↓手にした作品が愉しく、少し続けて幾つかの作品を読み続けている作家による作品だ。

↑本作も、紐解き始めてみると頁を繰る手が停め悪くなり、素早く読了に至ってしまった。
或る事件の謎が解き明かされるという、所謂「ミステリー」ということになる物語であると思う。が、同時に近年の問題意識を反映するような「社会の気になること」を題材の一部に取り込み、或る地方の架空の小さな村の人々が描かれることで「人の生き様について」というようなテーマも説かれているように思う。
本作は2019年に単行本として登場し、2022年に文庫化されているという。その2019年の少し前辺りの世相、様々な様子という中で作中人物達が動き廻る物語ではあるが、何処となく「或る小さな村の濃密な人間関係の積み重ねられている中で発生してしまう出来事」を主人公が丹念に調べて解き明かす、往年の“金田一耕助”というようなシリーズを想起しないでもなかった。
物語は俊藤律(しゅんどうりつ)がバイクで移動しているという場面から起こる。30歳代の終盤に入ろうとしている彼にとって、東京から福井県内の街へ排気量150㏄のエンジンを積んだベスパで走り続けて動くのは肉体的にややキツいことだった。が、勝手知らない地方の街で自在に動こうとするならバイクが好いと走っているのだった。物語はこの俊藤律を専ら視点人物とするように綴られる。読んでいれば、何か俊藤律の傍らで事態の推移を見詰め続けているような感じになるかもしれない。
福井県の小さな街での事故が注目されていた。86歳の男性が軽トラックを運転していて、コンビニの正面に突入してしまった。居合わせた店のオーナーの28歳の息子であるという店長が軽トラックに轢かれて死亡したのだ。
86歳にもなる高齢者は認知症であったと伝わっていた。その高齢男性がハンドルを握って死亡事故である。俊藤律は雑誌の依頼を受けて「高齢者ドライバーと交通事故」というような記事を書くことになっていたのだった。
俊藤律は事故現場に到着し、取材活動を始めた。後始末の作業の関係で呼ばれていたらしい業者の男達、店に置きっ放しの私物を取りに来たという若い女性のアルバイト店員、コンビニのオーナーで死亡した店長の父であるという男、コンビニチェーンの社員で事故の発生した店舗の担当者、事故の発生した店舗で最も長く勤めていたと見受けられるパート従業員の女性、高齢者の事故防止というような事柄に取組む役人やカウンセラーと次々に話しを聴く、または聴こうとした。
事故の加害者ということになった86歳の男性は、事故の発生した現場から車で1時間半程度の小さな村の住民であった。この村について、半年程前の大雨で土砂災害が発生し、住宅で親子3人が生き埋めで死亡してしまったという件が在ったことを、俊藤律は記憶していた。俊藤律はこの86歳の男性について知ろうと、村を訪ねた。そしてこの事案の対応窓口のようになっているという村役場の職員、86歳の男性が収容された病院で会ったという村長、事故当時に男性が乗っていた軽トラックの持主だったという男性に会って話しを聴いた。
こうして情報の断片が集まり色々と考えて行く中、一部の人達の話しをしていた時の様子の観察が相俟って、俊藤律は「違和感」のようなモノを禁じ得なくなり、同時にその「違和感」が彼の中で膨らむことを感じた。
「認知症であったという86歳の男性が、如何したものか軽トラックを運転して出掛け、コンビニに突っ込み、軽トラックが突っ込んだ辺りに居合わせた店長が死亡してしまった」と伝わっていた事案だが、「実は全然違う話し?」と俊藤律は考え始めた。
こうして俊藤律が何を知るのか、考えるのかという物語である。
本作が「手にした作品が愉しく、少し続けて幾つかの作品を読み続けている作家による作品」であったのは偶然だと思う。寧ろ、「高齢男性が運転する車がコンビニに突っ込み、居合わせた店長が死亡する事故が発生し…」という作品紹介に惹かれた。
少し踏み込んで言えば、「惹かれた」というよりも「こういう事案…」と気になって「捉まえられた」という感じかもしれない。
永く車を運転し続けていて、一線を退いても暮らしに欠かせないと車を運転し続ける人は多く在る。傍目に観て、少し身体が利かない感じ、「老いた?」というように見えても運転をし続ける例も在る。更に高齢になれば、不意に体調が悪くなってしまい、救急搬送されてしまう場合さえも無いでもない。それでも救急搬送先から引揚げる際にさえ運転をしようとする。傍の身近な人達が「運転は控えるべきだ」と説いてもそれを受容れない。こういうのを「実在する例」として個人的に知らないでもない。更に「少し高齢な方が車を運転して、ブレーキとアクセルを間違えて、勢い良く建物正面の硝子張りな箇所に突入」という出来事が手近で起こって――その時は負傷者も発生していなかった。―しまい、砕け散った硝子の欠片を片付けるのを一寸手伝ったという経験もしている。
こういうことなので、本作の紹介に「捉まえられた」という感じになった訳だ。生々しいまでに解るような事柄が題材で、現代の社会の普通な暮らしの中、「何事かを調べる」となればとりあえず「最も在りそう…」な感じのフリーライターが現れて調べ、意外に過ぎる真相に突き当たるという本作は凄く興味深い。
本作の作中人物達の中には「その後?」と、「何時か何処かで再登場?」を願いたい人物達が在った。その筆頭は俊藤律だ。何処かの街にベスパを駆って現れ、事案の真相を探る様がまた読みたい。そして電話で話す場面で登場の元妻、娘との関係の感じも面白い。愛猫の行方も気になる。
「社会の気になること」を題材の一部に取り込んだ「令和の“金田一探偵”?」という風なライターが事案の真相に迫る本作は、凄く興味深かった。御薦めしたい。