『七つの会議』

↓大変に興味深く読み、夢中で読了した1冊だ!!

七つの会議 [ 池井戸潤 ]



↑8つの中篇が集められたかのような体裁に見えるのだが、これが「一連の物語」となっている。実質的には長篇だ…

本作は、「特異な状況」という程のモノが描かれているのではない…言ってみれば、「普通の働く人達やその家族」の物語ということになる…そういう「普通な物語」の中に“謎”めいた、「何か釈然としない」が残り、積み上げられて行く中で「大変だ!?」という事態が劇中人物達に突き付けられることになっていく。全体としては、「少し個性的な味付けのミステリー」ということになると思う。

本作の主要な舞台となっているのは“東京建電”という会社だ。大手家電メーカーの子会社で、色々なモノを製造して売っている会社だ…

第1話の視点人物は、“東京建電”の営業部で課長を務める男だ。同じ部の隣の課に、「トップセールスマン」と目され、最年少で課長に昇進したという人物が在る。その課には、“万年係長”で色々と評判の好くない曲者社員が居る。或る日、件の万年係長が「トップセールスマン」と目される課長を“パワハラ”で社内の委員会に訴えた。殆ど例が思い当たらないような出来事だった。そして、社内の委員会では「トップセールスマン」だった課長を“人事部付”という型で職から外してしまった。社内では驚きと共にその報せが知られた…何が在ったのか?

第2話の視点人物は、大阪の老舗の町工場を、父の急逝を契機に受け継いだ男である。“東京建電”の仕事を請け負っていたが、過酷に過ぎる価格を要求され、それが容れられなかったことから仕事を失って苦労していた。そこに“東京建電”の「新しい担当者」という人物が現れる。そして、止めてしまった取引を復活させ、それどころか増産を望むという思い掛けない話しになった。そこにどういう事情が在ったのか?

こういう具合に各話が積み上げられて行く…各話共に、劇中人物達の務め、人生、出くわしている出来事が描かれている。そして、第1話、第2話で提示される「一寸、妙??」な事態の真相に少しずつ近付いて行く…

実際に「とあるメーカーで、本作のような事態が在れば?相当に大変という表現では済まないような大騒ぎになるであろう…」というような事態が進展する他方、「人と仕事」、「仕事と社会」、「家族」、「それらの中での人間」というテーマが淡々と掘り下げられるような物語が展開している…

本作はテレビドラマ化された経過も在ったらしいが…或いはそういうモノの原案として妥当かもしれない…色々と考えながら、同時にかなり愉しく読了した…

『ロスジェネの逆襲』

↓「敢えて紹介する程も…」と思える程度に有名な作品ということになるであろうが、文庫本登場を受けて入手し、大変に愉しく読了した!!

池井戸潤/ロスジェネの逆襲 文春文庫
↑大変に話題になったテレビドラマ『半沢直樹』の原案となった2作品の続篇となる作品である。本作はテレビドラマ化されていないが、読んでいて、何となく「テレビドラマのBGM」が頭に浮かんだ場合も在った。

主人公の半沢は、メガバンクに勤務する銀行員である。前作(第2作)の最後では、一件落着の後に「子会社への出向」という話しになったことが示唆されていたが、本作ではその出向先の証券子会社が活躍の舞台ということになる。

半沢の部署に、「時代の寵児」と言われていたような新興企業の一つから、大型の取引案件が持ち込まれた。件の企業では、同じように「時代の寵児」と言われていたような新興企業を買収することを計画しているのだという。ついてはその“アドバイザリー業務”を委託したいという話しである。

案件を持込んだ企業に関しては、株式上場の際に幹事社を務めたという縁は在るものの、以降は取引らしい取引も無かった。半沢はその辺を訝しく思うのだが、社ではその案件を請けることに決まる。ところが…突如、契約の破棄が伝えられ、件の案件に関しては親会社である銀行の証券部が請け負うという話しになったのだった。

「買収する」としている会社に銀行の証券部が与している状況下、半沢の子会社では「買収されようとしている」会社に、期せずして接近して行くこととなった。この買収の案件を巡る攻防が軸に、物語は進展して行く…

作中では、“バブル世代”ということになる半沢達と、証券子会社のプロパー社員で、“ロスジェネ世代”の森山達とのぶつかり合いや、理解し合うというような動きも在る。これがなかなかに好い…

半沢達と対峙する銀行証券部の陣営は、続々と手が込んだ仕掛けを打って来る…半沢達はそうした仕掛けの謎解きをしながら、続々と対抗手段を打つ…二転三転する“攻防”が興味深い…或いは本作は、終始この「買収を巡る攻防」が大きく太い軸になって展開するので、様々な挿話が散っている感もした前2作以上に「のめり込む」感じで読んだ…

大組織の「内部的論理」で動く人達に対し、半沢は「(事の)本質論」を飽くまでも重んじようとする…同時にそれを部下の森山達に説いている…そういう辺りは、前作までと変わらず、非常に熱い…或いは、こうした「熱さ」こそが、このシリーズが支持される理由なのかもしれない…

※序に、読了済の第1作、第2作の紹介へのリンクを挙げておきたい…

↓第1作
>>『オレたちバブル入行組』

↓第2作
>>『オレたち花のバブル組』

ところで…本作を読んで、“バブル世代”の半沢と“ロスジェネ世代”の森山に対して、自身は「両者の中間」位に相当するのか、などと思っていた…だからどうしたというのでもない…結局、どういう世代であろうと、大組織の「内部的論理」で動くというようなスタイルよりも、「(事の)本質論」を飽くまで重んじようとするような在り方を追い求めるようなことの方が大切なのかもしれない…

実はこのシリーズ…既に第4作が単行本で出ていて好評であるらしい…文庫本が登場したら、入手してみたい感だ…

『鉄の骨』

↓「人気作家の有名作品」ということになる。評価も高い…

鉄の骨 [ 池井戸潤 ]

価格:905円
(2014/8/29 14:00時点)
感想(50件)



↑「今更、御紹介するまでも…」と思う面は在るのだが、それでも非常に愉しかったので話題にしたい…

中堅ゼネコンに勤めて4年目の富島平太は、マンション建設現場の仕事に勤しんでいた。「大きな建物を建てる仕事」を目指していた平太は、現場の仕事に熱中していた。

そんなある日、本社勤務を命じる辞令を受け取ることとなった。本社へ行ってみれば、現場とは随分と雰囲気も違う。配属されたのは業務課という部署で、大型工事の入札や受注に向けた各種の準備に取組むことになっている。が、他方で“談合課”というようにも言われている部署である。

“談合”というものを“必要悪”とする、余所では受け容れられ悪い論理の中、平太は仕事に取組むことになる。そうした中、「大きな談合の陰に必ず居る」という、“天皇”とまで呼ばれる「談合の黒幕」と目される人物と出逢うが、その人物が同郷であり、更に母と関わりが在ったということも仄めかされる。更に、業務課を所管する常務の指示で、平太はその人物との窓口のような型に収まってしまった。

そんな他方で、学生時代のサークルで知り合っていて、就職後に偶然に再開したことが切っ掛けで交際していた野村萌との関係が揺れていた。大手銀行に勤務する萌と、中堅ゼネコンに勤務する平太は、互いに「全く異なる価値基準」の下で生きている間に、何か埋め難い溝のようなものを造ってしまっていた。萌に関しては、銀行の先輩であり、エリートと目される男が言い寄るようにもなっている。

やがて平太の会社は、総工費が2000億円前後になろうという地下鉄工事の落札を目指すことになる。通常、この種の大型工事は数社で連合(JV)を組んで取組むが、平太の会社は単独での落札を目指すという方針で準備を開始した。コストを切り詰めるべく、部材調達費等の交渉に勤しむ。

そうした中、“調整”と呼ばれる談合の話しが湧き上がる。平太の会社では、行き詰ったコスト削減目標に関して、新工法を導入するという構想で何とか巧く行きそうだという情勢になっていた。そういう中だけに、談合という流れに関しては抵抗も大きかった。

地下鉄工事の落札の行方は?平太と萌の関係は?なかなかに読ませてくれる!!実際、「続き…」ということになって、細目に時間を設けてどんどん読み進めてしまった…

本作は「談合」という問題に関して、突然にその世界に投げ込まれた熱血漢な若者や、全く違った価値観に立脚して批判的に視ている人達というような劇中人物達の目線で説こうとしているような“社会派”的な部分が在る。そうした意味で「実録風企業モノ」という感がする…

他方で、本作は談合に関与する各社の関係者の動きに、その種の不正や、背後に蠢く政治家を逮捕することを目指す地検特捜部の密かな活動が絡まり、“経済事件”を巡る“謎解き”というような味わいも深い…

更に、「社会に出て極々日が浅い」ということで、各々に必死で、それぞれの場に在りながら“共闘”的な心の繋がりを持っていた平太と萌との関係が“曲がり角”を迎えて行くというような部分は“恋愛モノ”風であるし、自身の夢を追って仕事をしていた平太が、不本意と言えば不本意な役目を担う中で、郷里の母が病気になるなど、何か“青春譚”、“人生譚”というムードも漂う。

本作を読み進めることに関しては、“社会派”的な部分、“経済事件”を巡る“謎解き”という部分、“恋愛モノ”風な部分、“青春譚”或いは“人生譚”というムードと、多彩な要素が各々に「作品の頁をどんどん繰る理由」となりそうである。

実際、私は“社会派”的な部分、“謎解き”という部分、“青春譚”という部分のそれぞれが非常に気になりながら頁を繰っていた。殊に“青春譚”という部分では…その尊さを深く意識しない程度にまで「大切なこと」となっていたものが、何かわけの判らない切っ掛け、或いは切っ掛けさえよく判らない中で脆くも崩れてしまう様や、平太や萌が各々にそうしたものを見直すようになって行く様には引き込まれるものが在った…

この作者の作品…“社会派”的?事件の“謎解き”?“青春譚”?実に「分類」が難しい…どうしても「分類」して安心しようとするような面が誰にでも在るのかもしれないが…本作は「所謂“分類”を超えている」という楽しさが溢れている物語のように思う…

巻末の解説で知ったが…本作は当初『走れ平太』という仮題だったらしい…これ!なかなかに好い…正しく、若き熱血漢が部外者には解り難い世界に投げ込まれて奔走し、謎が多い状況の中を走り回り、萌との関係や体調を崩してしまう母のことで走り回る…正しく『走れ平太』という感がする…

「今更、御紹介するまでも…」と思うような「人気作家の有名作品の一つ」である本作だが、非常に愉しいので未読の皆さんにはお勧めしたい。

『オレたち花のバブル組』

↓愉しく読了した作品がシリーズと判れば、関連作品を読まずには居られなくなってしまう…

池井戸潤/オレたち花のバブル組
↑こちらも大変愉しかった!!或いは“第一作”よりも好いかもしれない…

主人公は半沢直樹である。大阪の支店に居た彼は、東京に本店を構える大銀行の本部に転勤し、営業第2部の次長に就任して活躍しているところだった。

この半沢の所に老舗ホテルチェーンへの融資に関する案件が持ち込まれる。200億円の融資が行われた矢先であったが、相手先の老舗ホテルチェーンは何やら120億円もの“運用損”を出してしまったらしい。それは融資を行ったタイミングで実は明らかであったのだが、その情報が何処かで潰えていたらしく、「巨額の損を知らずに巨額の融資」という状況に陥ったようであった。しかも、丁度このタイミングで金融庁の検査が入ることになり、検査によって巨額融資が“分類債権”(=不良債権)に認定されると、莫大な引当金の支出を余儀なくされ、銀行の業績が一気に悪化してしまうに止まらず、株価や社会的な影響、更に頭取の引責辞任という状況まで発生しかねない…

こうした厄介極まりない事案の“担当”となってしまった半沢は、不審な事が折り重なってしまっている状況にキナ臭いものを感じた。そして「性善説だが、やられたら倍返しだ」という“半沢流”で銀行内外の“敵”と対決に及ぶ…

半沢の奮戦が物語のメインの軸なのだが、サブの軸として、同期入行の近藤の奮闘も描かれる…

近藤は若い頃は大変に評価が高かったが、新規支店の担当をした際にパワハラ被害者的な状況に陥り、鬱病で休職を余儀なくされた過去が在る…大阪の閑職に甘んじていた他方、大阪で家を買って暮らそうと考えた矢先、東京に戻って京橋支店の取引先に総務部長として出向することになったのである…

この近藤は、出向した先で新たな人生を切り拓くことを思い描いていたのだが、社内で浮き上がらされてしまっていて、何をやっても思うように事が運ばない感じだった…やがて近藤の仕事と半沢の案件が交錯していくこととなる…

熱いモノを秘めた半沢の奮闘は、言わば「とある大企業を舞台にしたサスペンス」なのだが、自分を探す闘いの途を探るような近藤の奮闘が絡まることで、何か「“バブル組”の叫び」、「何十年間か積み上げられたモノの上に居る世代と、新たな時代に社会に出て来た世代との“中間”に居る人達の訴え」を提起しているような味わいに仕上がっているかもしれない。

本作だが…最終盤はややほろ苦い…他方で…「現実もこんな感じか?」という感も否めなかった…

今季の大人気テレビドラマ『半沢直樹』は“後半”を残しているが、本作はそれの原案であるようだ…

『オレたちバブル入行組』

実は最近、知人が録画していたテレビドラマ『半沢直樹』を愉しく拝見する機会が在った。ドラマの原案となった小説の存在を知り、よく視れば作者は最近愉しくその作品を読んだ人であった…

↓この作品を大変愉しく、夢中で読了した!!

池井戸潤/オレたちバブル入行組

バブル期に大手銀行に就職した主人公の半沢達…その後、銀行を巡る情勢は大きく変わっている…花形業種に入り込んだエリートであった筈の銀行員であったのだが、何時の間にか何か疎ましく思われてしまうような側面さえ持つような状況であった…

主人公の半沢は大阪の大型店で融資課長を務めている。そこに“事件”が起こる…5億円もの融資が、数ヶ月で焦げ付き、回収困難に陥ってしまったのである。

当初から半沢は胡散臭さのようなものを感じていたが、何時の間にか不始末の責任を負う“生贄”にされてしまいそうな状況に陥ってしまった…

半沢は債権の回収を図ろうと奮戦する中、“事件”の思いも掛けない“裏側”を暴くことになる…

或いは、「人を幸せに出来ないかもしれないシステム」の中で奮戦する半沢の姿を通して、「現代の社会」というようなものを告発するかのような一面も在るように思えた作品だった…

巷では、存外に「卑怯な振る舞い」が“見逃され”、或いは“容認”されてしまっているということが多いかもしれない。そんな中で、それを「許すまじ!!」と奮戦する半沢の姿は痛快である…

『最終退行』

“用事”も在れば“宿題”も在り、何やらパタパタしているが、紐解き始めて面白くなってきた小説を愉しむ時間位は設けたい…

↓“用事”の関連でかなり早めに夕食を頂き、「夜食でも…」と思い付いたことから、その夜食の際に一寸読んで夢中になり、結局読了してしまった…

池井戸潤/最終退行
↑この作家の作品が、なかなかに評判が好いテレビドラマの原案となっているらしく、最近よく視掛ける本である。多少気になっていた一冊だったが、実に興味深く読了した…

“最終退行”というのは、銀行部内の用語らしい。現金や貴重品も扱う銀行では、書類仕事が多く、シャッターが下りて閉店した後、夕方の定時を過ぎても銀行員が仕事を続けている場合が多々在る。そういう時、最後に銀行から出る銀行員が鍵を預かり、確り施錠して退出する。その「鍵を預かって最後に帰る」ことを“最終退行”と言うようだ。本作の主人公は、大手銀行の羽田支店で副支店長を務める蓮沼という男で、連日のように“最終退行”をしている…

物語は1990年代の最後から2000年代初頭辺りを背景としている様子だ…冒頭は、作中人物の一人、蓮沼が勤める銀行の会長である久遠が昔手掛けた事件調査を振り返るというような、少し妙な感じになっていて…やがて、「作中の現在」になり、蓮沼の物語が始まる。

蓮沼の部下でもある塔山…若い頃に周囲に妬まれたような経過が在り、実際には仕事が出来る人物であるにも拘らず、評価が低い…が支店のスタッフ間では好い意味の“名物男”だった。彼が手掛けた融資案件が何やら妙だった…

案件に疑念を抱いた蓮沼は、案件を進めることを停めようとするが、支店長の谷はそれを通してしまった。釈然としない…

蓮沼が勤める銀行は、バブル期の不良債権で苦しんでいたが、バブル時代の頭取だった久遠が「会長に退いて引責」と言い張って、所謂“院政”の状況だった…

蓮沼はそんな状況の中、「少し無茶では?」と感じる“貸し渋り”、“貸し剥がし”の案件に向き合っていくこととなる…やがて、大変に深刻な事態が生じてしまい、「全面的に蓮沼の責任」というようなことになってしまい、蓮沼の中で何かが弾ける…

蓮沼の動き…塔山の動き…久遠の企ての行方…大変に興味深い謎解きが展開する…そして、非常に写実的だ!!

2000年代初頭辺り、或いは最近でも大きな枠組みや流れは変わっていないかもしれない、「永い期間で培われたモノをグチャグチャにしてしまっている」ような事態、その渦中で「俺の人生?」という想いを抱く人々…何か迫るモノが在る…

本作には“卑怯者”が憎々しいまでにリアルに描かれているが…或いはそういう“卑怯者”が必要以上に幅を利かせているのが“現実”なのかもしれない…

『ようこそ、わが家へ』

↓書店で、本書について「少し話題になっている」旨に言及が在った記事を視ていたことを思い出し、何となく入手した。

池井戸潤/ようこそ、わが家へ 小学館文庫
↑頁を繰り始めると…停まらなくなった!!素早く読了してしまった小説である…

物語の主人公は51歳のサラリーマン、倉田だ…東京の中野に在る会社に勤める倉田は、代々木、渋谷と乗換え、田園都市線が乗り入れる横浜市営地下鉄の駅辺りの住宅地に住んでいて、電車で通勤している。極々平凡な、大人しい男である。

この倉田が或る夏の日に帰宅しようと代々木駅で電車に乗ろうとしていた時、電車の乗降口に居合わせた若い女性を突き飛ばすかのようにして割り込み乗車をしようとする男が居た。普段なら「酷い人が居たものだ…」と眉を顰める程度のことなのだが、自分の娘に危害が加えられているような感じがした倉田は、思わず男を厳しく注意して無理な割り込みを止めさせた。

やがて倉田が最寄り駅に到着し、バスで自宅近くへ向かおうとした時、代々木駅の男を視たような気がした…「見知らぬ男に尾行されている?」という、言い知れぬ不快感、恐怖感を味わう羽目になる…

そして…倉田の家の庭の花壇が滅茶苦茶に荒らされていた…平和な住宅街であり、20年近くも住んでいて、一度も無かった出来事である…

他方、倉田は会社でも問題に直面していた。現在の勤務先は、本来所属している銀行からの出向先だった。その会社の幹部による伝票に不審なことが在り、数少ない仕事が出来る部下から報告を受けた倉田は苦慮していたのだった…

倉田、妻、大学2年の息子、高校3年の娘という、家族間の関係も比較的良好な普通の家庭に襲い掛かった奇怪な事件の行方…倉田が苦慮する勤務先の問題…2つの事件が縄をなうように展開する、なかなか読ませてくれる物語だ…

“名無し”という「匿名の個人」が寄り集まった中で、何処か変質した感の社会の中だが、「匿名の個人」にも各々の「大切な家族」、「大切な人生」が在る…そういう「半ば見失っているかもしれないような当たり前」を、見詰め直してみたくなるような物語である…

読後に…「倉田家のその後?」というような思いも少し沸く感じだった…