『ミレニアム 眠れる女と狂卓の騎士』

気に入った小説に熱中し、「本を読む以外は何もかも放り出したって構わない!!」(実際にはそうも行かないが…)に近い気分にまでなり、夢中で読み進めて終に読了という時…大いに愉しんだ満足感、気になって仕方が無かった物語の行先を知った安堵感、劇中人物達との“別れ”の惜しさ、たかだか小説を読むということに異様に執着していた時間についての虚しさのようなもの…何もかにもが混じり合ったような、複雑な余韻が残る…

『ミレニアム』の3部作…終に第3部まで夢中で読了した…


ミレニアム 3〔上〕 眠れる女と狂卓の騎士 上


ミレニアム 3〔下〕 眠れる女と狂卓の騎士 下

『ミレニアム』の著者スティーグ・ラーソンは、“5部作”として本作を構想していたらしい。第3部まで完成したところで出版の話しが決まり、第1部の刊行を待っていた最中、残念ながら急逝してしまった。

という話しが知られている。こういう事例が在るということは、「無意味で馬鹿げた仮定」ではあるかもしれないが、「第1部が発表されるに止まる」とか「第2部までに止まる」という展開も「在り得た」かもしれない。

「第1部が発表されるに止まる」作品であった場合…ミカエルは冒頭部で窮地に陥っていた。発表した記事に関する名誉毀損訴訟に敗訴し、名誉毀損の罪で有罪となってしまっていた。主宰する雑誌の今後のことなど、悩みが尽きない状況下に入った。そうした中で不思議な依頼を引き受けるが、仕事をやり抜く…作品の最後では、引き受けた仕事の後に冒頭に陥った窮地を脱し、ミカエルは「恐らくは本作の劇中人物として我々の前に登場する以前の状況」に戻っていくと思われる雰囲気だ…そしてリスベットである。彼女に関しては「リスベットは何処へ…」という雰囲気で、静かに退場する…私はこれを「広義のハッピーエンド」と受け止める。一寸言葉を換えれば「在りそうな…」ということになるかもしれない…これは“受容れられる”或いは“受容れ易い”ものである。

「第2部までに止まる」作品であった場合…リスベットが「殺人事件の重要参考人(容疑者)」として当局に追われるという窮地に陥った…件の殺人の被害者が仕事仲間であったこと、その第一発見者になってしまったこと、更に一緒に仕事をしたリスベットを信じることから事件を調査するミカエルが居る…蠢く“謎の男”の件が調査の中で明らかになり、第1部では明かされなかったリスベットのプロフィールも次第に明らかになる…そして作品の最後だが…私は読後に「どうするんだ!?おい!!」と思わず声を上げてしまった…「どうしても次のページが欲しい!!!」という結末なのだ…これは“受容れ難い”…否!!“受容れられない”結末だ…

敢えて「無意味で馬鹿げた仮定」を持ち出してみたのは、「第2部を読むと、第3部は必然的に手が伸びるであろう」ということを強調したかったからに他ならない。私は「どうせ入手するなら…」と第1部から第3部を一括して入手したが、「第2部を読んだ後にでも…」ということで手元に第3部が無い状況であれば、気になって仕方がなくなり、或いは一寸おかしくなってしまっていたかもしれない…「“次のページ”禁断症状」という訳だ…

第3部は正しく第2部の最終盤の“続き”から始まる。第2部の最後を読んで居た時に欲しくなった「次のページ」から始まっている!!

リスベットが関った一連の事件を受けて、“行動”を開始した男が居た…“謎の男”に関するあらゆる事柄を知悉した人物である。秘密機関“班”の創設メンバーである老人、グルベリだ…

リスベットの窮地は続く…彼女を救おうと、ミカエルは複雑化した事件の調査を続けるが、“班”は彼の活動を阻もうと蠢く…ミカエルはこの“班”、またはそれらしき何かに思い至り、協力者達と共に“戦い”を続ける…

リスベットがどうなるのか、ミカエルの“戦い”の行方、“班”の数々の陰謀、『ミレニアム』誌の人達やその他の人達のこと等、未読の方のためにもこれ以上は詳述しない…が第3部で漸く「収まる」感じがする…第3部の最終盤まで読了すると「劇中人物達は“その後”に踏み出す…」という感が強まる…

第3部は「劇中人物達は“その後”に踏み出す…」という感で終わるのだが、それでも「きっと第4部、第5部の展開が…」と思わせるものは色々と在る…何度も名前だけは出て、どういう人物か掴めない人物や、第3部で出来た劇中人物同士の関係の中で「この後??」という強い興味を沸き起こさせるものが眼に留まるのである…

それにしても、『ミレニアム』は「リスベットの物語」である。第1部副題の原語版「女性を憎悪する男」に虐げられ続けたリスベットの数奇に満ちた人生というのが、第3部まで貫かれている。もう一人の主人公である、やや著者自身とも重なるミカエルは、リスベット自身よりも作品の読者の目線に近い「“リスベットの世界”への“案内役”」なのかもしれない…

とりあえず、3部作を無事に読了した…本作は「第2部の最後」程激しいものではないが、随所に「軽い“次のページ”禁断症状」を起こさせるものが在る…読後の複雑な余韻の中で最大のものは、或いは“安堵”かもしれない…

『ミレニアム 火と戯れる女』

叶うものなら「他の事は全て放っておいて、喫茶店でも梯子して温かい飲物を啜りながら、一日中読み進めたい…」という状況になっている『ミレニアム』である。

凄まじい勢いで読み進み、第2部を読了してしまった…


ミレニアム 2〔上〕 火と戯れる女 上


ミレニアム 2〔下〕 火と戯れる女 下

第1部は、「本土と橋一本で繋がっている島に在る、財閥創業者一族の邸宅から、忽然と消えた女性の謎」という、言わば「“島”という“密室”」が設定され、それに纏わる話しが拡がる構成だった。「“島”という“密室”」というのが、「旧き良きミステリー」のような味わいを醸し出す…ここに財閥創業者一族の秘密が絡み、何か“金田一探偵モノ”を想起させてくれる雰囲気も在る…

この第1部だが、私の理解では「広義の“ハッピーエンド”」だったように思えた。しかし…それでもミカエルとリスベットの「その後」がやや気になる雰囲気だった…

第2部は、第1部の最終盤から1年程経た辺りから始まる…

ミカエルはリスベットと連絡が取れなくなっていることを気に掛けてはいたが、『ミレニアム』誌関係の仕事に打ち込んでいた。フリーライターのダグを迎え、新たな特集記事と、それに基づく本の出版を計画し、準備に勤しんでいたのである。

リスベットは長く国外旅行に出ている。そして帰国したところで、恩義や友情を感じている数少ない人々と接触を図っていた。

ここにビュルマン弁護士が蠢く。リスベットかミカエルと仕事をする以前、リスベットとの間で“悶着”―第1部に詳述―が在り、ビュルマンはリスベットに深い怨恨を抱いている。リスベットが握る“秘密”を処分すべく、ビュルマンは「同じく深い怨恨を抱いている」と思われる「謎の男」に接触を図った。

ビュルマンが接触した「謎の男」が活動を開始し、事態は動き出す…リスベットか「3人の殺害に関する重要参考人(容疑者)」として手配されてしまうのだ…

リスベットを案じながら事の真相を探ろうとするミカエル。他方で、ブブランスキー警部補の捜査班も事件を追っている。ミカエルが探り出す、或いは捜査班が見出す事件の真相は?リスベットはどうなってしまうのか?

ということで進むのが第2部の物語である。

第2部は、「旧き良きミステリー」のような味わいというのではなく、もっと“現代的”な感じが前面に出ている。事態が動く切っ掛けとなる事件は「アパートで銃声がしたところに、偶々そのアパートを訪ねる友人が到着し、惨い射殺体になった友人と対面…」という話しなのだ。関係者各々の目線で描かれる状況が分厚く積み上げられ、「そこで何が起こったのか」が次第に明かされる他方で、どんどん新しい事件も発生するのである。“捜査班”目線で言えば「明解だと思われて容疑者の行方を捜していた事件が、どんどん判らなくなっていく」という按配に物語は推移するのである。

第2部は「リスベットの物語」である…本シリーズのヒロインであるリスベットは、第1部で「個人的なことを話したがらない人物」として登場する。ミカエルなど、彼女と接点を持った人達の中でも、リスベットの色々なことについて「知らないこと」が多い状態となっている。第2部では、そうした「知らないこと」が次第に明らかになっていく。彼女が“最悪の事態”と思い起こす、彼女の過去に在った出来事や、ビュルマン弁護士との悶着に至ることになった境遇へ置かれるまでの人生が紐解かれるのである…

この作品は、「謎が多いヒロインの謎を明かす」流れの他方で、「アクション」、「冒険譚」も意外に多く、非常に愉しい仕上がりになっている。そのお陰で、“次”が気になって仕方なくなり、凄まじい勢いで読了したのだが…

こうした外国作品の翻訳に関して、「人名が覚え難い」、または「作中の地名等が判り悪い」というお話しを耳にすることがある。この『ミレニアム』シリーズは、翻訳モノを多数出している出版社から送りだされている故になかなか行き届いていると思う。

本の冒頭部に、作中に登場する地名が判り易く纏まった“地図セット”が在る。“セット”としたのは、スウェーデンや周辺国が在って諸都市の位置が示されたもの、ストックホルムの広域図、都心部などの拡大図と複数のものが在るからだ。この拡大図に、劇中人物の住まいや職場と設定されている辺りというような説明も添えられている。気になれば随時参照可能だ。

そして人物一覧も在るが、これについては「少々大きめなしおり」という感じのカードに、本の冒頭に在るのと同様の一覧が刷られている。気になった際に参照し易い。

人名の話題だが…スウェーデン人が圧倒的多数の劇中人物であり、一部に「やや言い難い」感じで、頭に残り悪い姓が出て来る。だが名の方に関して言えば、スポーツ選手、俳優、政治家等々の著名人の名前、或いは世界史の教科書に登場するヨーロッパの人の名前等で何となく聞いたことが在るような按配で、こちらは然程面倒でもない。

“名”に関して思うが、多分「日本語の名」というものは非常に難しいと思う。漢字、ひらがな、カタカナで無制限に様々な名前が在るからだ。昨年、偶々とある児童・生徒の名簿が眼に触れた機会が在ったのだが、「読み方?」、「男子?女子?」というものがかなり目立って驚いた覚えが在る。

それに比べると、欧州系言語の世界では、“名”は或る程度のリミットが在るように見受けられる。日本語での名のように個性的なものは寧ろ稀であるように見受けられる。

欧米諸国を舞台にした小説の劇中人物の名を少し考えると、「異文化から移住してきている人達の層」が舞台になる国に在って、そこに出自が在る人物が登場するような場合は、それと判るやや変わった氏名も出て来る…そういう変わったものが一部に在っても、例えばスウェーデン語のミカエル―『ミレニアム』の主人公の名だが…―に対し、英語でマイケル、ドイツ語でミヒャエル、ロシア語でミハイル、イタリア語やスペイン語でミゲーレという具合の「起こりが同じ名の“ヴァリエーション”」も多く在り、大概はそういう範囲のものを見掛けるばかりである。

こうした外国作品の翻訳に関して「人名が覚え難い」という話題から、やや名前の話しに踏み込んでしまった。こんなことに想いを巡らせたのは、“リスベット”というヒロインの名が多少気に掛かったからだ。偶々、私自身にとっては、本作のヒロインの名として初めて見掛けた名だった…

彼女の名、リスベットはLisbethと綴るそうだ。これはElisabet(エリザベート)の派生型の名であるという。英語のエリザベスである…

『ミレニアム』はミステリーであるので、未読の皆さんに御迷惑が及ばないよう、筋書きには極力言及しないようにしているのだが、非常に愉しい作品なので語り始めれば幾らでも話しが拡がる感じだ…

この「リスベットの物語」という様相の第2部だが、第1部の「女性を憎悪する男」というようなものが貫かれている。そして第2部には、「“情報”と“個人”と“社会”」とでもいうようなテーマが織り込まれているような気がしている。

この第2部だが…読了後に「第3部を手に取らない訳には行かなくなる」という幕切れであった…第1部から第3部まで、纏めて入手しておいて賢明だった…

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』

映画やテレビドラマを通じて、それらの原案となった小説の存在を知り、やがて小説を紐解くというようなパターン…私の場合は時々在ることだ。この『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』もそうしたパターンで小説に行き当たった。

実は『ミレニアム』の小説は第1部から第3部まで在る。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』は第1部を原案とする映画である。第2部、第3部を原案とする映画も存在する。

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女





少し前にたまたま『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』を観たのだが、これの第2部、第3部のDVDレンタルが始まることを知り、何となく気に掛けていた。

或る日それを不意に思い出したが、たまたま私が時々利用するレンタル店でそれが見付けられなかった…

そんなことをモタモタとやっていたのだが、「原案の小説が…今なら全部纏めて入手可能だ…」ということに気付き、入手してしまったのだった。


ミレニアム 1〔上〕 ドラゴン・タトゥーの女 上


ミレニアム 1〔下〕 ドラゴン・タトゥーの女 下

出くわしたこの映画原案となった小説だが…かなり気に入った!!そこそこに分量も在るのだが、ページを繰り始めると“続き”が気になって仕方なくなる…そして、そこそこの分量をものともせず、一気に読了してしまう。

「映画を観てあらすじを知っているから、読むのが早かった?」ということになるのかもしれないが、そういうことでもないと思う。

映画と小説とでは作中世界を“見せる”手法が異なる。

映画は「かなり整理(=省略)された型になり、俳優の演技、画、画像効果、効果音、BGMなどなどが一体となって」観る者に迫る。

小説は「劇中の人物について、出来事について(適当なテンポを保ちながら)詳細に描写され、それが幾重にも積み重ねられ」読む者に迫る。

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の映画と小説とでは、上述のような違いが在るように思う。

物語は、雑誌“ミレニアム”の主宰者グループの一人でもあるジャーナリスト、ミカエルを主人公としている。舞台となるのはスウェーデンである。

ミカエルは著名実業家による不正を糾弾する記事を発表したが、それが“事実無根”として名誉棄損の訴訟を起こされ、敗訴してしまった。この結果、ミカエルは罰金を支払い、3か月間服役しなければならなくなった。

罰金のことや今後の“ミレニアム”誌の仕事のことなどで思い悩んでいたミカエルの所に、少し変わった依頼が舞い込んだ。地方の名門で、財閥の創業者一族であり、嘗てはかなり著名な財界人であったヘンリック・ヴァンゲルからの依頼だった。表向きは「ヴァンゲル一族の物語を綴る」ということにして、「1966年に失踪した、“娘”同様だった一族の女性、ハリエッタの謎を解いて欲しい」という依頼だった。

ミカエルは“一年契約”というこの仕事を引き受け、ハリエッタが消えた事件の現場でもある、ヴァンゲル一族が住む島に移り住んで活動を開始する。

やがてミカエルは、調査活動に助手が必要であることに思い至るが、そんな中でフリーランスで警備会社の仕事を請け負う調査員、リスペットの存在を知る。リスペットは風変わりな女性だが、間違いなく“凄腕”だった…

というようなことで、本作は“ミステリー”であるため、ここではこれ以上“物語”には踏み込まないようにしたい…

「劇中の人物について、出来事について(適当なテンポを保ちながら)詳細に描写され、それが幾重にも積み重ねられ」るのが、“小説流”の劇中世界の見せ方と上述しているが、この『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』は正しくそういう綴り方が為されている作品だ。最も主要な劇中人物であるミカエル、リスペットを始め、彼らの周囲の様々な人々や、ミカエルとリスペットが挑んでいる謎に関わる幾多の人物に関して、見事にディーテールが描き込まれ、それが積み重ねられる中で“謎”が解き明かされる…とにかく引き込まれてしまう。

敢えて触れておくが…基本的には先に映画を見ればネタは判るが、「整理されている」映画と、小説は若干異なる…小説の方が、却って時間的経過が判り易くなっていて、また叙述が詳しいので判り易い面も在る…

この作品を著したスティーグ・ラーソン(Stieg Larsson 1954.8.15 - 2004.11.9)は、雑誌の主宰も手掛けていたジャーナリストだった。小説『ミレニアム』を綴り、第3部が完成した辺りで出版が決定した。そして第1部の出版を待っていた中、彼は心臓発作で急逝してしまった…やがて、出版された『ミレニアム』は大ヒットする。1千万弱の人口であるスウェーデンで、シリーズ合計で290万部を売ったという…本国で異例の大ヒットを記録した本作は、世界中で翻訳もされ、各国でも大ヒットしている。

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』というタイトルである。“ドラゴン・タトゥーの女”とは、リスペットを暗示しているのだが、本作の“原題”はこれとはやや異なる。“女を憎悪する男”という意味らしい…リスペットが活躍するという意味で、“ドラゴン・タトゥーの女”というのも良いが、小説を熟読すると“原題”がより適切であるような気もする…

“第1部”を読了して、何か直ぐ“第2部”が気になってそわそわとしてしまう…そんな作品だ!!

実は、最近読み進めていて、非常に嵌っているのがこのシリーズなのである!!