『アクトレス』

↓テンポ良く進む物語に夢中になり、素早く読了に至った一冊である。

アクトレス (光文社文庫 ほ 4-21)



↑何人かの視点人物が作中に在り、各々の視点人物の部分が順次展開し、拡がり、または収斂して作中の事態が動いて行く。何か「映像」が読みながら思い浮かぶような感じでもある。或いは、この作者の作品では多く見受けられる雰囲気かもしれない。

奈緒(なお)、希莉(きり)、琴音(ことね)という視点人物にもなっている作中人物達が在り、更に別な視点人物達も幾分設定されている。

奈緒、希莉、琴音は栃木県内の街の出身である。5年程前の高校生の頃に、奇妙な事件に巻き込まれた経過が在った。互いに友人同士でもある。

前半の2割5分程は、彼らの歳月が語られる感である。高校生の年代であった女性達が、20歳代に入って、各々の路を歩んで行くまでの物語が在る。そして各々の路がまた交差して行くこととなる。

彼らの中、希莉は東京の大学に進んで演劇や脚本の執筆、更に小説を綴るというような活動をしている。色々な経過で大手の芸能事務所に一応所属するようになるのだが、少し変わった話しが起こる。希莉が過去に綴った小説の習作に関して、同じ事務所の人気女優の作品として、出版を前提にウェブ配信で発表するというようなことになったのだった。言わば「ゴーストライター」である。希莉は複雑な想いを抱く。

小説は怪異な事件が次々に起こるミステリー仕立ての内容である。連載というような体裁で発表されるのだが、第1回の配信後に小説に在るのと似たような、猫の死体が出て来る騒ぎが起こった。更に第2回の配信後、また似たような騒ぎが在った。

1回騒ぎが起こったのであれば偶然ということになるのかもしれないが、続けて2回である。何者かが小説を模倣する騒ぎを起こしているのかもしれないと気になった希莉は、独自にこの件を調べてみようとするのである。

希莉が調べ始めた一件は意外な展開を見せて行く。その行方を探ることが物語の核となるのだが、視点人物達の様々な物語が交差しながら事態は推移して行く。

事件の謎を解くという核は在るのだが、本作は女性達の仕事、家族、友人関係や男女の交際等、様々な「人生」が描かれる。加えて、作中に小説等を綴る希莉や人気女優、その関係者が登場するので、「表現すること」というようなテーマも入り込んでいるように思う。これが非常に面白い。そういう部分が少し深い余韻になる。

序に言えば、同じ作者の別な人気作品に関係する人物が一寸登場するので、にやりとしてしまった部分も在った。

もしかすると本作に登場している仲間達の、更に何年か後というような物語も登場するのかもしれないというような淡い予感も抱かせるような幕引きにもなっていた。なかなか愉しかった。

『ジウX』

↓紐解き始めると、頁を繰る手が停められなくなってしまった。「続き?!」と気になってドンドンと読み進めた。

ジウX (単行本)



↑本作は作者のよく知られているシリーズである「<ジウ>サーガ」の一作である。現在時点での最新作だ。『ジウI』で2人のヒロインと東警部補が初登場して以来、明確に「<ジウ>サーガ」の位置付けとなっている作品は10作目である。それが題名の「X」ということなのであろう。

視点人物が適宜切り替わりながら、スピーディーに展開する映像コンテンツのような雰囲気で物語が進む。狂気を帯びたかのような思惑が、残酷に形にされようというような様子で、何か憑かれるかのように作中世界に引き込まれる。

本作は「警察の側」と「街の“裏”の側」と舞台が動きながら、大きな波濤のように展開する物語であると思う。警察官が恐ろしい犯罪事件の真相に迫って問題を解決するというような物語というのとも少し違う。逆に“裏”の側の者は、何やら暗躍しているという感ではあるが、と言って「100%の悪事」ということでもなく、「許し難い極悪」を何とか誅するというような様子である。こういう両者の一部が「一寸、知り合っていて、面識が在る者達も見受けられる」という様子だが、その背後に密かに蠢く巨悪のようなモノの脅威、恐怖が在って、示唆されるそれらと闘う様が描かれる感であると思う。

本作の最初では、助教として勤める場所が決まった大学院生が交際相手の女性にプロポーズをした夕べに異変が起こったこと、連立与党の代表である大物議員が或る議員との面談に出てみればその秘書が現れて妙な話しになったというような、後からの展開に繋がる出来事が描かれる。

そして実質的な物語の冒頭に入って行く。

東警部補は、発生した事件の捜査本部に参加して活動を続けていた。取組んでいる事件は「殺人と見受けられる状況」ではあるが、詳しいことが判明していないという事件だ。

公園に設置された公衆トイレで女性が発見された。死亡していたのだが、身体の一部が切られていた。調べると、麻酔等を施した痕跡も無い状態で、恐らく生きたまま、外科医等の専門家ということでもない者が家庭で使う調理器具の類のような刃物で臓器の一部を切り取るようなことをしていた。そういう状態で、女性が遺棄されていたのだった。

死亡した女性が何者なのか、その身元を知るということで事件発覚直後から捜査員達が走り回っていて、既に2ヶ月にもなろうとしていたが、依然として女性の身元は不明であった。

他方、歌舞伎町では小さなバーを営む陣内が、色々と因縁の在る女性である土屋に用事を頼まれ、仲間のジロウに土屋の用事を足すことを依頼した。

こうして物語は起こる。難航していた東達の捜査は、小さな切っ掛けから被害女性の身元が判明して少し動き始める。陣内がジロウに頼んだ一件は、何か奇妙な展開になって行く。そして陣内の店にも妙な連中が現れるというような出来事も在った。そういうような展開から眼が離せない。

「<ジウ>サーガ」の最初の3部作では「新世界秩序」なる概念を説こうとする者が現れ、新宿歌舞伎町で騒乱を起こしており、騒乱を起こした者達の代表と目される者が「NWO」(New World Order)なるグループ名を名乗った。3部作の事件でこの「NWO」(New World Order)なるグループは消えたと思われている。が、実は「NWO」(New World Order)なるグループの最高指導部や様々な構成員は健在で、「<ジウ>サーガ」の各作品でその存在が示唆され続けている。そして蠢く「NWO」(New World Order)なるグループは、本作で「牙を剥く」という感でもある。何やら「恐ろしい…」ということを「当然であろう!」というようにやってしまう、酷く不気味な存在であるように思った。

「そして如何なる?」というのを少し含むような最終盤で、「続き」も登場しそうな感じだと思う。と言うより「続き」を「待ちたい!」というようにも感じた。

なかなかに愉しめた長篇だった。御薦めしたい。

『ジウIII-新世界秩序』

↓3部作の“第3部”である。「一連の作品」なので「合わせて順次読むべきであろう」と3冊の本を入手し、“第1部”に手を掛けた。頁を繰る手が停め難くなって直ぐに“第1部”を読了し、“第2部”も同様で、直ぐに“第3部”で、それも頁を繰る手が停められなくなった。素早く読了に至ったのである。

新装版-ジウIII-新世界秩序 (中公文庫 ほ 17-16)



↑知られた作家による、少し知られた作品で、少し前の作品ということにはなるが、未読であったので「新しい作品」として随分と夢中になった。

多彩な作中人物が登場し、適宜視点人物を換えながら物語が進むという、何か「スタイリッシュな映像のテレビドラマめいた画が頭の中に思い浮かぶ」というような、この作者の多くの作品に見受けられる感じは本作でも健在である。或いは、作者の作品の発表歴の初期に位置する本作を通じて、作者の各作品に見受けられる様式が形成されて行ったのかもしれない。

「I」、「II」、「III」と「3つの独立作品が内容的に続いている」というようにも見えるような感じで登場している作品だが、結局は「上中下」という「分冊になっている1作品」というように感じられた。個人的には、何となく“第1部”、“第2部”、“第3部”と呼んでみるが、そういう程度が何となく落ち着くような気がする。

本作は“第2部”で弾けたような事態の直接的な「続き」で、更に大掛かりな事態が発生してしまう。

“第2部”の信用金庫での立て籠もり事件は随時その様子がテレビ中継されていた。それを偶々視た東は、画面に“ジウ”と見受けられる人物が見えたと思い、慌てて現場に駆け付けた。“ジウ”は居なかったが、結果的に惨憺たる現場に居合わせて状況を目撃することとなってしまった。そしてその後、東達は“ジウ”を見出すことや、その他の捜査活動を続けることとなる。

他方、“第2部”の信用金庫で殉職者や重傷者が発生し、10名程度を補充せざるを得なかったSATでは、経験者である伊崎基子を上野署から異動させた。伊崎基子は巡査部長として班長ということになった。

伊崎基子は独自に“ジウ”を探そうとしていたようなのだが、事情がよく判らない負傷という様子でそこから戻り、門倉美咲が彼女に会ったのだが、何処か様子が変だった。それは門倉美咲に限らず、伊崎基子の直接の上司ということになる小隊長の小野や、伊崎基子や門倉美咲のような若い女性警察官が住む寮で仕事をする女性等、辺りの人達が気付き始めていた。そんな中だが、伊崎基子はSATの仕事に向かい、訓練に入るのだった。

東達は正体不明の“ジウ”を探すことや、“第1部”の事件の被疑者であった竹内の事件当時の行動のこと等、捜査活動を地道に続けている。そんな中で事態が発生した。

解散総選挙で選挙運動が展開されていた中、新宿駅前の街頭演説に総理大臣や官房長官が登場した。新宿駅前の現場では、伊崎基子の班も含むSATや、主に警視庁警備部の警察官が多数動員されて警備に就いていた。その現場が襲撃されてしまい、大混乱が生じる。官房長官は射殺され、総理大臣は警備陣に囲まれて車に乗り、現場を離れたということだった。少し経って、総理大臣が何処に向かったのかということが伝わらず、警察側で不審な状況と観ることになる。

その選挙の街頭演説の混乱の他方、新宿の歌舞伎町が異常な状態になってしまう。やがて<新世界秩序>なる名を名乗るグループが、政府側に異常な要求を出すのだ。

こうした状況下、事態の収拾を目指す、または事件の渦中に在る伊崎基子を救おうと東や門倉美咲が奮戦することになる。凄く「続き」が気になってしまう物語である。

優しく真面目な門倉美咲は、尖った印象で突っ張っている伊崎基子が純粋で熱い人物と観て、異常な事態の渦中に巻き込まれてしまっている様子を何とかしようと必死である。それまで、門倉美咲は東を懸命にサポートしていたが、本作では危険を顧みずに動いた門倉美咲を東が助けに行く場面も在る。敵役達の思惑、そして行動の謎も本作で明かされ、三部作は幕を引く。

作者の別な作品に「歌舞伎町の事件」というようなことがサラリと出て来る場合が実は在るのだが、それは本作で描かれている一件であった。非常に興味深い。

『ジウII-警視庁特殊急襲部隊』

↓“第1部”を読了し、直ぐにこの“第2部”を手にせずには居られなかった。3部作と聞いてはいるので3冊纏めて入手はしていた訳だが、それはそれとして、“第1部”の読了直後に直ぐ本作を手にした。そして頁を繰る手が停め難くなり、素早く読了に至った。

新装版-ジウII-警視庁特殊急襲部隊 (中公文庫 ほ 17-15)




多彩な作中人物が登場し、適宜視点人物を換えながら物語が進むのだが、中に遠い過去からの事を回顧する、途中迄は正体がよく判らない人物の視点という部分も交じり、進行中の事柄に不思議な厚みも加えながら物語が展開する。正体が判るような段階で、事態が「弾ける」というような感じになるかもしれない。作者が手掛ける別作品にも、進行中の事態と一見無関係な回顧的な内容の節が挟まりながらの展開という例が見受けられるが、そういう方式は作者が古くから採り入れているということがよく判った。

3部作の中の“第2部”である本作だが、“第1部”の「ストレートな続き」で、“第1部”の事態を受け、その最中に在った“第1部”の主要人物達が何を如何して行くのかというようなことになって行く。

“第1部”の民家に立て籠もった男が、児童誘拐に関わったらしいということになった中、主犯と目される人物が浮かび上がった。と言って、正体がよく判らない、少年のようにも見える若い男で通称が“ジウ”という。東や門倉美咲はこの“ジウ”を探し出そうと活動し、その中で「事態」の渦中に身を置いたというのが“第1部”の終盤側の出来事であった。それを受け、その件で逮捕した者達からの事情聴取というような動きが“第2部”の前半で少し大きな位置を占める。

門倉美咲の他方、伊崎基子は巡査部長に昇任した。そして上野署の交通課に異動となり、交通捜査の担当ということになった。が、SAT隊員として現場に踏み込んで、現場に在った被疑者達を制圧したという件について、一部週刊誌に氏名や顔写真迄入った形で報道されていたことから、通常の捜査活動で外に出ると報道関係者が現れて付き纏われるという様子が生じる。伊崎基子は止むを得ず「捜査活動を外れる」と申し出て、所在ない日々を送る羽目になった。そういう中、フリーライターと称する木原という男に出会う。

“第1部”の事態で逮捕した被疑者達の中には、安定した仕事が無い中で金が欲しいというようなことで犯行グループに加わった者も見受けられたが、少し違う者が在った。竹内という元自衛官である。特段に素行に問題が在ったでもなく、寧ろ大変に優秀な“レンジャー”という資格まで有する隊員で、退職しようとした際にも慰留されたという人物だ。この人物の聴取は難航していたが、負傷から復帰の東が参加し、東と竹内の丁々発止のやり取りとなって行く。そういう中で同じ隊に在った別な隊員を介して“ジウ”と関りが出来たことが示され、更に「新世界秩序」なるよく判らない概念が示された。そして東達が色々と調べようとする。

他方、伊崎基子は知り合った木原に誘われ、“ジウ”という人物を独自に追うべく活動を始めた。少しタイプが異なる門倉美咲を遠ざけるような感でもあった伊崎基子ではあったが、更に距離を置くようになって行く。

やがて西大井の信用金庫に男が押し込んで立て籠もるという事件が発生した。件の男の特徴が、“ジウ”を巡って聴取をしていた竹内が挙げた、同じ隊に居たという男、西尾に一致しそうだということになった。この信用金庫の件は、男が支店内に居た客や職員を人質としてしまい、動きがないまま徒に時間が流れた。警察側はSATを含む突入部隊を編成して事態の打開を目指そうとしていた。

本作中、被疑者の竹内と東警部補とが聴取で「対決」というような様子になるのだが、被疑者が語る「新世界秩序」なるよく判らない概念は、「フィクションの中の犯罪集団が何やら言っているということになっている絵空事」としてしまっても差し支えないのかもしれないが、少し考えさせられる面が在るかもしれない。そして被疑者の竹内の「語り」が凄く引き込まれ、記録係の門倉美咲が「主任が如何かなってしまう?」と心配する程に真剣に向き合う東の様子というのは、地味かもしれないが、本作の「魅せる場面」かもしれない。

謎の男“ジウ”の経過、背後の在る人物と「核心」に少し近付く感じである。展開を愉しんだが、“第3部”を即座に紐解き始めずには居られなかった。

『ジウI-警視庁特殊犯捜査係』

よく知られた少し前の作品であっても、偶々未読であれば、個人的には新作小説と変わりない感じになる。

↓そういう訳で思い立って手にしてみた1冊だが、なかなかに面白かった。

新装版-ジウI-警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫 ほ 17-14)



↑多彩な作中人物が登場する感で、適宜視点人物を換えながら好いテンポで物語は進む。何かスタイリッシュな画で魅せるテレビドラマか何かの様な間の映像の様なモノが頭の中に浮かぶような感である。因みにこの作者、誉田哲也の小説は映像作品の原案になっている例も多いようだ。

誉田哲也作品については多く読んでいると思う。既読作品の中に、実は『ジウ』の系譜ということになっている作品が多々在った。その出発点の3部作の第1部を紐解いたということになるのだ。

適宜視点人物を換えながら進むが、主要な人物は3人である。冒頭部に登場する警視庁捜査1課の東弘樹警部補が在る。そして特殊犯捜査係第2班の女性、門倉美咲巡査と伊崎基子巡査である。全般的には門倉美咲の視線の部分と、伊崎基子の視線の部分とが交互に登場する。対照的というのか、全くタイプが違い、行動様式や考え方がことなる2人の様子が交錯するような中で事態が動いて行く様子に引き込まれる。

物語の冒頭、世田谷区内の小さな私鉄駅に東警部補が登場する。児童誘拐事件が発生し、身代金受渡ということになり、被害者が金を持って犯人側に呼ばれた場所に向かい、そこへ警察が踏み込んで犯人側関係者を捕えようとする訳である。が、携帯電話で指示を寄越して次々と場所を変える。被害者を見守るように様子を観る警察側は次々と人を繰り出して対応する。そういうことで色々と難しいのだが、東は次の指定場所ということになった私鉄駅へ向かった。やがて犯人側関係者からのメッセージを被害者は受取ることとなる。

その児童誘拐の一件から半年程経た或る日、警視庁本部の特殊犯捜査係第2班の執務室から物語が始まる。特殊犯捜査係とは、誘拐や人質立て籠もりというような、特殊とされる事案の現場に対応しようとする担当である。

この特殊犯捜査係の第2班に2人の若い女性警察官達が在る。門倉美咲巡査は、心優しき女性刑事で、特殊犯捜査係第2班の人気者であり、様々な役目を進んでこなすような感である。対して伊崎基子巡査は、高校時代にレスリングと柔道の双方で全国大会に出場ということで格闘技を得意としていて、機動隊勤務も経験していて、現場への強行突入というようなことになると力を発揮する。

その特殊犯捜査係の第2班が、事案の発生を受けて出動することになった。街で警察官が職務質問をしようとしたところ、相手の男が所持していた包丁で警察官に切掛かった。警察官は負傷してしまい、署に応援を要請した。男を追尾をしたところ、男は民家に入り込んだ。そしてその家に住んで居て、偶々居合わせた女性を人質に立て籠もってしまったというのだ。

事態の中、門倉美咲巡査と伊崎基子巡査も各々の配置で活動することになる。やがて取り押さえた立て籠もりの被疑者だが、別な事件の関係者である可能性が濃厚であると推測されることが判明した。

こういう中で門倉美咲巡査と伊崎基子巡査は各々異動することになった。門倉美咲は碑文谷署に異動し、半年前から未解決の事件の捜査に参加することとなり、それに取組んでいた東と出会う。伊崎基子は初めての女性隊員ということになるSATへの異動である。

各々の道を進む2人のヒロイン達だが、その行く手がまた交差する。

こういうような展開を存分に愉しんだという次第だ。そして“第2部”を即座に紐解き始めるということになったのだ。

『マリスアングル』

↓入手してから直ぐに紐解き始めると、頁を繰る手が停められなくなってしまい、素早く読了に至った一冊である。

マリスアングル



↑警察の捜査員達が活躍し、事件の謎を解き明かすという物語である。

「気に入っているシリーズ」ということになると、新しい作品が登場する都度に気になる。そういう作品は、何か「遠方の友人の近況を聞く」というような感覚で読み耽ってしまうというものだ。

本作の作者は幾つかのシリーズ作品を発表している。シリーズ作品に、別のシリーズ作品の主要人物が登場する「相互乗入」というような作品も多く発表している作者であると思う。

この作者の代表的なシリーズの一つに、女性刑事の姫川玲子が活躍するシリーズが在る。警視庁捜査一課の殺人事件係の中で班長を務める警部補だ。熱いモノを滾らせて闘うというイメージのヒロインだと思う。犯罪被害者になってしまい、真摯に励ましてくれた女性刑事が在って、残念ながらその刑事が殉職してしまった中で警察官を志したという経過がシリーズの中で何度も語られる。恐るべき犯行に及ぶ者達を追い、同僚達が殉職してしまうという場面も乗り越えている。口の悪い、少し敵対的な同僚刑事が「奴は死神だ」と言っている。

その姫川玲子のシリーズについては、長篇も短篇集も出ていて、多くを読んでいる。過日読了の短篇集『オムニバス』の中で、次の異動に際して評価の高い女性捜査員が姫川班に配属されるという話しになっていることが示唆される。

その評価の高い女性捜査員というのが、別なシリーズのヒロインである魚住久江である。姫川玲子よりも少し年長である。本部の捜査一課で殺人事件の捜査に従事するということは、既に命を落としてしまった人達い纏わる事柄を調べることに他ならない。であれば、巡査部長昇格時に異動した所轄署の係での活動を通じて、色々な人達を援けられる可能性を追う方が善いと考えていた。その魚住久江が捜査一課へ異動し、姫川班に配置されるのが本作となる。

この作者の作品の多くは、視点人物が適宜切り替わりながら綴られる。警察の捜査員達が活躍し、事件の謎を解き明かすという物語に関しては、進行中の事件や捜査に関する部分の他に、やや異なる時間軸で事件に関るキーパーソンの回想や想いや行動が綴られる部分が入るという例も多い。本作は正しくそういう様式である。事件に関るキーパーソンの部分、姫川の部分、魚住の部分が入り交じりながら物語が進む。

作中で発生する事件である。住人が他界し、相続の関係が煩雑になって、長く放置されている人形町に近い辺りの小さな一軒家で遺体が発見されたという事態である。

妙な悪臭がするという近所の住民からの通報を受け、所轄署の係員が発見したのだった。遺体は鈍器のような何かで何度も殴打した痕跡が認められることから、殺害されたものと考えられた。場所は長く使われていない一軒家だが、遺体が発見された部屋はパネルで室内が補強されて窓が塞がれた状態で、外から施錠する防音扉が据えられているという改装が施されていた。部屋は「何者かを監禁するべく、敢えて手を入れた」というようにしか見えない。そして遺体は在ったが、その他の人が活動した痕跡らしきものは片付けられたような様子でもあった。

この異様な事態を受けて特捜本部が設けられ、現場近隣の所轄署から要員が集められ、姫川班の係も本部から参画することになったのである。

近所の住民が悪臭に気付くという程度に遺体が傷むだけの時間が、死亡の時点から経ってしまっている。遺体が何者なのか、それを探ろうとすること、使われていなかったらしい一軒家での動きが目撃されていなかったかという辺りを探るというような辺りから特捜本部の活動は始まった。

大胆な推論で、憑りつかれたように駆け回って情報を集める姫川に対し、慎重に関係者の事情を聴取して行く魚住と、なかなかに面白い。そして遺体を発見した所轄署の反町が色々と重要な情報に行き当たる。様々な事実が積み上げられ、事件の謎が解き明かされて行く。

異なる持ち味の捜査員達が活動し、謎が解き明かされて行くという過程が面白い。関係者と関わった人達による証言という部分も何か引き込まれる。そして事件が発生した背後に在る「アングル」なる概念が凄く考えさせられた。これが本作の題名の由来かもしれないのだが。

かなり夢中になった。御薦めしたい。

『オムニバス』

↓幾つもの作品に親しんでいる作者の新たな文庫本の登場に、出先の書店で気付いて入手した。入手して読んで、非常に好かった。

オムニバス (光文社文庫 ほ 4-20)



↑7篇が収められた1冊である。「闘う女」というイメージの女性刑事、姫川玲子が活躍するシリーズの作品だ。

7篇だが、姫川玲子の周辺の部下、同僚の目線の篇と、姫川玲子自身の目線の篇とが混在している。何れも秀逸だ。

個人的には、この姫川玲子のシリーズに関しては長篇作品が気に入っている。が、長篇作品で少しだけ言及が在った「番外」的な出来事や、長篇に描かれている複数の出来事の合間の出来事、後日談的な出来事等も含めた短篇作品も面白い。また次回作以降の予告的な内容が短篇の中に入り込む場合も在り、シリーズのファンとしては一寸愉しい。

姫川玲子は“勘”の働きで気付いたことを精力的に追う、読み筋に従ってアグレッシブに対象に挑むというようなことを重ねながら捜査に臨むという面が強いのだが、取調のような被疑者との対決という場面では、周到に関係事項を復習して参考情報を広く深く集めて臨むという一面も持ち合わせている。長篇では精力的な活動や、アグレッシブに挑む場面が多いと思う。が、短篇になると用意周到に臨むという場面も目立つ。

今作の各篇では、要請を受けて取調に協力をすることになって、被疑者と向き合うという場面が多く在る。そういう中での、姫川玲子の流儀での「闘い」が凄く面白い。殊に、人気女優兼人気モデルである被疑者の「隠された意図」を明かす篇が面白い。

作者は、姫川玲子とはタイプが違う、感じが違う女性刑事が活躍する別シリーズも手掛けているが、近く「ダブルヒロイン?」というような展開をするかもしれないようなことが、作中の会話で示唆されている。それも何やら楽しみだ。

各篇が愉しいので、出先での一寸した合間、移動の乗物の中と、夢中になってしまって素早く読了に至った。御薦め!

『背中の蜘蛛』

↓興味を覚えて入手し、紐解き始めてみると頁を繰る手が停められなくなってしまった。「次?」が気になってしまい、昼、夕方、夜中、早朝とドンドン時間を設ける、或いは暇を惜しむように読み進め、実に素早く読了に至った。

背中の蜘蛛 (双葉文庫 ほ 10-03)



↑作者はシリーズ作品でも知られるが、その限りでもない作品も色々と手掛けている。本作は何かのシリーズということでもない、独立したモノということになる。

本作は、第1部と第2部とで各々の出来事が描かれ、その背後に在った事柄が第3部で明かされるような感じに展開する。第3部が圧倒的に大きなボリュームになる。

基本的には、事件が発生して、捜査員達が活動をする刑事モノ、警察モノの物語ということになる。が、ここに敢えて「架空の部署」を挿し込んで、重厚な刑事モノ、警察モノの体裁で「現代社会の“問題”、“疑問”を提起」という内容になっている。

この作者の作品の多くは、適宜視点人物が切り替わりながら展開して行く場合が多いのだが、本作もそういうような感じである。

以下、些かの“ネタバレ”も含むかもしれない。気になる方は「そして第3部」という辺りまでを読み飛ばして頂きたい。

第1部に、この部分の大半、また後段に至っても視点人物となる本宮が登場する。

本宮は池袋署の刑事課で課長を務めている。50歳代の警視だ。課長代理ということになる各係長以下、捜査員達を指導しながら取り組む日頃の業務の様子から始まる。そして夕刻、若い頃に一緒に仕事をしていた後輩の上山から連絡を受けて会う約束であったことを思い起こす。池袋署を出て、新宿の街の居酒屋で会うことにした。

本宮が久し振りに会った上山は、研修ということで米国に行って何やら学び、一般的な所轄署でもなく、本部内の部署でもなく、他所の建物にオフィスを構える部門に配属されたということだった。

そんな近況の詳しい話しを聴く等、旧交を温めようとしたところ、本宮は連絡を受けた。事件である。本宮は「また今度…」と席を立って上山と別れ、急いで池袋署に戻った。

池袋署管内で発生していたのは殺人事件だった。男性が路上で刺殺されたという事件で、直ぐに本部の捜査一課が入り、池袋署に特捜本部が設置され、近隣署の応援要員も大勢集まって捜査活動が始まった。

特捜本部が設置された署の刑事課長は当然ながら特捜本部に参画はする。が、本部が入れば、捜査一課の管理官が実質的な現場指揮官となって、捜査一課長の支持を仰ぎながら捜査活動が進むため、署の刑事課長は特捜本部事案以外の、署で抱える様々な事柄を纏めて行くことに勤しまなければならない。本宮もそうしていた。

本宮が刑事課の自席で仕事をしていれば、捜査一課長が部屋を訪ねて来た。そして「聞かれないように話し合いたい」と示唆された。やがて本宮は密かに取組むようにと或る指示を受けた。そして捜査員を密かに動かすこととなった。何やら「タレコミ」が在ったと本宮は観た。そして捜査は動いた。

第2部である。

第1部では9月末から10月初めという時期の日付が出ている。第2部には「3月」と在るので、「半年程度を経ている時期」ということになる。

組織犯罪対策部の植木刑事や佐古刑事達は、違法薬物の売人であると見受けられる男の行動確認を続けていた。

対象の男は、即座に現行犯逮捕が出来るような行動に及ぶのでもない。そして各種の違法薬物を如何いうように入手し、如何いうように売っているのか、決定的な情況を掴めずに居た。

或る日、件の男は新木場の音楽イベントの会場に入り込もうとしていた。男を尾行していた植木刑事や佐古刑事等の捜査員達はその会場に潜り込んだ。

全面的に立席という方式のホールの後方にバー等が設えられ、辺りにロッカーが在った。件の男が近寄り、ロッカーの1つを開けようとする。違法薬物やその代金というような、逮捕に繋がるモノが出て来る可能性も在ると考え、植木刑事は男の背後に近寄った。

植木刑事の記憶はそこで途切れた。ロッカーに爆弾が仕掛けられていた。追っていた薬物の売人と見受けられた男は爆発物で即死し、植木刑事は爆発に巻き込まれて負傷し、2日間程というもの意識を失った状態で病院に収容されていたのだった。

植木刑事が意識を取り戻して数日の間に捜査が動いた。爆死した人物とは別な、違法薬物の売人であると見受けられる男が逮捕されたが、この人物が使われた爆弾の材料と見受けられるモノを自宅に隠し持っていたのだという。

病院を出て爆殺事件の捜査本部に出た植木刑事は、直ぐに被疑者と見受けられる人物が判ったことを少し訝しく思った。そして逮捕の場面で動いたという佐古刑事に質した。「タレコミ」が在ったのだという。

そこに、爆殺事件の特捜本部を預かる本部の捜査一課からやって来た管理官が現れる。本宮であった。

そして第3部だ。

第1部で池袋署の刑事課長であった本宮は、欠員が生じたということで、定期的な異動を少し外れて本部の捜査一課へ管理官として異動していた。異動して程無く、爆殺事件の特捜本部を預かることになって、本部が設置されている湾岸署へ現れたのだった。

本宮は、植木刑事と話し合うが、彼が「タレコミ」で被疑者を逮捕したという状況に抱いている疑念に同感だった。「ネタ元」は何処で、何が如何なって「タレコミ」に至ったのか、何かよく判らないのだ。本宮管理官は、植木刑事や佐古刑事に密かにその辺りを探るように指示をし、自らも可能な範囲で動く。

第1部、第2部の出来事の背後に在った秘密が少しずつ明らかになる他方、第3部の中でも何やらの事態が動いて行く。

こういうようなことだ。第1部と第2部とは、基本的に避ける意図ながらも些かの“ネタバレ”を綴ってしまったかもしれない。第3部についてはそういうことを巧く避けたと思う。

第1部と第2部とは、「第3部の前段」というのか「前回までのあらすじ」という感じかもしれない。第3部は、同じ作者の数々の作品―刑事モノ、警察モノのシリーズ等―で見受けられたような雰囲気が溢れていた。

「同じ作者の数々の作品―刑事モノ、警察モノのシリーズ等―で見受けられたような雰囲気」というのは?“事の真相”に迫ろうとする複数の人達が各々の持ち味等を活かしながら少しずつ事実を積み上げようと努力する他方、“核心”に近い辺りの人達の動きが描かれ、最終的に鍵を握る人物―謎めいた感じで現れる場合も多い―とその周囲に在る人達の何処か哀感溢れるような幾つかの挿話というような、様々なモノが螺旋状に組み合わさるような感じ、そこから醸し出される作中世界の空気感というようなモノである。

或いは「これからの時代の捜査活動?」というような事柄、「社会の安寧を護って行くという意味?」または「個々人の人生と社会と」というような事柄を考えさせるような内容が、第3部には満載だ。

作中世界に没入して「面白かった…」と本を閉じた少し後、「何か妙な事は無いよな…」と後ろを振り返ったり、手近な色々なモノに異常が無いのかを確かめてみたくなるような、そういう雰囲気も在る。

『歌舞伎町ゲノム』

↓5つの短篇を収めた1冊である…

歌舞伎町ゲノム (中公文庫 ほ 17-17)



↑何か「グループの主人公が活躍する連続のテレビドラマを観る」というような感覚で、愉しく素早く読了に至った。

<セブン>と称する、都市伝説的なグループの物語…これは既に「複線的なシリーズ」という感じになっている。

『歌舞伎町セブン』で登場し、『歌舞伎町ダムド』の展開が在り、やがて明確に<セブン>を前面に出すでもない作品での展開が色々と在る。そして本作の各篇の展開に通じるのだ。

<セブン>と称する、都市伝説的なグループは、歌舞伎町で「こういう連中には生きていて欲しくない!!」という者を密かに「始末」してしまうというグループだ。何か時代劇の『必殺!』の主人公達が現代の東京で蠢いているかのような感の物語である。

7人のメンバーから成る<セブン>では、7人が全員賛同することで「始末」を実行する。本作の各篇の物語が始まる直前の状況として、メンバーの1人が殺害されてしまっていて、6人になっている。そこでもう1人の新メンバーが、これまでにも係わりが在った人物が迎え入れられるというような挿話が入る。そして新体制の<セブン>が蠢くのが本作ということになる。

7人から成るグループが“主人公”ということになると、自ずと「各メンバーを視点人物とする各々の物語」というモノが成立する。本作各篇も「各メンバーを視点人物とする各々の物語」という体裁で、加えて各篇の中で他の劇中人物達が視点人物となる部分が多く在る。何か非常に「映像作品的」という感じでドンドン読み進めて、あっという間に読了に至った。

全般を通じて「遠くない将来に登場する長篇への橋渡し?」という感がしないでもなかった。

「こういう連中には生きていて欲しくない!!」という者を密かに「始末」という<セブン>は本当に時代劇の『必殺!』を想わせるが、実際に幾許かの「頼み料」を受取って分配もしている。そういう様子が、この作者に特徴的な「映像作品的な好いテンポ」で綴られているのを読んでいると、頭の中で時代劇の『必殺!』のシリーズで記憶の在る色々なBGMが流れるような感じで読み進んでしまう。

未だ新しい文庫本なので仔細は敢えてここで述べることを避けようと思うが、何れの篇も力が入った!

『インデックス』

↓あの「刑事 姫川玲子」のシリーズとなる一冊である。

インデックス (光文社文庫)




本作は8篇の短篇が収められた一冊ということになる。

作品の“時期”の設定としては長篇の『ブルーマーダー』の事件の頃の前に相当する篇と、後に相当する篇とが混じっている。『ストロベリーナイト』で、警視庁の本庁、捜査一課の捜査員として登場した「刑事 姫川玲子」だが、『ソウルケイジ』『インビジブルレイン』で描かれた出来事の後、池袋署に異動している。本作の各篇は、その池袋署に在る時期と、本部に復帰する時期とに跨っている。

本の題になっている『インデックス』という篇も在る。が、この題を読後に視ると「ヒロインの様々な側面に目印を付して描き出した」というような、この一冊の雰囲気が伝わる気がする。

犯罪や不条理な振る舞いを憎む正義感を持ち、手段を択ばずに事件に斬り込もうとするような熱さで行動力を発揮し、他方で明かされる事実や証言を注意深く組み立てて事件の真相を推理する…そして現場のリーダーを担うということで些か気苦労も在るが、素顔はなかなかに可愛い面も在る…本作の各篇を通じて、そういう様々な面が一部に過去を回想する物語も交えながら綴られているのである。

過去にテレビドラマや映画の原案にもなっているシリーズだが、その映像作品の後に出ている各作品も面白い。この作者の作品は、“視点人物”が主人公や他の劇中人物に随時切り替わってテンポが好い綴り方をしていると思うのだが、そういう様子の故に「展開している状況の映像が頭の中に浮かび易い」という特長も在ると思う。

実は本作の後の時期に相当する物語である『ノーマンズランド』も既読だが、それでも愉しめる本作である。

『ノーマンズランド』

気に入っている“シリーズ”の小説の新しい作品に出会うと、何か「遠方の親しい知人の近況に触れる」というような感がして、少し嬉しくなる。

↓あのヒロイン!刑事、姫川玲子が還って来た!!

ノーマンズランド (光文社文庫)



↑過去作品で描かれた様々な経験を経て、少しずつ変わっているヒロインだが、相変わらず面白い。頁を繰る手が停まらなくなり、休日を利用して素早く読了に至ってしまった。

冒頭…プロローグのような物語が綴られる。「少し古い時期?」を感じさせるが、同じ中学校から同じ高校へ進んだ男女が、同じ競技―バレーボール―の活動に打ち込んでいたこと等が縁で、次第に親しくなって、互いに惹かれるようになって行くという麗しい青春の物語が展開する。そして“異変”が生じたということで一旦途切れる…

話しは現在に…姫川玲子は設置された捜査本部に入って捜査任務に就いた。マンションの部屋で女子大生の遺体が発見され、他殺と目されるため、所轄署に本部が設けられて捜査第一課の捜査員達が投入され、姫川の班も参加することになったのである。

女子大生が殺害された一件に関して、被疑者が直ぐに浮かび上がった。その被疑者をマークしようとすれば、別な事件の被疑者として他所の署に逮捕されているという。

件の被疑者は殺人事件の嫌疑で逮捕されたということではあるが、一課の捜査員を投入する本部が設置されている訳でもなく、所轄署でもその種の事案を担当する強行犯係が動いている様子も無い。そして、関連事件の捜査というようなことで、姫川達が居る本部に情報や資料が提供されるでもない。直ぐに捜査は行き詰った…

他方…公安部での経験を有し、独特な動きをする男、捜査第一課の姫川とは別の係に在る勝俣刑事は政治家に密かに呼び出され、密かな頼まれ事を請け負う。勝俣は姫川の“天敵”のような男で、過去作品にも何度も現れている人物だ。彼は、周囲で殉職者が何度も生じていることから、姫川のことを「死神」と呼んでいる。

高校生の男女を巡る物語…行き詰った捜査を何とかしようと奮闘する姫川…密かに動き回る勝俣…3つの筋がやがて交錯し、余りにも意外な「事の真相」が明かされて行く…

こういう複数の筋が交錯して行くというような感じは、このシリーズらしいような感じがする。少々驚く意外な展開が在る他方、「積み残し?」も感じられないではない展開なのだが…

何れにしても愉しいシリーズの作品を満喫した!!

『ノワール 硝子の太陽』

同じ時期に、同じ出来事に関わったとして…例えばA氏の関わり方や行動と、B氏の関わり方や行動は当然異なる…ということは、「同じ時期の同じ出来事」を巡って、<物語A>と<物語B>というように、「2つの異なる物語」が成立する。(更に言えば、関わった人の数だけ、同じ出来事を巡り、または関連して「異なる物語」が綴られる可能性が在ることになるだろうか?)

↓そういうような「2つの異なる物語」というモノを創るという試みで登場した一篇が本作だ…

ノワール 硝子の太陽 (中公文庫) [ 誉田哲也 ]



↑興味深く、素早く読了してしまった。

この作者の作品…ドンドンと視点人物が変わりながら、色々な出来事がスピーディーに展開する…そういう作風の故に、主要な視点人物の脇で現場に居合わせているかのような、そういう錯覚さえ覚えながら作品世界に入り込んでしまうような面が在ると思うのだが、本作もそういう具合で「次」が気になって耐え難くなり、頁を繰る手が停められない…

↓実は「2つの異なる物語」の「もう1つ」は読了している…
>>『ルージュ 硝子の太陽』

『ルージュ 硝子の太陽』は警視庁捜査一課の姫川玲子刑事を主人公としている。一家惨殺事件の特捜本部に参加していた彼女は、事件に関して取材をしていたらしいフリーライターの存在に気付く。フリーライターと接触を試みようとした時、フリーライターは殺害されてしまっていた。そして活動の途上、新宿署の東弘樹刑事を訪ねる場面が在った…

本作、『ノワール 硝子の太陽』は新宿署の東弘樹刑事を主人公としている。そして準主役は、新宿の「裏の裏」であり、半ば“都市伝説”のような<歌舞伎町セブン>というグループであり、殊に主要メンバーの陣内が主要な視点人物の一人となっている。

新宿署の東刑事は、“公務執行妨害”で逮捕された老人の取調を命じられた。加熱しつつ在った、沖縄米軍基地を巡るデモに「関与しているらしい」とされる「左翼の大物」等と言われている人物である。自身の担当でもない筈の事案で、何故やらなければならないのかと思いながら、同時に他の事件を気にしながら東刑事は任務に就くことになる。

「他の事件」というのは殺人事件である。ウィークリーマンションで、上岡というフリーライターが多数の刺傷を負った遺体で発見された事件だった。殺害の数日前に上岡に会った経過も在る東刑事は、特捜本部へ派遣された後輩の小川を介してみるなどし、捜査状況のことを知ることをしながら、独自に事件を探ろうとする…

実はこの殺害されてしまった上岡は、<歌舞伎町セブン>というグループの関係者でもあった…仲間の陣内達は、上岡が殺害されてしまった理由、事情を知ろうとする…そして陣内と東刑事の交錯という場面も幾つも出て来る…

『ルージュ 硝子の太陽』には「姫川刑事の目線で描かれる、彼女が東刑事を訪ねる場面」というのが在るが…本作では「東刑事の目線で描かれる、不意に新宿署の刑事課に現れた姫川刑事を迎える場面」というのが在る…正しく「同じ出来事を巡る2つの異なる物語」ということになる。

新しい文庫本で、未読の方も多いと推測されることから、ストーリーに関してはこれ以上詳述することは避けたい…

「同じ出来事を巡る2つの異なる物語」ということになる『ルージュ 硝子の太陽』と本作『ノワール 硝子の太陽』とだが、「何方から読んでも“ネタばれ”になる訳でもない」という状況だ。フリーライターが殺害されてしまった件は両作品に出て来る。が、前者は「別な事件との関係で出て来る」という色彩が濃く、後者は「この事件の周辺で幾つもの色々な出来事が廻っている」という色彩が濃い。

本作『ノワール 硝子の太陽』の主要視点人物である東刑事や陣内は、同じ作者による別なシリーズの劇中人物達だ…「2つの異なる物語」として対を成す『ルージュ 硝子の太陽』の姫川刑事も、幾多の作品で活躍するシリーズ物の劇中人物だ…結局「多彩な多くの作品の、それぞれに面白い劇中人物達」という「潤沢な資産」が「巧みに運用」ということで、この「対を成す2つの異なる物語」の創造が試みられた訳だ…

今後もこういう手法が採られるのか?或いは更に別の手法が登場するか?読了後に、早速“次回作”を期待してしまう…

『ルージュ 硝子の太陽』

旭川を経て稚内へ北上する前に…札幌駅近隣の大きな書店を覗いた…何冊か本を入手してしまった…

↓その入手してしまった本の一冊…長篇、短篇と幾つも作品が出ているシリーズで、長篇の文庫で出ている作品は殆ど読んでいる…新しいモノが出ていたのだ!

ルージュ 硝子の太陽 (光文社文庫) [ 誉田哲也 ]



↑シリーズの新しいモノ…何か「遠方の知人達の近況」を報せて頂けるかのようで、紐解くのが非常に愉しい訳だが…本作はかの姫川玲子刑事が活躍する作品である…

姫川玲子…警視庁の女性刑事…自らも犯罪被害に遭った経過が在り、親身になってくれた女性刑事に惹かれ、自身も刑事になったという人物で、強い正義感で捜査に邁進するヒロインだ…鋭い感で、まっしぐらに突き進むタイプで、班長として部下達の先頭に立ち、陰惨な殺人事件の謎を解き明かして行く…警視庁の部内には、味方と言える人達も、敵対的な人達もいろいろと在って、これまでにも様々な経過がシリーズ各作品で描かれている…

本作は…或る男の独白から始まる…何やら酷い事件を起こしてしまった人物である…

その独白の後、姫川玲子刑事の日常が始まる…捜査の進捗が膠着してしまった捜査本部で、なかなか新しい情報も出て来ないという状況の中に在った…

世田谷区内で一家3人が殺害されてしまった…若い女性、その母親、その弟である。父親は単身赴任で他地域に出ていて不在だった…殺害された3人の遺体は、死後に更に傷付けられていたという異様な状況で発見されていた…

殺害されてしまった若い女性が“地下アイドル”と呼ばれる活動に取り組んでいた、一部に有名な人物でもあったことから、現場地域を管轄する所轄署に設置された捜査本部には、通常以上に多くの捜査員が集められていた。姫川玲子刑事もその捜査員の一人だった…

作品は、難航する捜査の進み具合の傍ら、或る男の独白が挟まる形で進行して行く。冒頭の独白では、何やら事件を起こしてしまうのだが、その男の人生が少しずつ紐解かれて行く…

やがて姫川玲子刑事は、捜査中の事件の現場周辺で出くわし、彼女達に気付いて踵を返して遠ざかった「不審な男」に気付いた。その男は、事件に関する取材をしていたらしいフリーライターだった。

「不審な男」がフリーライターであること判り、接触を図ろうとしたその時、事件の報が伝わった。正しくそのフリーライターが殺害されてしまい、そちらの方にも捜査本部が立ち上がることとなった。

やがて…フリーライターが意外なことを示唆しようとしていたことが判明する…姫川玲子刑事が捜査に加わっていた事件と、28年前に発生し、未解決で「時効成立」ということになってしまった事件が、「どうしたものか、相通じる」というのである…

これ以上の詳述は、未読の皆さんへの迷惑なので避けるが…夢中になって、素早く読了してしまった…

この作者の作品…ドンドンと視点人物が変わりながら、色々な出来事がスピーディーに展開する…そういう作風の故に、主要な視点人物の脇で現場に居合わせているかのような、そういう錯覚さえ覚えながら作品世界に入り込んでしまうような面が在る…

『歌舞伎町ダムド』

↓何か「複数の小説」の“続篇”的な雰囲気ながら、「独立した新たな一作」に巧みに纏め上げたような…そういう感じがする作品だった…愉しく読了した。

歌舞伎町ダムド (中公文庫)



↑通称“ダムド”という凶悪な殺し屋…密かに悪人を討つ“歌舞伎町セブン”と通称されるグループ…新宿署の東警部補…これら3者の動きが錯綜しながら物語は進展する…

序章に“ダムド”の凶行の描写が入って、その後は東警部補が妙な事件に関わる所から物語が起こる…

新宿区役所に近い、歌舞伎町の居酒屋で、男が客の女性の一人を人質に立て籠もるという事件が発生した。男は「新宿署の東警部補に会わせろ」と不思議な要求をしているという。近所に居合わせた東警部補は現場に駆け付け、居酒屋に乗り込んで男と対面する。男は抵抗するでもなく、アッサリと逮捕された。

男が妙な犯行に至った経緯がまるで判らない中、拘置所に送致された男は死亡してしまう。自殺だったという…東警部補は、不審な出来事の謎を追おうとする。

他方、“歌舞伎町セブン”の面々は少々困惑していた。彼らが討とうとした人物が、彼らが手を掛ける直前に、他の誰かの手で始末されてしまうという事態が生じていたのだ。何やら蠢いている“ダムド”なる謎の人物の噂に彼らは触れることとなる。

やがて、東警部補は訳が判らない相手の襲撃を受けるようになる。何時の間にか“懸賞首”のようになっていたのだ…東警部補を巡って蠢いた陰謀とは?そして、“ダムド”や“歌舞伎町セブン”の動向は?

次々と視点が変わりながら、三者三様の動きが展開し、やがてそれらが収斂して行く…少し夢中になる…

↓因みに本作の“前段”の一つということになる、こちらの方は過去に読了している…
>>『歌舞伎町セブン』

『Qrosの女』(キュロスの女)

↓「人気作家の新たな文庫化の小説」ということで、書店の平積みになっていたのを視掛け…何か気になって入手した…

Qrosの女 (講談社文庫)



↑「面白さ」と、読了に至る「速さ」は比例関係に在るかもしれない…実に素早く読了に至った…

作中世界では「Qros(キュロス)の女」なるモノが話題になっている。“Qros”というのは、作中世界のファストファッション(短いサイクルで、流行を創出しながら安価な衣類を大量にチェーン店等で販売する事業)で、著名な芸能人等が登場する少し凝った映像のCMを多く流している。そこCMに、素性が不明確な女性が出ていて、「可愛い!」、「綺麗!!」と大いに話題になっているのだが、素性が判らないので、とりあえず「Qrosの女」と呼ばれている訳だ…

そんな作中世界の「芸能マスコミ業界」が作品の舞台である。複数の視点人物によって物語が綴られ、章を進む都度に内容が厚みを増す。人物Aの視点で人物Bと会って話し合っている場面が綴られ、少し経つと逆に人物Bの視点で人物Aと話し合っている場面が綴られる。こういうのが、或いは非常に「小説らしい表現」で愉しいと思う…

物語は、芸能ネタの記事を出す記者達の群像と、「Qrosの女」なるモノを巡る一寸した騒動に関連する人達、そして周辺の人々の動きで綴られている。或いはサスペンスであり、或いは或る職業に生きる若者の青春劇であり、他方で「“芸能マスコミ”とは何なのか?」ということや、「気軽に情報を閲覧し、同時に誰でも発信することさえ容易な時代という状況は何なのか?」というようなことの問題提起も為されている。

物語の冒頭…週刊誌の編集部で、政治班から芸能班に異動して以来、何となく冴えない感じの矢口の目線で起こされる…「Qrosの女」と呼ばれる謎の女性タレントと共演した、人気俳優の動きを探る取材に臨むことになるのだが、少し先輩であって、然程親しいでもない栗山がサポートに入るということになる…

やがて栗山の目線で物語が綴られ始める…栗山という男は、記者稼業に入って以来、芸能記事を専らとして来た。「大きな失敗」のよる挫折も経験している人物だ…この栗山と矢口が人気俳優を巡って活動をしていた最中、「Qrosの女」を巡る事態に動きが発生する…

「Qrosの女」なるモノを巡って、何が起こって、事態がどのように推移して、そしてどのように収まるのか?或いは収まらないのか?そこは是非とも本書を紐解いて頂きたい…

とにかくも「暫し夢中」になり、頁を繰る手が停まらなくなり、素早く読了に至ることであろう…

『主よ、永遠の休息を』

↓旭川の書店で眼に留めて…何やら夢中になって読んでしまった一冊だ…

主よ、永遠の休息を [ 誉田哲也 ]



↑全然関係が無かった2人が出くわす中で、恐るべき過去、封印された過去が浮かび上がるという物語である…

物語には2人の視点人物が設定されている…

1人目…通信社記者の鶴田吉彦である。池袋の警察署に設けられた記者クラブに詰めて活動している。社会部、事件担当ということになる記者だ…

2人目…22歳の、所謂“フリーター”で、池袋周辺でコンビニ店員をしている女性、芳賀桐江である…本人の記憶が曖昧なのだが、テレビ画面やパソコンのモニターのようなモノを生理的に受け入れ難いと感じる程度の苦手意識を有している。故に、「今時、パソコンを普通に使えない…」という按配で、短大卒業後にも普通に就職し損なった経過が在る…

特段に接点らしいモノは無かった2人だが…鶴田が買物に立ち寄ったコンビニで、強盗未遂事件が発生してしまい、2人は出会う。あえなく逮捕された犯人が刃物を突き付けたのは、その時にレジに居た桐江だったのだ…

鶴田は、強盗未遂の一部始終を目撃することとなった。居合わせた人達が強盗未遂を犯した男を取り押さえて警察に引き渡した。この時、協力した人達の一人が「急いでいる」と慌ただしく立ち去ってしまったのだったが、鶴田は名刺を渡して後刻、後日の連絡を促した…他方で桐江に会って強盗未遂事件の一件に関して話しも聴いた…その時、桐江に少し妙な傷痕が在ることに鶴田は気付いた…

やがて、強盗未遂事件の一件で出会った、素性が今一つ判らない男から連絡が入り、会って話しをすることになった。男は、東池袋の小さな暴力団の事務所の件というような、何やら妙な話しを始める…鶴田はそれを気に掛け、独自に調べ始めた…

そうしている間に…恐ろしい古い事件に纏わることが判って来る…事態はどのように展開するのか…未読の方のお楽しみを妨げない意味で、これ以上は敢えて綴らない…

劇中の「過去の事件」だが…「そう言えば、こういうのが在った…」と記憶に残っている事案を参考にしていることが伺える…そういう事態に関わった記憶を封印するかのようにひっそりと暮らす人物と、その記憶を掘り起こす人物…更に、意外に過ぎた「事の真相」…夢中になってしまう物語だ…

「真実や真相」に対する「説明と解釈」…交差する作中人物達の、各々の「説明と解釈」が物語を織り成すのだが…若き敏腕記者の目線である、軽妙な調子の文章が多い他方で、重厚で多層的な作中世界が展開する…色々と考えさせられるテーマも多く含んでいるような気がした作品だ…

“エピローグ”の辺り…鶴田は出くわした事件に纏わる記事の扱いに関して悩む…悩んだ挙句に、鶴田が何をどのように綴ったのか?少し気になる…

『ドンナ・ビアンカ』

↓“魚住久江刑事”が帰って来た!!

ドンナ ビアンカ [ 誉田哲也 ]



↑前作は「短編集」という体裁だったが、今作は「長編」である。夢中で読了に至ってしまった…

魚住久江刑事は練馬警察署の強行犯係に勤務するベテランの女性刑事だ。作中で語られる独自の信条で、現在の立場で勤務を続けている。彼女は“花形部署”の本庁捜査一課に在勤した経歴を有しているが、昇格時の異動で所轄に出て以来、「死んでしまった被害者の事情を探る殺人事件担当よりも、誰かが死んでしまう前に救うことも出来るような仕事」という意識を持つようになり、各地の所轄の強行犯係を巡るキャリアを歩んでいる…

本作で魚住久江刑事が捜査するのは“誘拐事件”である。警察にとって、誘拐事件は色々な意味で捜査の難易度が高い案件だ。警視庁では、色々と女性捜査員の役目が生じると考えていて、定期的に対応訓練に参加する女性捜査員を指定している。魚住久江刑事は、その“指定捜査員”になっていた。そして事件が発生し、中野警察署内に設けられた本部に出向いて捜査に参加することになる。

魚住久江刑事が本部へ出向くと、出くわしたのは捜査一課時代の先輩で、色々と経緯の在った金本刑事だった。魚住久江刑事は金本刑事と行動を共にしながら事件に挑むことになる。

発生した事件…飲食店チェーンの会社の役員である副島が、もう一人の人物と共に誘拐され、副島の妻の姉でもある会社の社長に宛てて脅迫メールが届いているのだという。犯人は「2千万円の身代金」を要求しているという…

ベテラン女性刑事で、人当たりの良い魚住久江刑事と、如何にも「刑事!!」という雰囲気で「イケイケ!!」風な金本刑事…このコンビで関係者を探し出して証言を引き出し、事件の謎を解いて行く…

“刑事モノ”では、2人組の捜査員が「怖い刑事」、「話しの判る刑事」という感じで事件関係者に畳み掛けて証言を引き出して捜査を進めるという描写がよく在る。金本と魚住久江のコンビは、正しくこの「怖い刑事」、「話しの判る刑事」である。そういう“外見”の他方、本作では2人の経緯や内側の一部も巧みに描写される…面白い!!

魚住久江は、経験に裏打ちされた“観察眼”も持っていて、関係者の懐に巧みに入り込もうとしながら「事の真相」に踏み込んで行く…それが上述の「怖い刑事」、「話しの判る刑事」という感じで事件関係者に畳み掛けて証言を引き出すやり方で作中に描かれるが、これは少し爽快な感じさえする…

本作は、誘拐事件の捜査に駆り出されて奔走している魚住久江の目線で綴られる「現在進行形」の話しと、“事件”に深く関与し、鍵となる人物ということになる男、村瀬の「深い回想から現在に至るまで」の話しが、“サンドイッチ”構造で打ち出されている…

実を言うと…何か後者の「村瀬の話し」というのに深く引き込まれた…村瀬は、恵まれているでもない境涯に育ち、現在に至っている人物だ。カッコウ良い行ざまでも何でもない他方、別段に荒んでいるでもなく、淡々と生きている男が「小さな光」のようなモノを見出す…そして「嘘から出た実」とでも言うのか、“大切な存在”に気付いて行く…正直…少し目頭が熱くなるものさえ在った…

或いは本作は…「魚住久江が村瀬という男の人生と交錯する物語」なのかもしれない…そして“事件”だが…正しく「意外な展開」になる。最終盤近くまで、「事の次第」は読み手としても推理し難いようになっている…正しく「そう…来たか…」と思った…

題名の“ドンナ・ビアンカ”…多分イタリア語で、「白い女」という意味だと思うが、作品の中で「思い当たるモノ」も在る。是非、本作を紐解いて探ってみて頂きたい…

本作は、同じ作者による『ストロベリーナイト』シリーズのように「凄惨な事件に立ち向かう刑事達」というタイプの物語ではない。「事件関係者を(色々な意味で)救いたい」という、真摯な熱い思いを心の底に秘めたベテラン女性捜査員が奔走するという物語だ…作中の色々な人物達…「知り合いの誰か」やら「自分自身の一部」に何処となく通じるようなものも感じられる中で、物語は展開する…非常に惹かれる…

本作の読後…余韻のようなものに浸りながらふと思った…このシリーズが続いて、将来に作品が登場するなら…或いは魚住久江が何かの切っ掛けで村瀬に出くわし、「その節はお世話に…」という具合で、「彼のその後」が語られる展開を…読みたいような気がしている…

『ブルーマーダー』

「気に入っている“シリーズ”の小説の新作」というモノは、「御無沙汰した友人の近況…」というような感じがして、視掛けるとワクワクするものである…

↓あの姫川刑事が帰って来た!!

誉田哲也/ブルーマーダー 光文社文庫
↑休日を利用し、夢中で読了した。“シリーズ”らしい重厚さ、面白さに溢れている作品だと思う…

物語は、“映画化”の原案となった『インビジブルレイン』の出来事から1年余りが経った時期と設定されている。容疑者を示唆する匿名の通報を巡る部内の妙な軋轢が生じたり、殺害されてしまう暴力団組長の牧田と姫川の関りやらと、色々な事が在ったのだが、物語の最後に姫川と彼女の班の刑事達が方々に異動となり、“姫川班”が解体したということで物語は幕を引いていた…

その後、姫川は池袋署で刑事を続けていた。池袋署での忙しい毎日の中、遺体発見の通報を受け、姫川は現場となったテナントビルに駆けつける。空きテナントになっているフロアで、新たに店を開こうとしていた業者と、業者を案内した不動産会社の社員が発見者だったのだが、出入りし悪い場所で、凄惨な拷問でも受けたような酷い状態の男性の遺体が見付り、調べると死亡したのは仮出所をしたばかりの暴力団組長だった…

殺害された暴力団組長は、モノが特定し悪い、何らかの鈍器で撲殺されていた。全身の骨が粉砕されるかのように、鈍器で打ち砕かれてしまっているという、凄まじい状態で発見されている。やがて、今度は暴対法で目立たなくなった暴力団に代わって幅を利かせていた“半グレ”のメンバーの遺体が発見されるのだが、遺体の状態が暴力団組長と酷似していた。“関連性”が検討され始めた…

そんな出来事の他方、池袋周辺で、犯罪に関与する勢力の活動が不活性化しているという事実が指摘され、その件を巡って監察が池袋署を訪ね、本庁で暴力団担当をしていた経過が在るベテラン刑事の下井から事情を聴取する。下井は「気に掛る一件」が在り、独自に調査を始める…

本庁で姫川と組んでいた菊田は千住署で刑事を続けていた。彼は、公務執行妨害罪で護送中、車輌の事故が発生したどさくさに逃走してしまった若者を追っていた。既に時日も経った案件だが、池袋周辺での目撃情報を受け、池袋周辺で活動をしていた…

やがて池袋で“都市伝説”のように囁かれている噂が姫川にも聞こえてきた…

本作は、姫川、犯行グループ、下井、菊田の主に四つの視点が収斂して行くように構成される。

シリーズを通じて描かれる姫川の、乗り越えたいモノ、乗り越え難いモノ、菊田との関係…菊田の身辺の変化と、姫川との関係…下井を通じて語られる、警察や犯罪の世界の変化…犯行グループの、何か不思議なムード…これらの融合が見事だ!!

謎解きと、作中人物達のドラマ、そして社会の変化に関する問題提起のようなもの…それらが組み合わさった秀逸なシリーズで、今後も続く様子だ…楽しみである。

『ドルチェ』

刑事モノ、事件モノの小説…色々な楽しさが詰まっているのだが…「意外な展開」が繰り返されて、やや大袈裟になることも多い…他方で、「凄く日常的」な感じがして、「リアル!!」という印象を残す作品も多い…

↓本作はその「リアル!!」という印象を残す作品だと思う。

ドルチェ [ 誉田哲也 ]



↑「6つの短篇」が収められている一冊だ。短篇相互の“繋がり”という強い意図は感じられないものの、「一連のモノ」という感じで、「とある警察署の、ある刑事とその周辺の、一定期間の物語」という感じで読了した。

主人公の魚住久江…練馬警察署の強行犯係に居る巡査部長で女性刑事だ。嘗ては本庁の捜査一課に所属して活躍した経過も在るのだが、昇進で所轄署に異動転出したことを契機に、10年間程は各署に異動して主に強行犯係の仕事に携わっている。40代に入っていて独身である…

女性のベテランであるが故に、事件関係者の女性への事情聴取等に関して、「怖いおじさん」タイプの別な巡査部長ではなく、彼女に委ねられるという場面も多い。そうした中、彼女は事件と関係者の人生を見詰める。そして、感じた“引っ掛かり”から丹念な捜査を行い、事件解決を目指す…

“花形部署”で、希望者も多い本庁の捜査一課に関して、誘いを受けても敢えて断って、各署で事件と関係者を見詰める彼女…作中で開陳される彼女の考えに共感する…

愛や憎しみや怖れや嫉妬や寂しさ等々の故に、事件を起こしてしまう関係者…それに静かに歩み寄るようなベテラン女性刑事の目線…色々な事を考えさせられる…加えて、魚住久江刑事自身や、周囲の同僚達等の人物描写も面白い…

「6つの短篇」というのは、要するに「6つの事件」ということにもなる訳だが…終盤の方に収められた2篇…「妻に刺された」という男が救急車で病院に…という事態から動き出す一件の物語…そして「古くからの友人を、友人宅前で車で轢いてしまった」という話しの運転手が、酒気帯びを指摘されてという事態から動き出す一件の物語…これらが秀逸だった…

本作がシリーズとして長く続くのであれば…或いは一部の事件関係者に関しては“再登場”…換言すると「この人の何年か先…それと出くわす魚住久江刑事」というものを「視たい!!」と思わせる内容も在ったと思う。

禍々しい事件が起こって、暴力シーンも在ってというのではない、好い意味で「普通」な、「とある街の警察署で、事件と関係者を見詰める、或る女性刑事の物語」という「リアル!!」な感じだ…

因みに、本の題にもなっている『ドルチェ』は「6つの短篇」の中の1つの題でもある。事件関係者の女子大生が所属するサークルの名として使われるのだが…イタリア語で「甘い」という意味と「優しい」という意味が在るそうだ…作中の事件関係者の何人かは「優し過ぎた故に事件へ…」という印象も残している…そういう辺りが「読後の余韻」となるような気もする…

『歌舞伎町セブン』

↓誉田哲也作品の新しい文庫が登場!!早速に入手…

誉田哲也/歌舞伎町セブン 中公文庫
↑早速に愉しく読了である…

物語の舞台は、題名の如く、新宿の歌舞伎町である…

町会長の高山が、「初めての女性区長」と意気軒昂な三田区長の下に区が進める「歌舞伎町リヴァイヴ」プロジェクトなるものの会議に出て、少し遅めな時間帯に家路に就いたのだったが、彼は帰宅しなかった。翌朝に街で高山の遺体が発見された。目立った外傷もなく、盗られているモノも無いと見受けられ、検視結果も「急性心不全」だった…少し冷え込む冬の日の出来事であり、高山の死は「外出中に戸外を歩いていて、急性心不全で死亡」という話しになった…

「歌舞伎町リヴァイヴ」プロジェクトなるものに関るフリーライターの上岡は、会議で出会った高山と「最後に言葉を交わしたところが目撃された人物」として、新宿署の東警部補から事情聴取を受けた。そして、高山の急死について独自に調査しようとする。

新宿6丁目交番の小川巡査部長は、高山の遺体発見状況を聞き付けて疑問を抱く。嘗て新宿区長だった自身の父の死と、余りにも状況が似ていた。本当に心不全だったのか疑問を抱き、独自に刑事捜査の真似事を始める。

スナック<エポ>を営む陣内を、市村という昔馴染みの暴力団組長が店に訪ねた。険悪な雰囲気を醸し出し、居合わせた客が店を去ったのを見計らい、市村は高山の死について「やったのはおまえだな?!」と詰め寄る。更に市村が事務所を構えるビルも含め、妙なグループが街の不動産を買い漁っているような問題のことをまくし立てる。陣内は事情が呑みこめない。

こうした中、街には“歌舞伎町セブン”なるものの噂が密かに流布されている。単なる“都市伝説”というものなのか?或いは?

という具合に進んで行く物語!!“巨悪”を密かに倒すダークヒーローの物語である…“都市伝説”のような存在が、“事件”の進展に連れ、次第にその姿を浮かび上がらせる…陣内、市村、小川、上岡、更に他作品にも登場している東警部補と、魅力的な劇中人物達が駆け回る…思わず引き込まれ、休日を利用して一気に読了してしまった!!

最終盤を読むと…「或いは“シリーズ”に?」と想わせるモノも在った…

『妖の華』

↓作家の「多彩な背景」が凝縮されたような、今日“評価”を得ている各作品の“出発点”のような一冊である…



妖の華(文春文庫)

↑なかなかに愉しく読了した!!

“ヒモ”生活のヨシキは、ヤクザと揉めていた。ヤクザの情婦と関係したということで、ヤクザに暴力を振るわれていたのだったが…通り掛った女が、危機から救い出した…ヨシキは、この素性がよく判らない女に強く惹かれる…

一方…街の駐車場で、“失血死”と見受けられる変死体が発見された。遺体が青白い感じになる程度に血が抜けているが、現場に大きな血痕が在るでもない。遺体には「猛獣の牙?」と思わせる傷が在ったが、他方で獣毛が発見されている訳でもない…警察は、この不審な事件の捜査に着手する…

ということで動き出す物語だ…“刑事モノ”の進行に“伝奇モノ”が巧く乗ったような、独特な味わいの物語である…

作者の誉田哲也は“刑事モノ”で人気を博している作家だが、“伝奇モノ”に多く親しんでいて、その“伝奇モノ”も手掛けている。本作はそういう「背景」が非常によく判る…

“伝奇モノ”で描かれるような、不思議な力を持つモノが蠢いて起こる出来事の一部は、普通に考えれば警察が動く“事件”にならない筈が無い…だから、“刑事モノ”的な「事件を追う目線」が“伝奇モノ”で描かれる事象に「被さる」ような感じが在っても、少しも不自然ではない…本作は、正しくそういう具合だ…

誉田哲也作品のファンとして、本作で愉しいのは「井岡刑事」の登場であろう…

「井岡刑事」は颯爽とした女性捜査官、姫川警部補が大活躍するシリーズの「半ばレギュラー」という劇中人物である。職場の上司にウケが悪く、後輩や同僚にも不人気という妙な男で、方々の署を頻繁に異動している…本庁の姫川達が各地の署で捜査に加わる際、署の捜査員とペアで動くように指示されるが、どうしたものか行く先々に井岡が居て、姫川達の序列順名簿と、署の捜査員の50音順名簿を並べてペアを決めるというようなことをすると、「姫川・井岡」という組になってしまう…姫川は「何故あいつが!?」と毎度辟易する…井岡は「玲子さん!!」と勝手に下の名前で呼んで張り切る…そんな按配だ…

と、井岡は「シリアスな展開の中で、妙な言動をして笑いを…」というような劇中人物なのだが、本作に在っては「傍目には荒唐無稽な推測をしているのだが、それを信じて、敬意を払っていた先輩の殉職等が在ったことから、強い想いで独自に怪事件の謎に挑んでいる」という、なかなか面白い劇中人物として描かれている…なかなかに好い!!

そして本作は、哀愁を帯びたヒロイン、「妖の華」こと“紅鈴”がなかなかに魅力的だ…読み始めると夢中になってしまう…

『国境事変』

↓「対馬が出て来る」と聞き、また最近読んでいる誉田哲也作品であることを知り、読んでみようと入手した…



国境事変(中公文庫)

↑夢中で読み進み、最後はコインランドリー利用の待ち時間まで利用して、大変愉しく読了した。

「対馬が出て来る」と聞いて気になったのは、稚内で『境界フォーラム』なる催し―“国境”を擁する各地の皆さんや、“国境”を巡る様々なテーマの研究者による、地域間交流や学際的研究を進めるグループが催したもの…―があり、集まってきた皆さんの中に対馬からやって来た人達が居ると聞いて対馬に興味を覚え、『長崎県の歴史散歩』で対馬の記事を読んでいたからだった…

本作の題名となっている“国境事変”は、劇中の事件が進展する中、劇中人物の一人が「これは最早、国境事変だ」と口にするのだが、そこから取られているのだと思う…

本作も多くの誉田哲也作品に見受けられるように、劇中の複数のキーパーソンによる目線で綴られているものが巧みに組み合わされていく手法で展開する…

物語の冒頭は、長崎県警本部から対馬南署に赴任して仕事をしている桑島刑事の日常から起こされる。時々居る、「マナーの悪い韓国人釣客に迷惑している」と署に通報してきた漁師の話しを聴いたことがあったことから、「また居るから来てくれ!!」と呼ばれて出向いた…そういうような桑島の“日常”が描かれる…

東京・新宿では…他殺と見受けられる遺体が発見された…かなり激しく殴打された男性が死亡していた。“通り魔”とも見えるような状況だった。警視庁捜査一課の東警部補は捜査に参加する。死亡した男性は、在日朝鮮人の会社経営者だった…

この捜査状況を見守る一団に川尻が居た…川尻は警視庁の公安の刑事だ…殺害された会社経営者は、公安がマークしていた“東侑エンタープライズ”の社長だった。自殺してしまった先代社長である父親の後を継ぎ、少し傾いていた業績を立て直したという人物だった。

事件のカギを握って居そうな人物は、殺害された社長の弟ということに…これは川尻ら公安にとっても“キーパーソン”である…事件を巡り、東の動き、川尻の動きが交差し、やがて舞台は対馬へ…

という流れなのだが…少しずつ明かされる断片が対馬で組み合わさるまでのプロセス、そして対馬での手に汗握る展開…読み応えが在った…

『ハング』

↓少し“ダーク”な感じの小説だ…



ハング(中公文庫)

↑なかなかに嵌るモノが在った…

物語の冒頭は、8月末の或る日に海水浴を愉しむ男女の描写から始まる。海水浴を愉しんでいるのは、非番の刑事達と、その中の一人の妹で仲間達のアイドル的存在の女性とその友人というグループだった…後段の“暗転”する展開とは余りにも対照的だ…

非番の刑事達は、警視庁の刑事達で、担当は“再捜査”であるが、普段は遊軍的な立場で色々な現場に赴いている。誘い合って海水浴に出掛けた後、彼らに割り当てられた任務は、多少不思議なものだった…

赤坂の宝飾店の店主が殺害された一件が在った。目撃談から聴取された参考人のアリバイが立証されたとして、事件そのものは未解決に終始していたのだが、被害者の遺族が妙なモノを持ち込んだ。被害者の店の防犯カメラの映像らしいものを収めたディスクで、閉店後の店に入り込んだ窃盗犯が店主にそれを見咎められ、刃物を出して店主を牽制して逃げて行ったという、“強盗未遂”の事件現場を捉えた映像だった…

本作の主人公である津原と仲間達は、この“強盗未遂”の一件を捜査することになり、赤坂署に赴いて活動を開始する…やがて捜査は急速に進展し、事件は解決するが、どうしたものか、事件の後始末が済む前にも関らず班員全員がバラバラに各地の署へ異動という事態になってしまった…

やがて…この“強盗未遂”の容疑者の裁判が始まると、被告となった容疑者が「違法捜査!!」を主張し始めた…そして“違法”と名指しをされた、津原の仲間の一人だった植草が勤務していた交番で首を吊ってしまった…

こうして事件は意外な展開をし始め、津原はその真っ只中に飛び込むことになる…

簡単に裁くことが出来ない“巨悪”の毒牙に掛かり、それに立ち向かう津原…「この後、彼は?」と思わずには居られないドラマだ…

因みに題名の“ハング”は「吊るす」という意味である…これは作中ではキーワードになっている…

『月光』

夕刻の早めな時間に寝入ってしまい、深夜に珈琲を淹れて、それを啜りながら綴るが…或いは「珈琲の苦味が似合う」ような本を読了したところである…

↓最も最近に入手し、頁を繰り始めて停まらなくなり、最も最近に読了した一冊である…

誉田哲也/月光 中公文庫
↑全般に「“知らなかった”で善かったかもしれないことに惹かれて、深みに嵌る…」というような、少し不穏な“漣”のようなモノが感じられる物語だ…

主人公の野々村結花は姉が通っていたのと同じ高校に入学した。両親はそれに賛同はしなかったのだが…

結花の姉、涼子は高校3年在学中に事故死していた。同級生の男子が無免許で乗った盗難車のバイクに轢かれて死んでいた。件の男子は退学処分となっていた…

結花は“事故死”というだけで、情報が少な過ぎることに苛立っていた。自身の中で大きな存在であった姉が喪われたことで「空いてしまったモノ」を埋められずに居た…そこで、姉が通っていた高校に入学し、独自に「事の真相」に迫ろうと考えたのである…

姉の一件を何とか探ろうとする結花の視点、姉の涼子と関わりがあった教師の羽田の視点、同級生の男の清彦の視点で、進行中の出来事と回顧とが入り交じり、結花が「釈然としない!」として探っていた“真実”が明らかになっていく…

“ロマンス”と“暴力”の狭間に在ったモノ…それ故の行動なのか?正しく「“知らなかった”で善かったかもしれないこと」が明らかになる…

題名の“月光”だが、これはベートーベンのピアノ曲に由来するモノである…物語は全般にピアノの曲をBGMに進むような雰囲気が漂っている…一種のサスペンスにして「苦い“青春モノ”」という味わいだ…

『インビジブルレイン』

↓姫川警部補が活躍する長編の3作目である…



インビジブルレイン(光文社文庫)

↑大変興味深く読了した…

マンションの1室で、暴力団組員の若い男の遺体が発見された。刃物の傷が多数在り、殺人事件と見受けられる。被害者が暴力団員であることから、組織犯罪対策の捜査員と殺人事件の捜査員とによる混成チームで捜査が始まる。姫川の班も捜査に加わることになった…

捜査が始まった中、匿名の“タレこみ”電話が入り、電話の主は容疑者氏名を特定する…が…上層部は、ここで名前が挙がった人物に関して調査をすることを「禁じる」と言い出した…得心しない姫川は、密かに単独行動を取って、問題の人物に関することを探り始めた…

今回の作品は、このシリーズに特有な「様々な劇中人物の視点での語り」が華やかに展開する…“問題の人物”の視点や、その周辺に在った人物の視点が加わり、複雑な様相の“事件”が展開する…そして、姫川の居る組織も揺らぐ…更に、姫川自身の心を揺さぶる関係者が登場する…何か、「見えない雨」が降り頻り続けているような、独特な空気感が全編に漂っている…

未読の方のお楽しみを妨げたくないので、これ以上は詳述しない…「更なる続編」を匂わせながらも、何か「シリーズの到達点」を思わせるものも在る…

『ソウルケイジ』

↓姫川警部補が活躍するシリーズの第2作である…

誉田哲也/ソウルケイジ
↑これも興味深く、素早く読了してしまった…

ある小さな工務店のガレージが血塗れの状態になっていて、何時も使っている車が消えていた。近くの河川敷で車は見付かったが、中から袋に入っている、切断された左手首が見付かった。警察は遺体損壊遺棄並びに殺人の可能性が大きいとして捜査を開始する。この捜査に姫川の班も加わった。

「篩に掛けよう」と集められた事柄の中から、「これ!!」と摘み上げて走り出す姫川に対し、同じ係の別な班を率いる日下警部補は「徹底的に篩に掛ける」という緻密な捜査を驚く程の手際でこなす男だった。“有罪判決製造機”とまで呼ばれている…姫川と日下は、各々の手法で、左手だけが見付かった「遺体なき殺人」の謎に迫る…

“事件”の背後に在るのは“父性”というようなことである。暗い物語の背後で地味に光るのだが…何か考えさせるものがある…

このシリーズは、主人公の姫川に対して、別なやり方で事件を追う劇中人物が出て来て、姫川の視点に加えて、その別な劇中人物の視点や他の関係者の視点で綴られるものが組み合わさって“事件”が描かれるのが特徴になっていると思う。なかなかに面白い。事件を追う主人公側の視点と、事件関係者の視点というのは普通だが、主人公と少々反目する捜査陣の別な人物の視点が加わっているのは独特なように思えた…

『ストロベリーナイト』

偶々興味を覚えて読んだ作品が、テレビドラマや映画の原案になっていた人気作品であることを後から知るということ…時々在る…

↓これもそういう作品だ…なかなか愉しく読了した…

誉田哲也/ストロベリ-ナイト

溜池の脇で、ブルーシートに包まれた遺体が発見された。リンチ的な痕跡が見受けられる傷んだ遺体で、妙な箇所に切り裂いた跡まで見付かった…警察は殺人事件と見て捜査を開始する…

動き出した捜査陣の中に姫川警部補が居た。彼女は女性警察官の中では、かなり若くに警部補に昇進し、捜査一課第十係の主任として一斑を率いる立場に在った。鋭い勘で、独自に事件の真相に迫るという彼女であったが、彼女は実は或る“事件”を経験していて、それが故に警察官を志した…

そんな姫川に対して、色々な捜査官達が活動しているが、そんな中に別な班の主任である勝俣警部補が居た。勝俣警部補は公安部経験者で、捜査手法は独特な“情報戦”を展開するというものである。

個性的な捜査官達が、奇妙な遺体の発見という出来事を入口に、半ば“都市伝説”のような恐るべき事件の謎を解き明かす…

颯爽としていて美しい女性刑事、姫川が抱える“傷”であり、その“推進力”となっている“事件”…他方で進む怪事件の謎…如何にも「悪役風」なアプローチで、姫川と張り合って真相に迫る勝俣…時々挿入される、“犯人視点”の物語…怪事件の少し意外な黒幕…一気に読ませてくれる…非常に愉しい!!

『吉原暗黒譚』

↓「時代モノの小説は愉しい!!」ということを新たにした一冊である…

誉田哲也/吉原暗黒譚 文春文庫
↑この作者の他作品は未だ読んでいないが、所謂“警察小説”を多く出しているそうだ。江戸時代後期、幕末にやや近いような時期というムードの吉原を舞台に、“警察小説”的な味わいで物語が展開する…

本の冒頭に、江戸時代の遊郭町・吉原の概略図が出ている。これを先ず視ておけば、作品の文中に出て来る街路の名前等も判り易くなる…

物語は、奉行所が吉原に設けた番所に詰めている同心の今村が、「黒い狐の面」という謎の一団が花魁を殺害する場面に出くわす辺りから始まる。同種の事件が発生したのは3件目であった…映像が思い浮かぶような鮮やかな描写に引き込まれる…

「花魁殺害」というのは“重要事件”となる筈だが、何か秘めた事情が在るのか、“捜査本部”的なモノが立ち上がるでもない。事件の現場にも出くわした今村は、独自に資金を調達して事件の解決へ向けて動くことにした…

殺害されてしまった花魁の周辺事情を探りながら、今村は愛人的存在の不思議な女性の協力を取り付け、疎遠になっていたものが不意に現れ、立場が変わって名前を変えたと言う昔馴染みの男と手を組むことになる…

吉原に設けた番所に詰めている役というのは“閑職”らしいが、そんな立場に在りながら、独自に協力者を得て捜査活動をする今村…何か、遊軍的に執念深く事件の捜査をする、現代モノに出て来るベテラン刑事のような味わいだ。

事件そのもの、事件の周辺、事件から遠そうな事柄等が、物語の進行に連れて次第に収斂し、意外な結末を迎える…

本作は作者が作家としてのキャリアが浅かった時期に“単発”で上梓した作品だというが、「これだけ…」というのは勿体無い…閑職に甘んじつつも「孤高のベテラン刑事」的な動きを見せる「同心の今村」というなかなかに好い主人公が居て、周囲の人々も各々にユニークで、アクションも艶っぽい場面も推理の面白さも在り、“シリーズ”も期待したくなる雰囲気だ…

或いは“警察小説”と呼ばれるモノも好きな方だからかもしれないが、愉しい作品に出会うことが叶ったと思う…