『特捜部Q-カールの罪状』

気に入ったシリーズ作品の新作に出会うと、「遠方の友人の消息を知る」という気分で作品を紐解いて愉しむという感覚が在ると思う。<特捜部Q>のシリーズも、何時の間にか作品が増えていて第9作が登場した。

↓文字どおりに「遠方の友人の消息を知る」という気分で愉しく読んだ一冊である。

特捜部Q?カールの罪状? (Hayakawa pocket mystery books No. 1)



↑一般的な新書よりやや大きな版で、上下2段に文章が組まれている。文庫化すれば、多分上下巻の2冊になる分量だ。が、少し夢中になり、存外に早く読了に至った。

<特捜部Q>のシリーズは、デンマークの作品の翻訳である。コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補は、捜査活動中の負傷で仕事を休んでいたが、復帰した時に与えられた役目は、新設される未解決事件担当の責任者ということであった。その担当が<特捜部Q>と呼び習わされることとなる。訳アリな中東系の移民であるアサドを相棒に、カールは<特捜部Q>の活動を始めた。警察本部の使われていなかった地下室が<特捜部Q>のオフィスとなる。やがて<特捜部Q>には、女性のローセや、少し若いゴードンというスタッフも順次配置された。それでも<特捜部Q>は小さなチームではある。カールとチームの面々が色々な事件に出会い、活動が続けられる様が描かれるのがシリーズ各作品の物語ということになる。

各作品共に、適宜視点人物を替えながら、時系列を基本に、時々時間を遡るというような具合で進む。これが何処か映像作品的なモノを思い浮かべながら読む感覚も覚える。実際、デンマークではシリーズ各作品を原案にした映画が何本も制作され、なかなかにヒットしたそうだ。本作でもそうした様式は踏襲されている。

本作の冒頭部では、1980年代の事故、または事件が描写される。そして2020年11月30日ということになり、12月の出来事が展開して行くことになる。

<特捜部Q>は、<殺人事件捜査課>が統括していて、課長のマークス・ヤコブスンがカールに話しを持ち掛けた。

或る女性が逝去したという報を受け、ヤコブスンは葬儀に足を運んで献花をしたという。女性は60歳の誕生日に自殺してしまったのだというが、32年前に爆発事故に巻き込まれて、当時3歳の息子を喪っていた。事故現場近くで活動中であったヤコブスンは現場に走ったのだったが、その少し前、最初に現場に入った警察関係者の中にカールが在ったという。ヤコブスンの話しを聴いたカールは「あの時の女性?」と思い出した。現場にヤコブスンが居たか否かは覚えていないが、吹き飛ばされた3歳の息子を求めて泣き喚く女性を必死に押さえて宥めていたというのは、カールにとっても忘れ難い出来事ではあった。

爆発は自動車修理工場で起こっていた。自家用車を修理工場に預けていた女性が、車を受け取ろうと息子を連れて訪ねたその時に爆発が起こり、息子が吹き飛ばされてしまったのだった。その爆発現場では、工場の経営者と従業員が全員死亡していて、激しく燃えてしまって色々な事が判らなくなっていた。が、如何いう訳か普通の食塩を盛ったモノが現場の一隅で見付かっていた。デンマーク等では冬季に融雪剤として塩を用いる場合が在るのだが、そういうモノとは明らかに異なっていた。

ヤコブスンは人為的な爆発、経営者と従業員の殺害ということを疑ったが、事故というようなことで一件は終始してしまっていた。これを調べることをカールに持ち掛け、カールの<特捜部Q>は様々な記録の検討を開始する。

吹き飛ばされてひっくり返った状態の女性の自家用車の写真、女性による自家用車を工場に預けた事情等の証言記録を詳細に検討した結果、工場の仕事の進め方に「問題」が在る可能性が浮かび上がった。不正が行われ、繰り返されていた可能性が浮上したのである。更に現場の「塩」である。事故とされた死亡事件の中に、似たような「塩」が発見された事例が他にも在ることが判明した。自動車修理工場の件が1988年で、以降の「偶数の年」、2年毎に「殺人」が繰り返されている可能性が浮上したのである。

<特捜部Q>が「恐るべき事態の可能性」を見出して懸命な活動をしていた頃、ヤコブスンは奇妙な連絡を受けた。麻薬事件担当の捜査員が、カールが捜査線上に在る旨を伝えて来たのだ。<特捜部Q>の担当となる以前、カールは捜査活動中に襲撃を受けて負傷したのだが、同行していた1人が死亡し、1人は身体が動かせなくなる重傷を負ってしまっている。このカールの事件も未解決である。この事件に纏わることのようだが、麻薬に関する嫌疑がカールに掛けられていて、カールを逮捕する場合が在るというのだ。

<特捜部Q>の面々の懸命な調査、捜査で「2年毎に殺人」が確度の高い話しであると判明し、被疑者らしき人物も具体化して行く。そして1988年以降の「偶数の年」に該当する2020年、事件が起ころうとしていると見受けられ、状況が緊迫して行く。

2020年12月はデンマークでも感染症の問題で社会が揺れていた。店舗の休業や様々な催事の中止ということも相次いでいる。そうした中、カールの嫌疑に関しても、カールの所有である家屋から発見されたモノで決定的になり、追跡の手が伸びる。そして「2年毎に殺人」の被疑者は、被害者を拉致して手を下そうとしていると見受けられる状況だった。被疑者の思惑を挫いて被害者を救うべく<特捜部Q>の面々が奔走する。

こういう展開で、最初から最後迄全く眼が離せない感じで、事態の展開を追い掛けずには居られない作品だ。シリーズ各作品を通じて、カールの事情も色々と変わり、訳アリなアサドのことも前作で明かされ、ローセにも色々と在ったのだが、小さなチームで懸命に事件に取組む中で培われた何かの力で難局に挑んでいる。作者はシリーズ全体で10作と構想しているらしい。本作は第9作で、「次回が最終回?如何なる?」という感じに纏まっている。

非常に面白いので御薦めだ!!

『特捜部Q―アサドの祈り― 』

↓デンマークの小説の翻訳である。

特捜部Q?アサドの祈り? (ハヤカワ・ミステリ)




「コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補」は、自身にとっては「遠い天の下に在る知人」のような存在感が在る。気に入った小説のシリーズの主人公というのはそんなモノだと思う。

「特捜部Q」とは、コペンハーゲン警察本部の使われていなかった地下室がオフィスとして宛がわれて開設された小さな部署だ。未解決になってしまっている事件等の捜査を行う。カール・マーク警部補はそこの責任者を拝命した。捜査を補助し、庶務を行うということで事務職員が配属されるのだが、現れるのはシリアからの移民の出であるというアサドや、かなり個性が強い女性のローセと独特な面々だ。最も後から加わった若手刑事で長身が目立つゴードンが「普通」というような具合だ。

アサドが現れた当初、カールは「不思議な男?」と感じるのだが、行動を共にし、互いの危機を救うような場面も在り、「好き相棒」となっている。しかし、アサドは個人的な様々な事柄、生い立ちや経歴に関連するような話しは何故か殆どしない。話題が及んでもはぐらかすという、少し妙な面も在った。

そしてこの通算8作目となる『特捜部Q―アサドの祈り― 』である。

殺人捜査課または重大犯罪捜査課のラース・ビャアン課長が心筋梗塞で急逝し、その兄であるイェス・ビャアンも訃報を受けて自殺してしまった。

アサドの姿が視えない中、カールはアサドはラース・ビャアン課長と個人的な繋がりが在るらしいということを思い出した。「特捜部Q」が設けられた時、アサドを採用する話しを進めていたのはラース・ビャアン課長だったのだ。

旧知の人達が相次いで急に他界してしまったことに衝撃を受けていたアサドはローセを訪ねてみた。ローセは事件に巻き込まれて心身にダメージを受けたことから、仕事を退いて自宅アパートに籠るような暮らしをしていた。アサドは時々立寄って、外での用事を引き受けるようなこともしていたのだった。

ローセは各種の新聞を隅々まで読んで、印象に残った記事を切り抜いて、アパートの室内の壁に貼っているという、一寸変わったことを重ねていた。そんな彼女が貼った記事の写真をアサドは眼に留め、そして瞠目した。ボートで漂着した中東の難民が死亡する場合が在り、2117人目の死亡者と見受けられるのはやや高齢な女性だったという記事である。そしてアサドは、関連する記事の別な写真を視て、更に大きな衝撃を受ける。

「2117人目の死亡者」という記事は、「特ダネで一発当てる!」と考えて冴えない状態に在ったバルセロナのフリーの記者が、「難民が死亡」の件を偶々聞いて思い付き、キプロス島へ強引に出掛けて写真を撮って記事にしたということで登場したのだった。

こういう他方、「特捜部Q」では時々架かる不審な電話にゴードンが悩んでいた。「レベル2117で決行」と殺人か、その他何かのテロを仄めかすようなことを口にする若い男からの電話だった。同一人らしいが、調べると使い捨てのSIMカードを毎回交換して架電という様子で、発信源を辿ることも難しい。性質の悪い悪戯なのか、本気で殺人のような事を仕出かすのか見当も付かないのだ。如何いう具合に対処するのが善いのか、ゴードンは考えあぐねていたのだ。

アサドを巡って巻き起こる出来事、「2117人目の死亡者」という記事が切っ掛けで関連取材と称して行動することになる記者の動き、ゴードンが悩む不審な電話に纏わる事案と、場面毎に中心視点人物を替えながらスピーディーに物語が展開する。

気に入っているシリーズで、「遠い天の下に在る知人」のような存在感が在る劇中人物達の活躍が非常に面白いのだが、本作に関しては「因縁の敵」と向き合うことになって行くアサドと、「あいつを助けたい…」と行動を共にするカールの動きに夢中になった。「これまでの残業の代休で、上の階で話しを着けて…時間を作ろう…」とカールはアサドに言い放ち、とりあえず同行するのである。こういう言い方が「カールらしい」とにやりとしてしまう。

敵の影を追ってアサドとカールはドイツに入り込む。警察官としての職権が在るのでもない土地へ入り込み、ドイツの関係機関の協力者ということで動くことになる。こういう展開の故に、ドイツで出た独語版はかなりヒットしたそうだ。(ドイツではこのシリーズはなかなかに人気が高いようではあるが…)また「クライマックス」に出て来る場所は、多分現在の様子と少し違うと思うが、随分以前に自身で寄ったことも在った場所で、一部は「現場の雰囲気」が思い浮かぶので、何か酷く夢中になった。

頁を繰る手が停まらなくなって素早く読了してしまった。大満足だ。しかし…アサドのその後は酷く気になる。本作でアサドの生い立ちや経歴、「因縁の敵」の事等は明かされるが、読後に「寧ろ今後が…」と強く思った。また、個人的なことで幾つかの動きが在ったカールのその後も気になる。

特段にシリーズとして各作品を読んでいなくとも「コペンハーゲンの警察部内で遊軍的に動く捜査班が在り、責任者の警部補の相方がシリアからの移民という話しの不思議な男である。余り自身の過去に触れない相方が、或る報道が契機になって来し方を明かすようなことになり、因縁の敵の影を追って奮闘」ということで、独立的に愉しむことも可能だと思う。

『特捜部Q-自撮りする女たち』

「コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補」と出会ったのは何時だったか?「人気シリーズ」として現在まで続く“特捜部Q”の第1作に出くわしたのは2012年のことであった…“ユッシ・エーズラ・オールスン”という作者名を見て「何処の国の名前?」と思えば、デンマークの作家であった。

第1作が興味深かったことから、シリーズの新しい作品を眼に留めると、概ねその都度に入手して楽しむようになった小説だ。こういうシリーズに関しては、「馴染み」になった作中人物達に関して「遠方の友人、知人の近況に触れる」という感覚で読むことになる場合も在る…自身の中では、「コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補」も既に「遠方の知人、友人」の1人に数えて差し支えない感だ…

↓その「コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補」が還って来た!!

特捜部Q―自撮りする女たち─ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




特捜部Q―自撮りする女たち─ 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑“異色”という感である、部内的には“左遷部署”的な感でもあるカール・マーク警部補率いる特捜部の面々が、複雑に絡み合う過去の、そして進行形の事件の謎を解き明かす物語だ。

“特捜部Q”とは、警察本部の“殺人捜査課”に附属する体裁でありながら、独立的に捜査活動を展開する「未解決事件担当班」である。踏み込んだ現場でのアクシデントで休んでしまったカール・マーク警部補が職場復帰した際に設立され、その責任者ということになった。当初はシリア移民の不思議な男であるアサドが1人だけのスタッフであったが、やがて非常に優秀でありながら奇妙な言行も見受けられて配属される場所毎に持て余されてしまっていたらしい女性のローセや、未だ若い男性のゴードンが配置されるようになって行く。

“特捜部Q”は精力的に活動を続けて年月を重ねていたのだが、色々な手違いで「殆ど成果を挙げていない」という烙印を押され、俄かに解散の危機に瀕してしまう。そういう問題をどうにかしようとしていれば、ローセが仕事に取り組むことが困難な状態に陥ってしまった。ローセは少女時代の父親との関係で抱えてしまった心の闇、そしてその父親の事故死を巡る一件で深い心的な傷を負っているのである。

そうした問題の他方で、“特捜部Q”は12年前に女性教師が鈍器で後頭部を殴られて殺害され、未解決となってしまっている事件に取り組んでいた。そんな最中、似たような手口で老女が殺害され「或いは繋がり?」ということになった。

その殺害された老女の家庭には、色々と事情も在った。老女の孫であるデニス・ツィマーマンは、失業状態のまま生活保護を受け続けているというような状況に在った。このデニスのような若い女性は多く見受けられる。生活保護等の件で対応する福祉事務所の担当者は、そういう「生活保護を食い物に」というような女性達への憎しみを募らせていた。

というようなことで、12年前の未解決の殺人、共通項が在ると見受けられた現在の殺人、ローセの問題、デニス・ツィマーマンに関連して次々と発生する事件ということになり、カール・マーク警部補、アサド、ゴードンという面々は酷く忙しい状態を強いられながら奮戦することになる。カール・マーク警部補、事件関係者と次々と視点人物が入れ替わりながら物語が積み重ねられ、やがて出来事の相関が明らかになり、種々の事件が解決に向かって行く。こういう辺りが「らしい!」という感の“特捜部Q”のシリーズだ…

今作は、“心の闇”に起因する心身の問題で苦しむローセが「危険な状況」に巻き込まれ、カール・マーク警部補、アサド、ゴードンがそれを救おうという想いを胸に、必死な活動を展開する様子が非常に好い…そして「そういう風になって行ってしまう?!」という按配に展開してしまう、進行中の種々の事件の顛末が面白い…

本作は或る程度長く続くシリーズであるが、別段に続けて読んでいなくても、各作品を「独立の1作」という具合に十分に愉しむことが叶うと思う。このシリーズでは、作品の舞台となっているデンマークで「そう言えばあのような件…“問題”だ…」と少し意識されていると見受けられるような事柄が、作中で発生する事態の背景のように採り入れられている例も在り、そういうのも興味深い。

上巻を紐解き始め、直ぐに残り頁が少なめになり、下巻に入れば展開のテンポが上がるので頁を繰る手も停まらなくなる。そんな感じだ…広く御薦めしたい!!

『特捜部Q―知りすぎたマルコ』

一定の人気が在る“シリーズ”の小説については、「或る時に、偶々“第X作”に出逢う」というようなことが往々にして在る。必ずしも「第1作から順番に読む」という訳でもない。それでも、出逢った“第X作”が面白いと、順次シリーズの各作品を紐解いてみたくなる。

↓これは“シリーズ”の“第5作”となる作品だ。シリーズの過去作品で詳述されている事項への言及は在るが、それでも「全く初めて出逢った作品」として十二分に愉しい!!デンマークの人気作品の翻訳で、各国でも翻訳されていて、なかなかの人気シリーズとなっているという…

特捜部Q―知りすぎたマルコ― 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




特捜部Q―知りすぎたマルコ― 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑題名に付いている“特捜部”で察せられるように、これは事件モノだ…これまでのシリーズ各作品の中、「最も」と言ってしまっても構わない程度に、“事件”は「ややこしい拡がり」を見せる…

作中の“特捜部Q”とは、デンマークのコペンハーゲンに在る警察本部に設けられた小さな捜査班―本部ビルの地下の、発足当時に偶々空いていた場所に、無理矢理に設けたようなオフィスである…―で、「未解決事件担当」である。ベテラン刑事のカール・マーク警部補が捜査班長となっていて、“刑事”ということでもない警察職員2名がアシスタントだ。2名のアシスタントは、シリアからの移民であるというアサドに、やや風変わりな女性であるローセで、なかなかに面白いメンバーだ…

作品は、風変わりなアシスタントを従えて「未解決事件担当」の仕事に勤しんだり、私生活上の色々なことが在る警部補のカールと周辺の話しが展開する他方、事件関係者等の各々の時間に発生している出来事が描写される。「各々の時間」が描かれ、やがてそれらが「未解決事件担当」の仕事の中で交差し、事態が動いて行く…

本作もまた、「各々の時間」が描かれ、やがてそれらが「未解決事件担当」の仕事の中で交差し、事態が動いて行くというスタイルが踏襲されている。これが好い訳だが…

冒頭の方では、アフリカのカメルーンで事態が惹起している…デンマーク政府による支援で「環境の変化によって、生活が揺らいでいる少数派の部族のために、農園を興す」という事業が展開中だった。しかし、何やら事が思うように運ばず、現地人の担当者が苛立っている…その背後には、デンマーク外務省関係者によって密かに行われていた“不正”が在った…

他方、コペンハーゲンで…マルコという15歳の少年の物語が展開している…

マルコは“クラン”と自称する集団に身を置いていた。結局、そこで生まれ育ったのだが…“クラン”とは、各地を動き回り、指導者が少年少女に物乞いやスリや盗みをさせているというような「犯罪集団」に他ならなかった。マルコは、そういう在り方に嫌気が射していた。「普通な家族生活」をして、学校で学び、出来れば何かの専門職になれる知識を身に着けて、普通に生きたかった。そういう想いが募る中、マルコは“クラン”の指導者達が、自分達を“道具”と観てとんでもないことをしていることや、窃盗関連どころではない重大犯罪に手を染めていることに気付き、“クラン”から逃げ出す。そして逃げ出した時に、重大犯罪を示唆する証拠に触れてしまう…

カール達は、なかなか真相が解けずにいた女性の変死事件に関する捜査に勤しんでいた。“刑事”の基礎的な仕事に関する経験が浅いローセを“聞き込み”に引っ張り出す等したが、彼女の大胆な推理も在って、捜査は進捗する。そして、前作で描かれた事件の捜査の中で負傷してしまっていたアサドも復調しつつ在った。

やがて…或る少女が、義父(継父)ということになる外務省勤務だった行方不明の男性の情報提供を求めるために出していたチラシが登場する…

“クラン”関係者から身を隠しながら、親切な人達の支援も在って、何とか暮らしているマルコは、チラシを視て、自身が目撃してしまった“クラン”の指導者達の重大犯罪に関連していることに思い至る…

“聞き込み”に出ていた先でチラシを眼に留めたローセは、気になったチラシをオフィスに持ち帰った。そして該当すると視られる行方不明者に関して調べ始めた…

チラシに在った行方不明の外務省職員は、アフリカのカメルーンへ出張し、予定より早く帰国した後から行方が判らなくなっていて、2年近くになっている。“特捜部Q”は、手を掛けていた女性の変死に関する一件が殆ど片付いたことから、この男性の一件に着手した…

マルコは“クラン”の指導者の秘密を知って追われる身では在ったが、このチラシに出くわした辺りから、激しい追跡を受ける状況に陥ってしまった…様々な知恵を駆使し、マルコは必死に逃げている…

他方、カール達は外務省職員の周辺を色々な角度で探っている最中、マルコらしい人物に気付き始める…

“特捜部Q”の面々、マルコ、そして事件の原因となった事態に関連して蠢く人々、その他の関係者の「各々の時間」がどのように交錯し、事態はどういう具合になって行くのか?かなり夢中になってしまう…

本作では、マルコが「題名の一部」にさえなっているように、正しく「作中の事態のキーマン」になってしまっている。不幸な境涯を何とかして抜け出し、生き延びようと必死なのだが…「重大な秘密を知ってしまった?」ことから追われ、追う者達はマルコとささやかな接点が在った人達に暴力を振るって脅すということを仕出かすため、彼らとマルコの関係が変わってしまい、マルコは悔し涙を流す。こういう関係の場面…少し目頭が熱くなる…

シリーズの作品では、主要な作中人物達の他に「第X作のキーマン」というような人物達が登場し、時には少し先の「第X+Y作」に出る場合も無いではない。本作のマルコは「シリーズの先の作品で、機会が在れば再会したい人物」と感じた…

このシリーズは、一定程度「実在の何か」をヒントに創作している面も在るようだ。第4作では、作中で描かれた古い事象―これが一寸「酷い」お話しなのだが…―の一部に関して、残念ながら実在したということも伝えられている。或いは、本作の「途上国支援の資金を巡る政府関係部局の官吏による不正」というような事象や、マルコが抜け出そうとした“クラン”のような犯罪集団は、実在しているのかもしれない…残念ではあるが…

シリーズの作品に親しんで、「あれ?少し前に読んでいたモノの“次”だ…」と気付いて入手して読んでいると…「遠くの、やや御無沙汰な友人達の消息に触れる」ような、何処となく温かい気持ちが湧き上がることもある。今作では…前作で負傷したアサドが復調して行く感じが、少し嬉しかった…

本作は「シリーズの中の1作で、最も最近に出た」というモノではあるが、「独立した一作」として実に好い!!

『特捜部Q―カルテ番号64』

シリーズ物の新しい本が出ると、「遠方の友人の消息を聴く」かのような気分で、馴染みの劇中人物達がどうなるのか、どうするのかを夢中で愉しむ…

↓デンマークのコペンハーゲン警察で活躍するカール・マーク警部補が還って来た!!

特捜部Q-カルテ番号64-(上) [ ユッシ・エーズラ・オールスン ]




特捜部Q-カルテ番号64-(下) [ ユッシ・エーズラ・オールスン ]



↑文庫で愉しんでいるこのシリーズ…4作目だ…

カール・マーク警部補は、未解決事件の調査を行うべく新設された<特捜部Q>の責任者である。何がどうなって警察署事務官になったのか、素性がよく判らないシリア移民であるというアサド…少しエキセントリックで、他の警察署で持て余された女性職員のローセ…<特捜部Q>はこの3人で切り盛りしている部署だ。

カール・マーク警部補は、2人の同僚と共に捜査活動中、謎の襲撃を受け、1人死亡、1人重傷という事態に陥った。復帰してみれば元々の所属部署に“居場所”が無く、折好く舞い込んだ<特捜部Q>の話し故に、その部署を預けられたのであった…

本作の物語は…1985年の或る日から書起される…財界人や学識者が集まったパーティーの席上、会社経営者の妻を目に留めた医師が、「その女の過去を知っている。ロクでなし!」と罵倒するという騒ぎが起こる。夫妻は場を離れるが、夫は車中で医師が言い出した話しの真偽を妻に問う。妻は医師の言が事実であることを認めた。車中で夫妻が揉み合いになってしまい、車は崖から転落してしまう。夫は死亡し、妻は生き残った…

話しは2010年…現代へ…カール・マーク警部補は、部下のアサドが介入して、一応の解決のようになった風俗街でのトラブルに関して、何やら引っ掛かるモノを感じる等していたのだが、そういう日常の中でローセが「これは調査しなければ…」と気になる案件を持ち出した。1987年の「同一日?」と推定可能な時期に、行方不明者が多発していた。行方不明者は20年以上も発見されていない。或いは「殺害されてしまっている。それも多数の人間が一度に…」という危惧も在る。

行方不明者相互の関係性は低い。ひっそりと行方を眩ませてしまって、何処かで自殺でもしてしまいそうな人物が居ないでもないが、夢中になっていた歌手のコンサートに行く段取りをしていた痕跡が在る等、「ひっそり自殺をするような訳がない」と思われる人物も在った。

相互の関係性は低いと見受けられた行方不明者達だが、各々を調べると、共通する名前に出くわした。それが、1985年に事故に遭っている、会社経営者の妻だった…更に、その女性とも過去に関わりが在ったと視られる、現在は極右的政党の指導者となっている医師の存在も浮かび上がった…

カール・マーク警部捕は、1987年のまとまった行方不明者が発生した日に何が起こっていたのか、過去の「恐ろしい事実」に関連した事件の真相を探り当てて行くことになる…

物語は、事件発生時とそこに至るまでのこと、事件に向き合うカール・マーク警部捕達や彼が追う関係者が動き回る現代とを往来しながら進んで行く…今作では「事件発生時とそこに至るまでのこと」の部分が大きく、また重いかもしれない…

こうした“幹”の展開の他方で、カール・マーク警部捕自身の未解決事件に関する展開や、別居中の妻との関係に纏わることや、事件時の重傷で身体が動かせなくなり、病院に倦んでカール・マーク警部捕宅に住むことになった元同僚の僅かな快復兆候が視られる等、“枝”の展開も目が離せない。加えて…ローセのエキセントリックさの起源に迫る話題が出たり、問題の医師に関する調査で奮戦するアサドが危機に陥るという展開も在る…

本作で取上げられる過去の「恐ろしい事実」…“実話”に基づくのだという。人間の尊厳を余りにも蔑ろにする冷酷な振る舞いだが、遺憾ながら、そんなことが容認されてしまっていた時代が在った…そういう振る舞いに及んだ側…それに巻き込まれて行って、途轍もない不幸を負わされてしまった側…途轍もない不幸を負わされた地点から、真摯に救いの手を差し伸べる人の支援で前進し、幸運を掴み取ってさえも、負わされてしまった不幸から脱け出せない…そして“事件”…このシリーズの各作品で、最も「重い」感じだ…

未だシリーズは続いている様子だ…新しい作品も是非読みたい!!

『特捜部Q―Pからのメッセージ』

愉しいシリーズ物に登場する劇中人物達は、「シリーズの新しい本を読む都度」という間隔で出会う、「少し間隔が開いた状態で会う親しい友人」のようなものだと思う。劇中人物達が活躍する物語は、「久々に会った友人から聞かされる近況、或いは一寸興味深かった出来事、変わった場所を訪ねた愉しい土産話」というような感かもしれない…

↓コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補が帰って来た!!

ユッシ・エーズラ・オールスン/特捜部q -pからのメッセージ- 上 ハヤカワ・ミステリ文庫


ユッシ・エーズラ・オールスン/特捜部q -pからのメッセージ- 下 ハヤカワ・ミステリ文庫
↑文庫での3作目である。第1作、第2作は1冊で完結という型だったが、本作は上下2冊…しかし、頁を繰ると停まらなくなってしまい、直ぐに読了してしまった…

コペンハーゲン警察のカール・マーク警部補は、未解決事件の調査を担当する新設部署、<特捜部Q>の担当者ということになった。正規の捜査官はカール・マーク警部補のみで、2人の事務職員が助手を務めるという部署である。警察本部の地下をオフィスにして活動中だ。最初は、シリアからの移民ということ以外に情報が殆どない風変わりな男であるアサドが、序で「エキセントリックな言動」と評される女性であるローセが<特捜部Q>に配属された。

第1作では、行方不明になっていた女性国会議員が、実は怨恨を抱く男に永く拉致監禁されていたという事件が扱われる…第2作は、寄宿学校に在籍していた、現在では社会的地位も築いている人達が、学校時代から繰り返していた犯罪を暴く一件が扱われた…その後も<特捜部Q>は活動を継続中で、この第3作の時期に入っている…

スコットランドの小さな港町で、漁師が網に引っ掛かった硝子の小瓶を警察官に届けた。中に手紙か何かのようなモノが入っていた。警察官は署の部屋で窓辺に小瓶を置いて在ったが、警察官が逝去してしまったことから、誰にも顧みられずに数年が経った。或る時、警察署に出入りしているIT技術者がこの小瓶を目に留める。そして硝子を砕いて中身を取り出してみると「血で書かれた?」と見受けられる手紙が現れた…

手紙を鑑識した結果、デンマーク語で「助けて」と書かれてあるらしいことが判明し、硝子の小瓶の破片と中の手紙などはコペンハーゲン警察に送られ、<特捜部Q>に廻って来た…

カール・マーク警部補は、最近発生している事件との関連が考えられ、身元が不明朗な死者が発生している未解決の放火事件に関心を寄せていたが、アサドやローセはこの謎の手紙に強い関心を示す。殊にローセはかなり夢中になる…

やがて「一切、明るみに出ていない営利目的誘拐が在ったのでは?」という推論が生まれ、推論が行き着いた先に「恐ろしい程に狡猾な犯人による犯行」が浮かび上がる…そして謎の手紙が関係する古い事件に留まらず、犯行は現時点に至るまで繰り返されていることに<特捜部Q>は思い当たる…

非常に狡猾な犯人による悪辣な犯行…その謎を手探りを重ねながら探る<特捜部Q>…犯人と対峙することになる被害者達の動き…多面的に展開しながら、カール・マーク警部補と犯人との対決に物語は収斂して行く…

悪辣な犯行は陰惨ではあるのだが、カール・マーク警部補の日常や、彼自身が抱える過去の事件による“傷”の件や、個性的なアサドやローセの言動等も描き込まれ、明るく読むことが出来る。

デンマークで“ボトルメール”を海に落とせば、年月を経てスコットランド辺りでそれが拾われることも在り得るであろう…が、そこから恐るべき事件が明らかになるというのは「如何にも小説」かもしれない…それでも本作は、そうした“事件”を説得力の在るものに、巧みに仕上げている。捜査員が活躍する様々なタイプの物語の好さ、面白さを絶妙にカクテルにした感で、素晴らしい作品だ。

カール・マーク警部補は次々に未解決事件の謎を暴いているのだが…実はシリーズを通して、彼が関った、彼の“傷”の原因となっている事件は依然として未解決である…更に、アシスタントのアサドの“正体不明”の度合いも本作で深まった感である…

現在、デンマークでは第5作までが刊行されているという<特捜部Q>シリーズ…次回作以降でカール・マーク警部補に再開するのが愉しみである!!

『特捜部Q―キジ殺し』

↓近所の書店で、表紙の“Q”の文字を視て、「コペンハーゲンのカール・マーク警部補が還って来た!?」と思わず手に取った…

ユッシ・エーズラ・オールソン/特捜部q -キジ殺し-
↑“特捜部Q”のシリーズであることを確かめると、そのままレジへ直行…入手直後から頁を繰り始め、愉しく読了した…

前作では行方不明になっていた女性政治家が、行方不明直後から7年近くも監禁されていたことを探り出して救出に成功した訳だが、それから数ヶ月後の話しである…

半ば追い出されるように、“未解決事件担当”ということになったカール・マーク警部補は、シリアからの移民であるアサドをアシスタントに活動していたが、別荘で少年と少女が惨殺されていた一件の資料に出くわす。

一件は容疑者が自首して、有罪判決が下り、そのまま容疑者は服役していて“未解決事件”という扱いではない。腑に落ちないので関心を持ち始め、色々と調査を始めると、何か「明らかになっていない事」が色々と在りそうである…

そんな頃、“未解決事件担当”に“増員”が在った。若い女性の警察職員、ローセ・クヌスンが配属された。カール・マーク警部補はアサドやローセと共に、別荘の少年と少女の一件を調査し始めるが、何やら上層部から“横槍”が入り始めた…

そうした状況に益々「きな臭いモノ」を感じるカール・マーク警部補は、別荘の一件が多くの“未解決事件”と関連が深い案件であることに思い至るようになっていく…

カール・マーク警部補が対峙することになるのは「酷い連中だな…」という感じの人物達だ…少し陰惨な感じもするのだが、決して暗い訳でもない…隠蔽されてしまっている真実を必死に追うカール・マーク警部補の姿が好い!!

『特捜部Q 檻の中の女』

↓“ユッシ・エーズラ・オールスン”…「本の著者を示す場所に在るので人名であることは間違い無さそうだが…何処の国の名前だ?!」というのが、書店で本書を視掛けた時、最初に思ったことである…そして「檻の中の女」という題を視て「どういう系統の小説なのか?或いはエッセイか、評論なのか?」と首を捻った…

特捜部Q 檻の中の女
↑「何だろう?」という思いと共に出逢った作品だったが、これがなかなか愉しい小説で、読み始めると止まらなくなり、あっという間に読了してしまった。

本作はミステリー小説である。作者のユッシ・エーズラ・オールスンは1950年コペンハーゲン生まれの作家だ。これはデンマークのミステリーの翻訳である。

コペンハーゲン警察本部のカール・マーク警部補は2人の部下と共に「遺体発見」の現場を調査に出掛けたが、その現場で正体不明の人物に銃撃を受けてしまった。カール・マーク自身は、銃弾を受けて倒れ込んだ大柄な部下の下敷きになっていた関係で負傷はしなかったが、倒れ込んだ部下は重傷で深刻な後遺症が残り、もう1人は死亡してしまった。そういう気持ちが荒む状況下、彼は職場復帰するが、他の同僚達の間で浮き上がってしまっている…

そんな或る日、“新部署”を設立する話しが持ち上がり、カール・マークは上司や同僚から“厄介払い”されてしまうかのように、その部署の責任者ということに祭り上げられた…

新部署は「特捜部Q」と命名された。或る程度関心が高いものの、未解決に終始している重要事件に関する調査を行うのが「特捜部Q」の任務である。オフィスは警察本部ビルの地下に在った空きスペースが充てられた。仕事は「原則的に一人」という話しであったが、流石にそれでは困ると、アシスタントを要望し、更に「特捜部Q」専用公用車を確保した。

要望したアシスタントが現れた。シリアからデンマークに“政治亡命”で移民してきたという男、アサドだった…どういう経緯で警察本部の、カール・マークのアシスタントという仕事に就いたのか、よく判らない不思議な男で、一寸変わっている男でもあった…

「特捜部Q」が取組むことになった最初の事件…5年前に発生した女性国会議員の事件だった。フェリーで旅行に出た女性国会議員ミレーデ・ルンゴーだったが、フェリーが目的地に到着してみると、積み込んだ自分の車を残したまま姿を消していた。「フェリー航行中に海中へ転落?」と推測され、精力的な調査も行われていたが、一向に遺体は発見されない。複雑な潮流のバルト海のデンマーク近海では、事故死した遺体がなかなか発見されないという場合も在り得るというが、5年間全く発見されないというのは謎だ…無責任な噂話を含めて、色々なことが語り尽くされているものの、真相が全く判らないこの事件の謎を解き明かすことがカール・マークの仕事となった…

こうしてカール・マークは、アシスタントのアサドを従えて精力的に事情の調査を始める…女性国会議員ミレーデ・ルンゴーの身に何が起こったのか?姿を消した当時に関わりが在った人達、その関わりが在った人達の周辺、彼女自身の遠い過去を丹念に探り、真相へ繋がる“糸”を手繰り寄せる…

熱いものを秘め、執念深く手掛かりを追いながら、時に立ち止まって考える…そんな「刑事そのもの!!」なカール・マーク警部補だが、“勤め人”なりの色々な事情が在ったり、銃撃事件で深刻な後遺症を抱えてしまっている“良き友”でもある元部下との関係、「別居中の妻」に「同居中の妻の連れ子」等との関係やら、銃撃事件に巻き込まれた故の“心的外傷”関連で会うことになる女性心理士に好意を抱くことやら、随分と人間的に描かれていて面白い。また、彼を助ける「謎の男」アサドも、個性的な活躍を見せて愉しい。

本作は「カール・マークの時間」と「ミレーデ・ルンゴーの時間」とが概ね交互に綴られている。“2007年”と在ってカール・マークの動きが綴られ、やがて“2002年”となってミレーデ・ルンゴーの動きが出て来るという具合だ…当初は「何?」とも思ったのだが、途中から「これは!?」と「綴り方の意図」が見えてくる…

或いは本作は、有名なドラマの『コールドケース』を思い起こさせるのだが、あのドラマはチームで難問を解く…本作はベテラン刑事がほぼ単独で調査を進める…その辺に違いが在る…そういうような、やや個性的な設定になっているのだが、内容は“刑事モノ”、“事件モノ”の「正統派!!」だと思う…

本作は、デンマークでなかなか評判の“シリーズ”の第1作らしい…他の作品も是非読んでみたい!!