こういうことになると、他県の事件とばかり言っていられない感にもなる。
澤村は居ても立っても居られない感で、上司の谷口課長や、情報に通じていそうな県警内の知り合いに事情を尋ねた。ストーカー被害を申し出る女性の訴えを、結果的に撥ね付けてしまい、何等の対応もしなかったということで、殺害された女性の家族等が言い立てていて、それが事実であるのだという。ストーカー行為に及んでいたのは、殺害された女性が派遣社員として勤めた会社に勤務していた男性ということも判っている。その男性が殺害に関与した可能性は高く、新潟での事件後に如何いうように動き回っているのかは判らない状態だ。
澤村は「休暇中なので旅行に出るのだ」と称して、新潟に乗込み、独自に事情を調べようとする。女性を殺害した可能性が高いストーカーであった男性に関しては、新潟の街に在るのか、何処かへ離れたのか、判然としない。地元の長浦等の大都市圏へ去った可能性が高いとも見受けられたが、そちらの方面からの情報も無かった。
予想し悪い行動原理で動く被疑者である。犯行は重ねられようとするのだが、澤村達がそれを必死に追う。そして追跡の果てに如何なるのであろうか。
こういうようなことなのだが、「特異な殺害方法を採っている被疑者の逮捕の様子を観て、場合によって話しを聴かなければならない」と、澤村が少し鬱陶しいと思っているプロファイリング担当の橋詰が新潟に現れて出くわすというようなことや、真面目な少し若い後輩刑事という感の永沢初美が問題に取組むために新潟に派遣されたグループに参加しているというようなこと、突っ走る澤村に複雑な想いで向き合い、最終的に澤村も含めた体制で被疑者を追うように指示する谷口課長と、シリーズで御馴染な面々も動く。今作では、澤村を苛立たせながら飄々と動き回る橋詰に色々と在って面白い面も在る。
恐るべき被疑者という感で、それと向き合う澤村達の奮戦が熱い。そういう感じなのだが、基礎となるのは関係者に会って証言を集めて事の全体像を類推するという営為である。「そういうようなこと?やってしまう?」というようなやり方の犯行が在るのだが、それでもリアリティーが強く滲む本作だと思う。加えて余韻が深いとも思う。御薦めだ。