『新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝』

↓紐解き始めると、本当に頁を繰る手が停められなかった。短い篇が集まった本で、1篇を一気に読み、一呼吸置いて次の1篇を一気に読むというようなことを繰り返すと、既に収められた7篇を読了してしまっていた。

新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝 (中公文庫 と25-56) [ 堂場 瞬一 ]



↑10作品在る、刑事の鳴沢了が主要視点人物となるシリーズの「外伝」とされている作品だ。シリーズの各作品は鳴沢了の第一人称という体裁で綴られている。対して本作は、鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かの視点、第三人称的に鳴沢了という人物が綴られる。そういう様を「証言」と呼んで題名に冠したのであろう。

鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かというのは、偶々出くわしたという人達や、シリーズ各作品に登場している人達ということになる。そういう形で7篇が綴られている。

『瞬断』は「鳴沢了」のシリーズの後に登場した「失踪課」のシリーズに登場する高城賢吾や、行動を共にする場面が多い女性刑事の明神愛美が鳴沢と出くわすという顛末だ。

『分岐』は鳴沢と組んで事件に取組んだ経過が在った後に何度か登場していて、刑事を辞めて、実家である静岡県の寺で僧侶として活動している今敬一郎が自身の活動に関連することで鳴沢に協力を依頼するという顛末だ。

『上下』は新潟県警に在った鳴沢が行動を共にした、当時は新米刑事だった大西海が登場する。大西海は幾つかの作品に登場する。東京の事件の被疑者が新潟に現れるという経過が在って、大西海は鳴沢と接することになる。

『強靭』は幾つかの作品に登場した、新聞記者から小説家になった長瀬龍一郎が、新作の作中人物の造形の参考にしようと、鳴沢を知る人達にインタビューを試みる。インタビューに応じるのは、横浜地検の城戸南検事と大沢直人事務官で、或る事件現場で出くわした鳴沢に関して語る。

『脱出』はシリーズ第8作以降で連続して鳴沢の相方を務めていた藤田心が登場する。事件捜査の現場で鳴沢と共に活動中、思い掛けない窮地に陥ったという時の顛末だ。

『不変』は東京で警視庁に職を得た鳴沢が、東京で初めて配置された多摩署で行動を共にした小野寺冴が登場する。警察を去って探偵となった小野寺冴だが、幾つもの作品で登場する。鳴沢が小野寺冴に協力を依頼するという顛末が描かれる。

『信頼』は鳴沢の家族となった内藤勇樹の目線での物語となる。鳴沢は交際していた内藤優美との間に娘が生まれたことを契機に結婚している。内藤勇樹は義理の息子となったので「鳴沢勇樹」である。米国で俳優活動をしていて、その活動で映画撮影をしているハワイに鳴沢がやって来ての出来事が描かれる。

各篇は何れも「その後の鳴沢了」という感、シリーズ10作品の後の時期ということになる。

『上下』の大西海は、第10作に「昇任試験に一発合格」で東京に研修に出ていたということで登場していたが、この篇で上司達に更に昇進する昇任試験の受験を強く薦められているという様子が在る。ということは、昇任試験を受験可能となるような期間を経ていることになる訳で、少なくとも「数年経っている」と判る。

この辺りに関しては、『信頼』が判り易い。第10作で11歳であった勇樹が16歳と判るのだ。ということは5年を経ていることになる。

シリーズ10作品を通じて、鳴沢了は色々な経験を重ね、少しずつ変わる。その結果に出来上がった「鳴沢了」という人間を「他の人達」の目線で提示しようというのがこの「外伝」ということになるのかもしれない。

自身はこの「外伝」の各篇を、シリーズ10作品の後に読んでいる。が、逆にシリーズを読む前に導入として読んでみるのも好いかもしれない。

例えば『瞬断』、『強靭』というような篇は、ストイックな私生活をする強靭な肉体の持主で、原理原則に照らして強い意志で自身の判断を信じ、迷わずに突き進む凄い男という「鳴沢了」というイメージがよく判ると思う。

更に『上下』、『信頼』は鳴沢自身よりも若い人達を導く、背中を押すという側面が感じられ、『分岐』、『脱出』、『不変』は強い絆が在ると感じられる仲間を真摯に思いやるような側面が感じられる。

各篇各々に面白く、甲乙点け難い。各篇を読みながら「鳴沢了」に出逢って善かったという想いを新たにした。広く御薦めしたい作品だ。

『久遠(下) 刑事・鳴沢了』

↓上下巻の小説で、上巻が面白く、素早く下巻に進むと、下巻は上巻以上の勢いで読み進めてしまう。頁を繰る手が停められなくなってしまう。そういう感じで呆気ない程に素早く読了に至った一冊だ。

久遠(下) 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-55) [ 堂場 瞬一 ]



↑大変に気に入ったシリーズの刑事モノの小説で、上下巻から成る第10作の下巻である。

シリーズ各作品で一貫しているのだが、この作品は刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。第10作でもその様式は健在だ。

下巻なので、当然ながら上巻の続きの部分から始まっている。

殺害された人物達と、最後に会っている、或いは殺害前に盛んに連絡を取ろうとしていたということで、そして見付かったモノに関連して妙な疑いが向けられている鳴沢了である。同時に何度か襲撃を受けてそれを退けるというようなことも在った。そういう現場の一つの後始末というような様子から下巻は始まる。

鳴沢は、自身を陥れようとする者達、襲撃をした者達の正体を探りながら、その動きを阻止し、発生してしまっている事件の真相を明らかにして自らを護るべく奔走する。その行き着く果ては如何にという物語となる。

過去の作品に色々な形で登場している人達が、本作で非常に多く再登場する。異色の経歴で警視庁入りして活動している鳴沢は当初から周囲に馴染み難いような感じは在ったが、それに加えて原理原則は曲げないとし、独自路線のような仕事のやり方も厭わず、更に私生活もストイックで、煙たがられるような感じの人物である。が、自身が思う以上に“味方”も多い。本作ではそういう“味方”という人達が色々と鳴沢を援ける。

鳴沢には交際するようになった女性、鳴沢を慕うようになっているその息子という大切な存在が在るのだが、2人はニューヨークで活動している。殊に息子の方は、子役俳優として出演したドラマが大人気と成功もしている。鳴沢の米国研修の際にはこの息子が事件に巻き込まれ、鳴沢は救出と解決に向けて奔走し、色々と軋轢を起して予定より早く帰国したという経過も在った。この息子が、日本での放映が決まった出演作品のプロモーションで来日し、会ってゆっくり話したいとするのだが、鳴沢が事件で取り込み、色々と危険な目にも遭ってしまい、息子と会えずに居る。この個人的な事柄にも動きが在るのが本作だ。

シリーズを通しての「鳴沢の遍歴」が行き着いた辺りというのが明かされる本作である。真直ぐに我が道を行き、周囲に煙たがられても、“味方”は自身で思う以上に生じるようになり、その一部は生命や立場や名誉を賭して援けようと手を差し伸べて動いてくれるという本作の物語に心動かされる。

危険な、または得体のしれない悪漢達の企みを解明しようとするようなハードな物語ではあるのだが、作中人物達の会話等にユーモアが紛れ込み、そういう雰囲気も読んでいて愉しい。小説を原案に映像作品でも制作すると、非常に画になりそうな悪漢達との対決というような場面も在るのだが、丹念に訊き込みをして、訊く人達の環が拡がる中で新たな事実が少しずつ明らかになって事態の全体像が徐々に明らかになって行くという様が「リアルな事件捜査?」という風で、非常に引き込まれる。

「鳴沢了」のシリーズは、初登場してから少し長く時日を経ているかもしれないが、古い感じは全くしない。大変に愉しいシリーズだ。シリーズ各作品を順次愉しんだが、その「一応の終幕」を愉しむことが叶って善かった。御薦めだ。

『久遠(上) 刑事・鳴沢了』

↓大変に気に入って、各作品を順次読んでいる刑事モノのシリーズだ。第10作である。この作品は上下巻からなっていて、その上巻だ。上巻に第一部、第二部、下巻に第三部、第四部というようになっている。

久遠(上) 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-54) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。

題名の「久遠」は「永遠」にも通じる語だが、遠い過去を、または遠い未来を意味する表現なのだという。シリーズの第10作で「区切り」となる中で、主要視点人物の過去や未来への様々な想いが籠った内容であることを示唆するような題名だと思う。

物語は早朝に鳴沢が自宅に在る辺りから起こる。

日頃から午前6時頃に起き出して、天候が悪いか取り込んでいるかでもなければジョギングに出るという鳴沢だが、午前5時に電話が鳴って起こされてしまった。なっていた電話に出れば無言電話である。

目が醒めてしまったので如何しようかと思案していれば来客である。何者が現れたのかと訝って対応すれば、青山署の捜査員だった。捜査員達は有無を言わせずに同道を求めている。事件の容疑者や重要参考人への対応そのものである。鳴沢は着替えて同道することになった。

鳴沢は青山署の取調室で聴取された。岩隈という男が前夜遅くに殺害されたのだという。鳴沢が過去の事件で接触した経過が在る、自称“ライター”という男である。前夜、急に「会いたい」という連絡を受け、余り気乗りもしなかったが、鳴沢は岩隈に会った。結果的に、殺害される以前に「最後に会った」という形になっているのだった。

聴取を終えた鳴沢は職場である西八王子署へ出た。捜査員達は取り込んでいて誰も居ないという様子の中、課長や署長と話す。そして「自宅待機」ということになったので帰宅した。

鳴沢は殺人の嫌疑を掛けられてしまったような状況である。事の真相を明らかにし、自身の窮地を脱しなければならない。そして鳴沢の孤独な闘いは始まるのだ。

こういうことで、様々な出来事が次々と起こる中で鳴沢が奔走する物語だ。過去の作品で縁が在った人物達が次々と登場する。「嵌められた?」という妙な状況の真相は如何に?目が離せない展開が続き、ドンドン読み進めざるを得ない。

素早く読了した上巻だ。そして下巻に素早く移行である。

『疑装 刑事・鳴沢了』

↓各作品を愉しく読み進めている刑事モノの小説のシリーズだが、本作はシリーズ第9作である。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

疑装 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-53) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

題名は「疑装」(ぎそう)となっている。「ぎそう」という同音異義語が幾つか在ると思うが、知られているのは「偽装」ではないだろうか。「擬装」という字を使う場合も在るが、これは所謂「カムフラージュ」というようなことや、事実を見分け難くしてしまうことという意味合いだ。そういう状況が在るのだという感じなのだが、敢えて「うたがう」という意味の「疑」を当てている。事実を見分け難くしてしまう「偽装」または「擬装」という事柄が在ると「疑われる」というような感じなのであろうか。少し興味深いが、そういうことを解き明かしながら読み進めるという感じでもあると思う。

冬の日の夕刻、西八王子署刑事課のオフィスから物語は起る。

刑事課の署員達は定時で順次帰宅していて、2人だけ残っていた。鳴沢と藤田だった。前作で本部の捜査一課の捜査員としてやって来て、鳴沢と行動を共にした藤田は西八王子署に異動していた。前作の一件の後、異動で署員は大きく入替っていたのだった。藤田は、暇とは聞いていたが、聞く以上に暇だとぼやいている。鳴沢はそれを半ば聞き流し、自分達も帰宅しようと促す。そんな中で電話が鳴った。

電話の用件は、交番で住民からの通報を受けて、身元や事情が不明の身体が少し弱っているような少年を保護したという事案だった。保護した少年は10歳前後と見受けられるが、言葉を発しない。妙な様子である。電話を受けた藤田は、刑事課の担当すべき事案なのか否かが判らないと思いながら、とりあえず行くと返答した。藤田と鳴沢は現場の交番へ駆け付けた。

交番の責任者である警部補が待っていたので、藤田と鳴沢は詳しい話しを聴くことにした。児童の安全に気を配るとして、交番とも連絡を取り合う間柄の住民達が在って、その人達の1人で、自身も小学生の母親であるという女性が交番に連絡し、交番から署へ連絡が入ったという様子だった。少なくとも際立って特徴が在る外見とも見えないが、言葉が通じないのか、外国人なのかもしれないということになった。怪我を負っている様子は見受けられないが、少し弱っている様子なので病院に収容したということであった。通報者にも事情を訊ねた後、鳴沢は少年の様子を視るべく病院へ足を運んだ。

持っているバックパックに触れることを拒み、言っていることを解っているのか、いないのか、少し伺い悪いような様子の少年に、医師や看護師等の病院関係者も難儀しているという中に鳴沢は訪ねた。交番で噂をしていたが、少年事件担当の、生活安全課の女性刑事を連れて来て、事情を訊ねるようなことをすべきであろうと鳴沢は考えた。鳴沢は、勇樹と似たような年齢と見受けられる少年が1人で居て困っているのであれば、何とか援けたいと思うようになった。

やがて鳴沢は、国内に居る多くの人達と変わらない外見で、言葉が通じ悪いのだとすると、何処かの街に居る日系ブラジル人の子という可能性が在るのではないかと思い付く。鳴沢は、極々僅かに知るポルトガル語のフレーズを発すると、少年が反応した。少しずつ心を開いて、少年の事情を知り、何とか援けようということになったのだったが、驚くべき事態となった。病院から少年が姿を消したのだ。

少年は逃げたか連れ出されたかで慌ただしく姿を消していた。少年のモノが残っていて、群馬県の小曽根に住んでいるカズヤ・イシグロであるらしいと判明した。鳴沢は八王子から延びる八高線の沿線である群馬県の小曽根―※架空の地名であるようだ。県内に同じ地名は在るが、そういう鉄道駅は無い。―へ乗り込み、カズヤに纏わる事情を調べる。鳴沢が見出す事実は如何に?そして行方が案じられるカズヤは如何なるのか。という物語だ。

子どもと接することが得意ということでもなさそうな、少し大柄で厳つい感じの鳴沢だが、「俺は真面目に君のことを気に懸けている」として、心を閉ざしたような様子の少年に何とか踏み入ろうとする様子は応援したくなる。少年が、何処かの街の日系ブラジル人の子であるらしいとなって、もう少しで何かが判りそうな中での急速な事態展開である。物凄く引き込まれる展開だ。

鳴沢が乗り込んだ、ブラジル人が多く働く工場を擁する小さな町の様子だが、所謂“多文化共生”というようなことが盛んに取り沙汰されるようになっていた、本作の最初の発表時期の問題提起というようなことが、小説の物語としてうまく整理されているというようなことも思った。色々と論じられたこの種の事柄だが、「最近は?」というようなことを、読みながら思ったということも在った。

前作で行動を共にした藤田が、硬い感じの鳴沢に対して少し軟らかいイメージで「好い相方」という感じだったのだが、今作でも同じ署に異動で机を並べているという形で再登場し、また好い感じで相方を務めている。本作ではヒロイン的な雰囲気の、生活安全課の女性刑事である山口美鈴が新たに登場している。また、シリーズの過去作品にも出ていた、鳴沢の相方だった小野寺冴は探偵を生業としていて、本作にも登場する。

本作も何やら色々な意味での余韻が深いと思う。真直ぐで熱い刑事の物語という体裁ではあるが、作品発表時期の「世の中の“気になる”」も巧みに入り混じっているように思った。御薦めな物語である。

『被匿 刑事・鳴沢了』

↓第1作が気に入って、以降の作品を順次愉しく読んでいる刑事モノのシリーズで、本作は第8作となる。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

被匿 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-52) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

このシリーズは、漢字2字の語句を題名としているのだが、一般的な語句に少し変わった字を当てるというようなことをしている。今般の「被匿」(ひとく)である。「秘密にして隠しておく」という意味で「秘匿」という語が在る。それと似ているのだが少し違う。「匿」は「隠す」、「かくまう」というような意味である。これは一般的な「秘匿」も、本作の題の「被匿」も共通だ。題では「被」としている。「かぶせる」という意味(例えば「被服」)、好ましくないことを「こうむる」という意味(例えば「被害」)、何かを「される」というような意味(例えば「被告」)という用例が在る。「被匿」に関しては、何かをされた、こうむったという経過が隠されること、或いは覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと等、幾つかの含意が込められていると観た。それを解き明かそうとするかのように、本作の頁を繰り始めるのである。

物語は西八王子署刑事課のオフィスから起こる。鳴沢了は西八王子署に異動で、着任初日ということでオフィスに出勤し、課長と話していた。

話題になったのは着任前日の出来事であった。地元選出の代議士が、自邸へ向かう辺りにを流れる川で遺体で発見された。前日はその対応をしたが、夜に都心で酒が入る席に出て、帰って来た時に少し辺りを歩きたいということを言い出して歩いたと見受けられる。その際に橋の辺りから川へ転落して死亡と観て「事故」という話しになっていたのだった。

鳴沢はニューヨーク市警での研修をしていたが、現地で色々―前作の物語―なことが在って、予定を短縮して研修を切り上げて帰国した。帰国後、島嶼部を除いては最も静かであるという西八王子署に異動ということになった。非常に暑い時季ではあるが、暑さで力が入らないというような次元を通り越し、何か気が抜けたような職場であると鳴沢は感じた。

新たな署へ異動し、管轄区域の様子を少し知ろうと、鳴沢は動き回ってみた。「代議士が川に落ちて死亡」という「事故」の現場とされる橋の辺りを通り掛かり、鳴沢は様子を観た。酒が入っていたにしても、不注意か何かで川へ転落してしまうような橋なのだろうかと、鳴沢は疑問を抱く。そして鳴沢は、急ぐような課題が在るのでもないことから、代議士が川へ落ちたと見受けられる時間帯に関する目撃情報を探そうと、近隣で訊き込みを試みた。

やがて鳴沢は、死亡した代議士らしき男性と、何者か判らない女性が橋の辺りに居て、遠目に言い争っているようにも見えたという目撃談に行き当たる。この話しをしたのは、夜に様子を視た翌朝に旅行に出ていたという近隣住民で、「事故」ということで西八王子署が活動していた日には居なかったので、刑事に事情を尋ねられるようなことも無かったというのだ。鳴沢は、目撃談を話した人達の事情という以前に、近隣への訊き込みも熱心に行わず、「事故」である「ということにしてしまった」というようにも感じていた。

やがて死亡した代議士に関しては、不正な献金、贈収賄というような事案でも名前が挙がっているらしいという噂も在って、その件での自殺という可能性も排除し得ないと鳴沢は思った。それにしても、「言い争っていたように見えた」という目撃情報が在る以上、他殺という可能性も排除し悪い。やがて「事故」での処理は不適切であったかもしれないということに警視庁内部でなって行き、捜査一課の要員が西八王子署に派遣され、事案の究明に取組む運びとなって行く。

こうして鳴沢が見出す事の真相は如何にという物語だ。少し夢中になってしまう。

少し遡った時期のことを知っている市役所OBの郷土史家と偶々知り合って情報源としているようなことの他方、死亡した代議士の後援会長に恫喝を受けるような場面や、第1作で出逢っていて以降の作品にも登場場面が在った人物やその家族の関りが在るというような場面も在る。また捜査一課の捜査員を投入しての活動という中、藤田心という捜査一課の刑事が登場し、鳴沢の相方ということになる。藤田は、離婚してしまった際に元妻が連れて行ってしまった幼い娘に会い悪いのが辛いと零しながらも、軽口を叩く明るい男で「鳴沢ストッパー」等と称し、事件解決へ向けて只管突進する感も否めない鳴沢を援け、支えようとする気の好い男という感じだ。この相方とのやり取り、そういう中で進む事態が興味深い。

八王子は「東京都」の中、「都下」と言われる地域であるが、何か保守系有力政治家を中心とする地方に見受けられるような様子が在るとされている。そういう中での色々な事情の中で起こった「事故」という「ことにされた」という「事件」を真直ぐな鳴沢が浮き上がらせて解決へ導くのである。

前作の物語は“警視庁”を代表して交流が在るニューヨーク市警へ研修に出ている中、パートナーとなる筈の女性の息子で「近い将来の義理の息子」が巻き込まれた事件とは言え、色々な事情を度外視して少年を援けようと奔走し、所謂“組織犯罪”の関係者を蹴散らすような暴れ方をしてしまった。そして「彼を置いておき悪い」と東京へ送り返されてしまった。そうした意味で西八王子署赴任は「左遷」だ。が、それでも飽く迄も抱いた疑問の答えを見出そうとする鳴沢の真直ぐさが好い。そうした中で「“事故”という話しではない…自殺か、他殺か、これは“事件”だ!」ということになって行くのである。

本作を読んで清々しい気分になった。「ことにする」と声の大きな人達が言って、それに従って何とか形を作ろうとする人達も在るような中、鳴沢は真直ぐに「少し変ですよね?」と調べ始め、やがて「色々と考えるべき」となって行く。そしてことの真相が明かされる。明かされる真相は、「過去の遺恨が解かれる」という“金田一耕助”というようなモノを感じさせる面も在った。

「覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと」に鳴沢が挑む。気の好い男という感じの藤田とのコンビで事態を突破する様子が非常に爽やかかもしれない。広く御薦めしたい感だ。

『血烙 刑事・鳴沢了』

↓細かい時間を設けてドンドン読み進めることを停める術が無い。紐解き始めるとかなり夢中になり、早朝、日中、夕刻、深夜、早朝とドンドン読み進め、素早く読了に至った。

血烙 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-51) [ 堂場 瞬一 ]



↑興味を覚えて第1作を読んだ後、順次各作品を読んでいる「鳴沢了」のシリーズの第7作である。このシリーズは、第1作で新潟県警、以降は東京の警視庁で刑事として勤めている鳴沢了が主要視点人物で、一貫してその第一人称で綴られている。本作もその例に洩れない。

物語の冒頭である。リョウ・ナルサワがミックことミケーレ・エーコと夜の街で、要注意人物の行動確認、所謂“張り込み”をしている場面から起こる。「リョウ・ナルサワ」とは「鳴沢了」に他ならない。鳴沢はニューヨークで活動しているのだ。

前々作(シリーズ第5作)で交際している内藤由美が息子の勇樹と共にニューヨークで活動する話しが持ち上がっている。前作(第6作)では、優美と勇樹は既にニューヨークで活動していて、思った以上に成功している。そうした中、鳴沢はニューヨークへ渡り、暫く滞在する術を模索しているということが示唆されていた。今作(第7作)でその鳴沢が模索していた術が明らかになった。警視庁からニューヨーク市警へ研修に出るという話しに乗り、鳴沢はニューヨーク市警で研修中なのだ。

ニューヨークで研修中の鳴沢は、ニューヨーク市警の色々な人達の話しを聴く他、様々な活動の現場に出て動き回り、見聞を拡げて様々な経験をしていた。ミックの張り込みの相方を務めるというのもそうした研修の一環であった訳だ。そうした研修の件の他、鳴沢は優美と勇樹のコンドミニアムを頻繁に訪ねる等して、パートナーや義理の息子と過ごすというような私生活の充実も満喫していた。優美にプロポーズして結婚するということも思い描いたが、タイミングがズレて正式な結婚ということにはなっていなかった。

優美の兄である内藤七海は、鳴沢が米国中西部の大学に1年間留学した時のルームメイトで、互いに親友と呼べる間柄だった。この内藤七海は将来を嘱望された野球選手でもあったが、怪我で野球選手としての活動を断念していた。そして故郷のニューヨークで警察に奉職し、刑事として活動していた。ニューヨーク市警の現場の刑事達の一部で、鳴沢は「ナナミの古くからの友人で、妹のパートナーで、甥の義理の父になるというリョウ」として馴染んでいた。

優美の息子の勇樹は、人気テレビドラマに出演する子役俳優として活動して成功していた。日頃のレッスン等と自宅を往来する際には関係会社の社員が同行していた。そういうことなのだが、最近は単独で寄道をしたがることが在って、そういう中で行方を見失うという状況が生じてしまったのだという。優美は動揺する。鳴沢も連絡を受けた。

鳴沢が優美と勇樹の自宅へ駆け付けると、内藤七海が何人かの親しい仲間を率いて現れ、勇樹を何とか探し出そうということになる。鳴沢も加わって動き回ると、勇樹が誰かに追われるようにしていて、路線バスに乗り込んだらしいと知れる。そして、そのバスがバスジャックされてしまい、通常の運行経路を離れて動いているらしいということも判明した。

鳴沢、内藤七海と仲間達はバスジャックされてしまったバスが入り込んだという倉庫に駆け付ける。銃声が聞こえたと、慌ただしく警察関係者が踏み込んだ中、バスジャックの容疑者が射殺された状態であった。そしてバスに乗っていたと見受けられる勇樹の姿は現場には無かった。やがて、姿を消した勇樹の周辺にチャイニーズマフィア関係者と見受けられる人物達の影が見え隠れする。

如何いう思惑なのか、勇樹を誘拐したらしいチャイニーズマフィア幹部の関係者達という様子の中、鳴沢は内藤七海と仲間達の支援を受けながら勇樹を探し出して救出しようと走り回る。

こういう物語なのだが、本作は「誘拐された義理の息子を取り戻すべく、親身になってくれる協力者達に援けられながら方々を動き回って奮戦する刑事」という「米国の刑事ドラマ」の主役を「東京の警視庁の鳴沢」が英語と日本語混じりで演じているというような、何か独特な様子である。そういう様子が凄く面白い。事件解決に向けて「真直ぐ!」で、クールなようでいて酷く熱いという鳴沢は、米国でもそのままだ。そしてパートナーたる女性の息子で、「大切な友人」としょうして鳴沢にも懐いている少年を無事に救出したいという一途な想いで戦う様は麗しいとも思う。

事態の進展に連れて、ニューヨーク以外の地域に迄踏み出して奔走する鳴沢が行き着く先が気になり、夢中で読んで素早く読了に至った。御薦め!

『讐雨 刑事・鳴沢了』

↓最近読み続けているシリーズの第6作だ。頁を繰る手が停められなくなり、夢中で素早く読了してしまった。と言うより、そうならざるを得ないとも思う。

讐雨 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-50) [ 堂場 瞬一 ]



↑本作もシリーズ各作品同様、主要視点人物たる刑事の鳴沢了の目線で綴られる。一人称で綴られる感じは何処となく外国の探偵モノの小説の翻訳という雰囲気も帯びるように思う。

本作の題名である。「驟雨」(しゅうう)という言葉が在る。急に降り出して、急に止むというような、不安定な感じの俄かな強い雨のことを示すようだ。これと同じ音だが、「讐雨」(しゅうう)は少し独特な字を使った造語になるのだと思う。「讐」という字は「復讐」というような具合で用いるが、これは「むくいる」、「あだ」というようにも読ませる。「讐雨」(しゅうう)という語句には、恐らく「むくいる」という意図が、雨のように強弱様々で降り注ぐという様子を示しているのかもしれない。実際、本作の物語は雨の時間帯も少し多い梅雨の時季に展開している。

物語は鳴沢了がハンドルを握り、東多摩署の同僚である萩尾聡子と共に車で移動中という様子から起こる。

鳴沢は青山署から東多摩署に異動した。異動して早々に捜査本部が設けられる事件が発生する。本部の捜査一課の捜査員達も加わり、連日のように事件に取組んだ。2人の子どもが在って、子育て中なので「ママ」というニックネームの萩尾聡子とは行動を共にする場面が多く、苦労を分かち合って来た。事件の被疑者が確保され、事件の様子を確かめる裏付け捜査という段階での活動中であった。事情を聴取に出掛けて東多摩署へ引揚げようとしていたのだ。恐らく、捜査本部は近々に解散ということになる状況だ。

鳴沢を含む多くの捜査員達が取り組んだ事件とは、小学校低学年の女児を誘拐して殺害し、髪の毛を切って束にして保護者に送り付け、遺体の首を切って埋めてしまうという、誘拐、殺害、死体損壊、死体遺棄という恐るべき内容の事件だった。しかもそれが3件も立て続けに発生した。そんな恐ろしいことを仕出かした男、間島を確保することに力を尽くしたのである。

大掛かりな活動で連日忙しかったことから、萩尾は少々休暇を取って休みたいというようなことを車中で話題にした。そういう穏やかな様子であったのだが、少し先の路肩に車輛が停止した状態であるのが見えた。妙な停車だと首を傾げると、不意に爆発が起こった。停まっていた車輛の直ぐ脇を走行中の車輛が爆発で弾かれ、後ろの車輛にぶつかり、そのぶつけられた車輛が鳴沢と萩尾が乗った車にぶつかったのだ。

鳴沢が気付けば病院だった。爆発で3台の車輛が影響を受けた。鳴沢達も病院に搬送されて手当てを受けた。萩尾は余り気にならない傷だったが、鳴沢は少し頭にダメージを受けた。切れてしまった箇所の出血を止めた。頭のダメージなので、病院に居て検査をする等した方が善いという医師の勧めを度外視し、鳴沢は萩尾と共に東多摩署に向かい、状況を報告した。

そして妙なことが判った。「間島を釈放しろ」という要求、要求が容れられなければ無差別に爆破を行うという脅迫状が東多摩署に届いていたのだった。その脅迫状の関連で路肩の車輛が爆破という事態が起こったと見受けられる。間島を確保する迄の捜査は段落しているが、今度はこの「間島を釈放しろ」という要求と爆破の脅迫に対処しなければならなくなってしまった。

街で暮らす多くの人々を人質にするかのような脅迫という中、鳴沢を含む捜査員達が奔走する。「間島を釈放しろ」という要求の真意は何なのか。何者がそのような要求をしているのか。そして爆破という危険を阻止しなければならない。そして行き着く真相は如何に。

ということで、緊迫する最終盤迄、眼が離せない様子が続く。手紙や電話で警察側と接触する犯行グループは、その動きを弄ぶように、要求を押し出し、そして爆破を繰り返す。変なパニックにもなりかねないので、警察側の対応も難しい。捜査員達は色々な角度で事態を調べて行く。鳴沢も今般は非常に熱い。

こういう事件の展開の他方、鳴沢個人の周囲でも色々と在る。鳴沢は親友の妹で、家庭内暴力に悩んで離婚し、息子と共に暮らしていた内藤優美と交際するようになっていた。優美の息子の勇樹も鳴沢に懐いていて、遠からず結婚を意識もしている。が、優美の友人の話しが切っ掛けで勇樹がテレビドラマの子役にスカウトされたことから、優美と勇樹はニューヨークに行っていた。メールや電話で優美、またはその兄とやり取りという状態が少し続いている。今般の難しい事件の最中ながら、そうした部分の動きも在る。

警察に確保された凶悪犯の釈放を求めるというだけでも異様な感じなのだが、要求を通すべく爆弾を使って脅迫というのは更に途轍もない。そんな異常事態でスリリングな物語ではある。他方、本作は「罪と罰」、「罪の報い」、「深い傷を負わされた、または心を壊された被害者周辺の想い」というような事件や事件を扱う刑事達の根源的な事柄を論じようとするかのような面も在る物語であったと思う。緊迫のクライマックスの後の終章部分を読むと、何か涙ぐむような気もした。余韻が深い。御薦め!

『帰郷 刑事・鳴沢了』

↓かなり夢中になり、頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至った一冊だ。

帰郷 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-49) [ 堂場 瞬一 ]



↑気に入ってしまったので次々と読み進めている「鳴沢了」のシリーズの第5作である。

主要視点人物の鳴沢了の目線、第一人称で綴られている作品だ。何か外国の探偵モノの翻訳という風情も漂うかもしれない。詩情溢れる情景描写の中、主要視点人物の想いが巡り、協力的な人達や敵対的な人達とのイオいろな出来事が在って、そして事態が展開して行く。丹念に色々な人達に訊くということを積み上げて、事の真相に近付き、やがて緊迫する対決場面というようなことも生じる。物語は全くのフィクションではあるのだが、何かリアリティーが溢れる感じで、凄く読ませる物語である。そういうことで駆け抜けるかのようにシリーズ作品を次々と紐解いている。

物語の冒頭部は、新潟の実家に鳴沢了が在るという場面から起こる。

鳴沢の父は新潟県警の刑事部長を務めていたが、癌で闘病生活を送っていた。この父と鳴沢との関係は微妙で、鳴沢は余り父を訪ねるようなことも無かったのだが、先が長くはないと判ってからは何度か見舞いにも訪ねていた。危篤と聞き、急いで駆け付けると、着いて間も無く父は他界してしまった。そして葬儀ということになった。その葬儀の翌日であった。

そうした経緯を想い起し、父がかなり整理を進めていた家の中で過ごしていると、知らない少し若い男が訪ねて来た。父の葬儀の日、15年前の殺人事件が時効を迎えたのだという。(※本作の発表された時期には時効という制度は在った。その後、殺人事件等の時効という制度は止めた。)若い男の父が殺害された事件だ。時効にはなってしまったが、何とか真相を知りたいと男は訴える。そして鳴沢の父は手掛けた事件を悉く解決していたが、この殺人事件だけは未解決に終始してしまっていた。

鳴沢は訪ねて来た男の父親の一件で、当事の色々な事を知り得る人達、関わった環境保護関係の団体の関係者等を見出し、丹念に訊き込みを行い、事件に関して改めて明らかにしようとするのである。そして新潟で、「忌引の休暇中」ということで、私人として活動する中で色々な事が判り、或いは父が至っていたのかもしれない推理に至る。

こういう、何か警察の捜査員、刑事が動くというよりも探偵か記者が色々と探っているような感じで動いている。雪が交じる時季の新潟の街を動き回るのだが、情景描写が何か好い。

第1作で鳴沢は新潟県警に在った。その第1作の事件で行動を共にした大西が再登場している。大西は孤軍奮闘の鳴沢を援けようとする。第1作から4年が経っているのだ。その「4年の中での変化」という心情等が丁寧に描かれている感じが凄く好い。

父との関係ということで、鳴沢自身のことを考える部分も在るが、結局は訪ねて来た男の父との関係という部分も在る。何か身近な父のような人物との関係というような個人的なことにも想いが巡る。そうした意味でも、何か余韻が深い作品だ。御薦め!

『執着 捜査一課・澤村慶司』

シリーズの第3作である。頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至らざるを得なかった。「続き」が気になって停まらなくなるのだ。余人には理解し難い独自な理屈で犯行を重ねる被疑者を必死に追う捜査員達ということで、眼が離せない展開が続く。
本作は県警捜査一課に勤める刑事の澤村慶司の目線で綴られる。向き合う事案を澤村慶司の目線で追うということになるのだが、一部に犯行に及んでいる者の目線で綴られる箇所が交じる。これは第1作と同じような形式だ。第2作は少し違った形式であったように感じたが、第3作になって最初の感じが戻っていると思う。
冒頭に事件が発生する場面が、犯行に及ぶ者の目線で綴られる箇所が在る。事件の舞台となるのは新潟だ。そして「そういうようなこと?やってしまう?」というようなやり方での殺人事件が起こってしまう。
そんな頃、澤村慶司は休暇に入ったところだった。県警本部の捜査一課から、長浦(※架空の地名)市内の所轄署の刑事課に異動することが決まっていた。異動の前に休暇を取るということになったのだった。
休暇期間に入り、澤村慶司は過去に捜査に携わった事件で亡くなってしまった少女の墓参りに足を運んだ。墓が在る寺の住職と偶々言葉を交わした。住職から新潟での事件について告げられた。新潟での事件となれば、遠くの他県のことなので、澤村自身は余り関係無いとした。が、住職は疑問を呈した。長浦市内の警察署でストーカー被害を訴えていながら、それが取上げられず、故郷の新潟に戻って少し過ごそうとしていた女性が新潟で殺害されたのだという。こういうことになると、他県の事件とばかり言っていられない感にもなる。
澤村は居ても立っても居られない感で、上司の谷口課長や、情報に通じていそうな県警内の知り合いに事情を尋ねた。ストーカー被害を申し出る女性の訴えを、結果的に撥ね付けてしまい、何等の対応もしなかったということで、殺害された女性の家族等が言い立てていて、それが事実であるのだという。ストーカー行為に及んでいたのは、殺害された女性が派遣社員として勤めた会社に勤務していた男性ということも判っている。その男性が殺害に関与した可能性は高く、新潟での事件後に如何いうように動き回っているのかは判らない状態だ。
澤村は「休暇中なので旅行に出るのだ」と称して、新潟に乗込み、独自に事情を調べようとする。女性を殺害した可能性が高いストーカーであった男性に関しては、新潟の街に在るのか、何処かへ離れたのか、判然としない。地元の長浦等の大都市圏へ去った可能性が高いとも見受けられたが、そちらの方面からの情報も無かった。
予想し悪い行動原理で動く被疑者である。犯行は重ねられようとするのだが、澤村達がそれを必死に追う。そして追跡の果てに如何なるのであろうか。
こういうようなことなのだが、「特異な殺害方法を採っている被疑者の逮捕の様子を観て、場合によって話しを聴かなければならない」と、澤村が少し鬱陶しいと思っているプロファイリング担当の橋詰が新潟に現れて出くわすというようなことや、真面目な少し若い後輩刑事という感の永沢初美が問題に取組むために新潟に派遣されたグループに参加しているというようなこと、突っ走る澤村に複雑な想いで向き合い、最終的に澤村も含めた体制で被疑者を追うように指示する谷口課長と、シリーズで御馴染な面々も動く。今作では、澤村を苛立たせながら飄々と動き回る橋詰に色々と在って面白い面も在る。
恐るべき被疑者という感で、それと向き合う澤村達の奮戦が熱い。そういう感じなのだが、基礎となるのは関係者に会って証言を集めて事の全体像を類推するという営為である。「そういうようなこと?やってしまう?」というようなやり方の犯行が在るのだが、それでもリアリティーが強く滲む本作だと思う。加えて余韻が深いとも思う。御薦めだ。

『孤狼 刑事・鳴沢了』

↓出先に在って、持ち出した本を読了してしまったことから、書店に立寄って入手してみた一冊だ。夢中になった。最近、順次読み続けている、少し知られているシリーズの第4作である。

孤狼 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-48) [ 堂場 瞬一 ]



↑基本的には主要視点人物の第一人称で綴られる物語だ。何処か外国の探偵モノを翻訳している文章を想う。詩情が在る街の様子の描写、事態の中での主要視点人物の想い、周囲の人達との協力や対立、やがて明らかになる事の真相と、非常に読ませる物語だ。

物語は、或る男の遺体を見詰めているかのような人物の様子という描写が在って、以降は主要視点人物の第一人称というように綴られている。

青山署で刑事課に異動していた鳴沢了は、窃盗常習犯の取調を行っている。当直中に出動して逮捕したという男である。逮捕され、刑務所に入って、出てからまた逮捕ということを繰り返しているような男だ。取調には応じて色々と話すのだが、余計な御喋りが多く、鳴沢は少し疲れるような感じだった。

そういうことをしていると、本庁の理事官が緊急に招集を掛けているという話しが伝わった。特命事項で直ちに集合場所へ向かうようにということだった。取調べを別な捜査員に交代し、鳴沢は指定された警察署へ急いで向かった。

鳴沢了の他、別な署の今敬一郎という捜査員が招集を受けていた。2人を招集した沢登理事官の指示は、自殺と思われる状況で刑事が死亡した他方、近くに居たと見受けられる別な刑事が失踪してしまっているので、その失踪してしまった刑事を探し出すというものであった。極秘任務というようなことで、鳴沢と今とは方々の応援を受けられるのでもない中で、懸命に訊き込みを続けて、自殺したと見受けられる刑事や失踪した刑事の謎を明かそうとするのだ。

こうして辿り着く真相は如何に?という訳だ。

今作で鳴沢の相方となる今が面白い。通路を塞いでしまうように幅が在る体型の巨漢で、食事の心配を何時もしているような大食漢である。話しを聴く、大事なことを訊き出す、話して説くというようなことも得意だが、少し変わっている。静岡県の実家を継ぐので、何れ警視庁を退くとしている。実家というのは寺で、今は僧侶になるというのだ。この今が、鳴沢と好いコンビニなって行く。そして思い掛けない方向に進んでしまう事案で共闘するのだ。

今作には第2作で鳴沢の相方だった小野寺冴が登場する。警視庁を退いてしまい、私立探偵として活動しているということで鳴沢の前に姿を現す。鳴沢が協力を依頼するという部分も在るのだが、小野寺には独自の強い思い入れが在って、鳴沢が取組む事案に絡まっている感じだ。

鳴沢の好い相方になる今との共闘、そして小野寺が協力し、何やらとんでもない事柄に立ち向かうことになって行く。本当に眼が離せない。御薦めだ!

『歪 捜査一課・澤村慶司』

↓頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至った一冊だ。

歪 捜査一課・澤村慶司 (角川文庫)



↑少し前に読了した作品のシリーズで第2作である。途中に前作の件への言及が在り、1年半程後の出来事ということになっている。

本作に関しては、何か「映像作品的」というように感じた。第1部、第2部と各々の視点人物の目線で綴られ、第3部は両者の目線の部分が概ね交互に積み重ねられて展開するのである。

第1部は犯罪を犯してしまう側の目線になる。日向毅郎という大学4年生である男が動き、その時点へ至る迄の回想が交じる。そして高校の同級生の井沢真菜と出くわし、行動を共にして行く。

第2部は2人の犯罪の結果に直面する捜査員の側の目線になる。捜査一課の澤村慶司の目線となる。或る夜に事件で出動し、とりあえずその件の仕事が段落し、終電時間帯を過ぎた辺りになってしまってファミレスに入っていると、別な事件でまた現場に向かうという様子である。そういう中で2つの事件の捜査が進む。

第3部は逃走を図って動き回っているという日向毅郎と井沢真菜を、澤村慶司達が懸命に探し、身柄を抑えようとする展開だ。動き回る日向の目線で綴られた部分、彼らを探す澤村の目線で綴られた部分が概ね交互に積み重ねられる。

本作の題名の「歪」は何か暗示的だと思う。何処か歪んだ人生から罪が産れてしまい、それから逃れることを試みているが、「この人に話しを聴くしか無い」という事件現場の状況で、警察の捜査員達は行方を追うことになる。そういう状況にある2人が出くわし、行動を共にするという不思議な状況も生じる。こういう類の「歪」に一定の形を与えようとするかのような捜査員達の行動となる。

本作は架空の地名と、実在の地名が混在しているような中で展開している。多分、澤村慶司が勤めている県警は、神奈川県をモデルにしているのだと思う。彼に追われる日向毅郎の故郷ということになる「東北の小さな街」だが、情景や移動の様子の描写から、福島県の内陸部である会津地方か、宮城県の南側の内陸というような感じだと思った。こういう感じなのだが、逃げている日向毅郎の動きの中に東京や新潟という実在の地名も出ているのだ。

本作の物語である。

第1部では、日向毅郎が故郷の「東北の小さな街」の実家で用を足して、乗っている車で引揚げようとしている時に、高校の同級生の井沢真菜と出くわす。市の中では端と端のような感じながらも、同じ街に出ているということを互いに知る。井沢真菜は地元に一寸戻って、また引揚げようとしているとして「交通費を貸して欲しい」というようなことを言い出す。日向毅郎は「それならこの車に乗って行くか?」として、2人は車で移動を始める。そういう中、2人は御互いに罪を犯してしまったことを告白し合い、日向毅郎が思い描いた計画案で、2人で国外に逃走するという相談になる。そして移動を続ける。

第2部では、県警の捜査員である澤村慶司達が2人の罪の現場に臨むことになる。ワンルームマンションの部屋で、ベランダに置かれた箱の中で幼い子が凍死しており、室内で男性が刺殺されていた。部屋の借り主である女性の姿は無く、男性の血で汚れた衣類等を脱ぎ捨て、シャワーを浴びて着替えて何処かへ出てしまったという様子だった。その捜査が段落した後には、ワンルームマンションで異臭という騒ぎになって遺体が発見されたという話しが在り、澤村慶司達は現場に駆けつけることになった。男子大学生が他殺と見受けられる様子、鈍器で頭を殴られ、タオルか何かで首を絞めた見受けられる状態で発見された。2つの事件の捜査が始まるが、大学生の方は、特殊詐欺の“受け子”をやっていたらしいことが判る。

第3部では、計画の実行に向けて移動中の日向毅郎達が、雪で高速道路が通行止めになるというようなことで難儀する中、澤村慶司達が彼らを追う。逃走と追跡の果ては如何に、という物語である。

主要視点人物たる澤村慶司の他、上司の谷口課長、前作で行動を共にした女性刑事の永沢初美、県警のプロファイリング担当ということで澤村が少し鬱陶しいと思っている橋詰というような、前作で周辺に在った人達も健在で、各々に活躍だ。

逃走する日向毅郎と、追跡する澤村慶司という軸が前面に出ているような感では在るが、寧ろ本作は日向毅郎と出くわして行動を共にする井沢真菜が「裏の主役」かもしれない。何か余韻が深い物語だ。

『熱欲 刑事・鳴沢了』

↓かなり夢中になり、他地域へ出る場面で持ち出し、バスや列車での移動の際中にも読み進め、素早く読了に至った。

熱欲 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-47) [ 堂場 瞬一 ]



↑主要視点人物の一人称の回想風な綴り方、詩情が滲むような街の描写、主要視点人物と周囲の人達の交流や来し方、次々と起こる出来事が収斂する様子等、夢中にさせてくれる要素が渦を巻いている。

刑事として警視庁に勤める鳴沢了という男が主要視点人物ということになる。警察署の1階、警務課で相談等で来庁する人達を迎えるカウンターの辺りを鳴沢了が通り掛かる辺りから物語が起る。

鳴沢が通り掛かると、60歳代位と見受けられる人達がグループになって訪れ、色々と申し立てていて「責任者を出せ!」、「署長は居ないか!」と騒いでいる。「騙された」と詐欺被害を訴えようとしている様子ではある。鳴沢は彼らに対応するようにと居合わせた署員に押し出されるのだが、グループになって「求め訴える」とワイワイ言われても御話しということになり悪い。困惑していると先輩刑事の横山が現れ、2階の会議室で彼らの話しを聴くということになった。鳴沢は彼らを会議室へ案内したのだった。

鳴沢は青山署へ異動となっていた。生活安全課に在る。グループが訪れて訴えようとした詐欺というような事案も担当する。鳴沢が主に関わった刑事課で扱う事案とは少し違う。そういうことだが、時々当直に就くというのはどの課の刑事も同じだ。夜、鳴沢は共に当直の任に就いていた刑事課の池澤と出動していた。

出動した先は、家庭内暴力の問題で悩む女性が一時的に滞在すべく、そういう人達を支援しようという団体が用意したマンションだった。そこに滞在している女性の夫が在ら阿われて暴れるという事態が生じたので、団体の関係者が通報し、交番の警察官が出て、その後に署の当直への連絡で鳴沢達が現場に出たという様子だった。

そんな一件の後、鳴沢は学生時代に1年間の米国留学をしていた際のルームメイトが来日する計画で、久し振りに会うことを楽しみにしていた。偶然にも、その友人と地下鉄駅で出くわし、祖父母の家に同道することになった。その古い友人の祖父母の家で、思い掛けない出会いも待っていた。

こうした展開の中、青山署にグループになって訪れた人達の詐欺案件の捜査が進められ、事態が進展する中で色々な事も起きて行く。「K社」と呼び習わすことになった詐欺事件の会社の幹部達を調べる中、妙な人物達との交流というような事態にも行き当たる。

こういうような中で、事態は不思議な巡り方をする。鳴沢が活動の中で出くわした人物達の不思議な関係が明かされて行くこととなるのだ。

そういうことなのだが、新潟での経緯、新たに仕事を始めた多摩署での経緯と、色々と在った鳴沢が、新たに出会った人との関係を築いて行く中で、そうした過去を乗越えて行こうというような展開にもなって行く。或いは、シリーズが長く続いて行く入口になっているのかもしれないのが本作であると思う。

勿論、本作は完全なフィクションである。が、それでも詐欺事件の会社の悪辣さが非常にリアルで、先輩の横山と共にそれに立ち向かう鳴沢が驚き呆れる様に共感する。華々しい感じでもない、一定以上に「実在する問題」の様相を踏まえたかのような本作の展開は引き込まれる何かが在る。

本作を読むと、「そして鳴沢は?」と次作以降をとりあえず読んでみたくなってしまう。

『破弾 刑事・鳴沢了』

↓第1作を愉しく読み、長く未読であったことは間違いだったと気付いたというシリーズだが、その第2作である。

破弾 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-46) [ 堂場 瞬一 ]



↑地味な事案が思い掛けない拡がりを見せて行くのだが、そういう中に入り込んで行く展開が非常に面白い。

警視庁の多摩署、刑事課の資料室で埃に少し塗れながら過去の記録資料を呼んでいる男が在る。鳴沢了である。

その鳴沢了が連絡を受け、事件現場に出ることになった。現場の公園に向かうと、既に女性の捜査員である小野寺冴が到着済みで、鳴沢は「遅い」という言葉で迎えられた。

公園のホームレスが何者かに襲撃されたが、襲撃犯も逃げ、襲撃を受けた側も何処かへ去ってしまったという不思議な状況が生じていた。襲撃を受けた者が何者なのか、そして襲撃犯の正体を探らなければならない。鳴沢は小野寺冴とコンビでこのホームレス襲撃という事件を担当することになった。

こうした展開の他方、鳴沢了の状況が説かれる。前作の事案の結果、複雑な想いを抱いた鳴沢は新潟県警を退職し、学生時代を過ごしていた東京に移った。東京で仕事を探したが、語学堪能者枠という募集で警視庁に入って刑事として活動することになった。そして多摩署に配置された。が、何かよく判らない男が入って来たと相手にされず、資料室で資料を見ているようなことばかりして何ヶ月間か経ったという状況だった。

ホームレスの件でコンビを組むことになった小野寺は、色々と経緯が在って多摩署へ移動して来て日が浅い。この小野寺の事情も順次明かされることになる。

結局、多摩署の刑事課に在って、鳴沢と小野寺は「厄介者コンビ」という扱いだ。それでも2人は懸命に事案に取組む。そして襲撃を受けたホームレスが過去に携わっていたという活動のことを知る。

そうしている間に管轄内で殺人が発生する。自宅の辺りで襲撃を受けた男性が死亡したのであるが、この死亡した男性が、襲撃を受けたホームレスが過去に携わっていたという活動に関与していたということが判った。捜査本部が設けられることとなったが、鳴沢と小野寺はそこには参加せず、ホームレスの件を引続き担当ということになった。

地道な捜査で意外な真実が順次炙り出される。そして被疑者と対決する段での緊迫する展開に夢中になる。

こういう物語であるのだが、鳴沢と小野寺というコンビの出会いと交流、共闘という様子や、鳴沢の個人的な交友というような事柄も在って、なかなかにリアルに展開する。「そういうことだった?」と驚かされる展開になって行く。

何か、色々と在って「荒野」というような中に踏み出して独り歩むような感じになって行く鳴沢というのが前作から続く傾向という感じである。互いを補うように共闘する鳴沢と小野寺による「厄介者コンビ」の風情が好い。東京の多摩地区で展開する物語だが、情景に詩情が滲み、同時にクールである。

大変に愉しいシリーズで、出逢って善かったと思う。

『雪虫 刑事・鳴沢了』

↓よく知られている作品ということではあるが、これまで未読だった。そこで手にしてみたのだが、長く未読であったことは間違いだったと気付いた。夢中になって、頁を繰る手が停められなくなった。

雪虫 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-45) [ 堂場 瞬一 ]



↑警察の捜査員が活躍する物語を綴るということで、作者がその地位を確立した作品ということになるであろう。この『雪虫』を嚆矢として「鳴沢了」が活躍するシリーズが展開するのだ。更に作者は幾つものシリーズを手掛けることになって行く。

2025年現在、「50年程前」とでも言えば1970年代であろう。昭和40年代というような感じだ。対して、本作にも「50年程前」という話題が在るのだが、それが昭和20年代というような感じになっている。1950年代という感じだ。多少、首を傾げたくなったのだったが、本作は2001年頃に初めて登場している。2001年頃から視ると、「50年程前」は昭和20年代、または1950年代ということになる。こういうような辺りに少し以前の作品という事実が滲むのだが、作品は概ね四半世紀を経ても全く色褪せていないと思う。

美しい情景描写の中、熱いモノを秘めた青年刑事が事件の謎と隠された事実に向き合うという感じである。

冒頭、もう直ぐ雪の季節というような頃、日本海岸をバイクで疾走しているという様子から幕が開く。鳴沢了の趣味が愛車のSRでのツーリングなのだ。そういうことをしていれば携帯電話に連絡が入る。呼び出しである。鳴沢了はそれに応じて引揚げ、仕事に取り掛かる。

鳴沢了は新潟県警の捜査一課に在る刑事だ。捜査本部を設けるような事件で捜査一課の捜査員達が活動することになったので、非番で愉しんでいたツーリングを切り上げたのだ。そして先輩刑事と共に湯沢へ向かった。

湯沢で発生していたのは、78歳で独り暮らしの老女が他殺と見受けられる遺体で発見されたという事件であった。毎朝のように姿を見掛ける老女を見掛けないと気になった隣人が様子を見に家に近付いた。施錠されていない戸が少し開いているという不審な状況だったので思い切って開けて中を見た。うつ伏せで老女が玄関に倒れていた。何かの病気で倒れたのだと思った隣人が「大丈夫か?」と老女の身体に手を掛けた時、腹の側に血溜まりが在ることと、既に死亡しているらしいことに気付いた。大変に驚き、警察に通報した。そして警察が本格的に捜査を始めることになったのだ。

この事件の捜査本部は、湯沢を管轄している魚沼署に設けられた。通常、事件発生地を管轄する所轄署に本部が設けられると、その所轄署の署長が本部長ということになり、関係者の顔合わせという意味合いも在る最初の捜査本部の会議には署長が顔を出す。今般の本部の本部長を務めるのは鳴沢署長であった。捜査本部に参加することになった鳴沢了の父である。

鳴沢了の家は、祖父も父も刑事だ。祖母も母も他界していて、鳴沢は男が3人の家庭で育った。刑事として現役であった父とは接点が少な目で、一線を退いた後であった祖父の傍で育ったような感じだ。何時の間にか鳴沢了は「刑事になる」というように考えていた。更に、「刑事に産れた」とまで思ってもいた。東京の大学を卒業した後、新潟県警に奉職して刑事になり、捜査一課で勤めることになった29歳である。

こんな鳴沢が、魚沼署の若い刑事、大西と組むことを基本にして、事件の捜査に加わる。その顛末、そして鳴沢了個人の色々なことという物語だ。

自宅で襲われて死亡した老女は、家族や縁者が居ないような孤独な暮らし振りであった。時々、祈祷のようなことをしていたという。やがて50年程前に2千人とも3千人とも言われた会員を擁した団体の代表を務めた経過が在ったことが判る。或る種の新興宗教のような感の団体で、彼女は言わば教祖だったのだ。そういう次元の古い経過と、現在の時点で進行する事件とが交差する中で、鳴沢達が真相を解き明かすことに挑むのだ。

その最中で、鳴沢の父や祖父との色々なことや、偶然に出くわした中学校の同級生だった女性との関り等、色々と織り込まれている。詩情溢れるような、それと同時にクールな雰囲気の物語が、雪が降り積もり始める予兆が感じられる寒い新潟で展開する。

非常に夢中になった。シリーズ各作品も読みたくなる。御薦めだ。

『逸脱 捜査一課・澤村慶司』

↓警察の捜査員が活躍するという感じの小説だ。その種の小説を多々送り出している作者の作品で、偶々眼に留まって入手した。

逸脱 捜査一課・澤村慶司 (角川文庫)



↑紐解いてみると少し夢中になった。頁を繰る手が停め悪くなり、素早く読了に至った。

本作は明確に「〇〇県警」というような設定はなされていない。架空の県というような感じで、街の名も架空という感じだ。他方で、福岡、大阪、京都、東京、成田空港というような実在の地名が作中に出て来る場合が見受けられる。そうした様子で、また港や工業地帯が描写されているので、何か神奈川県や茨城県というような雰囲気だと思った。そういう些か本筋を外れているかもしれないような辺りが気になってはしまったが、それはそれとして作中世界に強く引き込まれてしまった。

物語は刑事の澤村慶司の視点で綴られている。それが殆どなのだが、一部に別な視点人物が登場する短めな部分が挿入される。別な視点人物とは、澤村達が手掛ける事件の犯行を重ね、そして警察の活動を見詰めているという人物だ。この人物の正体を解き明かし、この人物を追って逮捕を目指すという顛末が綴られた物語ということになる。

冒頭、この「別な視点人物」の部分で始まる。禍々しい犯行の様子が描写される。そしてその犯行の結果である事件現場に臨んで捜査活動に着手する警察の捜査員達の様子になって、本格的に物語に入っている。

澤村は県警の捜査一課に所属する刑事である。澤村が在る班の出番となって事件現場に臨んだ。他殺と見受けられる遺体が発見されたのだ。細い線で絞めたと見受けられる状態であったが、首筋に小さなナイフが突き立てられていた。澤村はこういう様子の遺体が出て来る事件が2件在ったところで、眼前の遺体は3件目ということに思い至る。

やがて捜査本部が設けられ、澤村は所轄署の少し若い女性刑事である永沢初美と組んで活動することになった。永沢初美は生活安全課の刑事である。所轄署も投入可能な人員を全て投入する体制で捜査に臨んでいるのだ。

澤村は色々と過去の経過も在って、捜査一課の谷口課長とは長く深い縁が在る。そういう他方、西浦管理官とは折り合いが悪く、熱くなって衝突するというような場面さえ在る。そういうような中で、殺害されてしまった人物について掘り下げる。そして澤村が当初手掛けた事件の被害者だけではなく、他の2件に関しても調べるようになる。

難航しながら捜査が進められる中、澤村は研修留学経験者でプロファイリングをしているという橋詰と出会うことになる。澤村の目線で、橋詰は余り相性が好くない人物だった。マイペースに過ぎて苛立つような面が在る人物なのだ。

夏の暑い盛りという中で澤村達が奔走する。澤村達が見出す事件の真相は如何に?そして被疑者を無事に確保出来るのか?ということになって行く。

過去の出来事が契機で、何か熱い想いで仕事に取組む澤村は、何処か「一匹狼」的な、突っ走ってしまうような男である。動き易い服装が好いとジーンズを常々着用して動き回っている。個人的にはカメラ好きという一面も在るのだが、デジカメを常時持ち歩いて、事件現場や人の顔と名前を覚えると称して出逢う人の顔を写真に撮るというようなこともする。こういう少し際立った男が向き合う本作の事件は「連続殺人」ということになった。しかも、過去に類似事件が発生していて未解決で、その時に一般に報道するようなことをしていない「特徴」の「模倣」というのまで在る。何か、米国辺りの刑事ドラマのような雰囲気も色濃いかもしれない。

際立った感じの澤村に対し、真面目な若手という感じの永沢初美や、マイペースな橋詰という手近で動くような人達とのコンビネーションも好い感じだ。捜査が進み、事の真相に近付く中、次なる犯行を阻止しようと澤村が奔走するような場面の緊迫した様子、被疑者との対決等、本当に夢中になった。

2010年頃に登場した作品だという。少し以前だが、そういう古さは全く感じられない。実に面白かった。広く御薦めしたい。

『献心 警視庁失踪課・高城賢吾』

興味を覚えてシリーズ第1作を読んだ。気に入ったので既刊のシリーズ各作品を順次読み進めた。既にシリーズ10作品が揃っている状態である。纏めて入手し、毎日のように各作品を読み続ける羽目に陥った。「羽目に」としたが、本当に「停められない…」というように読み進めたくなってしまうシリーズなのだ。

↓今般、10作品在るシリーズの第10作を夢中で読んだ。読了して凄く深い余韻に浸る。

献心 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課で活動する高城警部が主要視点人物となっている。身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった高城が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。各作品は、高城の一人称による語りという体で綴られ、何処となく外国作品の翻訳的な感じがしないでもない。探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂うのだ。

シリーズの小説にも色々な感じのモノが在ると思う。本作の作者は警視庁の警察官達が活躍するシリーズを何本も展開している。何れも、シリーズの作品が重ねられる中で半年や1年というような時間が過ぎ、何作も続く中でそういう時間経過が5年間以上にもなる。そういう時間の流れの中、作中で起こる様々な事案の顛末と共に、シリーズ各作品に登場する主要な人物達の身近に起こる事やその展開も描かれる。そういうことで「人の人生の中での動き、変化」が読者の側に迫って来る。

この「失踪課」のシリーズは、高城警部が向き合うことになる様々な事案の顛末と合せて、彼の中での変化、変化を反映した行動というようなことが描かれる。7歳の娘が失踪してしまったという出来事が在り、全く事情が判らないままに年月が過ぎる。7年間程というもの、高城は離婚もしてしまって、酒浸りになってしまっていて、配属された所轄署で半ば居眠りしているばかりのような有様だった。そういう状態から、明確な結論が出ていない娘の件に関しても調べるというようになって行く。やがて娘の死という事実に直面するのである。こうした高城の足跡が各作品を通じて順次描かれるというシリーズだと思う。

そして本作の物語になる。

冒頭、次の人事を巡って、人事問題を司る関係者達が話し合っているような描写が在る。そして物語が始まる。

高城の警察学校の同期に長野警部が在る。捜査一課で“長野班”を率いて活躍している。この長野の案内で、高城は或る会社員に会って話しを聴こうとしていた。

高城の娘が失踪してしまったのは12年前のことである。が、他殺を示唆する頭部に傷が在る状態の白骨遺体が、全焼してしまった家屋の基礎部分から発見されてから、未だ2ヶ月弱である。他殺の可能性が高い白骨遺体ということで捜査本部が設けられ、捜査活動が行われていた。長野は部下達も動かしてこの事案の捜査に携わっていた。そういう中、12年前の高城の娘の一件の時に、それらしい女児を視たと思うとしている人物が現れた。

高城の娘の件に関して、高城自身は「近親者の事件」ということで捜査に携わることを禁じられてしまっていた。が、長い付き合いの友人でもある長野は、高城がこの或る会社員に会って詳しく証言を聴くべきだと考えたのだった。

そしてこの会社員と会って話してみたのだが、最初に「視た」としていたものが「判らない」と曖昧な話しになってしまった。

不自然な話しであるので、長野は部下達を動かしてこの会社員の様子を探ろうとした。そうした中、会社員は弁護士を雇い、その弁護士を差し向けて行き過ぎた捜査活動で迷惑を被っていると抗議をした。やがてマスコミがこの件を取上げるかもしれないというような動きを見せ始めた。

その他方、白骨遺体の発見とDNA鑑定によって身元が確定してから2ヶ月程度とは言え、実質的に12年も前の事件なので捜査は難航している。結局、高城自身や失踪課第三方面分室の捜査員達も捜査本部を手伝うことになって行く。そして高城の娘が失踪した当時の、小学校に在った児童達やその保護者達への聴取が薄かったということになり、当時の全校児童を対象に接触を試みる運びになる。

なかなか連絡が付かない人物が何人か在った中、事件から少し経って都内で転校し、その後は秋田県に移っているという高城の娘の同級生と母親とが在った。母親の実家の旅館で仕事をしていたらしいのだが、旅館が廃業していて行方がよく判らなくなってしまっていたのだった。高城はこの母子に関して調べるべく、盛岡へ出て、母子の足跡を探って秋田県の東寄りな地域を走り回る。

証言の趣旨を翻すようなことや、弁護士を依頼して警察に強硬に抗議するような真似をした会社員の意図は何なのか。行方がよく判らない様子の同級生母子の行方と、その方々を転々としたような行動の理由は何なのか。そして高城の娘が死亡して埋められた経過の真相は如何だったのか。高城は必死にそれらを解き明かそうとし、明らかになる事実に向き合って行くことになる。

本作は、この作者が時々やっている「他シリーズの主要人物達の客演」が見受けられる。刑事総務課の大友(「アナザーフェイス」)、「追跡捜査係」の西川と沖田が登場している。捜査を巡って新聞社が動いているようだということが在って、その辺のことを調整し、その顛末を新幹線で東北へ出発する高城に伝えるべく東京駅に現れる大友。12年も前に起きた事件の被害女児が白骨化して発見という異常な事態の中、捜査本部に入って活動している西川や沖田。そういうような様子が一寸面白い。「追跡捜査係」の2人に関しては、過去の捜査で及ばなかったと見受けられる事柄を掘り起こして「これをやろう!」と提言し、捜査本部の参謀長のように活躍する西川、本部の設けられた署の駐車場片隅に設けられた喫煙コーナーで高城と語らう沖田というような感じだったが、何か凄く印象に残る。

ゲストの他、このシリーズのレギュラーと呼ぶべき第三方面分室の面々も各々に活躍する。更に第三方面分室が間借りしている渋谷中央署の警務課に異動し、分室時代は「オヤジさん」と慕われていた法月や、その娘で弁護士の法月はるかも大事な役割を果たしている。

レギュラーと呼ぶべき面々の中、女性の明神刑事もシリーズで描かれた日々の中で少しずつ変わった。尖っていて不機嫌な感じだったのは、不本意な「玉突き人事」での失踪課への異動であったからだ。やがて、不機嫌な感じは後退し、基本的に多少尖っているものの、硬軟使い分けて捜査活動に励み、頼もしい存在になって行く。そしてキツい言い方をするような場面も在るが、個人的な心の問題を抱える高城に親身かもしれない。他方、第9作に至って明神自身に個人的な問題が生じ、それに何とか折り合いをつけて仕事に勤しんでいる。この第10作でも高城を援けて活躍する。

『献心』という本作の題である。これは「献身的」の「献身」を少しアレンジしたのだと思う。他社へのサポートというような「献身」だが、「身」というよりも「心」ということ、精神的に応援する、応援されるというような意味であるような気がする。そして本作中、この「精神的に応援する、応援される」に何重もの意味が込められているように感じる。

素晴らしいシリーズに出逢い、全10作を読了して善かった。本作を、同時にシリーズ各作品を広く御薦めしたい

『闇夜 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第9作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も「続き」が気になってドンドン読み進めた。

闇夜 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

物語は前作の出来事の少し後という時期2月、3月頃というような様子の中で進む。

冒頭、高城警部が自宅ソファで酔い潰れたように眠っていて、「夢の中?」という男女の話し声のようなモノが聞こえるという気がしているというような辺りがら始まる。

男女の話し声というのは、高城警部が配属されている失踪課第三方面分室の醍醐刑事と明神刑事だった。施錠せずに眠ってしまっていた高城の家に上った2人は、少々手荒なやり方で高潮を起し、支度をさせて連れ出す。

高城は、身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした時期も在った。事件とは当時7歳の娘の失踪だった。失踪課での活動を続ける中、高城は生存を信じて娘を探そうとするようにもなっていた。が、その死亡が確定した。娘の失踪当時は建築中だった戸建て住宅で火災が発生して全焼してしまうという出来事が在った。その基礎部分から子どもの白骨遺体が見付かった。DNA鑑定等の結果、高城の娘であると確定した。

高城はこの娘の葬儀を済ませた辺りで酒浸りになってしまい、無断で欠勤して自宅で酔い潰れていたのだった。「全員出動」という事案の発生を受け、朝一番に醍醐刑事と明神刑事が連れ出しに現れたのである。失踪課第三方面分室の中では、高城は無断欠勤していたということには「なっていない」というのだ。戸惑いながら高城は捜査に参加する。

失踪課第三方面分室の全員で動くことになったのは7歳の少女の失踪であった。ピアノ教室から帰らないので探し、小学2年生の未だ幼い女児が動き回るような時間帯を過ぎていると夜遅くに交番に相談が入り、所轄署に加えて失踪課へも連絡が入って、第三方面分室の面々が活動を始めた。高城は自身も「7歳の娘が失踪」という経過を経験していることから、事件を何とか解決することを願いながら捜査活動に参加した。

やがて女児は絞殺死体で発見された。最悪な結果である。高城は娘を喪った両親に寄り添おうともするが、殺されてしまった顛末を解き明かすことが必要であると、執念深く事態を調べようとする。そうしていると、女児絞殺の一件が在った地区から然程遠くない辺りで、また女児の失踪が発生したという報せが在った。高城は走った。

こういうことで、自身の身に降りかかった事態であったような、7歳女児の失踪というような事態が相次いだ中で、脱力状態から立ち直る高城が執念深く証言を追って被疑者を特定し、取り押さえる顛末である。被疑者を捜査員達が追跡して犯行を繰り返しそうな場面での逮捕を試みる。その場面が凄く緊張感溢れる感じで夢中になった。

本作では、高城とコンビで動くことが多い明神愛美刑事に個人的な問題が生じてしまうというような場面も在る。また高城が長く付き合う居酒屋の店主が事務局長を務めているという「犯罪被害者の会」関係も出番が多い。こういう辺りは、同じ作者による少し後の、犯罪被害者の支援を担当する人達の物語のシリーズに通じるのかもしれない。

自らも無念を胸に、許すべからざる卑怯で歪んだ犯罪者を執念深く追って奔走する高城達の様子は、読んでいて力が入る。また前の巻の事案について、この巻での事案に少し関連が生じる。そういう辺りはシリーズらしい。

同じ作者の他シリーズに「失踪課の高城」と出て来るというのが在って興味を覚え、シリーズ各作品を紐解き始めた。そういう切っ掛けだが、各作品に出会えて善かったと思う。最も身近な家族が失踪し、それを巡って考え方や感覚の違いが判明して徹底的に不和となった配偶者と別れ、何やら酒浸りのようになっていた高城が、失踪課での活動や仲間達の支えで立ち直って行くシリーズだ。色々な人達の物語を解き明かすような捜査活動なのだが、許すべからざる悪には厳しく立ち向かっているという感じが好い。この愉しいシリーズは10作ということだが、終に第9作に至ってしまった。

『牽制 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第8作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も夢中になった。

牽制 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は年始の休暇時季が過ぎた1月前半頃ということになっている。

物語の冒頭、高城警部が自家用車を駆ってアクアラインを往き、千葉県を目指して移動中という状況から始まっている。(本筋と然程関係が深くない話題だが、個人的には飛行機に乗っていて眼下に見たものの、何らかの形で走った経過が無い道路なので、気に入っているシリーズの小説の主人公がこの道路を移動する様子が凄く興味深かった。)

物語の話題に戻る。高城が酒浸りというような状態に陥ってしまい、更に離婚に至る切っ掛けとなった、乗り越え難かった身に降りかかった事件というのは娘の失踪であった。姿を消してしまった当時、娘は7歳の小学1年生だった。その娘の失踪から7年程を経た頃、高城は失踪課へ異動し、その活動を続ける中、間違いなく死亡したということが判明したのでもない限り、娘を探すことは続けるべきだと考え、行動するようになっていたのだ。そういう中、時間が経って19歳になっている娘の状況ということで、当該の年齢で身元がハッキリしない女性の遺体が発見されたというような情報が在ると、現場に出向いてそれを視るということをしていた。3時間程度以内であれば、車を飛ばして現地へ向かうのが動き易いと、高城は自家用車を求めるということもしたのであった。

7歳の女児であった娘も19歳になっているであろうが、黒子や3歳の頃の火傷の小さな痕等の特徴は変わらないと見受けられるので、それを確認することや、コンピュータで造った「19歳を推定する顔の感じ」という画も持っていて憶えており、更に失踪した頃に提供したDNA鑑定向けのデータもデータベースに在るので、照合もできるということで高城は方々を訪ねていた。今般は千葉県の富津へ向かっていた。遺体が発見され、その件の対応をしている地元警察署と連絡を取り、案内役として若手捜査員が出るというようなことにもなり、高城は富津を訪ねて地元警察署の捜査員と会い、発見された遺体を検め、発見現場の様子等を視た。

富津の遺体は娘ではないと確かめ、高城は食事を摂って都内へ引揚げ、渋谷中央署の中に在る職場である失踪課第三分室へ顔を出そうというようなことを考えていた。そこで連絡を受けた。

失踪課第三分室に寄せられた相談は、高校3年生が姿を消したという内容だった。甲子園にも出場した高校の中心選手、強打者で、ドラフト1位指名でプロ野球入りということになっている生徒だった。この生徒は富津の出身で、高校進学時に東京都内の高校に進み、寮生活をして練習に励んで試合に出場して活躍していたのだという。高城がこの失踪者の出身地である富津に偶々居合わせた。そこで富津に居る中学時代の友人達や両親等、本人を知り得る人達の事情聴取を行って欲しいということになった。が、プロ野球の各チームがキャンプ入りする前の、新人選手がチームの寮に入るような予定が近いことから、姿を消した件が不用意に拡がらないように慎重な捜査が求められた。

この高校球児の事案の他方、渋谷中央署管轄下の恵比寿駅前交番に在る21歳の巡査が、制服着用で勤務をしていた中で姿を眩ませた。按配が悪いことに、件の警察官は拳銃を持っていたらしい。渋谷中央署の中に間借りしていう失踪課第三分室の面々もこの巡査の失踪の件でも奔走することになった。

高城は高校球児の問題の捜査に勤しむ。件の高校生の高校は荻窪に在った。高城が嘗て妻や失踪した娘と住んで居た地区である。高校球児の問題に取組む中で、高校の生徒達が絡む別件や、その別件に件の生徒の関与が噂される等、高城は嘗て高校球児であった経過も在る醍醐刑事を主な相方にしながら事案に取組んだのだが、荻窪で動き回ると色々と思い出す事柄も在る。そして、10年程を経て、嘗ての顔見知りに出くわすというような場面も在った。

こういうようなことで、自身の問題に向き合いながら、捜査対象の若者が妙な不利益を被らないように、何とか探し出して彼を案じる両親等を安心させたいと高城は奔走する。やがて高城が衝撃を受けてしまう出来事が待っている。

シリーズ各作品の事案の中では、「事の次第が明らかになってみれば…」という「ドッキリ」的な感じが強い内容かもしれない。が、何か好い事にも好くない事にも向き合いながら動く人生を静かに見詰めながら生きる様子が折り重なる社会というようなことに想いが巡る。本作は何か酷く余韻が深い。事件関係者達の「その後」が殊更に気になる。加えて、高城のその後が気になる。そんなことで素早く、これの次となる第9作を手にせざるを得なかった。

「失踪してしまう」という異常な事案には、事案の数だけの事情、物語が在るものである。そういうモノに向き合う、自身がかなり「訳アリ」な主人公が登場するこのシリーズは非常に興味深い。巡り合って善かったシリーズだ。広く御薦めしたい。

『遮断 警視庁失踪課・高城賢吾』

振り返ってみると、何やら事件が生じて捜査員達が活動して解決を目指し、同時に捜査員達の生活や人生が描かれるというような、所謂「警察小説」というような系統の小説を随分と多く愉しんで来たかもしれない。その種の小説は、好評を博してシリーズになるという例も少なくない。色々なシリーズに親しんで来た。現在もそういうシリーズ作品を愉しんでいる。

↓幾つものシリーズを愉しんで来たのだが、最近になってシリーズ第1作を読み、気に入ったので既刊10作を順次読み進めている。その第7作ということになる。各作品が非常に愉しいのだが、本作も夢中になった。

遮断 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は寒くなって行く時季の或る日ということで始まる。

冒頭、高城警部は名刺を示しながら高校1年生の少年に話し掛けている。少年が小学1年生位であったような頃に関する話しをしている。

高城が酒浸りというような状態に陥ってしまい、更に離婚に至る切っ掛けとなった、乗り越え難かった身に降りかかった事件というのは娘の失踪であった。姿を消してしまった当時、娘は7歳の小学1年生だった。その娘の失踪から7年程を経た頃、高城は失踪課へ異動し、その活動を続ける中、間違いなく死亡したということが判明したのでもない限り、娘を探すことは続けるべきだと考え、行動するようになっていたのだ。

高城の娘が失踪して、通算9年となり、同じ年だった子ども達は高校1年生という年齢になっていた。そういうことで、娘が失踪した当時に近所に住んでいた子ども達の話し、遠い記憶を探ろうと高城は手が空いた時間に活動していた。

そんな最中、失踪課第三方面分室に相談者が訪れ、事案が発生したという連絡を受けた高城は分室へ向かった。

相談が寄せられた事案というのは、IT系企業で仕事をしているインド人のエンジニアが行方を眩ませてしまったというものだった。勤務していた会社の総務部長の話しを聴き、インド人エンジニアを探すべく活動を開始しようとした時、また別な連絡が入った。

連絡が入ったのは、厚労省から警察庁、警察庁から警視庁、そして警視庁の部内で失踪課にという経路で寄せられた事案であった。厚労省の六条審議官が行方不明になってしまったのだという。六条審議官は、昼食を摂るとして厚労省のオフィスを出ていて、午後からの出席予定であった会議に現れず、連絡も取れないというので厚労省部内で問題が生じたと考えた。やがて自宅にも戻らず、更に家族とも連絡が取れなくなってしまっていた。六条審議官の自宅が在る辺りを管轄する第三方面分室に加え、厚労省等の官庁が在る辺りを管轄する第一方面分室が捜査員を出して事案に取組むということになった。

六条審議官というのは、失踪課第三方面分室に在る女性捜査員の六条舞の父親である。第三方面分室の六条舞の母親は大手製薬会社創業者一族の出で、所謂「御嬢様」で、何故警察官になって働いているのかよく判らないという様子で、定時退庁が常で合コンやら習い事と出歩いていて、外での捜査活動を積極的にするのでもなく、オフィス内でデータ整理を専らとしているような様子だった。父親の行方が判らなくなってしまったということで、六条舞はとりあえず自宅待機ということになっていた。

インド人エンジニアの事案には、交通部から異動して来ていて、掴み処の無い人物として余り評判が芳しくない田口警部補を取組ませるということになり、高城警部以下の第三方面分室の面々は六条審議官の事案に取組むことになった。

六条審議官は労働省に入省して官僚としてのキャリアを歩んで来た。近年は国外のエンジニアや研究者を迎え入れる「高度人材」というような事案等に取組んでいたのだという。その関連で接触した企業等の中に、行方を眩ませたインド人エンジニアが勤めていた会社も在ったらしい。2つの事案に意外な接点が生じたかもしれないという状況だった。

少し前の事案の後、何か覇気が無くなってしまっていた第三方面分室の阿比留室長だったが、父親の件で衝撃を受けている六条舞を援けようと、また高級官僚である失踪者の件で警視庁部内の方々からしつこい問い合わせが入って対応しなければならないことから、以前の精力的な様子が少し戻っていた。阿比留室長は、六条舞の様子を見舞うと称して六条邸を訪ねた。

その六条邸を訪ねていた阿比留室長から、高城は連絡を受けた。六条邸に脅迫電話が架ったのだという。六条審議官を誘拐したので、1億円の身代金を用意せよということなのだという。高城を含む関係者に衝撃が走った。

というように「六条審議官が姿を眩ませた!?」という事案の波紋が拡がって、次々と様々な出来事が起こり、それらの渦中で高城や、仲間の明神刑事や醍醐刑事が奮戦する。眼が離せない展開が続き、頁を繰る手が停められなくなってしまって、素早く読了に至った。そして読後の余韻に少々浸った。

本作は「そう来たか?!」と次々と色々なことが起こりながら展開し、失踪課第三方面分室の捜査員達が奔走し、警視庁の各課の捜査員達の動きも在って、事態が意外な方向に向かって収束するのが面白いのだが、途中の様々な細かい描写も凄く面白いと思った。行方を眩ませたエンジニアの会社の総務部長による「役所が絡むと」というような話し、六条審議官による行政や政治を巡る話し、評判の芳しくない田口警部補が動き回ってみた顛末等、興味深く読んだ。そして、六条舞が警察官として勤めようとした経過の噂に、父親が渦の中心になった事案と向き合う中で経験する心境の変化や行動というような辺りも興味深い。

身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまっていた高城警部は、シリーズ各作品での出来事や活動を通じ、少しずつ変わって来た。如何いうようになって行くのか、益々夢中になりそうだ。

『波紋 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズであるが、本作はこのシリーズの第6作ということになる。既にシリーズ10作品が揃っている段階で第1作を手にして読了して大変に気に入ったので、各作品を順次読み進めている。

波紋 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズである。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

本作の物語は、警視庁で人事異動が行われた3月最初の頃の或る日から始まる。

高城警部は失踪課第三方面分室で一緒に活動していた法月警部補が制服姿で現れた様子に多少驚いている。私服姿の見慣れた様子とは違う。定年が近く、心臓を患った経過の故に、閑職というように見做されていた失踪課に異動していた法月だが、頼もしいベテラン捜査員で高城は頼りにしていた。法月は年長者として高城に助言をする場面さえ在ったのだ。分室内では「オヤジさん」と仲間たちに慕われていた。高城がそういうように呼び始めたのだったが。そういう様子であって、法月自身も失踪課勤務継続を望んでいたが、制服着用で出勤して様々な事務等を行う渋谷中央署の警務課に異動ということになったのだった。異動して程無く、同じ渋谷中央署に間借りしている失踪課第三方面分室に法月が現れ、高城と話している。

高城が失踪課に異動して以来、色々な事案が発生して分室のメンバーが奔走していたが、異動で分室を出た法月には心残りが在った。古い失踪事件を少し調べてみようという思いを遂げられなかったのだ。法月は関係の概要資料の写しを持っていたのだが、それを高城に託した。

法月が高城に資料を託したのは5年前に発生した事案である。介護関係で用いるロボットの研究に取組んでいた技術者が会社から姿を消して帰宅しなかった。行方が判らないということになった。そしてその旨を警察へ届出たということが在った。が、行方が判らないという話しになった頃から39時間程度を経て、高速道路で多くの車輛を巻き込む事故が発生した。事故現場で、事故車の1台に乗っていた男性が如何した訳か抜け出して姿を消してしまっているということが判明した。この姿を消した男性が、行方が判らないと届出が在ったロボットの研究を手掛ける技術者に似ているという話しになっていた。

事故現場で姿を消した男性が似ているようだという話しが出て以降、件の技術者に万する情報は全く無かった。銀行口座の資金の出し入れ、クレジットカード等の利用、携帯電話の使用というような記録も無いのだ。が、何らかの事由で死亡してしまったというようなことが断定出来る何かが在るのでもないのだ。飽く迄も「行方不明のままに5年」である。

加えてこの5年前の技術者に纏わる事案の頃、失踪課というような、行方不明者の捜索を専らとするような部署が在ったのでもなかった。そうしたことも踏まえ、高城は分室の各員を動かしながら事案の捜査に取組んで行くことにした。

そういう他方、分室の阿比留室長は以前とは様子が変わってしまった。刑事部の傍流と見做される失踪課から、本流と見做される捜査一課等でのポストへの異動を希望するという上昇志向が見えなくなった。定時に出勤し、定時に退勤するという様子で、自席でデスクワークをしているばかりとなった。高城としては、法月の異動を断るというような、分室の陣容を護るような、可能であった筈の動きを見せなかったこと、そして後任に刑事部で捜査活動をした経験が殆ど無い交通部の然程評判が好いのでもない人物を容れたこと等、不満が多くなっていた。そして、偶々手間が掛かる事案が無かった中で、分室内の活気も失われたような様子だったのだ。

こうした中で5年も前の技術者の行方不明事案の捜査が始まる。そういう中、行方不明の技術者の生存を示唆する出来事が発生した。勤めていた会社に、本人の署名が入ったメッセージが届くのである。

こういう中、進行する会社での事件と、事件の重要参考人または被疑者となってしまった行方不明者の捜索という状況が進み、高城達が奮戦することになる。捜査陣が行き当たった真相は如何に。

こういうことで意外な事態が次々に起こって行くことになるのだが、少し夢中になってしまった。

力が入り過ぎる纏め役というのも困るが、力が抜け過ぎる纏め役というのも困る。そんな中で分室のナンバーツーということになっている高城は、各員を巧く動かして事案に取組む。そして事案に関して乗り出して来た熱血漢、高城の警察学校の同期である捜査一課の長野警部と組んで動く場面も在る。また分室の捜査員を著しい危険に晒す訳にも行かないと、長野とやり合うような場面も在る。

「5年間も行方不明」という異常事態と向き合うというような事に関して、高城が様々に考えを巡らせるような描写も一部に在るのだが、少し考えさせられる。そしてこれは、高城自身の乗り越え難かった身に降りかかった事件にも通じることとなる。更に、事案が解決した後の後日談的に、高城、法月、加えて分室の捜査員である明神が語らう場面が在るのだが、その場面の余韻が深い。

何本もの警視庁の警察官達が活躍するシリーズを手掛ける作者は、或るシリーズで別のシリーズに登場する部署や主要人物の名を出すようなことをする場合が多く在る。そんな中で「失踪課の高城」というのが在る程度頻繁に出る。そんなことからこのシリーズに関心を寄せたのだったが、出逢えて非常に善かったシリーズである。

『裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズである。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。

裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズであるが、本作はこのシリーズの第5作ということになる。

本作の物語は梅雨時の或る月曜日から木曜日という感じの物語になっている。

高城警部は頭が上がらない存在である元上司に呼ばれて会食をする。席上、高城警部が渋谷中央署に間借りする失踪課第三方面分室に異動して以来、様々な事件の捜査で実績を挙げていて、第三方面分室は評価を上げているというような話しを聴かされる。

そういうことが在った後、渋谷中央署の失踪課第三方面分室に出勤してみれば「課長査察」という事案が待ち受けていた。半年に一度、普段は本庁に在る課長がやって来て色々と確認するという査察で、事前の準備書類が膨大なものになってしまう。室長の阿比留真弓警視と相談しながら取組まなければならないと高城警部は考えた。

そういうことで高城警部は阿比留室長に相談しようとするのだが阿比留室長の姿が見えない。何かの会議に出るということや、「庁内政治」というのか上昇志向の強い阿比留室長は色々な人に会いに行くことが多く、席を外しているという場合も少なくはない。が、行先を誰かが聞いているというのが普通である。今般は誰も知らない。面倒な作業が生じる査察対応準備を放り出して姿を眩ませてしまっている形だ。

高城警部は、とりあえず「時季外れのインフルエンザで高熱が出て休んでいる」という「ことにする」として阿比留室長を探してみようとする。が、阿比留室長は住まいのこと、家族のことというような個人的な事柄を全然話さない人物だった。第三方面分室の中では誰も聞いたことが無かった。世代が近い同性ということで連れ立って昼食を摂るような場面が無いでもない事務職員の小杉公子も、阿比留室長の個人的な事柄は聞いた記憶がないという様子だった。

阿比留室長の件で活動をしようとした矢先、失踪課第三方面分室に相談者が現れた。やって来た若い男性は大学生で、同じ大学に在る交際中の女子学生の行方がよく判らないのだと申し出る。土曜日に会った後、月曜日に相談をしている。少し性急であると思いながら話しを聴けば、訪ねてみた女子学生のアパートは施錠されておらず、扉を開けて中を覗くと誰かが家探しをしたような荒れた状態であったのだという。そこで警察に相談と思い立ったのだという。何かの事件を感じさせる状況であることから、この女子大生の事案にも取組むということになった。

やがて査察に向けて拳銃の保管庫を見ると、阿比留室長の拳銃が持ち出されていることが判った。阿比留室長は拳銃を持ち出して行方を眩ませてしまったということなのかと、高城警部達は危機感を強める。

高城警部を先頭に失踪課第三方面分室の面々は奔走する。「査察」は木曜日の午後3時に予定されていることから、それまでに阿比留室長の事情を探って、本人を見付け出す必要が在った。他方で女子大生の件も気懸りな話しが出て来る。懸命の捜査の果てに辿り着くことの真相は如何に。

という感じなのだが、本作は失踪課第三方面分室の面々が各々に全力を絞り出して奮闘する。そういう様に夢中になってしまう。頻繁に雨が交じる中で駆け回るが、次々と色々なことが起こり、やがて緊迫する展開になって行く。

本作の題名である「裂壊」だが、これは「破れてしまう」というような意味合いだ。「破れてしまう」のは何なのか。色々な意味合いが込められているようにも思う。

高城警部は「訳アリ」だが、阿比留室長も「訳アリ」であり、そこから拡がる波紋が本作の核心かもしれない。そういうような部分の他方、失踪課第三方面分室の面々が力を合せて難しい事態に立ち向かうというような感じが育まれている。益々、目が離せないような感じになって来たシリーズだ。

何本もの警視庁の警察官達が活躍するシリーズを手掛ける作者は、或るシリーズで別のシリーズに登場する部署や主要人物の名を出すようなことをする場合が多く在る。そんな中で「失踪課の高城」というのが在る程度頻繁に出る。そんなことからこのシリーズに関心を寄せたのだったが、出逢えて善かったシリーズである。

『漂泊 警視庁失踪課・高城賢吾』

「失踪課の高城」というシリーズが気になり、第1作が気に入ったことから、シリーズ各作品を順次読んでいる。こういうようなことをするのは実に愉しいものだ。

↓シリーズの第4作である。身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。警部の階級に在る高城から見れば“部下”ということにはなるが、失踪課第三方面分室の面々の中に「気心の知れた仲間」という存在の人達も生じている。そんな中での出来事が展開する本作だ。

漂泊 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られている本作は、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。そういうのもかなり気に入っている。

本作の物語は、冬の或る日の出来事である。作中、東京ではやや珍しい、雪が降り積もるような場面も在る。真冬である。

高城が愉し気にしている様子から物語は始まる。「気の置けない仕事仲間」という感にもなっている明神や醍醐と外で呑んだ帰り道だった。久し振りに外で愉しく呑んだという様子であった。

少し後方から明神が高城を大きな声で呼び、呑んでいた店に携帯電話を忘れていたことを指摘する。高城は振り向いて明神に歩み寄って携帯電話を受け取ろうとした。その時、明神が吹き飛ばされた。高城と、もう一人居合わせた醍醐は慌てた。

明神が立っていた辺りのビル内で火災が発生していて、バックドラフト現象の風で明神は吹き飛ばされたのだった。救急車や消防を呼んで明神を病院へ搬送した。彼女は脳震盪を起こしていたのでそのまま入院した。

明神が吹き飛ばされたバックドラフト現象を起こしたのは、ビル内で営業しているバーの火災の故であった。火災の現場から男性2名の遺体が発見されており、そこには他殺を疑わせる傷も見受けられた。発見された遺体の中、バーの店主は特定されたが、もう1名の遺体が身元不明ということであった。

高城はこの身元不明の遺体の身元を割り出す必要が在ると考えた。捜査一課が乗り出し、失踪課第三方面分室も間借りしている渋谷中央署に捜査本部が設置され、他殺を疑わせる傷も見受けられる遺体の一件を捜査することになった。高城達はこの捜査本部を手伝うような形になって行く。

その時、失踪課に届出が在ったばかりの男性行方不明者が話題に上った。身元不明な男性の遺体と身長や、火災で傷んでいたにしても推定される年代とが一致すると思われる男性だった。それは少し人気が高い作家であった。連絡が取れず、出版社の担当編集者が探し始めたが、アパートを引き払ってしまったらしい様子で、銀行や携帯電話等も解約してしまっている様子で困ってしまった。そこで本人の妹と共に失踪課に届出を行ったというのだ。

こうして高城は行方不明な作家の件を入口に、火災に見舞われたバーで何が在ったのかを解明して行くことになる。

本作はミステリーを手掛けている作家の行動や想いという要素がなかなかに興味深いようにも思った。老練な高城が、色々な関係者の証言を巧みに引き出し、事件の全体像を何とか描き出そうと奮戦する。失踪課の公用車となっているスカイラインを駆って、色々な場所を訪ねて調べる。そして窮地に陥った仲間を援けようと迷わず飛び出すような熱さを見せる場面も在る。

「訳アリ」な主人公の高城が、そういう部分と折り合いを付けながら奮闘する様子が非常に面白いと思う。このシリーズに巡り合って善かったと思う。広く御薦めしたい。

『邂逅 警視庁失踪課・高城賢吾』

同じ作者の別なシリーズの作品に部署名や人名への言及が在ることで興味を覚えていて、シリーズ第1作を手にした。そしてその第1作が気に入って「続き…」とシリーズ各作品に手を伸ばし始めている。

↓第3作である。これも非常に愉しく読み進めた。そして夢中になり、素早く読了に至った。

邂逅 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署に所属して活動する警察官が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られている本作は、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。そういうのもかなり気に入っている。

題名にも示されているが、物語を語る主要視点人物は高城賢吾である。警視庁の警察官で階級は警部だ。同期の中でも早めな時期に警部へ昇進した高城であったが、そこに個人的な事件が降り掛かる。降り掛かってしまった事件を乗り越え切れなかったような面が在り、酒浸りのようになってしまい、幾つかの所轄を異動し続けていたという「訳アリ」な人物だ。高城は現在でも酒は止められず、序にヘビースモーカーである。

この高城が「失踪者捜索の願いに関する聴取を真摯に行い、必要に応じて捜査を行う」という建前の失踪課、渋谷中央署に間借りする同課の第三方面分室に配置されている。建前は建前だが、警視庁部内では“盲腸”呼ばわれする者も少なくないような部署で、本流は外れてしまっている感は否めない。そういうことで、高城自身も含めて「訳アリ」な捜査員達が配置されていると言われている。

このシリーズは、この失踪課の高城警部や仲間達が出くわした様々な事件の顛末、向き合う人々の様子等が描かれているということになる。

本作の物語である。8月の或る日の出来事だった。

酷い暑さに辟易している最中、高城は酷い二日酔いであり、倒れてしまいそうな酷い状態でオフィスに在って書類仕事に取組もうとしているが、全く捗らず、周囲は飽きれる、または苦笑を漏らすという様子だった。

そこに法月が現れた。仙台へ出張し、用務を終えて戻ったのだという。捜査に着手した行方不明だった女性と見受けられる遺体が仙台市内の川の中州で発見された。法月は現地を訪ね、失踪課に相談していた本人の妹と一緒に遺体を確認し、捜していた女性で間違いないということになり、とりあえず用務終了であったのだ。

法月は心臓を患った経過を持っている。妻はかなり以前に病死していて、弁護士を務めているという娘が在る。その娘が高城に連絡を寄越す。高城は会った。上司として法月の心身に負担が掛かり過ぎないように配意願うという申入れが娘の用件だった。高城も少し気になっていたが、法月は周囲が少し懸念する程度に精力的に仕事に取組もうとしているように見えた。

そういう出来事が在った日の退庁時間に近くなった頃、失踪課に相談者が現れた。高城は女性捜査員の明神と2人で相談者に対応した。

現れた相談者は年配の女性で、息子が不在で全く連絡が付かない状態になって1週間程になるということだった。息子というのは大学の理事長を務めている。仙台近郊の街に在る中学・高校を発祥としていて、30年程前に東京に大学を開いたという学校法人で、現在の理事長は5年程前に理事長に就任した「3代目」であった。東京の大学の他に仙台近郊の中学・高校も経営していることから出張のようなことも多いが、それにしても不自然に過ぎるというのが相談者の訴えだった。そして社会的に高い地位を占める人物でもなる訳で、何としても問題の解決を図って頂きたいと強い調子だった。

高城は明神と組んでこの件に取組むことにした。翌朝に早速に相談者が大学理事長の息子と一緒に住むという邸宅を訪ねて捜査を開始した。高圧的、或いは強圧的な迄に息子の件の解決を促した相談者であったが、携帯電話に連絡が1本入った辺りで、不意に少し冷淡になった。高城や明神は不自然さを感じた。

高城達は行方が判らなくなった理事長の大学を訪ねた。大学の事務局で関係職員達の話しを聴こうとするのだが、「話すこと等は何も無い」というような酷い対応をされてしまう。益々妙な状態である。

不可解な状況が続く中、高城はこの大学の理事長の事案に向き合い続ける。そして明らかになる意外な真相は如何に?

という物語なのだが、今回は関係者の事情や想いを探って真相に近付くべく、老練な高城が執念深く動き回る。仙台方面へ出て色々と動き回る場面や、緊迫する展開も在って引き込まれる。或いは「ややほろ苦い?」という事件の結末かもしれない。

本筋から逸れるが、本作に仙台の街の食事を摂る場所や呑む場所が出て来るのだが、モデルになったような場所でも在れば、訪ねてみたいというようなことも思った。この作者の各作品に見受けられるが、作中人物達が飲食店等に立寄る場面の描写が凄く細かい。好き嫌いが判れるように見受けられるが、自身は嫌いではない。

作中での高城は幻影を見る場面が在る。このシリーズに少し夢中な自身は、高城が何やら動き回っているという幻影を見るようになってしまうかもしれない。何れにしても「訳アリ」なベテラン捜査員が執念深く事案を追う様子が一人称で語られるこのシリーズは、出逢えて善かったシリーズだ。

『相剋 警視庁失踪課・高城賢吾』

シリーズ作品の第1作に出逢って気に入ったとして、既に多数の作品が送り出されているという状況の場合には、即座に次の作品を手にすることが叶うことになる。

↓シリーズ第1作が気に入ったので即座に手にしたシリーズ第2作なのだが、少し夢中になった。

相剋 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署に所属して活動する警察官が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られている本作は、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。そういうのもかなり気に入っている。

主要視点人物となる高城賢吾警部はかなり「訳アリ」な人物だ。その身に降り掛かってしまった事件を乗り越え切れなかったような面が在り、酒浸りのようになってしまい、幾つかの所轄を異動し続けていた経過が在る。現在でも酒は止められず、序にヘビースモーカーである。そして渋谷中央警察署に間借りしている失踪課第三方面分室へ配属された。

失踪課は、設置当時の都知事の孫であった予備校生が姿を眩ませて程無く遺体で発見されたという事件を踏まえ、失踪者捜索の願いに関する聴取を真摯に行い、必要に応じて捜査を行うということで設置された部署である。が、失踪者については「家出」という状況も多く、結果的に「訴えている失踪者の関係者の話しを聴いた」というアリバイづくりのような、本流を外れた閑職という雰囲気が漂っている部署でもあった。そういうことで、何処か「訳アリ」な者達や、人事の偶然で配置されたというような者が集まっている場所だった。

本作の物語である。3月下旬の出来事となっている。

捜査一課の管理官からの協力要請という話しに高城は憤りを禁じ得なかった。傷害致死事件の情報提供をしたいと申し出る者から連絡を受けたが会うことが出来ず、本人を特定して見付け出す情報も殆ど無い中、失踪課で探して欲しいということなのだ。筋違いで、捜査一課のやり方も杜撰だと高城は憤る。

そういう様子であったが、室長はこの要請を受けると決めた。定年間近の大ベテラン捜査員であるが、心臓を患った経過で失踪課に異動となった「オヤジさん」こと法月と、“玉突き人事”で不本意な形で失踪課に異動している女性捜査員の明神がこの事案を担当することになった。

高城には別な役目が巡って来た。失踪課第三方面分室を訪ねて来た相談者が在るので対応ということになったのだが、現れたのは新年度から高校に入学するという中学生の少年だ。友人の女子生徒が行方不明なのだという。高城は少年の話しを聴いた。

少年が言うには、仲の好い仲間で出掛ける約束の日に件の女生徒は姿を見せず、連絡も付かなかったのだが、その連絡が付かない状態が数日続き、誰も姿を見ていないので、警察に相談して捜してもらうべきだという相談になり、仲間を代表して少年が相談に現れたということであった。保護者による捜索願というようなことでもなければ公式の事案ということにもならないのだが、高城は非公式に少し調べるということにした。

高城は女生徒の母親と電話で話そうとしたが、父親に訊けの一辺倒で話しにならず、会社を経営しているという父親と話してみれば娘が時々家出をしていて、今般もそれであるので何の問題も無いと冷淡であった。相談に訪れた少年以外の友人に会って訪ねれば、女生徒は「学校が始まって以来の」と言われる程に学業成績が優秀で家族仲も悪くない筈で、女生徒は家出をしそうな感じでもないという話しであった。高城は女生徒の件が非常に気になる。

やがて高城は、元野球選手という少し変わった警察官であり、子育ての都合で住まいに近く通勤し易ければ何でも構わないと失踪課第三方面分室に在る醍醐を相方として女生徒の一件、その父親の会社に纏わる事柄等を調べるのである。

こうして失踪課の面々が向き合う事態が意外な結び付きを見せ始める。人間関係を丁寧に解き明かし、緊迫する状況や、捜査員達の奮戦という場面も在る。やがてほろ苦い幕引きだ。

「友人を案じる少年の願いに向き合う、少し風変わりなおじさん」という風で、同時に執念深く関係者に食い下がりながら事態を明らかにする高城の活躍が非常に面白い。本作と共に在った短い時間が非常に充実していた。御薦めである。

『蝕罪 警視庁失踪課・高城賢吾』

↓紐解き始めると「続き」が気になって落ち着かなくなる。そこで時間を設けてドンドン読み進む。やがて何時の間にか読了だが、気になっていた「続き」を知って大満足という感じである。

蝕罪 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑2009年に登場した作品で、10冊に及んだシリーズの最初の作品であるという。初登場がやや以前ではあって、その当時の雰囲気を反映している描写も在るように思ったが、それでも古くは感じない。一定程度普遍性を帯びた事案内容と、関わる主要人物達の造形が面白いからなのであろう。

本作の作者である堂場瞬一は、警視庁の警察官が各々の担当部署で活躍するシリーズを何本も展開している。そうした中、近年は或るシリーズの作品と他のシリーズの作品とが「関わる」というような演出が比較的多く見受けられるように思う。他のシリーズに出て来る部署や人物に纏わる言及が在る、他シリーズの人物が一寸した登場をする、更に共演や競演という場合等、その程度は様々だ。

そういうことなのだが、幾つもの作品で「失踪課」という用語や「高城」という人名が出て来る。警視庁部内で少々煙たがられている部署として「失踪課」が挙がるというような感じで言及が在り、「高城」が独自な勘で動いて成果を挙げて来た少し知られている捜査員であったという言及も在る。更に幾つかの作品では、この「失踪課」の捜査員が「他部署の仲間」として現れて少々活躍というのも在った。

そんなことが繰り返され、「失踪課の高城?」と思うようになり、本作を紐解いてみることにしたのだった。

前置きのようなモノが長くなった。本作についてである。物語は、主要視点人物の高城賢吾の一人称の語りという調子で進行している。このスタイルは、読む側が主要視点人物の目線で作中の事案に入り込み易いと思う。雰囲気が外国の探偵モノを翻訳したかのような感じにもなるかもしれない。

冒頭、高城は異動で配属された部署に現れた。酷い二日酔いという様子でようやくオフィスに足を運んでいるという風であった。

異動したのは失踪課第三方面分室で、渋谷中央署の中にオフィスが設けられていた。警部である高城は、分室内では室長に次ぐ立場ということにはなる。失踪課は、失踪人に関して関係者の事情を聴き、必要に応じて捜査活動をするということになっている部署だ。が、当時の都知事の孫が失踪して遺体で発見されたという事件を受け、失踪人に関する捜査活動をしているという「アリバイ作り」のような受け止め方も部内ではされているような部署で、色々と難が在る捜査員が殆どという感じだった。

高城自身も難が在った。或る事件が身に降りかかり、少し私生活が荒んだ。酒浸りのようになってしまっていた。そういうようになって、捜査一課から所轄署に異動で、7年近くも積極的に活動をしていたとは言い難い状態だった。そして失踪課へ異動である。

異動した初日に高城に割り当てられた事案は、婚約者の失踪ということで届出をした女性が、婚約者の母親と共にやって来るということで、その対応をするということだった。高城は同日に異動して来た女性刑事の明神愛美と共に対応することになる。相方となった明神は若くして捜査一課の捜査員に抜擢されることが内定していたのだが、自殺者が発生して色々と人事の“玉突き”が生じてしまい、偶々失踪課に異動という経過を有していた。何か不機嫌で尖った雰囲気の女性である。

相談に訪れた女性は、婚約者の長野県内の実家を一緒に訪ねる約束であった日に予定どおり現れず、連絡が取れない状態になって数日経っていると申し出ている。様子が変なので実家の母親もやって来て、一緒に相談に訪れたのであるという。婚約者は職場での仕事振りも評価され、人柄も好いと評判も悪くない。姿を消してしまわなければならないような事情も全く思い当たらない。女性は婚約者の母親や、年が離れた小学生の妹とも折り合いが好く、新しい家族として人生の歩みを進めようとしている矢先に妙な事態になってしまったのだ。

この話しを聴き、高城と明神は活動を始める。行方不明の男性の辿った人生を遡るように、丹念に調べ、意外な事実に突き当たって行くのである。

身に降りかかった事件を乗越えられていないような、酒浸りに陥ったという辺りを克服したようなしていないような、そして降り掛かった事件に纏わる幻影を見てしまう場合もあるという、序にヘビースモーカーで、そういう他方で「不敵なベテラン捜査員」という一面を持つ高城賢吾の人物造形が凄く面白い。「如何する?高城警部?」という感じで、ドンドン読み進めてしまう感じだ。

高城も「訳アリ」だが、失踪課第三方面分室に居る面々は各々に色々な事情を持っている。そういう事柄もシリーズを通じて描かれる様子だ。本作で高城は、捜査活動に打ち込むという感覚を取り戻して行く感じだ。明神は偶然で不本意な異動をした中から、新たなやり甲斐を見出して活動しようというような感じになって行く。(それでもやや不機嫌で尖った雰囲気は続く様子だが…)

「失踪課」のシリーズそのものに触れ、作者が他のシリーズで何となく言及する、更に「失踪課」の捜査員が他のシリーズに客演ということをしてみる感じが凄く判ったような気がする。当分はこのシリーズの作品に夢中になりそうだ。

『英雄の悲鳴 ラストライン7』

気に入っているシリーズの新作に出くわすと、「遠方の友人の近況」に触れるような気分で愉しく読むことが出来る。

↓本作もその気に入っているシリーズの新作だ。紐解き始めると、頁を繰る手を停めることが困難というのを通り越し、停めることが不可能という程度に夢中になって読み進めた。今作はこのシリーズの各作品の中でも抜きん出たような感じになるかもしれない。

英雄の悲鳴 ラストライン7 (文春文庫 と 24-26)



↑加えてこのシリーズに関しては、主要視点人物或いは主人公が自身と同世代なので強く親近感を覚えて夢中になるというような要素も在るかもしれない。

「ガンさん」こと岩倉刑事は50歳代半ばに差し掛かっている。昇進して役職に就くようなことに関心はなく、現場捜査員として活動し続けることを希望している。シリーズが始まった頃、思うところが在って警視庁本部捜査一課から所轄署の刑事課に異動した。蒲田や立川で勤務したが、また本部の捜査一課に戻っている。本作はその捜査一課に戻った「ガンさん」こと岩倉刑事が取組む事案の物語である。

捜査一課では係単位で行動する。取組むべき事案が生じると、決められた順番で係単位で方々の捜査本部に出向いて捜査活動に入る。現在、捜査一課では少し以前からの連続殺人と見受けられる事件のために多くの係が捜査方々の本部に出ていたが、岩倉刑事の係はそれらの事件の担当にならず、待機状態が続いていた。岩倉刑事が捜査一課に異動した少し後、女性の伊東美咲刑事が異動で同じ係になった。岩倉刑事が所轄に出た時、新人刑事として一緒に仕事をした経過が在るのだが、なかなかに優秀な女性捜査員で、岩倉刑事は頼みにもしていた。

待機状態が続いていて些か倦んだような気分にもなっていた時、現場に出ることになった。町田市内の公園で、刺殺と見受けられる男性の遺体が発見され、町田署に捜査本部が設けられた。岩倉刑事は伊東刑事達と町田へ向かって捜査活動に就く。町田署の若い捜査員達を率いて、岩倉刑事は伊東刑事を相棒にして捜査に取組み、不明朗であった男性の身元に迫った。そしてその人物像を調べようとしていた。

そんな活動の最中、捜査本部が設けられた町田署で妙な話しが起っていた。早朝とも言い得るような深夜の時間に、負傷している女性が街に在って、通り掛かったタクシーの運転士が救急車を呼んで、女性が保護されたのだという。病院に収容された女性だが、如何した訳か病院から抜け出してしまって行方がよく判らないというのだ。やがてその事案を扱った地域課が騒がしい感じになった。岩倉刑事と近い年代の男性が地域課に捻じ込んでいる。聞けば大学生の娘が早朝の変な時間に帰宅し、大事な用事が在ると称して自家用車で出てしまい、連絡が付かなくなっているのだという。行方不明なので真面目に探してくれと騒いでいたのだ。岩倉刑事は男性の話しを聴いて宥めた。結果、娘の件で激しい調子で騒ぐ男性と「話しが出来る岩倉刑事」というようなことになってしまっていた。

刺殺と見受けられる男性の一件、姿を消した女子大生の一件と並行して対応が進む。女子大生の一件は失踪課の捜査員達も乗り出してくる。岩倉刑事は両方の事案に関わるようになって行く。やがて意外な事の真相が明らかになって行くのである。

なかなかに優秀な伊東刑事と岩倉刑事のコンビの感じ、町田署の若い捜査員達を導こうとする岩倉刑事の感じ、大学生の娘が在る50歳代男性として事態を見詰める岩倉刑事の感じと、色々と好い要素が多い本作だ。意外に過ぎる事実が明かされようという時、慌てずにそれを確かめようとする。そして如何なるのかという辺りも、少し重い感じになって行っている。少し深い余韻が残る感じだ。

シリーズ作品なので、過去の作品を踏まえた本作ということも在る。が、本作は「或る大ベテランの捜査員が在って…」というような、独立した作品、または本作を第1作とする新シリーズという感じでも差支えないかもしれないような感じだ。このシリーズの各作品の中で、殊更に強く記憶に残る感だ。

本作読了後、直ぐにこのシリーズの行方が気になった。次作にも期待したい。

『初心の業 ボーダーズ 4』

↓愉しく読んでいるシリーズの新作だ。

初心の業 ボーダーズ 4 (集英社文庫)



↑入手して頁を繰り始めると、なかなか読むことを停められなくなり、素早く読了に至った。

本作の物語は警視庁の架空の部署に所属する捜査員達の物語である。5人のメンバーが在る部署で、シリーズ各巻で主要視点人物が変わっている。今般はその4作目で、4人目の主要視点人物で本作は展開していることになる。

「架空の部署」というのは、担当すべき部署が不明朗な事案に対応することを主任務とする「SCU」こと「特殊事件対策班」である。そういうことだが、「キャップ」こと班長の公安出身であるという結城警視の動きで随意に活動していて、部内での軋轢のタネのようになっている様子も在ると示唆されている。

この班には結城警視の下に4人の捜査員が在る。捜査一課出身で、現場や映像等を見て、他の者が見落とすようなことに気付く独特な勘、或いは「目」を持つ八神。自動車やバイクの整備や運転が得意で、コンピュータの利活用に非常に通じている若い最上。「女性として初めての部長を目指す」と上昇志向が強く、警部補に昇任した、事案を整理して対応策を練って、纏め役として適切に支持を出すことに秀でた朝比奈。これまでのシリーズでは、八神、最上、朝比奈を各作で中心視点人物に据えていた。

4人目が綿谷警部だ。組織犯罪対策部で暴力団関係の事案を担当していたという経歴で、柔道、剣道、空手の有段者で勇名を馳せているという一面も在る。SCUの中では、キャップの結城警視に次ぐ年長者で、階級も警視に次ぐ警部ということになる。この綿谷警部が本作の主要視点人物となっている。

本作の物語である。

綿谷警部は故郷の盛岡に在った。警察署長を務めて退職し、80歳になっても元気だった、敬愛している父が急病で倒れて救急搬送されたのだ。医学部に進んでいた、仲が好かった高校の同級生が主治医を務めているという。様子を見に、綿谷警部は盛岡の病院に駆け付けたのである。

看護師経験の在る姉の助言で速やかに救急搬送をしたということで、症状は比較的軽いというのだが、綿谷の父は脳梗塞で倒れたのだった。身体の一部に麻痺が生じてしまうようなことも考えられ、母や姉、更に綿谷警部本人も色々な懸念に動揺している。そういう中、綿谷警部は連絡を受けた。

綿谷警部が暴力団関係事案の担当であった6年前、抗争に関連して敵対していた組の組長を射殺してしまった男を追い、取り逃がしてしまった。男は指名手配犯ということになっていた。暴力団対策の捜査員が男を見出して尾行したところ、男は新幹線で移動し、盛岡で列車を下りた。そして捜査員の尾行に気付いたらしく、逃げようとする中で高齢の夫妻が2人で住んでいる民家に立て籠もってしまったのだという。所縁が深い被疑者で、捜査員対情報提供者という交流経過さえ在った綿谷警部に、岩手県警による対応へ協力するようにという話しになったのだ。

他県の進行中の事案に、出て行って関与するというのも異例なことだが、因縁の相手の事件なので綿谷警部は現場へ駆け付け、岩手県警の捜査員達に協力して人質となってしまった民家の夫婦を解放させ、被疑者を取り押さえるべく協力した。

その時の騒動から、禍々しい事件の蓋が開いてしまう。綿谷警部自身も事件の展開に巻き込まれる。警視庁、岩手県警、千葉県警と方々の機関の捜査員達を巻き込む展開の中、綿谷警部やSCUの面々が活躍し、事件の解決を目指して行くことになる。

警視庁の架空の部署、その所属の捜査員が動くという「飽く迄もフィクション」な物語だが、次第につかみどころの無さを増す犯罪集団や、外国の犯罪者が絡む事案が増えているかもしれないような様子や、日本の都道府県警の仕組を度外視した犯罪の広域化というような様相の中、恐るべき犯罪を阻止しようとする物語は興味深い。加えて本作では、50歳目前で様々な思うところも在る綿谷警部が、敬愛する父の急病で色々と動揺して人生を見詰めるような感が何か胸に迫る。父の急病の件等で動揺する中、綿谷警部自身が危険な目に遭ってしまい、それを跳ね返すように必死に捜査活動を続ける。

SCUの面々の個性や、少人数で活動する遊軍的な班での活動の故に互いを補って目標に向けて邁進する雰囲気という、過去3作品の積み上げの成果も在ると思うが、本作はこのシリーズの各作品の中で「最も読ませる」というように思った。

「ボーダーズ」と銘打たれたSCUのシリーズであるが、続くのであれば、次作はキャップこと結城警視が中心視点人物というのが順当かもしれない。が、新しいメンバーが迎えられ、その新しいメンバーが中心視点人物になる展開も在るような感じがする。更に言えば、異動で転出するメンバーが中心視点人物になる新シリーズが登場し、SCUのメンバーが助っ人のように登場するということも考えられる。シリーズのファンを自認する者の勝手な妄想だが。

非常に愉しく読んだ作品で、広く御薦めしたい。

『全悪 警視庁追跡捜査係』

親しんでいるシリーズの小説の新作と出くわすと凄く嬉しいものだ。少し遠くに居て頻繁に会えるのでもない友人達の消息に触れられるような気になる。

↓そういう親しんでいるシリーズの新作だ。大変に愉しく読み進めた。

全悪 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫 と 5-17)



↑頁を繰る手が停め悪くなり、素早く読了に至った。

「警視庁追跡捜査係」というのは、色々な事由で未解決となっている事件の捜査に取組む係ということになっている。その係の捜査員である沖田刑事や西川刑事が中心視点人物となって物語は進む。シリーズの中には、両刑事の何れかの出番が少な目な作品も在ったと思うが、両刑事の何れかが中心視点人物になる部分が概ね交互に出て展開するという例が殆どだ。

この作者のシリーズ作品だが、作品が重ねられる都度に年数が重ねられ、作中の主要人物達も年齢を重ねている。「警視庁追跡捜査係」のシリーズが始まった頃、沖田刑事や西川刑事は30歳代の最後の方という感じだが、作品が重ねられて40歳代になり、本作では50歳代に入ったという様子だ。本作はシリーズの第13作ということになる。

本作の物語である。

追跡捜査係の係長が捜査員達に指示したのは、四半世紀以上の事件で、色々と経過も在って、結果的に未解決ということになっている殺人事件の捜査だった。殺害された男性の名に因んで「富田事件」と通称されている。

「富田事件」である。新宿区内で会社員の男性が殺害され、防犯カメラの映像で死亡推定時刻の少し前に一緒に居たことが判明した、殺害された男性に貸した1千万円もの金の返済が無いと揉めていた野澤という人物が被疑者として拘束されていた。この被疑者が起訴されたが、公判の中で新たな事実が判明し、野澤は無罪となった。そして野澤は警察に対して賠償を求める訴訟を起こして勝訴し、警視庁は野澤に謝罪している。結果、この「富田事件」は未解決のまま時日が過ぎた。時効は廃止されているので、四半世紀以上を経ても捜査は続いていることになっている。この事件を解決しようとする訳だ。

沖田刑事や西川刑事というベテランを中心に追跡捜査係は活動を始める。殺害された男性のことを知り得る関係者を見出して事情を尋ねる等するが、流石に事件が古いので感触は必ずしも好くない。

活動を始めたばかりである中、沖田刑事は追跡捜査係の前係長であった鳩山から連絡を受けた。鳩山は異動で所轄署の刑事課長を務めるようになっている。鳩山は、未解決になってしまっている5年前の強盗事件の捜査に力を注ごうとしていた。そこで若い捜査員にそれを担当させようとしているが、沖田に彼らを導く役を頼みたいというのだ。「富田事件」に取組み始めたばかりであるのだが、追跡捜査係の現在の係長に話しも通っているということになり、沖田刑事は鳩山の話しを聴くべく鳩山が居る所轄署を訪ねる。そして刑事になって日が浅い2人の捜査員と共に活動を始める。

沖田刑事が若い捜査員と向き合うことになった事件は、資産家の高齢男性が一人で住む邸宅に強盗が押入り、邸内に在った1億5千万円程度と見受けられる現金が強奪されたという事件だった。事件の際、高齢男性は暴行を受けており、頭の怪我が原因で動けない状態に陥り、5年間もそのままで全く回復出来ないというのだ。鳩山は高齢男性と折り合いが悪い息子、またはその周辺に何かが在ると見ていた。若い捜査員に少し面倒な事件の解決を目指して捜査する経験を積ませる、研鑽をするということで沖田刑事が指南役として呼ばれたのだった。

こうして西川刑事を中心にしたグループが「富田事件」に引き続き取組み、沖田刑事と若手2人が5年前の強盗事件に取組むということで捜査員達の活動が続く。そういう中、各々の捜査で情報が集まって行く。やがて一見無関係な2つの事件が交差する。

こんな物語である。50歳代に入った沖田刑事や西川刑事は、昇進して役職を得るという方向ではなく、一捜査員として現場で活動し続けることを望んでそのようにしているのだが、捜査員達の中で年長者ということになり、追跡捜査係の大ベテランということになっていることから、最近の作品では若い捜査員達を導くというような役目を負いながら動くという展開が増えているように見受けられる。本作でもそういうような具合になっている。

色々な意味で“悪”ということになる人物、“悪”に翻弄される人物と色々と出て来るのだが、何か「価値在る人生?」というようなことを考えさせられた。そしてそういう人物を見詰める捜査員達の眼差しが、何やら熱い。或いは過去の捜査の「誤り」を正すような活動なのだが、そういう活動を地道に展開する捜査員達の様子が興味深い。

このシリーズも何処迄続くのか?何時も非常に興味深い。本作も御薦めだ。

『昨日への誓い 警視庁総合支援課3』

↓気に入っているシリーズの新しい作品である。遠方の友人の消息を知るような感覚で愉しく読み、素早く読了した。

昨日への誓い 警視庁総合支援課3 (講談社文庫 と 55-26)



↑続々と起こる出来事が意外な結び付きを見せ始め、その複雑な結び付きが解き明かされて行くことになる。

本作は警察官が関わる出来事を背景とする物語であるが、“刑事部”という部門の“捜査員”が事件の解決を目指すというような感じでもない。犯罪事件の被害者や加害者には手近な家族等が在り、色々な意味で大変なのだが、そういう大変な人達を支援しようという担当部署が“総務部”に設けられている。それが「総合支援課」である。ここでの仕事に携わる警察官は“捜査員”ではなく“担当”ということになる。

本作はその「総合支援課」で活動する女性警察官の柿谷晶が主要視点人物と設定されている。この柿谷晶は、「総合支援課」シリーズを通じての主要視点人物ということにもなっている。

本作の物語は、「総合支援課」のオフィスで柿谷晶が電話を受けるという辺りから起こる。

電話によってもたらされたのは訃報だった。15年前、「総合支援課」の前身であう「被害者支援課」が起ったような頃、小学校教員であった娘が殺害されてしまったという一件で対応した父親で、長く時候の挨拶も交わされ、年に1回程度は書簡も届いていた人物である。御本人は60歳位で最愛の娘を喪い、75歳で他界ということになった訳だ。

現在の「総合支援課」に勤務している関係者の中、松木優里は15年前にも「被害者支援課」に在り、訃報がもたらされた人物を知って居た。事案の直接の担当者でもあった。「総合支援課」から訃報の件で話しを聴くべく、この松木優里が柿谷晶と共に連絡をして来た女性を訪ねることになった。

訪ねた先で判ったのは、亡くなった方の癌の症状が重くなって行く中、娘の事件で世話になった支援課関係者に御礼、御別れを言いたいとしていたことであったが、他に気になる名前が出た。大岡という男の名である。松木優里と一緒に事案を担当した経過の在る人物である。大岡は捜査1課の刑事出身で、支援課での数年の活動の後に捜査1課へ戻り、所轄の刑事課に数年間在って退職し、郷里の御殿場で暮らしているらしいということだった。訃報を大岡に伝えようとしたが、巧く伝わらないということでもあった。比較的最近も連絡を取っていて、見舞に現れたということも在ったということで、遺族は訃報を伝えたがっていた。

大岡は63歳になっている筈だった。退職した警察官で60歳代前半という人物だが、健康上の問題等が生じた可能性も排除出来ない。気になった柿谷晶は、取得せずに残ってしまっている休暇を消化する体裁で御殿場へ向かい、大岡に会ってみることにした。

御殿場で柿谷晶は、元気で普通に暮らしている様子の大岡に会うことが叶ったのだが、大岡が「東京は少し御無沙汰」というように言っていることに違和感を覚えた。そして御殿場の大岡の家を再訪するが、そこで出会った大岡の妻は、大岡が居なくなってしまったと言い出した。

大岡の件が気になる他方、「総合支援課」に対応すべく事案が生じた。散歩中の老夫妻の夫が死亡したひき逃げ事件だったが、ひき逃げした車を近くに居た車が追い、両者が事故を起こしてしまい、ひき逃げした車の運転手が重傷で、追った車の運転手も負傷して病院に収容されたということだった。

過去の事案と大岡の件、進行中のひき逃げ事件関係者のことと、柿谷晶が動き回ることになる。

色々な人達の助言を求める等しながら、柿谷晶が動いて意外な事実を明らかにして行くのだが、何か考えさせられる内容を含むと思う。事の発端に訃報がもたらされるのだが、ここには「余りにも惨い状況」に衝撃を受けた人達が在って、その人達と関わっていた関係者が在る。結局「余りにも惨い状況」に衝撃を受けた人達の心境の変化が在り、関わっていた関係者の一部にも心の動きと行動が在る。その物語を介して「人」を考えさせられる。

このシリーズは「被害者支援課」として起こっていて、そこに刑事出身の村野が登場していた。「総合支援課」に改組後も村野はそこに在ると作中に紹介はされていたが、余り登場しなかった。本作では、熱過ぎるような感でもある柿谷晶の傍らで助言し、支える先輩として少し活躍も目立った。

このシリーズは、登場する事案の背後の意外な事情が明らかになっていくというような展開が多く在るのだが、そんな中で「人」を考えるという感じが興味深い。早くも次作が気になってしまう。

『罪の年輪 ラストライン6』

愉しんでいるシリーズの小説で新作が登場すると、遠方の友人や知人の消息に触れるような気がして凄く愉しくなる。

↓「ガンさん」こと岩倉刑事が活躍する「ラストライン」シリーズの新作が登場した。

罪の年輪 ラストライン6 (文春文庫 と 24-24)



↑頁を繰る手が停め難くなってしまい、ドンドン読み進めた。「意外な展開」に引き込まれてしまう。「年輪」という題名に在る語が、色々な角度で意味深長だと思った。

シリーズの最初の作品で、警視庁の岩倉刑事は捜査一課から南太田署に異動したところだった。定年退職迄の10年を有意義に過ごそう等と、多少訳アリでもあって、考えが在って希望して異動していた。その後は立川中央署に異動し、本作の現在も立川中央署に在る。

本作の冒頭、岩倉刑事の所に捜査一課への異動という打診が在って、定年延長で岩倉刑事の年代は65歳迄の勤務が可能になることから、更に10年の勤務を続けるというようなことに想いが巡っていた。そんな時、事件発生の報が入った。

河川敷で遺体が発見された。所持品から身元が判明してみれば、87歳の元小学校教員であった。殺害されたと見受けられる状況で、立川中央署に捜査本部が設けられ、岩倉刑事も捜査に参加することになる。

87歳の被害者は老健施設に住んでいた。歩行が不自由であり、車椅子を常用していた。深夜から早朝に施設から連れ出されるように出て、殺害され、遺体が棄てられたと見受けられる状況だった。

やがて「あの事件は自分が」という者が署に出頭した。出頭したのも87歳の男であった。

被害者も被疑者も共に87歳と高齢で、岩倉刑事は少し戸惑いながら捜査に臨む。が、捜査陣を戸惑わせたのは、被害者や被疑者が高齢であったということだけではなかった。被疑者は、被害者を殺害場所へ連れ出し、殺害して遺体を棄てた経過は詳しく供述し、関係の証拠も在るのだが、犯行動機に関しては黙秘してしまっているということだった。

そういう中、被疑者は被害者との関係に関して「60年以上も前からの知り合いだ」と言う。60年前に何が在ったのか、捜査陣は調べ始める。

その他方、岩倉刑事は被疑者の家族の様子に何か不自然なモノを感じ始める。そして事件の意外な真相が次第に明らかになって行く。「そう来た?」という展開になる。

こういうような物語である。立川中央署の刑事課で最年長の捜査員である岩倉刑事が、若い他の捜査員達と協力して難しくなってしまった事件の謎を解き明かす。

このシリーズは岩倉刑事の個人的な部分も描かれる。大学3年生になっている娘―娘とは会っているが、岩倉刑事は離婚した。―や、交際している女性も登場する。更に、同じ作者の別シリーズの主要人物への言及や登場も幾分見受けられる。今般は事件の被害者、加害者の家族関係の対応ということで「総合支援課」の柿谷や秦が登場する場面が在る。

本作の岩倉刑事だが、設定上の生年は偶々自身と同じであった。これまで以上に親近感を覚えた。物語の最終盤は、これからも更に活躍して行きそうな感、「つづく」という雰囲気だったので次回作も楽しみにしたい。

『刑事の枷』

↓大変に愉しく、同時に非常に素早く読了に至った。頁を繰る手が停められなくなってしまう。

刑事の枷 (角川文庫)



↑「シリーズ」という形になる作品を多く送り出している作者の作品であるが、本作は独立的な作品ということになる。刑事達の活躍する事件モノというようなことになる。が、同時に屈折した男と接する真直ぐな若者が在って、2人の変化や成長の物語という感でもある。

神奈川県が舞台になる物語だ。主要視点人物となるのは村上翼である。村上は交番勤務から刑事になり、川崎中央署の刑事課に初めて配属され、刑事の活動に身を投じて日が浅いという人物だ。物語は冬の時季に展開する。

或る日、村上は近くの公園の騒ぎを収束しようとする動きの中に在った。見回りの制服警官を視て逆上した、薬物中毒と見受けられる男が、公園のトイレの辺りで居合わせた親子連れの幼児を押さえて刃物を突き付けるようにし、人質としながら警察官に向かって喚いているという様子だった。村上自身を含め、刑事課の捜査員達も現場に次々と駆け付けていた。

人質となった幼児を無事に救い、同時に被疑者となる男を確保しなければならないと、刑事課の面々は苦慮している。そこに他の捜査員達は知っているらしいのだが、村上の知らない男が現れる。現れた男は、幼児を人質にする被疑者の死角と見受けられる公園のトイレの屋根に上り、持っていたコートで被疑者の視界を奪うようにして急襲し、幼児を逃がして被疑者を強引に取り押さえた。

この単独で被疑者を急襲して取り押さえた男は、川崎中央署の刑事なのだという。影山という男だ。影山については、新人の村上が知らない事情が在るらしいのだが、署でも見掛けた記憶が無く、何やら単独で何らかの活動をしている様子ではある。この影山の事情等を周囲の捜査員達に訪ねるのだが、「あの影山には関わるな」という話しにしかならない。

或る日、公園の事件に纏わる捜査活動に勤しみ、帰宅しようとしていた時に影山に出くわす。そして影山は「付き合え」と村上を連れ出す。影山は未解決のままになっている10年前の事件を単独で探り続けているということだったので村上は驚く。そして情報源に会って話すということで、村上はそれに同行する。

「関わるな」という妙な状態になっていて、未解決になってしまっている10年前の事件を独りで追おうとしている影山の事情を知ろうとしながら村上は動く。そういうことをしていた或る日の深夜、別な事件が発生し、村上はその捜査に身を投じることとなる。やがて意外なことが少しずつ明らかになり、像を結んで行く。

丁寧に話しを聴く他方、言うべきことや言いたいことはハッキリと言うような、真摯で真面目な若き刑事という風の村上の人物が好い。少しだけ年長の速水と一緒に「イマドキの20代」というような感じで動いている他方、もっと上の世代が親しんだようなテレビドラマが好きで、正義感が強いというような感も在る村上である。そういう好青年が、「訳アリ」で腕っぷし自慢の影山と接し、事案の解決に邁進する。なかなかに好かった。

読後に「その後の村上?」、または「その後の影山?」というような辺りが気になった。殊に「その後の村上?」は是非読みたい。村上が活躍する新しいシリーズという形でも、作者が手掛ける警視庁関係のシリーズで事案に神奈川県の事柄が絡まって、神奈川県警の関係者として村上が現れるというような形でも好いと思う。他シリーズの主要人物が客演、競演というのは、この作者がよくやっていることなので、別シリーズに村上が現れるというのは在りそうだと勝手に想像している。

凄く愉しい小説だった。御薦め!

『野心 ボーダーズ3』

シリーズになっている小説の新しい作品に出会うと、遠くの友人や知人の消息を聞くというような感で、作品を愉しく素早く読むことになる。

↓そういう感じで、愉しく素早く読了に至った一冊である。

野心 ボーダーズ 3 (集英社文庫)



↑シリーズ3冊目となっている。このシリーズは「SCU」(=Special Case Unit)こと「特殊事件対策班」の面々を主要視点人物としている。5人のメンバーが在り、各作品で主要視点人物が毎回交替となっている。

「SCU」(=Special Case Unit)こと「特殊事件対策班」というのは、警視庁の中の機構で、言わば「特命班」である。新橋に在るビルにオフィスを構えている。担当すべき部署が曖昧な事案等、随意の事案を取扱う。結城警視がキャップで、以下は綿谷、八神、朝比奈、最上と様々な部署の出身である各員が在る。過去の作品では八神、最上が主要視点人物を務めた。今回は女性刑事の朝比奈が主要視点人物となっている。

朝比奈は昇任試験に合格して警部補となった。警部補昇任後の研修に参加し、所属している「SCU」のオフィスに暫く振りに戻った。こういう辺りから物語は起る。

八神の同期である捜査二課の宮原が相談に訪れた。5年前の特殊詐欺事件の捜査で、犯行グループのリーダーと目されながら逮捕を免れたという人物が在る。この秋山という男が、特殊詐欺事件に関わった者達、または捜査で浮かんだ関係者と目される者達と接触しているような様子が伺えるのだという。警戒し、監視するような活動が必要と考える宮原だが、捜査二課では取上げられない。そこで随意の事案を取扱うSCUに話しを持込んだということだった。

SCUではこの宮原が持ち込んだ事案に着手する。所謂“デイトレーダー”ということで、ネット取引による株式投資等を自宅で行っているということになっていて、自宅マンションに在る場合が多い秋山を朝から夕方迄の時間帯に監視しようとしていた。

或る日の夕方、秋山が外出し、監視をしていた朝比奈と八神は彼を追った。そして辿り着いた銀座の商業施設で、煙が充満して火災らしい状況が発生する。朝比奈は居合わせた人達を避難誘導しようとするのだが、倒れ込んでいた女子高生を見付けて援けようとした。と、その時に爆発が発生した。朝比奈が気付いた時には病院に在った。吹き飛ばされた衝撃で、左の鎖骨を折る怪我を負ってしまって、現場では気を失っていたのだった。

病院に朝比奈から事情を聴こうという捜査員達が現れた。朝比奈は驚いた。煙と爆発の騒動の最中、施設のテナントの宝石店から高額な宝石等が多量に盗まれる事件が起こってしまっていたというのだ。そんなことも在って、朝比奈の現場での行動に関して部内で問題視しようという動きも起こり、監察が動くことになる。

こういうようなことで、様々な出来事が続々と起こる中、SCUの面々が可能なように動き回り、そして「如何なって行く?」という物語なのだ。「こう来る??」という展開の続出で、頁を繰る手が停められなくなってしまう。

朝比奈は「女性で初めての“部長”を目指す」と公言している。警視庁部内での上昇志向を強く有している。本作では、そういうことを言いながら警察で勤務するようになった個人的な背景に関する内容も出て来る。

更に、事件現場で負傷してしまった朝比奈だが、「事件の被害者」ということなので、同じ作者の別シリーズである<支援課>が登場する。<支援課>の柿谷晶は、朝比奈由宇とは警視庁の同期入庁で、友人同士であったのだった。こういう内容も出て来て、少し面白い。

題名の「野心」は、朝比奈が抱く上昇志向の事であるというようにも思えるのだが、それに止まらない意味が込められている。それに行き当たるのが本作の物語の肝かもしれない。

警視庁で勤務する警察官には異動が在る。作中、朝比奈に関しても、昇任の際の慣行で所轄に係長として異動するという話しが出ている。この辺りも「今後は?」と少し気になる面は在る。シリーズ各作品で、毎回のように視点人物を替えているのだが、「異動」が関連すれば現在在る5名に留まらず、無制限に色々な作中人物が登場し得る。

更に別シリーズの主要人物の出演というのも、この作者はよくやるのだが、本作でもそういう例が見受けられ、多少頬が緩む。

『陰からの一撃―警視庁追跡捜査係』

少し気に入ったシリーズを読み続けていて、“新作”が登場してそれを紐解けば、「御無沙汰している少し遠方の友人達の近況を聞く」というような気分が沸き起こり、ドンドン読み進めてしまう。

↓そういう「少し気に入ったシリーズ」の“新作”ということで、殆ど発売と同時のようなタイミングで入手し、素早く読了に至った。と言うより、このシリーズの作品は頁を繰る手が停め悪くなる展開である場合が殆どで、本作もそういう例に洩れないのだ。

陰からの一撃 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫 と 5-14)



↑本作の“追跡捜査係”というのは、捜査一課の中に設けられた係ということになっていて、捜査が滞って年月が経ってしまった事案を調べるという担当である。今作では、捜査が滞っているということでもない事案を巡って、“追跡捜査係”の捜査員も関わってしまう事案が発生するという展開である。

「警視庁追跡捜査係」というシリーズも本作で12作目である。一貫してこのシリーズで活躍しているのは、西川刑事や沖田刑事である。書類を読み込んで問題点を見出して調べようとする西川刑事に対し、とりあえず現場に出ることを重視する沖田刑事と対照的で、同期ではあるのだが親しいのか親しくないのか判り悪い不思議な間柄のコンビである。他方で西川刑事の妻と、沖田刑事のパートナーガ親しい等、何となく「家族ぐるみの付き合い」という様子も在る。

この西川刑事や沖田刑事は、本作では50歳代に入っている。シリーズが進む中で2人は年齢を重ね、周囲の若い同僚や係長は異動が在って変わっているのだが、2人は追跡捜査係の仕事を続けている。そんな中で本作の物語が展開する。

沖田刑事が係のオフィスに在籍していた午後、何やら周辺の捜査一課のオフィスが騒がしい。聞けば、千葉県市川市で事故死した男性の身元が判明し、その男性が1年程前の殺人事件の容疑者として手配中の人物であったというのだ。

この出来事は西川刑事にも伝えられた。そして西川刑事が帰宅すると奇妙な出来事が在った。手配中の被疑者が事故死したという事件は、真犯人が別に在るので、その情報を提供するという不審な手紙が西川刑事の自宅の郵便受けに投げ込まれていたのだった。

不審な手紙の差出人は情報を提供するとして西川刑事と会う場所と時間を指定して来ている。情報収集を重要視する西川刑事は「行ってみる」と考えた。それを明かされた沖田刑事は「危険に過ぎないか?」と疑問を呈する。

やがて西川刑事が足を運んでみた現場で「陰の一撃」である。

西川刑事を襲撃した謎の敵を探る、被疑者が事故死という事件の事柄、被疑者の事故死の真相と、幾重にも重なった謎を沖田刑事達、更に負傷してしまった西川刑事が探って解き明かすという物語となる。

作者は幾つものシリーズを送り出している。他シリーズの主要人物に関して「知り合い」として言及が在る場合や、少し登場するという場合も見受けられる。一部に「競演」というのも在るが、本作ではそういう次元のことは無かった。本作では、西川刑事が電話で話して相談する先輩として『ラストライン』の“ガンさん”こと岩倉刑事が出て来る、或いは犯罪被害者となってしまった西川刑事と妻や息子の対応をするとして『支援課』の女性で捜査一課出身の柿谷が現れるという場面が在る。こういうのも少し面白い。

新しい文庫本なので、これ以上の詳述は避けておく。が、最終的に明らかになる事案の真相に関する部分を読んで「こういうの…在るのかもしれないなぁ…」と強く思ってしまった。本作で“問題”になったようなタイプの人物は、実は巷には多いかもしれないというようなことを考えてしまった。

この「警視庁追跡捜査係」というシリーズは、12作も続くだけに、様々な要素を抱き込んだ興味深いシリーズなのだと思う。本作も御薦めだ。

『コーチ』

↓拙宅から少し離れた辺り書店に寄道し、気に入っている作品を多く出している作者による作品の新しい文庫本と気付いた。入手して紐解き始め、素早く読了に至った。

コーチ (創元推理文庫)



↑不思議と言えば不思議な感じの挿話が折り重ねられる篇が3つ集まった第1部が在り、3篇の主要視点人物達が集まるという第2部に繋がる。「次は?」と気になって、頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了に至った。

第1部、第2部、共に警察の捜査員達が活躍するという小説である。となると「コーチ」という、スポーツ関係のような事柄を想い起す題名がやや不思議な感じにはなる。そこが物語の“肝”でもある。警察部内で少し独特な活動を展開する男と、その人物に関わった経過の在る3人が動くという物語なのである。

3篇から成る第1部は3人の主要視点人物が在る。警視庁の各々の所轄署で活動する若手の刑事達だ。

益山瞳は、同期では最速な部類で警部補に昇進し、所轄署で係長となったのだが、色々と課題が在るような感で、何かスッキリとしない。繁華街の所轄署に在る所貴之は、暴力事件の被疑者を取り調べるのだが、何か巧くことが運ばずに悩んだ。住宅街の所轄署に在る西条猛樹は、侵入盗の常習犯を追跡する作戦に参加するのだが、185㎝の長身で目立ち易いというようなことも在って、尾行が巧く出来ない等の悩みが在った。

こうした3人の前に「本部からの応援」という名目で現れたのが向井光太郎だった。40代半ばのベテラン捜査員という風情で、3人の各々の課題に助言を与え、各々が自身や意欲を取り戻す切っ掛けを創り出す。聞けば所属は「人事二課」という、警部補以下の人事を扱うという部署であった。何やら不思議である。

第2部で、益山、所、西条の3人は本部の捜査一課に異動となっていた。警視庁は異動が或る程度頻繁な場所ではある。が、本部の課の係で、班長の益山と班員の所と西条というように、一度に3人が新たに入るというのも少し珍しい。そこで、同時期に本部に移った3人で親睦をという相談になって3人は食事に出た。

その席上、3人は各々に所轄署での記憶に残ること等を話したが、共通の話題が在った。向井光太郎である。なかなかに有能なベテラン捜査員で、若手に適切な助言を与えることも出来る好人物なのだが、「人事二課」という部署に在るのが少し判らず、そういう辺りに関して知りたいという話しになった。

やがて女子大生がアパートの部屋で殺害されてしまうという事件が発生し、益山の班は特捜本部に参画することとなる。向井の件は如何なって行くのか?そして益山達が向き合う事件の行方である。

若干の「変化球」という感じだが、若い捜査員達が意欲的に仕事に取組むという物語で、何か凄く爽やかな読後感という物語である。読後、本作の第2部の一件の後の彼らというのも、何となく気になった…

なかなかに御薦めだ。

『棘の街』

↓紐解き始めると、頁を繰る手が停められなくなる。少し夢中になる雰囲気が在る。

棘の街 (角川文庫)



↑色々と“シリーズ”の作品を送り出している作者の作品だが、本作はシリーズではない作品だ。或る刑事が主人公となる物語である。

北関東のとある県、架空の街である北嶺市を舞台に展開する物語である。“棘”とは、本作の主筋になる未解決事案のことである、主人公にとっての様々な個人的事情や想いを「引っ掛かり、刺さる場合の在る何か」というようなことで、象徴的に表現した語句なのだと思った。

県警捜査一課で辣腕刑事として少し知られている上條は、或る事件の捜査へ参加することを強く希望していた。北嶺市で発生していた誘拐事件である。

北嶺市で高校2年生だった少年が帰宅していない様子であったのだが、「誘拐した」という強迫、そして「身代金要求」が在った。身代金の受渡の段階で“問題”が生じ、「取引は止める」という連絡が入る。少年は行方不明であったが、事件発生から十ヶ月程度を経て発見された遺体が、この誘拐された少年であると特定されたのだった。

上條刑事は、身代金受渡の際の“問題”に関わる羽目に陥り、捜査から外されてしまっていた。その後、事件の捜査が停滞してしまっていることに忸怩たるものを感じながら過ごしていた。そこで捜査への参加を強く希望しているのだが、希望が容れられない様子が続く。

この事件の解決に邁進する事を諦められない上條刑事は、手を尽くして「北嶺署に異動」ということにして、結局は「発生から1年」ということになってしまっていた誘拐事件の捜査に携わることとなるのだ。

上條刑事は北嶺市に深い所縁、そして複雑な想いを有していた。上條刑事は北嶺市出身であった。高校卒業後に街を離れ、警察官になっていた。それから20年程を経ている。現在は独身で、只管に仕事に打ち込んでいる。

本作はこの上條刑事の人生、周辺の人達との関係、意外な展開を見せる「誘拐事件」の真相が明かされる過程が描かれる。「そう来たか?」というような事件の展開と、概ね40年になるであろう職業生活の折り返し辺りで、来し方の様々な事柄を想い起し、その置き土産のような事柄にも出くわすという様子だ。

本作は2009年に文庫本が初めて登場していて、内容の中では2004年頃というような感じだ。上條刑事の「その後?」というようなことも、読後に少し気になった…

「手段を択ばず!」という感じで、グングンと事件に切り込む上條刑事の様子が痛快でもあるが、複雑な想いが過りながらの活動が少し切なくもある。なかなかに味わい深い物語だと思う。御薦め!

『最後の光 警視庁総合支援課2』

↓気に入っているシリーズの新作である。入手して読み始めたが、頁を繰る手が停められなくなり、素早く読了した。

最後の光 警視庁総合支援課2 (講談社文庫)




本作は警視庁の警察官が活躍するというシリーズであるが、発生した事件の捜査を行うという担当ではない警察官が活躍している。

作中では「犯罪被害者支援課」という、事件や事故の被害者、その周囲の家族等を支援する担当が設けられ、やがて支援範囲を被害者のみではなく加害者やその周囲の家族等へ拡げた「総合支援課」に改組される。それを踏まえ、当初は「犯罪被害者支援課」というシリーズが綴られていたが、やがて「総合支援課」というシリーズになった。

本作はその「総合支援課」というシリーズの第2作である。シリーズの主要視点人物となるのは、総合支援課に勤務する女性、柿谷晶である。シリーズの前日譚となる作品で捜査一課の捜査員として登場し、シリーズの前作から総合支援課に在る。こういう設定を承知していると、新しい作品で「遠くの知人の消息を知る」というような気分にもなるのだが、知らなくてもシリーズ各作品は愉しむことが叶う。実際、同じ作者の他シリーズに関して、設定を承知せずにシリーズの途中の作品を愉しみ、それが面白いので順次各作品を読むということもしたことが何度も在る。

本作の物語は、柿谷晶が少し若い同僚である秦香奈江と地下鉄で移動しながら、臨むことになった事案に想いを巡らせているという場面から起こる。

支援課が対応することになった事案は2歳の幼児が命を落としたという事件だった。23歳のシングルマザーのアパートに男性が住むようになって、男性が暴力的で、母子に暴力を振るうことも在ったらしい。そして2歳児が死亡し、男性が被疑者として逮捕された。女性は警察署で事情聴取ということになった。その事情聴取を行うことになっている警察署に柿谷と秦は向かっていたのであった。

2歳だった息子を喪った女性を支えるべく、身近な人達と接触を図ろうとする。母子家庭であったという女性の母親と接触を図るが、互いの関係が巧く行っていなかったようで、双方共に頑なに交流を拒んでいる。子どもの父親ということになる人物に関して、女性は明らかにしようとしない。

そうした中、女性が子どもを産む前に勤めていたという喫茶店の店主や仕事仲間等に話しを聴き、女性の事情を解き明かそうとする。そして事情が明らかになる中、接触を図ろうとした人物を巡って不審な事態が生じて行く。

2歳の息子を喪っている人を支えなければならないということで奔走する中、様々なことが明らかになって行くという展開で、最後迄眼が離せない。そして柿谷が接することになる事件関係者の生き様というようなモノが、何か考えさせられる。更に、同じ作者の他シリーズの作中人物への言及や、一部に共演する場面も在る。そして、柿谷と接点が在る神岡弁護士との挿話も入っていて、2人の関係の行方も気になる感だ。

残念ながらフィクションの中に留まらない、親が幼児の人生に幕を引いてしまうような事案は在る訳だが、本作の中で「親子関係」というようなことを少し考えさせられたという面も在った。「社会と事件」、「事件と人間」という具合な様子を見詰め、そんな中で弱っている人達が在るなら何とか手を差し伸べようという「総合支援課」の面々の活動を描くこのシリーズは興味深い。広く御薦めしたい。

『風の値段』

自身が住んでいる稚内は、海を渡る風が吹き抜けている場合が非常に多い地域だ。そういう条件の故、広大な市域の中に風力発電の風車が林立している箇所が幾つも在る。市の域を出た近隣でも風力発電は見受けられる。そういう施設を設える、入替えるというようなことにでもなると、大きな資材を載せた大型貨物船が稚内港に出入する場合も在る。夜遅くという場合が専らだが、港に近い道路上で、長大な資材を、輸送業者が慎重に運んでいる場面も見受けられるという。

そういうように風力発電が何となく身近なので、「作中世界に風力発電を巡る事柄が出て来る小説」と聞くと、凄く興味が湧く。

↓その「作中世界に風力発電を巡る事柄が出て来る小説」ということで手にした一冊である。なかなかに興味深い物語であった。

風の値段



↑基本的には「新技術の開発情報を巡る事件」の解決を図ろうとする物語で、事案に関与する人達の様子や考え方が描き込まれるというような感じだ。

主要視点人物となるのは、新橋の警察署の生活安全課で経済事件を扱う係に在り、係長を務める天木警部補である。

天木警部補は独身で、夕食は署の近くで済ませる場合も多い。酒は飲めないのだが、居酒屋に立寄って何かを食べることを好んだ。その居酒屋で、ベンチャー企業の総務課長を務めている安川という男と言葉を交わすようになり、同年代で、互いに準硬式野球や軟式野球をやっていたというようなことも在って意気投合し、一定の頻度で会うような感じになっていた。

12月上旬の或る日、天木警部補が出くわした安川は何か元気が無かった。天木警部補が尋ねれば、安川の会社に競合他社による新技術の開発情報が持ち込まれた痕跡が見付かったのだという。機密漏洩という事態である。安川の会社は「加害者?」かもしれないということになり、安川は頭を抱えていたのだった。そういう機密漏洩のような事柄は「不正競争防止法違反」という刑事事件になり得る。そして警察でその種の事件を担当するのが天木警部補の係なのである。

安川の相談に乗る中、天木警部補は大いに驚くことになる。学生時代に同じチームで準硬式野球をやっていた、当時は理工学部に学んでいた井口が疑わしい人物なのだという。井口は電力会社から、安川の会社と競合する会社に転職し、数ヶ月前に安川の会社に再度の転職をした経過が在った。

学生時代に同じチームで準硬式野球をやっていたとは言え、天木警部補は大学を卒業して以来、20年間近くも井口には会ったことが無い。この井口の身に何が在ったのか?何を思っていたのか?そうして事案の内偵が始まることになる。

作中の事案で問題になる「新技術の開発情報」だが、それこそが風力発電に纏わる事柄である。現行の、広い用地に風車が林立するようなモノに対して「洋上風力発電」というモノが在る。遠浅の海の海底に風車を固定するという「着床式」と呼ばれるモノは国外では既に色々な例が在る。これに対して「浮体式」と呼ばれる、海面に浮かぶモノの上に風車を据えて発電を行うというやり方に関しては「開発中」である。これが実現すると、遠浅の地形に恵まれない箇所に洋上風力発電を展開することが可能で、台風のような事態に備えて施設をより安全と見受けられる場所へ動かすようなことも出来ることになるという訳だ。

エネルギーに関連する新技術はマダマダ成長の余地が大きい。そういう中で巨大な可能性を秘めた開発情報に関する競争も激しい筈だ。それを背景にした謎解きであり、事案に関わった人達のドラマだ。また、天木警部補が野球に擬えて人生を語るような辺りも好い。加えて、所謂「頭脳流出」、「技術流失」というような事柄を考える材料も提供する物語であると感じた。

『風の値段』という題名が面白い。勝手に吹いている風だが、風力発電事業が巧く運ぶのであれば「金の源」で、“値段”が付けられているも同然というようなことになる。作中のような新技術が実用化されるようにでもなれば、“値段”は上がる筈だ。

様々な要素が織り交じった作品で愉しんだ。御薦めしたい。

『灰色の階段 ラストラインØ』

↓大変に気に入っているシリーズの“番外編”が世に問われる形となった。こういう作品に出くわすと、それを看過すること等出来ない!入手して紐解いて、ゆっくりと愉しんだ。

灰色の階段 ラストラインØ (文春文庫 と 24-22)



↑本作は<ラストライン>と銘打ったシリーズで、加えて他シリーズにも入り込んで活躍をしている「ガンさん」こと岩倉刑事が主人公である。<ラストライン>と銘打ったシリーズ等では、「50歳代に差し掛かっているベテラン刑事」として登場する。が、本作はそうではない。「50歳代に差し掛かっているベテラン刑事」という劇中人物造形が出来上がって行く過程というような、交番勤務から刑事になったような頃、若い刑事として結婚の話しが在ったような頃、子どもが未だ幼かったような頃というような「“ガンさん”の過去…」という物語が綴られ、そういう篇を集めているのだ。少し夢中になった。

「ガンさん」こと岩倉刑事は、古い事件の事となれば異様なまでに憶えているという少し不思議な人物だ。また、事件には目配せして憶えておくようにすべきだというような考え方をしているのかもしれない。ベテラン捜査員として押す、引くと大胆に行動する。そして捜査会議では、“流れ”や“勢い”に対して「待った!」と思い切って発言をする場合が在る。それが「最後の一線」ということで「ラストライン」というシリーズの呼称の由来になっているようだ。

「50歳代に差し掛かったベテラン刑事」ということで、或いは初登場の以前の段階で、その来し方というようなモノが漠然と構想されていたのかもしれない。本作は、そうした構想に確かな形を与えたモノということになるであろう。本作に収められた各篇は、何れも一寸愉しい。

↓これまでに読んだ、「ガンさん」こと岩倉刑事が活躍している物語は下記だ…
『ラストライン』
『割れた誇り ラストライン2』
『迷路の始まり ラストライン3』
『時効の果て 警視庁追跡捜査係』
『骨を追え ラストライン4』
『悪の包囲 ラストライン5』

これからも愉しみたいシリーズである。

『夢の終幕 ボーダーズ 2』

↓物語の冒頭で発生する“事件”が如何いう具合に進展するのか?紐解き始めると「続きはまた…」と、頁を繰る手を停めるタイミングを逸してしまうというような感で夢中になった。

夢の終幕 ボーダーズ 2 (集英社文庫)



↑休業日が続く最中であることを善として、時間を問わずに際限なく「力尽きる迄…」という勢いでドンドンと頁を繰り続け、一気呵成に読了に至ってしまった。逆に言えば「こう来るか?であれば?」というように、読んでいて止められなくなってしまうのである。少し前に始まったシリーズで、本作は2作目となっている。

本作は「明確に担当部署を決め悪い事案の捜査等を主任務とする」という架空の部署に所属する面々を主役とした、警察モノの物語である。「SCU」は「Special Case Unit」で、「特殊事件対策班」と号している。

「特殊事件対策班」は警視総監に直属の“遊軍”的な部署で、キャップの結城警視以下、綿谷、朝比奈、八神、最上という様々な部署の出身である捜査員達が配置されている。総員5名の小さな所帯である。

冒頭…「特殊事件対策班」に配備されているバイクの慣らし運転ということをしている最上が登場する。車輛の扱いや、コンピュータの利用に長けているという30歳の刑事だ。最上は居合わせた八王子周辺で連絡を受けて、現地の警察署に急行した。奇妙な事件が発生したのだ。本作は、この最上が主要視点人物となって展開する。

<FOT>という人気バンドが在る。前夜、長野県の松本でライヴを催し、終了後にバスで引揚げている。バスにはバンドのメンバー4人、事務所のマネージャーと運転手の計6人が乗っている。そのバスが行方不明で、6人の所在が不明だというのである。所属事務所が近所の警察署に相談し、密かに捜索が始められることとなった。如何いう訳か、バスが八王子で高速道路から下りたらしいということで、八王子で捜索が行われることになり、最上は駆け付けるのだった。

6人とバンドの機材等を載せたバスは、特殊な外見ということでもない普通のモノではあるのだが、やや大きな車輛であって、忽然と姿を消すというのも奇妙なことである。山の側に入り込んで事故を起こしてしまっているのか、そうでもなければ何者かに危害を加えられた、または誘拐というような可能性も排除し悪い。交通事故なのか、誘拐のような事件なのか、事情が判り悪い中で、担当部署を決め悪い事案の捜査等を主任務とする「特殊事件対策班」として事案を扱うと結城警視は決めたのである。

近隣警察署の要員から機動隊員まで、人数を投入して必死に山道でバスを探すが、なかなか発見出来ない。バンドのメンバーが出先や道中でラーメン店を訪ねることを好むという話しで、立寄る可能性を排除出来ない店に訊ねたが手掛かりも無い。そうして手詰まりになってしまいそうな中、事態が動く。

というようなことで展開する物語で、夢中になってしまったのだ。「時間無制限一本勝負」というように、夜に読んでいた本をずうっと読み続けてしまい、早朝迄に読了してしまった。

様々な事が少しずつ明らかになり、関係が薄い別件に視えた事に裏が在り、秘められた事情が少しずつ明らかになる。他方、懸命に駆け回る最上の個人の物語も在る。工業高校に学んでいた頃、ギターに夢中で、指の怪我の関係で演奏を続けることを諦めてしまったというような過去が在った。“音楽”で夢を見たことも在る者として、事案に入り込んで行く訳でもある。

このシリーズは、少し不思議な感じのキャップの下、各々に個性的な4人の捜査員が持ち味を活かして活躍するという感で、凄く面白い。前作では、八神が主要視点人物であったが、本作では最上より少し年長の捜査員として彼を支援し、誰もが見落としてしまうようなことに気付く独特な観察眼で事態の究明を援けるという活躍を見せた。次回作や、それ以降の登場にも期待出来そうだ。

>>第1作 『ボーダーズ』

『聖刻』

↓少し読んでみたくなって、取り寄せてみた一冊だった…

聖刻



↑休日の早朝に紐解き始め、夜遅くまでの間に時間を設けて随時読み進め、素早く読了に至った。というより、これは紐解き始めると、ページを繰る手が停め悪くなり、そして「続き」が気になって仕方ないという感じになる。

つい最近、『誤ちの絆 警視庁総合支援課』という作品を読了した。犯罪事件や事故に携わった人の周辺に在る人達全般、被害者、加害者を問わずに何らかの支援対応を行うべきであるとして“総合支援課”が登場し、配属された捜査一課に居た女性刑事の柿谷晶が奮戦するという物語であった。本作、『聖刻』は『誤ちの絆 警視庁総合支援課』の「前日譚」というような内容となっている。“総合支援課”が登場する前、構想段階、準備段階である時期という設定だ。柿谷晶刑事は捜査一課の捜査員である。

物語は、練馬の警察署に設けられた事件の特捜本部に在る柿谷晶が、飛び込んで来た報せに驚くというような場面から起こる。

練馬の警察署に特捜本部が設けられた事件とは、管轄内で若い女性が殺害されたと見受けられる事件であった。捜査一課の捜査員も特捜本部に入ることとなり、柿谷晶の所属する班が本部に入ることとなった。その本部に飛び込んだ報せとは、「女性を殺害した」という若い男が六本木の警察署に出頭したのだということであった。偶々他の捜査員が居なかったというようなことも在り、柿谷は同僚の井端を伴い、六本木へ出て出頭して来たという男に在って事情を訊くこととなった。出頭して来た男は、女性と口論になって押し倒した時に死亡してしまったという犯行そのものに関しては供述をした。女性は過去に交際した経過も在るのだという。が、その殺害に至ってしまった動機等に関して、男は言葉を濁し続けた。そしてその男は、高名なテレビ司会者の長男で、俳優活動をしていた経過も在ったという人物であった。

捜査の焦点は犯行動機の解明というような事柄となって行く。柿谷は被疑者の周辺を調べるということで、高名なテレビ司会者である父親、その妻である母親、更にモデル活動をしているという大学生の妹という家族に接触して行くこととなる。

出頭した男の犯してしまった罪を受けて、家族は非難や悪意に晒されてしまうようになる。父親は出演番組を直ぐに降板し、司会者の活動から退くとした。妹は、高名な父親との関係を明らかにせずにモデル活動をしていたのだが、その関係が暴露されたことも在って、結果的に活動を休むこととなった。結果的に“加害者家族”となってしまった人達に柿谷は向き合いながら、捜査を続けることとなる。そしてこの一家を巡って、幾つかの事件が発生する。柿谷はそれに取組む。

そういうようなことで展開する物語で「如何なる!?」と本当に夢中になる。

本作の一件の後に展開するということとなる“総合支援課”だが、それは“犯罪被害者支援課”のシリーズの「シーズン2」のような感じにもなっている。そういうことで、“総合支援課”の「前日譚」という感の本作には、“犯罪被害者支援課”のシリーズの主要人物が一部登場する。“犯罪被害者支援課”の主要視点人物である村野、行動を共にする場合も多く在る少し若い女性の安藤梓、被害者支援業務のベテランである女性職員の松木という人達が、本作の作中で各々に役目を果たしている。

ヒロインの柿谷が向き合う一家は、「加害者家族」として非難や悪意を向けられてしまう一面が在ったが、その故に妙な事態に巻き込まれて「被害者家族」という性質も併せ持つこととなってしまう。こういうような、在り得る、または有り勝ちな事態の複雑化を踏まえて、“総合支援課”が構想されて行ったような感である。実に安直に悪意が拡散するような一面も在る様相…そういう中で懸命に闘おうとするヒロイン…これは酷く魅力的だった。

題名の聖刻(せいこく)という語である。この聖刻とは 古代エジプトの文字「ヒエログリフ」(象形文字)を指すということであるらしいが、何か「読み悪い記録」というような含意で題名に用いられているのかもしれないと思った。真意が読み取り悪い情報が、訳が判らない程度に溢れている中での出来事というようなことか?後からそういうことを考えたが、本作を読み進めている中では然程気にしなかった。自身で面倒な過去を抱えながら、刑事の仕事に邁進し、女性が些か不利な場合も在る警察という業界で少し突っ張って頑張るという感じ、巷で色々と言われる御洒落に無頓着なようでいて、独自なライフスタイルを大事にしているというような、傍目に「カッコイイ!」という感じの柿谷晶というヒロイン…強く引き込まれる。

なかなかに愉しかった!!広く御薦めしたい!!

『誤ちの絆 警視庁総合支援課』

↓この作者が続けていたシリーズの続篇、新展開というような作品で登場に少し期待していた。そして期待に違わず愉しかった。

誤ちの絆 警視庁総合支援課 (講談社文庫)



↑好評を博したシリーズの流れを受け継ぎながらも「新たな展開」ということで、作中のメインになる出来事に対し、主人公の個人的な事柄も巧みに配され、なかなかに面白い。

<犯罪被害者対策課>というシリーズが在った。文庫本で8作が登場しているシリーズだ。(全部読んでいる…)本作はその続篇、新展開と位置付けられている。

<犯罪被害者対策課>は「警察官」が活躍するが、捜査員ということになる「刑事部」に所属している警察官ではない。彼らは「総務部」に所属している。事故や事件の被害者、被害者遺族に関連する様々な対応を担うのがこの<犯罪被害者対策課>である。

<犯罪被害者対策課>では、将来を嘱望された刑事であった村野が、休日に巻き込まれた事故で大怪我を負ったた経過を踏まえ、負傷から復帰の際に<犯罪被害者対策課>へ異動を希望し、担当としての業務に勤しむ様子が描かれる。その活動の中から、事件の意外な事柄が判るというようなことも多々在る。また同じ作者の他のシリーズに、「何やらやって来た“支援課”の人間」として村野が現れて、当該シリーズの劇中人物と絡むことも色々と在った。

何かの事件に関しては、被害者側の家族等への対応という事も在るが、加害者側の家族等への対応という事も在る。場合によっては、被害者家族と思っていれば、実は加害者家族という場合も全く無いではない。身近な人が犯罪等に何らかの形で関わる羽目になってしまった人達全般について、可能な支援をしなければなるまいという考え方が出て来て、<総合支援課>という機構が新たに立ち上げられた。

本作はこの<総合支援課>が登場し、こういうことの担当者として密かに期待されていた、捜査一課から異動した女性警察官の柿谷晶が活動を始める。

発足したばかりの<総合支援課>は、総務係、広報係、第一係、第二係が在って、<犯罪被害者対策課>よりも機構は拡充している。現場対応は第一係、第二係が適宜分担ということになっている。柿谷晶は第一係に配属である。

新年度に入ったばかりの4月初め、妙な事件が伝わって来た。都立高校としては「三本の指に…」という評価が高い進学校で、生徒同士が争い、一方が他方を刃物と見受けられるモノで刺殺に及んだという。刺された生徒は死亡しており、刺したとされる生徒は逮捕されている。

<総合支援課>の第一係が扱う最初の事案は、この高校の事件ということになった。柿谷は少年課から異動して来た女性警察官の秦と一緒に、事件を扱っている所轄署へ足を運ぶ。

様々な事件の「被害者」または「被害者家族」に関する対応は<犯罪被害者対策課>で積み重ねられた経験が在る。が、「加害者家族」ということになると、誰も知らない事柄となる。所轄署を訪ねた柿谷は、刺殺された生徒の家族対応、被害者家族対応は署の担当者が取り組んでいるので支援課は無用とされたことを受け「それでは…」と加害者側、刺したとされる生徒の家庭の様子を視ることとした。

「そう言えば誰もやったことが無い?」に懸命に取組む中、柿谷は意外な事実に行き当たることとなる。「そういうことだったか…」という話しだ。

因みに…<犯罪被害者対策課>シリーズの村野も<総合支援課>の総務係に居る。如何いう出番?それは本作で確かめるべきであろう。

本作は明確にシリーズを意図した作品であろう。「続き…」が多少気になるような内容も織り込まれていると思う。

『悪の包囲 ラストライン5』

「(気に入っている)シリーズの小説の新作」というモノは「御無沙汰傾向の遠方に在る友人の近況」というようなことに触れる感で、出くわすと非常に嬉しい。

<ラストライン>は、色々な意味で部内の“名物男”である50歳代の「ガンさん」こと岩倉刑事が活躍するシリーズだ。<ラストライン>として既に4作、そして同じ作者の違うシリーズである<追跡捜査係>で主要視点人物の1人となって「ガンさん」が登場して活躍という例も在る。正式にシリーズとして5作目、「ガンさん」が活躍する物語としては6作目の文庫本が登場した。

↓地方の小都市では新刊の文庫本が入手できるのは、出版社で「発売!」と宣伝する碑の何日か後だが、御近所の書店に入って売られ始めていたのに気付いて直ぐに求めた。カバーの帯にシリーズ各作品が紹介されているのだが「全部読んでいて、この新作を愉しみにしていて…主人公の“ガンさん”が好いのです…」と無事に入手した。

悪の包囲 ラストライン5 (文春文庫 と 24-20)



↑直接的には、「ガンさん」の前の任地である南大田署で携わった事件で、武器の密輸出のようなことに携わっているらしい集団の存在が示唆された「第3作」の「続き」というような色彩も帯びている。そういうシリーズ要素はそれとして、独立した一作品として非常に愉しい。凄く素早く読了に至ってしまった。

「ガンさん」こと岩倉刑事にも、仕事上の関係で公にしているのでもない、「個人的な付き合い」というモノが在り、そういう中に在る場面から物語は起こっている。

そういう個人的な付き合いの時間の他方、立川中央署の刑事としての公的な時間は在り、場合によっては警視庁の本部へ用事で出向くことも在る。そして本部へ用事に出向けば、食堂で食事を摂る場合も在る。

その食堂でサイバー犯罪対策課の福沢という男に出くわした。この福沢は、大学と組んで記憶力というモノの研究をするので、岩倉刑事に協力を求めると強く迫った経過が在り、そういうのが鬱陶しいと岩倉刑事は所轄への異動を希望して本部を去っていたのだった。食堂で出くわし、福沢がまたその話しをするので岩倉刑事は「この野郎!」と掴み掛るような感じになる。通り掛かった岩倉刑事の少し先輩で、失踪課の高城課長が割って入って宥めた。が、「何やら岩倉は福沢に遺恨が在るようだ…」と噂になる。

そんな矢先である。岩倉刑事が管轄内での事件の報を受けて現場に出向けば、自宅アパートで福沢が惨殺されていたのだった…

福沢が殺害された事件の特捜本部が立ち上がったが、一部の捜査員は「本部で岩倉が福沢と揉めていた」ということで、岩倉が被疑者であるかのような目線を向ける者も在るという。

そういう中、岩倉刑事は特捜本部から距離を置いて独自に動き、誤解が解けた後も“遊軍”として独自に動くこととなる。

「無茶をしなければならない時がある。今がまさにその時なんだよ」と危険な状況に飛び込んで行くことになるまでの経緯、そしてその危険な状況が描かれる本作…目が離せない!

<ラストライン>のシリーズは、謎の集団の活動に関する事柄が見え隠れして、益々盛り上がっている感だ。それはそれとして「ブレないベテラン」が独特な存在感を示して活躍という様子が痛快だ。本作のような感じであれば「続き…」がきっと在るであろうと期待させてくれる。

或いは?愉しくシリーズを読んでいる一ファンとして勝手に思うのだが…<ラストライン>の第1作で「ガンさん」と一緒に活動することになった新人として登場した伊東彩香刑事が在ったが、異動して機動捜査隊や特殊班で頑張っている。本作でも「ガンさんの弟子だから…」と一生懸命に助けてくれる。遠くない将来、この伊東刑事がヒロインになるシリーズも出て来るのかもしれない等と思わないでもない…

“遊軍”として動き回って大活躍の岩倉刑事という本作…実に面白い!!

『帰還』

↓表紙カバーのイラストにイメージが在るが、少し知られている三重県の四日市で観られるという工業地帯の夕景や夜景を写真に撮るという営為が、物語日最初の方に出て来る。

帰還 (文春文庫 と 24-19)



↑何か、作品に捕えられてしまったかのように、頁を繰る手が停められず、早朝から深夜に至るまで、随時時間を設けてドンドン読み進めて素早く読了に至った。

松浦恭司が品川駅で新幹線の列車に乗車するという辺りから物語は始まる。車内には東京駅で既に乗車した、一緒に出掛けることになった高本歩美と本郷太郎が在って、合流して移動開始だ。

3人は全国紙に既に30年程勤めていて、現在は各々に東京の本社に在る。記者として仕事を始めた当初、彼らは三重県の津に在る支局に在った。松浦、高本、本郷の3人は同期なのだが、もう1人の同期に藤岡裕己が在った。この藤岡が急逝してしまった。藤岡は四日市で支局長ということになって記者として活動していたのだが、事故で他界したということで、同期の3人は新幹線の列車で名古屋に出て、近鉄の列車に乗換えて四日市へ向かい、通夜、告別式に出ようということにしたのだ。

地方支局での仕事をする記者が少ないということで、希望者が募られた時に藤岡は応募をし、そして四日市で活動することになった。藤岡は津の支局に在った頃に知り合った女性と結婚していて、三重県を度々訪れるというような縁は在るが、望んで四日市で活動するとした事情や想いを誰も詳しくは聴いていなかった。

藤岡は写真撮影も得意であったのだが、最近は四日市で所謂“工場夜景”というような写真を撮り、それを中心にした連載記事を手掛けていて好評を博していた。その連載記事に用いる写真の撮影と見受けられる状況で、海に転落して死亡したということだった。

若き日に藤岡と一緒に仕事をした松浦は知っていた。台風の最中、藤岡は川に転落してしまったことが在り、水を怖がっていて、加えて水泳が得意な訳でもないということをである。藤岡に関して、薄暗い水辺で夜景写真を撮るにしても、海に転落する可能性が危惧されるような無茶をする筈が無いと松浦には思われたのだ。

通夜の後、松浦は事故現場を視に行く。現場の様子を視て、引っ掛かったモノが大きくなるばかりであった。藤岡が何を想いながら四日市に在り、何故事故死しなければならなかったのか、よく判らないことを知りたいという想いを、松浦、高本、本郷の3人が各々に抱いた。

そして3人は連絡を取り合いながら「藤岡の死の真相?」を探ろうとするのである。

本作の主要視点人物は、事件現場の四日市に出向いて動き回ることになる松浦ということになるが、章によって高本や本郷に切り替わる場合も在る。或いは、同じ作者の作品で多々見受けられるような感じである。

学校を卒業して社会人になり、新聞記者の仕事に就いてから30年程を経た4人―1人は他界したが…―が物語の中心ということになる。藤岡の人生に関しては松浦が解き明かすような感になるが、松浦自身や、高本や本郷には各々の50歳代に入るまでの経過が在り、直面している現在の懸念や、今後への想いが在る。そんなことも吐露されるような物語だ。

実は…自身はこの作中の4人と同じような世代だ。振り返られる彼らの人生の感じが、何やら酷くよく判る。そして、「藤岡の想いは何処に?」という謎が順次解き明かされる物語は、一寸夢中になる。

藤岡の想いを探ろうとする3人のような年恰好となれば、納得しているような、納得していないような自身の人生への想いというようなことが多々在り、漠然とした、または少し具体的な形での少し先への懸念も出て来る。それは、作中で旧交を縁に出逢う周辺の人々に関しても一定程度共通する事項として描かれる。

「記者が他界した仲間の事情を探ろうとする」という、或る種の探偵モノの枠に収まらないような、平成に元号が改まって日が浅かったような頃に社会に出て50歳代に入っているような世代の人生を問うような、味わい深い作品だと思った。

振り返ると、最近はこの作者の作品を比較的多く読んでいるように思うが、気に入る作品が多い…

『犬の報酬』

↓書店で入手しようとした際、御店の方と「最近、またこの作家の文庫が少し出ていますね…」と話題にした。意外に多くの先品に触れている作家の作品だ。作家が何本か展開しているシリーズではなく、独立した篇の小説である。

犬の報酬 (中公文庫 と 25-57)



↑頁を繰る手が「停まらなかった」というよりも「停めることが出来なかった」と表現する方が妥当かもしれない。時間を設け易い休日に読んでいたということも手伝い、作中で展開する事態の行方が非常に気になり、時間を設けてドンドンと読み進めて素早く読了に至ってしまった。

本作は立場が異なる2人の主要視点人物が設定され、適宜その視点人物が入れ替わりながら、作中の事案が次第に進展する。

物語の冒頭は、“自動運転”という自動車に関する技術開発の試験が行われていて、その試験の中で不具合が起こるという辺りから起こる。

そして第一の主要視点人物である伊佐美が登場する。伊佐美は自動車メーカーの<タチ自動車>の総務課に勤める社員で40歳だ。広報担当者として、5年程前に「リコール隠し」という問題の対応で力を尽くした経過も在るという人物で社内では評価も高い。この伊佐美に冒頭の、技術開発試験車輛の事故の情報が伝わる。

そんな頃、違う場所に在る第二の主要視点人物が登場する。畠中である。全国紙<東日新聞>の社会部の遊軍記者で、次の異動では何処かのデスクに就任すると言われている40歳だ。簡単に何処の何者かは明かせないものの、有力な情報提供者が登場し、タチ自動車に関連する情報を得て“特ダネ”ということになる記事を発表することとなった。タチ自動車による“自動運転”の試験運転車輛が公道での試運転の際に事故を起こし、車輛に乗った社員が軽傷を負っただけであったにせよ、事故の事実を明らかにしなかったということを糾弾する内容の記事だった。

<タチ自動車>では、“自動運転”という重要な技術開発に関連する事故という事案に関して、少し違う角度の問題が部内で取上げられていた。事故に関して、新聞社に情報を漏らした者が誰かということだ。その件に関して社長からの直々の指示で対応チームが極秘に設けられた。伊佐美はそれに関わる羽目になる。

他方、<東日新聞>の畠中は<タチ自動車>の事案を取り扱うキャップのような具合になり、何人かの後輩達を率いて取材を継続し、独自に得た有力な情報提供者とも接点を保ち続けていた。

ということで展開する事案に関して、如何いうように展開するのかは、本作に関心を覚えた皆さんに各々読んで頂くべき筋合いであろう。

本作では、狭い意味での業界自体の将来ということに留まらないような、国の産業界の未来を如何こうするような技術開発と、それを巡る一寸したトラブルに関連する報道というようなことが、如何いう波紋を拡げるかという些か「大きな設定」の物語になる。ここまで「大きな設定」となると、休日に愉しむ小説の作中世界の事案に留まってしまうのかもしれない。が、そこまで大袈裟なことでもない範囲であれば、“会社の利益”、“社会正義”、“自己実現”というような少し異なる要素がぶつかり合うというような事柄は「実は意外に多い?」というような気もする。

「小説の作中世界の事案に留まってしまう」かのようでいて、「存外に身近に在る?」という雰囲気で展開する物語…一寸夢中になった…広く御薦めしたい!

『ピーク』

↓紐解き始めると「続き…」が気になってしまい、ドンドン読み進めた。そして素早く読了に至った。

ピーク (朝日文庫)



↑この作者が何本も展開している“シリーズ”ということでもない、独立の篇ということになる小説だ。

物語は地方裁判所の法廷から起こる。

永尾は新聞社の社会部で“遊軍記者”という形で仕事をしている。刑事裁判の傍聴に訪れていた。被告の竹藤は元プロ野球選手である。この竹藤が赤坂の飲食店で、包丁を使って刺殺事件を起こしてしまったということで、その一件の公判が始まったのだ。

永尾と竹藤であるが、共に同じ年に大学を卒業して社会人になった。永尾は駆け出しの新聞記者として、新聞社の横浜の支局で仕事を始めた。竹藤は横浜のプロ野球チームで投手としてデビューを果たし、好成績で注目されるようになって行った。

永尾はスポーツ欄を担当する運動部の所属ではないが、横浜の地元で活動する記者として、竹藤が所属するチームに関する事の取材にも携わっていた。

竹藤は新人ながらも、投手成績の5つの部門でトップという驚異的な大活躍を見せ、「未来の大投手」という名声を得て、低迷が続いていたチームも「0.5ゲーム差で首位チームを追う」という好成績でシーズン最終盤までリーグ優勝を争った。

そうした中で「野球賭博」の疑惑が持ち上がり、関係者が逮捕された。その中に竹藤も在った。そしてこの事件の報道の口火を切ったのは永尾だった。

「未来の大投手」という名声を得ていた竹藤は、伝説的な成績を残した1シーズンで選手生活を終えて何処かへ去ってしまった。永尾は一連の報道に関して新聞協会賞という栄え在る賞を受けた。が、以降は特段に目立った実績を挙げるのでもなく、淡々と独身のままに記者としての生活を続けていた。

永尾にせよ、竹藤にせよ、大学を卒業して社会人になったルーキーのシーズン、人生の早い時期に「ピーク」というような状況を経験した。他方、その後は冴えない。

そういう2人が法廷の傍聴席と被告席とに各々在る状態から物語が起こるのだ。2人が大学を卒業して社会人になったルーキーのシーズンから17年、各々に40歳代に差し掛かっていた。

物語は、刺殺事件の事実関係を争うでもない竹藤の様子を視た永尾が、伝わっている事件の事実関係に不自然なモノを感じて引っ掛かるということから展開を見せ始める。或いは「記者としての過去の栄光」に縋るかのような振る舞いと、一部の者に揶揄されながらも、新聞紙面に掲載可能な記事になるのか否かを度外視し、「重大犯罪を犯してしまうに至った17年を探る」という名目で竹藤の辿った経過や事件のことを調べてみようと、永尾は活動を始める。

本筋は、特定の場所に詰めて場所の関連事案を担当というようなことでもない、寧ろ“フリー”に近い感覚で活動可能な永尾が、或る意味で強い因縁が在る竹藤の過去と近況とを調べる中で、気に懸かった“事件”の真実を解き明かすという内容だ。しかしそれ以上に、本作に関して「男の人生の寓話」というような感じで、何か引き込まれながら読み進めた。

多くの人が夢見るプロ野球選手になったものの、伝説的な成績を残した1シーズンで選手生活を終えて何処かへ去ってしまった竹藤という男は、竹藤が球界を去る契機の記事を出して記者としての将来を嘱望された永尾に比して「より不幸?」または「より幸福?」ということが、少し考えさせられる面も在るのだ。

謎を明かすミステリーに特化するでもなく、或る男の人生を如何こうと語る物語に特化するのでもない。何か名状し悪い独特な味わいが在る。

なかなかに秀逸な一作で、広く薦めたい!

『ボーダーズ』

↓「人気シリーズ」を幾つも送り出す作者による、“新シリーズ”の出発を意図したような作品だった…なかなかに愉しく読了した。

ボーダーズ (集英社文庫(日本)) [ 堂場 瞬一 ]




作中世界で事件が発生して、警察関係者が色々と動いて、事件が如何なって行くのかという顛末が綴られるというのが、この種の小説の“御約束”だ。本作もその“御約束”に則っているのだが、登場する警察関係者がやや変則的だ。架空の部署なのだと思うが、「所管すべき部署が曖昧と見受けられる事案を取り扱うべく設けられた」ということになっている、言葉を換えると「どういう事件でも関わって構わない」とされる<特殊事件対策班>というチームが登場する。この<SCU>という略称を与えられた<特殊事件対策班>の面々が活動するというのが本作だ。

物語の冒頭は、昼休みのオフィスで将棋を指している人達という場面から起こる。その新橋のとあるビルに入居するオフィスが<特殊事件対策班>というチームの本部である。

<特殊事件対策班>というチームは色々な部署から集められた捜査員達が所属している部署である。主要視点人物となる八神は捜査一課出身である。さり気なく左遷されたのかもしれないという思いで、何となく不慣れな新しい部署に在る訳だが、オフィスでの昼休みの将棋では少し年長の綿谷に全く歯が立たない。

そういうような場面が一転する。近くの銀行で「立て籠もり」という事件が発生したのだという。八神は若い最上と連れ立って現場へ駆け付けた。

銀行で「立て籠もり」という異様な事態だが、現れた男が居合わせた男性を刃物で刺す等して、何やら混乱した状態を警備員等が収拾しようとしたところで行員を人質のようにして騒ぎになってしまったというのだ。

男は逮捕されたが、男が刺したという男性は死亡してしまった。八神は班を統括するキャップの結城から指示を受け、死亡した男性に関して調べることになった。すると意外な事実に行き当たった。学生運動が盛んであった40年程前、デモに参加した学生が警察官を殺害したらしいという事件が在って、今般の「立て籠もり」の騒動で死亡した男性はその事件の容疑者として手配された経過が在った人物らしいというのだ。

<特殊事件対策班>というチームが動き、眼前で起った事件と、40年も前の事件、そして他の事件が結び付いて行く。各々に特徴が在る捜査員達が、彼らにも「やや判り悪い?」と受け止められる結城キャップの下で各々に活躍する。

何か「新シリーズの登場という関係主要メンバーの顔見世」という雰囲気もしないではなかった。が、眼前の出来事と過去の出来事、更に別な事件が結び付いて、それらが一気に解決へ向かって行くという「爽快なエンタテインメント」という具合に纏まっている。

「人気シリーズ」を幾つも送り出す作者の手になる本作だが、さり気なく「部内で伝説のようになっている取り調べが上手いとされる刑事」とか「手段を択ばない非常な一面も在る先輩刑事」というようなことで、八神刑事が他シリーズの主人公に言及する場面も在る。作家のファンとしては少し頬が緩むが…

とりあえず登場した“新シリーズ”の第1作ということになる筈の本作。一寸愉しい!

『チェンジ』

↓「遠方の友人・知人の消息に触れる…」という気分で新作に触れるという感じになっている、少し馴染んだシリーズの新作で、登場すると知って早速に手配して入手した。

チェンジ 警視庁犯罪被害者支援課8 (講談社文庫)



↑休日の夕べに紐解き始めると、夜、早朝、日中とドンドン時間を設けて頁を繰り続け、素早く読了に至った。と言うよりも、紐解き始めると「遠方の友人・知人」という感覚も抱くシリーズの主要人物の動向に、頁を繰る手が「停められない」という感じになってしまうのだ…

本作は<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズの8作目である。この<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズは独特な面白さが在る。

主人公の村野秋生は、将来を嘱望された優秀な捜査員であったのだが、交際中の女性と街で過ごしていた休日に大きな交通事故の巻き添えで負傷してしまった。怪我が或る程度癒えて職場復帰の際、村野は敢えて希望して「犯罪被害者支援課」の仕事に携わる。「犯罪被害者支援課」とは、事件や事故に巻き込まれてしまった人達へのケアという事柄を担う。苦しみ、混乱する関係者を慮り、急いで事情聴取をしようとする捜査員達との間に入って、一応“身内”でありながらも捜査員達の聴取に「待ったをかける」というような真似も辞さない訳だ。

その村野自身や「犯罪被害者支援課」の人達が関わる事案の顛末が描かれるのがこのシリーズだ。淡々と事件を捜査するというような“警察モノ”とは一味違うような独特な面白さが在るシリーズで、少し気に入っている。

「犯罪被害者支援課」というのは、事件を取り扱う各所轄の担当者の手が及び悪いような事案を手伝う建前であるが、事件や事故に巻き込まれた人達へのケアは長期化することから、民間団体である支援センターというモノも存在し、そのセンターとの連携も「犯罪被害者支援課」の大切な役目だ。この支援センターには、村野が事故に巻き込まれた際に一緒に居た元交際相手の西原愛が携わっている。

村野とこの西原愛とは一緒に居合わせた場面で事故に巻き込まれている。村野も負傷したが、愛はより大きな負傷で車いす生活を余儀なくされてしまっている。そういうことから、2人は“交際”という関係を解消したが、それでも「犯罪被害者支援課」と「支援センター」とに各々関わっているので仕事上の関係は続いている。そして村野は「直接の職場関係者以外で、何処かの店で一緒に食事を摂る」という人物は、考えてみれば愛しか思い当たらないという、何やら微妙な間柄が長く続いていた。(シリーズを通じて出て来る事柄である…)

その愛の車椅子を押している村野が在って、支援センターの事務所の辺り、西早稲田で昼食を摂る話しをしている辺りから本作の物語は起こる。

愛との関係の経過に想いを巡らせながら、警視庁の在る霞ヶ関も愛が居る事務所の在る西早稲田も、愉しい昼食に好適な店が少ないというようなことを話していた村野に連絡が入った。新宿で「通り魔」と見受けられる事件が発生し、複数の負傷者が発生し、死亡者も生じているかもしれないということであった。「犯罪被害者支援課」も現場に向かうことになったので、向かって欲しいということだった。村野は愛に静かに事情を告げて、タクシーを拾って現場に駆け付けた。

村野が現場へ着けば、急報を受けた所轄署員達、捜査員達が出て規制線を設け始めているような様子だった。未だ事件の恐怖の空気も漂う感であり、負傷していて病院への搬送を待つという状態の人達も視えた。何が如何なったのか、整理把握出来ていない「生の現場」である。

様子を視ていた村野は少し驚いた。捜査員と見受けられる男が、事件で負傷したと見受けられる男性に乱暴に詰め寄って「話しを聴かせろ!」と迫っている。他の捜査員が脇で困惑して制止しようともしている。村野はその男が「追跡捜査係」の沖田であると気付いた。

沖田刑事の「追跡捜査係」とは、発生から時日が経って、捜査が詰まっている事案に関して、改めて捜査をするという「未解決事件専任」の捜査グループである。たった今発生した事件の現場に駆け付ける担当ではない。と言って、警察官の沖田が偶々酷い事が起こった現場に居合わせれば「手を貸そう!」ということになるのかもしれない。が、そういう様子にも視えない。明らかに「事件で負傷した人に乱暴に詰め寄っている」というようにしか視えない妙な様子だ。

村野は沖田刑事に近付いて「刃物を振るって通行人を負傷させたという事件で怪我をしている人については、とりあえず病院への搬送が最優先である筈で、無茶な聴取をすべきでもない。更に沖田刑事の担当は、たった今発生した事件ではない筈だ」と説き、制止し、他の捜査員達と共に沖田刑事を男性から引き離した。

沖田刑事が詰め寄っていた負傷者は栗岡という、自動車修理工場に勤めている男だった。8年前に発生した強盗殺人事件の容疑者として浮上したが、容疑が固まらないままで、事件は未解決なままであった。沖田刑事はこの栗岡をマークし始めていた。少し距離を置いて尾行していた時、栗岡が事件に巻き込まれた。そして沖田刑事は現場に飛び込んで、村野が見掛けたような様子であったのだった。

「犯罪被害者支援課」では、この新宿での通り魔事件の各被害者に関して、分担して対応することになった。村野は栗岡という男性を担当することになった。病院で意識を失ってしまった栗岡の怪我は思いの外に重いもので、近親者との連絡が必要であった。栗岡は単身者だった。そして過去に事件に関わったことも在って、長野市内に在るという実家の家族とは疎遠であり、村野は苦慮する。

他方、沖田刑事は栗岡が8年前の事件で容疑者として浮上しながら詰め切れなかった経過を探り始める。8年前の事件とは、商店街の惣菜店の店舗兼住宅で、鍵を巧みに開けて侵入した犯人が店の現金を奪ったのだが、その際に店を営んでいた女性と、偶々泊まっていた女性の孫である女子大生を刃物で刺してしまったという事件だった。女性は負傷して療養生活を続け、やがて他界したが、女子大生は即死だった。沖田刑事は、未来が在る大学生の命が奪われてしまった事案であることから、様々な角度で解決に向けて調べ始めていた。

というようなことなのだが、本作は<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズでありながら、4割程度は<追跡捜査係>のシリーズの物語のようでもある。村野が視点人物になる部分と、沖田が視点人物になる部分とが概ね交互に出て展開する。栗岡の事情で苦慮する村野と、栗岡を巡る事案を調べる沖田は“共闘”して行くこととなる。そして「やや意外?」な真実が明かされてしまう。

題名の「チェンジ」は意味深長だ。シリーズの主人公である村野や周辺の変化ということ、事件関係者の立場の変化ということ、世の中の変化ということ等、様々な含意が感じられる。

「遠方の友人・知人の消息に触れる…」という気分で新作に触れるこのシリーズである。「今後」にも期待したい感だ…

『宴の前』

↓気に入っているシリーズを送り出している作家による最近の文庫本と知ったが、御近所の書店に積まれているのを見掛けて、思わず求めた。

宴の前 (集英社文庫)



↑非常に愉しく読了した!

酷く「野暮かもしれない…」とも想いながら、古く『宴のあと』という小説が在ったことも思い出さざるを得なくなってしまうことを御伝えすべきであろうか。『宴のあと』という色々な意味で知られている感の作品が「知事選挙」に題材を求めているのだが、本作も「知事選挙」に題材を求めている。

本作は「とある県」を舞台に、知事選挙を巡る様々な人達が登場して物語が展開する。「全く架空」な物語ではありながら「過ぎる程にリアル?」で引き込まれてしまった。野暮を承知で話題にした『宴のあと』という小説は、「題名が何となく似ている?」という以上の関係は全く無い。

本作は、中心視点人物が複数在って、多層的に、多面的に「とある県」の知事選挙を巡る物語が展開している。

県知事の安川が在る。4期目の任期の4年目で76歳になった。次期の知事選挙には出馬しないとしていた。そして副知事を“後継”ということにしようと考えていた。安川自身が“旧自治省”の官僚という流れなのだが、副知事もその後輩ということであった。そして健康上の不安も無かったのだが、その副知事が不意に急逝してしまった。「後継」を如何するのか、途方に暮れてしまった。

その他方、「とある県」では大変に著名な、冬季五輪のアルペンスキーで銅メダルに輝いた経歴を有し、大学教員にしてJOC委員であるという42歳の女性、中司涼子が「知事選出馬!」を宣して大きな話題になった。

清新な女性候補、加えて大変な著名人が知事選への出馬を宣言して勢いを得ながら運動を展開する他方、安川知事側は思うように動けない。

安川知事側の「後継候補」の選任は、様々な事情で思いの外に難航して行く。やがて県内で大きな影響力を有する地方紙<民報>の記者達の動きも出て来る。

この知事選挙の行方は如何なるのか??

というような物語だ。選挙を“宴”に見立てているのだが、そこへ「向かって行く」という様が多面的に描かれるということで、『宴の前』なのだ。なかなかに愉しめた。他方、“実際”もこの種の事案というのは「こういう感じか?」と思わせ、色々と考えさせられた。

『骨を追え ラストライン4』

↓「警察モノ」の愉しい小説である…

骨を追え ラストライン4 (文春文庫 と 24-18)



↑これがなかなかに夢中になり、「続き…」が気になってしまい、時間を設けてドンドン読み進めることを停められなくなってしまう。

本作は<ラストライン>というシリーズの第4作と位置付けられている。が、<ラストライン>の主人公である「ガンさん」こと岩倉刑事の他、<警視庁犯罪被害者支援課>の主人公である村野も登場し、「本作の2人目の主人公」というような存在感を示す。

同じ作者による別シリーズ、<警視庁追跡捜査係>のシリーズで『時効の果て 警視庁追跡捜査係』という作品が在って、<警視庁追跡捜査係>の西川刑事と<ラストライン>の岩倉刑事とが共演、または競演している例が在る。今般は岩倉刑事と村野とが共演、または競演となる。

50歳代になっている岩倉刑事は、思うところが在って希望し、本部の捜査一課から所轄署の刑事課に移動したというベテラン刑事だ。<ラストライン>の第1作から第3作まで、加えて『時効の果て 警視庁追跡捜査係』とでは、蒲田周辺を管轄している南太田署に在った。本作はそこから異動して赴任した立川中央署での出来事ということになる。

立川中央署の刑事課で岩倉刑事は最年長の捜査員ということになった。課長は女性で、主に一緒に活動することになった刑事も女性だ。一緒に活動する熊倉刑事は、同じく警察官である夫と離婚したばかりで、心機一転と出身地域の立川に異動して来た経過が在ったが、少し元気が無い。そんなことではあるが、目下は一人暮らしの岩倉刑事としては、立川は居心地が悪くない街でもあった。

そこに連絡が入った。長く居住者も無く、手入れも行き届かずに近所で“幽霊屋敷”と呼ばれていた古い住宅を取り壊していた現場で、白骨化した遺体が発見されたのだ。遺体の身元は、10年前に失踪してしまっていた、近所に住んでいた失踪当時高校3年生であった女性と判明した。

失踪当時の捜査ではこの女子高生が交際していたとされる男子生徒が注目された。が、何も判らなかった。やがて男子生徒は大阪の大学へ進み、以降はこの件とも縁遠くなっていた。そして失踪した女子高生も発見されないままであった。

岩倉刑事は捜査活動に着手するが、ここにもう1人、行動を開始した男が居た。<警視庁犯罪被害者支援課>の村野である。

村野は捜査一課の刑事であったが、非番中に街で事故に遭い、一緒に居た当時交際中であった女性と共に負傷してしまった。膝を傷めてしまい、長時間歩き回るようなことが辛い状況である他、大きな心の傷から少しずつ立ち直ることもするべく異動を願い出て、<警視庁犯罪被害者支援課>の仕事に携わるようになったのだった。

その村野は、10年前に当時高校3年生の娘が失踪し、白骨化した遺体が発見されたということになってしまった両親への対応を担当することとなったのだ。

高校卒業後に大阪の大学へ進んだという28歳になっている当時の男子生徒だが、重い病気であった。若年性の癌で、相当に弱った状態で地元の病院に入院中であった。この人物に注目ということになったのだが、何かが変だった。

岩倉刑事は捜査員の立場で、村野は被害者支援担当の立場で各々に事件に携わり、事件関係者が秘めていた事柄の扉を一つずつ開けることになる。そして10年前に当時高校3年生であった女性の一件の、少し意外な真実を解き明かす。

「殺害後に遺棄と見受けられる遺体が発見された」という進行中な出来事とはなるが、殺害されてしまうという出来事は10年も前に起こってしまったと見受けられる。この設定が独特な空気感を醸し出している。言わば「関係者の10年」を岩倉刑事や村野が探って行く物語という感だ…

愉しい“シリーズ”というのは、新しい作品が登場する都度、「遠くの友人・知人の近況に触れる」というような面白さが在る。今般もそれを満喫した!

今作では岩倉刑事、村野という「共演または競演の2人の主人公」も好かったが、岩倉刑事が在勤する立川中央署の人達も一寸面白かった…

『時効の果て 警視庁追跡捜査係』

↓日曜日、ランチを摂った後に立寄った近所の書店で見掛けて…迷わずに買い求めてしまった…なかなかに気に入っているシリーズの新作だ…

時効の果て 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)



↑なかなかに夢中になってしまい、休日の午後、夕刻、深夜、更に翌早朝で一気に読了に至った…或いはそうせざるを得ない程度に引き込まれてしまった…

作者は幾つもの“シリーズ”の作品を送り出している。本作は<警視庁追跡捜査係>のシリーズになっている。が、同時に<ラストライン>の中の作品という感さえする。

<警視庁追跡捜査係>は本部の捜査一課に設けられていることになっている係の捜査員達が活躍するシリーズだ。捜査が進められた経過が在って、未解決になっている事案に関して調べるという役目を負った係で「粗探しをしている?」と捜査関係者の間では少し煙たがられている係だ。この係の主要な捜査員に西川刑事が在る。西川刑事は資料を徹底的に読み込んで、死角になってしまった事項を探し出し、それを探って推理を巡らせて事件解決を目指すというような捜査員だ…

<ラストライン>は南太田署刑事課の、50代になっている岩倉刑事の活躍するシリーズだ。過去の事件に関する驚異的な記憶力で知られる“名物男”であるが、「この線で…」と捜査本部が走り出しそうな場面で「一寸待て!」という論を展開することでも知られる人物だ。本部で、捜査情報関係のAIを研究する事業に協力するように仕向けられていて、それを嫌って所轄署への異動を希望した。そして密かに交際する女性が住んでいる場所にも近い南太田署に在るという訳だ…

本作は、西川刑事と岩倉刑事が共演、或いは競演している。西川刑事が主要視点人物になる部分、岩倉刑事が主要視点人物になる部分が概ね交互に在って事案が展開して行くのだ…

物語は、オフィスに出勤した西川刑事が発売されたばかりの週刊誌に載った記事に驚き、思いを巡らせている場面から起こる。

週刊誌に載った記事とは「31年前の“バラバラ殺人”」という一件のことだった。

公園の池で、人体の一部が入ったゴミ袋が浮かんだ。騒ぎを受けて調べると、バラバラになった人体が幾つかの袋に容れられて池に遺棄されていたのだった。殺害した遺体を損壊した事件として捜査本部が設けられて捜査が進められた。が、遺体の身元を特定するに至らず、時効となってしまったのだった。

時効になってしまった31年も前の事案に関しては、未解決事件を調べる追跡捜査係としても正式に捜査ということにはならない。が、事件当時に敢えて公表しなかった、ゴミ袋の色というような次元の「当事者以外に知り得ない事柄」を含む記事であることから、事案を“調査”ということになり、西川刑事が取組むこととなった。

同じ頃、南太田署の岩倉刑事も同じ週刊誌を視て驚き、思いを巡らせていた。

件の「31年前の“バラバラ殺人”」は学生時代に住んでいた地区で起っていた事件で、「こういう事件の捜査をする刑事に…」ということを思い立った契機となった事柄で思い入れが在ったのだ。

岩倉刑事は件の記事を掲載した週刊誌の関係者に、過去の事件で出くわしていた、連絡を取れば会うことも出来るかもしれない人物が在ったことを思い出す。そして接触を図り、週刊誌に情報を持ち込んだという人物が南太田署の管轄地域に住んでいるということを知った。

岩倉刑事も時効になってしまった31年も前の事案が捜査ということにならないとは思ったが、或いは報道を受けて事情をしる調査は行われる可能性が在ると考えた。その調査を担当するとすれば追跡調査係だ。

そして岩倉刑事は西川刑事と連絡を取る。週刊誌への情報提供者が南太田署の管轄地域に在る。「自分が手伝えるように手を回せ…」と岩倉刑事は西川刑事に伝え、西川刑事は応諾した。

こうして西川刑事と岩倉刑事は、「31年前の“バラバラ殺人”」に纏わる事柄の調査に乗り出した。

正式に「追跡調査係が南太田署刑事課に協力を依頼した調査」という体裁になったことから、岩倉刑事は早速に件の情報提供者に関して調べ始め、そして住まいの辺りで行動を観察し始めた。程無く事態が動き、31年前の別な事件の関係者の姿が視え始める…

両刑事が各々の持ち味で、似ているようで実は違う両者が事件に向き合い、共闘、張り合いと色々在って、31年も前に何が起こっていたのかを解き明かしていく物語である。酷く愉しんだ!