『ゴールドスティン』

気に入っているシリーズ物の新作登場…何か「御無沙汰していた友人の近況に触れる…」というような感覚で、非常に愉しくなる…

↓ベルリン警察のゲレオン・ラート警部が帰って来た!!

ゴールドスティン(上) [ フォルカー・クッチャー ]

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ゴールドスティン(下) [ フォルカー・クッチャー ]

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↑大戦間期のベルリンを舞台に、清濁併せ呑むようなラート警部が挑むことになったのは、なかなか正体が判らなかった「最凶の敵」とでも呼べる存在だった…頁を繰る手が停まらなくなった…

有名な百貨店で、路上生活を送る少年少女の2人組が、閉店前から忍び込んでいて、閉店後に高級品を盗み出して後から売るという犯罪に手を染めていた。盗みをやり遂げようとしていた辺りで、どうしたものか警官達が踏み込んだ。少女の側は何とか百貨店のビルを脱け出したが…少年は高い階でフェンスから落ちそうになっていたところで、追い駆けてきた警官に指を踏まれてしまい、転落して死亡してしまった…警官は故意に少年の指を踏み付けた…殺してしまったことになる…

そんな事も在った頃…ラート警部は副警視総監に呼び出された。何事かと思えば、ベルリンにやって来た米国人で、ニューヨーク地区のギャングの構成員と見受けられる男を監視するという任務を与えられた。殺人事件捜査の担当者の役目ではないと抵抗もするが、副警視総監は有無を言わせない。密かに監視するのではなく、あからさまに監視して、妙な行動を取らせないようにということになった…

ラート警部が監視することになった人物…米国のユダヤ系のギャングで、殺し屋のエイブラハム・ゴールドスティンという人物だった…嘗て『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』という映画が在った。ニューヨーク辺りで、ユダヤ系の少年達が長じてギャングになって行くというような物語だったが、ゴールドスティンは正しくその映画の世界の、ユダヤ系の出自を持つニューヨーク辺りのギャングの“殺し屋”と目される人物なのだ…

ラート警部はゴールドスティンが滞在するホテルに貼り付いて監視任務に勤しむことになる。他方、ラート警部は、馴染みが在る「組織犯罪の黒幕」と言われる“ドクトル・マブゼ”ことヨハン・マルロウからの依頼で、彼の組織の幹部が姿を消してしまった案件を密かに調べていた…そうしていた間に、街では次々に事件が起こり、やがてゴールドスティンに関連すると見受けられる事件も発生する。

一見すると「各々の事件」にも思える出来事が、次第に相互に絡み合ってくる…「1931年のベルリン」という背景の中ならではの事象も描写され、事件は進展する。そうした中でゴールドスティンがベルリンに現れた真意も明らかになる。

主人公のラート警部が監視することになるゴールドスティン…本作の“サブ主人公”という感なのだが、これがなかなかに好い…ニューヨーク地区のギャングの非情な“殺し屋”と目される人物でありながら、“侠客”的な振る舞いに及び、それが警察の捜査陣の注目を集める事態に至ってしまう…

表に裏にと随意に動き回るラート警部も冴えているが、今回は“半同棲”という按配な関係になった恋人チャーリー(シャルロッテ)との物語にも進展が在る。その関係の描写も好い!!チャーリーは法曹を志して裁判所で仕事をしているが、百貨店の盗難事件現場から抜け出した少女の一件で、事件に巻き込まれて行く…そして危機に陥り、ラート警部が奮戦する…

大きく動く時代背景と、その中で事件を追う刑事…非常に気に入っているシリーズなのだが、ドイツでは「テレビドラマ化」という話しが進んでいるのだそうだ…

『死者の声なき声』

愉しく読んだ経過の在る作品が“シリーズ”で、その“シリーズ”の作品が登場したとなると、思わず強い興味を抱く…

↓往年のベルリンを舞台にした、ゲレオン・ラート警部が活躍するシリーズの第二作が登場した!!



死者の声なき声(上)(創元推理文庫)





死者の声なき声(下)(創元推理文庫)

↑「そうか…ラート警部が還って来たか…」と出版情報に触れて気に掛けていたが、過日旭川へ出掛けた折りに書店で入手してあった…“島流し”の後に愉しく読了したところである…

“事情”でケルンの警察に居辛くなってしまい、ベルリンの警察に移って仕事をしているラート警部…前作は1929年の出来事だったが、今作では時間が経過して1930年の2月末から3月ということになっている…

ラート警部は折り合いの好くない上司や、同格の警部級の同僚を適当に避けながら、仕事をこなしていた。ベルリンで仕事を始めた1929年以来、独自の“付き合い”等も出来て、公私に亘って色々なことも在った…

或る時、個人的に「失踪したらしい女優に関して調べて欲しい」とか、「工場移転に絡めてケルン市長を恐喝している者を探って欲しい」等という頼み事を請けた、或いは請けざるを得なくなっていたラート警部は、「事故処理?」と聞いて映画撮影所に出掛けた。

撮影所では、大きく重い照明器具が落下し、下に居た女優が熱で焼けてしまって、居合わせた俳優が火を消そうとして水を掛けたことから感電して死亡という凄まじい状態になっていた…

女優の死は事故か、故殺か?女優の死を巡って捜査活動を始め、同時に頼まれた事を何とかしようとするラート警部であったが、そこに続々と事件が舞い込む…

ラート警部は、多少“訳あり”風で、少し孤独で、何か「大都会の漂泊者」という風情を漂わせながら、「はみ出し刑事」的な活躍を見せる劇中人物で、大変気に入っている。或いは「違う時代の大都市」に居てもおかしくないような劇中人物だが、この人には“往年のベルリン”が似合う…

このラート警部が、「1930年のベルリン」という世界で活躍する本作は、何かある種の“SF”や“ファンタジー”でも読んでいる気分になる。他方、本作は「1930年のベルリン」という世界を“時代モノ”的に、なかなかに精緻に描き出している…これも本作の面白さだ。

「1930年のベルリン」という世界…モータリゼーションが進んでいて―本作にも自動車工場を巡る話題が出て来て、ラート警部は“訳あり”ながら自家用車を入手して使っていたりする…―、第一次大戦の荒廃から立ち直りかけていて様々な文化が花開いている。この時代は、かのマレーネ・ディートリッヒが登場する時代だが、ベルリンは“映画の都”という側面も持つようになっていて、現在では余りにも当たり前な“トーキー”が導入されていた時期に相当する。本作はそうした“時代背景”を利用するかのように、「映画関係者の事件」を舞台にしている…

ラート警部を始め、面白い劇中人物達が織り成す“事件モノ”の本作だが…本作では「大活躍」をする、ラート警部のガールフレンド、チャーリー(シャルロッテ)がなかなかに好い…

↓昨年9月に愉しんだ第一作はこちら…
>>『濡れた魚』

本作は「大都会の漂泊者」という風情を漂わせる「はみ出し刑事」が活躍する“事件モノ”であると同時に、「1930年のベルリン」で展開するある種の“時代モノ”でもある…なかなかに愉しい!!作中にもナチスと共産党の諍いというような話題が出て来るのだが、この後、ドイツはナチスが政権党になって行って、色々と動く訳だが、そうした背景の中でラート警部がどうなって行くのか、或いはどうして行くのか、シリーズ続編の登場が楽しみだ!!

『濡れた魚』

「ドイツの人気シリーズ」と聞いて興味を覚えた作品である…

↓読み始めるとかなり夢中になり、何時の間にか読了してしまっていた…

濡れた魚 上


濡れた魚 下

物語の舞台は1929年春のベルリンである…「共産主義者が決起?!」という噂が飛び交う不穏な情勢だった…

ゲレオン・ラート警部は、ベルリン警視庁の風紀課に勤めている。ケルンの警察に勤務していたのだが、“事情”―作中で明かされる…―が在ってベルリンに移ってきていた。ポストが空いていた風紀課に彼は配属され、違法ポルノの摘発作戦等に従事していた…

或る夜、彼のアパートに妙な男が訪ねて来る。男は、ラート警部が住み始める直前まで住んでいた者を訪ねてきたらしい。ボリスと名乗る男はロシア人と見受けられた。

やがて、「血のメーデー」と呼ばれることになる騒乱が発生し、総動員された警察関係者の一人として不穏な街を走り回っていたラート警部は、銃撃の巻き添えで斃れた市民を死体安置所に届けた。

運んだ遺体は「銃撃を受けて死亡」と見受けられるため、解剖をしなければならず、ラート警部は安置所に詰めていた検視医に相談しようとした。そこには、少し先に着いた遺体が在り、検視医はそれの解剖に取り掛かろうとしているところであったが、ラート警部は遺体を視て驚いた。アパートに現れた、ロシア人と見受けられた男が遺体になっていたのだ…

ラート警部が視掛けた遺体の一件は殺人課で捜査をしていたが、“身元不明”という状況のままらしかった。ラート警部は、警察の花形部署である殺人課での勤務を希望していたことから、独自にこの案件を調査してみることとした…

ラート警部は「ボリスというロシア人」という手掛かりから調査を始めるのだが、事件は意外な拡がりを見せ始め、深い闇に突き当たる…

ということで、ゲレオン・ラート警部を中心に、一部に実在の人物も混ざっているという多彩な劇中人物達が「1929年のベルリン」を舞台に、アクション在り、謀略在り、推理在りの物語を織り成す…何か多くの人物が「表向きは…しかし実は…」というような二面性を見せていて、なかなかに面白い…

本作の題名になっている「濡れた魚」という言葉だが、これは当時の警察関係者が用いていたという符丁で、「未解決事件」という意味だ。作中でも、劇中人物達が何度か口にする。正しく「“未解決”に終始するとも思われた一件の意外な進展」というのが、本作の物語である。

本作全般が醸し出す「1929年のベルリン」という雰囲気がなかなかに嵌る…そして興味深い…

やや驚いたのが、当時の殺人課は、鑑識の機材や通信装置を積んだ専用の車を持っていて、捜査班は事件が在るとそれで出動し、意外な程に「最近の警察」と同じような捜査をしていることであった…こういう部門も在った他方、「事件現場の保存」というようなことに無頓着な関係者も未だ居るという描写も在る…

作中でラート警部は街に出て、正体不明のロシア人の正体を明かそうと動き回るのだが、街の描写が非常に興味深かった…実在の、或いは実在した場所が多々出ているという…

正しく「時間と空間を超えたエンターテイメント」という趣の本作だが、“シリーズ”になっていて“1930年代”の物語が展開しているのだそうだ。是非、続編も読んでみたい!!