『疑装 刑事・鳴沢了』

↓各作品を愉しく読み進めている刑事モノの小説のシリーズだが、本作はシリーズ第9作である。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

疑装 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-53) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

題名は「疑装」(ぎそう)となっている。「ぎそう」という同音異義語が幾つか在ると思うが、知られているのは「偽装」ではないだろうか。「擬装」という字を使う場合も在るが、これは所謂「カムフラージュ」というようなことや、事実を見分け難くしてしまうことという意味合いだ。そういう状況が在るのだという感じなのだが、敢えて「うたがう」という意味の「疑」を当てている。事実を見分け難くしてしまう「偽装」または「擬装」という事柄が在ると「疑われる」というような感じなのであろうか。少し興味深いが、そういうことを解き明かしながら読み進めるという感じでもあると思う。

冬の日の夕刻、西八王子署刑事課のオフィスから物語は起る。

刑事課の署員達は定時で順次帰宅していて、2人だけ残っていた。鳴沢と藤田だった。前作で本部の捜査一課の捜査員としてやって来て、鳴沢と行動を共にした藤田は西八王子署に異動していた。前作の一件の後、異動で署員は大きく入替っていたのだった。藤田は、暇とは聞いていたが、聞く以上に暇だとぼやいている。鳴沢はそれを半ば聞き流し、自分達も帰宅しようと促す。そんな中で電話が鳴った。

電話の用件は、交番で住民からの通報を受けて、身元や事情が不明の身体が少し弱っているような少年を保護したという事案だった。保護した少年は10歳前後と見受けられるが、言葉を発しない。妙な様子である。電話を受けた藤田は、刑事課の担当すべき事案なのか否かが判らないと思いながら、とりあえず行くと返答した。藤田と鳴沢は現場の交番へ駆け付けた。

交番の責任者である警部補が待っていたので、藤田と鳴沢は詳しい話しを聴くことにした。児童の安全に気を配るとして、交番とも連絡を取り合う間柄の住民達が在って、その人達の1人で、自身も小学生の母親であるという女性が交番に連絡し、交番から署へ連絡が入ったという様子だった。少なくとも際立って特徴が在る外見とも見えないが、言葉が通じないのか、外国人なのかもしれないということになった。怪我を負っている様子は見受けられないが、少し弱っている様子なので病院に収容したということであった。通報者にも事情を訊ねた後、鳴沢は少年の様子を視るべく病院へ足を運んだ。

持っているバックパックに触れることを拒み、言っていることを解っているのか、いないのか、少し伺い悪いような様子の少年に、医師や看護師等の病院関係者も難儀しているという中に鳴沢は訪ねた。交番で噂をしていたが、少年事件担当の、生活安全課の女性刑事を連れて来て、事情を訊ねるようなことをすべきであろうと鳴沢は考えた。鳴沢は、勇樹と似たような年齢と見受けられる少年が1人で居て困っているのであれば、何とか援けたいと思うようになった。

やがて鳴沢は、国内に居る多くの人達と変わらない外見で、言葉が通じ悪いのだとすると、何処かの街に居る日系ブラジル人の子という可能性が在るのではないかと思い付く。鳴沢は、極々僅かに知るポルトガル語のフレーズを発すると、少年が反応した。少しずつ心を開いて、少年の事情を知り、何とか援けようということになったのだったが、驚くべき事態となった。病院から少年が姿を消したのだ。

少年は逃げたか連れ出されたかで慌ただしく姿を消していた。少年のモノが残っていて、群馬県の小曽根に住んでいるカズヤ・イシグロであるらしいと判明した。鳴沢は八王子から延びる八高線の沿線である群馬県の小曽根―※架空の地名であるようだ。県内に同じ地名は在るが、そういう鉄道駅は無い。―へ乗り込み、カズヤに纏わる事情を調べる。鳴沢が見出す事実は如何に?そして行方が案じられるカズヤは如何なるのか。という物語だ。

子どもと接することが得意ということでもなさそうな、少し大柄で厳つい感じの鳴沢だが、「俺は真面目に君のことを気に懸けている」として、心を閉ざしたような様子の少年に何とか踏み入ろうとする様子は応援したくなる。少年が、何処かの街の日系ブラジル人の子であるらしいとなって、もう少しで何かが判りそうな中での急速な事態展開である。物凄く引き込まれる展開だ。

鳴沢が乗り込んだ、ブラジル人が多く働く工場を擁する小さな町の様子だが、所謂“多文化共生”というようなことが盛んに取り沙汰されるようになっていた、本作の最初の発表時期の問題提起というようなことが、小説の物語としてうまく整理されているというようなことも思った。色々と論じられたこの種の事柄だが、「最近は?」というようなことを、読みながら思ったということも在った。

前作で行動を共にした藤田が、硬い感じの鳴沢に対して少し軟らかいイメージで「好い相方」という感じだったのだが、今作でも同じ署に異動で机を並べているという形で再登場し、また好い感じで相方を務めている。本作ではヒロイン的な雰囲気の、生活安全課の女性刑事である山口美鈴が新たに登場している。また、シリーズの過去作品にも出ていた、鳴沢の相方だった小野寺冴は探偵を生業としていて、本作にも登場する。

本作も何やら色々な意味での余韻が深いと思う。真直ぐで熱い刑事の物語という体裁ではあるが、作品発表時期の「世の中の“気になる”」も巧みに入り混じっているように思った。御薦めな物語である。

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