『新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝』

↓紐解き始めると、本当に頁を繰る手が停められなかった。短い篇が集まった本で、1篇を一気に読み、一呼吸置いて次の1篇を一気に読むというようなことを繰り返すと、既に収められた7篇を読了してしまっていた。

新装版 七つの証言 刑事・鳴沢了外伝 (中公文庫 と25-56) [ 堂場 瞬一 ]



↑10作品在る、刑事の鳴沢了が主要視点人物となるシリーズの「外伝」とされている作品だ。シリーズの各作品は鳴沢了の第一人称という体裁で綴られている。対して本作は、鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かの視点、第三人称的に鳴沢了という人物が綴られる。そういう様を「証言」と呼んで題名に冠したのであろう。

鳴沢了の傍らに在るというような状況の誰かというのは、偶々出くわしたという人達や、シリーズ各作品に登場している人達ということになる。そういう形で7篇が綴られている。

『瞬断』は「鳴沢了」のシリーズの後に登場した「失踪課」のシリーズに登場する高城賢吾や、行動を共にする場面が多い女性刑事の明神愛美が鳴沢と出くわすという顛末だ。

『分岐』は鳴沢と組んで事件に取組んだ経過が在った後に何度か登場していて、刑事を辞めて、実家である静岡県の寺で僧侶として活動している今敬一郎が自身の活動に関連することで鳴沢に協力を依頼するという顛末だ。

『上下』は新潟県警に在った鳴沢が行動を共にした、当時は新米刑事だった大西海が登場する。大西海は幾つかの作品に登場する。東京の事件の被疑者が新潟に現れるという経過が在って、大西海は鳴沢と接することになる。

『強靭』は幾つかの作品に登場した、新聞記者から小説家になった長瀬龍一郎が、新作の作中人物の造形の参考にしようと、鳴沢を知る人達にインタビューを試みる。インタビューに応じるのは、横浜地検の城戸南検事と大沢直人事務官で、或る事件現場で出くわした鳴沢に関して語る。

『脱出』はシリーズ第8作以降で連続して鳴沢の相方を務めていた藤田心が登場する。事件捜査の現場で鳴沢と共に活動中、思い掛けない窮地に陥ったという時の顛末だ。

『不変』は東京で警視庁に職を得た鳴沢が、東京で初めて配置された多摩署で行動を共にした小野寺冴が登場する。警察を去って探偵となった小野寺冴だが、幾つもの作品で登場する。鳴沢が小野寺冴に協力を依頼するという顛末が描かれる。

『信頼』は鳴沢の家族となった内藤勇樹の目線での物語となる。鳴沢は交際していた内藤優美との間に娘が生まれたことを契機に結婚している。内藤勇樹は義理の息子となったので「鳴沢勇樹」である。米国で俳優活動をしていて、その活動で映画撮影をしているハワイに鳴沢がやって来ての出来事が描かれる。

各篇は何れも「その後の鳴沢了」という感、シリーズ10作品の後の時期ということになる。

『上下』の大西海は、第10作に「昇任試験に一発合格」で東京に研修に出ていたということで登場していたが、この篇で上司達に更に昇進する昇任試験の受験を強く薦められているという様子が在る。ということは、昇任試験を受験可能となるような期間を経ていることになる訳で、少なくとも「数年経っている」と判る。

この辺りに関しては、『信頼』が判り易い。第10作で11歳であった勇樹が16歳と判るのだ。ということは5年を経ていることになる。

シリーズ10作品を通じて、鳴沢了は色々な経験を重ね、少しずつ変わる。その結果に出来上がった「鳴沢了」という人間を「他の人達」の目線で提示しようというのがこの「外伝」ということになるのかもしれない。

自身はこの「外伝」の各篇を、シリーズ10作品の後に読んでいる。が、逆にシリーズを読む前に導入として読んでみるのも好いかもしれない。

例えば『瞬断』、『強靭』というような篇は、ストイックな私生活をする強靭な肉体の持主で、原理原則に照らして強い意志で自身の判断を信じ、迷わずに突き進む凄い男という「鳴沢了」というイメージがよく判ると思う。

更に『上下』、『信頼』は鳴沢自身よりも若い人達を導く、背中を押すという側面が感じられ、『分岐』、『脱出』、『不変』は強い絆が在ると感じられる仲間を真摯に思いやるような側面が感じられる。

各篇各々に面白く、甲乙点け難い。各篇を読みながら「鳴沢了」に出逢って善かったという想いを新たにした。広く御薦めしたい作品だ。

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