『悪逆』

↓何気なく紐解き始めると、「続き」が凄く気になってしまう。そして頁を繰る手が停められなくなる。とりあえず579頁まで在る分厚い本だが、そんなことは気にならない。

悪逆



↑初出は週刊誌連載であるというが、1年半以上にも及ぶ長期連載だったようだ。それに手を入れた単行本ということになる。本当に「停められない」という感じになり、紐解き始めた日の翌日早朝迄に読了に至ってしまった。

本作の作者である黒川博行の作品は何作も読んでいる。「関西の都市を主要な舞台に展開する事件モノ」というような内容が多い。本作も一口で言えばそういう内容ということになる。発生する凶悪事件を巡って、犯行に及ぶ側と、被疑者の確保に向けて活動する警察の捜査陣との攻防というような内容になる。

本作冒頭は、大阪府箕面市の高級住宅街の邸宅で、謎の人物が邸宅に住む男を襲撃するという場面が、その襲撃する人物の目線で描かれる。邸宅で働く“お手伝い”の女性が住人の遺体を発見し、警察が事件を認知して捜査に着手する。現場に臨んで捜査に着手する府警捜査一課の捜査員、館野が主要視点人物として登場する。30歳代の館野は、邸宅の在る地域を管轄する箕面北署の暴犯係である50歳代の玉川とコンビを組んで事件の捜査に参画する。

以降、犯行に及んだ側の人物の目線で描かれる部分、捜査に臨む館野達の目線で描かれる部分が概ね交互に出て来る。好からぬ話しが在る、不正に蓄財しているような人物が次々に襲撃され、「強盗殺人事件」が連発する状況下、捜査陣の地道な活動で被疑者が次第に浮かび上がる。被疑者は狡猾で、簡単に正体が判らないように、非常に慎重に行動している。同時に捜査の攪乱を意図した行動まで取る。

本作の、捜査陣側の主役的な位置の館野と玉川が好い感じだ。真面目な館野に対し、飄々としているがなかなか鋭いベテランの玉川というコンビのバランスが好いのだ。この作者に特有なテンポの良い掛け合いで事件の謎に挑む感じで、関係者への“込み”と呼んでいる事情の聴き取りという場面も独特な味わいだ。そして「冷酷なプロ」という様子の被疑者、犯行が重ねられる中で「完璧さ」が少しずつ綻びて行く。

帯に「ラスト5頁まで結論が読めない」と在るが、誇張ではない。被疑者と捜査陣との攻防は息詰まるモノで、読むことが停められなくなってしまう。未だ新しい本なので、これ以上踏み込んだ話題は避けておこうと思う。非常に面白いので、強く御薦めしたい。

『暗闇のセレナーデ』

↓既に長い活動歴を誇る黒川博行の「初期作品」と呼び得る小説だ。

暗闇のセレナーデ (角川文庫)



↑1980年代の作品なのだが、「現在では当り前のツール―例えば携帯電話やパソコン等―が使われていない…そう言えば…」という感はするのだが、全然古くない。興味深い謎解きである。続きが気になってドンドン読み進めてしまう。

物語は京都に在る芸術大学から起こる。

彫刻学科に学ぶ冴子が恒例の展覧会に向けた制作に勤しんでいれば、日本画科に学んでいる仲が好い美和に声を掛けられた。美和の姉が料理を用意してくれることになっているから、一緒に訪ねようと誘われたのだ。

美和に伴われて冴子は出掛けた。京都市内から、阪急電車を乗り換えながら足掛け2時間程度も進み、西宮の甲陽園という場所に至った。高級な住宅地で、大きな邸宅ばかりが並んでいた。

美和の姉である雅子は、この甲陽園に邸宅を構える加川家に嫁いでいた。夫の加川昌は彫刻関係の団体である立彫会の副理事長であった。立彫会という団体は加川昌の父が中心になっていた経過も在る団体だった。

冴子は一度だけ雅子と顔を合わせた記憶が在ったが、彫刻の世界で名前が売れた人物に嫁いでいて、邸宅に住んでいたというようなことは知らなかった。或いは、立彫会は「話題づくり」を前面に押し出すような活動が目立ち、冴子達が学ぶ大学では必ずしも人気が無かったので、美和は敢えて話題にしなかったのかもしれない。

美和は雅子と「友達を1人連れて行くね!」という具合に約束をして、時間どおりに訪ねている訳だが、何故か呼び鈴を押しても反応が無い。

美和と冴子は邸内に踏み込んでみた。彫刻の制作等に利用するアトリエとなっている部屋の様子が不審なので入り込むと、ガスストーブのガスが漏れていて、雅子が意識を失った状態で倒れていた。2人は雅子を近くの別な部屋へ引き出し、救急車を呼んだ。

そうしていた間に不思議なことが起こった。アトリエの室内側から鍵が掛かってしまい、“密室”になってしまった。現場検証に現れた警察署の鑑識班は窓をこじ開けて中に入って調べていた。

雅子は一命を取り留めた。自殺未遂に擬せられた。とりあえず警察の捜査が入り、夫の加川昌との連絡を図る。が、東京の出先で「到着が遅れる」という電話を受けたという話しは在ったものの、行方がよく判らない。警察では「“自殺未遂”ではない事件?」という考えに傾き始める。

冴子は美和と共に事件に巻き込まれたような具合になった。深夜まで刑事達に事情を訊かれた。冴子としても状況に釈然としないが、美和は更に納得していない。美和を迎えるということになっていた雅子が、その当日に自殺を図るのは不自然で、何者かが危害を加えようとしたに違いないと考える。

こうして冴子は美和に引き込まれるように“素人探偵”というような事に関わって行く。他方で、警察も警部補の島崎を主任とする西宮北署の捜査一係が活動を始めた。

「加川昌」を巡って、“素人探偵”と警察署の捜査員達とが各々に奮戦し、揺れ動く事態の中から真相を掴み出すというのが本作の物語である。

黒川博行の作品と言えば、作中人物達の会話のやり取りが、作中の出来事の不明点を解き明かす、或いは次なる展開を導き出すというような「大事な役目」をさり気なく負いながら、それが軽妙で全体的な「好いテンポ」を創り出しているのが特徴だと思う。本作は、そういうずうっと続いている基調の中に「密室になってしまったのは何だ?」、「連絡が取れない男は何処で何を?」、「事態は誰が如何いう思惑で引き起こした?」という謎解きが幾重にも織り込まれている。

多少、余計かもしれない事に言及する。黒川博行は芸術大学を卒業して高校の美術担当の教員として勤めていた経過が在る。今作で“素人探偵”として事件に巻き込まれる女子大生が芸術大学に学んでいるという設定、著名な彫刻家の所で事件発生という感じは、作者の個人的な経験や見聞を大きく反映しているのかもしれない。

なかなかに楽しめた!この作者に関しては、新しい作品も凄く好いのだが、時々文庫で登場するやや旧い作品も面白い!

『桃源』

↓かの黒川博行の刑事コンビが活躍する物語の小説だ。書店で文庫本を視掛けて迷わず入手した。そして頁を繰る手が停まらなくなった。

桃源 (集英社文庫)



↑表紙イラストが沖縄の衣装の女性である。沖縄方面が作中の出来事の主要な舞台にもなっている。

大阪市大正区の警察署で、新垣遼太郎刑事と上坂勤刑事が、告訴状が提出されている一件の捜査を命じられる辺りから物語は起こる。

比嘉という男が、“模合”(もあい)という仲間の集まりの金を持ち逃げしてしまって行方が知れないので、同人を詐欺で告訴するということだった。所謂「オレ詐欺」の捜査に倦んでいた2人はこの事案に邁進することになる。

「遼さん」こと新垣刑事は沖縄県出身で、兄弟等は那覇に在る。大阪の大学に進学して、そのまま大阪府警に職を得たのだった。なかなかの2枚目で女性にモテる。

「勤ちゃん」(きんちゃん)こと上坂刑事は新垣刑事より少し若い小太りな男で痛風持ちだ。些か訳アリで本部から所轄署に異動した経過も在る。無類の映画好きで食いしん坊で、酷く饒舌である。

比嘉という男が営む解体工事を主な業務とする工務店を振り出しに、幾つかの関係先や人間関係を調べる中、沖縄へ飛んだようだと判明する。比嘉の足跡を追って、新垣刑事と上坂刑事は沖縄へ飛ぶ。

比嘉や同行しているらしい人物の影が視えれば、それに手が届かないという感で追い続ける中、思いも掛けない大掛かりな話しに辿り着き、それを巡って事態が展開して行く。

これ以上は、詳しく言及するのは止めておく。思いも掛けない大掛かりな話しの謎を解く新垣刑事と上坂刑事の活躍というのが本作の醍醐味だ。

本作は新垣刑事が主要視点人物というように綴られている。酷く饒舌な上坂刑事との軽妙なやり取りに乗って事態がドンドン動く。そして大阪や沖縄県の様子が酷くリアルで後ろからこっそりと同行でもしているような気分で、作中世界に何か引き込まれる。

これは凄く愉しい作品で、広く御薦めしたい。また“シリーズ”のようになって、新垣刑事と上坂刑事のコンビが還って来るというようなことにも期待したい感だ…

『泥濘』

気に入ったシリーズの新しい作品の本が登場すると、「遠方の古い友人達の消息…?」という感じで、とりあえず紐解いてみたくなるというものだ。

↓そんな気に入ったシリーズの新しい本が登場した。

泥濘 (文春文庫 く 9-14)



↑発売日の前に発注し、発売となった頃に手元に届いた。そして紐解き始めて夢中になった。

あの「二宮」と「桑原」のコンビが還って来た!

二宮は大阪の通称“アメリカ村”の辺りに小さな事務所を構えて「建設コンサルタント」と称して“仕事”をしている。“仕事”というのは「前捌き」が転じて“サバキ”と呼ばれるモノで、建設現場に絡まるヤクザ等に纏わる調整を図るべく、何処かの組に話を通すようなことだ。近年は、その種の仕事も先細りであるが。

その二宮が「疫病神」と呼ぶ「イケイケ極道」が桑原である。桑原はシノギの手伝いをさせようと二宮の所に現れ、二宮は様々な事件に巻き込まれる。2人が動き回る事件を通じて、何時も幾分の金は得ている。そして桑原から幾分の分け前は貰っているが、割に合うものでもないかもしれない。

そういうことで、この二宮と桑原のコンビが絡まる様々な事件が描かれているのが<疫病神シリーズ>と通称される一連の作品である。本作は7作目になるという。

本作は二宮の事務所に桑原が現れる場面から起こる。(このシリーズは殆どがそういう感じだが…)

桑原は、歯科医師達が保険診療の治療費を不正に請求して受け取った一件の背後に、警察OBや他所の組のやくざが関係していると観ていて、彼らが不正に貯め込んだ金を奪うというシノギを思い立った。

新聞報道を次々と出して事案を説く桑原の話しを聞いていた二宮だったが、桑原はその他所の組の幹部と二宮とが面識を有している筈であると言い出し、二宮が知る幹部の上に居る若頭に会う段取りを付けたいとした。そして「手間賃を5万円」につい惹かれて、二宮は面識が在る男に電話連絡をした。

二宮は電話をするだけという意図だったが、桑原に同行を求められ、他所の組の事務所に一緒に行くこととなる。実は、その組と桑原との間では、数年前に“債権整理”という話しになった時に利害の衝突が発生して、双方の組長同士の話し合いで事を収めたという因縁が在った。

そういう因縁が在る場所に桑原が乗り込み、二宮は同行を余儀なくされたのだったが、その場で喧嘩沙汰となってしまい、二宮は見事に巻き込まれてしまった…

乗込んだ組というのは、何やら「妙に?」という程度に金回りが良かった。そういう状況の背後に何が在るのか?桑原の企みに巻き込まれた二宮だったが、二人は金を掴むことが叶うのであろうか?

次々に危難に襲われながらも、敵陣営のカラクリが次々に明かされる様子が痛快だ…未だ新しい文庫本なので、余り仔細は綴らない方が好いであろう。

何度か訪ねている大阪の、聞き覚えが在る地名の方々で物語が展開していて、様子が思い浮かぶようでなかなか愉しく読んだ。

『アニーの冷たい朝』

↓大変に愉しく読了した!

アニーの冷たい朝 (角川文庫)



↑大阪を舞台にした“事件モノ”なのだが、本作は「非常によく出来た“映画”のノベライズ」という感じで、画や音が思い浮かぶような、複数の視点人物で次々と綴られるパートがテンポよく展開している…

冒頭、禍々しい凶行に及ぶ者の目線で犯行を実行する様子が描かれ、場面が転じてみるとその凶行の結果である猟奇的事件が明らかになっている。そして府警の刑事達が捜査に着手である。

捜査員達の動きの傍らに、新製品のモニターというようなことで近付いたセールスの男と懇意になったという高校教師の女性が出て来る。物語は、凶行に及ぶ者のパート、捜査員達のパート、女性高校教師のパートと、複雑に折り重なって、同時にテンポよく展開する。

やがてこうした各パートが折り重なり、禍々しい凶行の真相が明らかになって行くのだ…

本作は1993年頃に登場しているモノで、今般改めて文庫本化されたということだ。近年の作品であればスマホを使いそうな場面で使っていないので「少し前の作品?」と気付かないでもないのだが、それは些事というもので、ワンテンポ遅れて思い至った。夢中にさせてしまうモノが在る…非常に面白かった!

全般に酷く「映画的…」と感じた。御薦め!逆に、本作を原案にする映画等が未だ無いのが不思議な気さえする…

『勁草』

「読んでみよう」という本を何冊も持っていて、或る本を読んでいる途中に、何となく他の本の頁を繰ってしまうことが在る。そうなった時、その「他の本」の方の頁を繰る手が停まらなくなってしまい、先に読んでいた本より先に読了に至ってしまうという「妙な横入り」は時々生じる。

↓その「妙な横入り」という状態が生じてしまった…本当に頁を繰る手が停まらなくなり、余りに気になるので夕刻に時間を設けて、夜まで掛かって一気に読了ということに…「せざるを得なかった」という程度に夢中になってしまった。

勁草 (徳間文庫)



↑「小説の中」だけにしておいて頂けると好いと思える内容でもあるのだが、「現実」を反映した筋立ての中に作中人物達が蠢いて展開する物語で、夢中になってしまった…

本作は犯罪に手を染めてしまっている側の人物達と、その犯罪を阻止して被疑者を逮捕しようと捜査に勤しむ側の人物達との「攻防」のようなことが軸で、どちらかと言えば犯罪に手を染めてしまっている側から綴られる分量がやや多い。

大阪が主要な舞台となっている物語の冒頭は、所謂“特殊詐欺”で被害者が銀行で口座から金を引き出し、それを持って犯行グループとのやり取りで「受け子」と呼ばれる犯行グループ関係者に金を渡すようにしようとしているという場面から起こる…

この犯行グループの側で主要視点人物に据えられているのは橋岡という男である。高城という人物に使われている33歳の男だ。「掛け子」と呼ばれる、橋岡が直接には知らない者達が電話連絡で騙した被害者が金を持って出て来る時、「受け子」を手配して差し向けて誘導するということをしている訳だ。

この犯行グループ側に対して、警察側で主要視点人物に据えられているのは佐竹刑事だ。府警の特殊詐欺捜査班に在り、何時も本人より少し若い湯川刑事と行動している。

冒頭の場面で、橋岡は「刑事らしき者達に警戒されている?」と疑念を抱き、金を奪取することを断念してしまった。実際、佐竹刑事達の班が被害者周辺を見張っていた。被害は防いだが、直ちに犯行グループ関係者を逮捕するには至らなかった。が、怪しい人物の写真撮影をしたことで、地道な捜査は動きを加速するのである。

犯行が巧く運ばなかった橋岡だが、高城から日常の業務に出るように言われる。高城は詐欺グループ等に、騙すネタが在りそうな人達の情報を売る「名簿屋」を本業にしている。加えて、生活保護受給者を囲い込むようなことにも手を染めているが。その「名簿屋」の情報収集のために訪問営業を装って住宅地を巡るのも橋岡の役目だった。この橋岡と同行するのは、同じく高城の下に在る矢坂という20代の若い男である。

橋岡は矢坂を伴って出掛けて役目を果たす訳だが、この後の矢坂との行動が思いも掛けぬ事態になって行く…そしてその始末に追われるのだが…

全貌が簡単には掴めないように、過ぎる程までに巧妙に組織された犯行グループの様子や、被害者を必死に護りながら犯行グループを追い、僅かな手掛かりを執念深く掘り起こす捜査陣の様子が、あの「黒川博行の筆致」で活写されている。一部に立寄ったこと、通り過ぎたことも在る「雰囲気が判る地域」の描写が在って、そんな中で作者が「上方落語の感じを意識」としている、大阪辺りの話し口調でやり取りをする作中人物達が各々の思惑で蠢く。

「勁草」という題名に採られた語の意味は、「風雪に耐え続ける」というようなことであるらしい。本作の“主人公”は犯行グループ側の橋岡であろうが、橋岡は矢坂との行動が好くない方向に転がり続けて色々とややこしくなり、その始末に奔走する他方、本人の知らない所で捜査陣の手が伸びようとしている中、何とか逃げ延びて生き残ろうと「奮戦」する訳である。そういう様が「勁草」ということか?

この顛末…是非とも紐解いて頂きたい!かなり夢中になってしまう…

『海の稜線』

↓「あの黒川博行の作品?!」と書店で視掛けて入手した…警察の捜査員達が活躍する“事件モノ”である…

海の稜線 (創元推理文庫) [ 黒川博行 ]



↑紐解き始めると…本当に、頁を繰る手が停まらなくなった…大変に愉しく読了した!!

仲間内でブンと呼ばれる文田刑事は、先輩の総長と呼ばれる巡査部長の総田刑事と共に赤灯を点けた警察の車輛で名神高速を急いでいる場面から物語が起こる。

ブンと総長とは大阪府警の捜査1課で同じ深町班に勤務している。名神高速は事故に起因する渋滞が発生していたが、彼らは事故の始末に向かっているのではない。事故は走行中の乗用車が爆発するという尋常ではない状況で、男女と見受けられる死者が発生しており、その件の捜査を始めようと現場に向かっていたのだ。

爆発してしまった乗用車から発見の2人の遺体は、男女であるとは見受けられるものの、車内に予備燃料タンクのようなモノに入ったガソリンが積まれていたために華々しく燃えてしまい、顔や指紋のようなモノは全く判らない黒焦げな状態だった。

大破してしまった車に関することや、辛うじて見付けた遺留品という限られた手掛かりで捜査が始まる。

深町班の面々を見渡すと、少し変わった存在の男が在った。警察庁に入って日が浅いキャリアで、警部補として初任研修ということで大阪府警捜査一課に在り、深町班に勤務する萩原だった。29歳のブンよりも若い23歳で階級が上の萩原は東京の生まれ育ちで、何でも東京の流儀というような感で、ブンとは何時も言い争いのようになっていた。そして総長は「程々にしておけ…頭痛い…」という状況だった…

大破してしまった車の持主やその周辺を探り、関係が在りそうな人物達に行き当ったかに見えたのだが、その人物達に関して正体がよく判らないという状態で、捜査は難航していた。

そうしていれば、アパートの火災が発生し、現場から遺体が発見されたとの報が在り、ブンや総長や萩原の班も現場に向かう。既に死亡した状態で室内に遺体が放置されていて、時限発火装置で部屋に放火されたと見受けられる状況だった。死亡したのは、正体が判らなかった、探していた人物という可能性が認められる状況だった。

と、謎が謎を呼ぶという感で展開して行く…

正体が不明朗な人物達…何故、そのようなことになったのか?やがて最初の車の事件に関連が在る情報が見つかり、そこから事件が一気に滑り動き、更に事件が連続してしまう…

物語は主にブンこと文田刑事の視点で綴られる…「飯を食い損なった…」とブツブツ言う場面も多いのだが、地道に捜査活動に勤しむブン…得られた情報を整理して繋げようとし、対外的な押し出しも好い50代のベテラン刑事の総長…研修中のキャリアとして、特段に何かに励むという程のことが求められるのでもないらしい中、独自の推理で大胆に事件の謎を追う萩原…事件現場や関係者が動き回っている大阪を踏み越えて、近県や四国方面にまで捜査の手は拡がる…不思議な事件の裏に、複雑な不正が在って、犯罪の連鎖を起こしてしまっていたのだった…

ブンと萩原とのやり取りに関しては、東西の人の気質の違いや、文化のぶつかり合いというようなモノを取り込もうという意図で綴られたというようなことだが、私はそういうようにも思わなかった。これは出身や学歴や職務上の経験が様々な捜査員達が集まって活動しているという「群像ドラマ」として、何やら何時もつまらないことで言い争いをしている者達が見受けられ、居合わせる年長者が少しばかり呆れているという、多少笑える場合も在る場面として出て来るに過ぎないと思っていた。

この作者に独特な感も在る、作中人物達の軽妙なやり取りに乗って事態が疾走するというスタイル…1980年代後半、作者の「初期作品」ということだが、その頃からそういうスタイルだ…例えば、電車の駅のホームで煙草を蒸かすというような、イマドキは禁止になっている仕草の描写に“時代”は感じるのだが、相当な年月を経ても古臭くない…

非常に愉しい!!

『喧嘩(すてごろ)』

「シリーズ作品の新しいモノ」というのは、「一寸馴染んだ、遠くに居る人達の近況に触れる」というような感じで読むことが出来るモノで、新しい本が登場したことに気付くと酷く嬉しくなる場合が在る。

↓本作の主役コンビ…二宮と桑原…本当に「一寸馴染んだ、遠くに居る人達」という感じな作中人物達で、各作品で破天荒な動きを見せてくれるのだが…新作が目の前に在って、即座に求めてしまった…そして夢中になって素早く読了だ…

喧嘩 (角川文庫) [ 黒川 博行 ]



↑何冊も読んでいるシリーズの新しい文庫本だ!!

二宮は、大阪の西心斎橋に小さな事務所を構えるコンサルタントである。主な業務は“サバキ”と俗称される、建設工事関連での“極道”が絡む場合も在るような事案の調整である。二宮自身がその筋の人間ということではない。彼は業務に関連してその筋の関係者と話す場合も在るということである…

桑原は、二宮が仕事を介して知り合った“極道”である。猛然と事案に取り組んで、敵対する側をやり込めて利益を得ようとする…二宮とは不思議な縁で、二宮が桑原に引き摺り回されるというのか、桑原が二宮に引き込まれて事案がややこしく転がるというのか、シリーズ各作品の事案で色々と在る…

今作では…二宮が事務所を構えるビルに、高校時代のクラスメートであった女性が現れるという出来事から物語が起こる…この女性も同じビルに事務所を借りたということで接点が出来るのだが、彼女は二宮を別なクラスメートに引き合わせる。高校時代に親しかった訳でもない男で、長原という男だった。

この長原は大阪府下の選挙区から選出されている代議士の地元事務所で秘書として勤めているということだった。出逢って暫く経ち、彼が二宮に相談を持ち掛けた。地元の府議会議員の補欠選挙に関連して、暴力団と摩擦が生じているので、こちらの条件で話しを収める仕事をして欲しいということなのだ…二宮は仕事を引き受けた。

二宮は方々のその筋の知人に協力を得て、何とか話しを纏めようとしたが、件の組は強力な広域暴力団の“直系”という有力組織が背後に在る「ややこしい存在」であるということで、協力してくれる知人が現れない。二宮は、やや苦い決断で桑原に相談した。

相談を受けた桑原は、その筋の世界での“不義理”ということで“破門”ということになった経過が在って、少し静かにしていた訳だが…二宮の前に現れてみれば「以前と変わらない…」という状況である。例によって「イケイケ」で、多少の摩擦をモノともせずに、ドンドン関係者に当たって“事案”の裏の事情、真相を明かして行く…

そしてどうなる?ということだが…新しい本なので、未読の方の楽しみを妨げないということで、これ以上の詳述は避ける…

本作は「“政治屋”の世界」というモノに二宮が出くわし、桑原を引き込んだことで、その世界の裏の裏の「悪い奴だらけ」の事案に深く踏み込み、色々と揉めながらも、何とか利益を掴み取ろうとする主役コンビが奮戦するという物語だ…シリーズ全般を通じて「悪い奴の上前をはねてしまおうと奮戦するワル」という感じなのだが、本作の主役コンビと敵対する側は「本当にロクでもない…」という按配だ…それ故に痛快で、ドンドン事態が動くので頁を繰る手が停まらなくなってしまうのだが…

本作で描かれる世界…“フィクション”に留まって欲しいと願うばかりだ…

『二度のお別れ』

↓「黒川博行の作品が新しい文庫!」と書店で視掛けて注目し、思わず入手してしまった…

二度のお別れ (角川文庫) [ 黒川 博行 ]



↑作家として登場した頃の作品であり、1983年頃に綴られたものであるということだが、既に「あの“黒川博行”」という雰囲気、スタイルが確立している。夢中で読了してしまった。

物語は、大阪で刑事達が事件を追うという、所謂“警察モノ”であるのだが、不可解な犯人の行動の謎を解いて行く面白さも在る。そういうストーリーを、人間味溢れる、関西弁を話す作中人物達が牽引するという、正しく「あの“黒川博行”」という作品だ。

大阪府警の黒田刑事は、寄る少し遅くに漸く帰宅して遅い夕食を摂ろうとしていたが、係長からの電話連絡が入り、事件現場へ向かうことになったという辺りから物語が起こる。

向かった現場は、大阪市北部の大手銀行の支店だった。日中、拳銃を手にした強盗が入り、発砲をしたという生々しさが夜に至っても残る感であった。

銃を手に銀行支店に現れた強盗は、発砲して威嚇し、行員に現金を要求した。その時、銀行に来合せていた近所の町工場の経営者が強盗に掴み掛って取り押さえようと試みたが、強盗はその男性を撃ってしまう。そして約400万円の現金を奪った強盗は、撃ってしまった男性を連れて外に出て、用意して在ったらしい車で逃走したというのだ。

「強盗が、撃たれて負傷しているという男性を人質に逃げ回っている」というとんでもない事態になってしまっている。強盗容疑者の確保に加えて、人質になっている男性の救出という課題も在る。

黒田刑事は、その風貌や体格から“マメダヌキ”と言われ、姓との掛詞で「マメちゃん」と仲間内で呼ばれている、少し若い亀田刑事と共に捜査陣に参画する…二人は、一部に「黒マメコンビ」と呼ばれている。

捜査陣が活動を始めると、犯人は人質の男性の家族に身代金を要求して来た。捜査陣と犯人との攻防が始まる。

「強盗が、撃たれて負傷しているという男性を人質に逃げ回っている」という“突発事態”に視えていた事件は、「周到に計画された身代金目的の誘拐」という“計画性が非常に高い犯罪”という様相を帯びて来る…

「黒マメコンビ」を含む捜査陣と、捜査陣を振り回しながら身代金奪取を企てる犯人との攻防の行方は?

というような物語で、かなり夢中になる。

描写の中に例えば「国鉄の大阪駅」というような、明らかに「執筆された時代の言い方」が在るが、全然古くは感じない。暫く読み進んで、「そう言えば、作中で誰も携帯電話を使っていない?」と不意に気付き、少し以前の作品と思い至るという具合でもある。

手軽な分量で非常に読み易い。他方「登場の当初から一定程度完成されていた“黒川博行ワールド”」が満喫出来る!!

『後妻業』

↓日頃は、書店で本を視る場合に余り作家の名前は気にしない方なのだが、“黒川博行”は一寸「別」である。「黒川博行作品が新たに文庫で…」というのが在るのに気付けば、それは「とりあえず“買い”!!」と思ってしまう…

後妻業 (文春文庫)



↑「黒川博行作品の新しい文庫はとりあえず“買い”!」と入手したが、例によって夢中になって読了してしまった…何か「捕えられてしまう…」ような“力”が在るサスペンス、或いは“ワル”が蠢くアクションという要素も濃い…

物語は、91歳の男性が散策中に体調を崩し、ベンチに腰を下ろしたまま昏睡してしまったという状況から起こされる。脳梗塞になってしまったのだ…

この91歳の男性の、69歳の内縁の妻が何やら知人と連絡を取っているという妙な場面で「?」と思うのだが…やがて91歳の男性は入院する…そしてその69歳の後妻と、男性の2人の娘との経緯が展開し、やがて男性が逝去する。

男性の逝去後、内縁の妻は“公正証書”を示し、男性の遺産の大半を手にしてしまう。2人の娘の建築士として活躍している次女は、高校の同級生で弁護士をしていた男を思い出し、相談してみる。同級生の弁護士が言うには、遺産相続で、遺言書によって不利益を被った法定相続人等が“遺留分”を申し立てることも出来る筈だということだった。

こうした経過から、弁護士事務所は「69歳の内縁の妻」を巡る案件に関して、興信所に調査を依頼する。依頼を受けた興信所で、この案件を担当することになった調査員(=探偵)は、大阪府警の暴力団担当の刑事であった経過が在る男、本多である…

本多は、情報漏洩の問題に絡んで依願退職を余儀なくされたのだったが、なかなかに優秀な刑事だった男で、「不穏な事件」の状況が気になって仕方なくなって行く。本多は「69歳の内縁の妻」を巡る案件を調べ始める中で「とんでもないもの」を感じ、「余りのめり込む必要も無いのでは…」と言われながらも、嘗ての刑事仲間の協力を仰ぎながらどんどん調査を進める。

そうして本多は、一部に“後妻業”と呼ばれる恐るべき犯罪、殊にこの「69歳の内縁の妻」を巡る案件の「とんでもない様相」を知ることになるのだ…

事件の謎解きがストーリーの大きな要素を占めている関係上、少し抽象的な紹介に止めたのだが…一定程度の資産が在る、妻に先立たれた男性に接近し、“後妻”のような立場に収まって、死後に財産を手にするという、一部に“後妻業”と呼ばれるようなことに手を染めている人達が在るという話しに依拠したサスペンスが本作である…

作中の事件の舞台になっているような地域…実は、最近の関西滞在で少し動き回ったような辺りで、何となく親しんだ地名―本の末尾に在る解説によれば、一部は黒川博行が実際に住んでいる辺りに被る様子だ…なるほど、リアリティーが在る!!―が入っているので、妙に“リアリティー”が在って嵌り込んでしまった経過も在るが…例によって、作中人物達の、読み易い範囲に整理されてリズミカルな「ローカルな言葉」の応酬が挟まれて展開する、作者の“ワールド”の中で「恐るべき犯罪」が展開し、それの真相に迫る本多のような男が居てという…頁を繰る手が停められなくなる状況なのだ!!

全く「愉しい小説は直ぐに読了…もっと読みたい!!」という位の調子な本作…或いは「古くから在ったかもしれない犯罪」なのかもしれないと見える他方、「高齢化社会の現在故に、もしかすると密かに頻発しているかもしれない犯罪」とも思えるような事態が描かれ、なかなかに興味深い。

『繚乱』

色々な作家の作品には、各々の作家の独自な雰囲気、「○○の世界」というようなモノが拡がっているのだと思うが…最近読んだ作品の中、黒川博行作品に関しては、そうした「黒川博行の世界」というようなモノの「色合いが濃い」感じがしている…

↓その「独特な世界」という色合いが濃い黒川博行作品の新しい文庫本である…

繚乱 [ 黒川博行 ]



↑本篇が590ページも在って、少し集めな文庫本なのだが…そんなにページ数が嵩んでいたことに、後から気付いた…夢中になって、素早く読了となってしまった一冊である…

実はこの『繚乱』は、過去の作品『悪果』の続篇というような型になる作品だ。と言っても、『悪果』の中での件が多く出て来るでもなく、『繚乱』を独立作品として愉しむことも可能だ。

物語…主人公は伊達と堀内のコンビである…

伊達は大阪府警で暴力団担当の刑事として勤めていたが、色々と在って警察を去る羽目になった。現在は不動産競売関係の会社の嘱託調査員という仕事をしている。競売に出て来る物件の落札を目指す中、物件に関連する様々な事情を調べる仕事である。

堀内も大阪府警で暴力団担当の刑事として勤めていた。伊達と堀内とは刑事時代はコンビを組んで活動していた。堀内も仔細が在って警察を去っていて、現在は東京で無職である。

堀内は伊達から久し振りに連絡を受けた。不動産の競売に関連する調査業務というようなことで、東京に出張するので会おうということになったのだ。東京で、2人は再会を喜ぶ。

伊達の業務に、時間が在る堀内は同行する。伊達が言う“調査”という中には、何らかの利益を得ようと、競売に出ている物件を占拠するようなことをしている、暴力団関連である場合も多いグループに関することを調べるという内容も含まれていた。

伊達は東京での仕事を片付けた。堀内は伊達の誘いを受け、一緒に朝まで呑んだ勢いのままに新幹線に乗車し、久し振りに大阪に出る。そして大阪で、また伊達と組んで調査員の仕事をしようということになったのだ。

伊達と堀内が請け負ったのは、パチンコ店“パルテノン”の一件だった。

「最近の流行るパチンコ店」の範疇である郊外型大規模店でもなく、駅前などの繁華街に在る小規模店でもなく、更に有力チェーン店でもない「やや中途半端な立地の、中型の店」ということになる“パルテノン”は、会社の内部事情も在って経営が苦戦していると言われ、負債が膨らんでおり、店舗と土地が競売に付される様相ということだった…

この“パルテノン”が抱える負債の実態、関わりが在る様々なグループの状況等、仔細を調査するのが伊達と堀内が請けた役目ということになるのだが…調べる程に“きな臭い”モノが続々と現れる…「“パルテノン”が競売?」という案件の「事の真相」は如何様なモノなのか?

こんな物語である…“警察手帳”を手放した元刑事の伊達と堀内…刑事時代の経験に裏打ちされた知識、人脈、勘、度胸、更に腕っぷしまでも駆使し、“きな臭い”案件に向き合うのである…

作品世界で動き回る劇中人物達の多くは、どちらかと言えば“悪役系”な人物達が目立つ。それも各々にクセの在る“悪役系”である。主人公のコンビにしても、真直ぐな「正義の味方」ということでもない。善く言えば「清濁併せ呑む」ということにもなろうが、刑事時代の彼らは“悪徳刑事”的な活動をしていて、故に仔細在って警察を去っている訳なのだ…そういう主人公達が、案件の中で蠢いている悪党連中に果敢に挑む型になって行く展開…とにかく愉しい!!

主人公のコンビは、積極果敢に関係者に当たり、一筋縄では行かぬ案件を丁寧に解して行く。その展開は、なかなかにテンポが好く、また「思わぬ事件」も発生しながら状況が二転三転して、本のページを繰る手が停められなくなってしまう…

極個人的なことを言えば…つい1ヶ月程度以前に訪ね、鉄道路線図を随分視ていた関係で、何となく地名や位置関係が判る大阪圏を主役コンビが動き回っているので、ぼんやりと情景が思い浮かび易く、それで殊更に面白かった面も在るかもしれないが…

何か「ワルVS悪党」というようなテンポの好い物語が、濃密な筆致で、「空気感」が浮き立つような、巧みな台詞のぶつかり合いで描かれる作品で、夢中になってしまった。“前作”の『悪果』を読んだ時、「或いは“シリーズ”ということにはなり悪い?」と思いながら読了した。今回も、似たような感じを抱いたが…或いは伊達と堀内は、また現れてくれるかもしれない…そこには、とりあえず期待してみたい…

>>『悪果』

『落英』

↓休日を利用して、一気呵成に読了してしまった作品…

黒川博行/落英 上 幻冬舎文庫


黒川博行/落英 下 幻冬舎文庫
↑意表を突くスピーディーな展開で、「次は?」と気になって、頁を繰る手が停まらなくなってしまう…愉しい作品だった!!

「落英繽紛」(らくえいひんぷん)という四字熟語が在るらしい。「花びらがはらはらと乱れ散る様」という意味だという。この中、“英”が花びらのことで、落英」は散る花びら、散った花びらを示す。“繽”は「多く盛んな様」で、“繽紛”は「(花の)乱れ散る様」ということになるようだ…

本作の「落英」は、「散ってしまった花びら」という程の意味であろうか?結局、本作を読了してみると、この意味が何となく判る…

本作の主人公は大阪府警の桐尾刑事。本部の薬物対策課に勤務している。何時も行動を共にする相棒は、警察に入ったのが動機であるという上坂刑事だ。

桐尾と上坂は、暴力団幹部の男が覚醒剤を売人達に流していて、一部は自身でも使用しているらしいという情報を得て、地道にその線を追い続けていた。夏の厳しい暑さが残るような時季に、懸命に張り込みによる情報収集を重ね、問題の暴力団幹部からモノを入れている売人と、売人の下で動く小売人等を特定する。

妙に人間臭い桐尾と上坂が、問題の暴力団幹部のモノを卸している別な暴力団幹部に至るまでの道筋を地道に解き明かし、愈々関係者の居る場所へ踏み込むことになった。暴力団幹部が日頃から利用し、覚醒剤を小分けする作業をしたいたと見受けられる貸しガレージに踏み込むと、そこには案の定、纏まった量の覚醒剤が在った。更に…上坂はシャッターの辺りに妙なモノが在るのを視付けた…

上坂が視付けてしまったのは、中国製のトカレフ拳銃である。何やら凄いことになったと思っていれば、上司が密かに桐尾達に情報をもたらした。その拳銃は、未解決のまま“時効”ということになってしまった、和歌山で発生した地方銀行幹部の射殺事件で使用された可能性が在るというのだ…

通常、暴力団幹部の事件を捜査して拳銃を押収したとなれば、拳銃を視付けた捜査員が表彰されて…という話しになるのだが、そういう具合にことは運ばなかった。和歌山の事件の他、神戸でも銀行幹部が射殺されてしまった経過が在り、関連も取り沙汰された他方、神戸の事件は「真犯人ではない?」と思われる容疑者が自ら出て来て逮捕され、獄中で死んでしまったという「曖昧な型」となってしまっていることから、桐尾と上坂は“特命捜査”に従事するように命じられる…

こうして桐尾と上坂は和歌山へ出向く。和歌山で出会うのは、事件当時の捜査本部で仕事をし、更に時効に至る前の“継続捜査”にも携わった経過も在る、もう直ぐ定年退職という老刑事、満井だった…

桐尾と上坂が出会った満井は、何か不思議な男であった。なかなかに仕事が出来るように見えて、それでいて「後ろ暗い何か」を秘めている様子で、経歴も業者との癒着やら女性問題やらで方々の署を転々としているように見えた。この満井の発案で、桐尾と上坂は和歌山の地方銀行幹部の一件、或いは神戸の一件等に関する真相を突き止めるべく蠢く…そして彼らはどうなるのか?

地道な捜査活動をしていた桐尾と上坂が、何やら「破天荒なやり方」に足を踏み入れ、一時代を築いたような曲者達を向こうに廻し、半ば闇に葬られた一件の謎を明らかにするプロセスが実に興味深い…そして、そのプロセスを紡ぐ人間臭い男達や、彼らが動く街の描写も魅力的だ…

とにかくも非常に愉しい!!

『迅雷』

↓黒川博行作品である。

迅雷
↑これは面白い!!本作も大阪を舞台に、妙な事件が展開する…

物語の冒頭…車に乗っている3人の男達が、車で移動して何箇所かに立ち寄りながら何かをやっているヤクザの組長を尾行し、マンションの駐車場で組長を手際よく拉致してしまう…そういう些か衝撃的な場面で始まる…

以降、その場面に至るまでが振り返られ、やがて組長を拉致した一件が展開していく…なかなかスリリングだ!!

本作は、「ヤクザをターゲットに営利目的誘拐」という、一寸驚く犯行に至る、何か不可思議なもので結び付いた3人の男達の物語である…物語の性質上、未読の方の愉しみを妨げない意味で、これ以上の仔細は敢えて綴らない…

何か独特な哀愁が漂う雰囲気の作品世界が、なかなかに好い…

『煙霞』

↓最近、続々と読んでいる黒川博行作品をまた一冊…



煙霞

↑非常に愉しかったので、あっという間に読了してしまった…

大阪の、とある私立高校を舞台とした物語である。

美術教師の熊谷は、美術部の合宿の引率をするなどしながら夏休みを過ごしていたが、体育教師の小山田から彼の計画への協力を求められる。計画というのは、旅行に出掛けようとする学園の理事長を捕まえ、理事長による不正の話しを突き付け、常勤講師待遇の熊谷を正規の教員にすることや、小山田らを系列の通信制高校に異動させないことを約束させるというようなことである。計画には、車を持っているということで、女性の音楽教師の正木も関わることとなった。

小山田、熊谷、正木の3人は、愛人のマンションから関西空港へ向かうところと見受けられる理事長を捕まえ、小山田が用意してあったらしい倉庫に、理事長とその愛人を連れて行った。小山田が理事長と談判をし、常勤講師待遇の熊谷を正規の教員にするというような約束をさせたところで、小山田は熊谷と正木を追い出す。

熊谷と正木は、小山田の様子に不信感を抱く。何かがおかしいということで、熊谷と正木は理事長が捕まえられた一件について独自に調べ始め、何かきな臭い事態になっていることに気付く…

ということで、熊谷と正木とが理事長の件で走り回ることになる。誰と誰が味方なのか?誰が敵なのか?理事長、小山田を唆した者達に関わりの在る者…なかなかに曲者が揃っている…二転三転の展開で、最後までなかなか予想出来ない…

ところで…本作の主人公は高校の美術教師なのだが、実は作者の黒川博行自身が高校の美術教師として勤務していた経験を有しているそうだ。

この作品…読後感は爽快で、非常に面白かった!!

『大博打』

黒川博行作品が大変に気に入っている昨今である…

↓また一冊、夢中で読了してしまった…



大博打

↑「先が読み難い」見事なサスペンスである…分量も多くないので、あっという間に読了に至ってしまう…

冒頭は、いきなり「営利目的誘拐の身代金受け渡し場面」という箇所から始まる。身代金として犯人が要求する“金塊”を車に積み込み、港に行って指定の漁船にそれを積み替え、船が出航…というような場面である…

そして、そこから警察側の語り手である“私”の目線で、「身代金受け渡し場面」までが綴られる…新興企業の創業者という型になっている、老人ホームに居た会長が誘拐された。“三浦タカオ”を名乗る犯人は、新興企業のオーナー社長を脅迫する。要求は「20億円相当の金塊」というものだった。約1.25トンの金塊ということになる。

多少なりとも繋がりが在る人物を探り出そうと必死な捜査陣と、奇妙な身代金要求に当惑する社長ら…事件はどうなるのか?

捜査側の描写に対し、犯人側の描写も在る…独特な味が在る人物である、誘拐されてしまった老人と犯人との奇妙な交流のようなものも在る…

緊迫する「身代金受け渡し場面」だが…その緊迫する場面の“続き”が本作の焦点である…身代金はどうなってしまうのか?

とにかく面白いのだが、解説によれば、本作は作者、黒川博行のパーソナルな部分が色濃く反映された創作であるという…お薦めだ!!

『暗礁』

↓「―シリーズ疫病神―」の第三作となる作品である…



暗礁(上)





暗礁(下)

↑現時点で4作品在る「―シリーズ疫病神―」だが、『疫病神』(1)、『螻蛄』(4)、『国境』(2)の順で読み、この『暗礁』(3)で全て読了した型となった…

『疫病神』を読了の辺りで、文庫本が登場してから日の浅い『螻蛄』を見付け、「シリーズ!!」と気付いて文庫本を集め始めた。(1と4は同じ出版社だが、2と3は各々別の出版社から出ている…)「疫病神のような男」(=桑原)と「その疫病神に憑かれたような男」(=二宮)という不思議な取り合わせのコンビが、大勢の曲者が渦巻く事件を巡って冒険する各作品だが、何れも非常に愉しい。今回の『暗礁』は、4作の中では、コンビが「最も危険な状況に陥る」ような気がする。

物語は事務所に居る二宮が、桑原から連絡を受ける場面から始まる。二宮は、桑原から「“東西急便”という会社の幹部が、警察幹部を接待するとして開催する麻雀で、“代打ち”をやる」ように依頼される。桑原が授ける“必勝策”(イカサマ…)を駆使してその場で勝ち、得た賭け金は桑原=7対二宮=3で分けるという相談になり、二宮は依頼を受けた。

“東西急便”という会社は比較的新興の運送会社で、宅配等も手掛けているが、各地の会社をフランチャイズにしながら急速に全国ネットワークを築いた会社である。二宮が参加した麻雀に出て来た警察幹部というのは、奈良県警の幹部で、何か東西急便傘下の奈良東西急便に関連した事案が在ったらしい。

やがて…二宮の所に刑事が現れる。奈良県警の刑事らしく、どうも麻雀の時にやって来た幹部について調査しているらしい。刑事達は「賭博の嫌疑…」というような話しもするので、二宮は後から東西急便を巡る色々なことを調べ始める。

そうしていた間に、今度はヤクザ者に尾行されるような事態となり、襲撃されて免許証等を入れたカード入れを奪われてしまった。数日後に二宮を襲ったヤクザから連絡が在り、「“奈良東西急便”近くの歩道橋に、カード入れを取りに来い」と指示を受けた。

現場に向かった二宮だったが、そこで派手な火災が発生した。二宮は「放火事件の容疑者」に擬される状況に陥ってしまった…

こういう中で、二宮と桑原の冒険である。多くの警察OBが群がり、ヤクザとの切り悪い縁も在る“東西急便”の、「表沙汰にし難い大金」を巡り、コンビは走る…関係者が逃亡して潜伏中という情報を得て、コンビは沖縄にも出向く…

大金を巡って走り回るコンビ―二宮の方は、警察の追及やヤクザの襲撃を避けるために逃げ回っているような要素も加わるが…―の前で展開する事態は、文字どおりに二転三転し、「行き着く先」がなかなか見えない…上巻を読み終えた時点で、偶々傍に下巻を置いていなかったのだが、それがもどかしかった…そして下巻を開くと、あっという間に最後まで行ってしまったのだったが、とにかく本作は非常にテンポが好く、読み始めると止まらなくなってしまう…

「―シリーズ疫病神―」の各作品だが、コンビが関わった事件は必ずしも「めでたし、めだたし…」というような解決はしていないような印象だが、コンビにとっては「一応の決着」という終わり方になっている。本作もそういう按配だ…

とにかく愉しいシリーズで、今後も新しいものが登場することを期待したい。他方、黒川博行作品はマダマダ色々と在る…

『国境』

過日の『疫病神』以来、なかなかに愉しいので次々と黒川博行作品を読んでいる昨今である。

↓かなり分厚い文庫本だが、これがとんでもなく面白かった!!



国境

↑かなり分厚いにも拘わらず、一気に読了してしまった!!

本作は『疫病神』で描かれた事件の約1年後という設定である。主人公は二宮と、彼が「疫病神のような男」と思っている桑原のコンビである。

本作は冒頭部で既に「?!」と少し前のめりになってしまう。二宮と桑原、更に2人をサポートすることになっている柳井の3人がツポレフ旅客機の中に居るのである…

3人が向かっていたのは北朝鮮の平壌であった。名古屋・平壌のチャーター機を利用したツアーに参加し、北朝鮮に入り込もうとしているのである…

桑原は組の若頭から、「元山のカジノに投資?」という話しで3千万円を騙し取ったという詐欺師を追い、金を奪い返すように命じられていた。件の詐欺師は、関西の方々の組関係等に話しを持込み、10億円前後を集めているらしい。二宮も、その詐欺師を詐欺師であると知らずに建設機械業者に紹介したのだったが、建設機械業者は1200万円の被害を受けてしまい、「元はと言えばあんたが悪い!」という話しになってしまっていて、何とか詐欺師から金を奪い返したかったのだ。

問題の詐欺師は“在日”であり、どうやら北朝鮮に逃亡したらしいということが判ってきた。そこで、何とか北朝鮮に入り込んで詐欺師を捕まえて、推定十億円の金の在り処を問質そうとしたのだった。

3人は平壌に辿り着いた。平壌での観光ツアーというのは、もの凄く異様なものである。とにかく“休み”なくコースを引き回される。そして「一挙手一投足見張られている」ような状況で、「一寸その辺…」と一人で歩き回るのは危険だ。実際、二宮が外に出て、いきなり“安全員”と呼ばれる官憲にどつかれて、“賄賂”を出して窮地を逃れるという場面も在る…

こういう状況下、3人は何とか柳井の友人と連絡を取り、その友人の協力で密かに動き回り、期せずして知り合った“ゴロツキ”の頭領格の男の支援等も在り、問題の詐欺師の足取りに近付いた。そして問題の詐欺師が平壌から抜け出したことを知るのである…

チャーター機が名古屋へ向かう日に、3人は帰国したのだったが…帰国してみれば、二宮の所に怪しいヤクザ者が現れ、二宮は詐欺師の片棒を担いだなどと言い掛かりを付けられてしまう…おかしな連中が来ると、事務所や自宅に寄り悪くなってしまった中、二宮は尚も詐欺事件の謎を追い続けることになる…

そして二宮と桑原は、もう一度北朝鮮に入り込み、詐欺師を何としても捕まえることを決意する…2人の冒険の行方は?

というようなことで、2度の北朝鮮行きが入り、北朝鮮から戻ってからも色々と“どんでん返し”が在り、「詐欺師が集めた資金」を巡る冒険は最後までどうなるのか判らない…ページを繰る手が止まらなくなることは必定である…

本作は、何か「北朝鮮レポート」というような色彩も帯びているかもしれない。“北朝鮮”の情景の中に、“サバキ”と呼ばれる、表には余り見えない“本音”を扱う仕事をする二宮や、“アウトロー”な桑原という劇中人物達が入り込み、その“北朝鮮”の様子を“建前”的言辞ではなく「本音で語る」というような面が在る。それが、存外に「真に迫る」感じなのだ。或いは、「初出時に何処かから“横槍”は?」と心配になった程だ…

本作は、“事件モノ”、“推理モノ”であり、“ノワール小説”ということになるのだろうが、本作に関しては、“スパイアクション”というような要素さえ入っていると思う。或いは、「シリーズ疫病神」は既に「独特なジャンル」なのかもしれない…

本作は『疫病神』の好評を受けた、シリーズの“2作目”ということだが、或いは「シリーズの名声を高めた1作」なのかもしれない…生々しい北朝鮮での“疫病神コンビ”の冒険…お薦めだ!!

『悪果』

『疫病神』から「黒川博行作品が面白い!!」ということになり、早速その作品を色々と読んでみようという気になっている。

↓そして早速、新たな一冊を読了した!!



悪果

↑これは“シリーズ”ではない独立の一篇である。

物語の舞台は大阪である。本作の主人公は刑事である。

夏の暑い盛りのこと…大阪今里署の暴力犯罪対策係の刑事、堀内は組関係の賭場に関する情報を得た。カラオケボックスに多数の客を集めて行うものであるという。

堀内は、相棒の伊達と共に情報を集め始め、賭場が開かれる日を推定し、手入れの準備を署で進言し、それが容れられる。問題の組の関係者の動きから、推定した日に間違いなく賭場が開かれると見受けられる情勢になり、堀内を含む署員達は摘発作戦に動く。

大阪の刑事達…その多くは、密かに自分の“シノギ”(金の儲け方)というようなものを持っている。堀内の場合…摘発した賭場に来ていた客の情報を所謂“イエロージャーナリズム”の範疇になる“業界誌”を主宰する男に流し、その男が賭場の客達から強請った金の分け前(半額)を受取るというものだった…堀内は、賭場の摘発作戦の傍らで、抜け目なくその業界誌を主宰する男とも接触を持った。

やがて摘発作戦が敢行された。逮捕した賭場の客の中に、「学校法人理事長」という肩書の男が居た。堀内は、その男が“標的”になり得ると考え、業界紙を主宰する男に伝えた。

そこからである…事態は急速におかしな方向に進んでいく。堀内自身も窮地に陥ってしまう。堀内は窮地をどのように切り抜けるのか?

というような物語である。「悪徳刑事」というような男達、事件関係者達、ヤクザ達、黒幕達と個性的な面々が蠢く。窮地に陥った堀内は、少しずつ不可解に進んでいた事態のもつれた糸を解していく…

作中で描かれる「警察」は、“実績”と“処遇”とが巧く連動していない「歪な業界」で、その中の男達は或る種独特な雰囲気を持っている。何か「生々しい“本音”な世界」が描かれている感な物語である。

本作は「緻密なディーテールを積み上げ、“世界”を読者の前に濃密な存在感を持つものとして突き付ける」という体裁であると思う。賭場の摘発作戦に関連する描写は、「多分、実際に警察がこういう仕事をする場面はこんな雰囲気なのだろう…」と想像させて余り在るものがある。或いは「実際にこの種の現場を何回か経験している元警察官の体験記」でもあるかのような“リアルさ”である。また、作中で堀内や伊達が余り良く思っていない係長が居るのだが、その係長が応援の署員達を念頭に、“事情聴取要諦”というようなものを拵えていて、その内容が在るのだが、これなどは「本当に○○署にこういう記録が在る…」とまで思えるものだった。

本作は当然ながらフィクションだが、何処となくノンフィクションであるとさえ思わせるものもないではない。グロテスクなまでにリアルな、そして力強い筆致で、堀内刑事らの生き様が綴られる。非常に愉しい一冊だ!!

大変に興味深く、「或いはシリーズに?」と思うのだが…物語の最後の方の展開は、それが望み悪い型になっている…とにかくも、お薦めの一冊だ!!

『螻蛄』

「最近登場した文庫本」ということで、何気なく眼を向けると…「―シリーズ疫病神―」という文字が!あの『疫病神』がシリーズになっていると知った場面であった…

↓一気に読了に至った一冊である…



螻蛄


この種の“シリーズ”は「大長編の1巻、2巻、3巻…」というような具合に連続しているのではなく、各々の作品を独立の一篇として愉しく読めるようになっている事例の方が多いと思う。本作も、正しくそういう仕立てである。

「―シリーズ疫病神―」の主人公は、“建設コンサルタント”を名乗って自営している、やや冴えない印象の二宮と、彼が「疫病神のような男」と思っている「イケイケ」なヤクザの桑原である。何か「疫病神のような男と、疫病神に憑かれたような男」という、妙なコンビで曲者が渦巻く事件の中で奮戦するのである。

二宮は相変わらず旧いビルの事務所で仕事をしている。何時の間にかインコを飼うようになっている。幾つか連絡のファックスが入っていて、二宮は仕事をこなしているのだが、一番後回しにしていたものが在った。桑原が営むカラオケボックスの内装を改装する工事に向けて業者を紹介しろという案件だった。それを口実に桑原が姿を現した。

二宮は、内装業者を桑原の店に行かせて見積を出させることを約束するのだが、桑原は妙な話しを始める。二宮の父が他界してしまい、大阪のある寺の墓地に埋葬したのだが、その寺の住職に関する話しなのである。住職は不渡り手形を出していて、それが桑原の所に回ってきているというのである。金額は2千万円だ。

住職は、寺の宗派の開祖に関係する絵巻の画を刷り込んだスカーフを製作し、それを信徒に売って一儲けを目論んだようだが、色々と在ってモノが売れなくなってしまった。スカーフを製作した際の代金を小切手で支払い、それが不渡りになってしまっている。更に調べれば、住職に関して、更にその宗派に関して、随分色々なことが在るようだ。

桑原は、父が墓地に埋葬されているということで住職とは無縁という訳でもない二宮に、住職がスカーフを製作した際に使った筈の絵巻の在り処を探る手伝いをさせようとする。二宮は、気が進まないままに桑原に手を貸す羽目になる。

ということで桑原の企む儲け話の片棒を担ぐようなことになった二宮だが、彼にも火の粉が降り掛かる。最初に接触した住職の宗派には余りにも色々なことが在る。事態はどんどん複雑に入り組んで行く。二宮は何度となく危険な目に遭ってしまう。

住職の宗派の色々な人達、そこに連なる不動産業者やら業者が地上げに使っているヤクザや、絵巻の件で動いている女性の画商と、なかなかの曲者が大勢出て来る。二宮と桑原の“コンビ”は、大阪、京都、東京、名古屋、小田原と方々を駆け回ることとなる…

二宮、桑原のコンビは深い闇が横たわる宗教法人との争いをどう収拾するのか?なかなかに楽しめる物語だ…何度となく、騙し、騙されというようなことが繰り返され、なかなか先が読めない…

二宮は「疫病神のような男」と桑原のことを思っているのだが、他方で「仕事の約束は守ってくれる男で、殺されなければならない程に悪い奴でもないじゃないか…」と彼を案じて「何とか助けよう…」という行動に出る場面も在る。そういう辺りが面白い。

『疫病神』を切っ掛けに、なかなかに愉快なコンビが活躍するシリーズに出逢うことが叶った。非常に善かった!!

『疫病神』

何となく紐解いてみて、「余りに面白い!!」とページを繰る手が止まらなくなり、“続き”が気になって仕方なく、朝、昼、夕と時間を設けてあっと言う間に読了してしまい、爽快な読後感が残る…そういう小説と出くわすことが在る…

↓そんな一冊を御紹介したい!!



疫病神


物語の舞台は大阪である。作中の“会話文”は活き活きとした印象を与える大阪弁になっていて、文章もなかなかテンポが良く、なかなか愉しく読み進められる。

主人公の二宮は、旧いビルの一室に事務所を構えて“建設コンサルタント”を名乗って自営している。30代半ばに差し掛かろうという雰囲気だが、本来の仕事に勤しむ以上に、賭博やパチンコをやっている時間の方が長そうな、少々冴えない印象を与える人物である。彼が主な生業としているのは、解体工事に関連して、不当な要求を捻じ込んで来るような輩を処理するような、業界では“サバキ”と呼ばれているものを斡旋することであった…二宮はそのサバキの仕事をしていたのだが、そこで桑原と出会う。桑原は「イケイケ」なヤクザの幹部だ…

或る日、二宮は大阪府南部の産廃業者を紹介される。産廃業者は処理場の建設を進めようとしているのだが、地元のボスに通じる利害関係者が、一旦合意した補償費の値上げを言い募っていて、産廃業者が弱っていると聞く。産廃業者との間で、「成功報酬500万円」ということで関係者との合意を纏めるという仕事を二宮は請負った。

二宮は産廃業者の仕事を請け負うのだが、桑原と知り合ったサバキの現場で何やらきな臭い状況が発生し、また産廃業者の仕事の現場でもおかしな動きが見受けられるようになる。

二宮は僅かな手掛かりに関して桑原に一寸尋ねてみたのだが…そこから桑原が一件に首を突っ込み始め、二宮は「イケイケ」な桑原に引き回されるようにして、産廃処理場を巡る不可解な状況に挑むことになる。

二宮は、「請けた仕事はキッチリと」という想いだけを胸に、「先手を取る!!」とどんどん走りまわる桑原に引き摺られ、相当に危険な目に遭いながら、産廃処理場の問題を巡る複雑な事情を解き明かす…二宮はどうなる?成功報酬を手にすることが叶うのか?

というような感じの物語で、作中の産廃処分場の一件は、話しが二転三転し、なかなか「事の真相」が明らかにならない…そういう状況下、“ノンストップ・アクション”的に二宮は真相を求めて走り回り、危険な状況を潜り抜けることになる。未読の方のお愉しみを妨げない意味で、これ以上の仔細は敢えて綴らない…

特殊な能力が在るでもなく、特異な立場ということでもない、どちらかと言えば冴えない、普通な男が奥の深い事件に巻き込まれ、酷い目に遭いながら奮戦…一種の『ダイハード』的な魅力が在るのかもしれない物語だ。

二宮は、桑原が首を突っ込んだ辺りから、話しがどんどん危ない方向に進んで行ったと受け止めていて、彼を“疫病神”と考える…物語は「“疫病神”のような男と、それに憑かれた感の男」という不思議なコンビが、「どいつも、こいつも…」というような位大勢の“曲者”が渦巻く一件の中で奮戦するような按配である…なかなかに痛快だ!!

「“疫病神”のような男と、それに憑かれた感の男」という不思議なコンビが、曲者が大勢出て来る案件の中で奮戦する…これは“シリーズ”にもなっているということを知った。なかなか愉しいものと出会うことが出来た!!