『三日間の隔絶』

↓紐解き始めると夢中になり、頁を繰る手が停められなくなった作品だ。

三日間の隔絶 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-13)




三日間の隔絶 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-14)



↑スウェーデンの小説の翻訳である。ストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズだ。加えて、潜入捜査員のピート・ホフマンも登場する。「ダブル主人公」というような体裁でもあるのだが、そういう体裁としては4作品目ということになる。

実際にスウェーデンを含む欧州諸国で問題になっている事柄に題材を求めながら、(スウェーデンの首都である)ストックホルムで執念の捜査を展開する大ベテランの警部と、息詰まる現場の闘いを勝ち抜く腕利きの工作員的な潜入捜査員との「ダブル主人公」というような体裁は、なかなかに読み応えが在る。本作は、その「ダブル主人公」の双方が、互いに助け合うべく各々の活動を展開して行くというようなことになって行く。

上巻の冒頭は「過去」という短い纏まりから起こる。

5歳の誕生日を祝ってもらったばかりであるという女児が「ハッピーバースデー」の歌を歌ってはしゃぎ、アパートの室内で飛び跳ねている。アパートの中には兄、姉、父母が在るのだが、彼らは一様に全く動かない。そういう中で女児は飛び跳ねてはしゃいでいる。

アパートの前に人が集まっている。子どもが騒ぐ声がして、妙な臭いが漂い、何やら異様であると近隣住民が通報し、警察が駆け付けていた。警察関係者の先頭に立っていたのはエーヴェルト・グレーンス警部だった。とりあえずアパートに踏み込むことを決したグレーンス警部は、その室内で父母と兄、姉が殺害された状態で、遺体が在るアパートで飛び跳ねてはしゃぐ女児を発見した。「一家惨殺事件」として、グレーンス警部を始めとする警察関係者は捜査に着手するのだが、グレーンス警部は発見された5歳の女児を保護し、里親に託すことが叶うように奔走した。

そして「現在」という本編が始まる。

グレーンス警部を訪ねて来た捜査員が古い書類を持って話をする。住居不法侵入と見受けられる事案で通報を受けて捜査をしていたが、嘗て事件が在った現場に相当し、古い書類に「何か在れば伝えられたい」とグレーンス警部の名を添えたメモが在ったのだという。グレーンス警部は、一課が殺害されてしまった中に取り残された5歳の女児を保護した17年前の件を思い出した。

グレーンス警部は、その17年前の一件を振り返ろうと、そして女児のその後に纏わることを知ろうと古い書類を閲覧しようとするのだが、異変に気付く。旧い書類が如何いう訳か無い。何者かが持ち去った、盗んだとしか考えられない状況だ。そうなると益々この件が気になってしまう。

グレーンス警部がこの女児の件、一家惨殺の件を調べ始めて、動き回ろうとしていた時、考え事をしていた何時ものカフェにエリック・ウィルソン部長が「やはりここに居ましたね」と現れる。そして発生した殺人事件の捜査を是非担当して欲しいと言い出した。グレーンス警部は断ろうとするが、ウィルソン部長は是非にと強く言う。一家惨殺の時と同じような具合に銃で撃たれていて、死亡したのは一家惨殺事件で被疑者として捜査線上に浮かんで、結局逮捕に至らなかった人物だったのだ。グレーンス警部はこの件に取組み始める。

他方、ピート・ホフマンである。潜入捜査員として様々な活動に従事した経過が在るホフマンだが、ストックホルムで落ち着き、妻、2人の息子、生まれた娘と家族で平穏に暮らしていた。警備会社を営み、順調に業務を進めてもいた。そのホフマンは謎の脅迫者に悩まされ始めた。ホフマンを潜入捜査員として最初に運用したウィルソン部長が当時綴った極秘書類が盗まれたか、勝手に写し取られたと見受けられ、ホフマンの正体を方々に明らかにしてしまう、また家族に危害を加えると脅し、要求する行動を取らせようとする。その行動とは、武器密売組織が新しい武器を売り出す宣伝のために、組織犯罪に殴り込んで壊滅的打撃を与えるということを求めるものであった。

警察の機密が漏洩しているらしいという状況下、ホフマンはグレーンス警部に接触する。そして2人の共闘が始まるのだ。

こういう経緯で進む上下巻の物語だが、本当に一気に読み進めてしまった。過去のシリーズの中でも、本作は殊更に面白い。「機密の漏洩?」という事態で慎重であると同時に、大胆にグレーンス警部が動き、推論を巡らせる。他方で腕利きのホフマンは、事態の核心に着実に迫る。そして明かされる意外な結論である。

或る意味では「最もこのシリーズらしい」という魅力が溢れる作品かもしれない。かなり夢中になった。

『三時間の導線』

↓スウェーデンの小説の翻訳だが、夢中になった。

三時間の導線 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




三時間の導線 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑本作は、ストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズで、凄腕の潜入捜査員のピート・ホフマンが登場するようになって「ダブル主人公」というような感じになってから3作目ということになる。

エーヴェルト・グレーンス警部は現役最年長の捜査員という感じで活動している。短気で怒りっぽく頑固で、押しが強く、執念深く事件を追う、やや付き合い悪い感じの男だ。他方で、妻が事故で動けず、話すことも出来ない状態になって長く施設に収容されていて、その妻を喪ったという経過の在る孤独を抱えているような男でもある。或いは、私生活での孤独の他方に、職務に精励することだけを生き甲斐にしていたような面も在る。こういう設定は、シリーズ各作品で示唆されている。本作でも、早朝の自由な時間に、他界した妻が居た施設が見える辺りに座って、想い巡らせながら過ごしているという冒頭辺りの場面の描写で、設定が示唆されていたと思う。

物語はそのグレーンス警部が連絡を受けたという辺りから起こる。

グレーンス警部が受けた連絡は奇妙な内容だった。大きな病院の遺体安置所で、全く記録の無い遺体が紛れ込み、記録に在る遺体の数よりも1体増えてしまっているという話しだった。遺体安置所の担当者からの通報で調べることになったので、現場に向かって欲しいという連絡を、グレーンス警部は首を傾げながら聴き、現場へ向かうことにした。少し長く警部の補佐役を務めるスヴェン・スンドクヴィスト、やや若い優秀な女性捜査員のマリアナ・ヘルマンソンを伴い、グレーンス警部は現場での捜査に着手する。

真面目で熱心に仕事に取組んでいるという風な、遺体安置所の担当者が言うように、正体不明な遺体が1体紛れ込んでいるという不思議な状況を目の当たりにしたグレーンス警部は、問題の遺体を法医学者の所に運んで検分した。窒息死と見受けられる遺体は、西アフリカ、または内陸部の中央アフリカの出である人種的な特徴が見受けられるということだが、身元を知るための手掛かりは皆無である。

そうしている間に、遺体安置所に更に別な把握していない遺体が紛れ込んでいるという通報が入る。運び込まれた可能性の在る経路を徹底的に探ると、とんでもないモノに行き当たった。港のコンテナの中に夥しい数の遺体が在ったのだった。警察に通報をした遺体安置所、他の遺体安置所でも発見された遺体と合わせると、総数で73体にも上りグレーンス警部達は衝撃を受ける。コンテナに大勢が押し込められていて、呼吸が出来ずに中に居た人達が亡くなったと見受けられる状況である。

アフリカ諸国等から欧州諸国を目指してやって来る人達の問題が在るのだが、金を取って渡航をさせるとでもして、コンテナに限度を超える程度の人数を押し込んで、多数が生命を落すという状態が生じている。グレーンス警部はストックホルムでこのコンテナを迎え入れるということになっていた関係者が必ず在る筈で、それを逮捕しなければならないと強く思った。そうしていれば携帯電話の着信音が聞こえた。発見された遺体の中から、着衣の裏に縫い付けるように、生前に死者が所持していたらしい携帯電話が見付かった。見付かった携帯電話を鑑識で確り調べてみた。そうすると、意外な人物の痕跡が見付かったのだった。

上巻は、大量の死者が発生していた件を巡り、グレーンス警部が事件関係者を何としても逮捕すると熱いモノを滾らせ、手段を択ばないと、あのピート・ホフマンに協力を依頼するというようなことになる。

下巻は、ホフマンの活躍でもたらされた情報、スヴェンとヘルマンソンの調査と分析とで“敵”の様子が見え、緊迫した「戦い」が展開する。そしてグレーンス警部は意外な黒幕に辿り着き、対峙して行くことになる。

執念深く、強い押し出しで関係者に切込むグレーンス警部は、本作では事案に携わる人達と心を開き合うというような場面が在る。そして仕事一筋の老刑事が、「許せん!」と熱いモノを滾らせる、人々の安寧と生命、その生命の尊厳を護るという警察官の矜持を胸に奮戦する様子が実に好い。

色々と経緯が在って、グレーンス警部に協力して闘うことになったピート・ホフマンは今作でも好い感じだ。クールで、何処までも計算して動いているのだが、少し見当がズレても動じずに思惑を遂げてしまう。悪漢達を向こうに回しての大奮戦だが、ストックホルムに残している妻や未だ幼い息子達への思いも熱い。今作では、グレーンス警部がこのホフマンの妻子達と関わることにもなる。

現実にスウェーデンを含む欧州諸国で問題になっている事柄を織り込みながら、劇中人物達の物語が展開するというのが、このグレーンス警部のシリーズの面白さだと思う。今般も何か凄く夢中で作品を読んだ。

『三分間の空隙』

↓紐解き始めると「続き」が酷く気になってしまう。そして頁を繰る手が停められなくなってしまう。そんな作品であると思った。

三分間の空隙【くうげき】 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




三分間の空隙【くうげき】 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑本当に停まらない、停められないという感じで読み進め、上下2巻の文庫本という量が全く気にならなかった。アッという間に読了に至って余韻に浸る感だ。

スウェーデンの作品の翻訳である。本作はストックホルム警察のエーヴェルト・グレーンス警部が活躍するシリーズの一冊ということになる。シリーズの途中から、凄腕の潜入捜査員であるピート・ホフマンが登場している。作品はグレーンス警部が主要視点人物になる部分、ホフマンが主要視点人物になる部分、その他の作中人物達が主要視点人物になる部分が織り交じって展開する。本作もその形が踏襲されており、ホフマンの部分とグレーンス警部の部分とが織り交じるようになって行く。

グレーンス警部という人物は、ストックホルム警察の現役捜査員では最年長というような年代で、一緒に居て愉しいというタイプでもない偏屈な男であり、事故で植物状態になった妻が長く施設に在って、その妻が亡くなってという複雑な個人の事情も在るのだが、執念深く捜査に取組む非常に老練で辣腕の刑事である。少し不思議な人物という感じがしないでもない。現場に出る、私用で出るという以外は、自宅アパートか警察本部の自室に居ると言われているような変わり者なのだが、勘と“押し”で事件関係者に迫って、事件を解決に導く手腕はなかなかに見応えが在り、シリーズで描かれる「社会の闇」にも関わる、見た目以上に重大な真相に肉薄するのである。

本作の上巻ではこのグレーンス警部の出番は少し少ない。

物語はコロンビアの様子から起こる。ストリートに生きる少年の様子が描かれる序章の後に本編が始まる。エル・メスティーゾと呼ばれる、コカインを方々に売るようなことをしているゲリラ組織の幹部の傍に、ボディーガードでもある側近の欧州人の姿が在る。「スウェーデン人」という意味のエル・スエコという通り名で知られ、北欧の何処かの国の出身らしいが詳しい素性は判らない。このエル・スエコという人物の正体がピート・ホフマンだ。

スウェーデンを出国したホフマンは、ストックホルム警察の犯罪捜査部長であるエリック・ウィルソン警視正が国際研修で知り合った米国DEA(麻薬取締局)のスー・マスターソン長官の仕事を請けることになった。コロンビアの麻薬組織の情報を潜入捜査員として伝え、大規模な麻薬取引を阻み、コカインを精製するプラントを攻撃する手引きをしているのである。

そういう他方、米国ではティモシー・クラウズ下院議長が、麻薬撲滅作戦を推し進めていた。クラウズ下院議長は麻薬に溺れてしまった娘を喪った経過が在る。他界した時に娘は24歳で、そういう悲劇の根を絶つべく、クラウズ下院議長は麻薬対策に努力し、コロンビアに展開した対策部隊の現場視察にも積極に出掛ける程に入れ込んでいた。

そんな或る日、「問題」は生じた。現地視察をしていたクラウズ下院議長が誘拐されてしまい、生死不明になってしまった。米国政府は、トランプの13枚のカードに見立て、コカインを方々に売るようなことをしているゲリラ組織の幹部の名を挙げ、順次彼らを抹殺すると宣言した。その13枚のカードに見立てたリストに「エル・スエコ」が入っていた。

米国のスー・マスターソン長官から報せを受けたエリック・ウィルソン警視正は驚き、何とかしたいと思う。そんな事案に取組もうとしていた時、酔っ払いとの揉め事が拗れて拘置所に入れられてしまったグレーンス警部を、上司として貰い受けるようにという妙な話しが生じる。グレーンス警部を貰い受けたウィルソン警視正は、グレーンス警部に頼むことにした。「エル・スエコ」ことホフマンの支援をである。

下巻は目が離せない展開が続く。

グレーンス警部はコロンビア現地や米国を密かに訪ね、独特な“押し”で関係者と色々と話し合いながら、ウィルソン警視正が何とかしようとしているホフマンの事案に取組む。

グレーンス警部はホフマンを間接的に知っていた。スウェーデンでの荒稼ぎを目論むポーランドのマフィアへの対策に係る潜入捜査作戦でホフマンが活動していて、刑務所内で事件が発生してしまった時、グレーンス警部は警官隊の指揮を命じられて現場に入ったのだった。ホフマンを射殺せよという話しになったのだが、射殺は果たせなかった。やがて、ホフマンが脱出したらしいということはグレーンス警部も把握はしていた。

そういう縁が在るホフマンを、グレーンス警部は何とか支援しようとする。ホフマンの側は、「処刑リスト」から逃れるべく、独自にクラウズ下院議長の一件に尽力しながら、何とかグレーンス警部と共に脱出を図ろうとした。グレーンス警部は、スウェーデンでホフマンが積み残している問題の軟着陸を思案する。

こういうようなことでダイナミックに展開する物語で夢中になってしまった。これまでのシリーズ作品とは、少し色合いが異なるかもしれない。が、凄く面白い!!

『三年間の陥穽』

「何やら面白そう…」という小説に出くわし、以前に愉しんでいたシリーズの最近作であることが判れば「是非!」と手にしてみたくなる。

↓スウェーデンの小説の翻訳だ。ストックホルム警察のグレーンス警部が活躍するシリーズである。

三年間の陥穽 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-15)




三年間の陥穽 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMル 6-16)



↑このシリーズは、現実に起きている問題、社会の暗部を取材した成果を織り込んだ内容であると同時に、「意外な展開」を見せて、なかなかに面白い物語に仕上がっている。シリーズ作品を読んだのは、何時の間にか随分と以前になってしまったが、その間も作品は発表され続けていて、未読作品が少し多くなった。それはそれとして、本作でシリーズに改めて出遭えて善かった。

本作は、個人的な色々な事情を抱えながらも、過ぎる程に熱心に仕事に入り込んでいる頑固な老警部―本作では60歳代に入っていて、ストックホルム警察本部の最年長グループのようになっている…―のエーヴェルト・グレーンスが事件に向き合うのだが、グレーンスが頼みにしている、現場潜入要員のピート・ホフマンの活躍も痛快だ。物語は大まかに、グレーンスの視点で綴られる部分とホフマンの視点で綴られる部分から成っている。

物語の冒頭、グレーンス警部は墓地に在る。他界した妻の墓参りで、色々と想い巡らせている。

シリーズを通してこの妻の件が出て来る。事故で頭を負傷して、意識が無い状態で長く生きていたが、終に心停止で死亡ということになって埋葬されたという経過だった。

墓地の何時も腰を下ろしているベンチで、グレーンス警部は不思議な女性に出くわした。女性は幼い娘を失ったと言う。娘は駐車場で車から連れ去られ、行方不明となり、3年経った頃に“死亡認定”したのだということだった。墓地には「空の棺桶」を埋葬したのだと語った。

グレーンス警部はこの出来事が引っ掛かり、出くわした女性の娘が行方不明になったという日に、別な4歳の幼い少女がショッピングモールで姿を消して行方不明になったという件が在ることを知った。少女が何処かで存命なら7歳になっている筈だ。

やがてグレーンス警部は3年前の事件を担当している警部補に事情を訪ね、娘が行方不明になったという一家を訪ね、間もなく“死亡認定”をするということ、未だ妹が居ると信じ続ける双子の兄のためにもそうして区切りとしたいとする両親の話しを聴く。それでも探すべきではないかと、グレーンス警部は両親と揉める。

こうした一連の様子の中、グレーンス警部の様子が少しおかしいと感じた警部補は上司の部長に進言し、結果として部長はグレーンス警部に長期休暇取得を厳命した。

暫く休暇の日々を過ごすグレース警部だが、オフィスに忍び込んで、帰らずに眠ってしまうことも多いオフィスのソファ―シリーズでは、深夜や早朝にこのオフィスに据えたソファに在るグレーンス警部という場面が多く在る…―で考え事をしていれば、他部署の知り合いの捜査員から情報が寄せられた。行方不明から“死亡認定”となった幼女の件でグレーンス警部が揉めた経過を知っていた捜査員が寄せたのは、ネット上に出ていた、幼女が身に着けていたという「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真だった。これは母親の手作りということで、本人の所持品である可能性が非常に高いと見受けられた。行方不明の少女の足跡とも言える。

こうしてグレース警部は、幼い子どもを弄ぶ、虐待をするというような小児性愛という傾向の者達が在って、色々な国々に在る「同好」の者達のグループが色々と在るということを知る。

やがて「青い蝶の着いた髪留め」が写った写真の出処を辿り、グレーンス警部は隣国デンマークのコペンハーゲン近郊に在る警察署に至る。小児性愛グループの問題に懸命に取組む、IT関係担当の女性捜査員が仕事をしている場所を訪ねたのである。

上巻ではグレーンス警部が事案に出くわし、大変な事件で、許されざる罪を犯している者を逮捕してグループを壊滅させなければならないと挑戦を始める。他方で、永年の疲労や、個人的な悩みを余りにも長く抱えて精神状態が好くないかもしれないと、心配する職場関係者に仕事の現場から遠ざけられてしまっている。それでも動かずには居られない訳だ。

グレーンス警部は、デンマークの女性捜査員やその他の人達の協力も得ながら活動を続ける。

暗号化したネット上のやりとりで、幼い子どもを弄んで虐待をしている写真等をやりとりしているグループのリーダーと目される人物と、他のメンバーが会うという相談になっているらしいと判明した。そこに、デンマーク人のメンバーになりすました潜入要員を送り込み、何とか取押え、同時進行で各国の警察によって各メンバーを逮捕するという計画が立てられた。

下巻ではグレーンス警部の依頼を受け、逡巡しながらも「心の傷の故に何とか問題の解決に力を尽くして欲しい」とする妻の願いも受け、問題のグループの会合が行われる米国のサンフランシスコに乗込むホフマンの闘いが大きな位置を占める。

ホフマンの闘いの行方と、デンマーク警察が各国警察の協力で進めた作戦の行方、そして「意外な展開」が観られる。“続き”が気になって、ドンドン読み進めて素早く読了に至ってしまった。

墓地での奇妙な出会いでグレーンス警部が知った事案は3年前の出来事だった。そしてその3年前から、多くの人達が陥穽(=落とし穴)に落ちてしまっていたということになる。それが明らかにされる。

卑劣な犯罪への憤りを静かに燃やしながら考えを巡らせるグレーンス警部の部分と、腕利きな工作員というように冷徹に任務に取組んで悪辣な者達を倒すホフマンの部分との、底流が通じていながらも、少し対照的な感じの部分が組み合わさって構成される物語が凄く面白かった。「静」と「動」とが組み合わさって、力強く物語を推し進めているというような様子だ。

それにしても、本作の作中の事件だが、実に「気持ち悪い」という感じだ。こういう「暗部」を物語の形で告発するというのも、このシリーズの特色であろう。

『苦悩する男』

↓時々愉しんでいたスウェーデンの刑事モノのシリーズである。シリーズの内容として“最終章”に相当する作品でもある。

苦悩する男 上 (創元推理文庫)




苦悩する男 下 (創元推理文庫)



↑自身にとっては「遠い国の小さな街に住んでいる愛すべき男」というような親近感を覚えるような主人公、クルト・ヴァランダー刑事が向き合う“最後の事件”に夢中になってしまった…

スウェーデン南部のスコーネ地方は、なだらかな地形の中に様々な街が連なっていて、隣国のデンマークや対岸の欧州大陸の国々に通じる港、または巨大な橋梁を擁するような地方である。そのスコーネ地方で最大の都市、デンマークのコペンハーゲンの対岸に在るマルメーから少し東側にイースタ(“イースタッド”と記す場合も多いが、このシリーズの翻訳では専ら“イースタ”とされている。独特な抑揚のスウェーデン語でここの地名を発音すると、多分“イースタ”と聞こえるのだと思う…)という、人口規模が然程大きくない港町が在る。クルト・ヴァランダーは、このイースタの警察署に勤めている刑事だ。

クルト・ヴァランダー刑事を主人公とするシリーズは1990年代に好評を博してドンドン作品が登場した。本作の前に、「若き日のヴァランダー」という内容の短編集が登場し、そこから間隔が開いて本作が登場している…

本作のクルト・ヴァランダー刑事は59歳になっていて、もう少しで60歳を迎え、やがて警察の仕事を退くことも現実味を帯びているような状態である。娘のリンダも警察に奉職していて、マルメーで刑事になっている。そのリンダが、マルメーとコペンハーゲンを往来しながら金融関係の仕事をしているパートナーと同棲し、娘を授かった。クルト・ヴァランダー刑事も“祖父”ということになったのだ。

クルト・ヴァランダー刑事は、年齢相応の衰えを自身で「認めたくなくとも自覚せざるを得ない…」という状況に在った。そんな中、思いも寄らない失態で謹慎する羽目に陥った中であったのだったが、娘のリンダから連絡を受けた。彼女のパートナーであるハンスの両親から、ハンスの父親であるホーカン・フォン・エンケの誕生日の祝宴に招かれたということだった。クルト・ヴァランダーは招きに応じて、ストックホルムでのフォン・エンケ家の宴席に出掛けた。

娘のリンダのパートナーであるハンスの父親、ホーカン・フォン・エンケは潜水艦の艦長を経験している海軍高官であった人物だ。「フォン・〇〇」というのは貴族の流れを汲む家柄の姓で、クルト・ヴァランダーは事前には少々身構えていた感であったが、ホーカン・フォン・エンケは温かく礼を尽くして彼を迎えた。祝宴の参加者が会場内の方々で歓談をしている最中、ホーカン・フォン・エンケはクルト・ヴァランダーを会場の隅の小部屋に誘う。少し静かな中でゆっくり語ろうということなのだが…ホーカン・フォン・エンケはクルト・ヴァランダーに自身が嘗て関わった、1980年代初め頃の潜水艦の領海侵犯疑惑と事案への対応に関連する軍や政府での色々な出来事というようなことを徐に語り始めたのだった。

クルト・ヴァランダーは、妙な話しの“聴き役”をやらされてしまったのだったが、話しをしていた際のホーカン・フォン・エンケの様子に「引っ掛かる感じ」を抱いていた。そういう記憶も未だハッキリ残るような時期に連絡を受けた。ホーカン・フォン・エンケが、日課にしていた散歩に出たまま何時までも戻らず、失踪してしまったのだという。

「身内の問題」ということで、クルト・ヴァランダーはホーカン・フォン・エンケの失踪について、可能な範囲で調査を行うということにした。

こうしてホーカン・フォン・エンケの失踪を巡る様々な事柄と向き合うことになったクルト・ヴァランダーは、次第に事の真相に迫って行く…それが本作の物語である。

クルト・ヴァランダーを生み出したヘニング・マンケルは2015年に他界している。内容的に“最終章”の本作は2009年に発表されている。従って本作は、その2009年頃の少し前の出来事ということになっている。

ヴァランダー刑事が活躍するシリーズ…1990年代に入った辺りで、難しい年代の娘が在って、妻との関係が面倒になって別居、離婚という状況になる男、1970年代位に社会に出た世代の男が主人公だが、1990年代というのは、そういう世代の人達が想像するような範囲を超えてしまうような出来事も平気で起こってしまうような時代に突入していた…そんな中でヴァランダー刑事は奮戦する。そして、他方でヴァランダー刑事自身の人生の頁も繰られている。

そんなシリーズが幕を引いた…読後に何やら大きな感慨を覚えてしまった…

『ピラミッド』

↓慣れ親しんだシリーズの文庫本が久々に登場していた!スウェーデンの小説の翻訳…クルト・ヴァランダー刑事が活躍する作品である…

ピラミッド (創元推理文庫) [ ヘニング・マンケル ]



↑本書は5篇の作品で構成されている。ドンドン読み進めて、素早く愉しく読了した。

クルト・ヴァランダー刑事…1990年代のシリーズで活躍しているのだが、スウェーデン南部のイースタという街の警察署で活動している。1990年代のシリーズでは40代のベテラン捜査官で、作中に色々と個人的なことも描写されていて、やや「冴えないおっちゃん」という風も在るのだが、捜査現場の纏め役的なポジションで、複雑化している社会を反映したような難事件に挑んでいる…

このシリーズの人気が高まって行く中で、「1990年代のシリーズで描かれる時期の以前のクルト・ヴァランダー刑事??」というファンの声も在って、作者のへニング・マンケルはそういう作品を綴った。雑誌に発表されたモノも含めて、そんな「1990年代のシリーズで描かれる時期の以前のクルト・ヴァランダー刑事」が5篇在り、それが集まった1冊が本書である。

1960年代末にクルト・ヴァランダーは警察に奉職していて、そういう時期という設定の作品が在り…1970年代に若手刑事として活躍し始めている時期という設定の作品…それ以降の時期の作品が本書には収められている。

クルト・ヴァランダー刑事のシリーズには、元妻のモナ、娘のリンダ、(何故かファーストネームが設定されていない)画家である「親父」(=父親)という身近な人達も登場する。「シリーズ以前」という本書の各篇にも彼らが登場している。

モナに関しては、交際中、結婚後、別居、離婚へという「関係の変遷」が各篇を読めば判るようになっている。リンダに関しては、後に警察官になってクルト・ヴァランダーの居る署で活動するという作品も在るのだが、本書の一部でも登場する。父親に関しては、互いに反発しているかのような風でありながらも、何やら強い絆のようなものが在るようで、他方で父親は傍目に変わり者に視える面も在る人物だが、それは本書の各篇でもシリーズでも変わらない…5つ目の篇ということになる、書名にもなっている中篇『ピラミッド』では、“親父”が忙しい最中に一寸した厄介事を起こして、クルト・ヴァランダーが気を揉んで急遽奔走するという出来事も在る…

事件が発生し、色々と迷いながら、各々の切っ掛けで突破口が開かれ、解決して独特な余韻…というクルト・ヴァランダー刑事のシリーズの面白さ、魅力が高密度で詰まった一冊で、主人公との「再会」を存分に愉しんだ…

大変に残念だが、作者のヘニング・マンケルは2015年に他界している…故に新しい作品は出ないが、翻訳で紹介されていない作品は多々在るようなので、今後も登場することであろう。それを楽しみにしたい…

『兄弟の血―熊と踊れII』

愉しい小説の一部には、「作品で描写された出来事の後、彼らはどうした?どうなった?」と「少し気になる…」が余韻のように残る作品も在る…

以前に読んだスウェーデンのミステリーに、そういうような「この後の彼ら?」と気になった作品が在ったのだが…“続篇”に出くわした!!

当然ながら、入手して大変に愉しく読了した…

↓上巻…

兄弟の血ー熊と踊れ2 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ アンデシュ・ルースルンド ]




↓下巻…

兄弟の血ー熊と踊れ2 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ アンデシュ・ルースルンド ]




↓「この後の彼ら?」と「気になる…」を残した前作はこれだった…これも夢中で読了したのだった…
>>『熊と踊れ』

実在の事件を参考に構成されたという前作…兄弟で続々と起こした強盗事件の顛末が、特殊な感じで育った兄弟の少年時代も交えて展開する…そして、彼らを追う刑事との対決…夢中になった物語だった…

(前作の結末の一部を明かすような型にもなって恐縮だが…)兄弟達は逮捕され、収監されることとなるのだが、“続篇”は兄弟の長兄であるレオが出所する場面から始まる…

レオが秘めている思いは如何なるものか?早速にレオは行動を起こす…

章の題にもなっているが「おまえがおれの兄貴を巻きこむなら、おれはおまえの弟を巻きこんでやる」が象徴しているが…レオとヨン・ブロンクス刑事との対決の行方が描かれる本作…レオの少年時代の挿話と、進行中の行動とが交錯しながら描かれ、展開する事件はスリリングでスピーディーだ…

或る意味で“天才”であるレオ…それを追うヨン…そして今般はスッキリしない行動を見せるヨンを調べる女性刑事のエリサという人物も在るが、この人物も好い…

本作もまた…「彼らはどうした?どうなった?」と「少し気になる…」が残る感でも在る…

『サンクトペテルブルクから来た指揮者』

↓札幌の書店で視掛け、題名に在る「サンクトペテルブルク」に惹かれてしまった…ロシア第2の都市の名が題に入っている小説作品…スウェーデンのミステリーである。

サンクトペテルブルクから来た指揮者 (ハヤカワ文庫NV) [ カミラ・グレーベ ]



↑物語は「2003年のモスクワ」を舞台にしたスリリングなモノである。紐解き始めると「で…どうなる?!」と「続き」が気になって我慢ならなくなり、ドンドンとページを繰ってしまう…そして素早く読了だ…

「2003年のモスクワ」というのも、何となく「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)という雰囲気の舞台だ…作者は連名になっているのだが、この連名の作者の一人が2000年代初頭のロシアでの経験を有していて、そこでの見聞に着想を得た物語であるということだ…

物語の冒頭は、サンクトペテルブルクで弁護士活動をしているスウェーデン人の挿話から起こる。このスウェーデン人弁護士が、何時ものように仕事をしていたが、何やら禍々しい事態に巻き込まれてしまう…

そして本作の主人公ということになる、モスクワの投資銀行に勤める男、トム・ブリクセンが登場する。トムは「故郷を離れたい」という事情―内容は作中で次第に明らかに…―も在って、ロシアに流れて来て定着し、10年程度になるという人物である。

このトムの数少ない親しい友人にフレドリク・カストループが在る。モスクワで個人事務所を構えている弁護士である。フレドリクの交際相手で同居しているロシア人女性のオルガ・オクロワに関して、トムは過去に色々と在った経過も在る。オルガにはクセニアという6歳になる娘が在って、これはフレドリクの子ではないが、現在では親子同様に暮らしている。

トム・ブリクセンが勤める投資銀行では、大手石油会社が手掛けようとしている別な石油会社の買収計画に関する業務を請け負った。これの担当者、責任者にトムは抜擢された。「近年のロシアで最大の買収事案」であり、トムにとっては大きなチャンスだ。

その多方、友人のフレドリク・カストループはモスクワでの仕事を止めて、オルガとクセニアを伴ってロンドンへ移るという計画に着手している。資産を整理しようとしていたが、その中にトムが携わることになった買収事案の鍵となる株が在るということを偶然に知ってしまう。

そして、この買収劇に関わった人達がショッキングな事件に巻き込まれ始める…当局では、セルゲイ・スクロフ検事が指揮官に任じられ捜査を始めた。スクロフ検事は、長年の馴染であるモスクワ市警察のベテラン刑事、ヴィターリー・マルキン警視と共に事件の謎を追う…

2000年代初めのロシア…1990年代の混迷を克服しようとしていたような時代…台頭した、或いはし過ぎた“新興財閥”を巡って色々な事態が生じた時代…1990年代末のチェチェン紛争が尾を引いてテロ事件が続発した時代…経済成長のようなものも目立った時代…色々な背景が在る「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)である。本作では、そういう舞台でショッキングな出来事が続発するが、“絵空事”感覚が薄い…「在りそう…」に見える…怖いが…

本作は、禍々しい事件に巻き込まれて行くトムや、捜査に勤しむスクロフ検事やマルキン警視の活躍を愉しむ、不穏な事態の謎を明かすエンターテイメントというのが基軸だ…が、「過去」を追いやろうとしているトムが自身の現在の人生に向き合って行くようになる物語でもあり、現在となっては“歴史”な雰囲気にもなっている時代、「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)のモスクワを「かなりリアル」に描く作品でもある…大変に興味深い!

物語の終末の辺りを見ると…「この後のトム?」というのが気になる…<訳者あとがき>によれば、スウェーデンでは“続篇”に相当する作品も出ているようだ…何れ翻訳で紹介されるということも希望したい…

『満潮』

↓この出版社では国外の面白い作品の翻訳を多く出しているのだが、なかなかに人気が高いスウェーデンの作品の翻訳と聞き、入手してみたのだが…凄く夢中になってしまった…

満潮〈上〉 (創元推理文庫)




満潮〈下〉 (創元推理文庫)



↑遠い過去の未解決事件…それを覆うベールを剥がして中を覗こうとした人物が現れ、何やら幾つかの現在進行形の事件と相俟って波紋が拡がる…頁を繰る手が停まらなくなり、上下巻を一気に読了してしまった。

物語は、小さな町の海岸で何やら奇妙なことが行われ、少年がその様子を近くの森で密かに視ているという場面のプロローグから起こされる。1987年の夏に“事件”が起こった場面である…恐らく、本作の題名の『満潮』はこの場面から出ているのであろう…

そして本編へ進む…

本作の最初の方によると…スウェーデンには「警察大学」というモノが在るようだ。警察関係の仕事を志望する人達が学ぶ場で、課程を修了すると、巡査としての半年の実習を経験し、そのまま警察官としてのキャリアに入ることが出来るようになっているようだ…本作の主人公は、その警察大学で学ぶ女子学生のオリヴィア・レンニングである。

6月からの夏休みが始まろうという時期から物語は始まる。オリヴィアは、夏休み明けの学年の課程を終えると、巡査としての実習に入ることになっている。そういう夏休みをどういうように過ごそうかと考えていたが、教官が「任意の研究課題」というモノを学生達に示した。過去の未解決事件に関して、何か“問題”が無いか検討してみる、往時の捜査では出来なかった手法が入り込む余地を見出してみる等、色々と考えてみようということだった。

課題の中に、1987年に発生していたノードコステル島での殺人事件というモノが挙がっていた。犯罪捜査官で、数年前に他界してしまったオリヴィアの父も捜査に携わっていた経過が在ったと聞いている事件であった。砂浜に、首だけ出した状態で妊娠中だった若い女性が埋められ、潮が満ちて水浸しになって“溺死”となってしまったという事件だった。容疑者を特定するに至らなかったばかりか、被害者女性の身元も不詳のままだった。オリヴィアはこの事件に酷く惹き付けられるモノを感じていた…

折角の夏休みに「任意の課題」に勤しまなければならないということも無いのだが、オリヴィアは関係者の話しを聴いてみることや、事件現場であったノードコステル島への訪問等をして、事件関係のことを知ろうとする…

オリヴィアは、事件発生後に長く捜査陣の中心的存在になって活動していた経過が在るというトム・スティルトンとの接触を試みる。そして探すのだが、6年程前に「個人的な事情」というようなことで警察を退職したらしい。退職した警察官であっても、訪ねて事情を尋ねることは出来る訳で、オリヴィアとしては退職していてもトム・スティルトンに会いたかったのだが…警察関係者も元妻という女性も「行方を知らない」と言葉を濁す状況だった。

他方…最近、街では“トラッシュキック”なるモノに多くの人達が眉を顰めていた。無軌道な若者がホームレスを襲撃して暴力を振るい、その様子を動画撮影してネット上に公開していたのだ。被害に遭ったホームレスは酷い重傷を負い、とうとう死亡者まで発生してしまった…

更に…アフリカでの鉱石採掘を巡って、好くない噂も在る企業が、栄誉ある表彰を受けたということが切っ掛けに、その会社を批判する声も高まっていた…

こういう情勢下、オリヴィアは活動を続ける…そして意外な型でトム・スティルトンと出逢う…

そういうような展開を見せて物語は進むが…“コールドケース”(=未解決事件)と“ホットケース”(=進行中の事件)とが交錯する中、余りにも意外な事実、真実が明らかになって行く…

本作を読み進める中、何となく「外国のテレビドラマでDVD数枚に収まったモノを、一気に観ている」時のような感覚を覚えた…本作の作者はスウェーデンで夫妻で活躍している脚本家であると紹介されているが…正しく、多彩な作中人物達の色々な行動が“意外な事実・真実”に収斂されて行くという、“人気ドラマ”のような雰囲気に溢れている。実際…この小説を原案に、スウェーデンで10話構成の連続テレビドラマも創られているようだ…

本当に、頁を繰る手が停まらないという感じで読了した本作だが…本の末尾に在る“解説”によると、作中人物達の「その後…」ということになる小説も登場していて、“シリーズ”となって好評を博しているらしい…それも是非読みたいものだ…

とにかくも、非常に愉しいシリーズに出会うことが出来た!!

『熊と踊れ』

↓「一部に話題になっているらしい」と作品名を視掛けていたような気がしたのだが…“共著”の2名の中の1名が「あっ!知っている!」と思ったことも手伝って入手した…

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)




熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑ページを繰ってみて…何となく入手して「善かった!」と思った…夢中になってしまうものが在った…

本作に関しては…「スウェーデンの小説の翻訳」ということで“フィクション”として愉しんだ。勿論、それで大変に結構なのだが、読後に「訳者あとがき」に触れると、「“ノンフィクション”と“フィクション”との境目」のような性質を帯びている一面が在ること、「起こった事実をバラバラなピースにして、パズルを組上げるように構成して創った物語」なのだそうだ。1990年代に実際に起こっている事件をベースにしているのだという…

物語は“昔”というパートと、“今”というパートが概ね交互に現れる。“今”の事件に携わっている「家族」の“昔”のことが挟まれながら、“今”の事態が推移するのである。

長兄のレオ、次男のフェリックス、末弟のヴィンセントの3兄弟と、幼馴染のヤスペルという4人の若者達…彼らは軍の武器保管庫から大量の銃器を巧みに奪ってしまい、それを隠匿した。そして、現金輸送車の襲撃や銀行強盗を繰り返す。余りにも鮮やかに、軍隊の作戦行動のように繰り返される犯行から、何時しか<軍人ギャング>と呼ばれるようになった。

警察の側では…ヨン・ブロンクス刑事がこの事件を担当することになった。「プロの犯罪者」に違いないと捜査に着手するが、埒が明かず、銀行に設置されていた、彼らの手で壊されてしまう直前の防犯カメラ映像のような、僅かばかりの現場証拠を頼りに「或いは“兄弟”がグループに居る?」と推理するブロンクスだが、なかなか犯人グループに辿り着けない…

余りにも巧みに犯行を進め、意外な正体の強盗グループと、それを追う刑事という話しを軸としながら、“暴力”で崩壊した家庭と、そこに育った若者達の懊悩というような物語になっている。“暴力”が日常的に常用されるような中で、“暴力”の威力を身に着けるかのようになる…そんな“暴力”が絡め取る若者達の過去と現在との物語だ…

強盗グループ側の関係者の多くには、実在のモデルが在るという他方、事件を担当するブロンクス刑事は完全な創作であるのだという。しかし「“暴力”で崩壊した家庭」を自身の経験として知っている人物と設定される、この「働き盛り」風で仕事熱心な捜査官は、“主役”の若者達と読者とを結ぶ大きな存在感が在ると思った。或いは、著者が別な作品を綴る際に、捜査陣の一員として再登場も在るかもしれないと勝手に夢想もしてしまったのだが…

そして本作で鍵となるのは、3兄弟の父であるイヴァンのような気がする。“昔”というパートでの振舞いの数々…そして“今”というパートでどうなっているのか…このイヴァンと、長兄のレオとの複雑な関係が、事態を産み出したのかもしれない…

或いは本作は…余りにも巧みに犯行を進め、意外な正体の強盗グループと、執念深くなかなかに鋭い担当刑事との対決という体裁でありながらも、“暴力”の連鎖とか、個人や社会と“暴力”とか、様々な価値観の人々が日常的に交差するスウェーデンのような“西欧諸国”の社会というような、何か広く深いテーマを奥底に持っているような気もする。

序でなので御紹介するが…

↓因みに、本作の共著者の1人、アンデシュ・ルースルンドの他の作品で、比較的入手が容易と思われる、出版当時に少し話題になった作品がこれだ!
>>『三秒間の死角』

本作は「なかなかに好い翻訳ミステリー」と人気も高まっているようだが…実際、非常に面白い!!

『北京から来た男』

↓昨年秋に他界してしまったスウェーデンの作家、ヘニング・マンケルの作品…翻訳の単行本が文庫化されたのを知り、旭川の書店で入手…興味深く読了した…

北京から来た男〈上〉 (創元推理文庫)




北京から来た男〈下〉 (創元推理文庫)



↑<刑事ヴァランダー>のシリーズでよく知られる作家だが、単発の作品も多い。この邦題を英訳から引っ張って来たという『北京から来た男』もそうした単発の大作である。<刑事ヴァランダー>でも、主人公の勤務する地方都市で発生した事件に、思いも掛けない国際的な拡がりが視られたり、関係者の永年の怨恨が絡まる等、時間や空間を超えた展開を解き明かして行く物語が多いのだが…本作も、小さな村での事件が国中を驚かせ、そしてそこに時間や空間を超えた拡がりや想いが絡まるという「この作家の作品らしい」感じの物語だった…大変に興味深く読み進んだ…

物語は…スウェーデンの北の方の小さな村から始まる…

冒頭に、雪原を掛ける狼が小さな村に迷い込み、妙なモノを食べるという、「不気味であると同時に美しい」というような場面を描写した序章が入るのだが…そこを訪ねる男の挿話から入っている…

北の小さな村を訪ねていたのは、60代の写真家である。文化活動への助成も受けて、彼は過疎の村の風景や、そういう村に暮らす高齢者の様子を撮影するという活動を展開中であった。その彼が村に立寄ると…住民は居る筈だが、人の気配が感じられない…

人の気配が感じられない中、住宅の様子を調べ始め、男は驚愕した…多数の住民が刃物で惨殺されている。或いは十数名と見受けられる村民が全員殺害されてしまっているかもしれない状況だったのだ…

前代未聞の、過疎の村での大量殺人という事態…各メディアを賑わせることになる…

事件現場からかなり遠い、南スウェーデンの都市であるヘルシングボリで裁判官を務めている女性、ビルギッタ・ロスリングが在った。ビルギッタは何時ものように裁判官の仕事に勤しみながら暮らしていたが、列車の乗務員をしている夫が求めて来てダイニングに置いて在ったタブロイド紙に眼を留めた。

ビルギッタは、普段はタブロイド紙は読まない方なのだが、掲載されている“大事件”現場の写真に「見覚え」が在った。そして母親に関連する古い資料を引っ繰り返し始めた…

ビルギッタの父親は船員だったというが、彼女の誕生を楽しみにしていながら、海難事故のために彼女が生まれる以前に他界してしまっていた。彼女は母子家庭だったが、母の生い立ちを少し聞いていた。母は事情で小さな村に養女に出された経過を有していた。その「養父母の家」というようなことで、視た記憶が在る写真と、タブロイド紙に掲載の現場の家屋の写真とが「重なった」訳だ…

血圧が上がってしまい、病気療養ということで休暇取得を医師に勧められてそのとおりにしたビルギッタは、「母の養父母が殺害?」という案件が気になり、現場となった北の村を訪ね、捜査員達とも接触をする…

そこでビルギッタが偶々知るのは…村に居た一族の出である男が、19世紀に米国へ移住していて、そこで鉄道建設の仕事に従事した経過が在り、書簡や克明な日誌が残されていたということだった。そこには拉致されて来た中国人労働者を酷使して、過酷な現場で建設工事を進めた経過等が綴られていた…

他方…中国では「新進の経済人」として大きな影響力を行使するようになった男が、何やら蠢いていた…

2006年の或る日、スウェーデン北部の過疎の村で、十数人の高齢者が惨殺されてしまうという事件が在り、それが1860年代の米国、中国での出来事と不思議な結び付きを見せる…どういうことなのか?

ビルギッタは1949年生まれと設定されている。大学生だったのが1968年頃…彼女が振り返り、友人との思い出話の中で話題にする1960年代や1970年代の世界と、2006年の世界…そして、米国で鉄道建設が盛んにおこなわれた時代として描写される1860年代辺りの世界…それらが混然となって作中世界が形成されるのだが、何か「中国と世界」、「世界と中国」というような事柄が滾々と説かれているような感である…

時間や空間を自在に往来し、それぞれの世界が“映画”のように描写されながら展開する物語…「意外な展開」が繰り返され、どういうようになるのか予想も付き悪いままに頁を繰る手が停められなくなってしまう…

広くお薦めしたい作品だ!!





『霜の降りる前に』

少し気に入ったシリーズの新作、関連作品というようなモノが登場すると「多少の御無沙汰をした友人、知人の近況が不意に気になる…」というような感覚で、本を手にしてしまう…

↓スウェーデン南部、スコーネ地方の街、イースタ警察署のクルト・ヴァランダー警部が帰って来た!!

ヘニング・マンケル/霜の降りる前に 上 創元推理文庫


ヘニング・マンケル/霜の降りる前に 下 創元推理文庫
↑ヴァランダー警部関係の作品としては、少し久し振りに翻訳の文庫が登場した本作…大変興味深く、夢中で読了に至ってしまった…

イースタという街は実在の街で、対岸のポーランドとのフェリーが発着している港町で、近隣にスコーネ地方最大の街であるマルメーが在り、そのマルメーの対岸はデンマークのコペンハーゲンである。

そういう地域で、1990年代以降の複雑な情勢等とも相俟って、思いも掛けない展開をする事件が発生し、ヴァランダー達捜査員がそれに立ち向かう…ヴァランダーはイースタ署内の古株の刑事で、シリーズ中で年上の関係者がどんどん退職する等しているので、何時の間にか署内で最年長の部類に入っているように見える。加えて、記者発表に立ち会って、事件概要の説明をしたり「その他の詳しいことは調査中だ!」と言う場面等が見受けられることから、「日本の地方の警察署の刑事課長」のような立場なのかもしれない…事件捜査の件だけではなく、家族等の身近な人達も含めた「人間クルト・ヴァランダー」も深く描かれていて、非常に面白いシリーズなのである…

1990年代に書き綴られたシリーズであるが、かなり間隔が開いて、2009年に「最後」の作品が登場しているという。「最後」としたが…作者のヘニング・マンケルが2015年10月に逝去してしまったので、残念ながら以降の新作は登場しない…未訳の作品の翻訳は出て来るであろうが…

本作『霜の降りる前に』であるが、これは厳密には「クルト・ヴァランダーが主人公のシリーズ」とは言い難いかもしれない。本作の主人公はリンダ・ヴァランダー…クルト・ヴァランダーの娘である…リンダ・ヴァランダーは、父クルトと離婚してしまったその元妻モナとの間の娘なのだ…

本作の冒頭…カルト教団の集団自殺事件で、生き残った男が在って、何処へともなく去って行くプロローグが掲げられる…やがてイースタの湖で、謎めいた男が、湖の白鳥に火を着けるという怪異な行動を取っている場面になる…

そういう不思議な始まり方から、リンダ・ヴァランダーが登場する…リンダは間も無く30歳になろうとしている。色々と曲折が在ったが、警察学校に入って卒業し、イースタ警察署で勤務することが決まっていた。(作中の描写を視ると、スウェーデンではストックホルムの警察学校で学んだ後、本人の希望等で全国各地の地方警察署で勤務するようになっているようだ。そして、本人の希望やその他の事由で広域異動も在り得るように見える…)

リンダはイースタ警察署での勤務が始まるまでの間、父クルトのアパートに居候していた。自身で借りたアパートへ移るのは、勤務が始まる辺りということになっていたのだ。リンダはイースタで、少女時代の友人達と再会し、シングルマザーになっていたセブランや、医学生をしているというアンナと頻繁に会うようになっていた…

そんな或る日、リンダがアンナを訪ねると、アンナは妙なことを言い出した。アンナは実質的な母子家庭で育っていた。父親はアンナが6歳位の頃にふらりと出て行ってしまい、その後は音信が途絶えてしまっていたのだった。アンナは、その父親を、列車運行の都合で不意に時間が出来てしまったマルメーで時間を潰していた時に視掛けたと言うのだ。概ね24年も会っていない父親であると、特定出来るものなのか、判らないとリンダは思うのだが、アンナは「間違いない!」と強く言う…

そういうことが在って、また会う約束をしたリンダは、アンナを訪ねた。アンナは、何の断りも無しに約束を無視するようなタイプではないが、会うことになっていたアンナの自宅に姿が見えない。そして全然連絡が着かない。リンダは心配する。

リンダは父のクルトにアンナの件を相談するが、クルトは「事件性の在る失踪と断じることが出来るような状況とは言い難い」とし、「捜してみる!」とするリンダに「失踪者捜索任務の警察官ではない!」として行動を自重するように促す。それでもリンダは独自にアンナの件を探ろうとする。

そうしていた間に、次々と奇妙なことが起こった。牛舎から子牛が引き出され、生きながらに火を付けられるという一件…そして廃れてしまった古い小道の研究をしているという女性研究者が失踪という一件…やがてその失踪したらしい女性は、森の中の小屋で惨殺体で発見された…

リンダはアンナの件を独自に追う中、惨殺されてしまった女性とアンナとの間に接点が在った可能性に気付く…

こうしてリンダは、警察署での勤務を始める以前の段階で、展開していた怪異な事件の捜査に加わるような型となってしまった。

どんどん色々な展開が在る中、リンダは身体を張るような按配で事件に向き合って行くことになる。どのような展開になるのか?是非、本書を!!

『三秒間の死角』

“シリーズ”の“新作”が登場したことを知ると、とりあえず読んでみたくなるというものである…

↓ストックホルム警察のグレーンス警部が活躍するシリーズの新作である!!



三秒間の死角(上)(角川文庫)





三秒間の死角(下)(角川文庫)

↑執念深く事件を追う、少し偏屈で変わり者という印象を与えるグレーンス警部…今回はとんでもない事態に身を置くことになるのだが、大変興味深く読了したところである…

各部の章毎に「○曜日」と副題が添えられ、時系列に淡々と各劇中人物の動きが追われ、物語は進んで行く…

フェリーでスウェーデンを目指す、やや不自然な行動を見せるポーランド人…米国の捜査機関関係者研修施設に居るスウェーデン人が、何やら密かに連絡を取る様…そしてスウェーデン人とポーランド人が何やら麻薬取引の現場に居て“事件”が起こってしまう…

ここで“事件”を捜査するグレーンス警部が現れる。彼は、若い頃に頭の怪我が原因で脳に障害を負ってしまった女性を愛し続け、そのことで苦しんでいたが、終に女性が死去してしまい、心が揺れている最中であった。そんな中、匿名の電話通報で駆け付けた警官が発見した遺体を巡る事件の捜査を担うことになる。

この“事件”だが…暗躍するポーランド系組織犯罪の情報を得るために活動していた“情報提供者”、“潜入捜査官”が関与していた…その“潜入捜査官”は犯罪組織の中枢に潜り込み、「刑務所内での麻薬密売」の指揮を執るという話しになっていた。その活動を通じて、スウェーデン進出を図る組織の壊滅を目指すため、“潜入捜査官”は活動を続けることになる…

“潜入捜査官”の活動継続は容認されたが…他方でグレーンス警部の捜査も続く…遺体で見付かった人物の素性を知り、やがて“事件”に関与している可能性も排除出来ない人物達に行き当たる…最後の1人が刑務所に収監されたことを知り、彼は刑務所を目指す…“潜入捜査官”を運用する側は…非情な決断をした…

ということで、何が起きてどうなるのか、というのが物語の肝だ…

刑務所に入ることになる“潜入捜査官”の不思議な行動の真意?刑務所での異常な事態に向き合う羽目になるグレーンス警部と、彼が解き明かす事の真相?スリリングだ…そして題名の“三秒間”とは何か?興味深い!!

「刑務所内での麻薬密売」というようなことを通じて、外国起源の組織犯罪が勢力を伸張するというような事態…「丸っきりのフィクション」という訳でもないようだ…そして“潜入捜査”も一部に実際に在り、その“問題点”も「丸っきりのフィクション」でもないらしい…

心休まらないグレーンス警部なのだが、彼の行く手にはしばしばとんでもない事態が待っている…

このシリーズ…翻訳は3作品既刊である。本作は5作目で、4作目は翻訳が登場していないそうだ…

↓既刊、既読のこのシリーズ…
>>『制裁』
>>『ボックス21』
>>『死刑囚』

『天使の死んだ夏』

偶々読んだ小説の舞台が「暑い夏」…「夏が遠くなっている…」感の時季に読んでみるのも一興かもしれない…

↓スウェーデンの“刑事モノ”の翻訳である…大変に愉しく読了した!!

モンス・カッレントフト/天使の死んだ夏 上 創元推理文庫


モンス・カッレントフト/天使の死んだ夏 下 創元推理文庫
↑主人公の女性刑事が活躍する、本国ではなかなかに人気が高いらしいシリーズの第二作ということになる作品である。

このシリーズは、当初“季節”の物語という具合に構想したらしく、各作品に“春夏秋冬”の何れかに纏わる題が冠せられ、(“春夏秋冬”の)4作品が発表された後も好評なのでシリーズが継続しているという。本書巻末の解説によれば、最近シリーズの7作目が本国では登場しているらしい。

本作は前作の『冬の生贄』の酷く寒かった冬の後に訪れた、異常なまでに暑くなった夏の出来事が描かれる。主人公は前作同様、地方都市リンショーピンの警察署に勤務する女性刑事、モーリン・フォシュである。前作で13歳と設定されていた娘のトーヴェも本作では14歳になった。

スウェーデンでは、6月から8月は“夏休みシーズン”である。多くの人が“週間”単位の纏まった休暇を取得することが当然化しているのがスウェーデンで、殊に7月は休暇の人が多く、警察署のような恒常的活動が必要な公的機関でさえも、必要最小限の人員で運営されている事態になってしまう。

本作はそんなスウェーデンの7月に展開する物語である…

リンショーピンはうだるような暑さの中に在った。空気が乾燥する夏に森林火災が発生してしまうことが在り、リンショーピン近在ではその森林火災まで発生していた。リンショーピン警察署の刑事達の多くは7月に休暇を取得していて、残っているのはモーリン・フォシュと、何時もコンビを組んでいるゼケことザカリアス・マッティソン、そして上司のスヴェン・シェーマンだけという状態だった。

モーリンは、娘が元夫と共に旅行に出てしまった状況下、暑さの中で寂しい毎日を過ごしていたのだったが、そこに怪事件が発生した。匿名の通報が在り、全裸の少女が公園で保護されると言う騒ぎだ。モーリンやゼケは現場に向かう。暴行を受けたらしく、傷だらけな状態で裸の少女は異様な状態だった…

この騒ぎの他方で、同じような年頃の少女の捜索願が出ていた。ティーンエイジャーに時折見受けられるような家出ではなく、「何らかの事件?」を想わせるものも在った。モーリン、ゼケ、上司のスヴェンという「3人体制」の中で、彼らはうだるような暑さの中で必死の捜査活動を進める…

捜査が進む中、移民系の若者、同性愛者、前科を持つ者、事故で性器を失った男性等、様々な方面に手が伸びる…巷の偏見に晒されがちな人達に対する、そうした見方を助長するかのような捜査活動にモーリンは疑問も抱くが、なかなか増えない手掛かりの中で必死に事件の糸を手繰り続ける…

やがて同一犯によるものと推測される犠牲者の遺体が次々に発見されるに至り、近隣の他所の警察から応援の刑事も招集された。

2人の応援刑事を加えた5人体制で、犯行に手を染めた者の正体を負うが、決定打に欠けた状態が続いた。そうした中、元夫と娘が旅行から元気に帰って来た…

モーリンは、犠牲者が発生した各事件に共通する人物を漸く探り当て、調査を進める…そんな時、身近な所に凶行の魔手が忍び寄った…

“ネタばれ”を避けながら物語を振り返ってみたが、“夏”という状況故に浮かび上がる関係者に気付くまでの長い曲折を経たプロセスと、それに気付いた後の息詰まる対決は読み応えが在った…

「偏見に晒されがちな人達」を一定程度抱え込むようになった社会…そうした中で犯罪捜査に取組む、モーリン、ゼケ、応援の刑事達、更に「移民出身で、国内で最も若くして昇進した」という設定の署長と言った人達の姿が、なかなかに真に迫る…

真に迫る、物語の本筋の中での劇中人物だが、例えばモーリンについては、それに“厚み”を与える“一個人”として深く描き込まれている。極若い時に授かった、難しい年頃に差し掛かった大切な娘との関係…消防隊員である元夫との関係…愛される女で在りたいという想いの他方で仕事に賭ける生き方を選んだという中での孤独…そんなものが、非常に「読ませる」感じだ…

社会性、時代性を織り込んだ物語の中で、等身大の主人公が深く描かれる…本作はかの“マルティン・ベック”や“クルト・ヴァランダー”というような「スウェーデンの刑事モノ」の「佳き伝統」の正当な後継者となっているように思う。今後のシリーズ各作品の登場を楽しみにしたい。

『冬の生贄』

「暑い季節」こそ「寒々しい情景」が描かれる、「寒さが厳しい地域」の“厳冬期”を舞台とした物語を愉しんでみるのが善いかもしれない…

「寒さが厳しい地域」の“厳冬期”を舞台とした物語には、本当に寒々しい情景が描写されるのだが、そんな場所で「猟奇的事件」が発生しようものなら、それはとんでもなく“寒い”物語となる…

とは言ってみても、そういう寒々しい中にこそ、興味深い謎解きやら、劇中人物達の“人間”が滲み出ていて、非常に愉しいのだが…

↓本作は「寒さが厳しい地域」の“厳冬期”を舞台とした物語で、劇中で「猟奇的事件」が発生し、その謎を追う刑事達が活躍する物語だ…



冬の生贄(上)(創元推理文庫)





冬の生贄(下)(創元推理文庫)

↑スウェーデンで好評を博しているシリーズの第1作を翻訳したものであるという…なかなか面白かった!!

本作の舞台となるのはスウェーデンの地方都市、リンショーピンである。ストックホルムの南で、内陸の方だ。本書を紐解くのであれば、本にはスウェーデンの主要都市を示した地図が出ているので、リンショーピンの位置関係も確かめて頂く事が出来る。冒頭の方に、主人公の愛車が寒さで不具合を来す場面が出て来るのだが、これは北海道で言えば「氷点下20℃級」が見受けられる内陸や山間部で見受けられる現象で、これだけでも「寒さ…」が非常に伝わった…

本作の主人公であるモーリン・フォシュはリンショーピンの警察に勤務する女性刑事である。30代半ばに届かない年齢ながら、極若い時期の結婚、妊娠、出産で13歳の娘が居るという状況である。

或る酷く寒い冬の朝、出勤しようとした時に愛車の不具合に出くわして困っていたモーリンを、何時も仕事で組んでいる“ゼケ”ことザカリアス・マッティンソン刑事が車で迎えに現れる。事件発生である…

「事件発生」は何時でも「拙い状況」ではあるが…今般は「異常な状況」でもあった…何かの儀式のように、150kg近い巨体の男の遺体が、野原の真ん中の木に吊り下げられていたのである…事件は程無く“冬の生贄”という渾名が付くことになる…モーリン達、リンショーピン警察の捜査員は、不可解な事件の謎に挑むことになる…

スウェーデンの刑事モノ…旧くは“マルティン・ベック”、やや新しい“クルト・ヴァランダー”等、「動いているスウェーデン社会」の中で人々の問題意識の中にもたげていることを取り入れてみたり、劇中人物達の背景や暮らし振りの描写を通じて、スウェーデン社会の縮図的な話しが盛り込まれるというのが「善き伝統」のようになっている面が在ると思うが、本作にもそうした面が在る。

過去の有名作品にせよ、本作にせよ、更に言えば劇中人物達は「スウェーデン社会」というような“カッコ”を取り払った、「作品が描いている時代」の「普通な人々」を確り描いている。本作では…モーリンは極若い時期に産んだ娘が難しい年齢に差し掛かり、厳しい仕事を抱える他方で色々と苦慮している…スポーツ選手として嘱望される息子が居ながら、何かその関連事項に感心が向けられない同僚…難病に冒された妻の介護を抱える同僚…“移民2世”でありながら昇進して注目されている上司…色々な劇中人物が居る…そして、「ネタばれ」を避ける意味で詳述はしないが、モーリンが捜査対象とする一家も一寸独特である…

「作品が描いている時代」の「普通な人々」を確り描いた骨が太いドラマだが…「寒さが厳しい地域」の“厳冬期”を舞台とした物語で、劇中で「猟奇的事件」が発生と「敢えて夏季に!!」奨めてみたい作品だ…

『靄の旋律』

↓久し振りにスウェーデンの愉しい作品に出くわした!!



靄の旋律 国家刑事警察特別捜査班(集英社文庫)

↑彼の国では大変に評判が好く、シリーズ化されているそうだが、その第1作である。

スウェーデンには、各管轄地域で事件捜査等を行う地方毎の警察の他、広域事件や重要事件への対応を行う“国家警察”というものが在るそうだ。本作は、その“国家警察”に設けられた「特捜班」の活躍を描くものである。

ポール・イェルム警部補は、銃を手に職員等を人質として移民局に立て篭もる男が現れた事件で現場に赴き、男が立て篭もる部屋に乗り込んで男を逮捕した。

が、その時に発砲してしまったことが部内で問題化し、立場が悪くなっていた…

そこに国家警察のフルティーン警部が現れ、イェルムは彼の捜査班に移籍することになった。

フルティーン警部の「特捜班」は、重大事件に機動的に対応することを目指して急遽設置されることになったもので、イェルムを含めて6名の刑事が各地から集められて編成された。

「特捜班」が対応することとなった事件は、“連続”と見受けられる有力実業家の殺害事件であった。

マフィアか何かのやるように、頭に2発の銃弾を撃ち込むというやり方で有力実業家が殺害されてしまったが、証拠らしい証拠も残さず、“プロ”の犯行を窺わせる状況だ…

「特捜班」の任務は、この事件の容疑者を確保することと、連続している事件の防止である…

ということで、どのように展開するのかは、是非とも本作を紐解いてみて頂きたい…被害者同士の繋がりを調べて事件の動機を何とか探ろうとしてみたり、被害者の過去の行状から関係する人物を探り出そうとしてみたりと、「特捜班」は試行錯誤を重ねる…やがて思わぬ手掛かりが見付かり、事件は急展開を見せる…

「スウェーデンの刑事モノ」と言えば、60年代から70年代の“マルティン・ベック”や、90年代以降の“クルト・ヴァランダー”で見受けられた「人間臭さ」と、それぞれの「時代のテーマ」を織り込んだような物語を想起するが、本作もそうした「善い伝統」を受け継いでいるような面が在る。

「好評シリーズ」らしいので、是非とも他の作品も読んでみたい!!

『ファイアーウォール』

あの“刑事クルト・ヴァランダー”のシリーズから、新しい翻訳が登場した!!

↓次々と起こる事件が意外な接点を持ち、それが徐々に明らかになっていくという「あの」展開…生々しいまでに「悩める中年男」として人間臭く描かれる主人公…何もかも健在だ!!

ファイアーウォール 上


ファイアーウォール 下

本作は1998年頃に登場した作品である。所謂“IT化”が本格化、加速し始める頃というような時代だ…ヴァランダーの勤める、スウェーデン南部のスコーネ地方に在るイースタ警察署でも、コンピュータやネットの得意な者、その限りでもない者が居る…

イースタ署ではタクシー運転手への暴行の容疑者の取調が始まっていた。タクシー運転手をハンマーで殴り、ナイフで刺してしまったという事件の容疑者は19歳女性と14歳少女の2人組である。「金欲しさ」という犯行動機の自供が在るというが、その日の仕事を始めたばかりの運転手から奪うことが出来た金は600クローネ(7千円程度)という額に過ぎず、何か理解出来ない…

他方、市内のATMの前で「ITコンサルタント」であるという男性が遺体で発見された。他殺が疑われたが、どうやら“自然死”らしい。ところが、「健康な人なので、信じ難い…」という話しが入って来る…

そこに“不祥事”が続々と出来する…

母親立会いでヴァランダーが取調をしていた14歳の少女が、母親を罵って殴り掛かったので、ヴァランダーは割って入り、少女を平手打ちしてしまった…そしてそれが、偶々紛れ込んだ記者に写真を撮られ、「少女を殴った警察官」として報道されてしまう…

更に…もう一人の容疑者、19歳女性は警察署から抜け出し、行方を晦ませてしまった…“脱走”である…

脱走してしまった容疑者を必死に探すが、彼女は意外な型で発見された…やがて、彼女が殺害したタクシー運転手の周辺、ATMの前で急死した男の周辺を調べると意外な事実が次々に明らかになり、そこに「恐るべき企て」の存在が見え隠れする…

ヴァランダー達は手探りで、この複雑な事件に挑む…ヴァランダー自身も、陰謀の中に知らずに取り込まれてしまう…

“ファイアーウォール”とは、コンピュータの用語で“防壁”ということだが…この作品では他の意味合いでも用いられているような感じがする…

作中では、変電所に問題が発生して広域停電が発生する場面も盛り込まれている…完成されていて、安定した世界の「意外な程の脆さ」に対して警鐘が鳴らされている…更に…不可解な若者と向き合うヴァランダーを通じて、若い世代が酷く不安定な状況に置かれてしまっていることに懸念が示される…

“地方”の“小さな街”ながらも、驚くべき広がりの在る事件が発生し、怪事件も発生する…“イースタ”という小さな街の警察署が扱う事件を通じ、「揺れる世相」を見詰める作者の想いが綴られる…“ヴァランダー”はそんな作品だ…

今回は作品の中で、「過去作品の後日談」、或いはそれらの作品で扱われた事件の回想的な描写も入っているのだが、シリーズのファンとしてはその辺も面白い。

『契約』

ラーシュ・ケプレルによる、スウェーデン国家警察のヨーナ・リンナ警部が活躍するシリーズの第2作が登場した。


契約 上


契約 下

前作は、催眠療法を手掛けた経過の在る医師が作品の中でかなり大きな位置を占め、ヨーナ・リンナ警部の影がやや薄いようなイメージも在った…が、今作はリンナ警部が大活躍する展開である…

スウェーデンには、軍需品の輸出を管理する“戦略製品査察庁”という官庁が在る。そこの長官が自宅で遺体となって発見された。自殺のようだった…

他方、ストックホルム沖の群島部に漂泊していたクルーザーから、女性の遺体が発見された。船内で乾燥した状態で発見された遺体ながら、死因は“水死”という、些か不可解な状態だった。船内に在った身分証明書から、軍需品を扱う産業に対して、密かに紛争地域への武器輸出をしているなどと批判的な言辞を浴びせていた、平和活動家のペネロペ・フェルナンデスが死亡と当初は推定されたが、実は出発直前になって急にクルージングに同行した彼女の妹が死亡したのだった…

リンナ警部は2つの事件に大きな関心を寄せ、調査に着手する。が、死亡したと思われたペネロペ・フェルナンデスのアパートを訪ねると、先に現場に居た暴漢に突然襲われ、思わぬ手強さを見せる相手を“プロ”と見たリンナ警部は事件に益々強い関心を寄せる…

やがて、戦略製品査察庁長官の自殺と、クルーザーで女性の遺体が発見されたという2つの事件は思わぬ結び付きを見せ始める…

本作のタイトルとなっている“契約”…その意味が明かされるのは下巻の半ば以降だが…本作は次々と色々な出来事が起こり、読み始めると停まらなくなってしまう…

冒頭の方に「戦略製品査察庁長官の自殺」というような一件が出て来て、“戦略製品査察庁”という官庁は軍需品の輸出を管理する旨の説明が在るので、或いはそういう分野の不正が絡む何かが在ることは想像出来るのだが…それでも“続き”が非常に気になる物語になっている…

“黒幕”の意向を受けて暗躍する“プロ”―これが恐ろしい相手である…文字どおり、手段を選ばずに目的を遂行しようとする連中である…―と、彼らに負われるペネロペ達や、警察側との戦いは息詰まるものが在る…当初は多少反目しながらも、結局は助け合って事件の真相を解き明かし、“黒幕”を追い詰める警察側のドラマも面白い…

前作の『催眠』を読んで「映画的」と思ったが、本作はそれ以上に「映画的」かもしれない…

これはかなり愉しい作品だ!!

『背後の足音』

かなり気に入っているヴァランダー警部のシリーズで、新しい翻訳が登場した!!


背後の足音 上


背後の足音 下

ヴァランダー警部のシリーズ…南スウェーデン、スコーネ地方の都市イースタの警察署に勤務する犯罪捜査官達の物語だ…主役のヴァランダーは、冴えない言動も在る悩み多き40代の男である…妙に人間臭い…彼は署内のベテランとして捜査班長格に押し上げられていて、仲間達と懸命に不可解な事件の謎に挑む…

殆どの作品を読んでしまっていて、「次のもの…」を待ち望んでいたが、この7月に漸く登場した!!だが、登場時期は一寸立て込んでいたので、若干遅れてこれを入手することが叶った…

頁を繰り始めると…これが止められない!!

前作から2年程度を経ている…ヴァランダーはやや体調が優れない状態が続いている…糖尿病を患ってしまっていた…

そんな体調である中、妙な事件が気に掛かる…スウェーデンでは伝統的なミッドサマーイヴ(夏至の前夜を祝うもの)の日に出掛けた3人の若者が“行方不明”であるという話しだ…1ヶ月以上が経っても、3人の行方は判らないのだが、親の所に欧州の他国に在る都市から絵葉書が届いていた…「3人の若者が、親に事前に告げずに、勝手に旅行をしている?」とも思える状況なのだが、3人の中の1人の母親が葉書に疑念を抱いている。2人の親は強い反応はしていないのだが、母親は何度も警察に捜査をするように申し入れていた…

ヴァランダーは一件への対応を熟慮して、2人の同僚とゆっくり相談することにした。本件に携わった2人の中の1人であるマーティンソンと話し合って、最初に本件に関ったらしいスヴェードベリを交えて打合せをすることにした。が、スヴェードベリの姿が見えない…マーティンソンは留守番電話に何度かメッセージを残した…

打合せの時間になった。スヴェードベリは姿を見せない。ヴァランダーとマーティンソンは、日頃のスヴェードベリの様子を想い起し、打合せに顔を出さない状況に納得出来ない…ヴァランダーは途轍もなく嫌な予感を覚えた…

ということで…スヴェードベリを巡る話しと、不可解な若者3人の行方不明の件とが交錯し、更に事件は展開する…

本作のタイトルである「背後の足音」という表現だが…直接的には、ヴァランダーの背後に蠢く謎の犯人―これがこのシリーズの“犯人”の中では「最も不気味で不可解」な人物かもしれない…―の足音であり、“足音”が示すその人物の気配のことを示すと理解出来る…が、同時にこれは「知らぬ間に社会が抱えている、名状し難い不気味なもの」とでも言うようなもの、「気配はしてもハッキリ姿が見えない“悪意”」とでも言うようなものを暗示している…という気がした…

未だ登場して日が浅いミステリーなので、敢えて仔細は綴らない…が、次々と展開する事件の中、ヴァランダーが、色々と個人的なこと―父親の件、父親の後妻の件、想いを寄せていた女性の件、元妻の件…―も手伝って、何か“孤独”を深めるような状況下、実に懸命に事件を追う姿が非常に面白い…

私自身…作中のヴァランダーよりやや若いのだが…本作などシリーズを読んでいて、何か彼の心持が「妙に判るような…」と思えることが時々在り、思わず苦笑してしまわないでもない…

やや蛇足ながら…本作を含むシリーズの舞台となっている、スウェーデンの自然の感じが判る描写に関して、何処となく北海道の北の方を想起させるものが在り、親近感も増す…

『五番目の女』

ヴァランダー警部シリーズの第6作である!!第2作から第5作を立て続けに読み、少し間隔が開いたのだが、愉しく読了した。


五番目の女 上


五番目の女 下

第6作は、第5作で描かれた夏の始まりの時季と同じ年の秋が深まる辺りの物語となっている。

恐るべき連続殺人犯を追うこととなった『目くらましの道』の事件の後、ヴァランダーは休暇を取るなどするのだが、『目くらましの道』のエピローグで彼は父と共に一週間のイタリア旅行に出掛けていた。本作『五番目の女』では、イタリア旅行から戻ったヴァランダー警部が、父親と少し心が通うようになったと感じながら、また日常の業務に戻っていくという辺りから始まる…

ヴァランダー警部が休暇明けで最初に関ったのは「花屋の不法侵入」という一件であった。何者かが押し入った形跡が在ると、花屋の従業員から通報が在ったのだ。花屋の店主は旅行中であるということだが、花屋では特段に盗まれたものは無かったという。ヴァランダーは、「寧ろ保険会社が調査する案件か?」と思っていた。

更に、ヴァランダー警部は灯油―作中では“燃料オイル”と表現されているが、暖房用燃料であれば、“灯油”と言う方が座りが良いように思う…―の配達でタンクローリーに乗っている男の申し出を受ける。時々寄っている、旧い屋敷に住む一人暮らしの老人が、どうやら失踪してしまったらしいというのである。

ヴァランダー警部は、件の老人の屋敷を調べに出掛けた。自動車販売業を営んで財を成したという人物で、結婚歴は無く、熱心にバードウォッチングをしていて、詩を書くという老人である。屋敷の鍵が開いているので入ってみれば、コーヒーメーカーのコーヒーが煮詰まって焦げ付いているような状況で、明らかに「普通に出掛けた」とは思えなかった。そしてヴァランダー警部は敷地内を歩き回り、トンでもないものを視付けた。老人が、濠に据えられた竹槍に串刺し状態になって死んでいたのだ…

“串刺し”という異常な遺体の発見から、ヴァランダー警部らイースタ署の面々は殺人事件の捜査に取り掛かる。雨勝ちで霧の深いスコーネ地方で、刑事達は事件を追うのだが、恐るべき第2・第3の犯行も発生してしまう…

今作では、地域で“自警団”なるものが結成され、一寸した騒動が起こってしまう場面も在る…

相変わらず、人間くさいヴァランダー警部や署の仲間達が織り成す物語が面白い…そして今作は、“やや意外な犯人”との、迫真の対決場面も在る…

このシリーズは非常に愉しい!!

『目くらましの道』

最近はすっかり“ヴァランダー警部”が気に入ってしまっている…未読作品が在れば、それを手にせずには居られない…

↓シリーズの第5作である!!

目くらましの道 上


目くらましの道 下
↑“映像化”の際には、真っ先に原案にされる、シリーズ中でもなかなか人気が高い作品である!!

本作の“目くらまし”というタイトルだが、読む前には「?」だった。が、読後には納得であった。ヴァランダー警部達に降り掛かる事件が複雑に展開し、色々な“目くらまし”が在り、捜査は「行きつ、戻りつ」を繰り返し、文字どおりに「進むべき道」が“目くらまし”にやられてしまうのだから…

物語は6月後半から7月前半のスウェーデン南部、スコーネ地方を舞台に展開する。この時季は、スコーネ地方が「最も美しい」と言われる時季である。作中では好天にも恵まれる…ヴァランダー警部の仲間の一人等は、強い陽射しで日焼けが酷くなり、途中から妙な帽子を被って登場してみたりする程だ…

前作の『笑う男』から数ヶ月後で、折しもサッカーのワールドカップが開催中で、スウェーデンは自国チームの戦いぶりに一喜一憂する人々が満ちていた…(1994年の米国大会―所謂“ドーハの悲劇”で日本チームが出場を逃した…―であろう…試合が催される、米国の地名は作中には出ない…)

ヴァランダー警部は、「盗難車の密輸出」―スウェーデンの港町から、東欧方面に盗難車が送られるということが、組織的に行われていた、或いは行われてる経過はフィクションには止まらないようだ…本作では詳述されていないが…―という事件の調査を地道に続けていたが、7月前半から予定している休暇を心待ちにしながら日々を過している。シリーズの各作品で御馴染みのビュルク署長がマルメ―スコーネ地方最大の都市。作中でも結構頻繁に出て来る…―へ栄転することになり、イースタ署での“送り出す集い”も愉しく終了した…

そんな日の夕刻、菜の花畑を営む老人からの電話が署に入った。「不審な女が朝から菜の花畑に居て、動かないので困っている」という話しだった…交通事故の処理等でパトロール要員が出払っていたことで、ヴァランダー警部は自ら問題の菜の花畑を訪ねることにした…

ヴァランダー警部は「不審な女が朝から菜の花畑に居て、動かないので困っている」という話しを聴き、「寧ろ老人に問題が?福祉局に連絡するべきか?」という印象さえ抱くのだったが、老人が言う“不審な女”は間違いなく菜の花畑に居た…

ヴァランダー警部は、女から事情を聴こうと畑に踏み入る。近付いてみれば、外国人風の“少女”という年齢と思われる女だった。何か非常に怯えている様子だった。「警察の者だが…」と声を掛けると、女は手にした容器に入っていた液体を身体に掛け始めた。そして…少女は、いきなり松明のように燃えてしまった…

「眼前で焼身自殺…」という酷い目―永く夢に見そうで、多分誰も経験したくないことであろう…―に遭ってしまったヴァランダー警部だったが、彼は寧ろ「未成年の外国人らしい人間の自殺」という事態に“静かな憤り”のようなものを覚え、“不明”であった彼女の身元を明かし、彼女を自殺に追いやった事態を探ろうとする…

そうしていた矢先、ヴァランダー警部は更にとんでもないことを知らされる。イースタ署管内の海岸にある家で悠然と暮らしていた、引退した政治家で元法務大臣という人物が遺体で発見されたとの報だった…しかも、遺体は「頭の皮が剥がされる」という無残な状態だったのだ…

ということで、ヴァランダー警部達が「出来れば知りたくなかったことを確実に知るに至る」までの物語が展開する…

「誰かの行い」を他者に伝えようとする場合、“誰が”、“何時”、“何処で”、“どのように”事を行ったのか、そしてそれが“何故なのか”が綴られて初めて「事の全体像」が伝わるのだと思う。

「ミステリーの中の犯行」のようなものは、“誰が”、“何時”、“何処で”、“どのように”事を行ったのかについて「少しバラバラ」に示される。そして、それは「事の全体像」を明らかにしようとする、本作で言えばヴァランダー警部達のような、作中の捜査陣よりも一部で読者が「先回り」してしまう面が在る。しかし“何故なのか”に関しては、作中の捜査陣と読者とが「同着」か、前者が少し「先回り」という場合が殆どのような気がする。

本作は、そういう「ミステリーを読む場合の思考の流れ」を踏まえながら、随所に“目くらまし”を忍ばせた綴られ方が為されているようにも見受けられる面が在るかもしれない…

「最も美しい」と言われる季節で、休暇を満喫する人々が居たり、スポーツイベントを愉しむ人々も居るという、実に華やいだ雰囲気の中で、“恐るべき犯人”による“凶行”はなかなか止まらない…事件には、地理的な拡がり―本の最初の方に、舞台となる地域の街が記された地図が在る…―も加わって、ヴァランダー警部ら捜査陣は翻弄される…また、色々と悩みながらも、“凶行”を止めようと力を尽くし、今回は「捜査をガンガン仕切る」という感じのヴァランダー警部が凄くカッコウ良い!!ページを繰り始めると止められなくなってしまう…

本作は「出来れば知りたくなかったことを確実に知るに至る」までの“本筋”も面白いが、ヴァランダー警部周辺のことを扱うような“脇筋”も面白い。警察官になって以来、関係がギクシャクしていた父との関係に変化が起き、「例によって」という雰囲気も在るが、父が一寸した騒動を起こしてしまう場面も在る…前作で登場した新人刑事との間では、嘗ての“自分対良き先輩”(先輩のリードベリは他界しているが、ヴァランダーはそれなりの頻度で、彼の言葉を思い起こしている…)の関係のようなものを見出すようになる…

本作の最末尾に在る“訳者解説”だが、なかなかお得だ…ヴァランダー警部シリーズの刑事達に関する小事典が在る!!

本作は、“凶行”を繰り返す犯人と捜査陣の対決の他方、冒頭の方に出て来る「外国人少女の自殺」が示すような、「相対的に貧しい国の人々が、相対的に豊かな国の悪しき者に踏み躙られる」可能性が拡がっている状況を告発するような一面も持ち合わせている…こうした、「地方都市が“世界”と、思わぬ型で交差する」という“時代”が描かれるのも、ヴァランダー警部シリーズの魅力の一つであろう…

もし「“ヴァランダー”?シリーズだって?どれが一番?」とでも問う方が在るなら…私は本作を推したい!!

『タンゴステップ』

“ヴァランダー警部シリーズ”のヘニング・マンケルによる、シリーズ以外の新しいミステリーが在ることを知った…

↓この作品である!!

タンゴステップ 上


タンゴステップ 下
↑重厚な作品世界!!一寸引き込まれてしまう…

この作品は、冒頭に1945年の欧州の様子を描いた短いプロローグが在る…

当時、「戦犯の処断」が行われていた訳だが、それを行っている中の一人が、「主客転倒」という“イフ”が在ったとしても、少しもおかしくなかったかもしれないということに思い至っている…

そういう“戦犯”絡みの物語であることが冒頭に暗示されるので、物語を紐解きながら、出て来る“謎”について「これは、あれか??」と色々推定出来てしまう面も在る…

そういうことなら、“謎解き”という側面が面白くないと思われてしまうかもしれないが、本作の興味はそういう部分に止まらないのではないかと思う…

本作は、作中人物達が発生する事態に対応しながらも、身に降り掛かっている様々な状況の中で「自身との対話」のようなものを繰り返している。それが積み重ねられている辺りが、「全体に漂う重厚な空気感」を醸し出しているように思う。更に、やや大袈裟かもしれないが、“エンターテイメント”である“ミステリー小説”が「“文学”に昇華」という姿を示すのが本作…かもしれない…そんなことさえ思わせるものが在る…

本作の舞台は、晩秋から冬にかけての、スウェーデン北部となっている。ヘリェダーレンと呼ばれる地域だ…なかなかに寒さも厳しい内陸部だ…

この地域…50kmや100kmの距離を、車で飛ばすというようなことが「当たり前」となっている、「山林の隙間に小さめな町や村が点在している」ような地域である…作中には随所に、「美しくも寒い北の山林」を、同時に「過疎地での暮らしぶり」を想起させる描写が見受けられる…

この作品の舞台となっている地域だが、或いは我々が“宗谷管内”と呼んでいる、北海道の北の方にも相通じるかもしれない…道内では、この辺りばかりではなく、そういう按配の場所は多々在るのだが…そういう設定の御蔭で、何か妙に作中世界に入り込む感じで本作を読み進めた…

本作の主人公はステファン・リンドマンという男で、彼は主な舞台となっている地域よりもかなり南の、人口10万人程度の都市で刑事をやっている。

このリンドマン…具合が悪いので医者に掛かると、“舌癌”であることが判明してしまった…放射線治療などを開始するまでの期間、不意に時間が出来てしまうのである…

こんなリンドマンが本作の主人公に浮上するのは、彼が“普段の暮らし”に「居た堪れなさ」を感じて耐えられなくなり、旅をするからなのである…

リンドマンの登場に先駆けて、ヘリェダーレンで“事件”は発生する。森の中の一軒家で、人目を避けるかのようにひっそりと暮らしていた老人が惨殺された…床には惨殺された老人の血で不思議な足跡が在った。これが、ダンスのタンゴの基本ステップだったのである…(故に本作の邦題は『タンゴステップ』となったのであろうが…)

リンドマンは事件の報道に触れた。そして、殺害された老人というのは、警察で一緒に仕事をした先輩であり、退職後に何処かへ転居して特段に連絡が無かった人物であることに気付く。個人的な親交が在った訳でもなかったが、リンドマンはこの老人の死に興味を禁じ得なかった…

こうしてリンドマンはヘリェダーレンを訪ね、独自に、また同時に事件の捜査を進める地元の刑事達と協力し、老人の殺害事件と向き合う…更に、彼は自らの病気のことや、それまでの自分の人生とも向き合う…老人の詳しい素性を調べる中、リンドマンは自分の家族の秘密をも知ることになる…

という物語であるが、なかなかに読ませた…孤独な老人の殺害が引き金に、事件は「妙な拡がり」を見せ始め、捜査も若干混迷し、リンドマンの冒険を通じて絡んだ糸が解かれていく…

思いも掛けずに時間が出来たリンドマンは、「身に降り掛かった病故に」というのも勿論大きいが、人生の或る時点で期せずして“熟考”をすることになる…

或いは誰もが“リンドマン”になる可能性が在るのかも知れない…そんなことを思って本のページを閉じた…

『笑う男』

最近、“クルト・ヴァランダー”を「身近な存在」というように感じている。小説の作中人物として、私の中でかなり“お馴染”になってきたのだ。

彼は地方の小さな警察署に勤めるベテラン刑事で、傍目には寧ろ「冴えないおじさん」である。そんな彼が、なかなか想定し難いような拡がりや深まりを見せる事件に出くわし、経験と独自のカンで事件を調査し、時には身体を張って奮戦する…

このところ『リガの犬たち』『白い雌ライオン』と立て続けにヴァランダー警部が活躍する作品を読了した…そして“クルト・ヴァランダー”が妙に気に入っている…

↓更にクルト・ヴァランダーの足跡を追うべく、また入手した…

笑う男
↑本作は、シリーズの第4作である。第3作だった『白い雌ライオン』の一件の後の物語ということになる。

物語の舞台となっているのは、11月から12月のスウェーデン南部、スコーネ地方である。

『白い雌ライオン』の事件では、ヴァランダー警部に余りにも多くの災厄―どのようなものなのかについては、是非『白い雌ライオン』を御覧頂きたい…―が降り掛かった。

ヴァランダー警部は、深い心の傷を受けることとなってしまったのだ。そのために心身のバランスが崩れてしまった。そして彼は“病気休暇”に入っていた…

『白い雌ライオン』の事件から一年以上、概ね一年半がが経った…

ヴァランダー警部はデンマークの海辺の小さな町に在る宿屋に滞在していて、毎日オフシーズンで人が少ない海岸を散策するなどして過ごしていた。

ヴァランダーの心身は快復しつつ在ったが、ヴァランダーは警察を退職する意思を固めていた。そのヴァランダーの眼の前に、友人の弁護士が突如現れた。

何処に居るのかを他人には伝えていなかったヴァランダーは、友人の弁護士の登場を訝しがるが、彼はヴァランダーの姉と連絡を取ったのだという。「何としても会おう」としていたことが判った…

弁護士は、友人であり、警察官でもあるヴァランダーに、切々と協力を要請した。

要請の内容は、「交通事故で死亡」ということになった、同じく弁護士をやっている彼の父親の死に、不審な点が在るために調べて欲しい、ということだった…

話しを聴いたヴァランダーは、実は警察を退くつもりである旨を友人に告げ、「力にはなれない」ということで別れていた。

やがてヴァランダーは、正式な退職手続を行うため、イースタに帰還した。友人が訪ねて来てから程なくであった…

そこでヴァランダーは新聞を眺めて気付いた。デンマークの海岸に訪ねて来た友人の死亡が伝えられていたのである。気になって死亡の経過を訊ねてみれば、事務所の部屋で、射殺体となって見付かったのだという。“他殺”である…

ヴァランダー警部はそこで考えた。デンマークの海岸に訪ねて来た友人の一件を捜査しなければならないと…そして彼は退職を撤回し、長くなっていた病気休暇からの復職の手続をした…

という訳で、突如現場復帰をしたヴァランダー警部が、弁護士の射殺事件の捜査に参加し、物語が進展する。

弁護士は何故射殺されたのか?“交通事故”ということになっていた、父親の老弁護士の身には何が起こっていたのか?という出発点から、事件は思わぬ拡がりや深まりを見せて行く…ヴァランダーも危険な目に遭ってしまう…

本作では、イースタ警察署の仲間として、新しい作中人物が登場する。新人の女性刑事である。警察学校では非常に優秀だったという評判だが、実際はどうなのかは未だ判らない。ヴァランダーは彼女と一緒に捜査活動を展開する場面も在る…これも本作の興味深い部分になっているかもしれない。

ヴァランダーのシリーズは、本国では90年代に「概ね年1冊」という具合に上梓されていた。作中のヴァランダーも、作品が出る都度に作中で年齢を重ねて行くことになっている。40代から50代に向かって行く彼の様が描かれていることになる。

作中に時々出て来ることがある。ヴァランダーの「もう少々で50代に手が届こうかという世代の男としての想い」のようなものが吐露されている。

彼の少年時代は50年代から60年代ということになる。言ってみれば,スウェーデンも高度成長の時代だった。そして彼は、70年代から社会に出ている。高度成長に若干の陰りも見え隠れし、社会が変容していった中で、警察官の仕事を続ける。そして勤続20年以上になって、世の中の何もかもが随分と変わってしまい、自分や同世代とは全く異なる経験をしている若い世代の、多少異なる考え方や行動の台頭というものに想いを向ける…

何か、“子ども”でもなく“老人”でもない、と言って“若者”でもない世代の、社会の中で「宙吊りになっているような落ち着かなさ」というようなことなのかもしれない…

最近思うのだが、私自身が現在より更に若い時点で本作に出逢っていたなら…現在ほどクルト・ヴァランダーに惹かれなかったのかもしれない…

私自身、社会に出ることになった際、漫然と考えた…社会に出た時点で、「自分より旧い世代の考え方の“最後尾”に立つことも、自分より若い世代の考え方の“最先頭”に立つことも出来る訳だ…」などとである。そこから、“ヴァランダー”よりは少々短いものの、或る程度の長さで社会人をやっていて、今もって…「自分より旧い世代の考え方の“最後尾”に立っているのか?自分より若い世代の考え方の“最先頭”に立っているのか?」は判らず、「宙吊りになっているような落ち着かなさ」は年々募っているような気がしないでもない…

何となく「ヴァランダーと多少シンクロするかもしれない想い」を抱きながら、かなり単純に愉しんで読んでいるのだが、この作品も凄く愉しく読了出来た…

『白い雌ライオン』

過日読了した『リガの犬たち』は、“クルト・ヴァランダー警部シリーズ”の第2作だった…

↓気に入ったので「シリーズの他作品…」ということで入手してみた…

白い雌ライオン
↑これがシリーズ第3作である…

シリーズとは言っても、各作品が各々独立した物語なので、何処からでも愉しめるようになっていると思う。

主人公のクルト・ヴァランダー警部は、スウェーデン南部のスコーネ地方に在るイースタ(※作中の標記を尊重する。一般的にはイースタッドと標記されることの方が多いようだ。スウェーデン語で“Ystad”と綴る。)で働いている。シリーズの主な舞台は、同地の警察の管轄区域であるイースタの街とその近郊である。

本作『白い雌ライオン』もイースタで物語が始まる。本作で描かれる一件の時季は4月末から5月で、最終盤に6月の話しが入る…

ヴァランダー警部は、失踪人の届出を受ける…

不動産業を営む夫妻の妻の方が、「家を売りたい」という連絡を受けて物件の下見に郊外へ出掛けた。金曜日の午後であった。「夕方5時頃に戻る」という旨の留守番電話を残したまま、その日は戻らず、週末が過ぎた…

「3日も戻らないのは考え難い」と夫は不安顔で訴える。

未だ幼い2人の娘も居て、家庭も円満で、仕事でも大きな問題が無い中で、この女性が行方を眩ませてしまうのは不思議なことである…調べてみれば、調べてみる程に“不思議”が募る…

ヴァランダー警部は調査を進める中で“事件性”を感じ取っていた…次第に彼女の捜索は規模を拡大していった。

足取りが途絶えた郊外の民家の周辺では、警察関係者に加えて、協力を求めた軍隊の人出が大勢出て、懸命の捜索が行われた…

懸命の捜索が続けられる中、突然、近くの民家が爆発炎上した…異常な事態だ…

突如爆発した民家の現場、或いは周辺を捜索すると、更に妙なことになった。現場から「黒い肌の指」が発見され、更にロシア製の高性能無線機、南アフリカ製の拳銃が在ったことが判明したのである。

“南アフリカ”に“ロシア”…突如として話しが難解になってしまった…話しの起こりである、失踪してしまった女性はどうしたか?そして、民家が爆発した現場から発見された“南アフリカ”やら“ロシア”やらが意味するものは何か?切り落とされてしまったらしい、黒い指の主は何者なのか?

ということで展開して行くのが本作の物語である…

本作は、何か“警察モノ”と“国際謀略モノ”が合わさったような、不思議な魅力、或いは“引力”を帯びた作品に仕上がっていると思う。ページを繰り出すと、停まらなくなってしまう…

本作の物語は1992年と設定されている。南アフリカで、かの“アパルトヘイト”(人種隔離)が完全に放棄され、黒人であるマンデラ大統領が選任される少し前の時期に当る。その南アフリカが鍵になっていることから、本格的に物語が始まる前に、南アフリカで隠然たる影響力を持っていたという“結社”に纏わる話しのプロローグも在る…

ヴァランダー警部が働くイースタの管轄区域とは縁が深いでもない“謀略”が、「女性の失踪」という事件を切っ掛けにヴァランダー警部の身に降りかかる災厄となっていく…何か凄い展開である…

「小さな街で働いている普通の警察官」であって、「色々なことに悩む中年男」であるヴァランダー警部が、持ち得る知恵を振り絞り、身体も張って奮戦している本作…なかなか愉しませてくれる!!

本作では、ヴァランダー警部の前に色々な人物が現れる。不思議な人物であったり、彼と激突する悪漢であったりするのだが、そうした人物達の描写がそれぞれに好きだ!!

『リガの犬たち』では、「ラトヴィアへ飛ぶ」という展開も在った…今回はそういうのは無い…事件の謎を追う過程でストックホルムへ出張する場面が在る…ストックホルムで色々と在るのだが…このヴァランダー警部シリーズでストックホルムと言えば、警部の娘のリンダが学生をやっている街である。この作品では、リンダも存在感が大きいかもしれない…

本作のラストは、「受容れられるもの」ではあるが…それでもシリーズの次の作品等が気になってしまう…何時の間にか、“ヴァランダー警部”も私にとって「多少馴染みのキャラクター」となっている…

『死刑囚』

『制裁』『ボックス21』のアンデシュ ルースルンド、ベリエ ヘルストレムのコンビによる作品が他にも出ていることを知り、早速入手してみた。シリーズの第3作ということになる…

↓これがその作品である…
死刑囚 (RHブックス・プラス)
アンデシュ・ルースルンド/死刑囚 Rhブックス・プラス
↑なかなか夢中になり、直ぐに読了してしまった…

今回の物語は1月のストックホルムが主な舞台になっている。敢えて“主な”としてみたのは、大西洋の向こうでのお話しも在るからだ…

フィンランドからストックホルムへのフェリー…バンド演奏が行われるダンスホールも設けられている大きな船だ…

このダンスホールに、痴漢のようなことをしている酔った男性客の姿が在った。そんな様子をステージ上から視ていたバンドマンの一人が男の様に憤激した。憤激した男は、酔った客を蹴飛ばし、大怪我を負わせてしまった…

負傷した酔った客の側から、警察に被害届が出された。バンドマンは直ぐに逮捕された…逮捕された男は、拘置所で激しい閉所恐怖症と見受けられる反応を見せた…

逮捕された男はカナダ国籍のジョン・シュルツと言った…パスポートを調べてみると、非常に精巧では在ったが、偽造であるらしいことが判明した…

このことから、何処かの国で前科を持つ外国人であろうと推定され、調査が続けられた。すると…この男が米国オハイオ州の刑務所で、刑の執行を前に獄中で病死してしまった男、ジョン・フライであるらしいことが判明したのだった…

ジョン・フライが獄中で病死したのは6年前だった。「6年前に死んでいる男が重傷害の容疑で逮捕」という奇怪な事態が発生してしまったのである…

ということで展開する物語である…「6年前に死んだ筈の男が生きている」という事態が如何に発生したのかが解き明かされ、そして“死刑囚”のジョンが辿る運命が描かれる…

この奇怪な事件に向き合うのは、ストックホルム警察のグレーンス警部の捜査班である。シリーズの読者にはお馴染みになっている、相棒のスヴェン・スンドクヴィストに加え、『ボックス21』の事件で登場した若い女性刑事マリアナ・ヘルマンソンがチームに加わっている。グレーンス警部とは折り合いが余り好くないオーゲスタムも出て来る…

この作品は“死刑制度”というものに関して考える内容にもなっている。

本作の原題は『エドワード・フィニガンの救済』という。“救済”という表現には“補償”というような意味合いも含むのだそうだ…エドワード・フィニガンとは、ジョンが死刑判決を受けた殺人事件の被害者遺族で、死刑執行だけを願っていた男である…州知事の友人で、知事顧問官という州政府の要職にある人物でもある。この人物が辿る経過も、本作のポイントである。

「死を以って償うべきである」という考え方に対して、「殺すことはいけない」という考え方…これは米国での考え方に対して、スウェーデン等の欧州諸国の考え方ということにもなる…

本作で印象に残るのは、「5歳の息子を残して死刑になる」というジョンの運命に関して、自らも小学生の息子の父親であるスンドクヴィストが思い悩む場面である…

更に…新加入のヘルマンソンがグレーンス警部を理解しようと外に連れ出すなどし、グレーンス警部の人物像が掘り下げられるのも本作のポイントかもしれない…

残念ながら日本語版は未だ登場していないが、アンデシュ ルースルンド、ベリエ ヘルストレムのコンビによる作品は更に2作在るようだ…

『制裁』

過日『ボックス21』を大変に興味深く読了したが、これの作者であるアンデシュ ルースルンド、ベリエ ヘルストレムのコンビによる作品が他にも出ていることを知り、早速入手してみた。

↓これである…

制裁
↑こちらの方も、ページを繰り始めると止まらなくなってしまった…

実は『ボックス21』は“第2作”であり、この『制裁』が“第1作”となっている。

『ボックス21』では、老警部エーベルト・グレーンスが負ってしまっている哀しみに関する詳しい言及も視られるが、本作ではそういった描写は無い…家庭人で柔和な印象を与える相棒の警部補スヴェン・スンドクヴィストに対し、言葉を荒げてしまうことも多めで、取っ付きが悪く、「定年退職で仕事を不意に離れたら人生がどうなるのか?」という程に仕事に没頭している男として登場している…

物語の舞台は6月のストックホルムである。本作のストックホルムは、高気圧が発達していて晴天が続き、非常に暑い夏の様相を呈している。そんな夏の日に、人々の憎悪が渦巻く様が描かれている…

明け方まで悶々としていて、執筆が巧く運ばない作家フレドリック・ステファンソンは、ついつい朝寝をしてしまうことも多かった。同棲している保育士の女ミカエラの世話で着替えや朝食を済ませた、別れている妻との間に生まれた5歳の娘マリーも、昼まで自宅に居た。

昼に起き出した作家は、たとえ筆が進まなくとも何とか仕事に取組むべく、娘を保育園に連れて行くことにした。娘が保育園で昼食を摂ることが出来るように、車を飛ばして保育園に向かった作家…

保育園の入口周辺に男が居た。中の子ども達の誰かの保護者であろうと思った作家は、とりあえず会釈をした。男も会釈を返した。娘が保育園に入り、仲良しの男の子と遊び始めた様子を見届け、作家は仕事場へ向かおうと外に出た。外には男が未だ居た。また会釈を交わした…

作家は仕事場で、なかなか原稿が進まない状態に在った。そして、音を低くしてあったテレビに眼を向けた。大写しになっている写真…保育園の入口で見掛けた男だった…

作家は眼を瞠って音を上げて情報に耳を傾ける…写真の男は“小児性愛”、“嗜虐”という性向の人物で、幼女に対する強姦殺人を犯している男だった。現在は服役中であったが、病院へ診察に出た際に護送の任務にあたっていた看守を殴り倒して負傷させ、逃走しているところで、目下緊急指名手配中だったのである。

娘を送って行った保育園の入口で見掛けたのは、保育園の子の保護者であろうと思って会釈まで交わしたのは、緊急指名手配中の幼女強姦殺害犯であったことに作家は動揺した…

ということで事件が展開し、やがて作家が思わぬ行動に打って出て、社会に波紋が広がってしまうのである…詳細は是非本作を紐解いてみて頂きたい…

アンデシュ ルースルンド、ベリエ ヘルストレムのコンビによる作品を、とりあえず“シリーズ”と捉える場合、主人公は老警部グレーンスということになるのだろうが、本作の“主人公”は“作家”だと思う…彼の動き、心象の変遷、辿る運命が本作の物語の肝であろう…

この作品では『ボックス21』にも引続き登場する若手検事ラーシュ・オーゲスタムが、何となく“サブ主人公”というような存在感を示していると感じた。

この若手検事は、検察部内での昇格(=出世)への野心を隠そうともしていない面が在る人物だ。惨たらしい事件であろうが、被告に求刑をして、弁護側の主張を跳ね返して求刑に近い量刑が科されて部内で注目されれば、彼としては“チャンス”なのだ。そういう考え方の男では在るのだが、彼は「途中から求刑をする相手が代わってしまう展開」に面食らい、それによる事件の“質の大きな変化”に大いに戸惑いながら、“法”というものの筋道を通すべく、彼なりの奮戦を見せるのである…そんな様が印象に残った…

『ボックス21』にも引続き登場する若手検事に言及したが…本作には彼以外にも『ボックス21』に登場する人物が“受刑者”として登場している…

本作は『制裁』と名付けられた。巧い邦題だと思う。事件によって、夏の日に拡がった憎悪の波紋は“制裁”という型になって発露するからである…

しかし、本作の原題は“獣”、転じて“怪物”という意味合いだそうだ…直截的には幼女強姦殺害を繰り返すような、誰もが嫌悪する異常な男が“獣”或いは“怪物”として思い浮かぶ。しかし、誰しもがある種の“怪物”めいたものを心の中に宿らせてしまうことがある…そうしたものが波紋となる…本作にはそんな様子が描かれていると思う。

更に…本作は「子どもに向けられたもの」を筆頭に、あらゆる“暴力”への疑義を投げ掛けているようにも思えた…大変に重厚な感じがする作品だ…マイナー原語のスウェーデン語から、各国語に翻訳されただけのことはある!!

『催眠』

ミステリーの中には、「小説こそ面白い」というタイプと、「映画やドラマにすると良いかもしれない」というタイプとが在るような気がしているのだが…

↓今回読んでみたのは、多分後者であろう…実際、“映画化”という話しが持ち上がっているらしいが…

催眠 上


催眠 下
↑逆に言えば「アッサリし過ぎて物足りない」ということにもなるのかもしれないが、「スッキリした構成」であり、個人的には好きだ…

本作はスウェーデンの作品である。“ラーシュ・ケプレル”という筆名以外はプロフィールを明かさずに、一定の評価を得ている作家が出した作品で、既に“シリーズ第2作”も完成しているのだという。下巻の末尾に在る解説によれば、計8作程度が構想されているそうだ…

“周辺事項”から始めてしまったが、物語である…

舞台は12月のストックホルムだ…あの暗い時間が長い、氷点下の気温の場合も在り、多少の積雪が見受けられることもあるストックホルムだ…

“催眠セラピー”を手掛けた経験の在るエリック・マリア・バルク医師が夜中に呼ばれて病院へ向かう辺りから物語が始まる…暗い街を、カーオーディオでマイルス・デイヴィス作品を鳴らしながら病院へ向かうというような渋い描写が出てくる…

エリック・マリア・バルク医師が呼ばれたのは、重傷で病院に収容された少年から、“催眠セラピー”の手法を駆使してでも証言を得たいという事情からだった…

この少年は、“一家惨殺事件”の生き残りだった…少年の父親が公園で惨殺されていた。身元が判明したため、警察官が家族に事態を伝えようと自宅を訪ねたところ、少年の母親と妹が遺体で見付かり、更に死んでいると思えたような状態で少年が発見されたのである…

この一家には、成人していて家を離れている長女が居た。ヨーナ・リンナ警部は、犯人が残った長女を襲うことを危惧し、どんな手段に訴えてでも、犯人を目撃している可能性が高い少年からの証言を得ようと考えたのである…

ということだったのだが…事件はエリック・マリア・バルク医師の一家を巻き込んだ意外な展開を見せる…本作はその顛末を追った作品ということになる…

本作の主人公だが、何か“ダブル主役”という感じである…

一方の主人公はヨーナ・リンナ警部である。スウェーデンには、各々の管轄区域で活動する警察の他に“国家警察”というものが在るようで、ヨーナ・リンナ警部はその国家警察に勤務している。「ぼくの言ったとおりだったでしょう」が口癖で、何か飄々とした雰囲気であるのだが、「氷のようなグレーの眼」で睨んだ直観と推理に揺ぎ無い自信を持っている人物である。優秀なアシスタントであるアーニャのサポートを受けながら捜査に飛び回るフットワークの良さも見せ、射撃もなかなかに得意である。そして彼はフィンランド系であるようだ。

「“少数派人種”出身で、鋭い推理で飄々と動き回る“探偵役”」というのは、こういうミステリーの主役としては珍しくない存在だ。作者は彼が登場するシリーズを構想しているということなのだが、本作に関してこのリンナ警部をハッキリ“主人公”とせずに「“ダブル主役”の一方」としたのは、本作ではエリック・マリア・バルク医師が非常に大きな存在感を示しているからだ。

バルク医師は、“催眠セラピー”の手法を駆使してでも少年の証言を得ようとすることについて逡巡する。最初の方では理由を人には言わないのだが、“事件”が在って「二度とやらない」ということにしていたのである。ところが、危険に晒されている“一家惨殺事件”の家族の長女を救うという事情から、今一度それをやってしまう…そこから、彼の一家を巻き込む事件が“一家惨殺事件”と並行して発生してしまうのである…

本作では、何かリンナ警部の出番よりも、バルク医師の出番の方が若干多いような感じもする…或いは「主役はバルク医師」という言い方もしてみたくなる面さえ在る…

下巻の半ば辺りには、バルク医師が“催眠セラピー”を封印するまでに至った物語を綴った、“10年前”というかなり長い一節が在る。この“10年前”だけでも一寸した独立の物語になるかもしれないような雰囲気なのだが…この部分はバルク医師目線で綴られている。“一家惨殺事件”と並行して発生する事件に関しては、バルク医師がふと想い起した、彼の過去が重要な鍵になっていく…

こういう事情から、本作は“ダブル主役”と感じられるのである…そして、それが或いは「アッサリし過ぎて物足りない」ということにもなるのかもしれない印象を与えている原因にも思えるが…

本作では「そう来るか…」と“非常に驚く”程の謎やどんでん返しは見当たらないようにも思えるが、“闇”を抱えて凶行に走る者達が…なかなか怖い…この怖い状況に引き込まれたバルク医師と、彼と協力して事件に対応するリンナ警部の活躍…なかなか楽しめた…

或いは、本作は“シリーズ”の“オープニング”ということで、敢えてリンナ警部はアッサリした印象にしたのかもしれない…

『ボックス21』

最近『ミレニアム』3部作が非常に愉しかったことから、「スウェーデンのミステリー」と聞けば、何か大いに期待して手にしてみたくなる。

ハッキリ言えば、スウェーデンは“マイナー”―人口は1千万人を切る程度だった筈で、「“スウェーデン語”を学ぶことが出来る場所」も日本国内では極々限られた場所であろう…―であり、「にも拘わらず翻訳が出る」ということは、「各国でそれなりに人気が在る、面白い作品である」ということの“裏返し”と考えることも可能なのではないだろうか?更に換言すれば「“ハズレ”の可能性が低い」ということかもしれない…(スウェーデン語がマイナーなので、他の言語に翻訳されたものを底本にして翻訳という場合さえ在るであろうが…)

↓ということで手にした一冊である…

ボックス21
↑過日の札幌滞在中に入手し、“北上”の車中や、稚内帰着後の食事の序や宵の徒然に、一気呵成に読了してしまった…なかなかに引き込まれるものが在る…

本作のタイトルである“ボックス21”の“ボックス”とは、駅に在るコインロッカーのことで、“21”というのはそのロッカーの番号のことだ。本のカバーに在るイラストが示していることでもあるが…またこのロッカーは、話しの鍵にもなる…

本作に触れて、欧州各国で「深い闇」のようになっている“人身売買”に想いを巡らせてしまわざるを得なかった。これは『ミレニアム』の第2部でも取上げられているテーマだ。

欧州では、所謂「嘗ての東側」が相対的に貧しく、相対的に豊かである国々に若い女性―“少女”という年齢の場合も多々在るようだが…―が半ば騙されて連れ去られ、売春等を強いられるという事象が在るのだそうだ。どうもこれが非常に根の深い問題でもあるらしい…

本作の背景には、この“人身売買”という問題が絡まって来る…

ストックホルム市内のアパートで、「女性が男性に暴力を振るわれ、重傷であるらしいが、男性が現場アパートに関して“リトアニア領”である等と叫んで抵抗し、ややこしい事態になっている」という事件が起こった。暴行を受けた女性は、リトアニアのクライペーダから連れて来られた娼婦で、男は“ポン引き”だった…警察の介入で現場が収まった後、娼婦は大怪我を負って入院するが、その病院で“事件”が起こる…

大雑把に言えば、本作は上述の“事件”を軸に、他の事件や作中人物達が抱える様々なもので綴られたものである。「6月のストックホルム」というのが舞台に選ばれているのだが、「遅くまでなかなか暗くならない美しい街でありながら、何か肌寒い…」という描写が、作品世界に妙にお似合いである…

主人公格と視られるのは、重く深い哀しみ―彼の哀しみに関する描写だが、私は若干涙腺が緩んだ…“喪失”以上に厳しいものかもしれない…―を負った老警部である。「家に帰ることさえ投げ打って仕事をする」という、一寸取っ付きの悪い、警察部内では寧ろ関係者に敬遠されているような人物だ。

この老警部の、数少ない“友人”である別部門で活躍する警部、彼と一緒に巧くやっている数少ない人間である警部補、彼と折り合いが好くない検事、“事件”を起こしてしまう娼婦、一緒に北欧にやってきた娼婦、同時に進行した他事件に関連する被害者、目撃者、容疑者という人達が作中世界を彩っている…

娼婦の過去が挿入され、現在進行中の幾つかの事件が描かれ、少しずつ“秘密”が仄めかされる。最終盤に関しては「そう来るか…」というような、やや驚く結論が用意されている…

全編を通じて老警部が主人公のように見えるが、終盤は寧ろ警部補が主人公であるように思える。彼は、折り重なった色々な意味合いの“秘密”を知り、葛藤を経験することになる…

本作は入念に練り上げた様々なモノが、丁寧に積み重ねられて、「深く暗い世界」を構築している…ページを繰り始めると、止め難くなる一冊だ!!

『リガの犬たち』

“リガ”というのは、所謂“バルト3国”の一つであるラトヴィアの首都だ。

↓その“リガ”を題名に含む小説に出くわした…

リガの犬たち
↑一瞬、「ラトヴィアの小説?」と思ったが、スウェーデンの小説だった…

実は、過日札幌でこれを見付けて、札幌滞在中、更に一部は札幌から稚内への北上の途次に読み、読了してしまった…「夢中にさせるもの」が多い作品だったように思う。

ヴァランダー警部は、スウェーデン南部のスコーネ地方に在るイースタ(*寧ろ“イースタッド”と記載することが多いようだが…)に勤務している。彼らの署に奇妙な電話が入る。「ボートに乗せられた遺体が漂着するかもしれない」という内容だった…

暫く経ってみると、奇妙な電話が予告したとおり、海岸に救命ボートが漂着し、2人の男性の遺体が在った。他殺体と視られる遺体は、歯の治療痕から「東欧で暮らす人らしい」と推定された。

やがて、遺体はラトヴィア人であるらしいことが判り、ラトヴィアの捜査官がイースタにやって来た。そして、ヴァランダー警部達としてみれば、「事件をラトヴィア当局に引継いで、一件落着…」ということになった。

ラトヴィアの捜査官が帰国して程なく、事態が思わぬ展開を見せる。ヴァランダー警部は、ラトヴィアへ飛ぶ…

という物語で、これは1990年代に発表された、スウェーデンの人気シリーズ、“クルト・ヴァランダー警部シリーズ”の中の作品である…本作はシリーズ第2作らしい…

本作の時代設定だが、1991年の2・3月頃である。この時期は、“ソ連時代”の最末期であり、バルト3国では“市街戦”の様相を呈した流血の事態も見受けられ、やがて迎える“独立回復”への動きが盛んになった激動期である。

本作で設定されている時代は、所謂“東側”での政権交代が相次いだ時期でもある。「犯罪のネットワーク」とでも呼ぶべきものも変容していた過渡期であった…

こうした時代背景の中、ヴァランダー警部は“社会”や“人生”と向き合いながら、また新たな出会いを経験しながら、不思議な経過を辿ってしまった事件の謎に取組む。

今となっては「そんな時代も…」というような背景の中、多少草臥れた感も在るヴァランダー警部がなかなかに味わいの在る“冒険”をする作品である。

本作の舞台となっているような時代…私はかなり若かった…今になって、作中のヴァランダー警部にやや近い年代に差し掛かっている訳だが、本作を読んでいて、或いは「今の目線で、“昔”の或る時期を思い起こす…」というような感覚にも見舞われた…

今後、このシリーズを見付けたら…また手に取ってしまうかもしれない…