『空白の家族』

少し気に入っている“シリーズ”の小説で新作が登場すると思わず手が伸びる…何か「旧知の人達の近況に触れる」という感で、繙くのが非常に愉しいのだ。

「警視庁犯罪被害者支援課」というシリーズの作品…これは事件の解決を目指して活動する捜査員達が主人公ということではない。事件の被害者、被害者が亡くなってしまった場合の遺族に関する対応を担う、“支援課”に勤務する警察官達または警察職員達が主人公ということになる。少し異色なシリーズなのだが、捜査員達が色々なことを積み上げて行くという展開とは「やや違う視点」が面白い。

↓その「警視庁犯罪被害者支援課」というシリーズの最新作だ!

空白の家族 警視庁犯罪被害者支援課7 (講談社文庫) [ 堂場 瞬一 ]



↑休日に入手し、直ぐに読み始め、夕方まで読んで「続き」が気になり、夜少し遅くまでに読了に至ってしまった…それだけ夢中にさせてくれるモノが在った…

本作、或いはシリーズ各作品の中心視点人物は「警視庁犯罪被害者支援課」に勤務する男性の村野である。村野は捜査一課の刑事だったが、事故に巻き込まれて負傷してしまったという経過が在り、怪我から復帰する際に走り回る、長い時間歩くことが多少辛いということになってしまったことも在り、思うところも在って希望して犯罪被害者支援課の仕事に携わるようになったという人物だ。何時の間にか、この仕事も少し長くなっている。

本作の初めの方…村野は誘拐事件が発生したことを聞き付けた。

近年、営利目的誘拐というような事件は発生が稀である。そういう事件に驚くが、誘拐されたのは10歳の小学生の女児で、“子役”の芸能活動もしていてなかなかに人気が高いということだった。村野はテレビドラマ等に疎く、聞いても直ぐに女児のことが判らなかったが、女児の家族事情を聞き「引っ掛かり」を感じた…

誘拐された女児は母親と、母親の両親である祖父母と暮らしているという。父親は離婚して疎遠になっているということだが、その父親というのが、村野が捜査一課に異動となる少し前に所轄署の捜査員であった頃に会ったことが在る人物であったのだ…

その誘拐事件に纏わる話しの他方、支援課へ所轄署からの協力要請が入る。「頑なに過ぎる遺族」への対応に協力願うということであった。

ワンルームマンションという設えの建物で火災が発生し、そこの部屋の1つに住んでいた60歳代の女性が死亡してしまった。この60歳代の女性は夫と離婚はしていないが、事情が在って1人で当該のワンルームマンションで暮らしていた。遺体の引取に関して、直ぐに連絡が取れる夫に申し入れようとするが、夫は「関係無い!!」と警察との接触を拒むというのだ。対応しようとしていた所轄の担当者が弱り果て、村野は手伝いに出向く。

誘拐事件と、女性の火災による不運な死と…これらの件の顛末が本作の物語である…

絆が深いような、脆いような、そういう家族が本作には登場する。村野はそうしたモノと向き合うことになる。そして村野自身に関しても、何となく動きが生じるのが本作だ…

↓結果的に過去の6作品は全て読んでいた…そしてこの新作である…
第1作>>『壊れる心』
第2作>>『邪心』
第3作>>『二度泣いた少女』
第4作>>『身代わりの空』
第5作>>『影の守護者』
第6作>>『不信の鎖』

村野の動きがメインだが、周辺の人達も何作も続いたシリーズの中で色々と在る…

また、最近はこの作者の“得意技”の一つになっている感も在るが、他のシリーズ作品に登場した経過が在る作中人物達が「さり気なく出演」という場面も在る。一寸だけ面白い…

このシリーズは、他のシリーズ以上に「人生?」、「家族?」、「生き様?」、「社会?」というようなことを問うような色合いが濃いと思う。村野の活動が、結果論として進行する事件の意外な核心を探り当ててしまうような展開も愉しいのだが、「人生を問う?」というような色彩が濃いということが、このシリーズの好さだと思っている…本作では「家族のような身近な人達との絆」というようなことを強く考えさせられた…

『絶望の歌を唄え』

↓何となく眼に留めていて、取寄せようかと思っていれば、近所の書店に在って、思わず求めた一冊だ…

絶望の歌を唄え (ハルキ文庫)



↑大変に愉しく読了した!

本作の主要視点人物は「安宅真」(あたかしん)という男だ。現在は40代に差し掛かっているが、10年程前までは警察官だった。「国連による選挙監視」というようなことで東南アジア某国に派遣される任務に在ったが、現地で爆弾テロ事件の只中に身を置く羽目になった。帰国から暫く経って、「一線を退いたら…」と思い描いていた喫茶店の主になる機会が在って、神田神保町で<フリーバード>という店を営んでいる。店は小さな2階建ての一戸建てで、1階が店舗で2階に住んでいる…

という主要視点人物だが…「在りそうで無い」というようでもあり、「無さそうで在る」というようでもある。如何にも「小説の主人公」という感の人物が活躍する物語である…

冒頭、10年程前であるという、東南アジア某国での活動の最中に爆弾テロ事件に巻き込まれてしまうという回送の場面が在り、そして「喫茶店の店主」として暮らす最近の様子になって行く…

或る夜、閉店時間が近付いた頃、何となく存在感の在る女性客を迎えた。少し華やかで、フリーライターと称しているが、音楽趣味の話し等も合う。安宅真は「店の常連になってくれれば嬉しい」と名刺交換をした。そんなことで女性客を送り出し、店を閉めていた時、妙な騒ぎが起こった…

安宅真の店の直ぐ近くに在るビルに、爆発物を積み込んだらしい軽トラックが突っ込んで行くという“爆弾テロ”のような事件が起こる…安宅真としては、旧い記憶が甦るような、如何にも嫌な事態だった。

この爆弾事件を契機に色々な出来事が在って、安宅真はそうした事態と向き合って行くこととなる…どのように展開するのかは、是非とも本書を紐解いて頂きたいと思う…

「元警察官」として、妙な犯罪事件に向き合う方策を或る程度は承知している他方、「喫茶店の店主」として街で飄然と生きる男である主人公が、妙な事態と如何に向き合い、どのような立ち回りをして行くのかが本作の「面白い箇所」なのである…

色々と愉しいシリーズを送り出している作者なので、「或いは続篇?」と思わせる好い余韻も残しながら物語が結ばれるのだが…なかなかに愉しい作品だった!

『迷路の始まり ラストライン3』

「気に入ったシリーズの新作」というような小説が出ているのを視掛けると、それを読んで、多少知った作中人物達と再会してみたいと思うものだ…

↓比較的最近にシリーズが始まっている。第3作ということになる…「ガンさん」こと“南太田署”の岩倉刑事が還って来た!!

迷路の始まり ラストライン 3 (文春文庫)



↑休日の日中に読み始め、夕方まで読んで、夜になってまた続きが気になり、遅めな時間帯にまた頁を開いて、結局一気に読了に至ってしまった…

振り返ると、読了していた第1作も、第2作も、読み始めて夢中になり、続きが気になってドンドン読み進んでしまっていたが、今作でもそれは変わらなかった訳だ…

主人公の「ガンさん」こと“南太田署”の岩倉刑事は50歳代に差し掛かったベテラン刑事である。古い事件のことを何でも詳しく覚えている、驚異的な記憶力を誇るとされる“名物男”なのだが、配属される場所で頻繁に面倒な事件に出くわすという傾向も在るらしい。捜査一課から、南太田署に異動して、個人的な生活を大事にしながら悠然と暮らすようなことを思い描いていながら、赴任直後から事件に出くわして奔走している。岩倉刑事には、部内的に多少嫌われることも厭わず、ぶれることなく正論を吐き続ける男という側面も在る。そしてそれが事件解決に繋がっているという事例も少なくない。

こういうような「ガンさん」こと岩倉刑事の造形が非常に気に入ってしまっている。彼が二転三転しながら意外な様相を見せて行く事件に取組む物語が非常に面白いのだ。

本作…「ガンさん」こと岩倉刑事が休日の日曜日を過ごしている様子から起こる。“南太田署”に赴任して2年程となり、異動の可能性も気になり始めた他方、個人的な暮らしの中にも少し変化が生じようとしている。

そんな休日を過ごして休んでいた深夜、日付が変わるような頃に眠って、然程時間も経っていないような頃に電話連絡で起こされた。管内で遺体が出たというのだ。岩倉刑事は急いで現場へ駆け付けた。

事件現場は京浜急行の梅屋敷駅の辺りに在る住宅街だった。岩倉刑事は、第1作の当時は新人刑事だった、現在は機動捜査隊員として方々を巡って活動している女性の伊東刑事と再会した。そして現場状況だが、若い男性が後頭部を強打されたとみられる状態で俯せになって死亡していたということで、遺体は運び出されたところであったが、通報した近所の住民に伊東刑事と共に状況を訊ねたのだった。

「一撃!」というような殴打で殺害されてしまっている状況は「通り魔殺人」を思わせる状況が、近年の犯罪事件捜査で重要視されている防犯カメラのようなモノが見当たらない住宅街の中、住民達も休んでいる時間帯、街で動いている人達も居ない時間帯ということになる深夜に発生した。岩倉刑事は色々な記憶を辿って、捜査が難航することを予感した。

やがて殺害された若い男性の身元が明らかになり、件の男性に関して調べ始めると「色々な問題?」が視えて来る。そして、件の男性と然程差が無い時間帯に、マンションの居室で殺害されていた女性が発見されたという別な事件も発生していた…

そして事件は、二転三転しながら意外な様相を見せながら展開する。功を焦る他方で岩倉刑事を「煙たい」と考える上司の柏木課長の思惑で、特捜本部を外されてしまうというような状況も生じる中、岩倉刑事は一連の事件が秘めている「深い闇」の片鱗に行き当る…

「部内的に多少嫌われることも厭わず、ぶれることなく正論を吐き続ける男」が活躍するという感じ…何か酷く好い!今作に関しては、「第4作以降?」と酷く気になってしまう展開となっているとは思う…

↓因みに、これまで読了した作品に関しても整理しているので、ここに記事へのリンクを挙げておきたい。
>>第1作 『ラストライン』
>>第2作『割れた誇り』

今作の『迷路の始まり』というタイトルは、読む前には何かぼんやりと判り悪かったが、読み終えると「なるほど“迷路”の入口が現れた?」という感である…

『垂れ込み』

↓沖田刑事と西川刑事の“追跡捜査係”の新作だ!!登場していたことに気付いて即座に入手して愉しく読了した!!

垂れ込み 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫 と)



↑「気に入っているシリーズ」の「新作」に関しては、「遠方の友人の消息?」という感でかなり愉しいのだが、本作も「独立した一作」として、前作までの各作品と無関係に愉しむことが叶う。今回も複雑な事件の真相が次第に解明されるという物語である…

“追跡捜査係”というのは、警視庁の捜査一課の係で、捜査が詰まってしまっている未解決事案を調べるというものである。激情家と見られ、動き回らなければ気が済まない沖田刑事と、捜査資料を丹念に読み込みながら丁寧に情報を整理して事件解決を図ろうとする西川刑事は同期の仲間である他方、本人達は仲が良いとも思っていない面が在りながらも、この“追跡調査係”の中核を担っている捜査員である。この2人の他、若い庄田刑事、庄田刑事に近い世代で女性の三井刑事、極端に無口で少し風変わりな大竹刑事、そして西川刑事が「あの人は?少し頼りない…」としている鳩山係長が“追跡捜査係”で活動している…

物語は沖田刑事が動く辺りから起こる。「15年前の上野で発生した通り魔殺人の真相を」という“垂れ込み”の電話を受け、電話の主に会おうとして出掛けたものの、残念ながら会えず終いであったという経過が在る…“追跡捜査係”は、未解決事案の情報提供を受けるべく、係の直通電話を公開していて、その番号に架かった電話を沖田刑事が偶々受けたのだ…

そういう状況を知り、西川刑事は“通り魔殺人”ということで、整理を手掛けていた資料の中から「10年前の新宿で発生した通り魔殺人」という事案を見出し、当時の捜査関係者の中から探し出した退職者に話を聴こうとする。

沖田刑事は、「山岡」を名乗った“垂れ込み”の電話の主を何とか探し出そうとする。そしてもう一度会う約束を取り付けたのだったが、そこで思わぬ事態になって行く…

沖田刑事、西川刑事が各々に動いていたが、彼らの各々の捜査がやがて交錯し、思いも掛けないことが明らかになって行く…

これ以上は詳述を避けておこうと思うが、目が離し悪い展開が続く…

事件の展開の他に、沖田刑事や西川刑事等の面々の個人的な事も作中に描かれるのだが、本作ではその辺りも少し面白い。そして最近のこのシリーズでは、別シリーズ“犯罪被害者支援対策課”の村野が現れるという展開が「半ば御約束??」という感がしないでもないのだが、本作ではその“犯罪被害者支援対策課”でシリーズの回を重ねる都度に村野が少し頼れるというようになって行く女性警察官の安藤も顔を出す…

何か本作は「少し深い余韻」とでもいうような感じで結ばれる…御薦めだ!

『不信の鎖』

「警視庁犯罪被害者支援課」というシリーズの作品…これは事件の解決を目指して活動する捜査員達が主人公ということではない。事件の被害者、被害者が亡くなってしまった場合の遺族に関する対応を担う、“支援課”に勤務する警察官達が主人公ということになる。少し異色なシリーズなのだが、捜査員達が色々なことを積み上げて行くという展開とは「やや違う視点」が面白い。

↓そのシリーズの新作が登場した。思う以上に素早く読了に至ってしまった…

不信の鎖 警視庁犯罪被害者支援課6 (講談社文庫)




「事件の被害者」という立場には、どんな人でもなってしまう場合が在る。色々な事例に対応しなければならないのが、このシリーズの「犯罪被害者支援課」というような担当の人達ということになると思う。

本作では「2年前の事件」というモノの後日譚のような事として物語が起こる…

不動産、住宅のデベロッパー会社<バンリュー>を一代で大きな会社に成長させたという経営者の大崎は、とかく“評判”が在る男だった。独裁的なワンマン経営者で、会社は“ブラック企業”ということで色々と噂が在り、会社を立上げて発展させて行く中で適法でもないことも色々と在ったとされる。そんな大崎も「事件の被害者」だった。2年前、系列会社の社長に据えていた娘が何者かに殺害されてしまっていたのだ。

「警視庁犯罪被害者支援課」の村野にとって、この大崎は2年前の事件に際して随分と苦心して対応した人物であったことが記憶に残っている。そして事件は未解決だった。この事件に関して、山梨県内での強盗殺人事件で逮捕された男が「実は自分が…」と話し始めていて、供述内容は出まかせでもないように見受けられるというのだ。村野に連絡が入り、改めて「大崎の対応」という事案が「警視庁犯罪被害者支援課」の任務になった…

この大崎という男は、娘を失った事件の後も相変わらずの押し出しで村野は苦慮することになった。事件と然程関係が無い、会社の好ましくない噂を書き立てようとするメディアも現れるなど、様々な派生的な事情が生じる事案だった…

やがてこの事件の真相が少しずつ明らかになって行くのだが…なかなかに興味深い…

新しい文庫本なので、仔細は余り述べられないと思うのだが…「答えが無い」という、正しくケーズバイケースの対応に努める村野達なのだが、懸命な対応の中で少しずつ明らかになる事実が積み上がり、事件の意外な真相が明かされることになる…

なかなか面白い!!

『凍結捜査』

訪ねた経過が在って、何となく判る場所が物語の舞台になっている小説については、少し強い関心が沸く場合が在る…

↓本作は函館を主要な舞台の一つとしながら物語が展開する事件モノである…更に全作品を読み通しているのでもないが、シリーズ作品ということにもなる…

凍結捜査 (集英社文庫(日本) 検証捜査) [ 堂場 瞬一 ]



↑作中で発生する事件は不明点が多く、作中の捜査も難航してしまうが…時間を経てドンドンと意外な展開になり、頁を繰る手が停まらなくなってしまう。休む前、深夜、早朝と、続きが気になるので、枕元に置いてあっという間に読了に至ってしまった…

“シリーズ”としての本作の第1作は、残念ながら未読ではあるのだが、「神奈川県警の不正な捜査に関する検証を行うべく、警察庁が各地の刑事による特命班を編成して活動」という出来事が描かれているのだという。その特命班に参加した刑事達の「その後…」というような感で、シリーズの各作品が在る。

↓実は“シリーズ”の作品を1冊読了してはいた…
>>『時限捜査』(2017.05.27)

しかし、この『時限捜査』に関しては“シリーズ”を然程意識せずに愉しく読んだ。大阪駅でとんでもない事態が発生している中、現場指揮を執る署長を、警察庁による特命班の仕事を通じて知っている東京の刑事が気に懸けていると、近所で事件が発生して、それが大阪の事態に関連が在ることが判って行くというような状況が作中には在った…

本作『凍結捜査』に関しても、警察庁による特命班の仕事を通じて知り合った各地の刑事達が登場して、その事案への言及や、互いに話し合うことや、その時の誼で協力を要請するような場面は在るが、特段に“シリーズ”を意識せずに愉しく読み進めることが出来る。

少し前置きめいた話題が長めになった…物語は…

北海道の女性刑事、保井凛は札幌の本部から函館中央署に異動して暫く経った頃だった。1月の或る日の早朝…彼女の所に東京の刑事、神谷が訪ねて来ていた。警察庁による特命班の仕事で知り合い、実際に会うのは数ヶ月に一度程度という、何か不思議な交流が続いていた。神谷が新年の休暇ということで函館を訪ねてみようということになった訳だ。

そこに凛の署内の後輩から情報が寄せられる。大沼の畔で、銃で撃たれたと見受けられる遺体が発見されたのだという。凛は神谷と過ごそうと休暇を取っていたのだが、それを返上して現場に駆け付けることになる。神谷は事態が事態であるので、凜を見送った。

後頭部に2発の銃弾を撃ち込まれてしまった状態で発見された遺体だが、免許証から「平田和己」という名が明らかとなった。凛はその名に反応した。

凜が函館へ異動となる前、札幌で暴行事案に関わったが、その時の加害者とされていたのが「平田和己」だったのだ。被害者は「水野珠希」という女性だった。事件は水野珠希が被害届を取り下げてしまい、曖昧なままになってしまっていた。札幌の旅行会社に勤めていた水野珠希は、事件の曖昧な決着の後に会社を辞めて函館の実家に帰ってしまっていた。凜は函館に異動して来たことから、この水野珠希にも会ってみた経過が在った。実は平田和己も札幌から姿を消していて、最近になって「函館で起業する」と称して函館に居るという情報も在ったのだ。

捜査に加わった凜は、平田と水野珠希の一件を捜査陣に伝える。凜は銃を使用していることも在るので「そんなことは?」とは思うが、水野珠希が平田に復讐を図ったという可能性も排除は出来ない。とりあえず水野珠希に事情を訊こうとするのだが、水野珠希は姿を消してしまった。

大沼での事件の捜査に捗々しい進展が無いままに季節は廻った…

6月の或る日の東京…ホテルの客室で遺体が発見されたということで、神谷が現場に駆け付けた。この遺体も後頭部に2発の銃弾が撃ち込まれてしまった状態だった。

発見された遺体は若い女性で、宿帳に書かれた氏名で該当者がよく判らず、住所や電話番号は実在のモノながら当該の氏名と無関係で身元がよく判らなかった。しかし、客室内に在った本人のモノと見受けられる所持品に免許証が在った。札幌の住所の免許証で「水野珠希」という名だった。

神谷は「水野珠希」という名に驚く。凜が探そうとした事件関係者なのである。

ということで、2つの殺人事件の関係、事件の背後に潜む何かを、保井凛や神谷が共闘しながら追うことになって行く…事態は「そう来るか?!」と二転三転する…

物語の性質上、これ以上の詳細は避けたいが、“ロシア”というような事柄も出て来て、神谷刑事が札幌や福岡に飛ぶ場面も面白い…序に、この作者はさり気なく“他シリーズ”の主要人物を作中に登場させるのだが、犯罪被害者支援課が一寸登場してみる場面も在る…

出たばかりの文庫本でなかなかヒットしているようだが…愉しいので御薦めだ!

『十字の記憶』

↓紐解き始めて、頁を繰る手が停まらなくなり、続きが気になってドンドン読み進め…素早く読了に至ってしまうという、何となく爽快な感じ…そういうことになってしまった1っ冊だ…

十字の記憶 (角川文庫) [ 堂場 瞬一 ]



↑休日の土曜日に入手し、何となく読み始め…日曜日の午前中には読了に至ってしまったという訳だ…

物語は「長浦県白崎市」という架空の街を舞台に展開する。作中の描写で東京から50㎞程度というようなことが在って、作中に東京に居る関係者を訪ねる描写が在って、そちらでは東京の実在の地名が出て来る。何か、埼玉県や千葉県、または神奈川県の何処かという感じになっている「白崎」という場所である…

この長浦県の地方紙の記者で在る福良(ふくら)が白崎にやって来る。実質的に1人で何でも切り盛りしなければならないのだが、“支局長”ということになって、高校時代を過ごした白崎へ赴任したのだった。高校を卒業して20年程度になろうという状況で、余り街に寄ることもなくなってしまっていたのだった。

福良が関心を寄せていたのは、白崎の支局長として赴任する数日前に発生した殺人事件だった。街の商工会議所の青年部長を務めていて、他界した前市長の息子であるという人物が、人気のない空地で遺体となって発見された。小口径の拳銃で後ろから頭を撃たれて死亡という異様な状況であった…

福良がこの事件に関して取材をしている時、捜査本部で活動中の刑事と出くわす。警部補の芹沢刑事は、福良の高校時代の同級生で、陸上部の仲間だった…互いの仕事上の立場が在るので、2人には微妙な距離感のようなモノも生じていたが…目撃者が期待出来るような場所でもない現場で、夜間に呼び出されたか何かで、拳銃が使用されているという事件で捜査は捗々しくない感であった…

そうした中、更に1人、今度は市役所に勤めていたという男が最初の現場と殆ど同じ場所で、同じような方法で殺害されているのが見付かった。「連続殺人?」ということになって行った…

事件の他方…福良や芹沢は、高校時代の或る出来事が引っ掛かっていた…陸上部の仲間の女子生徒の小関が、「夜逃げ?」のように母親と共に姿を消し、高校を中退してしまっていた。その女子生徒と母親が、終電に近い列車で荷物を持って駅から出発しようとしていた時、福良と芹沢は酒を呑んでしまってフラフラと駅の辺りに居て、彼女に出くわしていた。後になって「居なくなった…」とハッキリして「恐らく最後に地元で出会った?」ということで、2人は各々に気に病んでいたのだった。

芹沢は刑事として事件の捜査を続けていて、福良は記者として事件関連の情報を掘り起こそうと各々に活動していた…そんなある日、福良は「あれは?!」という女性とすれ違う。高校時代に夜逃げのように姿を消した小関に似ていた。小関は175㎝程度の、女性としては目立つ長身だった。

小関を知り得る、高校時代の関係者を訪ねるようなことに、福良は事件の情報収集に並行して取組み始めた…

青春時代に積み残してしまったようなことに向き合おうとする他方に、謎が多い事件の謎解き…福良記者と芹沢刑事がそれぞれに取組み、他方で共闘することになるのだが…なかなかに面白い!!

幾多のシリーズで知られる作者が、シリーズということでもない形で打ち出した作品だ。

『脅迫者』

小説…「シリーズの新作」というモノは、少し御無沙汰した遠方の友人や知人の消息を知るというような感覚で愉しく読むことが出来るものである。幾つか、そういう感覚で愉しんでいるシリーズが在る…

↓これはそういう「愉しんでいるシリーズ」の1つである<警視庁追跡捜査係>の新しい作品である…

脅迫者 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑主要な劇中人物である沖田刑事や西川刑事も健在で、各々の個人的な事情に動きも生じながら、劇中の事件は展開する…頁を繰る手が停まらなくなる…

沖田刑事は古い仲間と昼食を愉しむ機会が在った。仲間は警察を退職し、地方で実家の仕事に取組んで活躍していて、東京へ出て来たということで会ったのだった。

その古い仲間との話しで、既に20年程度も以前、沖田刑事が初めて刑事として現場の警察署に配属された頃に起こった、少し奇妙な出来事を思い出したのだった。

新人刑事として様々な事案に向き合っていた沖田刑事が非番であった日の夜、管轄内の河川敷で男性の遺体が発見されていた。沖田刑事自身は後から事件を知ったが、この遺体を巡って詳しい捜査が行われた痕跡が認められず、“自殺”として一件落着ということになっていた。沖田刑事は疑問を感じ、少し調べようとして疑問が強まった。「おかしいじゃないか!?」と先輩や上司に喰って掛かり、暫く仕事を干されて電話番をさせられたという嫌な思い出も在った…

その一件を思い出し、調べてみたいと追跡捜査係の部内で相談する。追跡捜査係は未解決の事件、捜査が行き詰った事件の再調査という仕事を担っているのだ。が、この沖田刑事が気になっているという一件は、何か新しい事実が出て来たということでもない。

そういう状況ながら調べ始めると、“自殺”の原因がよく判らず、遺体で発見された男性の死亡前の行動等を調べると、少し意外なことが判明し始める…

やがて、沖田刑事らの周辺に不審な人影が見受けられるようになり、「重大な裏」が在る一連の出来事の一部であったということが明らかになって行く…

新しい文庫本なので、これ以上の詳述は避けておきたいが…頁を繰る手が停まらなくなった…

劇中の事件…「その後??」と思わせる内容も在る。そして沖田刑事や西川刑事の身辺も少し動きが在って、読了後に「次作?!」と強く思った…

『割れた誇り ラストライン2』

偶々出逢って愉しく読んだ作品に関して、主要作中人物達の「その後」や、別な場面での動きを扱った“続篇”が在ることを知ると、強い興味が沸き上がって、該当作品を手に取るという場合は多く在ると思う。

↓「南太田署の岩倉刑事」が活躍する『ラストライン』の続篇である。

割れた誇り ラストライン 2 (文春文庫) [ 堂場 瞬一 ]



↑大変夢中になって、昼に読み始め、夕刻から夜にも読み、続きが気になって深夜から早朝にも読んだ…頁を繰る手が停まらなくなり、素早く読了に至った…

前作ということになる『ラストライン』で、岩倉刑事は南太田署に異動し、着任した日から早速事件の捜査に加わることになっていた。その頃から1年半程度が経った、秋から少しずつ寒さが気になって行くような時季の出来事が本作では描かれている…

岩倉刑事は課長から管轄内のアパートに住む或る男の様子を視るようにという指示を受けた…

或る男…隣の北太田署管内で発生した女子大生殺害事件の容疑者として1年程前に逮捕、その後起訴されていたが、犯行の事実が全く認められないとして無罪判決を受けた若者だった。とりあえず母親と暮らしていたアパートに戻って来た訳だ…

逮捕起訴となった容疑者に関しては「推定無罪」で裁判が行われ、犯行を犯してしまった事実が認定されて有罪ということになって処罰を受けることになっている。日本国内では、有罪ということになる場合が殆どであるのだが、今般はやや珍しい「犯行の事実が認め難いので無罪」という判決だった。実際、若者は犯行を犯したということではないのだ…

岩倉刑事は若者のアパートの辺りを探る。若者の一家を古くから知る元警察官の自治会長や、子どもの時分からの友達等、若者とその母親や、現在は仕事の都合で他地域に住んでいる若者の兄に親身になろうとしている人達が在った。大都市では稀かもしれない濃厚な人間関係も見受けられる状況である。

そういう親身になって冤罪事件で苦労した若者を見守り、支えようとする人達は少数派で、「どうして無罪?」、「本当はやっていたのでは?」という観方が非常に強い状況であった。逮捕起訴の容疑者が有罪という場合が殆どである状況の故なのかもしれない。そして早くも“嫌がらせ”が発生しているような状況だった。

そうした中、殺害された女子大生と交際していた経過が在る学生が現れた。件の学生は若者のアパートに何度も押し掛ける…岩倉刑事は警戒する…

やがて…岩倉刑事は事件発生で深夜に呼び出しを受けたのだが…何者かと争って殴られた痕跡が認められる、橋から転落して死亡していた状態で発見された若い男は…件の学生だったのだ…

南太田署に特捜本部が立ち上げられ、岩倉刑事は捜査に参加することになる…そして解き明かされる事の真相?

こういう物語だ。二転三転しながら事態が動くので、かなり夢中になった…

岩倉刑事は、部内的に多少嫌われることも厭わず、ぶれることなく正論を吐き続ける男である。フィクション以上でも以下でもない小説に登場する刑事だが、こういう男が何処かで密かに活躍していて欲しいものだと思ってしまうような一面が在る…

その岩倉刑事に加え、問題の学生などと女子大生殺害の件の際に接した経過が在る北太田署の被害者支援担当者の女性警察官である今川香奈枝、特捜体制下でコンビを組む捜査一課からやって来たフットワークが好い花田刑事というような面白い人物が出て来る他方、前作で登場して異動したことになっている新人だった伊東刑事の後任ということになる、何か胡散臭い川嶋刑事等、本作で登場する周辺の作中人物達も面白い…

ぶれることなく原則論を貫いて仕事に取り組む岩倉刑事の活躍…シリーズとして続くような気配だが、一寸楽しみである…

それにしても…偶々2冊の文庫本を入手し、何となく2日続けて随分と夢中になったものだ…

『ラストライン』

「読んでいる本が面白く…何となく生活のペースが少々…」という事例は…然程多くはないかもしれないが、それでも時には在る…

↓夕刻に眼に留めて求めた文庫本…夜に夢中になって読み…続きが気になって、多少の休憩を挟みながら、早朝までに一気に読了…それ程に夢中になった…

ラストライン (文春文庫) [ 堂場 瞬一 ]



↑堂場瞬一による“刑事モノ”である…

「ガンさん」こと刑事の岩倉剛は、捜査一課から南太田署に異動した。定年まで10年というようなことになり、所轄署で個人的なことにも時間を割きながら仕事をしたいというような思惑も在った…

朝から新しい職場の南太田署に出た岩倉刑事は、近隣の様子に馴染もうと外に出てみたところだったが、そこに連絡が入った。事件である。何処となく、勤務することになった先々で、何やら事件が発生するというような傾向が在るようだ…

岩倉刑事に連絡を入れたのは、初めて刑事としての任務に就くこととなった女性、伊東彩香だった…事件現場で落ち合ったが、“教育係”を兼ねて、岩倉刑事は伊東刑事とコンビを組むというようなことになった…

発生した事件…70歳の一人暮らしの男性が、自宅アパートで惨殺されてしまった状態で発見されたというものである。被害者本人の色々な事情がよく判らない中で捜査が動き始める。

或いは“誤認逮捕”や“冤罪”というような問題が発生しかねない状態を免れるべく岩倉刑事の捜査が続き、一息入れていたところに連絡が入った。“警察回り”を担当している若い新聞記者の遺体が、自宅アパートで見付かったというのだ…どうやら自殺ということであるらしい…

岩倉刑事と伊東刑事は、この自殺したらしい新聞記者の件で、その事情を調べることになった。自殺らしい場合、「事件性の有無?」を考える意味でも事情は調べるものなのだ…

70歳の男の殺害と、若い新聞記者の自殺という、時期を重ねて発生してしまった一見無関係な2つの事件が、実は深い所で繋がる…

というような物語で、かなり夢中になってしまい、一気に読了してしまったのだ…

「或いは“誤認逮捕”や“冤罪”というような問題が発生しかねない状態を免れるように」と“停め役”を自認して動こうとする辺りや、新人の伊東刑事が「データベース」と思わず言ってしまう程度に古い事件の色々を記憶しているというような辺りや、妻と高校に進学した娘と別居していながらも娘の学校での都合を慮って離婚せずに居る他方で交際中の女性が居るというような辺りや、「定年まで10年…」と様々な想いを抱いているという辺り等、岩倉刑事の人物造形が酷く面白い…

その岩倉刑事が見出す、多少驚く「事の真相」?これは面白かった!!

『影の守護者』(2018.08.27)

気に入っている“シリーズ”の小説…新作に出くわすと「遠方の友人の近況に触れる…」という感覚で愉しむことが出来ると思う…

↓「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズの新しい作品に出くわした!!

影の守護者 警視庁犯罪被害者支援課5 (講談社文庫) [ 堂場 瞬一 ]



↑夢中になって素早く読了してしまった…

「警視庁犯罪被害者支援課」というシリーズは、事件の解決を目指して活動する捜査員達が主人公ということではない。事件の被害者、被害者が亡くなってしまった場合の遺族に関する対応を担う、“支援課”に勤務する警察官達が主人公ということになる。少し異色なシリーズなのだが、捜査員達が色々なことを積み上げて行くという展開とは「やや違う視点」が面白い。これまでの各作品も興味深く読んでいた…

シリーズ作品ではあるが、各作品は独立していて、どの作品から読んでも愉しむことが出来る。各作品に、捜査員として将来を嘱望されていた村野が事故に巻き込まれ、少し後遺症の残る怪我を負ったこと等が契機で、望んで“支援課”の担当になった経過は各作品で触れられる。シリーズであるが故に、「前作品からの流れ」にほんの少し言及される場合も在るが、些細なことだ…本作では、前作で富山県に出張している経過が在るので、「富山で求めたダウンジャケット」という表現が在る程度だ…

「富山で求めたダウンジャケット」というモノを主人公の村野が持ち出すような冬季に本作の事件は起こる…

多摩地区の交番で、地域課の交番の仕事を主に担い、あと2年で定年を迎えるという警察官が射殺されてしまった…

事件を受け、「遺族関係の対応」ということで村野達は現場へ向かった…

殺害された警察官の妻は、やや不自然に思える程度に気丈で、どうやら「関係者に御迷惑を…」と変に気が張っているようである…そして夫妻の一人息子が在るのだが、少し厄介だった。警察官であり、捜査一課の捜査員なのだ…

警察では「身内の事件」ということになれば、捜査に加えないのが通例だ。どんなに頑張っても、冷静に対応等出来ないと考えられるからだ…しかしこの息子は、警察官で捜査員の自身が、父親を殺害した容疑者を明らかにして逮捕することが供養になるのだといきり立っている…

村野はこの息子の対応に苦慮し、他方で妻の対応を後輩の安藤に託す…

そうしている間に、新たな事実が浮かび上がる…5年前に世田谷の交番で、勤務中の警察官の拳銃が奪われ、その拳銃で警察官が射殺されてしまう事件が発生していた。今般の交番での警察官射殺で、その「5年前の拳銃」が使用されているらしいことが“ライフルマーク”の検査で判明したのだ…

この“事件”…どのように展開するのか?少しずつ新しい事実が判明して行くのだが…殺害された警察官の妻や息子はどうするのか?どうなるのか?

こんな物語である…

同じ作者によるシリーズで「追跡捜査係」というモノが在る。未解決事件を洗い直すという担当の係の捜査員達が活動するという内容のシリーズだが…今作では、この「追跡捜査係」シリーズの主要人物である西川刑事と沖田刑事が、村野と接触する捜査関係者として登場する。「5年前の拳銃」の件が未解決であり、今般の事件とも関りが在りそうだということになり、「追跡捜査係」を投入して捜査が強化されたという訳である…

こういう「別シリーズの主要人物の客演」も交えて、事態が二転三転しながら進む…非常に愉しい!!

『時限捜査』(2017.05.27)

立ち寄ったばかりの大阪が舞台となる刑事モノの小説…何となく立ち寄った書店で偶々見付けた…

↓「何となく身近に感じる場所」を舞台とした物語に夢中になり、休日を利用して一気に読了に至ってしまった…

時限捜査 (集英社文庫)



↑「酷い事件が発生した1日」が作中でドンドン進み、頁を繰る手が停まらなくなってしまう…

大阪の梅田警察署で署長を務めている島村…2日後の異動で警察学校の校長に就任する運びで、署内各課の課長らによる歓送会で愉しいひと時を過ごし、署のビルの上階に設けられている官舎へ引揚げた…署長の任を離れると同時に引っ越す段取りだが、妻が粗方用意を整えている状態で、シャワーを浴びて休もうとしていた…

そこに妙な事件が発生しているという報が伝わる。万博公園の<太陽の塔>、<USJ>、<あべのハルカス>と大阪を代表するような名所で、放火騒ぎが連発しているのだという。警戒態勢を取らざるを得ず、島村はシャワーを諦めて即座に署に向かう。

島村の所に集まった情報によれば、ドローンを駆使して高い場所に火を放つという、手の込んだ事件が同時多発しており、ただならぬ状況ということになった。

そうした緊張感の中、今度は大阪駅で別な事態が発生する。ライフル銃を持ったグループが現れ、大阪駅のコンコースに在るカフェに、通行人だったと見受けられる男女各1名を人質にして立て籠るという騒ぎが発生したというのだ。

大阪駅は島村が預かる梅田署の管轄内である。島村は事態の解決に向けて、現場指揮の責任者ということになる。

他方…東京では、嘗て各地の県警から集まった捜査員の特命チームで大阪の島村と仕事をした経過が在る、警視庁捜査一課の捜査員である神谷が自宅でテレビニュースを視ていた。大阪駅で異常な事態が起こっていることが伝えられていたが、神谷は「島村さんの署の管轄区域?」と想いを巡らせた。

そんな時に神谷は連絡を受けた。神谷の自宅から遠くない辺りで遺体が見付かったのだという。捜査一課の同僚達も順次現場へ向かうというが、神谷は近所なので直ぐに現場へ駆け付けて捜査に加わることになった。

こういうようなことで、大阪駅で発生した異常な事態はどのようになって行くのか?本当に目が離せない…

事件の主な舞台は、大阪の「ど真ん中」という感の大阪駅なのだが…辺りの空気感、「未だ暑い9月上旬」と設定されている時季の雰囲気の秀逸な描写の中、各々の作中人物が各々に大変な事態と向き合うことになる…

島村に関しては…「次に日付が変わると、署長の任を離れる」という事情が在ることから、「自身の指揮下で何とか事態の打開を…」と執念を燃やす…そういう様子が秀逸だ!

偶々立ち寄ったことが在る辺りを舞台にしていることも手伝って、読んでいて「映像が思い浮かぶ」ような感でもあった…非常に面白い!

『身代わりの空』

暫く「普通の文庫本(日本語)が入手し悪い場所」に居て、「用意に入手可能な場所」に来ると…一寸気になって書店を覗く…そういうことをすると、早速に文庫本を求めてしまう。

堂場瞬一による“警察モノ”のシリーズを愉しく読むのだが…気に入っているシリーズの新作が文庫本で登場した!

シリーズの新作…気に入っているシリーズに関しては、「少し御無沙汰している友人や知人の動向を知る」ような、一寸愉しくなる存在だ…本作は<警視庁犯罪被害者支援課>シリーズの新作だ。本作は第4作である。

上下2巻になった作品だが…購入翌日に乗車した列車やバスであっという間に上巻を…そしてその次の日に瞬く間に下巻を…と夢中になってしまった作品である…

↓こちらが上巻…

身代わりの空(上) 警視庁犯罪被害者支援課4 (講談社文庫) [ 堂場 瞬一 ]




↓こちらが下巻…

身代わりの空(下) 警視庁犯罪被害者支援課4 (講談社文庫) [ 堂場 瞬一 ]




<警視庁犯罪被害者支援課>シリーズに登場する主要視点人物達は「警察官」であるのだが、“警察モノ”の小説によく出て来る「刑事」とは些か異なる。彼らは“刑事部”の警察官ではなく、“総務部”の警察官ということになる。

主要視点人物(=主人公)の村野は将来を嘱望された優秀な捜査員(=刑事)であったのだが、街で事故に巻き込まれて負傷してしまい、膝に傷を抱えることになった経過が在り、自身も「事件被害者」になってしまったことから<被害者支援課>に移って警察の仕事を続けているという人物だ。

この村野や同僚達は、容疑者確保に邁進する捜査員ではない。飽くまで、事件の被害に遭った当事者や、被害者が亡くなっている場合には遺族の側に寄り添い、色々な意味での支援の手を差し伸べることになる。そういう角度で事件と向き合い、判り難い事件の核心を解き明かすような場合も在る…それがこのシリーズなのだ。

このシリーズは、何やら華々しいアクションのようなモノが展開するのでもなく、なかなかにリアルな事件、地道な警察関係者の動きが精緻に描かれ、少し考えさせられる話題や状況に通じるモノも在る。ここまでの3作品は興味深く読了している…

シリーズの第4作ということになった本作は、これまでの作品で「最も大掛かりな事案」が扱われることとなる…

冒頭…村野は部内の研修会で講師を務めている…

警察の部内で主流を占めるのは「捜査活動」等であり、「被害者支援」のようなことに関して、部内の関係者が深く理解しているでもない側面は否定出来ない…が、それでもそういうことが必要なので部内での研修は催されている。<犯罪被害者支援課>のスタッフの役目に研修講師というモノも在るのだ…

研修の講師を務めている村野の携帯電話がポケットの中で振動した。講師を務めている最中、電話に出る訳にも行かない。そう思いながら淡々と講師を続けていたが、3回目の振動を無視した後、研修会場の会議室に設置された電話が鳴り、村野は呼ばれた。「非常事態なので研修は打ち切って直ぐに…」という連絡だった…

“非常事態”とは「旅客機の墜落事故」だった。羽田空港から富山空港へ向かっていた旅客機が、富山空港で墜落してしまい、100名以上の負傷者と20名もの死者が発生したのだという。富山県警から警察庁を介して警視庁に支援要請が在り、事故関係者対応のために犯罪被害者支援課がとりあえず待機し、現場の富山へ向かうことになったのだ…

富山に乗り込んだ村野達…多くの死者が発生してしまった事故の遺族対応に努めていた。多くの死傷者を1箇所に収容出来ない状況で、富山市内の主な医療機関に関係者が分かれ、「在りがち…」な小さなトラブルの対応が続いていた…

そういう中で「妙な事態」が発生する…1人の死者に関して、乗客名簿に記載の氏名を辿り、遺族が見付けられなかった…それは“偽名”での搭乗であったのだが、その人物は半年程前に殺人の容疑で指名手配となり、行方を晦ましてしまっていた…

村野達は「指名手配容疑者」ではあっても、飽くまでも「遺族」ということで件の人物の家族に対応しようとする。指名手配ということになった殺人事件は、巧妙な毒殺が行われたという特異性によって注目された経過が在る。他方、「本当に手配された容疑者の犯行なのか?」という疑念も一部に在った…

そういう状況に対応する中、件の人物の家族は「行方を晦ましていた半年の様子が多少でも判れば…」と言い出し、村野は少しでも情報を集めようと奔走し始める…

やがて…様々な事件や、事故の犠牲者を巡って更に「妙な事態」も起こり始める…

こういう訳で、最後まで目が離せない感である。事態は二転三転する…同時に、村野の活動の過程で同じ作家の他のシリーズ、<失踪課>、<追跡捜査係>も関わり、それぞれの活躍も在る…そうやって明かされる「事の真相」とは?

ついつい夢中になり、瞬く間に読了に至ってしまった作品…とにかくお薦めだ!“シリーズ”ではあるが、当然ながら「独立した作品」として非常に愉しい。そして本作が気に入れば、シリーズの他作品にも親しめば好い…

『警察回りの夏』

↓少し暫らく振りとなったが、小説を愉しんだ。昼食や夕食を頂きながら、或いは食後にというような「何時もの調子…」で、“続き”が気になってドンドン読み進み、気付けば「素早く読了」であった…

警察回りの夏 (集英社文庫)



↑題名に在る「警察回り」とは「サツまわり」と読ませている。「警察回り」(サツまわり)というのは、報道業界の用語で、警察本部や警察署の記者クラブを拠点に取材活動をする記者達を指す用語のようだ。「何となく知られている」感じな表現かもしれない…本作は、そういう「警察回り」(サツまわり)という活動をしている記者が主要視点人物となっているが、何やら「とんでもない!?」事態が展開する…

物語の主な舞台となるのは、山梨県の甲府市である。盆地で、夏の暑さが異様なまでに厳しいことで知られる地域であるが、その甲府での8月の出来事が物語の顛末ということになる…

全国紙である<日本新報>(通称“新報”)の甲府支局に勤める記者の南康祐(みなみこうすけ)は、既に6年間も甲府支局に居て、新聞業界で「警察回り」(サツまわり)と呼ばれる担当を続けていた。各地の支局に居た同期入社の記者仲間は続々と本社の様々な部門に異動しており、何か「取り残された?」ような焦燥感の中、甲府の暑い夏を苦々しく思いながら日々を過ごしていた。

南が現在担当しているのは、なかなかにセンセーショナルに取り上げられている事件だった…

甲府市内のアパートで、5歳と3歳の姉妹が遺体で発見された。遺体を検分すれば、女児達は絞殺されていたことが判明した。遺体発見時に不在であった、離婚してしまって2人の女児を抱えていた24歳の母親について、行方がよく判らないまま時日が流れていたのだった…

この事件は「24歳の母親が2人の女児を殺害してしまって逃走?」と憶測され、地元の新聞やテレビに留まらず、東京からテレビのワイドショーや週刊誌等の取材陣も甲府の現場や、母親の実家の周辺に集まり、所謂“メディアスクラム”という状況が生じていた。そしてネット上でもこの一件を巡って様々な話題が飛び交っていた…

こうした中、「本社へ異動することに向け、社の上層部等に“アピール”となる“特ダネ”」を渇望していた南は取材活動を続けているが、「信頼に足る情報源」と考えていた県警幹部から或る情報を示唆される。

南は示唆を受けた情報を基に記事を書く。センセーショナルに取り上げられていた事件を巡る“特ダネ”ということになる筈であった。が、記事掲載の直ぐ後から、事態が妙な展開を見せ始めた…結果、南自身や“新報”は「危機」に陥る…

この「危機」の背後に何が在ったのか?南自身や“新報”がどうするのか?或いはどうなるのか?というのが本作の顛末である。更に「危機」の発端となって行く記事に関連する事件の顛末も明かされて行くこととなる…

単行本は2014年9月登場と「少し前」ながら、第1刷が今年の5月25日と「登場したばかりの文庫」で、未読の方が多いと思われるので、これ以上はストーリーの仔細には言及しないようにしたい…

本作は主要視点人物たる南の物語であるのだが、“新報”に象徴される「新聞という存在」、そして新聞に代表される「メディア」、メディアが扱う「情報」、情報が駆け巡っている「最近の社会」、その社会で暮らす「人々」というように「巨大な環」のようなモノが感じられる物語だ…

「メディアと情報」、「情報と社会」、「社会と人々」というように連なる“環”のようなモノの様相は、時代を追って少しずつ変わって、「現在の姿」が在るのかもしれない。そういう様相に関して、「多彩なシリーズを展開する作家」というイメージの他方で「新聞記者の経験を有している」という背景を持つ作者が“持論”のようなモノを展開している作品…本作はそういう側面が在るように感じられる。

当然ながら、本作は“サスペンス”な味付けのエンターテイメントだが、「意外に色々と考えさせられる」感じだ。お薦め!!

『潜る女』

↓現段階での、<アナザーフェイス>シリーズの最新作である…

潜る女 アナザーフェイス8 (文春文庫)



↑ゆっくりとした展開から、一気に事態が動くという、このシリーズや同じ作者の他作品でも在る感じなのだが…事態が意外な方向にドンドン転がり、最後まで目が離せない!

大友刑事は、捜査二課の要請で結婚詐欺事件関係者と見受けられる女性に関する情報収集を手伝うことになった。

件の女性というのは、元シンクロナイズドスイミング選手でスポーツジムのインストラクターをしているという人物だ。大友刑事は、一寸軽い営業マンが、何となく興味を持ってジムに体験入会という体裁を繕って、件の女性への接近を図ろうとする。

件の女性は、随分と多数の被害者が居る結婚詐欺の容疑者と一緒に居る場面が何度も目撃されており、「何らかの繋がり」が考えられるが、それが何かは不明である。そして、立件には至らなかったものの、件の女性には結婚詐欺の嫌疑が掛けられたという過去も在った。

大友刑事はこの女性に接触してみたものの、結婚詐欺事件やその容疑者との関係がなかなか判らずに居た。そうしていた中、本来所属の刑事総務課の業務として、久し振りに特捜本部を設置することとなった渋谷西署へ足を運ぶが、そこの事件が切っ掛けで、大友刑事が手伝っていた事件も大きく動き始める…

東京の酷く暑い夏を舞台に事態が進む…例によって少しずつ関係者達の関係が明らかになり、事態が或る時点からグングン動く感じだ…

それにしても…“結婚詐欺”のような、「人の気持ちを弄ぶ」というような犯罪…酷いものだと思う。そして本作では、そういう事案から思わぬ結果が…仔細は是非、本作を紐解いてみて頂きたい…

『愚者の連鎖』

↓大友刑事が活躍する<アナザーフェイス>シリーズ…愉しく読了した!

愚者の連鎖 アナザーフェイス 7 (文春文庫)



↑事件捜査の「埒が明かない」状態から始まり、次第に事件の謎が明かされ、思いも掛けない波紋が拡がる…

大友刑事は、取り調べの手伝いを頼まれ、川崎市との境界辺りの南太田署に足を運んだ。

町工場の事務室から手提げ金庫を盗み出し、駆け付けた警備会社の警備員に取り押さえられ、警察に引き渡されたという若者が容疑者だった。容疑事実は明らかだが、それを認めることも否定することもせず、犯行に至った経過や動機等も一切語らないという不思議な容疑者だった。

こういう容疑者を取り調べることになったが、大友刑事も流石に困ってしまった…そうしていると、どうしたものか事件を担当する検事が署に現れた。容疑者の態度が変わってはいるのだが、“重大事件”という程でもない。検事は逐一の情報提供を強力に要請している。異例な感じの状況だった。

話しを聴くにも材料が少ないと判断した大友刑事は、少し力を入れて容疑者の“周辺情報”を入手すべく活動を開始した。そして糸口を掴む…

今回の作品のタイトルだが、『愚者の連鎖』とは「問題の容疑者」の境遇を深く暗示している…また、前作で小学6年生だった大友刑事の息子である優斗は中学生になった。

人の人生には「些細な事」が切っ掛けで“嵌る”というような何かが横たわっているのかもしれない。そしてそういうモノが交錯し、何やら連鎖も生まれる…そんな事件に触れる大友刑事が、息子が話した小学校時代からの級友の様子に関して深く考える場面等も在るのだが…「普通な推理モノ、警察モノ」であると同時に「人生」を何となく考えさせる雰囲気が漂う作品だった…

『高速の罠』

↓シリーズの前作である『凍る炎』を愉しく読了し、同作の後日譚という性質も在る別シリーズの『刑事の絆』も読了しているが、それらの“続き”的な時系列の物語と知り、手にしてみた一冊だ。大変に愉しく読了した…

高速の罠 アナザーフェイス6 (文春文庫)



↑負傷が癒えつつあって、仕事への復帰を考える大友刑事が、思いも掛けない事件に巻き込まれ、或いは関わることになる物語だ…

物語は、大友刑事の息子で、4月から小学6年生になる優斗―大友刑事はシングルファーザーとして、色々と考え、悩みながら息子と接しているが、作中ではなかなかに“良い子”で健気である…―が不慣れな高速バスに乗車している様子から起こされる…車中で開いていた学習塾の課題を眼に留めた隣席の青年に話し掛けられていた…

大友刑事は出身地の長野県佐久市に在った。高校生まで過ごした故郷の街で、元教員の父や母も住んでいる。大友刑事は同級生達と集まって“同窓会”ということで歓談中だった。大友刑事は、色々と在って心配も掛けた両親を訪ねていて、後から息子の優斗がやって来る運びだった。義母の聖子が新宿に在る乗場へ送り届け、優斗は高速バスで佐久を目指していた。大友刑事は同窓会の後に駅前のバス停に迎えに行くことにしていたのだ。

“同窓会”が散会になり、大友刑事は幹事役だった村上とラーメン店に入り、「一目会いたい」と長野市内から車でやって来る、長野県警勤務の同級生である高木と会っていた。そこで携帯電話が鳴った。都内の固定電話からの発信だったが、電話の相手はバス会社の社員だった。佐久へ向かっていた高速バスに乗車していた優斗が、新宿・佐久間で途中1回の休憩停車をする寄居(埼玉県西北の長野県への経路に在る…)で行方不明になってしまったのだという。大友刑事は高木が乗って来た車を借りて、急遽寄居へ走った…

やがて大友刑事は妙な話しを聞く。優斗が乗っていた高速バスは、佐久市内の一般道へ入ろうとする辺りで事故を起こし、車体が横転して多数の負傷者が発生しているというのだ…

息子の行方不明に、乗っていたバスの事故…不審な事態に大友刑事は動揺しながらも事件に向き合うこととなる…そして、事態は意外な展開を見せて行く…

高速バスを巡る事件の展開に、息子の成長に向き合いながら、自身の負傷からの復帰等のことを想う人生模様が絡み、頁を繰る手が停まらなくなってしまう…同情に値するような動機を有しつつも、決して許されない犯行に手を染める者達…大友刑事が彼らを追う…

非常に楽しめた作品で、多くの皆さんにお勧めしたい!!

『凍る炎』

複数のシリーズを手掛ける作家の中には、あるシリーズの作品に別なシリーズの作中人物を登場させるということをする方が在る。そういう感じの“創り方”で、「愉しんでいるシリーズ作品の“存在感が大きなゲスト的作中人物”となっている別シリーズの作中人物」に出逢い、別シリーズに親しんでいなくても、その人物をよく知っているかのように錯覚する場合が在る…

↓<追跡捜査係>というシリーズを愉しんでいて、<アナザーフェイス>というシリーズの主人公である大友刑事が登場した…<アナザーフェイス>シリーズは未読だったのだが、何となく大友刑事に関しては「既知の作中人物」と錯覚していた…そこで<アナザーフェイス>シリーズにも親しもうと手にしたのが、この作品だ…

凍る炎 アナザーフェイス5 (文春文庫)



↑『刑事の絆』という<追跡捜査係>シリーズの作品では、<アナザーフェイス>シリーズの大友刑事が襲撃されて重傷を負ってしまった一件の捜査が行われるのだったが…その襲われてしまった一件に至るまでの顛末が綴られるのが、この『凍る炎』である。或いは、『刑事の絆』が“下巻”で、『凍る炎』は“上巻”という感じがしないでもない…

『凍る炎』の物語は…厳重なセキュリティーの研究所で、中原という男が襲撃されて絶命するという“序”というような部分の後、大友刑事が同期の仲間でもある柴刑事と一緒に、或るビルで張り込みをしている場面から起こされる…

大友刑事は、妻と死別してしまっていて、現在は小学5年生の息子を抱えるシングルファーザーだ。子育て等と仕事の両立を目指し、義母が居る町田のマンションに息子と2人で住んでいて、或る程度規則的な出勤体制を護り易い警視庁の刑事総務課に籍を置いている。刑事総務課の仕事は事務作業のようなモノが多いのだが、大友刑事は捜査一課で将来を嘱望されていた才能豊かな捜査員でもあった。そこで、上層部の“特命”で、時々方々の捜査現場に駆り出されるのである。その、方々の現場に駆り出されての動き、活躍が描かれるのが<アナザーフェイス>シリーズだ…

大友刑事が柴刑事と張り込んでいるビルには宝石店が入居していて、窃盗団の大胆な襲撃が在るというタレコミが在り、現場を警戒することになったのだ…本当にそんな襲撃が在るのかと大友刑事が訝しく思い始めたような頃…事件は発生した…

その張り込みを手伝ったビルでの事件でヘトヘトになった早朝、大友刑事はまた連絡を受けた。厳重なセキュリティーの研究所で、“密室”のような状況下、研究員の中原という男が遺体で発見されたのだという。直ぐにその現場を手伝うということになった。

厳重なセキュリティーの研究所では新エネルギーの研究が手掛けられていたのだったが、殺害された中原が手掛けていたのはメタンハイグレードの掘削技術だった…日本を含む様々な国々の“資源戦略”に大いに影響しそうだという機密事項を手掛けていたのだ…

少し妙な事件が幾つか重なり、やがて外国人達も関与する謀略のようなモノが進行中で、更に事件が重なって行く…一寸「停まらない」という状況で読み進んでしまった…

この『凍る炎』の顛末の後の出来事が、別シリーズである<追跡捜査係>の『刑事の絆』で描かれるが…<追跡捜査係>シリーズの沖田刑事は、本作に一寸出演している。大友刑事が思い出す「顔が広そうな仲間」ということで沖田刑事と連絡を取り、沖田刑事が要請を快諾して協力するのである…

それにしても『凍る炎』という題名自体がメタンハイグレードを思わせる感じだ。そして、なかなかに注目されている存在のモノなのだが…それを巡っての色々が背景に在って、余りにも意外な型で展開する顛末は非常に面白い!

↓本作は、この作品とセットで愉しむのが好いかもしれない…
>>『刑事の絆』

『交錯』

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第1作であるという本作…シリーズの2人の主人公ということになる沖田刑事と西川刑事が“初登場”した作品で、なかなかに愉しい!!表紙イラストは、2人の刑事達をイメージした感じであろう…

交錯―警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)



↑或いは“邪道”なのかもしれないが、偶々出逢った第7作が愉しかったことから、「7→6→5→4→3→2」と“逆順”でドンドン読み進め、第1作に至った次第である…(そう言えば少し前、“追跡捜査係”と同じ作者による“犯罪被害者支援課”というシリーズも、偶々出逢った第3作が愉しかったので、「3→2→1」と読み進めた経過が在った…)

現在、実際に警察には所謂“コールドケース”担当という任務に就く捜査グループが設けられているというが、本作が初登場した頃には、所謂“コールドケース”担当自体が“架空”であった。そこで「捜査活動が継続している事案であれ、事件発生からの期間がどうであれ、“手詰まり”と見受けられる事案に関して色々と検討をしながら、自由裁量で活動する小さな所帯の係」という、この“追跡捜査係”が設定された。そして、実際に警察に大きな機構である所謂“コールドケース”担当という任務に就く捜査グループが登場した後も、この係は存続している設定でシリーズは続いている…

本作は、シリーズの以降の作品でも繰り返し出て来る2人の主人公ということになる沖田刑事と西川刑事の“特色”が、“初登場”の故に詳しく描き込まれている。そして、以降の作品にも顔を出す西川刑事の家族も登場する他、以降の作品で「交際の行方」が出て来る女性と沖田刑事が知り合う切っ掛けとなる出来事も在る…結果的に「以降の作品」を読んでも、「以前に何が?」と思いながら楽しみに第1作に接することが出来たと思う…結局“各話完結”で巧く纏まり、無用に“承前”が多過ぎない、「好いシリーズ」なのだと思う。

本作の物語は、沖田刑事が「偶々居合わせた人が携帯で動画撮影してしまった凶悪事件の映像」を観て想いを巡らせるような辺りから起こされる…

沖田刑事が映像を観ていた凶悪事件は、日曜日の西新宿で発生していた事件だった。

「誰でもいいから…」と街で刃物を振るい、3人を瞬く間に殺害してしまった男が居た。その男が「4人目の犠牲者」になってしまっていたかもしれない12歳の少年に襲い掛かった時、或る人物がその場に駆け込み、刃物で少年を襲う男の首を刺してしまった。男の凶行は阻止された。男は意識不明のままとなっている。凶行を阻止した人物は、その場から立ち去って行方も正体も判らないが、“名無し”という通称で呼ばれ、一部に英雄視されていた。

沖田刑事が観ていた映像では、少年に襲い掛かった男、飛び込んだ人物が刃物で首を刺し、男の動きを停めた場面が映ってはいるのだが、件の人物の足元の方しか映っていなかった。人物を特定することが困難なのだ。

捜査本部は、意識不明の容疑者が病院に居て、正体が判らない人物が凶行の継続を阻止したという状態のままで行き詰っていた。“追跡捜査係”に「容疑者を刺して姿を消した人物」を探す役目が廻って来て、沖田刑事がそれに取組もうとしているのだ…

他方…考え事をしていた沖田刑事の間近のデスクに陣取っていて、「ガムの捨て方が雑だから、清掃の人が一寸困っていた…」と小言を口にしながら登場した西川刑事…彼は捜査が手詰まりになった強盗事件に関する検討をしているところだった…

青山の老舗宝飾店で、人通りが最も少ない早朝の時間帯に建物脇の窓から侵入した一団が高級時計ばかりを狙って盗み出し、駆け付けた警備員に抵抗し、警備員が軽い怪我を負ったことから「強盗事件」として捜査されていた事案である。

西川刑事は、「記録の行間に隠れた失敗、顧みられなかった証拠、突っ込み切れなかった証言」というようなモノを徹底的に探し出すという人物だ。とにかくも現場に出ようとする沖田刑事に対して、西川刑事は1日の大半をオフィスでの調書検討等に当てている。2人の刑事は「同期の仲間」でもあるが、捜査活動のやり方が全く異なり、そういうことを互いに言い合うなどして、直ぐに争いのような感じになってしまい、周囲は困惑する。

この西川刑事は、盗まれた高級時計のリストを検証し、各々の時計に付されたシリアルナンバーの記載が曖昧なモノが混在している事実に注目する。そこから、驚くべき事実が続々と出て来る…

他方、沖田刑事は酷い心の傷を負ってしまった、凶行の「4人目の犠牲者」になるかもしれなかった少年の証言を何とか得ようと考え、苦戦をしている。同時に意識不明の容疑者の様子を気に掛ける中、容疑者が負っている傷に関して、医師が「変わった形状の刃物?」としていることに注目するに至った。

「仲が好い」とは言い悪い沖田刑事と西川刑事だが、沖田刑事が趣味性の高い高級時計に興味を持っていて、自身も機械式のやや高価な腕時計を大切に愛用しているなど、関係事項に詳しいことから、2人はそこを切っ掛けに共に行動を始めることになった。「普通の公務員」として妻子が在って、住宅ローンを抱え、時計というようなモノは「普通に精確に時刻が見られれば充分」とクォーツ式電波時計しか持たない西川刑事は、盗品の高級時計に関してよく理解出来なかったのだが、沖田刑事は酷く詳しかったのだ…

こうして協力するようになって色々な事が明らかになって行くと、一見無関係な2人が各々に手掛けていた事件に「意外に過ぎる接点」が在ったことが示唆される…2人の捜査が「交錯」するのだ…

結局、“邪道”なのかもしれない「7→6→5→4→3→2→1」と“逆順”だったが、現時点で出ている「追跡捜査係」シリーズの各作品を一気に全部、夢中で読了した型になった。

このシリーズには何か「夢中にさせるモノ」が在る…結局、沖田刑事や西川刑事が互いに「アイツと俺とは違う!」と言い合う他方で、「各々の流儀」を腹の底で認め合っていて、そこから生まれるエネルギーで事態が前進するという状況が痛快なのだと思う。何処の世界でも、殊に我が国に在っては“等質化圧力”のようなモノが強めで、「各々が出来るように物事に向き合う」というようなことがし悪いかもしれない。そうした中、如何にも「刑事さん」という風な沖田刑事や、「警察以外の官庁や民間会社でも出逢いそう…」な雰囲気の西川刑事が、各々の持ち味を主張している訳で、そこが面白い。

如何にも「刑事さん」という風貌で、どちらかと言えば“強面”な沖田刑事は、実は非常に情に厚い男だと思う。そして、何事にも真摯だ。だから思ったことが即座に口から出るような一面も在る…「婚期を逸して…」と自嘲している面も在るが、幸せになって欲しい作中人物だ…

「警察以外の官庁や民間会社でも出逢いそう…」な雰囲気の西川刑事は、実は非常に熱い男だ。事務職のような勤務態度、クールな物腰の裏で、「妙な事件で悔しい想いや哀しい想いを抱く人達のために、“見逃した事”を調べ上げて何とかするのだ」という執念を秘めている。もっと活躍して欲しい作中人物だ…

とにかくも「好いシリーズ」に出くわした。何れ続篇が登場すれば、きっと手にすることであろう…

『策謀』

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第2作であるという本作…なかなかに重い感じがしたが…愉しく読了した…

策謀  (警視庁追跡捜査係)



↑発生時に捜査現場が混乱してしまったような経過が在る2つの事件を、西川刑事と沖田刑事がそれぞれに追う…そして余りにも意外な接点が見付かり、事態が一気に動く…

物語は、情報が寄せられたことを受けて西川刑事が動き始めるという辺りから起こる。

5年前に発生した未解決事件の容疑者は、逮捕状が出る頃には国外へ出てしまっていて、行方がよく判らなかった。その容疑者である船田は、渋谷で発生した殺人の容疑が掛けられていた。繁華街の外れの歩道で、花壇の縁の壊れていたタイルで、無職の若い男が滅多打ちにされて惨殺されてしまっていた事件で、血痕も在って凶器と特定されたタイルから船田の指紋が検出されていたのだった…

その船田が、5年間も国外に居て、どうしたものか韓国から成田空港に着く飛行機に乗るらしいと判り、西川刑事は渋谷署員達、応援の千葉県警の捜査員と共に成田空港に乗り込み、船田の身柄を確保した…

他方、沖田刑事が手掛けるのは、5年前に発生していた放火事件だった。5階建てで飲食店等が入ったやや古かったビルが焼け落ちてしまっていた。最上階にビルのオーナーだった小森の事務室が在り、そのフロアに在った小部屋から出火で炎や煙が下の階に廻ってしまった。事務室で眠っていたらしい小森と、テナントのカラオケ店の客等、15名もの犠牲者が発生し、焼けたビルは取り壊しもままならない無残な姿を晒している…

この放火事件の火災で大騒ぎになっていたような中で、船田に容疑が掛けられている殺人事件が発生し、渋谷署は困難な対応を迫られた…そうした状況も、捜査の空回りに関連しているかもしれない状況であった…そして年月が流れ、捜査本部は規模を縮小し、同時に捜査員の異動も繰り返されていて、事件は不明朗なモノになってしまっていたのだ…

沖田刑事は地元を盛んに回り、関係者の証言を執念深く拾っていた。焼けたビルの他、幾つかのビルを管理していた小森が営んでいた会社は、小森の死後に解散し、不動産も粗方処分してしまっていて、社員達は各々の職を得る等していた。その社員達の中、1人だけ連絡先が何時の間にか判らなくなってしまっている人物が在った。本間というその男は転居したようなのだが、住民票は旧住所のままになっている。沖田刑事は本間を求めて、探り当てた交際相手だった女性を訪ねて大阪に出向く…

船田という容疑者は、代議士の秘書を務めていた人物で、粗暴な犯罪を犯すような人物には見えない。西川刑事の取り調べに理詰めで反論する。5年間も国外に逃げのびていて、どういう理由で逮捕の危険を冒して帰国したのか、事情が全く判らない。そして、船田は自身が犯行には無関係であると主張し続けている…

2つの未解決事件…これが不思議な「絡まり」を見せるようになり、次第に「事の真相」が明らかになって行く…

このエピソードには、以降の各作品で追跡捜査係の若手刑事として活動する女性の三井刑事、更に渋谷署の刑事として現れる庄田刑事が登場している。彼らの活躍も面白い。

刑事達は、活動を通じて事件に関わった人達の「様々な人生」を見詰めることになる。沖田刑事や西川刑事が見詰めた関係者達の人生…それが何処となく「重い感じ」で、少し考えさせられた…

本作は、所謂“コールドケース”担当ということになる刑事達が活躍する物語「らしい」雰囲気に溢れている。本作、そしてシリーズの他の作品にも共通するが、個人的には作中に在る「街の感じの描写」が気に入っている。本作では、かなり御無沙汰している渋谷や、少し前に訪ねた大阪が出て来るのだが、何か「凄く判る…」というように思った。殊に沖田刑事の目線―「一寸立寄った」という視点…―で綴られる大阪の感じは、「判るなぁ…」と思いながら愉しんでいた…

結局…極最近に登場の第7作を手にして気に入ったことから、「7→6→5…」と読み続け第2作まで読了した…残すは第1作だ…

『謀略』

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第3作であるという本作…少々夢中になって読了した…

謀略 警視庁追跡捜査係 (角川春樹事務所 ハルキ文庫)



↑表紙イラストには、事件現場に佇む刑事の脚が視え、手前に女性の靴の片方が転がっている。こういうような状態の事件が、どのように展開するかという物語である…

物語は、若い女性が何者かに襲撃されてしまう場面のプロローグが入るのだが、追跡捜査係が芝浦署に設置された特捜本部で扱う事件の捜査に入るという辺りから起こされる…

芝浦署管内で発生した事件の捜査に追跡捜査係が加わることになり、西川刑事は膨大な調書を読み込んで、この時点までの動きを頭の中で構成して問題点を洗い出そうとしているのだが、傍らの沖田刑事は「とりあえず現場を視たい…」と言い出して身が入らない様子である。与えられたスペースは、“小会議室”とは言うものの、何やら清掃用具等を置いている物置のような場所で、特捜本部がピリピリしている雰囲気が滲んでいる…

事件は半年程度前のモノであった。マンション等の並ぶ地区の、運河沿いの小径で若い女性会社員が襲撃されて殺害されてしまった。事件の1ヶ月後、同じような手口で、似たような年恰好の若い女性会社員が襲撃され、殺害されている。

事件は“連続通り魔”と看做されており、捜査が継続しているのだが、成果が挙がっていない。西川刑事は「“通り魔事件”ではない可能性」を想い、沖田刑事は「“通り魔”の可能性を完全に排除は出来ないが、他の種類の事件である可能性も認められる」という立場をそれぞれ取る。

追跡捜査係の活動には、異動で係に加わって日が浅い女性の三井刑事、庄田刑事も加わる。この三井刑事と庄田刑事は同期なのだが、何やら何時も三井が庄田に食って掛かり、相性が悪い。西川刑事と沖田刑事は先輩としてやや頭が痛いのだが、2人はそれぞれに活躍する。

“連続通り魔”と目された事件の真相は?そして題名の“謀略”とはどういうモノなのか?容疑者確保に至るまで、目が離せない…

二転三転しながら進む展開で、読んでいて停まらなくなってしまい、深夜や早朝にも気になってページを繰り続けてしまい、早朝の妙な時間帯に読了したという状態だ…面白いシリーズである!!

『標的の男』

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第4作であるという本作…なかなかに愉しく読了した…

標的の男 (ハルキ文庫 と)



↑今回は沖田刑事がアクシデントで動き悪くなってしまい、西川刑事が走り回るという場面が多目になっている…シリーズならではの、「何時もの役回りを少し変える」演出が施されているが、なかなかに面白かった。

物語は、ある男が押し入った民家で住人を刃物で刺してしまい、血が流れ出る中でパトカーがやって来る様子を知って慌てて逃げ出すという場面から始まり…数年を経た刑事達の活動の場面に移って起こる…

服役中の若い男、村松は或る重大な事実を証言した。バイトが一緒だった熊井という男が「人を殺してしまったことがある」と話していたことがあるというのだ。この証言の細かい内容が、未解決になっていた不動産業を営んでいた老人が押し込まれた何者かに刺殺された一件に合致するということになり、捜査班はこの熊井の確保を目指して行動を起こす。そして追跡捜査係も捜査に参加することになった。

冷え込む夜、熊井のアパートを捜査員達が監視していた。熊井の住まいは、幾つもの地下鉄路線の駅からアクセス可能なアパートで、各方向から自宅を目指すことが出来る経路に捜査員達が陣取って熊井を監視し、身柄を確保することが目論まれた。沖田刑事は寒さに耐えながら監視網に参加していたが…塀に上がって住まいの出入口の様子を窺おうとした際、捜査員に半ば囲まれたことに気付いて逃走を始めた熊井と出くわし、塀から転落してしまった。その際に右足を骨折してしまったのだ…そして熊井は姿を眩ませてしまった…

追跡捜査係のメンバーに失敗が責められるような雰囲気の中、西川刑事を先頭に、残ったメンバーは必死に聞き込み捜査を続ける。他方、西川刑事が届けた資料を、沖田刑事は病院で読み漁ることになる…

やがて見落とされていた熊井の関係者が見付かり、他方で最初の捜査の資料に在った「不自然な点」に光が当たり、二転三転しながら事の真相が明らかになって行く…

「或る証言から捜査が活性化し…」という感じで幕が開く、或いは非常に“コールドケース”らしい感じの展開だ…そして、物凄く仲間意識が高いという風でもない雰囲気の追跡捜査係の面々だが、各々の持ち味を活かし、負傷して動き悪い沖田刑事が欠ける状況を補いながら前進する。そして沖田刑事は、負傷が完治しない状態を押して現場に出て、重要な証言を集め、謎が多かった、或いは次第に膨らんだ謎の回答を引き出すヒントを掴み取る…

本作は、なかなか面倒な「事の真相」が、追跡捜査係の面々の奮戦で少しずつ明かされるプロセス、最初の方の不面目を取り返すという展開が非常に面白く、少し夢中になってしまった…

『刑事の絆』

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第5作であるという本作…なかなかに愉しく読了した…

刑事の絆 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫 と 5-5)



↑本作は、「捜査が少々滞ったような事案に新たなヒントが見付かって…」というような事案ではなく、発生したばかりに事案に関連して、しかも「熱い想い」を胸に飽きた刑事や西川刑事が奔走するというストーリーになっている…

物語は、オフィスで電話を取った西川刑事が思わず声を張り上げ、その内容に驚いた沖田刑事がジリジリとその内容を気に掛けているというような描写から起こされている。

沖田刑事が同僚として同じ係で仕事をしていた経過の在る、更に西川刑事もよく知っている大友刑事が拳銃で撃たれてしまうという事件が発生した。

沖田刑事は、大友の一件で居ても立っても居られない状態で、現場となった日比谷公園―警視庁の庁舎の直ぐ傍…―に駆け出し、大友が収容された病院をも訪ね、沖田刑事と似たような想いで駆け付けた警察関係者が大勢居たことに驚いた。

大友刑事は少し“変り種”だった。大変に優秀な刑事で、面倒な関係者から巧みに聴取を行うような男として部内では知られていたのだが、妻が他界してしまい、小学生の息子が在ることから、決まった勤務時間が無いような感の捜査一課等での勤務を避け、希望して刑事総務課に異動した。が、上層部からの指示で、幾つもの事件に補助として捜査参加し、解決の鍵となる動きを見せて活躍していた。

追跡捜査係は、或る程度随意に捜査を手掛ける事案を選ぶことも出来ることから、沖田刑事や西川刑事は、大友の一件を調べようと動き始める…

大友が関わった経過の在る事案の中、関係者が怨恨を抱いている可能性が在りそうなモノを当たってみることから着手してはみたのだが…

と、二転三転しながら彼らは大友を狙う人物を探り出し、対決することになって行く…

行きつ戻りつで事態が動き、次第に事の真相が明らかになって行く様子が、なかなかに夢中になってしまう…

『暗い穴』

愉しく読んだ作品が“シリーズ”だと知ると、他作品も読んでみたくなるものだ…

警視庁の捜査一課に付属していると設定される“追跡捜査係”は、所謂“コールドケース”担当という感じだ。主な視点人物として、この係で活動する沖田刑事、西川刑事という少し対照的な感じの刑事達が設定されているシリーズである…

↓「追跡捜査係」シリーズの第6作であるという本作…なかなかに愉しく読了した…

暗い穴―警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)



↑不可解な事態の中、一つの手掛かりが突破口になり、ドンドンと驚くべき事の真相が明かされて行く…頁を繰る手が停まり悪くなってしまう作品だ…

物語は、「何でここにいるんだ?」という西川刑事の台詞で始まる。個人的な用事のため、休暇を取得して出掛けることになっていた沖田刑事が、どういう訳かオフィスに現れてしまうという、8月後半の或る日の朝…特段に立て込んでいる訳でもない“追跡捜査係”の日常という、少しコミカルな場面から始まっている。

そういう彼らの日常が一転する。沖田刑事が予定どおりに出掛けて少し経った頃、追跡捜査係に急報が入った…

追跡捜査係が逮捕に協力した、暴行致傷等を繰り返していた容疑者の相澤が、「女性の遺体を埋めた」と供述しているのだという。埋めたという場所は、東京都下では「島嶼を除く唯一の村」ということになる、東京都の西端側の檜原村の林であるという。

追跡捜査係も、この遺体の調査に駆り出される。炎暑の中での作業で、女性の遺体は発見された。が、容疑者の相澤が言うとおりに遺体が見付かった場所の直ぐ脇に、もう一つの遺体が発見された。2体ということになってしまった…

檜原村辺りを管轄するあきる野署に捜査本部が設けられ、2つの遺体を巡る捜査が行われることとなり、追跡捜査係も捜査に加わることとなった。

2つの遺体は何れも身元不明であった。容疑者の相澤は、女性に暴力を振るう犯罪を繰り返していた男であることから、或いは殺害に至ってしまい、それを埋めたと考えられたが、相澤は「殺していない」を繰り返し、頑なに事情を明かさない。そして遺体の身元特定も難航する…

やがて、思いも掛けずに遺体の1つの身元特定につながりそうな発見が在り、事態が動き始めた。想像し悪かった人間関係等が明らかにされ、相澤の態度の背景も判るようになって行く…

手掛かりと思えば空振りで、思いも掛けない型で手掛かりが出て、そして空振りと思われたモノがまた出て…となかなかに面白い展開だが、「不穏な感じ」が続く「不気味な事件」の物語でもある…

物語の舞台になる檜原村…“東京”と聞いて思い浮かぶような場所を大きく離れた、人口が少ない県の山村のような、かなり独特なムードの地域だ…「不穏な感じ」が続く中、「ホッとする場面」として、難航する取調べを進め、あきる野署に泊まり込んだ西川刑事が帰宅して妻と言葉を交わす場面が在る。西川刑事の妻が、檜原村辺りに関して、結婚前にドライブに出たことが在った地域であることを言い出す。その描写によれば、檜原村方面は非常に美しい場所であるようだ。ただ、西川刑事が言うように、愉しいドライブは結構ながら、おかしな事件の捜査のような、面倒な仕事で行くのは願い下げということになるようだが…東京周辺の感覚では、「非常にアクセスし悪い」という場所であるようだ…

猛暑の時季に発覚する怪異な状況…地道な捜査活動を積み上げて、絡み合う事態を少しずつ解き明かす…そういう雰囲気を大いに楽しんだ!

『報い』

↓副題に「警視庁追跡捜査係」と在る。所謂「“コールドケース”の担当」である。未解決のままになってしまっている事件の解決に奔走する人達の物語だ…「捜査一課に付属する」と設定される“追跡調査係”は、架空の部署らしいが…

報い―警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)



↑何となく書店で視掛けて手にしたが…これは少し続いているシリーズの最新作だった…が、いきなり本作を読んでみたが、なかなかに愉しかった。

本作は「主な視点人物」として、2人の刑事が設定されている…何れも40歳代に入った感じの男達だ…

沖田刑事…追跡捜査係では、先頭を切って現場に出て行く熱血漢である。とにかく現場に斬り込んで、“足”で情報を得て事件の解決を目指す男だ。結婚を考えている交際中の女性が在るが、独身である。

西川刑事…追跡捜査係が手を掛けることになった過去の事件の捜査記録や証拠を徹底的に検め、疑問点を整理して、理詰めで事件解決を目指す男だ。沖田とは同期の仲間でもあるが、仕事の進め方の傾向は全然違う。妻が淹れるブレンドコーヒーをポットに入れてオフィスに持ち込むことを好んでいる。妻帯者で息子が居る。

こういう2人と、周りの刑事達や沖田や西川が少々頼りないと感じているような係長の鳩山が事件解明に挑む物語である。

本作の物語…沖田刑事が新幹線で宇都宮を目指す場面から起こる…

闘病生活の末に他界してしまった男が、毎日熱心に綴っていたという日記のノートが警察に届けられた。中に「気になる記述」が在るのだという…

その「気になる記述」というのは、2年前に発生した未解決になっている強盗致死事件の当日の記述で、日記を綴っていた男が外出先から帰宅しようとしていた際、血液と視られるモノが付着した状態で血相を変えて去って行く男と擦れ違ったというのだ。そして、特徴的な男の風貌に関しても言及が在った…

日記に在った記述から、混雑する電車等でスリを働く常習犯だった男が浮かび上がった。追跡捜査係に来る以前に盗犯の捜査を担当していた経過が在る、係長の鳩山も知っているという男だった。58歳になっているという本人は、服役して出所した後、父親の介護ということで、数年前から故郷の宇都宮に居るということが判った…

沖田刑事は、若い庄田刑事と女性の三井刑事を伴い、問題の男を見出すべく宇都宮へ向かうこととなったのだ…

宇都宮では、地元の宇都宮署の協力を仰ぎ、早速に問題の男を探したが…近所の公園で発見された男は重傷を負っていて、やがて死亡してしまった…

他方…妻の父親が逝去し、忌引で休んでいた西川は仕事に戻ったところだったが、沖田達が宇都宮に出向いた一件には最初から関わっていた訳でもなかった。そこで、別な事件、7年前に発生して未解決になっている強盗致死事件の資料を検討しているところだった…そうした中、沖田達が追った男の不審な殺害の報を受けるのだが、西川の中に「妙なこと」が湧き上がる…

過去の事件に着手した辺りで、次々と色々な事態が発生して翻弄される…追跡捜査係の面々は、事件の真相に近付くことが適うであろうか?

という物語…“真犯人”に翻弄され続け、危険な目に遭う刑事も居て、頁を繰る手が停まらなくなってしまった…

本作の作者は“警察モノ”の色々なシリーズを手掛けているのだが、「他のシリーズの作中人物」が一寸顔を出すという“サービス”も在る…「あっ!?」という場面が在った…

とりあえず、非常に面白いシリーズに出くわした!!

『内通者』

↓“謎解き”的な“警察モノ”という面白さと併せて、「主人公と家族の物語」という味わいも深く、読後に深い余韻が残る作品であると思う。

内通者 (朝日文庫)



↑「意表を突く展開」が続き、一度紐解き始めると、頁を繰る手が停め悪くなってしまう…

物語の主な視点人物は2人設定されている。千葉県警本部の捜査二課で係長を務める結城刑事と、その娘の若葉である。若葉は二十歳の大学生で、東京に在る大学で学んでいるが、千葉市内の結城宅から通い悪い―電車を乗り継いで2時間前後も掛ってしまう…―場所なので、マンションに一人暮らしである。

物語は、結城刑事の地道な捜査活動の様子から起こる。

捜査二課が扱う事件に“汚職”が在る。結城刑事達の係では、千葉県が手掛ける防災関連の大型土木工事に関して、県庁の部長と、その中学時代の同級生でもある地元建設会社の役員が贈収賄をしているらしいとの情報を得ていて、問題の県庁の部長や建設会社役員の行動を観察し続けているのだ…

結城刑事には小学校の教員をしている妻が居て、娘の若葉が大学に進学して一人暮らしをしているので、現在は二人暮らしだ。家事全般は妻が非常によくやっている。有り勝ちなことながら、娘の若葉とは多少距離感が在るように感じている。他方、妻は娘と何でも話し合っているような感だ…

“汚職”というようなことは「密室の犯罪」であって、“内通者”が情報、或いはその断片でも寄せるのでもなければ警察が捜査をして犯罪を立証するには至り悪い。今般は、建設会社の社員がその“内通者”だった。

“内通者”となった建設会社の社員である椎名は、結城刑事達の過去の経験に照らすと、少し変わった事情の人物だった。30歳と若い。先代社長に取り立てられて係長として活躍していたが、二代目社長に個人的に逆恨みされるような経過が在って、左遷、冷遇、減給―小説の中ならともかく、実際にこういうことが在るなら、かなり酷い…―という羽目になってしまっていて、場合によっては会社そのものがおかしくなってしまう事案の告発に踏み切った訳である…

この椎名による情報は精確で、結城刑事達はそれに依拠して捜査活動をしている。椎名との接触は、係で一番のベテランである花岡刑事に任されていた。椎名という人物は、個人的なことは殆ど明かさないという、やや変わった一面も在る人物ということだった。

こうして捜査活動に勤しむ中、結城刑事の家族に異変が生じた…

本作は、こういうように結城刑事が手掛けている事件の意外な進展や、個人的な事情、更に思いも掛けないような事態の発生と、なかなかに目が離せない物語である。

結城刑事は、個人の事情も絡まる思わぬ展開の中で事態の解決に邁進する。部下ながらも同期の友人という、公私に亘って彼を助ける長須刑事や、係の指揮を執る結城刑事も一目置く、“職人”風なベテランの花岡刑事等、周辺の作中人物も魅力的だ…

そして結城刑事の娘の若葉…結城家に起こった思いもよらない事態に困惑し、それを乗り越えようとしていた最中に、想像だにしなかった事態に巻き込まれる。が、彼女なりの強さを発揮して困難を乗り越える…

本作は結城刑事の係が困難な捜査に臨み、悪意を持つ者に翻弄される場面を差し挟みながらも事件解決を目指す“警察モノ”であるが、同時に「難局に臨む羽目に陥った結城父娘」の物語だ。非常に面白い!!

『壊れる心』

“警察”と言えば、殊に“警察小説”等ということになれば、「発生した事件の情報や証拠を集め、容疑者を特定し、探し出して逮捕する」という、“捜査員”が活躍する世界を真っ先に連想するが、警察の機構の中には色々な事を担当している色々な人達の活躍が在る…最近愉しんでいる小説の中にも、その「“捜査員”以外の警察官」が中心になっていて、なかなかに面白いモノが幾つか在る…

↓本作は、犯罪の被害者になってしまった人達をサポートする仕事を担うという<警視庁犯罪被害者支援課>という部署の警察官が主人公となっている。「やや異色?」な感じもする物語である…頁を繰り始めると「つづき」が凄く気になってしまい、素早く読了に至った…

壊れる心 警視庁犯罪被害者支援課 (講談社文庫)



↑実は本作はシリーズの1作目なのだが…自身は、最初に3作目、次に2作目と“逆順”に読み進める型となった…主人公と一緒に仕事をする若い女性警察官の描写に関して、シリーズを重ねる毎に「頼れる仲間」になって行くのだが、それを“逆順”で視るのはやや不具合とも言えるが、主人公は1作目から3作目まで、或る程度変わらずに活動を続けている人物で、“逆順”は余り気にならなかった…

本作の物語…妊娠中で、もう少しで産休に入ろうという女性会社員が、自宅マンション近くの小学校に程近い辺りで、通勤に使う地下鉄の駅へ歩いている場面から起こされる。不妊の相談や治療も必要かもしれないと思い始めたようになって授かった子を間も無く産むことになる女性は、元気よく挨拶を交わしながら登校する小学校の児童達を微笑ましいと思いながら見詰め、何年か先にはお腹の子も小学校に通うようになる様子を思い描いていた。そこに…「危ない!!」という事態が起こってしまった…

そして主人公の村野秋生が登場する。<警視庁犯罪被害者支援課>に勤務している警察官だ。ここから先は、この村野の一人称の語りがベースになった綴り方で物語が進んで行く…

村野はルーティンのようになっている行動パターンで警視庁に出勤し、課内で行う定例の打合せに臨んでいたが、そこに連絡が入る。豊洲の小学校の傍、通学路に相当する場所で歩道に乗用車が突っ込んだ。小学生の児童や通勤で歩いていた会社員等に死者が発生しているという。村野を含む犯罪被害者支援課の面々は急いで現場へ向かう…

村野は同僚の松木優里と共に、事故現場の様子を視てから、現場を管轄する江東署に入った。江東署では、既に到着している課の同僚達も在ったが、大変な騒ぎになっていた。そして死者が収容された病院に、遺族が駆け付けることになるとして、村野は江東署の支援担当者である安藤梓を伴って向かった。安藤梓は刑事課に配属されたばかりの若い女性警察官で、犯罪被害者対応の支援員という役目に就いて日が浅く、この案件が「初めての実務」だった…

病院で判明したのは、小学校に通っていた児童3名、男性サラリーマン、そして妊娠中の女性が死亡してしまったということだった。計5名、女性のお腹の子も数えると6名の犠牲である。これだけの死者が発生した事故ながら、車を運転していた人物は無傷か軽傷で済んでいるらしく、車を放棄して何処かへ立ち去ってしまったようだった。恐らく地下鉄で移動して何処かへ去ってしまったと推測される状態だ。

遺族対応は大変なことになりそうだったが、村野は安藤を伴って、妊娠していた女性の遺族を担当することになった。やがて妻と生まれて来る筈だった子を一気に喪ってしまった男、大住が病院に現れた…

大住は酷く興奮し、医師に掴み掛ろうとしたが、村野は身体を張ってそれを押し止め、必死に宥めたが、今度は悔しがって床にしゃがみ込み、骨折も顧みずに硬い床を拳で叩くようなことをしている。興奮と、殻に籠ることが不規則に振幅するような、酷い精神状態と見受けられたが、「妻と生まれて来る筈だった子を一気に喪ってしまった」という大住の過酷に過ぎる状況を思えば無理からぬことであった…

事故現場から運転手が消えたが、それは車の所有者と同一人であるらしいとの結論に至った。その運転手を警察はなかなか見付けられずに居た…そうした中、“被害者”である遺族対応も必死に進められた。

やがて…この運転手に関する新しい情報が漏れ出し、大きな波紋が拡がることになる…

というようなことで展開する物語だ…極々平凡な普通な暮らしが、一瞬の出来事で粉砕されてしまい、その事実に向き合って、それを受け容れて折り合いを付けなければならない人達…それを助けようとする人達…そんな群像の物語である。非常に興味深い…

そしてこの物語に、主人公の村野が<警視庁犯罪被害者支援課>で勤務するようになって行った経過、関連する個人の事情というようなことがアクセントとして加わっている…

これは…「シリーズ化」に値する秀作だ!!

(読了済のシリーズ作品を挙げておきたい…)
第2作 >>『邪心』
第3作 >>『二度泣いた少女』

『邪心』

愉しく読了した作品が“シリーズ”だと判ると…「他作品は?」と気になってしまうものである…

過日読了した『二度泣いた少女』は、“警視庁犯罪被害者支援課”というセクションに勤務する警察官達が、犯罪被害に遭ってしまった人達のサポートをしようとするということで事件に向き合うという内容であった。『二度泣いた少女』は、そのシリーズの3作目ということだった…

↓そして素早く、シリーズの2作目であるという本作を入手した。

邪心 警視庁犯罪被害者支援課2 (講談社文庫)



↑「3→2」という逆順で読むことになったが、各々の独立色が濃く、「2→3」で続きになっている、気になるような要素は余り無いので問題は無い。強いて言えば…3作目で少し頼れるようになっていた最も若いスタッフが、2作目では仕事に不慣れな雰囲気が濃いという違いが多少目立つ程度だ…

『邪心』という題名…本作で起こってしまう出来事を巧みに象徴する表現だと思う…

主人公の村野―作品は村野の一人称の語りを基礎に綴られている形式だ…―が在勤する“警視庁犯罪被害者支援課”は、民間団体である“犯罪被害者支援センター”と連携を図りながら業務を進めている。ハッキリと犯罪事件の被害者になってしまう場合に対し、本人や身近な人の心身の安寧や安全が阻まれる、脅かされると感じたり考えたりしたような場合、民間の“犯罪被害者支援センター”は「相談窓口」となる。そして必要と思われれば“警視庁犯罪被害者支援課”にも伝えて、関係者間で意見交換しながら対応する仕組みだ…

その民間の“犯罪被害者支援センター”から“警視庁犯罪被害者支援課”に連絡が寄せられた。25歳の女性、大学院生で希望の企業に採用内定を受けているという人物が相談に訪れたのだという。所謂“リベンジポルノ”の被害に遭っているようで、就職との関連で大きな不安を抱えているという内容だった。

村野は早速“犯罪被害者支援センター”と接触し、情報収集を始める。所謂“リベンジポルノ”というが、女性の元交際相手の男性とベッドで撮影したと判る写真ではあっても“リベンジポルノ”を罰する法に抵触しているのか否かが微妙であるという状態だった。捜査部門を動かすには「至らない」ということになった。その他方、元交際相手という男性に関すること等、情報の収集は試みるということになり、村野は活動を始めた。

そういうことの矢先…“事件”が起こってしまう…

本作では、その起こってしまった“事件”を巡って、村野を始めとする“警視庁犯罪被害者支援課”の面々が活動する…

他の警察小説とは「やや違う角度」で“犯罪被害者支援課”の面々は事件に臨むのだが…少し重いテーマが秘められている…「事件が“起こってしまってから”でなければ、警察は何も出来ないのか?」というようなことだ…色々と考えさせられた…そして、東京辺りでは「多く起こり得る」と思われるが…本作では札幌出身の犯罪被害者の家族が東京にやって来て、村野達が対応しようとする場面が在るが…彼らが地元へ戻ってからの支援は「どうすれば?」というような、ハッキリしていない課題も、作中だけではなく、実際にも在るのかもしれない…

更に…“事件”に関連して関わっていた女性と男性達の感じ…これも考えさせられた…正しく『邪心』が導いた結果ということに…他方、その『邪心』へ至ったような本人達の思考パターンも、「何となく、判らなくもない…」という内容で…「迫るモノ」も在った…

本作に“深み”を加えているのは、主人公の村野自身も、暴走車によって事故に遭い、時々膝の具合が悪くなってしまう怪我を負い、一緒に歩いていた当時交際中の女性が車椅子生活になってしまった“被害者”であるということだ…

作中の事件の謎を解くこと、そして作中の群像の人生…何れも興味深い…未読の第1作、或いは第4作以降が出れば、是非読みたい…

↓因みに、先に読了していた次作はこれである…
>>『二度泣いた少女』

『二度泣いた少女』

作中で犯罪事件等が在って、その事件に関わった人達や事件そのものを警察官達が見詰めて展開する“警察小説”と呼ばれるモノが在る。登場する警察官達は、多くの場合は直接的に事件の真相を追う捜査員だが、警察は大きな機構なので色々な担当が在る。中には直接的に事件の真相を追う立場ではない人達が活躍するような“警察小説”も在る…

↓この作品は、直接的に事件の捜査を担当するのではない<警視庁犯罪被害者支援課>の警察官達が活躍するという作品である。

二度泣いた少女 警視庁犯罪被害者支援課3 (講談社文庫)



↑直接に事件の捜査を担う人達と違う角度で、事件の被害者達に向き合う中で事件を見詰めながら展開する物語…休日に紐解き始めて、何やら“つづき”が酷く気になり、夜まで頁を繰る手が停められ素、結果的に素早く読了してしまった…

本作の主人公は村野秋生(むらのあきお)という男性の警察官だ。<警視庁犯罪被害者支援課>の中心的なメンバーである。捜査一課の捜査員だった経過も在ったが、例えば殺害されてしまった被害者の遺族や、レイプ事件の被害者に向き合い、精神的な打撃への対処や法的な手続き等に関して民間団体の<支援センター>と連携して対応するという担当だ。家族が殺害されて衝撃を受けている状態の遺族を、捜査担当者も含む“追及”から“護る”ようなこともしていて、時に警察部内で“邪魔者”呼ばわれもしている…

或る日の夕刻、村野は同僚の松木優里と言葉を交わし、退庁しようとしていたが、そこに電話連絡が入った。本郷署管内で、自宅を仕事場にしていた男性が、仕事場の自宅で遺体で発見され、殺害されたと見受けられる状況だという。遺体の発見者は15歳で中学3年生の娘で、110番通報をし、仕事に出ていた母親にも連絡をしたのだという。ショックで倒れた、通報した娘の母でもある被害者男性の妻が病院に入ったという状況だった。

村野は、連絡を寄越している本郷署関係者の告げた娘の氏名を復唱しながらメモを取っていたが、松木優里が名前を聞いて衝撃を受けている。視たことも無いような松木の様子に村野は驚き、通話の後に尋ねた。

8年前、松木が<犯罪被害者支援課>の仕事に携わるようになり始めた頃、男性が殺害されてしまう事件が在り、殺害された男性に7歳の娘が居た。そしてその母親は、当時は癌で闘病中で、父親が殺害された後に娘が残った。その娘を、母親の妹、本人の叔母の夫妻が引き取って養子縁組をしている。この娘は、「父親が殺害された」のが“2回目”なのである…

実の父親、養父と2回も殺害されてしまうというのは、恐らく“ゼロ”に近い確率の出来事だ。村野は、自身の家庭のことも在り、それ以上にひどく動揺していたように見えた松木は帰し、若い同僚の安藤梓を伴い、<犯罪被害者支援課>として娘と妻への対応を行おうと病院へ向かった…

病院では、憔悴しきって面会もままならない妻に対し、一寸驚く程に気丈に振る舞う娘という様子に出会った。娘は涙を見せることはなかった。

捜査が何となく詰まる中、「或いはこの娘が…」というように捜査陣の考えが傾く。村野達は、飽くまでも被害者だと思っている。この娘が秘めたモノは何か?そして殺害事件の真相は何処に?

という感じなのだが、言ってみれば警察部内で“傍流”と視られがちな部門に携わる警察官達が、事件の真相を明らかにしながら被害者遺族達の立場を護ろうとする展開…非常に面白かった!!

作品は、基本的に村野の一人称の語りで綴られる。複雑な状況も、「主要視点人物の見聞と思考の範囲」で綴られるので、非常に判り易い感じ、飛躍や破綻が無い感じで展開するので読み易い…

或いは…「〇〇ではないか…」という一つの説だけを追っても、「見落とし」が多くなるというのは、小説に登場する犯罪事件の捜査に限らず、実は色々な場面で見受けられることなのかもしれない…

よく視れば…本作は“シリーズ”のようだ…何れ、シリーズの他作品も読みたい…