『若頭補佐白岩光義 南へ』

なかなかに痛快な物語が愉しいと、少し気に入ってしまった“白岩光義”が活躍するシリーズ…第3作が在る!

↓物語の舞台に九州が登場する…そこで「南へ」となっている…

若頭補佐 白岩光義 南へ (幻冬舎文庫)



↑前作の「北へ」から1年、第1作の「東へ、西へ」から2年を経た頃の物語である…

物語は、白岩が私事旅行に出ようとしている辺りから起こされる。

白岩は大阪大学に学んで卒業しているが、その大阪大学の同級生等と交流を続けているというのでもなかった。それが「是非に」と同窓会に誘われ、少し愉しく過ごした。席上、白岩を誘ってくれた九州に居る同級生が「九州へ遊びに来てくれ」と言う。白岩は社交辞令程度に受け止めていたのだったが、後日に先方から連絡が入り、本気で日程の調整を図ろうとしている。白岩としては、是非とも先方の希望に応えたい。

白岩は出発しようとするのだが、花房組の若頭である和田は、色々と抗争事件が続いているような、ややこしい土地柄と見受けられる九州へ白岩が単身で旅行に出ることを危ぶむ。結局、若い組員を護衛役、連絡役で同行させるという和田の案を白岩は容れた。

白岩は酷く懐かしい“修学旅行”で利用した記憶が在る、大阪港から別府港へ向かうフェリーに乗船して九州を目指した。船内では、北新地の知っている女に出会うというような偶然も在ったが、無事に九州に上陸した。

白岩を招いた須藤の所に着いた。福岡県筑紫野市内の農村部である。須藤は白岩と同じ大阪大学を卒業した後に福岡県庁に勤務したが、最近になって実家の農家を継いだ。そして近隣の農家と共同で、農地を合わせて規模を大きくした経営を図るべく農業法人を起こした。その法人は悪くないスタートを切ったと、須藤は溌溂としているように見えた。佐賀と熊本からも学生時代の仲間が招かれ、愉しい一時を過ごすのだが、白岩は入浴中に須藤が誰かと少々妙な話しをしているのが耳に入ってしまい、気に掛っていた…

実は須藤は悩んでいた。農業法人に参加している農家の1つが、「娘婿を役員にしたい」と俄かに言い出した。この娘婿という人物は、その農家と懇意という訳でもない。更に、表向きは堅気であるものの、実質的には福岡の組の幹部と繋がっているらしいのだ。須藤は、或いは白岩であればこの種のトラブルの解決に、何らかの力になってくれる可能性が在ると考えていたようだった。

そして…須藤の問題の背後に色々な事が在ることが次第に明らかになって行く…他方、東京で療養生活を送る先代花房組長が、大阪に戻って通院治療ということにして行こうという問題の進展も在る…

結果として…3作在る“白岩光義”が活躍するシリーズ…愉しかったので、3作を一気に読んでしまった…

この「南へ」に関しては、物語の舞台となる九州の描写が在るのだが、その辺りが何となく好い…尤も、本作はほのぼのとした旅行というような物語ではなく、出向いた先で出くわす案件を気に掛ける白岩が、なんとかそれを収拾しようという辺りが本筋なのだが…

「“旧き善き侠客”が複雑な現代日本を駆ける」という雰囲気のこのシリーズ…とりあえず本作の後には登場していないようだが…何となく「つづき」も気になる…

『若頭補佐白岩光義 北へ』

“白岩光義”という作中人物…これは別なシリーズの小説で、「主人公の幼馴染で、若かりし日に色々と在った親友」として登場するのが初登場らしい。その白岩が主役の作品が、シリーズになった…こういう“スピンオフ”というのはよく在るモノなのかもしれない。

残念ながら、白岩が「主人公の親友」として登場する別なシリーズの作品は知らないのだが…前作を読み、「“旧き善き侠客”が複雑な現代日本を駆ける」という雰囲気が大いに気に入って、第2作を早速に紐解くこととした…

↓第2作は「北へ」ということになっている…

若頭補佐 白岩光義 北へ (幻冬舎文庫)



↑前作から概ね1年を経た、“東日本大震災”から数ヶ月を経た辺りという舞台設定である…

白岩は東北新幹線に乗車して旅行中だった。客車内で携帯電話の電子音を延々と鳴らしている男と揉める等した他方、老婦人と幼い孫が連れ立って移動していたのに出くわす等していた。

白岩が東北を目指したのは、先代花房組長に関連する用事を足したかったからだ。先代花房組長と縁が在り、嘗ては仙台の組で組長だった成田が、不意に東京の病院で治療を受けている花房を見舞いに訪れたのだった。成田は組長を退き、刑務所に慰問に来たことが切っ掛けで知り合った女性との文通を通じて結婚に至り、現在は青森県の津軽地方に住んでいた。見舞いの御礼のためにこの成田を訪ねるというのが、白岩の用事だった。

白岩は津軽の十三湖を訪ね、夫妻で蜆漁に勤しむ成田夫妻に出くわすが、そこで成田の妻のことを聴く。仙台に居る、永く行き来が途絶えている姉に届け物を頼まれたのだった。そして白岩は驚くことになる。その「仙台の姉」というのが、新幹線の車内で出逢った老婦人その人だったのである…

そして仙台に立寄ってみれば…成田の妻の姉は、地元の老舗建設会社の創業者一族であり、会社や“復興利権”を巡って、不審な男達が色々と蠢いていた…

新幹線で出くわした老婦人や孫の幼女との縁、成田夫妻との縁を大切に思う白岩の“お節介”が始まった…

という展開だ…東北で出逢った人達を巡る案件の他方、強い覚悟で病気療養を目的に東京に移った先代花房組長らの、震災という事態を受けた“揺らぎ”等、「読ませる箇所」が多い…

が、この白岩という男は変わらない…相変わらず痛快である…

早いもので、「“大津波警報”と言うが、“大”とは何ぞや?」と酷く驚いた、あの大震災から何時の間にか6年を迎えようとしている。「“復興”とは何だろう?」と時々思うことも在るのだが…そういう時代や場所を背景に、ささやかな縁に尊さを見出し、好からぬ輩の悪事を暴く白岩の物語…愉しかった!!

或いは、本作が非常に愉しいのは…作中の白岩が、私自身と近い世代に設定されているからなのかもしれないとも読後に考えてしまった…とにかくも「“旧き善き侠客”が複雑な現代日本を駆ける」という雰囲気…これは或いは「切実な時代の要望」なのかもしれない…



『若頭補佐白岩光義 東へ西へ』

↓なかなかに痛快な感じの作品に出会った!!

若頭補佐白岩光義 東へ、西へ (幻冬舎文庫)



↑表紙イラストの「如何にも…」という風貌の男性…題名に冠せられた“若頭補佐”という「あの世界」な用語…何やら凄惨な抗争でも起こるような物語を想起してしまうが、必ずしもそうではない。独自の価値観で、正しいと思う道を行こうとする男の物語である…何となく「現代侠客伝」というような趣も在る…

男は新宿の花園神社辺りを歩いていた。赤いスカートの女を眼に留めた。女の脹脛の綺麗な線が印象に残った。

そしてその女が何処かに去り、想い起しながら歩いていれば、その女を再び目にした。2人の若い男達が女に迫り、脇に車が控えている。何やら女を連れ去ろうとしていて、女が抗おうとしているような様子だ。

男は「やめろ!」と割って入った。2人の若い男達が掴み掛り、男は彼らを倒してしまった。女は何時の間にか消えた…そして男は現れた警察に、事情聴取ということで新宿署に連れて行かれた。

この男…白岩光義…大阪の“極道”である。本人は飽くまでも“極道”と称し、“やくざ”や“暴力団”とは言わない。2千人程の組員を擁する二代目花房組の組長で、関西の大勢力である六代目一成会の若頭補佐である。知る人ぞ知る男だった。大阪大学の学生だった頃、チンピラに絡まれた女を助けようと乱闘になり、ナイフで顔を切り付けられた。その物々しい傷痕が顔に残る。その騒ぎの中で先代の花房組長と知り合い、やがて大阪大学を卒業後に花房組に入って頭角を現すようになった。

事情聴取で新宿署に1泊する羽目になったが、白岩は連れ去られそうになっていた女の事情が気になる。

そして白岩は、友人が頼みにしているという情報調査会社の木村と連絡を取り、出くわしてしまった事件の関係者、殊に連れ去られそうになっていた女の情報を得るよう、仕事を依頼した。

この調査の結果、赤いスカートの女が外国人であることや、事態の背後に新宿のやくざ、新宿署、NPO法人、京都から進出した予備校や各種学校を運営する法人、更に色々なモノが蠢いていることを知ることになる。

そんな他方、一成会内部で“反主流派”が担ぐ神輿のような存在にもなっている白岩には、色々と気になることが在る。加えて、先代の花房組長の病気療養に関しても色々と考えなければならないことが在った。

こういう中で物語が展開する…白岩は善行を行うことを看板に、多くの弱い者を泣かせるような真似が罷り通っていることに義憤を覚える。適法とは言い難い手段で稼ぎを得る場合が多いような極道の業界に在っても、許せることと許せないことが在る。そういうことで、大きな組の幹部としてよりも、寧ろ私人としての“お節介”で事態の収拾を図って行こうとする。他方で、自身の周囲の組としての問題も浮かび上がる…

運命が何やら捻じれて極道の世界に身を置く白岩…しかし彼は、そこに身を置きながらも独自の価値観を貫き通そうとする。正しく題名のとおり、「東へ、西へ」と東京や大阪を往来しながら活動を続けることとなる。

偶々眼に留めて、何やら困っている様子なところで声を掛けたという縁で、赤いスカートの女と苦しんでいる人達を何とかしようと奔走する白岩…何か「“旧き善き侠客”が複雑な現代日本を駆ける」という感の痛快な物語になっている。

「面白かった!!」と一通り読んで、後から冷静に振り返れば…白岩が極道という立場ではなくても、例えば「大阪のバーの、怖い顔をした名物マスター」というような立場であったとしても、この物語は成立してしまうかもしれない。しかし、大きな組織で「神輿に乗る」ような立場にも在りながら、飽くまでも自身の価値観に正直に、一寸出くわした人との縁を大切に考え、難局を乗り切ろうとする辺り…なかなかに痛快だ。加えて、白岩の実父は余り好ましくない存在であったとされている他方、顔に深い疵を負ってしまった白岩に眼を掛けた先代花房組長との関係、「義理とは言え“親”」の薫陶の描写がなかなかに好い。白岩と先代、或いは姐とのやり取りが、何となく沁みる感じもする。

何となく、「色々と在る日頃のモヤモヤ」を吹き飛ばしてくれるような白岩の奔走の様…愉しい物語で、多くの人達に薦めたい!