『左太夫伝』

「近刊」の情報の中で本書を知り、題名の一部に在る「左太夫」に注目した。「玉虫左太夫」(たまむしさだゆう)という人物のことであろうかと思った。

↓そして登場した本を入手した。思ったとおり、「玉虫左太夫」という人物の物語であった。

左太夫伝



↑一般的には知名度が高くもないかもしれないが、激動の幕末を駆け抜けた、なかなかに傑出した人物であった。その人生を追い掛けるような感で、この「左太夫」が視点人物となる形で物語が展開する。読み始めると、頁を繰る手が停め難くなってしまう。

題名の一部に在る「左太夫」に注目したというのは、「玉虫左太夫」という名が記憶に残っているからだ。戊辰戦争の奥州の戦いでは、「何としても!」という勢いで会津松平家を討つとする新政府側に対し、罪に問うというならそれを容れるとする会津松平家を攻撃して戦禍を撒き散らすことも無益であると、奥州の大名家が戦わずに“問題”の収束を図ろうとした。そういう中で「奥羽越列藩同盟」が登場した。奥羽越で最大の大名は仙台を本拠地とする伊達家であり、仙台伊達家が「奥羽越列藩同盟」の代表幹事的な存在となった。そしてその家中の士であった玉虫左太夫は、抜擢されて事務局長的な仕事を担うのだ。戊辰戦争の後、奥州の敗れた側となった大名家では、戦時に責任在る立場であった者が「責め」を負って切腹するというようなことになったが、仙台伊達家に在ってはこの玉虫左太夫が切腹することとなったのだった。

幕末期の会津松平家の経過というような事等に興味を覚え、色々な本を読み漁っていた中で「奥羽越列藩同盟」の経過を知り、関係の仕事に携わった「玉虫左太夫」という名を記憶したが、この人物に関して明るいという程のことでもなかった訳で、興味津々でこの『左太夫伝』を紐解いた。

玉虫左太夫は戊辰戦争の際の「奥羽越列藩同盟」に関連して重要な役目を担うことになったが、仙台伊達家の中で重要な役目を担うような、家老や何かの要職を担う家中では相対的に高い位置の家柄の出ということでもない。大名家の家中の武士達については、本拠地の城下町やその他の領内で様々な行政上の役目を担う官吏として代々活動しているか、受継がれた技能によって一定の仕事をしているという人達が主流だ。殊に仙台伊達家のような大きな規模の大名家であれば、主君と言葉を交わす機会等は生涯に数える程の場面が在るか如何かで、普通はそんな場面は考え難い。更に「あれが御殿様」と見て顔が判る位の位置で姿をハッキリ視る機会も在るか否かという感じであったようだ。玉虫左太夫はそういう「普通」の武士の家の出である。一族の中に城下町仙台の町奉行を務めたという人が在って、作中「町奉行を務められた玉虫様の御一族?」というやり取りが一寸出ているが、そういう「行政上の役目を担う官吏」として活動していた武士の家の出であったのだ。

武士の家では、兄弟の順で家を継ぐ権利が在る。兄が家で受継ぐ色々なモノを引継ぐ。兄に不都合―早く亡くなってしまうようなこと―でも在れば、弟が代わる。代わる必要が無い場合、弟は他家へ養子に出る。何らかの技芸でも在れば、その技芸を活かして独自に分家のようなモノを起すような感じになる場合も在ろうが、そうでもなければ「厄介叔父」等と呼ばれ、一族の居候的な位置で生きるような感じになる。玉虫左太夫は5人の兄達が在る末っ子であった。そういうことも在って、学問で身が立つようになりたいというようなことを漠然と願ったかもしれない。本作の物語は勇八という幼名で呼ばれた玉虫左太夫が所謂“藩校”の養賢堂に学び始めるというような頃から起こっている。

兄弟の末っ子である玉虫左太夫は婿養子に出ることになった。養子に出た家の娘と、兄妹というように暮らしたが、やがてその娘が妻になる。そして若い夫妻に娘が産れるのだが、その時に妻は他界してしまった。そして周囲の勧めも在って、養子先との縁を解き、玉虫左太夫は江戸に出て活動をするということになる訳だ。

江戸へ出た玉虫左太夫は学問の世界に身を投じて活動する。やがてペリーが来航するような時期になった。師であった林大学頭は幕府の外交顧問というようなことでの活動が多忙となり、その補佐役を務めることになった。そうした仕事に携わったことが契機で、玉虫左太夫は自身の考え方に影響を及ぼすような、貴重な経験を重ねて行くこととなり、それが注目され、仙台伊達家の藩校の教授ということになって色々な活動を展開することになるのだ。

本作の中では、玉虫左太夫の経験というのが物語の重要な部分を占めていると思う。箱館奉行の巡察に従って現在の北海道とサハリンということになる蝦夷地を巡ったということが在った。その時の縁で、1860年の幕府の使節に従って米国渡航を経験して注目されるのだ。これらを通じて、蝦夷地と呼ばれた地域の可能性を見出し、米国で触れた体制、世情、新技術、人々の暮らしを通じて新たな国造りを夢見るようになって行く訳である。

玉虫左太夫という人物は、詩人や歌人というような感でもなく、観たことや聴いたことを要領良く丁寧な文章に纏めて綴り、内容に関心を寄せた人達に関連事項を説くということを得意としていた。その能力が高く評価され、仙台伊達家の当主であった伊達慶邦が抜擢し、当時の不穏な情勢を巡る情報収集や分析に携わることとなって行く。

北海道内に住んで居て、サハリンに関しても承知しているという関係で、この玉虫左太夫が巡った蝦夷地という辺りはかなり愉しく読むこととなった。同行者の1人として登場する「佐賀の島」は、明治の初めに開拓の仕事に携わる島義勇であろうし、アイヌとの付き合い方に苦言を呈する松浦武四郎とも出会うが、この人物も北海道の歴史ではよく知られる。蝦夷地に関し、豊かな資源を利用して、豊かな地域を創る可能性が満ちた場所であると玉虫左太夫は思うようになるのである。

米国渡航に関してだが、使節団の中で主流を占めたのは条約文書に纏わる役目だけを行えば善いというような考え方、米国側が「御覧頂くか?」と申し出たことを歓迎しないような雰囲気で、玉虫左太夫は臍を噛む。後から、使節団の幹部であった小栗豊後守も似たような感覚を持っていたことが判る。勝手が違い過ぎる様子に当惑し、疲れてしまうというような人達が見受けられた中、玉虫左太夫はその「違い」の中から様々な事柄を見出そうと考えを巡らせ続けるのである。

作者は幕末期を背景とした物語を何作も綴っている。榎本武揚の闘いが描かれる『武揚伝』、ペリー来航時に「話しをさせろ!」と現場で奮戦して箱館で散る中島三郎助が描かれる『くろふね』、新しい技術を積極的に容れて新たな概念での統治体制を築いて行こうとした江川英達が描かれる『英達伝』が在る。“時代”を乗り越えて“未来”を創ることを夢見て、必ずしもその想いを遂げられずに終始してしまったが、懸命に生きた男達が在った。そんな系譜に、この玉虫左太夫の『左太夫伝』が加わった。

所謂“時代モノ”については、色々な読み方、愉しみ方が在ると思う。そういう一つだと思うが、作中の主人公が懸命に生きながら考えている様々な事が「現在?」というように想いが巡る場合が在る。

玉虫左太夫は、ペリー来航の際の対応を手伝ったことで出会った「米国」を実際に訪ね、日本国内で重んじられていたような儒教の“礼”を基礎とするような秩序と無縁な世界を、太平洋を渡る航海に際しての艦の士官達と水兵達の様子から始まって、街の様や大統領官邸の様子に至る迄で目撃し、中に入って色々と経験する。そして共和政体の下で、誰もが自由に安心して生きられる“情”に溢れる様子が指向されていると強く感じる。そういう社会を支えるのが様々な技術で、そうした技術に支えられる産業なのだと観る。

近年の色々な様子を思う中、「玉虫左太夫の夢」が150年余りの時間を経て「実現?」と思いながら読後の余韻に浸った。「共和政体の下で、誰もが自由に安心して生きられる“情”に溢れる様子が、優れた技術に基づく産業に支えられる」というような様子が「玉虫左太夫の夢」なのだと思うが、如何であろう。玉虫左太夫は「夢」を共有出来そうな榎本武揚との共闘を思い描いて、果たせずに散ってしまった。本作の物語は、何か「考える材料」になりそうだ。

この作者のファン、また作者による幕末期の物語の読者としては、例えば蝦夷地の旅の仲間であった「佐賀の島」、米国渡航の復路で立場の違いを度外視して話し掛けて来たので語らった小栗豊後守というような人達の物語が読みたいというようなことを思った。

必ずしも知名度が高いのでもないが、当時の多くの人が全く知らなかった様子に触れ、持ち前の文章力を駆使してそれを伝えようとし、揺れ動く時代の大きな渦の中に消えた玉虫左太夫の物語は興味深く、多くの人に薦めたい。何処かに、この人の事績を紹介する展示の様なモノが登場しても好い筈だというようなことも思った。

『ユニット』

↓紐解き始めると「続き」が気になってしまい、頁を繰る手を停められなくなってしまった。

ユニット (角川文庫)



↑根が深い問題や、犯罪被害の影響を克服しようとするようなこと等の社会的な要素を深く織り込みながら、人の繋がりが出来上がって行く様子、壊れて行く様子を考えるような内容かも知れない。読後の余韻が非常に深い。

複数の視点人物が在り、適宜それらが入れ替わりながらモノが在りが進む。

夫の執拗な暴力に怯え、傷だらけになっていて、5歳の息子を連れて、思い切ってそこから逃れることにした門脇または宮永裕子。

事件当時17歳の少年で在った人物に妻と1歳の娘を殺害されて以来、7年間もそのことで鬱のようになってしまっていて、苦しみながら少し荒んだ暮らしをする真鍋篤。

用事を足しに出た際の一寸した出来事を通じて、真鍋篤や宮永裕子と知り合い、彼らを雇うこととなる工務店経営の波多野正明。

何か妄執に憑りつかれたかのようになっていて、妻に激しい暴力を振るう、辣腕刑事でもある門脇英雄。

7年前の母子殺害事件で、少年事件としては最も重い無期懲役刑になりながらも仮出獄して来たばかりの川尻乃武夫。

これらの5人が主な視点人物となって、物語は展開する。札幌、函館、旭川、小樽というような北海道内が舞台となり、実在している地名が多々出て来る。

余りにも不幸な出来事に心を砕かれてしまったままであった状況から新しい歩みへ踏み出そうとする、傷だらけであった状態からより自然な状況の中で新たな歩みを始めようとする、そういう人達が偶々出会って“ユニット”となって行く動きが生じる。

こういうのに対して、妄執、思い込みで激情に任せるかのように突き進み、以外が一致しそうだと行動を共にし、それを“ユニット”と称するような動きも在る。

作品そのものは「家庭内暴力」という問題が注目された状況、民家に押し込んだ少年が母子を殺害という事件が実際に起こってしまった様子を踏まえ、2003年頃に初登場したそうだ。更に、本作では敵役的な役割の門脇刑事が色々と職務上で暗躍するような場面も在るのだが、本作の少し後から登場する「北海道警察シリーズ」に繋がる感じでもある。

或いは「浄化する魂」というような動きに対し、「腐敗する魂」というような動きが在って、両者の衝突というような様子が本作のクライマックスなのかもしれない。

宮永裕子と息子、真鍋篤、彼らを雇った波多野正明の「その後」は作中で何となく示唆されている。他方、その様子が登場する小説が在れば是非読みたいという感じだ。

主要人物達がぶつかり合う様を通じながら「人生の中で少し大事にしてみたいこと?」というような、静かな問題提起も在るように感じた。広く御薦めしたい!

『警官の酒場』

↓紐解き始めると簡単に停められなくなる。「続き」が気になって、頁を繰る手が停められず、「続きは後で…」というようにする機を逸してしまう。

警官の酒場



↑長く親しんでいるシリーズの新作で、全体としては第11作ということになる。「親しんでいるシリーズの新作」となれば、「少し離れた場所に在る友人や知人の近況に触れる」という感覚で愉しめると思うのだが、本作も正しくそういう感だ。

本作は北海道警察を舞台とするシリーズである。第1作は警察部内での妙な出来事を何とかしようとする様子が描かれ、やがて第1作以来の面々が各々に動き廻る事件モノというようなシリーズ展開となる。

第1作の一件等も在って、主流を外れるような感じになった佐伯警部補は、大通警察署の盗犯係なのだが、関わる事案で手腕を発揮し続けている。少し若い新宮は佐伯の下で活動している。同じ大通署の少年係には女性刑事の小島が在って、佐伯との関係の変遷がシリーズの中で見受けられる。そして佐伯とは古くからの仲間である津久井は、第1作の一件の故に閑職に在ったのだが、長正寺警部の引きで機動捜査班に配置されて活躍している。

本作でもこうした主要人物達は健在である。そして各々の活躍が描かれ、物語が展開する。

佐伯は、老いた父親の介護というような個人的な課題も抱えるようになっている。他方、上司から警部昇任試験の受験を強く勧められていた。昇任した場合の研修で、少し長く家を空けることになるという事情も在り、佐伯は受験を逡巡していた。そういう中で佐伯は事件に関り始める。

佐伯が着手した事件は、設備工事会社が現場で使っていた古い車輌の盗難という騒ぎだった。車輌そのものは高価なモノではない。どうやら車輌ではなく積まれていた工具等が盗まれたようだった。

他方で、街での危険な事案に駆け回る津久井達の動き、女子高生のスマートフォンがひったくられたという事案や、女性を支援する団体への嫌がらせという事案に対応する小島の動きが在る。

そんな時に事件は起こる。馬産地で牧場を営む夫妻の家に強盗が押し込んだ。4人組による犯行だが、犯行時に牧場主の男の頭を強打した者が在り、牧場主は死亡してしまった。結果的に「強盗殺人事件」となってしまった。

「強盗殺人事件」の捜査が始まった他方、札幌市内の千歳線沿線である上野幌駅で不審な車輌が発見された。そして遺体も発見された。不審な車輌は新千歳空港に早朝に現れていたことが確認され、「強盗殺人事件」の犯行グループは札幌方面に入り込んだと推定された。

津久井の所属する機動捜査班はこの「強盗殺人事件」に関連すると見受けられる事案を精力的に追っていた。他方、佐伯達は盗難または紛失の届け出が全く無いスマートフォンが8台も纏まって見付かったという不審な事案を捜査していた。

各自が関わる事案が次第に交錯し、事の真相が明らかになって行く。

本作は佐伯、津久井、小島、更に「強盗殺人事件」に関わってしまった4人組の1人と、次々に視点人物を換えながらスピーディーに展開する。目が離せない…

このシリーズでは、狸小路8丁目に在ると設定されている<ブラックバード>というジャズバーが頻繁に登場している。本作でも登場し、このエピソードの中での重要な出来事が起こる。

このシリーズでは札幌等で作中の出来事が起こっている。極個人的な事情ではあるが、土地勘が在る場所が多く出て来るので、各部の描写が凄く迫る感じだ。勿論、フィクションの小説なので、多少のアレンジは在る訳だが。

ここまでの11作は或る程度の一定間隔で登場したように思う。今作を読了してみると、次作が在るなら少し長く間隔が開くかもしれないという気がしてしまう。或いは、装いを新たにした「道警シリーズ」に模様替えも在るのかもしれない。

何れにしても、夢中になれる作品で、凄く愉しいので御薦めしたい。

『雪に撃つ』

↓「続きが酷く気になる…」という作品で、ドンドンとページを繰ってしまう。ページを繰る手が本当に停められなくなり、素早く読了に至ってしまった。

雪に撃つ (ハルキ文庫 さ 9-10)



↑気に入っているシリーズの新作というのは、「遠方の友人知人の消息を知る」という感じで愉しく読むのだが、本作もそういう例に漏れない作品で、とにかく大変に愉しかった。

作品の主な舞台は札幌である。多分、中央警察署がモデルと見受けられる大通警察署に、盗犯担当の佐伯刑事と部下の新宮刑事、少年課の女性警察官である小島刑事が在る。そして機動捜査隊に在る佐伯刑事の古くからの仲間である津久井刑事、更に津久井の上司である長正寺警部が居る。こういう人達が主要な作中人物である。

シリーズ初期の作品は、警察部内での厄介事が在って、そういう中で仲間達が密かに奮戦するというような内容だったが、次第に意外な展開を見せる事件を公式、非公式に手を携えて仲間達が解決に向けて奮闘するという感じの内容になって行っている。本作もその後者、幾つかの出来事が結び付いて行く中、仲間達が奮闘して事件を解決へ導くという体裁である。

冒頭、長万部駅の辺りで、用事で他地域に出掛けた女子高生の孫を迎えに出た男が、「煽り運転」のような乱暴な走り方をする車に戸惑いながら、「酷く訳アリ?」と見受けられる外国人らしい女性が列車に乗れるように駅へ送るという挿話が入っている。

それから数日後、札幌で<雪まつり>の開幕前日、所謂「前夜祭」となっている日に舞台が移る。

佐伯刑事と新宮刑事は、自動車の窃盗事件の現場に駆け付けていた。キーを付けてエンジンも停めずにコンビニに珈琲を買いに出た男が乗っていた、会社の車が盗まれてしまったのだという。自動車盗難事件として捜査に着手することとなった。

小島刑事は、過去の事件で知り合って、現在でも交流が在る人物から相談を受けた。釧路に住む知人の高校生の娘が家を飛び出し、釧路から夜行バスで札幌に出たらしい。おかしな事態にならないように保護しなければならない。保護者に、釧路の警察署に届けるように促し、小島刑事は高校生を探し出そうと活動を始めた。

津久井刑事は妙な通報を受けて現場に駆け付けていた。近くを通ったカーチェイスのような車をやり過ごすと、乗っていた車の様子がおかしいので停車すれば、何やら「弾痕?」のようなモノが在るというのだ。発砲事件らしい。そして関わった車というのが、佐伯刑事が対応しようとしていた盗難車である可能性が在るということになった。

主要劇中人物達が、各々の担当する事案に普通に関わろうとしているのだが、それが思いも掛けない「裏」を持っていて、やがて収斂する…

「雪まつり」が開幕しようかという慌ただしい感じ、賑わった感じの1日を背景に、思いも寄らない拡がりの在る事件が展開している。アップテンポに挿話が折り重ねられながら展開する物語だが、何か「映画…」のようで強く引き込まれてしまう…

個人的には、札幌の地名が出て来ると「あの辺…」と判るので、読んでいて情景が凄く思い浮かび易く、何となく力が入る。このシリーズとしては、雪が降り頻る場合も在るような時季を舞台にした例はこれまでに無かったと思う。本作は、雪が交る中、「雪まつり」の時季の風情が描き込まれていてなかなかに好い。

とにかく愉しい!!

『英龍伝』

↓なかなかに興味深く読んだ“時代モノ”の小説だ…

英龍伝 (毎日文庫)



↑知名度が高いような、それ程でもないかもしれないような史上の人物に関しては、主要視点人物のモデルに取上げられた小説を介して色々と知ることが叶う場合が多いと思う。本作の「江川英龍」という人物もそういうことになるのかもしれない。

本作は『英龍伝』という「判り易い!」題名が冠せられているが、「江川英龍」という史上の人物を主要視点人物のモデルに取上げている。江川英龍は幕末期の人物で、代々「太郎左衛門」を名乗って伊豆の韮山の代官を世襲して来た家に在った。「幕臣」ということになる。

作者は幕末期に関して「思い入れ」が強いと見受けられる。そして御自身の「観方」が確りしていて、それに基づく作品が幾つか在る。『武揚伝』『くろふね』という作品だ。これらと本作を併せて「幕末三部作」と呼ぶ場合も在るらしい。

『武揚伝』『くろふね』は何れもかなり以前に読了した。そして本作なのだが、何れも「幕臣」が主要視点人物のモデルとなっている。

幕末期、世界の国々と向き合う、或いはそうならざるを得なくなった中、当時は新奇なモノであった筈の技術や知識と向き合い、「新たな時代を構想し、実現を目指してみようとする気概」に溢れていたのは、寧ろ明治維新で“敗者”というような感になった「幕臣」だったのではないか、というのが作者の「観方」なのだと思う。『武揚伝』の榎本武揚、『くろふね』の中島三郎助、そして本作の江川英龍という「幕臣」に関しては、作者の「観方」に共感出来るように思う。

或いは江川英龍という人物は、思い立って学んでみようとしたことを学び易いとか、周囲に影響を及ぼし易いとか、「少し恵まれた?」というような位置に在ったのかもしれない。が、それなりに広い版図、色々な要素が在る幕領を預かる為政者たる“代官”とはなかなかに難しい役目であり、自身の先代ということになる父の薫陶も受けながら、自己の研鑽にも余念が無かった一面も在る。そしてそれが後年に「花開く」ということになる。

何時の時代にも、何処の世界にも「自身の細やかな“権威”」とでもいうような事柄に固執するような感の“守旧派”というような人達は在る。そうした人達の「嫌がらせ…」めいたモノも出て来るのだが、それでも江川英龍は「信じるところ」を目指そうとする。

敵対的な関係になる人達との色々な事柄も在るのだが、協力的な関係になる人達との色々な事柄も色々と描かれていて面白い。が、協力的な関係になる人達、仲間とか同志と呼び得るような人達が残念ながら排されてしまうことを悔しがる辺りは、本作を読んでいる者としても残念に感じた。そういうように、「入り込む…」という魅力が在る作品だと思った。

本当に「“新たな時代”を構想し、それを実現したかった、実現しようとした」という江川英龍の事績、生き様が活写される本作は、何か「力を分けて頂くことが…」という感で、本作は本当に面白かった!

『沈黙法廷』

↓「週末のお愉しみに…」と金曜日に紐解き始めた小説だが、非常に面白いので土曜日の夜までに一気に読了に至ってしまった…

沈黙法廷 (新潮文庫)



↑本当に頁を繰る手が停まらなくなってしまう…

「刑事事件」というモノは、事件発生が確認されて警察が捜査し、被疑者が逮捕され、それが起訴され、裁判が行われて判決が出るというまでで「一件落着」であろう。

一般に、事件を扱う“刑事モノ”、“警察モノ”の物語は、捜査が展開して被疑者が明らかになり、逮捕されるような時点までが描かれる。が、本作は<事件>、<逮捕>、<公判>と大きく3つの章で構成され、事件発生から警察による捜査の展開、逮捕された被疑者の公判というように「一件落着」までの全ての流れが描かれる物語ということになっている。

物語の冒頭…女性と一緒に出掛けようと待ち合わせをしていて、件の女性が現れずに待ちぼうけとなってしまっている若者が現れる。決して恵まれている境遇でもなく、一生懸命に働いている若者が、一寸した経過で知り合った女性に惹かれて交際というような感じになっていたのだったが、どうしたものか約束の場所に現れずに連絡も巧く取れなくなってしまった…読んでいて「可哀相に過ぎるじゃないかぁ!?」と思う場面だった。更に…夜の警察署で、聞き込み捜査から引揚げて来た刑事が、見慣れない人達が署に現れて、何やら剣呑な雰囲気になっている場面に出くわす。やって来たのは、“勾留却下”ということになった男の身柄を引取りに乗り込んで来た、少し名前が知られているやり手の弁護士だった…

というように、いきなり物語が動いているかと思えば、これは序章だった…直後に<第1章>が徐に始まるのだ…

訪問販売のセールスマンが、赤羽署管内の旧い住宅を訪ねた。嘗ては商店兼住居であった建物には60代の男性が1人で暮らしている。高価な業務用マッサージチェアを訪問販売の業者から買い求めた経過が在ったということで、この男性は「脈が在る」と、“点検商法”と呼ばれる住宅リフォームを手掛けるセールスマンはこの家を訪ねたのだった。

セールスマンは男性の家、嘗ては店だった部分でインターホンを鳴らしたが反応を得られなかった。視れば施錠はされていない。戸を開けて中へ入ってみる。声を掛けても無反応だ。上って様子を伺った。そうすると、セールスマンも知っている大きなマッサージチェアに男性が座った状態で全く動かない。多分、死んでいる…逃げ出したくなる中、セールスマンは110番通報をした。

そして現場に乗り込んで来たのが赤羽署の伊室刑事だった…伊室刑事の或る程度限られた殺人事件捜査の経験に照らして、件の男性は「絞殺された」と考えるべきであると見受けられた…そして捜査活動が始まる。捜査一課の捜査員達も投入され、赤羽署に捜査本部が設けられた。

件の男性が死亡したと見受けられる頃の前後に出入が在った人物達を調べ、電話の受信・発信や室内に在ったパソコンのネット利用の履歴や電源を入れた、逆に切った時間帯というような記録、銀行口座に残る出納の記録等を丹念に調べるのだ。同時に現場での鑑識、遺体の解剖というようなことも行われる。

そういう中で、家事代行業、所謂ハウスキーパーでこの事件の在った家を訪ねていた経過の在る女性、山本美紀が浮上する。件の男性が死亡したと見受けられる日、山本美紀は頼まれた仕事のために訪問をした。反応が無いので、施錠されていなかった戸を開けて、嘗ては店舗であった辺りに入って様子を伺ったが、それでも無反応なので家を離れ、「一寸出ていた…」とでも連絡が入るかもしれないと近所の駅の辺りを歩き、何も連絡が無いので帰ってしまったとしていた。

この山本美紀に注目した捜査本部は、彼女に署へ同行願って詳しく事情を聴取しようとした。そして彼女の住まいを訪ねてみれば、埼玉県警の大宮署の捜査員達と鉢合わせてしまった…大宮署管内で、1年半前に死亡した男性のことで不審な点が在るということになり、ハウスキーパーの仕事で出入という係わりが在った山本美紀に事情聴取をしようとしているのだというのである…

こういうようになって来ると「警視庁VS埼玉県警」という“張り合い”になり、これが捜査に影を落とすことにもなって行く…更に事件が「連続不審死」という様相に報じられるようにもなって行く…

そうしている間に山本美紀は警視庁に逮捕され、更に起訴されて公判が始まる。罪状は強盗殺人で裁判員裁判という形になる…

山本美紀の弁護人を引受けたのは矢田部弁護士だった。矢田部弁護士は刑事事件の弁護の世界では少し知られているやり手である。

そして<第3章>の公判の行方という展開になって行く…

というように、曲折も発生する事件と捜査の展開が在って、被疑者の逮捕とその後の公判までが描かれた、なかなかにボリューム感溢れる作品なのだが、そういうボリューム感が気にならない程度に夢中になってしまった…

公判前整理という手続を経て行われるという裁判員裁判なのだが、そういう手続に関してもかなり詳細に描かれていて、なかなかに読み応えが在る。本作は、その後半の方を取って「法廷サスペンス」と評することも出来るが、全般として「事件モノ」、「警察モノ」とも評することが可能であると思う。要は双方を要素を存分に愉しむことが叶う物語になっている。

序章の冒頭に登場した「可哀相に過ぎるじゃないかぁ!?」と思った若者だが…作中で確りと出番は在る…

とにかく面白い作品で、広く御薦めしたい!!

『真夏の雷管』

↓「あのシリーズの新しい文庫!!」と書店で視掛けて入手し…休日に紐解き始めると…頁を繰る手が停まらなくなり、あっという間に読了してしまった…

真夏の雷管 (ハルキ文庫) [ 佐々木譲 ]



↑終盤は「時間との闘い?!」というような息詰まる展開になるので、本当に「どうする?どうなる?!」となってしまった程だ…

「“刑事マルティン・ベック”のような警察モノのシリーズは如何か?」という具合に出版社から作者に提案が在り、折から世間を揺るがせていた北海道警察の“裏金”やら“違法捜査”という状況も在り、作者が着手したという経過が在ったとい<北海道警察シリーズ>の新作である…『笑う警官』、『警察庁から来た男』、『警官の紋章』、『巡査の休日』、『密売人』、『人質』、『憂いなき街』と意外に長く続いているシリーズということになる。各シリーズに登場する御馴染みな面々は、この『真夏の雷管』でも健在である。

本作の冒頭…少し寂しそうな様子の少年が登場する。辿り着く先の街を訪ねたいというのでもなく、美しい車輛で運行されている特急列車に何時か乗車してみたいと、札幌駅へ向かって列車が駆け抜けて行った様を眺めていた。そこに現れた或る男と知り合い、連れ立って出掛けるということになった…

そんな様子が描かれた後、夏の或る日、学校の夏休みも始まった真夏の日の様子から物語が起こる…

“大通署”の少年係に在る女性刑事の小島は、“閉店セール”を開催中であった狸小路の趣味のモノを色々と扱っている老舗から、高校生と見受けられる万引き常習者が在って悩んでいるという相談を受けていた。それと見受けられる者が現れたら一報をという話しになり、その一報を受けて店の辺りに出向いた。そうしたところ、問題の常習者は姿を消してしまったが、小学校高学年位の少年が万引きに及び、それを取り押さえることになった。少年が万引きしたのは、如何にも少年が欲しがると思われるようなモノとも言い難い工具セットだった。少年を署に連れ帰り、話しを聞こうとするのだが、少年は所持品を置いたままに、御手洗を使うとした間隙に逃げ出し、姿を晦ましてしまった…

他方、盗犯係の佐伯は、管轄内の園芸用品店へ出向いた。侵入の形跡が認められたということだったが、よくよく探すと「硝安」と呼び習わされる肥料の「硝酸アンモニウム」が盗まれているらしいと判った。佐伯はモノの名を聞いて危惧を抱いた。爆薬を製造することも出来る化学品で、取り扱いに慎重を期すことになっているモノなのである。盗まれてしまったと見受けられる量は30㎏前後と見受けられる。相当に大きな爆弾が造られてしまわないとも限らない。佐伯は部下の新宮と共に捜査を開始した。

というように、御馴染みの面々が扱う「一寸した事案」というのが在って、幾つかの出来事がパズルのピースというようになって、それらが次第に組み合わさって少し大きな画になって行く…このシリーズらしい展開となる…

万引きに及んだ、少し不審な様子の少年…個人経営の園芸用品の店で起きた肥料の盗難…そんな事案が「とんでもない?!」ことに結び付いてしまう…近年の北海道の、JRの色々な事柄や、「子どもの親になり切れない?」というような保護者という問題と、“社会派”な要素も加わる…

札幌が舞台の物語で、個人的には“土地勘”が在り、作中に出て来る場所に関して「これは…明らかにあそこがモデル…」と判るモノも幾分在った。更に…終盤に出て来る札幌周辺の列車の様子も、非常によく判る感じだ…そういうことも手伝って、少し強く入り込んで、夢中になって読んだという一面も在った…

非常に愉しい一冊!!

『代官山コールドケース』

↓書名を見掛けた時、雑誌連載だった作品の題名を見掛けた記憶を呼び起こした。雑誌連載と言っても、定期的に購読していた雑誌でもなく、何処かで視た雑誌に在ったのの何回か視たという程度のもので…残念ながら、“断片”しか判らない状態なので小説は全く読んでいなかった…それが纏まった型で読めることになった!!

代官山コールドケース [ 佐々木譲 ]



↑先に読了した『地層捜査』と“シリーズ”ということになる。“未解決事件”の担当となった水戸部刑事の活躍が描かれる作品で、夢中になってしまった…

冒頭…本作の事件がそもそも始まる辺りが描かれる…1995年、代官山で、不動産会社の社員が家賃の件で管理下のアパートを訪ね、住民であった若い女性が死亡していたのを発見する。<代官山女店員殺害事件>と呼ばれることになった…

17年の歳月を経た…前作『地層捜査』の一件以来“未解決事件”の担当を続けている水戸部は、捜査一課に移って来て日が浅い女性捜査員の朝香と共に上司達に呼ばれた。指定の会議室へ行ってみれば…待ち受けていたのは“難題”だった…

<代官山女店員殺害事件>は、殺害された女性と交際の在ったカメラマンが容疑者に擬されたのだったが、捜査に踏み込んで行こうとしたタイミングで、件のカメラマンが水死体で発見されるという事態になった。そのため、警視庁としては「被疑者死亡・不起訴」という形式で事件に決着は着けていた…

しかし、つい先日に神奈川県内で発生した殺人事件の現場で採集されたDNAの中に、<代官山女店員殺害事件>で採取された証拠の中に在ったDNAサンプルと同種のモノが在るらしいことが伝わって来た。こうなると、<代官山女店員殺害事件>の真犯人が17年の時を経て再び犯行に及んだということになり、加えて<代官山女店員殺害事件>の捜査は「大きな間違い」であったことになり、犬猿の仲である神奈川県警に警視庁がこき下ろされる結果ともなる。更に一応決着している事件を掘り返すと、現場の渋谷署の士気も下がってしまう。

そこで非公式に、渋谷署に知られず、神奈川県警に先を越されずという型で、<代官山女店員殺害事件>の真相を探ることになったのだ。証拠の分析を行う科学捜査研究所には、本件の対応を密かに行うよう、手は回してあるともいう…水戸部と朝香は、「ここを使って構わない」と呼び出された小会議室を割り当てられ、直ちに捜査に取り掛かった…更に、この案件を密かに扱う科学捜査研究所の担当者は、水戸部の友人でもある中島ということになった…

水戸部と朝香が当時の捜査資料の整理と閲覧から捜査に着手をすると、当時の現場見取図のコピーが作成されている様子に目敏く気付く人物が現れた。捜査一課の捜査員である時田で、時田は<代官山女店員殺害事件>当時に渋谷署在勤で、事件の捜査にも加わった経過が在ったという…が、彼は“幕引き”について納得行かない部分が在った…その旨を彼は水戸部に伝えた。水戸部は上司に相談し、時田にも仕事に加わってもらおうともしたが、時田は応援要請を受けていた西日暮里のアパートで看護婦の遺体が発見された一件の捜査に出てしまった…

水戸部と朝香は、事件当時の関係者に順次話しを聴いて回る。そうした中、直ぐに被害者と交際の在ったカメラマンが容疑者に擬せられ、カメラマンが変死体で発見されたことによって“幕引き”と進んだ「見立て」に「隙が大き過ぎたのではないか?」と思い至る。そして、「当時は見出さなかった“関係者”」というものの存在に辿り着くこととなる…

夢に向かい、夢が半ば破れというような、若者の哀歓と、周辺の人達に、変貌し続けている街…そこで起きた古い事件の波紋…なかなかに興味深い展開を見せる…過去を探る水戸部と朝香の動き、水戸部の案件で懸命に証拠分析を手掛ける研究員の中島の動き、更に現在発生している別な事件の捜査で駆けまわる時田の動きが並行して描かれる中、「事の真相」が次第に明らかになって行く…

今回、「神奈川県警に後れを取るな!」という訳も在って、水戸部は日中から深夜まで、かなり精力的に動く…何処と無く『24』という感じさえする…<代官山女店員殺害事件>の被害者が勤めていたカフェバーは、17年後でも営業中だが、水戸部はこの店に一晩に何度も色々な相手と立寄るということもしている。勿論、店の中で現在働いている人達は、事件のことや水戸部の事情は承知していない訳だが…

本作は、何か深い余韻のようなものが残るミステリーだ…

『地層捜査』

↓旭川の書店で求め、何やら夢中になって素早く読了した一冊である…

地層捜査 [ 佐々木譲 ]



↑佐々木譲による、新しいシリーズの1冊目ということになる作品だが、なかなかに味わい深いミステリーだ…

警視庁捜査一課の捜査員である水戸部警部補は、キャリアの上司と悶着を起こしてしまったというような経過で謹慎中だった。そのうち所轄への異動も在るだろうと思われたところに、水戸部を評価している課長補佐が訪ねて来て、新たな任務が与えられる。法改正で事項が廃されたことを受け、捜査一課内に未解決事件の再捜査を担当するグループを設けることになり、水戸部にその任務に就くようにということだった。

水戸部に割り当てられた再捜査案件…これは15年程前の、四谷警察署管内である荒木町で発生した老女殺害事件だった。これは「容疑者の可能性?」という参考人が浮かび上がるにも至らなかった案件で、再捜査を行うことが適当か否か判り難かったが、地元で区議会議員や都議会議員を務めた経過が在る人物が、事件当時に被害者と接触が在ったことから「色々と陰口を…」と気に掛けており、時効廃止を受けて「是非、再捜査でハッキリして欲しい」と四谷警察署に強い要請が入ったという案件だった…

水戸部は四谷署管内の現場に近い方面本部の建物に部屋を借りて再捜査活動をすることになった。特段に人員は割り当てられず、四谷署で刑事を務めていて退職した“相談員”の加納が水戸部を補佐するということになった…

街の古いことや、事件当時の事情を知る加納と組み、水戸部は未解決案件に挑む…「事件の後の展開」が鍵なのか、「事件に至るまでの何か」が鍵なのか、様々な出来事が地層のようになっている。水戸部は順次それらを調べ上げ、事の真相に近付く…

実際、本作はかなり面白かった!水戸部は30代の設定で、作中の事件当時は「仙台の大学生」だったと設定される。そこで土地の様子に馴染むところから捜査に着手するのだが、“案内役”の加納を介して街の永い経過が説かれる辺りが愉しい。そして、既に高齢になっている人等も含め、様々な証言が丹念に集められ、「事件の真相」が水戸部の中で構成されて行く訳だ…

或いは、嘗てWOWOWで放映されていた米国のドラマ『コールドケース』を想起させる雰囲気も在る。これは秀作だ!!

『憂いなき街』

“シリーズ”の小説の新しい作品に出くわすと、「暫く御無沙汰していた友人の近況を聴く」ような、少しワクワクした気分になるものである。単純に嬉しくなって、つい入手して紐解いてしまう…

↓所謂“北海道警察シリーズ”の新作である!!

佐々木譲/憂いなき街 ハルキ文庫
↑通算7作目…愉しく読了した!!津久井、佐伯、新宮、小島とお馴染みな、札幌の刑事の面々が活躍する…

閉店間際の宝石店で発生したという強盗事件で容疑者を追っていた機動捜査隊の津久井刑事は、寄せられた情報に基づいて老舗大ホテルのラウンジを訪ね、そこで容疑者を取り押さえた。そして、彼らの動きを見てさり気なく逃げた不審な男を逃がしてしまう。その時、ラウンジでピアノを弾いていた女性を気に留める…

翌日、津久井は馴染みの店<ブラックバード>に立ち寄り、女性と出くわす。ラウンジでピアノを弾いていた女性だった。女性は本来はジャズピアニストで、開催中の<札幌シティージャズ>のステージに急遽出演が決まったのだという。高校生の頃までピアノを習っていたことも在り、音楽好きで意外に熱心なジャズファンである津久井は、女性と強く惹かれ合う。しかし…津久井は女性の意外な過去を知ることとなり、衝撃を受ける…

やがて、女性の遺体が発見されるという事件が発生し、津久井の所属する機動捜査隊が出動する。殺害された女性は、津久井が知り合った女性ピアニストと共演するサックスプレーヤーの熱心なファンと見受けられる女性であった。

この事件の容疑者として、女性ピアニストが浮上する。ピアニストは、犯行推定時刻の行動に関する証言を一旦は拒んだ…益々疑いが深まっている…

こんな中、他事件で取り込む津久井は、女性ピアニストに証言をするように口説く役目を、友人でもある佐伯に託す…そして佐伯はピアニストを口説き、サックスプレーヤーを巡る女性達を新宮と共に追ってみることになる…

こうした本筋の他方、不器用な生き方しか出来ない窃盗犯を巡る佐伯の案件、シリーズではお馴染みになっている感の展開だが、“合コン”の最中に呼ばれて捜査に出向く新宮、少年事件に取組む小島、その小島と佐伯の関係の進展等が描かれている…

このシリーズの第1作となった『笑う警官』では、嫌疑が掛った津久井について、「それは無い!」と信じる佐伯達が奔走する内容だった。本作では、嫌疑が掛った人物について、「それは無い!」と信じる津久井が奔走することになる…

益々好調なシリーズという感だが、本作も愉しく読了した。

『人質』

↓多少物騒なタイトルかもしれない…

佐々木譲/人質 ハルキ文庫
↑佐々木譲の“北海道警察シリーズ”の第6作である。テンポの好い作品で、また頁を繰り始めると「続き」が気になって、あっという間に読了した…

佐々木譲の“北海道警察シリーズ”…佐伯、津久井、小島、新宮というようなお馴染みの面々が登場するあのシリーズである。文庫化されている作品は全部読んだが、本作は最もテンポが好い作品ということになるかもしれない。「或る一日の出来事」という体裁なのである…

冒頭は、何やら脅迫状めいたものを送り付けられ、額を寄せ合う男達が居るプロローグなのだが…直ぐにお馴染みの面々の物語が始まる…

佐伯と新宮が、若干不自然な状況の自動車盗難事件の捜査に出動した。その種の事件を殆ど聞かない住宅街での事件だったが、盗難被害が発生した家の隣に住んでいるという男のことが、佐伯には引っ掛かった…

他方、小島は事件を通じて関わりが出来て以来「お姉さん」と慕ってくる美容師の村瀬香里に誘われ、藻岩山辺りに在るワインバーで催されるミニコンサートに足を運ぶことにしていた。村瀬香里が仕事で少し遅くなるので、小島は一足先に会場のワインバーに出掛けた。

小島がワインバーに着いてみれば、丁度開場した辺りで、ワインバーの女性オーナーとウェイトレス、コンサートにやって来た老夫婦、演奏をする女性ピアニスト、その小学生の娘、実母が居合わせ、ピアニストの夫が少し後に現れたという状況だった。小島は、誘ってくれた村瀬香里を待っていたが、そこに妙な2人組の男が現れた。

現れた2人組の男は、富山県で発生した冤罪事件により、無実でありながらも4年間服役する羽目になった男と、その支援者であると言う。無実でありながらも服役する羽目になった男は、事件当時の最高責任者である県警本部長に、面と向かっての誠意在る謝罪を求めるのだと主張する。当時の県警本部長というのは、警察庁のキャリア官僚であり、現在は東京の警察庁で局長ポストを務めている人物だ。ワインバーでのコンサートで演奏を披露することになっていた女性ピアニストは、そのキャリア官僚の娘であるという。男達はピアニストと居合わせた人達に「協力を求めるのだ」と主張している。

こうして、不思議な“人質監禁事件”が発生してしまった…警察官である小島は、偶然にこの“監禁”の中に居合わせてしまった…

小島を待たせている型になった村瀬香里は、「今、そちらに向かっている…」と連絡を入れるのだが、小島は「中止になったから来ないで…」と伝えてくる。妙な状況になり、村瀬香里は知人である佐伯に相談する。佐伯は、津久井が所属する、事件現場に真っ先に向かうグループということになる機動捜査班の指揮を執る長正寺に照会してみた。そして“事件発生”を知り、現場に向かう…

こういう具合で、午後6時頃に事件が発生してから事件が決着するまでの、長いようで短い時間、或いは短いようで長い時間の息詰まる展開が、テンポの好さを維持しながらも濃密に描かれる…巻き込まれてしまった小島の眼前での展開、事件の「真の事情」、ワインバーに居合わせた人達の行動、「真の事情」に絡まる動き…読む程に嵌って行く…

本作は「シリーズの中の一冊」だが、各作品を通じて登場する「御馴染みの面々」がなかなかに好い。度胸と機転で窮地を乗り切る女性刑事の小島…鋭い観察と読みを見せ、推理が冴える佐伯…先輩の、或いは上司の佐伯を助ける律儀な若者というイメージの新宮…真っ直ぐで、腕が立つ男の津久井…度量が大きな、現場向きな指揮官という感の長正寺…こうした面々の活躍が嬉しくなる…

ストーリーそのものを愉しんだ他方…何か「発生してしまった“誤謬”との向き合い方?」とか「“誤謬”を容認してしまうような社会?」というような「この作者流の問題提起」というようなことも考えさせられた…

序でに…本作の作中世界の札幌は、少し日が長くなっている「5月下旬の或る日」という具合で、丁度現在の時季に相当する。新しい文庫本で入手し易いと思うのだが、「今の時季」の札幌の描写がなかなかに好いようにも思うので、そうした意味でも多くの皆さんにお奨めしたい…

『カウントダウン』

実在するモノと実在しないモノを混ぜ合わせて、結局は“虚構”でありながらも、“現実”を巧みに抽象する…小説の中にはそういう、“虚構”で実在していないモノであることが明らかでありながらも、実際の状況を「“現実”以上」に強く伝えているように思える作品が在ると思う。

↓本作は正しくそういう種類のモノだ。実在していないモノであることが明らかでありながらも、実際の状況を「“現実”以上」に強く伝えているように思える…

佐々木譲/カウントダウン 新潮文庫
↑稚内・旭川間の列車移動の時間を挟むなどして、半ば一気に読了してしまった…痛快な作品である…

本作の舞台は「幌岡市」という北海道の小さな街である。“幌岡”という地名…如何にも北海道内の何処かに在りそうな語感なのだが…実在していない街である…

実在していない「幌岡市」では在るが、その場所は実在する「夕張市の隣」と設定され、夕張市同様に炭鉱で栄えた経過が在って、炭鉱の閉山後に観光開発やイベント開催に盛んに投資し、他方で人口の減少は歯止めが掛からず…という「双子の街」とされている。

物語はこの幌岡市に在る司法書士事務所から始まる。ある日の夕方、事務所を営む、最年少の市議会議員でもある森下直樹を、或る男が訪ねて来る。事前に電話連絡が在って、「事務員が居ない時間帯に話したい」という希望だったので、午後5時30分以降と言えば、男は5時35分に現れたのである。

現れた男は「市長選挙に出ろ」といきなり言い出す。直樹は驚く。男が何者かも判らない中で、いきなり言われたのである。男は“選挙コンサルタント”をやっていると言う。

現職の大田原市長は目下5期目で、20年間も街に君臨している。6期目に出ると言われていて、対立候補が出るという話しは無い。最年少市議の直樹は、初めて当選して現在1期目であり、市長選への出馬が噂されている訳ではない。

折しも「双子の街」と言われる夕張で、630億円の負債を抱えてしまって財政破綻という問題が発生していた。最終的な返済義務を負うことになる負債を18年間で返済するという、「最大限の負担、最小限のサービス」の体制になるという“再建計画”は“安楽死”と酷評もされる内容だ。

幌岡も、夕張のような事態が何時発生してもおかしくはない状態に在る。20年間で“死に体”のような状況に陥る方向に導いてきた現市長に、これ以上続けさせる訳には行かないと説得され、直樹は市長選への出馬を決意する。

こうして、街の未来のために立ち上がろうという森下直樹だが、その“戦い”の行方は如何に…というのが本作の内容で、これ以上は仔細に踏み込まない…

本作を読んで思った。本作が問いたいことは「“夕張”という現象を産んだシステムと、その中の人々」ということのような気がする。

例えば…「都合がいいこと」を言い募っていれば、「現実の方が変わる」とでも思っているかのような行動パターンが在って、そういうものが容認されてしまい、「現実に真っ直ぐ向き合っていない」というのが方々で多く見受けられる…

例えば…“不始末”には一応の“けじめ”というものが必要だ。しかし、“けじめ”をつけるのでもなく、「責任の所在?」とでも言えば、当たり前のことを問うている側を“悪者”であるかのように言う…こういうのが方々で多く見受けられる…

こういうような実に様々なモノが積み重なって「“夕張”という現象を産んだシステム」が構成されている…そしてそれが維持されているのは「その中の人々」の“無自覚”の故なのであろう…本作はそういう「大変に根深いかもしれないこと」を“幌岡”という架空の街の状況に仮託して告発しているかのようだ…

作中に、劇中人物の一人が「日本中が夕張のようになるのかもしれない」等と言う場面が在る。“夕張”は多少特殊であるのかもしれないが、「“夕張”という現象を産んだシステム」というようなものと、それを維持している“無自覚”な「その中の人々」というものは、何処にでも在るのかもしれない…

「“夕張”という現象を産んだシステム」というようなものと、それを維持している“無自覚”な「その中の人々」というものは、何処にでも在るのかもしれないという意味で、広く読まれて然るべく作品だと思うが、殊更に“北海道”では必読かもしれない…そんなことを思った。

『密売人』

↓かの“北海道警察シリーズ”の第5作が文庫で登場した!!

佐々木譲/密売人 ハルキ文庫
↑最早お馴染みの劇中に登場の刑事達の活躍を愉しく読了したところである…

このシリーズは『笑う警官』から起こっている。警察部内の不正に関して議会で証言することを引き受けた津久井が殺人の濡れ衣を着せられてしまう。彼と過酷な潜入捜査を共にした仲間でもある佐伯は、助けを求められて真相を探ろうとする。小島や新宮らがそれに協力する。近所の“ブラックバード”という店が「裏の捜査本部」のようになって、佐伯達は津久井が巻き込まれた事件の真相を解き明かす…

この佐伯、津久井、小島、新宮といった面々が一貫して“北海道警察シリーズ”で活躍している面々だ。今作でもそれは変わらない…

釧路港で…函館の病院で…相次いで遺体が発見された日…小樽の郊外で自動車が炎上し、そこからも遺体が発見された…

そんな事件が伝えられた日の朝、札幌市内の小学校で男が女子児童を校門の前から車で連れ去るという騒動も起こっていた…

津久井、小島、佐伯と新宮は各々の仕事に勤しんでいるが、伝えられる遺体発見のニュースの死者の名に“引っ掛かり”を感じ、更に「児童誘拐!?」という騒動の関係者との間の“共通項”に思い当たる…

次々と起こる事態が収斂し、事件が大きくうねる…この“北海道警察シリーズ”らしい展開が見られる…

タイトルの“密売人”とは?誰のことで、何を密かに売っているのか?なかなかに面白い!!

『新宿のありふれた夜』

↓あの佐々木譲が80年代に送り出した作品の中ではよく知られているものであるという…



新宿のありふれた夜(角川文庫)

↑手頃な分量の作品で、素早く、そして非常に愉しく読了した!!

最近の作品である『北帰行』を読了して日が浅いのだが、もしかすると本作は『北帰行』の“原型”のようになっている作品かもしれない…

本作の舞台は1984年頃の新宿である…主人公の郷田克彦は小さなバーの雇われマスターである。歌舞伎町地区の、かなり旧い建物に入っている小さなバーを任されて10年となるが、建物の建て替えに関連して店を閉めることになっていた。その最終営業日となる、6月末の土曜日の出来事が綴られる…

克彦が開店準備に勤しんでいると、不安気な若い女が現れる。彼女は負傷していた。克彦は彼女を店に入れ、傷の応急手当てをし、少し休ませることにした。何か深刻な「訳在り」らしい…彼女はメイリンという名であった…

その頃歌舞伎町では…不穏な空気を漂わせながら、とある暴力団の関係者が走り回っていて、当直になっていた新宿署の大ベテランである軍司刑事はきな臭いものを感じていた…

暴力団が動き回り、不穏な事件を阻止すべく警察が厳重な警戒体制を取る歌舞伎町地区…流浪を続けてきたメイリンに、新宿に沈澱しているような克彦…メイリンの事情を聴く克彦の友人達…凝縮された、スリリングでリアルな展開のドラマだ…

或いは誰の中にも「そこで止まっているある時点」というようなものが在って、そこから先へ踏み出したいような、それが出来ないような逡巡が在るのかもしれない…「踏み出す」ことになる場合、それを促すのは、何らかのイレギュラーなこと…或いは誰かとの出会いが切っ掛けになるのかもしれない…

非常に愉しく読了した!!

『北帰行』

↓この表紙に注目!!稚内港北防波堤ドームだ!!

北帰行
↑かの佐々木譲の小説…稚内!!素早く入手し、夢中で読了である!!

この作品は、ハードカバーの本が出ていた時点で「稚内が出て来る、アクションも在るサスペンスで、なかなか面白い…かの佐々木譲の作品!!」と、話題にしている知人も在ったので気に掛けていた。その作品が気軽に入手して持ち歩ける文庫本で登場した訳だ…

冒頭、暴力団組長が“事件”を起こしてしまう…それを巡る動きが展開することになる…

主人公の関口卓也は旅行会社を営んでいる。大手に勤務した経験を持っていて、現在は一人で独立して仕事をしている。彼の主な仕事は「来日ロシア人のアテンド」で、滞在先ホテル、食事、交通等を手配し、更に自ら車を使って送迎や案内も行う…個人営業の身軽さが身上で、鋭意営業中なのだ…

卓也は「2泊3日でビジネス」ということでモスクワからやって来るターニャことタチヤナ・クリヤカワという若い女性客を成田空港に迎えに行った。ホテルを手配する他、彼女が向かいたい先へ案内するというアテンド業務を請け負ったのである…

卓也は毎度の仕事のつもりでターニャを案内して都内を車で動いていた。ターニャが「ここに…」と入って行ったビルの前で見知った顔に出くわした。大手旅行会社に勤務していてモスクワに居た頃にアテンドをしたことのある男で、男は藤倉と言った。後で知ったことは、藤倉が暴力団幹部であったということだった…

何か気まずいものを感じた時、“事件”が発生した…

こういうことで、卓也はターニャの引き起こす“事件”に巻き込まれてしまう…巻き込まれる度合いは高まり、やがてただならぬ状況に陥ってしまうのだが…

“事件”はその舞台を新潟へ、更に稚内へと移しながら目まぐるしく展開する…目的を達しようと動くターニャと、すっかり巻き込まれてしまった卓也…2人を追う藤倉…一件に関るコリアン系のロシア・マフィア達…“事件”を捜査する“マル暴”の寒河江警部…

“プロ”に徹しようとしながら親身な卓也に心を許すかに見えて、何か「寄せ付けないもの」を漂わせるターニャ…ターニャが抱えるものや、2人の関係は如何に?ターニャが「あの“ジゴロ”」と呼ぶ、ホスト風の風貌で、冷徹で計算高い藤倉…ベテランの経験則を超える展開の事件に翻弄されながら、必死に関係者を追う寒河江警部…物語のキーパーソン達が各々に好い…

或いは本作は、ドラマや映画のような映像作品の原案として好適かもしれない。キーパーソンが整頓されていて、各々が面白い特徴を有していて、展開は速く、アクションも佳い…読み始めると、どんどん引き込まれてしまった愉しい作品である…

因みに「作中の稚内」だが…「実際の稚内」を巧く「作品世界」のものに料理してくれていると思う…出て来る市内の住所も実在のもので、場所を知っていて読んでも違和感が無い。それでいて、フィクションとして巧く完結した描写になっている…

『黒頭巾旋風録』

“宿題”というのでもないが、少し以前に読了していて、未だ御紹介していなかった作品が在った…

↓江戸時代の蝦夷地を舞台に展開するアクションである…



黒頭巾旋風録


松前家支配下の蝦夷地…各地でアイヌに対する過酷な仕打ちが、残念ながら絶えなかった時期でも在る…“アッケシ”の寺に赴任することになった僧侶が、そういう様子を視て心を傷める…

やがて…阿漕な真似をしている人達の所に、黒ずくめの服装で、黒い覆面までした正体不明の人物が騎馬で現れ、鞭を振るって彼らに掣肘を加えるという事件が伝えられるようになった…

ということで、この「黒ずくめの服装で、黒い覆面までした正体不明の人物」が“黒頭巾”と通称されるようになり、この“黒頭巾”と松前家中関係者や、利権を持っていて阿漕な真似に及んでいた人達との戦いが展開する…

この“黒頭巾”の話しだが…北海道各地を調査したことで知られる松浦武四郎が、「地元の伝承」として聴き書きした内容に着想を得て綴られた物語であるという…作者の想像力だけではなく、“伝承”が加わっているというのが面白い…

本作には、「一寸酷い…」と眉を顰めたくなるような事例も含め、非常に過酷だったと伝えられる江戸時代の蝦夷地支配のことも確り描かれている。そしてそれに疑問を呈して、密かに立ち上がる主人公が居る訳だが、なかなかに魅力的な造型になっていると思う。

これも言わば「北海道“ウェスタン”」というような魅力が溢れる作品だ…

『北辰群盗録』

“宿題”というのでもないが、少し以前に読了していて、未だ御紹介していなかった作品が在った…

↓“北海道ウェスタン”とでも言うような、独特の雰囲気が漂う、なかなか愉しい作品だ!!



北辰群盗録


箱館・五稜郭の戦いが終わった後、“敗軍の将”となった榎本武揚は、室蘭方面に開拓団として派遣していた関係者にその旨を伝えなければならなかった。最初に一人の士官にそれを命じたが、彼が“徹底抗戦論”の急先鋒で在ったことを思い出して思い直し、命令を一旦撤回して他の士官に改めてその役を命じた…

そんなことが在って数年後…件の「一旦命令を受けて撤回」の当事者だった士官は、東京で人足仕事をして糊口を凌いでいた…そこに軍関係者が現れ、彼は“北海道”と新たな名になった蝦夷地へ渡ることとなった…

軍関係者が人足をしていた彼を探し出して彼が蝦夷地へ渡ることとなったのは、“共和国騎兵隊”を名乗る群盗が北海道各地に跋扈するようになっていて、それを討伐する作戦を担う部隊の相談役という役目が求められたからであった…“共和国騎兵隊”…嘗ての同志達である可能性が高い…

ということで、開拓期の北海道を舞台に、「革命の夢」を胸に暴れる一団と、それを追う嘗ての同志との戦いが展開する…考えてみると、所謂“ウェスタン”は、日本史で言えば江戸時代の後期から明治時代前半位の時期を背景とした物語である。正しく、本作の時代が「“ウェスタン”の時代」である…

“群盗”と認識されている“共和国騎兵隊”と開拓使側との知恵比べ、根競べ、そして銃撃戦や騎馬戦…非常に鮮やかな印象を残してくれる…

『武揚伝』

「長く気に掛かっていた作品」を手にして、それを紐解き始めて「期待以上!!」ということになると、かなり夢中でどんどん読んでしまい、「読了時の寂寥感」と呼んでいる「終ってしまった…残念…」という感覚が尾を引いてしまう…

↓かなり面白かったので、「文庫本4冊」という分量が全く気にならなかった…夢中で、何時の間にか読了していた作品である…

武揚伝 1


武揚伝 2


武揚伝 3


武揚伝 4

史上の人物達に関しては「毀誉褒貶」が色々と在り、伝えられている史上の出来事に関しても、関った人達の立場が換われば自ずと「異なる観方」というものが在る。卑近なことで喩えれば、「○○について謝ったじゃないか!」という人が在ったとして、受け止める側は「別段に謝られたとは思っていない…」というようなことが多々在るように思うのだが、「史上の出来事」にもそういうような要素が在るのかもしれない…

史上の人物達をモデルとした劇中人物が活躍し、史上の出来事が劇中の出来事として発生する“時代モノ”というものは、「毀誉褒貶」や「異なる観方」を作者が“併せ呑む”ような按配で、作者なりの作品世界を綴るものであると思う。ある作品の「好感度が高い主役」が、別な作品では「嫌な感じの敵役」として登場するというようなことも多々在るという訳だ…

この『武揚伝』は、かの榎本武揚を主人公に据えている。この人物は“時代モノ”の様々な作品に色々な型で登場する。「毀誉褒貶」の振幅が大きい人物であるように思う…そして、彼が関わった幾つもの出来事に関しては「異なる観方」も多々在る…

本作を著した佐々木譲には、本作の他にも幕末関係の作品が幾つか在る。そうした作品に触れる限り、彼の“観方”というものは、真摯に当時の新技術・新知識を学んで、一部は抜擢された例も在った幕末の幕臣達を非常に高く評価しており、「彼らの中に“潰えてしまった偉大な可能性”」のようなものが「在ったのかもしれない」としているのだと思う。

「幕末の幕臣達の中に“潰えてしまった偉大な可能性”」のようなものが「在ったかもしれない」というような具合に帰結する“大河ロマン”である彼の作品だが、かの“北海道警察シリーズ”にも通じるような、「淡々としているようでいて、克明に情景や劇中人物達の心情が綴られる」という感の典雅な文章で綴られる。“克明”としたが、この『武揚伝』のような作品に在っては、出て来る出来事の「異なる観方」を見事に呑み込み、「あの結果になった側面や背後にこんなことも在ったのかもしれない」と、ある種のドキュメンタリーか何かのように思わせてくれる面さえ在るのだ…

やや「雑過ぎる」かもしれないが、あらすじを…序盤は、“天文方”に務める父の下で科学に関心を寄せる聡明な少年として育った榎本武揚が西洋の学問に触れ、海軍伝習所に学ぶようになっていく辺りが綴られ、やがてオランダ留学を果たす話しや、欧州での見聞という話しになっていく。そしてオランダで建造された<開陽丸>を回航して帰国してみれば、幕府は“瀬戸際”の大変な状況に陥っていた。やがて箱館に拠って戦い、敗れてしまう。物語は、この箱館の戦いの辺りで実質的に終わる…

というような、ある程度知られた榎本武揚の前半生の伝記をなぞったあらすじなのだが、幾つも印象が強い場面が在る…ある程度史実を踏まえた物語で、“ネタばれ”という危惧は少ないのでそれらを挙げたい…

かの江川英龍の塾で学ぶようになった榎本武揚は、後に箱館奉行を務める堀織部正の従者として蝦夷地や樺太を視察する機会を得ている。ここに、サハリンのコルサコフが出て来る…この部分は少し前のめりになってしまった…

欧州から戻り、幕府海軍の幹部として戊辰戦争に関る榎本武揚だが、恭順するのか戦うのかで揺れる幕府の様子に関する描写が興味深い…多分、これまでに私が触れたこの時代を扱った作品の中でもっとも仔細に踏み込んだ描写が為されていて、何か「ドキュメント:瓦解する江戸幕府」という感さえ抱く…

榎本武揚は五稜郭に拠って闘った男達のリーダーに推される訳で、戦いの最中に多くの同志達が討死している。そんな場面…涙ぐみそうになる…殊に長崎の海軍伝習所で出逢い、「非常に好い年長の友人」であり、榎本武揚自身が兄や父のようにさえも思っていた中島三郎助が、2人の息子達と共に最期を遂げる場面…壮絶だ…因みに、中島三郎助に関しては『くろふね』という作品が在り、それも素敵である…

当時の幕府海軍の行動だが、後世の目線で見れば「もう少し“やりよう”が在ったのでは?!」という感も抱くのだが…「何故そういう具合になったのか?」という問いに、一つのかなり確りした考証を提示してくれるのも本作の面白さの一つとなっているように思った。

「科学に関心を寄せる聡明な少年」は、父から北斗七星に纏わるエピソードを聴かされる。将軍を象徴する“破軍の星”の脇に在る“開陽”のことである。“夜明け”に通じる“開陽”という名を戴いた船は、北斗七星が輝く北を目指した…榎本武揚が乗っていた<開陽丸>だが、或いは本作の「裏主人公」という感さえ在る…

榎本武揚らが拠った箱館の五稜郭だが、彼らは“奉行所”を“本部”にしていた。その“奉行所”は五稜郭の戦いで酷く傷んで取り壊されてしまったのだが…2年前に竣工時の状態を綿密に考証した上で再建されている。丁度それを視てきた記憶も新しい中で読んだ戦いの場面は、迫ってくるものが在った…

「幕末の幕臣達の中に“潰えてしまった偉大な可能性”」のようなものが「在ったかもしれない」というような具合に帰結する“大河ロマン”である『武揚伝』…初めて単行本が出たのは2001年らしいが、或いは「21世紀の名作」として読み継がれる作品かもしれない。

『愚か者の盟約』

何か最近は「“政権交代”というものをとりあえず経験するにはしたが…」というような問い掛けから始まって、“政治”というものに関心が高まっている…のかもしれないし、逆に白けているのかもしれない…

そういう問題意識が沸き上がったのだが、丁度そこになかなか面白い小説に出くわした…

↓こういう作品である…

愚か者の盟約

これは“政治”の世界を扱っていて、一部に実在の著名な政治家の登場も見受けられるが、「(フィクションの)代議士と秘書との二人三脚で歩むキャリア、そして本人達と周辺の人々のドラマ」という体裁の作品である。

北海道の室蘭…ここを選挙区としていた社会党代議士の寺久保が逝去し、彼の息子が立候補して当選した。寺久保(二代目)は、若い弁護士で社会党の“カラー”が薄く、なかなかの人気者であった。

この寺久保の秘書として、党は野崎を送り込んだ。野崎はかなり若い頃からの活動家で、言わば「党が送り込んだ“目付け役”」ではあった。しかし、野崎は寧ろ「寺久保の“裏”を全て取り仕切り、寺久保が桧舞台に上ること」を目指す。野崎と寺久保は、言わば“盟友”として政治の世界を駆ける…

というような物語である。本作は1993年に最初の文庫本が登場しているということで、90年代初頭までの時代が扱われている。飽くまで“フィクション”ではありながらも、野崎と寺久保が駆けた70年代、80年代が実にリアルに描かれ、なかなか興味深い。また、彼らの公務や私事に関する物語も愉しい…

本作の頁を繰っていると、「その時代の少年」だった記憶、何かで読んだことなどが次々に頭の中で溢れ出し、物語と溶け合うような感であった。なかなか面白い作品であると思う。

本作に出て来る政党の“カラー”のようなもの…今となっては随分と勢力図や団体の呼称が変わっている現実の政治の世界と照らし合わせても、「こういう感じの人達…居るかもしれないな…」と思わせてくれるものが在る…

本作は、佐々木譲による「比較的初期の作品」という分類になるらしい…実際、概ね20年も前の作品だが…旧さを感じさせない!!逆に、20年程前までの様子を反映させているからこそ、「今の問題」が浮かび上がるような感じさえする…

『巡査の休日』

5月も残り僅かであるにも拘らず、稚内は“熱燗日和”である…実際、徳利1本の熱燗を用意して頂いたところだ…

通常、この時季は熱燗よりも冷酒やビールが似合うようになっているものだが…

残り少ない5月が過ぎ、6月ともなれば…北海道では「よさこいソーラン祭」が随分と話題になる…個人的には然程高い関心を寄せているのでもないのだが、とにかく賑やかな状況になるのだ…

その「よさこいソーラン祭」について…存外に詳しい描写が為されている小説が在る…高い関心を寄せているでもない私でも、小説を読んで“あらまし”が何となく判った程に詳しい…

↓この作品だ!!

巡査の休日
↑なかなかに面白い!!

『巡査の休日』は、『笑う警官』に始まる“道警シリーズ”の第4作である。前作の『警官の紋章』から1年程を経た時期を舞台としている…

本作の最初の辺り、“プロローグ”では前作の後日譚が綴られている…

前作の『警官の紋章』の冒頭の辺りで、小島刑事が「実は強姦殺人の容疑者だった」というストーカーを逮捕する場面で活躍した経過が出て来る…彼女は暴漢を制するべく迷わず発砲した…銃弾で傷を負った容疑者・鎌田は、急報を受けて飛び込んだ警官達と掴み合いの乱闘を演じた…その負傷のため、容疑者・鎌田はとりあえず病院に収容される。が、彼は病院から脱走してしまう。そして、サミット警備で警官が溢れていた札幌から姿を眩ませてしまったのだ…それから、その行方が掴めないままに時間が経過した…

小島刑事は児童虐待の家に乗り込んで子どもを保護する役目等を果たして活躍していたのだが、彼女のところに相談が寄せられた。ストーカーの経過以来、時々連絡を取るようになり、姉のように話しを聞くなどし、プライベートで付き合いの在るようになった元被害者の女性からの相談だった。彼女の所に「脅迫?」というメールが舞い込んだのだった。小島刑事は「容疑者・鎌田が遂げられなかった想いを遂げるべく舞い戻った」という展開を危惧するのだった。

津久見刑事は、容疑者・鎌田が起こした“強姦殺人”の捜査本部に配属されていた。名目的には“捜査本部”が設置されている帯広署の所属となったが、札幌で活動していた。彼らの元に、神奈川県で発生した強盗事件の遺留品から、容疑者・鎌田の痕跡が見付かったという情報が寄せられた。津久見刑事は、コンビを組んでいる渡辺刑事と共に、聴取前に病院から脱走した容疑者・鎌田に関する情報を洗い直そうと動き出す。

佐伯刑事は、部下の新宮刑事と共に連続引ったくり事件を追っていたが、他方で「でっち上げ?」という疑惑の残る盗難車密輸出事件を調査したり、新たな証拠に基づく再審請求の行方を見守るなどしていた…

折から、札幌は「よさこいソーラン祭」の季節に入った。警察が最も多忙になる時季でもあった…この時季は、小説の描写にも在るが、様々なイベントが組まれる。北海道、殊に札幌辺りでは「最も好い時季」と考えられているような季節でもあるのだ…

小島刑事は女性の警備に着手する。女性は、ストーカー事件当時の仕事であった風俗関係の仕事を辞め、美容学校に通っていた。その彼女は「よさこいソーラン祭」のチームに参加しており、非常に熱心に活動していた。約100人のメンバーの先頭で踊るのが役目であった…危険この上ない容疑者・鎌田の登場を危惧する小島刑事は、警備対象の女性に対して祭への出場を見合わせるように勧めるが、女性や仲間達はそれを頑なに拒む。拒むのは、前年の祭の後から約1年間に亘る懸命な練習が無為になってしまうからに他ならない…

祭に情熱を注ぐ警備対象の女性本人、その仲間達の希望を叶え、加えて危険な容疑者による襲撃に備えるには…小島刑事は思いがけない手段に出る…

他方、佐伯刑事は“話せる上司”である伊藤課長の言に耳を傾け、ある決断をするに至る…

津久見刑事は容疑者・鎌田の足跡を求めて、鎌田の郷里である宮城県に飛び、更に神奈川県に向かう…

こういう具合で、「よさこいソーラン祭」の時季を背景に、重層的に展開するのが本作である。祭の華やぎの中、姿が見えない脅迫者との対峙という小島刑事が動く場面が多いのだが、サミット絡みの厳戒警備を巧みにすり抜けた容疑者を執念深く追う津久見刑事の活躍も面白く、やや重い決断に至る佐伯刑事の動きや、存外な活躍を見せる新宮刑事の動きもなかなかに読ませる…

或いは…「よさこいソーラン祭」の時季なので、なかなかにタイムリーな一冊かもしれない…文庫本は登場から未だ日が浅い…

『警官の紋章』

『笑う警官』に端を発するシリーズ…

↓第3作である…

警官の紋章

このシリーズは「“刑事マルティン・ベック”のような警察モノのシリーズは如何か?」という具合に出版社から作者に提案が在り、折から世間を揺るがせていた北海道警察の“裏金”やら“違法捜査”という状況も在り、作者が着手したという経過が在ったらしい。この第3作辺りになると、出版社が名前を挙げたという“マルティン・ベック”や、同じスウェーデンでそれと並び称されている“クルト・ヴァランダー”のシリーズのような、様々な捜査関係者や事件関係者が登場して、ある程度重層的に展開する物語が収斂していくような雰囲気が濃くなっている…

『警官の紋章』…主人公格なのは3人の刑事だ…何処と無く文化人風な風貌で、読みが深く、執念深く捜査を続けるクールな感じの佐伯刑事…“百条委員会”の証言を引き受けるというような、熱いモノを秘めた、多分渋くてカッコウ良い津久見刑事…剣道が得意で逮捕術や射撃にも優れ、パソコンも得意な女性の小島刑事…この3人である…これに佐伯刑事のたった一人の部下ということになり、「僕にも手伝わせてください」と熱血ぶりを見せる若い新宮刑事がレギュラー出演していて、様々な捜査関係者や事件関係者が出て来る…

『警官の紋章』の物語は、『笑う警官』の頃から2年程度を経ている…

小島刑事はストーカー被害に悩む女性の警護をしていた。問題のストーカーは、警察が追っている強姦殺人の容疑者でもあるということが判明して緊迫していた。女性のアパートにその男が侵入した時、小島刑事は見事な手際で彼を取り押さえる…

そんな功績が関係者の眼を引き、小島刑事は洞爺湖サミットの要人警護班の支援要員となった。“サミット担当”ということになっている女性大臣が札幌にやって来ることになっていたので、東京から来ていた大臣の警護担当者と共に彼女が動き回る場所の下見をしていると、津久見刑事が現れた。

津久見刑事は、前作の監察官がやって来た時の一件の後、警察学校の教官ということになっていたが、「サミット警備の“遊軍”」ということで警務部に急遽配属された。下見をしている大臣警備担当の案内役―公用車の運転―を命じられて、現場で小島刑事と出くわした…

ところが…「交代を送るから、直ぐ戻って来い」と津久見刑事は呼び出された…

佐伯刑事は…「サミット警備関係で、留置所に余裕を持たせる」という本音の故に「微罪の容疑者を積極的に逮捕してくるには及ばない」という話しの中で、何となく暇だったのだが…名古屋の刑事に重要な事実かもしれないことを仄めかされた…『笑う警官』の冒頭辺りに出て来るが、彼が追っていた盗難車密輸出事件の容疑者は“デッチ上げ事件”のために動いていたかもしれないというのである…名古屋の刑事の話しを受け、佐伯刑事は中途半端な型になってしまった盗難車の件を独自に調べ始める…

津久見刑事が呼び出されたのは、北見で発生した非常事態に関連することだった。交番で勤務中だった若い警察官が、制服を着て拳銃を持ったままの状況で姿を消してしまったというのだ…津久見は警務部のベテラン長谷川と組んで、その姿を消した若い警察官を探し出す任務に当る…

佐伯刑事は、2年前の事件を独自に調べる中、違法活動で警察官が逮捕された事件の公判の際、証人として呼ばれていた警察官が“踏み切り事故”で他界していたことを知る。更に、その他界した警察官の息子も警察官であり、その彼が北見で姿を消した人物であることも知る…

小島刑事、津久見刑事、佐伯刑事の各々の動きが物語のクライマックスで収斂するのだが、非常にスリリングだ!!或いは…映画化された『笑う警官』以上に、「映画の原案向け」かもしれない…

非常に愉しい作品だった!!

『警察庁から来た男』

過日『笑う警官』を愉しく読了した…

女性警察官殺害の容疑者ということになってしまった津久見刑事…「薬物を乱用していて拳銃を所持…危険なので射殺も已む無し…」という型で手配されてしまった…津久見と共に危険な任務に就いた経験が在る佐伯刑事は、困り果てた津久見を救うべく有志を募って“裏捜査本部”を立ち上げ、事の真相を探る。

という『笑う警官』の物語だったが、津久見刑事や佐伯刑事の「その後」が気になっていた…『笑う警官』に端を発する物語はシリーズ化されていて、“続き”が在る。

↓シリーズ第2作がこれである…

警察庁から来た男

第2作は『警察庁から来た男』は、そのタイトルが示すとおり、北海道警察本部に警察庁の監察官が乗り込んで来る辺りから物語が動き始める…

監察官は、警察に保護を求めた外国人少女娼婦が暴力団関係者に渡されたらしい一件、“ぼったくりバー”の客の転落死が事故で処理された一件などに関して、殊に外交ルートで政府が少女の出身国から抗議を受けて国際的にも批判されている前者の調査のために、事前の予告も無い異例の状態で現れたのだった…

監察官が地元の案内役として仕事を手伝わせる者として指名したのは、警察学校の総務係に“左遷”されていた津久見刑事だった。津久見が「射殺已む無し」と手配される羽目に陥ったのは、道議会の百条委員会での証言が予定されていたからであり、佐伯達の助けでそれを果たした後、彼は閑職に飛ばされたのだった…

他方、佐伯刑事は大通署の窃盗犯担当で、津久見の一件でも彼らを手伝った若い新宮刑事と二人だけで細かい事件を担当していた。その佐伯刑事は、ホテルから通報が在った客室への侵入事件を調べるが、その一件が“ぼったくりバー”の客の転落死が事故で処理された一件と繋がることを知る。更に、そこから殺人事件が発生してしまう…

“警察庁から来た男”を介在させながら、津久見や佐伯は、彼らが初めて一緒に取組んだ『笑う警官』以前の出来事に関係が深い事の真相を知り、更に“ぼったくりバー”の客の転落死が事故で処理された一件の真相にそれぞれの角度から近付いていくことになる。

本作は『笑う警官』の後日譚、またその作中で触れられた過去を明かす物語として興味深いが、同時に“ぼったくりバー”の客の転落死が事故で処理された一件の謎解きとして愉しい。また佐伯刑事の部下、新宮刑事がなかなか好い雰囲気だ…

このシリーズ…なかなかに嵌ってしまう…

『笑う警官』

「今更…」という感もしないではないが…“一時期流行ったモノ”というのは、流行りのピークを過ぎてしまっても、なかなかに面白いのである!!

↓然程の説明も必要としないと思うが…

笑う警官
↑“道警シリーズ”と呼ばれることもある、佐々木譲の名作である!!

偶々、先に映画を観てしまったのだが…映画とは一味違う楽しさが在る作品だ。

「殺人の容疑者」として仲間の刑事が手配され、更に「薬物で錯乱している可能性、更に銃器を所持している可能性が在り、危険なので射殺して構わない」等という異例の通達が出て、命まで狙われている状況…これを看過出来ないと佐伯刑事達は有志で“裏捜査班”を設け、真相解明に乗り出す…

追われる仲間が姿を隠すには長く、真相を調べ上げるには短い、という夕刻から翌日午前中までの限られた時間で、事はどう運ぶのか?

実際に大いに問題になってしまった“裏金問題”を絡ませ、「限られた時間の息詰まる攻防」が繰り広げられる…誰が味方で、誰が敵か?集まった有志の中にさえ敵が在るかもしれないことが示唆される状況さえ発生する…白々と明ける早朝に真相が見え、そして午前中に最後の戦いが…


本作は、当初は“密告”(内部告発)を意味する隠語を使い「うたう警官」という題だったらしいのだが、映画の原案ということで、映画のタイトルである『笑う警官』に改題したのだそうだ…が…私なら「長すぎる夜」とか「短すぎる夜」というような題を与えてみたくなる…

全く「一気に読ませる」傑作である!!札幌に縁が深い私にとっては、馴染みの地名が多々出て来るので、妙に臨場感も在るのだが…

くろふね-時代の渦に真正面から向き合い、そこに身を投じた男の物語…

幕末の事象や人物に題材を求める小説…その時代の事象や人物が興味尽きないものである故であろうが、次々と「なかなかに興味深い作品」が見付かる…

過日の旅行の前に紐解き始め、戻ってから間もなく読了した一冊が下記である…


くろふね

主人公は中島三郎助という幕臣である。この人物は、箱館の戦いで討死してしまっているが、当時の人物としては非常に興味深い経歴を辿っている…“異国船打払”を実践していて、“黒船来航”で米国人の応接に携わり、また“海軍創設・整備”で蒸気船の運航や造船を学んで実践している…最後はかの開陽丸に乗り組んで、開陽丸が江差で座礁沈没の後は地上戦に身を投じている…

この人物程に「時代の波の中を駆けた」という人物も居ないかもしれない…よく発掘してきたという感じがする…

本書の中には、当時を彩る様々な人達が登場する…榎本武揚は努力家で、大変な好人物として描かれている。勝海舟は、実はそれ程に実力は無い、“口舌の徒”的な描かれ方をしている。徳川慶喜…敬意を払い難い大将として描かれている…幕末を舞台にした様々な作品を読むと、有名な人物達が夫々の描かれ方で登場するが、それを多少頭の中で比べながら読むというのも、最近は愉しくなってきた…

タイトルの“くろふね”…意味深長な感じがした。往時は「外国船一般」が“くろふね”と称されていた様子も在るが、“くろふね”と言えば「ペリー艦隊」を特定するかのような印象も在る。主人公の三郎助はこの“くろふね”と向き合い続け、関わって行く…

こういう時代の、“新技術”と向き合った人達が活躍する物語に触れると、何時もその凄まじい努力に思いを至らす。三郎助もなかなか凄い…

何か、世の中が混迷してしまっているような状況だからこそ、こういう「混迷極まる」ような幕末を舞台にした小説に“感じるもの”が少し強烈なのかもしれない…