『誉れあれ』

↓様々なシリーズに親しんでいる東直己の作品を見付けた。手にして、大変に愉しく読了した…

札幌方面中央警察署 南支署 誉れあれ (双葉文庫)



↑札幌を舞台にした“事件モノ”で、モデルとなっている札幌市内各所の感じが判ることも手伝って、一寸夢中になった。愉しい!!そして、少し余韻が残る…

物語は、刑事志望の新人巡査である梅津康晴の冒険、成長という事柄を軸に、先輩ということになる刑事達や、彼らと対立的な人達や、事件関係者等の視点で、時間軸に沿ってスピーディーに展開する。なかなかに夢中になってしまう。

作中世界では、札幌の都心部に「札幌方面中央警察署」と、「札幌方面中央警察署 南支署」とが在る。(※作品と然程関係は無いが…現実に「札幌方面中央警察署」は在るが、「同 南支署」というのは無いようだ…古くは「札幌中央警察署」が在って、札幌が大きくなって行く中で「札幌西警察署」、「札幌南警察署」が分離開署したという経過、札幌の政令指定都市化を契機に“方面本部”という制度が入って「札幌方面中央警察署」というようになって行った経過は在るようだ…札幌で、一般的にはは単に“中央警察署”と呼ばれているような気がするが…)

「札幌方面中央警察署 南支署」に所属する、刑事志望の新人巡査である梅津康晴…彼は交番勤務の傍らで、刑事一課に出入りし、未決事件の関連事項を知り、非番を利用して独自に情報収集を行い、刑事一課の班長である早矢仕(はやし)警部補にそれを伝えるというようなことをしていた。彼がもたらした情報により、容疑者の逮捕に繋がった事例も幾分在った…そういう妙に熱心な他方、「遺体発見」の報を受けて交番から現場に駆け付けた際、「血を流した状態で放置された遺体」を初めて直接視て驚き、気を失ってしまったことから署内で“キゼツ”というニックネームを賜ってしまっている…

この“キゼツ”こと梅津康晴巡査が気に掛っているのは、「かごダッシュ」と呼ばれる若者の犯罪だった。コンビニで商品を陳列棚から取ってレジへ運ぶかごに沢山のモノを入れ、精算をせずに出口から外に逃げ、待機していた仲間の車で去ってしまうという事件だった。これは、「少し重い罪」ということになる“強盗”に問われる事案だ。携わっている若者達を何とか見付けてみようと、自身も若い梅津康晴巡査は、“潜入捜査”(?)のような独自活動に及んでしまっている…

そして問題の人物に出くわすことになるのだが…“キゼツ”こと梅津康晴巡査に危険が迫る…

危険が迫った“キゼツ”こと梅津康晴巡査の救出を巡り、「札幌方面中央警察署 南支署」とは色々な意味で“犬猿の仲”である「札幌方面中央警察署」がどうしたものか動いた…そして…色々なことが噴出し、次々と事件が発生する…

物語の性質上、これ以上の詳述は避けなければなるまい…

大きな街の、管轄区域が隣接する警察署の関係者が、互いに何となく「傍目には強過ぎるような対抗意識」を持っているように見えてしまうというのは、或いは実際には在るのかもしれないが…本作のそうした“対抗意識”は、単純なモノでもない…

それにしても…何かにつけて酷く一生懸命な、“キゼツ”こと梅津康晴巡査…素敵な作中人物である。作者は、或いは“シリーズ”を意識しているのかもしれないと思った面も在った…

とにかく愉しい作品で、多くの皆さんにお勧めしたい!

『鈴蘭』

東直己によるシリーズ作品は「新たに文庫が登場」に気付いた時点で、極力入手して愉しむようになっている。

↓そのシリーズ作品の一つ…探偵の畝原が活躍するシリーズだ…



鈴蘭(ハルキ文庫)

↑札幌が主な舞台―畝原は札幌市内に住んでいて、探偵業を営む男である…―となって展開する渋い物語だ…愉しく読了した…

畝原は離婚した妻との間の娘、再婚した女性とその娘、加えて或る事件が切っ掛けで養女にした娘の5人家族で暮らしている。冒頭は5人家族が休日に郊外に遊びに出るような場面で始まる。実は懇意にしているテレビ局のプロデューサーから頼まれた調査活動の一環でもあったドライブだったが、訪ねた先で、何やら妙な男に出くわす。妙な男というのは“ゴミ街道”と通称される場所に住み着いているという男だ。

畝原は、最初にテレビ局のプロデューサーから受けた仕事、加えて妙な男に関する調査を進めるが、更に依頼が舞い込んだ…畝原一家が訪ねた施設を営む老人が、“ゴミ街道”に女性が居た筈だが、その姿が何時の間にか見えなくなってしまっていることを指摘し、事情を探るように依頼してきた…更に畝原と接点が在った元暴力団関係者でもある男からも依頼が在った。中退してしまった高校で、最後まで退学に反対していたと聞く熱血先生が行方を眩ませてしまっていることを知り、非常に心配しているのであるという。畝原は、その教師の行方や失踪の事情を探り始める…

居なくなった女性、元教師の事情を探り続ける中で、それらの調査が交錯し始め、次第に事情が明らかになる…

本作では、“ゴミ屋敷”というような問題や、悪辣な“貧困ビジネス”というような問題に畝原は直面することになる…そしてタイトルにもなっている“鈴蘭”だが…是非ともそれは本作でお読み頂きたい…

『猫は忘れない』

正しく「待望の!!」という一冊を、非常に愉しく読了した!!

↓あの“ススキノ探偵”の最新作が、文庫で登場した!!

猫は忘れない
↑待望の作品を入手し、ページを繰り始めると止まらなくなり、素早く読了してしまった…

例によって、“俺”の一人称の語りで物語は綴られる。この方式は「一人の人間の行動、見聞、考えていたこと、思い出したことの範囲を逸れない」ので、読む側にとって「入り込み易い密度」に物語が落ち着くというのが好いと思う。

物語は、“俺”が知り合いのアパートに、借りていた鍵で入る場面から始まる。“俺”はスナックのママ“ミーナ”から、旅行に出る期間、飼い猫の世話をするように頼まれたのだった。何回かリハーサルをした要領で、餌と水を与えたのだが、何か変な気配がする。寝室を覗くと…猫のことを“俺”に頼んだミーナがベッドで死んでいた…

行きがかりから、“俺”は猫の“ナナ”を自宅で預かる羽目になった。詳しく個人的なことを知っているという程でもなかったミーナだが、頼まれた用事に出掛けて遺体を発見ということで、「何が起こっていたのか?」が気になる。そして、「金額的には僅かながら、“従業員の未払い賃金”に関して、遺族に申入れを行う」という口実を見付け、“俺”はミーナに関して、また事件に関して探る。

調べて行く中で、ミーナの知らなかった一面が少しずつ明らかになる。そして交際している華が真剣に心配している他方で、“俺”は少しばかり危ない目にも遭ってしまう。そして意外な型で事件の謎が解き明かされる…

こんな物語だが、今回は「猫の”ナナ”」が秀逸である。“俺”の住まいにやって来て、“俺”は猫を観察してみたり、猫に観察されているような気分を味わう。“パターン”の行動を取ったり、それを外したりするナナ…今回の一件の”鍵”でもある。

この“ススキノ探偵”シリーズには、なかなかに魅力的な、“俺”と付き合いの在る人達が登場するが、彼らも健在で、それぞれに活躍を見せる…

そして今作では、“俺”が益々「変わり物」扱いになっている…“俺”の用語で言う「ケータイ」を巡ってのことだが…そして“俺”は相変わらず酒呑みだが、相変わらず強いのか、多少弱くなったのか、何か微妙な描写が面白い…

今回の作品は、比較的軽妙な感じがする。このシリーズ…きっとマダマダ続くのであろう…

『眩暈』

東直己作品の文庫本で未読のものを見掛けると、入手して読むようにしている。読んでみて、期待が裏切られるということは無い…

↓最近、また文庫で東直己作品が登場した!!



眩暈


私立探偵の畝原が活躍するシリーズである…物語の舞台は札幌である。

冒頭の方は、畝原が請負った、大学学長による講演会の警備の顛末が描かれる。「脅迫を受けた」という大学の学長が、畝原に接触して講演会の警備を依頼した。「一人でやってくれれば、それで構わない」というような話しであったが、畝原は不測の事態に備え、半ば“助手”のようになっている貴と一緒に現場に入る。

その講演会警備が妙な経過で終始した後、畝原は馴染みの店を梯子して呑み、タクシーに乗って帰宅しようとした。タクシーが或るマンションの辺りを通過した時、壁の辺りに小学校低学年程度と見受けられる少女が居たことに気付いた。不審な様子を感じ取った畝原は、運転手と話し合って見掛けた辺りに引き返すのだが、少女の姿は見当たらなかった。畝原は状況が非常に気懸りだったので警察に通報し、刑事に事情を話してから帰宅した。

翌朝、畝原は驚愕した。小学校低学年位と見受けられる少女の、どうも他殺らしい遺体が発見されたというテレビニュースを視たのだ。やがて、夜遅くの通報の件との関連で警察から連絡が入り、畝原は遺体が安置されている病院へ向かった。病院には前夜のタクシー運転手も現れ、2人は遺体が昨夜見掛けた少女であることを確認した。運転手は幼い少女の死にかなり衝撃を受けていた様子であったが、畝原自身も、「もう少し早く、少女を保護するように動いていれば…」という想いを強く抱いた。

畝原は、或る種の“責任”を感じ、独自に少女の一件を調べるべく動き始める。そうしていると、第二の事件が発生し、更に「札幌に連続殺人犯が…」という妙な噂が在ることも判る。畝原は事件の真相を探り出すことが出来るのか?そして、彼が見出すものは何なのか?

というようなことだが、未読の方のお愉しみを妨げないために、これ以上の仔細は敢えて綴らない…題名の“眩暈”…なかなかに意味深長かもしれない…

今回の作品では、何か作者が“畝原”という劇中人物の言を借りて、「50代の親父世代から、20代以下の娘や息子の世代に伝えてみたいこと」を纏めているような感もした。最近は「世の中がおかしくなった」と嘆くようなことが多いが、それは妙な事件が精力的に伝えられるようになってしまっているに過ぎず、実は昔から方々で妙な事件というものは起こっている。だから、必要以上に世の中を悲観せず、若い人達は明日へ向かって踏み出して欲しい…というような主張が在ると思った。

上記のメッセージだが…「情報の発信と巷の反応」というものが、本作で描かれる事件の“鍵”のようにもなっている。実際、読んでいて「意外!?」と多少驚いた面さえ在る展開だった。

畝原シリーズは、少し重厚な雰囲気なのが、何となく気に入っている。“ススキノ探偵”シリーズも映画化されているが、或いはこの“探偵・畝原”のシリーズについても映像化が在っても善いかもしれない…

本作は長く続くシリーズの中の一冊だが、このシリーズは各々を独立の作品として楽しめるような造りである。お薦めなシリーズだ!!

『悲鳴』

↓これも年末に入手、年明けに読了の一冊…

東直己/悲鳴
↑東直己作品の中、「探偵・畝原」のシリーズに未読作品が残っていた訳だが、年末にそれらを入手していた…その一冊である…

畝原は、「それを自覚しているのか、自覚していないのか、傍目にはよく判らない“悪意”」というものに囲まれている…或いは最近の巷というのは「そんなもの…」なのかもしれない…

畝原自身、飲み物に睡眠薬を混ぜられてしまい、気付けば小学生の少女と知らないホテルで裸になって寝ていて、そこを逮捕されてしまい、「完全な濡れ衣」であったことが明らかになっても“事件前”の人生を取り戻したでもなく、新たな人生を求めて生きているのだが…そんな彼であるからこそ、そういうものに直面して「気付くもの」が在るのかもしれないのだが…

日常業務の中に“大事件”に通じる穴のようなものが現れて、踏み込んでしまうと穴の中の“闇”が非常に深く広いことに気付かされ、それに驚愕しながら向き合う…というような展開が多い畝原が活躍するシリーズなのだが、本作もそうした型で纏まっている…

畝原は“浮気調査”という、最も有触れた仕事を引き受けた。「夫が自宅マンションで浮気相手の女を迎える場面の写真を撮ってくれ」と言う依頼人の要望に応えるべく、畝原はそのマンションの入口が見える公園のベンチに陣取って張り込みをしていた…そして彼は、“依頼人”がマンションに住む“夫”のストーカーであったことに気付かされる…

畝原は依頼人との接触を求め、同業の男が手掛かりになりそうであると思い至り、接触を図ったのだが行方がよく判らない…やがて、切断された死体の足や腕がばら撒かれるという奇怪な事件が発生し、畝原は「或いは探していた男?」との疑念を抱く…

やがて、彼が恩義を覚えている友人の一人ということになる、調査や警備を業務とする会社を営む横山の家にその死体の一部がばら撒かれてしまい、警察は横山の身柄を強引に拘束してしまった…畝原は横山の依頼を受ける型で、事件を探る…

今回は「遺体の一部が方々に撒かれているのが見付かる」という“怪事件”が、深く広い闇に通じていたという話しで、最後の方までかなり緊迫する…畝原自身も、正体がよく判らない相手から相当に悪意の篭った嫌がらせを受ける…或いは自身へ向けられた妙な嫌がらせの犯人探しという側面も帯びるのだが、これがなかなかしつこく、簡単に判らないのが不気味であったりする…本作は『悲鳴』という題名だが…終盤にその題が冠せられた理由が明らかになる…

或いは「探偵・畝原」のシリーズでは、本作が最も重厚でスリルに満ちているかもしれない…かなり分量が在る文庫本だが、読み始めると続きが気になって仕方がなくなってしまう…

『流れる砂』

↓年末に入手、年明けに読了の一冊…

流れる砂
↑東直己作品だ!!

東直己作品の中、「探偵・畝原」のシリーズに未読作品が残っていた訳だが、年末にそれらを入手していた…

「探偵・畝原」のシリーズ…畝原浩一は新聞記者だったが、取材活動で大きな不正の核心にそれと知らずに近付いていて、罠に嵌められてしまった…会社を解雇され、妻も去ってしまった中、彼は探偵業を生業とするようになり、娘を育てている…こういう主人公が活躍するシリーズで、彼の日常業務の中に“大事件”に通じる穴のようなものが現れて、彼はそこに踏み込んでしまって事件と向き合う。何となく重厚な感じがする作品が多く、なかなか気に入っている…

本作『流れる砂』は、畝原が凄惨な場面に立ち会う羽目に陥った辺りが冒頭で振り返られる…老いた父親が息子を激しく殴り、刺殺に至ってしまい、自身も息子を刺した刃物で自殺を遂げてしまう…

この凄惨な場面に至った切っ掛けは、マンションの管理人から依頼を受けた、「不審な人の出入が頻繁な住民」に関する調査であった。件の住民は区役所に勤める若い男なのだが、何やら明らかに住民ではない女子高生が盛んに部屋を出入りしているのだ…管理人の協力下で調査をした畝原は、男が“買春”をやっていることを確信するに至った…

と、ここに“同業”ということになる男が絡まり、冒頭の凄惨な場面に至る訳だが、“事件”は奇怪な拡がりを見せる。区役所に勤めていた男が関与した様々な不正、奇妙な家族、男の父親の住所だった場所で活動している奇怪な“新興宗教”グループと、様々な問題が出て来る…

本作はなかなかにボリュームも在るが、一気に読了に至ってしまった…

『ボーイズ、ビィ・アンビシャス』

↓年末に入手し、年が改まってから読了した…

ボーイズ、ビィ・アンビシャス
↑東直己作品だ!!

『ススキノハーフボイルド』に高校3年生として登場した松井省吾が帰ってきた!!

松井省吾は大学1年生になっている。志望していた北大には合格出来なかった。そして、どうしたものか「三流」と言われる通称“グロ大”に入学してしまっていた…

そんな、何か屈折したような日々を送っている省吾の日常から物語は始まる。やがて事件だ…

地下鉄駅に近い交番の傍で、学生と見受けられる若者がヤクザに暴力を振るわれている。省吾は交番に駆け込み、何とかするように警官に訴えるのだが、警官は無関心だ。「何とかしろ!」と詰め寄ると、省吾は取り押さえられて、「公務執行妨害で逮捕」などと言われてしまう…

こういうような騒動から、話しがスピーディーに動いていく。何時の間にか、妙な事件に巻き込まれていく訳である…

本作には、あの“便利屋”も確り登場する。「ススキノ探偵シリーズ」の番外編という趣も在る…或いは、ハッキリそう思っていても構わないかもしれない…

他方、進学の希望が思うように行かなかった若者が、色々な出来事を潜って自分と向き合って行こうとするというような「青春ストーリー」でもある…

本筋から若干外れるかもしれないが…私が一寸前のめりになったのは…“便利屋”がサハリン渡航を企てる場面である…「ネタばれ」は未読の皆さんに迷惑であろうから、敢えて詳しくは綴らないが…

相変わらず、非常に愉しく読了した!!

『墜落』

↓年末に読んだ一冊である…

東直己/墜落
↑東直己作品で、「探偵・畝原」が活躍するシリーズの一冊だ…

冒頭、小さな町を訪ねて、地元の人達の案内で、四駆車に乗って山を行き、笹薮を掻き分けて旧い小屋に至り、そこで旧い人骨を発見する…というプロローグが在る…

読了してみると…実は、作品全体が「何故プロローグの事態に至ったのか?」という回答を示すものとなっている…しかし、読み始めるとそれにはなかなか気付けない…終盤になって漸く気付かされる…

物語は、畝原の日常の調査活動から始まる。女子中学生の継母からの依頼で、中学生の非行について調べている。非行に走る中学生も中学生だが…関りを持つ大人にも問題が在る…

というような一件を通じ、畝原はその家族に多少関りを持つ訳だが、そうした中で彼らの隣人から新たな依頼を受ける。不審な脅迫めいた手紙を受け取っているので調べて欲しいという内容だった…その依頼人は、少しは知られた詩人であった…

スピーディーに様々な出来事が積み重ねられ、畝原は徐々に“依頼人”の詩人が秘めた秘密に近付くこととなる…

“墜落”というタイトル…終盤のクライマックスを暗示している…

なかなか愉しめる作品だ!!

『待っていた女・渇き』

東直己作品の文庫本については、「未読のモノ」に出会すと、それを読むようにしている訳だが…

↓また出会した…
待っていた女・渇き (ハルキ文庫)
待っていた女・渇き (ハルキ文庫)
↑何やら「変なタイトル?」という気がしないでもない本書だが、『待っていた女』と『渇き』の2作品を一冊に収めているので、両作品のタイトルを並べて本書のタイトルとしているだけのことである…

本書は「探偵・畝原浩一」が登場するシリーズの最初期の作品2点を収めている。『待っていた女』は、“初出”は雑誌に掲載されたもので、分量も「文芸誌の読み切り小説」の程度である。短編と言って差し支えない分量だ。『渇き』は『待っていた女』の1年程度後ということになっている作品だ。少し分量が多い。“畝原”が本格的に躍動する、正しく「実質的なシリーズのスタート」となるような作品である。

『待っていた女』…これはシリーズに長く登場し続ける女性、姉川明美と近付くという話しである…

畝原は、新聞社を解雇され、妻に出て行かれてしまい、残された娘を一人で育てながら探偵稼業をしている。或る休日のこと、娘を預けている学童保育所の催事に参加しているのだが、そこで姉川明美と言葉を交わす。

姉川明美は娘を持つシングルマザーだが、札幌では一寸知られた“文化人”でもある。彼女は最近、脅迫状めいた手紙を毎週のように受け取っている。何か、娘に危害が加えられるような事件にでもなってしまうことを怖れている…

それを聴いた畝原は、翌日に連絡を取ることを約した。そして翌日を迎え、姉川明美を訪ねた。件の脅迫状めいた手紙を見る。その文面を読み込んで話し合った結果、彼女が出演している、スタジオ見学者も入れて生放送しているラジオ番組の周辺に、手紙の差出人が居そうであると見当を付けた…

畝原はラジオ出演する姉川明美の周辺を見張る…脅迫状めいた手紙の主を突き止めることに成功するのだが、そこで彼はおぞましいものと出会す羽目に陥ってしまう…

『渇き』…これはもっと本格的だ…『待っていた女』で、畝原の娘は小学4年生だが、『渇き』では小学5年生になっていて、作中の時間も1年程度流れていることがハッキリしている…(過日読了した最近の作品では、娘は大学生になっている…)

冒頭…何やら奇妙な場面から始まり、そこに至った妙な経過が綴られる…畝原は、匿名の男から「或る大学教授の素行調査」の依頼を受けて活動したが、その匿名の男とは?という話しである…

そんな妙な出来事の後、畝原は若い女性達から依頼を受けた。就職活動絡みで、パワハラ、セクハラに及ぶ雑誌社社長を尾行する話しである。何やら“美人局”に近いような内容も在り、気が進まなかったが、断るハッキリした理由も見出せず、畝原は依頼を受けた…

この依頼が切っ掛けで、畝原は重大な事件に巻き込まれて行く…尾行した雑誌社社長の周辺にきな臭い話しが色々と在り、新事実が次々に…

なかなかスリリングな展開だ!!

「探偵・畝原浩一」が登場するシリーズ…なかなか渋い!!このシリーズだが、「未読の文庫本」がマダマダ在る。当分、「東直己作品“熱”」というようなものは続きそうだ…

『挑発者』

「文庫本が出ている東直己の小説」については、未読のモノを視付けた場合、極力それを入手して読むようになってしまった。各作品、各々に非常に愉しい!!東直己作品に関しては、こうしてブログの記事でも取上げる他、何かで本の話題にでもなれば人にも「間違いなく愉しい!!」とお奨めしている。

↓ということで、今回はこの作品である…
挑発者〈上〉 (ハルキ文庫)
挑発者〈上〉 (ハルキ文庫)

挑発者〈下〉 (ハルキ文庫)
挑発者〈下〉 (ハルキ文庫)
↑期待を裏切られることはなく、非常に愉しく読了した!!

東直己作品だが、“シリーズ”として綴り続けられているものが幾つも在る。そうしたシリーズでは、作中人物達の「年月を経たことによる変化」というようなものが、かなりハッキリと描かれる。或いはこういう方式が、「読者が何となく、作中人物達と“世界”を共有しているような感覚」を抱かせてくれる面も在るのかもしれない。私は非常に気に入っている。

また、複数のシリーズの作中人物達が各々の役割で登場する“クロスオーバー”というのも、東直己作品では「一寸した得意技」である。或る作品では、当該作中人物の「一人称の文」で作中人物が語られていても、別の作品では「三人称の文」で語られ、更に別な作品では「別な作中人物の一人称の文」で語られる…そうやって“世界”がどんどん広く、深くなっている…

この『挑発者』は、そうした愉しい東直己によるシリーズの一つで、「探偵・畝原浩一」が活躍する作品である。かの“ススキノ探偵シリーズ”の「俺」には、作者の青年時代が色濃く投影され、「“青年”のまま年齢を重ねた正体不明の男」という印象になっているのに対し、「探偵・畝原」には「もっと年齢を重ねた作者」が投影されている…ような印象を受ける…

これまで読んだ“探偵・畝原シリーズ”の作中で語られる畝原の歩みによれば…畝原は新聞記者であったが、大掛かりな不正を暴く取材活動中、関係者に嵌められて「未成年者に対する淫行を働いた」ということにされてしまい、新聞社を解雇されてしまった。事件に憤激した妻は娘を残して去ってしまい、離婚した。畝原は探偵事務所で働き、やがて独立した。娘を育てながら探偵を続けている…ということになる。

『挑発者』の畝原は…『熾火』で描かれた一件の後、自分の娘より1つ上の娘が居る女性と再婚し、酷い虐待を受けていた女児を養女に迎えた。畝原は、妻、大学生になった2人の娘、養女にした幼い娘という5人家族で暮らしている…という状況だ。

で、物語である…

畝原は、消費者協会関係の旧い知人の紹介で連絡してきた、札幌市内で飲食店チェーンを営む会社の専務から請け負った仕事をしている。専務の父親である社長が、自らを“エスパー”等と称し、メディアにも頻繁に露出していた男が率いるグループの詐欺に遭いそうな状態なので、何とか助けて欲しいという話しだった。

畝原は、その詐欺グループと対決するが、その一件を通じて彼を知った情報誌会社を営む男から別な依頼を受けた。情報誌会社が運営する「ホステスのミスコン」の決勝に進出した4名の女性に関する素行調査というのが依頼内容だった。畝原はそれを請け負った。

畝原は、その4人の女性の素行調査と並行して、或る主婦から請け負った、彼女の夫に関する調査も続けていた…畝原は、情報誌会社の段取りに従い、情報誌編集部関係者ということで4女性に接触するなどしていたが、他方で主婦の奇妙な振る舞いに悩まされたりもする。

そんな時、畝原は4女性の1人に会いに行った帰りに、正体不明の男に襲い掛かられ、不意打ちだったので怪我を負ってしまったという出来事が在った…更に…“エスパー”のグループによる詐欺がメディアで暴かれようとしてきた中、深刻な事態も惹起する…

という具合に物語りは進む…二転三転しながら絡み合い、解れたと見えてまた絡む事件…どういう具合に進展するのか?是非とも本書を紐解いてみていただきたいと思う。

『ススキノハーフボイルド』

文庫本が出ている東直己の小説…目に留めると、入手して愉しんでいる…

↓文庫本が出ているものは大概読んでいるような気もするが…未読だったもの…在った!!

ススキノ・ハーフボイルド
↑愉しく読了した!!

本作の主人公は、高校3年生の松井省吾である。札幌市内の公立進学校に通っているのだが…ススキノにも出入している…目下、10歳程年上の凄く美人なホステスと交際中である。そんな彼の夏休みの日々が本作の物語である。

この松井省吾…本作で描かれているのは「小泉政権時代か、その少し後」と見受けられるのだが、そんな時代の高校生でありながら、何かあの「ススキノの便利屋」に近い価値観を持っているように見受けられる…そして、実際に本作にも、件の“便利屋”は登場する。

前半は、受験生である他方でススキノに出入して、という何か独特な松井省吾の青春が綴られるが…中盤以降は“事件”である…

実は本作は、<ススキノ探偵シリーズ>の『駆けてきた少女』で綴られた事件の一部に関して、「少し別な角度から語った」というものになっている。しかし、独立した作品として楽しめる。或いは…『駆けてきた少女』は「やや煮え切らない?」という仄かな印象も在ったのだが、本作はもっとスッキリしている。更に…本作と『駆けてきた少女』に“敵役”的に出て来る人物だが…探偵・畝原が活躍するシリーズの『熾火』に「数年後」が出て来る…

東直己作品を読んでいて思う。この作家は「耳が良い」というのか…作中に出て来る人々の“話し言葉”が凄く「らしい!!」感じになっている。本作でもそれは健在だ。本作は、基本的に主人公・松井省吾の一人称の文章で綴られる。<ススキノ探偵シリーズ>のムードに似ている…

恐らく、この“松井省吾”が出て来る作品も他に在るのであろう…何か「平成の世に転生した昭和の男」というような感じで、意外に面白い…

東直己作品…マダマダ色々と愉しいものが在りそうだ…

『フリージア』

少し暫くぶりに東直己作品を愉しんだ…

↓これだ!!

東直己/フリージア ハルキ文庫

“榊原健三”のシリーズの第1作である。このシリーズについては、第2作、第3作を既に読んでいた。第2作、第3作の中で、第1作で描かれた事件に関する言及が多少出て来る訳だが、今回第1作を読んだことで、その内容を詳しく知ることが出来た訳だ。

第1作で在る『フリージア』に関して、“一発”の作品で“シリーズ”という具合にはなり難いという意見の評者の意見が在る。それは肯ける面も在るのだが、東直己はこの作品をシリーズとしてしまった。

榊原健三は、嘗て札幌のヤクザの抗争で大暴れした“始末屋”だったが、現在はその世界を離れている。本作冒頭は、そんな榊原健三をヤクザ時代に縁が在った兄貴分が訪ねている場面から始まる。榊原健三を訪ねた男は、或る女の写真を示すが、それを視た榊原健三は男を殺害してしまう…

榊原健三は、愛していた多恵子と共にヤクザの世界と縁を切った。多恵子とは別れた。多恵子は会社員と結婚し、息子が生まれて普通に暮らしていたが、夫の転勤で札幌に住むこととなったのである。嘗ての兄貴分は、その多恵子の安全を担保に、榊原健三に協力を迫り、彼は激怒したのであった…

榊原健三は、多恵子の存在を知っていて、それをネタに榊原健三に近付く可能性が在る者達を抹殺することを決意した。日頃は“林”と名乗って山小屋に住み、民芸品店に木彫を納めて暮らしているのだが、彼は札幌へ向かった。

札幌では、北海道進出を目論む“関西資本”がそれと結び付くことを考えている勢力の手引きで乗り込んで来ていて、不穏な情勢であった。榊原健三はそこで「多恵子の件を知る者達」を探り、一人での戦いを展開する…

榊原健三は“ワンマンアーミー”というような凄まじい強さである…が、戦いの後には不調も来たし、また関りを持ったために不幸にして命を落とした人達を悼む…そんな彼は、多恵子自身と、多恵子が最も大切にしている息子を護ることに命を賭ける…

確かに本作は「“一発”の作品」という感じだが、「多恵子の息子」が登場したことで、何か「“息子”を見守り続け、変事が在れば命を賭ける」という“榊原健三”という“ヒーロー”が創造されてしまった…と作者は考えて第2作、第3作が登場したのかもしれない。第2作では小学校低学年の、第3作では中学生の“息子”が登場し、“ワンマンアーミー”な強さを持ちながらも「子連れ」というハンデを負うことになる。更に、加齢による衰えも加わるのだ…

いずれにしても、『フリージア』は面白かった!!

『疾走』

東直己の“榊原健三”シリーズ、第3作である。


疾走 上


疾走 下

前作の『残光』から6年を経ている…本作は続編である…

何やら禍々しい感じのプロローグが在り、早速に主人公の近況が語られる…

健三は、普段は“林”と名乗り、山小屋に籠って木彫造りに勤しみ、時々谷の町に下りてきては民芸品店に品物を収めるという生活を続けている。

この6年間で、健三が時々やって来る谷の町は雰囲気が変わった。放射性廃棄物処理施設<えびす>なるものの建設を巡って色々と在ったのだが、それが既に竣工し、稼働し始めている。

健三は、札幌の“業界”では知られたヒットマンだったが、既に堅気になっていた。そして愛した女と、彼女が建設会社(丸高建設)の社員に嫁いで生まれた彼女の息子、恵太の安寧を祈りながら静かに暮らしていた。3人は札幌の社宅に住んでいる。

詩人・エッセイストで居酒屋経営という札幌からやって来た男と出くわした健三は、一緒に彼が淹れた珈琲を楽しんだ後、“みゅーじあむ”と称する<えびす>の広報を行っている施設に入った。そこで、丸高建設の札幌の社宅に住む児童生徒を中心にした見学ツアーの一行がやって来ることを偶然に知った。

健三は、女の息子のことを思い出した。『残光』の事件で小学2年生だった子どもは、既に中学生となっている筈だ。健三は頃合を見計らって、見学のバスを待ち、遠くから子どもの様子を視てみようと考えた…

健三がたまたま見つけた見学ツアーの日、丸高建設のバスは予定どおり現れた。恵太もバスに乗っていた。

バスは<えびす>へ向かった筈だが…なかなか戻って来ない…何かがおかしい…

恵太が加わった一行は<えびす>に入るには入ったのだが…何やらおかしな様子で、結局のところ見学をせずに引揚げる羽目になった。恵太は「見てはならないものを視てしまったかもしれない」という感を抱く…そしてトイレ休憩でバスが停まった際、友達の女の子と2人で密かにバスを離れた…

丸高建設社員の子ども達が乗ったバスに「トラブルが発生したのか?」という話しが伝わり始めた頃、動き始めた男が…昔、健三と縁が在った桐原だ…女の家族の様子を定期的にレポートする調査員を探すように頼まれた桐原は「持谷という探偵を頼む」という話しにしたのだったが、実は自身でやったり、自分の子分に仕事をさせていたのだった。丸高建設を巡る事件で、“林”こと健三から連絡が入る可能性を考えた。桐原は、6年前(『残光』の事件)の事例を思い起こし、“便利屋”を探す…

というようなことで…本作は「東直己ワールド」の主役、脇役が色々と入り乱れ、やや謎めいた健三が、恵太と友達の女の子の2人を連れ、危険な追手から逃れるべく奮戦する…

前作から6年を経ているということは、健三も6歳も年齢を重ねている…その辺りの描写も、なかなかに面白い…

“ネタばれ”で未読の方に御迷惑が及ばないであろう程度にストーリーに言及したが…なかなかに愉しいもので、あっという間に上下2冊を読了してしまった…

『探偵はバーにいる』

↓「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズの最初の作品である…

探偵はバーにいる

シリーズ第2作ということになる、映画化の原案ともなっている『バーにかかってきた電話』で“シリーズ”に出逢い、東直己作品を色々と読んだ…

>ブック/東直己 作品

彼は各作品で“世界”をどんどん深め、広めているのだが、それら全ての出発点がこの探偵はバーにいるである…

ちょっと昔、風俗営業法が変わる前、「ソープランド」が「トルコ」と呼ばれ、エイズがアメリカのホモだけが罹る原因不明の奇病だった頃、俺はススキノでぶらぶらしていた。

↑シリーズのファンにはお馴染みかもしれない、探偵はバーにいるの冒頭の一文である…

「風俗営業法が変わる前」というが、ここで言及される法改正は1984年頃のことのようだ…その辺りの時代が設定されている。作品が世に出たのは1992年なので、文字通り「ちょっと昔」ということになる…

この「ちょっと昔」を振り返るスタイルは4作目の『探偵はひとりぼっち』まで踏襲される…そして“番外編”的な『残光』を挟み、十数年を経た“俺”が出て来る『探偵は吹雪の果てに』になり、以降の“俺”は毎作品年齢を重ね、時代も変わっている…

そういうことだが…独特な価値観の下に、世の中や人々から微妙な距離を置いて眺め、飄然と行動する“俺”は結局“第1作”から変わっていないということが、2作目から最近作まで、加えて“前日譚”に至るまでを全て読了した後に“第1作”を読むということをしてみて、非常によく判った…

本作であるが…“俺”は結局、四半世紀程度を経ても変わらない行動パターンで、方々の店に顔を出してぶらぶらとしているが、バー“ケラー”を連絡先にしている…

その“ケラー”に居た“俺”を訪ねて来たのは、大学の後輩にあたる男であった。学生の彼は、半同棲の彼女が全然帰らず、連絡も取れない状態であることを心配し、研究室で「ススキノで探偵をしているらしい」と噂の“俺”を訪ねて来たのだった…

“俺”はハッキリ断ることも出来ず、後輩の彼女を探そうとする…そこで妙に気になる事件にぶつかる…

ということで、ススキノや札幌を舞台にした物語が進む…最近作に比べると、襲撃を受けたり、少年達と戦う羽目になったりというような場面も多い…また、最近作のキーマンとなった、飲み友達の“モンロー”や、大学の先生であった“西田”も事件の鍵になる人物として登場している…

非常に愉しいシリーズなので、この“俺”のシリーズは広くお奨めしたい…実際…近所の“W”で時々出逢う青年にこのシリーズの話しをしたところ…彼は「出張での移動のお供に」と『バーにかかってきた電話』を入手するに至ったようだ…こういう話しは一寸嬉しい…

本作は、解説めいたようなくどい話しが排された、「“俺”の一人称の語り」が基本なのだが、そういう型で綴られる街は「同時代の現地を或る程度知っている」目線で視てもリアルな感じで、出会う作中人物達の描写も活き活きとしている…

「俺はススキノでぶらぶらしていた」というような時代…実は私も札幌に住んでいた…それを考えると、私は何処かで“俺”と擦れ違っていたかもしれないなどと思う…そう想わせるのも、「思い切り虚構的」である雰囲気と「リアルさ」が同居した、不思議な文章の御蔭であろう…

兎に角愉しい作品だ!!!

『残光』

東直己は、「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズを起点にしながら、「作中世界の“札幌”」で色々な物語を綴り、世界をドンドン拡げて、深めていると思う…

↓そんなことを思わせてくれる作品に出逢った…

残光

本作の主人公は“榊原健三”という…普段は“林秀和”と名乗っている…山でひっそりと彫刻をしていて、作品を麓の民芸品店に時々納めることを生業にしている…

この健三だが、実は秘密が在った…札幌のヤクザの抗争で、一方の陣営で暴れた“始末屋”だったのである…健三はヤクザの世界と縁を切り、自らの静謐な暮らしを維持することと、現在は建設会社社員の妻で子どもも居る、嘗て愛した女の平穏とを只管願っている…

その健三はテレビニュースで、嘗て愛した女が画面に映っていたのを目敏く視付けた。女は、「保育士の女性と小学生2名を人質に立て篭もる男」が居るという現場の中継に映っていた。健三は、彼女の子どもが危ないと感じ、急いで札幌に向かう…

同じ頃…桐原は永年苦楽を共にした相田が難病を患ってしまったことで、病院のことなどで難儀していたが、そんな最中に“人質立て篭もり”のニュースを視た。そして彼は健三が平穏を願う女が画面に映ったことに気付いた…

健三は、嘗ては桐原が居た陣営の人間だった…健三がその世界と縁を切って、女の平穏を願った中、定期的に女と家族の安否を伝える仕事を探偵に依頼した…実はそれをさり気なく引き受けていたのは桐原だった…桐原は、“人質立て篭もり”騒ぎの中、健三が動くこと、更に彼が頼んだ探偵に接触を図る可能性が高いことを思った…

そして…桐原は“便利屋”を使うことを思い立った…

これ以上ストーリーに言及すると“ネタばれ”になってしまうので止めておく…

本作には「ススキノの便利屋」が登場する…これは『探偵はひとりぼっち』と『探偵は吹雪の果てに』との間、若干後者に寄った時期の“俺”が出て来る。ただし、一人称の語りではなく、文章は原則三人称となっている…

危険な男である健三と、飄々とした“俺”とが行動を共にする…これは健三を主人公に据えたシリーズではあるのだが、ある意味では「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズの“番外編”である…或いは、『探偵は吹雪の果てに』以降のシリーズは、本作に登場した「10年以上を経た“俺”を始めとするシリーズのレギュラー陣の様子」を出発点に書かれている…

これは「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズのファンは必読かもしれない作品なのだが…東直己作品が初めての方でも愉しいと思う。

更に…本作の中で、静謐な暮らしと女の平穏を願う健三が、数年前に札幌に現れて一騒動起こしていることに言及が在るのだが…その内容を綴った作品も在るようだ…そちらも非常に気になる…

『半端者』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズの中に入るには入るのだが…

↓これは“番外編”ということになるのか?

半端者(はんぱもん)
↑大学を中退してしまったという“俺”が、未だ大学に繋がっていた時期を扱っている…

“俺”が活躍するシリーズは長く書き続けられていて、作中での時間も25年間程度経過していることになるのだが…その以前の物語…“前日譚”ということになる本作である…

“俺”が活躍するシリーズは、主人公以外にもシリーズを通じて登場している人物達が居るのだが、本作にもそういう「長い長い付き合い」ということになる人物達の“若き日”の姿が登場する…

“俺”が活躍するシリーズは、作品を重ねながら世界が深まっていくような面も在るのだが、本作はその“最深部”を探ってみようとするような試みかもしれない…

本作では、“俺”が一貫して棲んでいる部屋に入った経過や、毎回出て来る“桐原”との出逢いや、“高田”と仲良くなっていく辺りのことなどが綴られていて、シリーズに親しんでいるファンには堪えられない。が、シリーズを知らない人にとっても、「80年代の“半端者”」の青春期の物語として、愉しく読めるものであろう…

例によって、“俺”の一人称の語りと、作中人物達のやり取りで構成されていて、非常に読み易い…

『旧友は春に帰る』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズである…

↓新しい文庫本が登場した!!

旧友は春に帰る
↑一見ヴォリュームが在るが、例によって“俺”の一人称の語りと、劇中人物達のやり取りの文体で、存外速く読了出来てしまった…

冬のある日、“俺”が郵便受けに視付けた封書を開けてみると、それは“モンロー”と呼ばれていた女からの手紙だった…

“モンロー”というのは、既に四半世紀も前にススキノに居た女で、飲み友達だった。彼女は色々と在ってススキノを離れていて、沖縄に移り住んだらしいと承知していた…その“モンロー”からの手紙に“俺”は驚く…

“俺”は手紙に在ったメールアドレスを頼りに、“モンロー”との接触を試みた…“俺”はケータイは使わないが、パソコンのメールは利用している…

“モンロー”の手紙やメールで、彼女は夕張に居ることが判った。そして“俺”に会いたい、更に「助けて欲しい」ということを知る。「北海道を安全に離れたい」というのだ…

“俺”は列車を乗り継いで夕張に向かった。“モンロー”が居るというホテルに着いてみると…何やら妙な連中が居た…

ということで、“モンロー”を巡る事件に巻き込まれていく“俺”だった…今回は、なかなかスピーディーな展開の冒険譚である…

今回は「最初の作品に登場した人物達が四半世紀の時を経て再登場」という趣向になっているのが最大の特徴であろうか?色々と世の中の道具は変わるのだが、相変わらず“気付き”で何時もの<ケラー>に妙な小包が届いてみたりするのが、やや笑えた…

この前の何作かは、なかなかに“社会派”的な雰囲気も漂ったのだが…或いは、この作品で“原点回帰”を図っているのかもしれない…なかなかに興味深い…

『熾火』(おきび)

読了した小説の巻末に在る“解説”に他の作品への言及が在る場合が見受けられる。そういうものに触れると、言及されている作品に強い興味を覚える場合も在る…

↓そういうことで入手した一冊であるが、大変愉しく読了した…

熾火
↑かなり夢中になり、朝、昼、夕、夜、朝と“読書タイム”を設けて読み進んでしまったのだった…或いは、思わずそうしてしまうものが在った…

本作は、「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズの東直己の作品である。

本作の主人公は畝原浩一という。元記者で、現在は探偵業であり、娘と2人暮らしだ。

“畝原探偵”が活躍する作品だが、これもシリーズになっているという。本作は長編4作目ということだが、いきなり本作から読んでも、かなり愉しむことが出来る。

物語の舞台は札幌である…実在の地名と、架空の地名が混じっているが…

畝原は請け負った仕事をこなすため、地階がライブハウスになっているビルを訪ね、用件が無事に終わってビルの前で依頼人達と立ち話をしていた。そこへ、急に異様―血塗れだった…―な小さな少女が足下に現れ、脚に絡み付いた…畝原は愕き、救急車を呼んでその少女を助けた…

翌朝になって友人の女性、姉川明美から連絡を受けた。姉川はNPOの役員で、畝原が助けた少女のケアをする仕事を請けたようだった。少女が収容された病院で、畝原は姉川と会う約束をした…

ということで、恐るべき事態が起こり、とんでもない児童虐待という事件や、不正を隠し通そうとする警察の動きなどが絡まり、物語はアップテンポに展開する…

本作は、畝原の一人称の語りと、他の劇中人物達とのやり取りという文体で、雰囲気は多少“俺”が活躍するシリーズに似ている…“俺”は、やや古臭い言い方だが、「風来坊」という感じである…畝原はもっと真面目で、娘との暮らしを大切にしていて、姉川との関係も真面目だ…

本作には、“俺”のシリーズの『駆けてきた少女』に出て来る、警察の不正を暴こうとしていた動きの関係や、あの作品に高校生として登場した劇中人物の「その後」が出て来る…それも面白い…

とにかくも、なかなかに愉しいシリーズにまた出逢った!!

『探偵、暁に走る』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…

↓この作品で、“俺”は50歳になった…

探偵、暁に走る
↑50歳になっても、“俺”は相変わらずである…

「独自の価値観を保ち続け、独特な“立ち位置”で昨今の世相を見詰める男」という風情の“俺”だが、今作辺りになると、「昨今の様子が酷く疑問」というニュアンスの考え方が吐露されている場面が多くなっている…それを読んで…かなり共感を覚えてしまったりするのだが…或いは、そうであるからこのシリーズに嵌ってしまったのであろう…

地下鉄に乗っていた“俺”は、多少酔った状態で地下鉄に乗り込んで来た、少し顔の売れたイラストレーターの近藤が乗り込んで来たのを見掛けた。近藤は、マナーの悪い若者といきなり揉め始めた…“俺”は間に入って、近藤を降ろそうと一緒に次の駅で下車し、その場をとりあえず収めた…そんなことが切っ掛けで、“俺”は近藤と酒を酌み交わした…

やがて“俺”は近藤と友達付き合いをするようになった…なかなか愉しかったのだが…ある日の未明、近藤が刺殺されてしまった…

“俺”は近藤が死に至ってしまった真相を探ろうと動き始める…そして得体の知れない様々なものが見え隠れする…

今作では、“俺”は近年色々と問題になっている様々な犯罪と対峙することとなる…そして、かなり危険な目にも遭ってしまう…

或いは“第2期”の、現在文庫で読める作品の中では、最も力が入った作品かもしれない…かなり引き込まれるものが在った…

『ライト・グッドバイ』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…


ライト・グッドバイ

本作は“俺”の「こだわり」と、その「対極」が対比されるような感じの場面が多く、一寸愉しい…

“俺”に接触をしてきたのは、“第1期”シリーズで登場した経過の在る元刑事である。“第1期”の時期には現役であったが、現在は退職している…

この元刑事が頼んだ仕事…ある男と“飲み友達”になって、男の家の中を何とか視てくるというようなことだった…

問題の男とは…花屋の店主だった男であるが、花屋でアルバイトをしていた女子高生が行方不明になった経過が在った…男が女子高生の行方不明に関与しているとは思われるのだが、家宅捜索は出来ずに居たのである…

ということで、“俺”はなかなか苦労しながら、問題の男の秘密を明らかにする…なかなかに面白い…

『駆けてきた少女』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…


駆けてきた少女

この作品は、複数の異なる作品を組み合わせて“全体像”が描かれる大きな物語の一部を成す作品になっているらしい…このことは後から知ったのだが…それはそれとして、単品でも充分に面白い…

“俺”は訳の判らない若者に刃物で腹を刺されてしまった…病院に収容された…

病院には、霊能者を自称する、アパートの管理人をしていて、部屋にススキノで働く女性や高校生等が集まってくるという不思議なオバちゃんが見舞いに現れた。彼女は、出入している女子高生が何やら妙なので調べて欲しいなどと言う…

怪我が思ったより軽く、退院出来た“俺”は、オバちゃんに頼まれた話しを記憶に留めつつも、自分を刺した若者を探し出そうとする…

ということで、“俺”が探り始めると事態は妙な進展を見せ始める…

これもなかなかに面白い…

『探偵は吹雪の果てに』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…

↓第5作である…

探偵は吹雪の果てに

第4作までは、1980年代半ばから末辺りが想定されていて、“俺”は30歳前後だったのだが、今作では十数年を経て40代半ばに差し掛かっている…シリーズのこれ以降の作品は“第2期”などと呼ばれる場合もある…

“俺”は相変わらず「ススキノの便利屋」である…

“俺”は知り合いの店でヤクザ者が暴れていると聞き付け、それを止めに行った…場を収めて帰ろうとすると…追い払ったヤクザ者達が待ち伏せしていて、数人掛かりで殴られて気を失ってしまった…

“俺”が気付けば、そこは病院だった…その病院で出会ったのは、昔付き合っていた純子だった…彼女は付添婦として働いていたのだった…

純子とは、とりあえず再会して別れて…というつもりであったのだが、純子は道北の小さな町のある男に手紙を届けるように“俺”に頼む…“俺”は用事を引き受けた…

というところから“俺”の思わぬ大冒険が始まる…

やや懐かしい感じがするススキノを舞台にした“第1期”も愉しいのだが、「独自の価値観を保ち続け、独特な“立ち位置”で昨今の世相を見詰める男」という風情の“俺”が活躍する“第2期”は更に愉しいと思う。

『探偵はひとりぼっち』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…

↓シリーズ第4作である…

探偵はひとりぼっち

“マサコちゃん”はオカマなのだが、“俺”の友人の一人である。“彼女”は素人がマジックを披露するテレビ番組が気に入り、出場を目指して練習を重ね、やがて念願を果たした…

そういう愉しいことが在ったばかりのある日、“マサコちゃん”がマンションの駐車場で遺体になって発見された…複数の者に殴る蹴るの激しい暴行を加えられてしまったらしい無残な状態だった…

“俺”は何とか犯人を突き止めようとするのだが…街に噂が駆け巡っていた…“マサコちゃん”は若い頃、東京で現在は札幌選出の大物代議士になっている男と交際が在り、その関係で殺害されたという、実に物騒な噂だった…

物騒な噂のためか、何時もは色々と協力してくれる人達が冷たい…“俺”は独力で事件の真相を追う…

サスペンスなので仔細はここに綴らないが…これもなかなかに好い!!

『消えた少年』

「ススキノの便利屋」こと“俺”が活躍するシリーズ…かなり気に入ってしまい、続々と読んでいる昨今である…

↓シリーズ第3作である…

消えた少年

前作で、“俺”がムシャクシャしながら歩いていて、チンピラが女性にちょっかいを出している所に出会す場面が在った。“俺”はチンピラを追い払い、女性に連絡先のバー“ケラー”のマッチを渡した。

今作ではそのマッチを渡した女性が登場する。女性は春子という中学校の教師で、家出した生徒から「○○へ来い」とススキノの店を指定する電話を受け、どんな場所かも判らず、困惑しながら“俺”の前に現れた。そこは「一寸評判のワルの巣窟」であった…“俺”は春子と、友人の高田を伴ってそこに乗り込み、生徒の翔一を救い出した。

その後…街の映画館で翔一と出会した“俺”は、喫茶店で台の映画好きである彼と話して意気投合するというようなこともあった…

そうしていると春子が連絡を寄越した。翔一と仲が良かった生徒が遺体で発見され、翔一が行方不明だというのである…

“俺”は翔一の行方を追う…

サスペンスなので仔細はここに綴らないが…これを読んでこのシリーズが益々気に入ってしまったのだった…

『バーにかかってきた電話』

「或る程度馴染みな地域を舞台にした物語」というのは、それだけでお楽しみが多少増える場合も在る。勿論、それは決定的であるとまでは言えないことでもあるのだが…

私にとって“札幌”は少年時代に長く住んでいた「育った街」ということになり、何時の間にか離れてから久しくなってしまってはいるのだが、今でも年に何度か立寄る場所である。

↓その“札幌”が舞台となっているミステリーに出逢った…

バーにかかってきた電話
↑「“札幌”が舞台だから愉しい」ということに止まらない作品だ。なかなか軽妙な物語がなかなかに好い!!

これは「警察モノ」ではない。「若干はみ出し者」な主人公が“事件”に関っていくというスタイルの作品である…

主人公の“俺”(名前は出てこない…)は、自称「ススキノの便利屋」である。何時も寄るバーに電話を貰えば連絡が着き、仕事の料金は指定口座に送金してもらうことにしている…何かで出逢った人には、そのバーのマッチを渡し、場合によっては指定口座を伝えるというようにするのが“俺”の流儀ということになる…

作品は、終始“俺”の一人称で綴られている。読者は、“俺”の冒険を読み進めながら追体験出来るような形式である。これが意外に愉しい!!

“俺”が何時ものバーに行くと電話が入った。先方は“コンドウキョウコ”を名乗る女性だ。名前に覚えはなく、電話の向こうの声や話し方に該当する人物も思い当たらない…先方は既に指定口座に金も送ったので、仕事を引き受けて欲しいと言う。

女性が頼む仕事というのは「ある会社を訪ね、そこの社長にある話しをして、その反応を見て、また電話をした時に報告して欲しい」という、やや要領を得ないものであったが、“俺”はそれを引き受けた…その引き受けた仕事に着手してみると…なかなかに怖い事件が待っていた…

ススキノで、博打をやって日銭を稼いで暮らす風来坊である“俺”だが、色々と知恵を使って、関ってしまった事件の謎を解き明かしていく…若干、コメディー調な味付けも感じられるのだが、内容的にはなかなかにハードかもしれない…

この作品の単行本は1993年に出ている。ということで、作品世界は1980年代後半から1990年代初めな雰囲気であり、「一寸だけ懐かしい…」ような感じもする。なかなかに気に入った!!

近く、この作品を原案とする映画も登場するらしい。そちらも愉しいかもしれない…