『被匿 刑事・鳴沢了』

↓第1作が気に入って、以降の作品を順次愉しく読んでいる刑事モノのシリーズで、本作は第8作となる。紐解き始めると「続き」が気になって我慢出来ず、頁を繰る手が停められなくなる。そして素早く読了となる。

被匿 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-52) [ 堂場 瞬一 ]



↑刑事の鳴沢了が主要視点人物で、その第一人称で綴られている物語である。何処となく、外国作品の翻訳というような雰囲気も漂うと思う。

このシリーズは、漢字2字の語句を題名としているのだが、一般的な語句に少し変わった字を当てるというようなことをしている。今般の「被匿」(ひとく)である。「秘密にして隠しておく」という意味で「秘匿」という語が在る。それと似ているのだが少し違う。「匿」は「隠す」、「かくまう」というような意味である。これは一般的な「秘匿」も、本作の題の「被匿」も共通だ。題では「被」としている。「かぶせる」という意味(例えば「被服」)、好ましくないことを「こうむる」という意味(例えば「被害」)、何かを「される」というような意味(例えば「被告」)という用例が在る。「被匿」に関しては、何かをされた、こうむったという経過が隠されること、或いは覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと等、幾つかの含意が込められていると観た。それを解き明かそうとするかのように、本作の頁を繰り始めるのである。

物語は西八王子署刑事課のオフィスから起こる。鳴沢了は西八王子署に異動で、着任初日ということでオフィスに出勤し、課長と話していた。

話題になったのは着任前日の出来事であった。地元選出の代議士が、自邸へ向かう辺りにを流れる川で遺体で発見された。前日はその対応をしたが、夜に都心で酒が入る席に出て、帰って来た時に少し辺りを歩きたいということを言い出して歩いたと見受けられる。その際に橋の辺りから川へ転落して死亡と観て「事故」という話しになっていたのだった。

鳴沢はニューヨーク市警での研修をしていたが、現地で色々―前作の物語―なことが在って、予定を短縮して研修を切り上げて帰国した。帰国後、島嶼部を除いては最も静かであるという西八王子署に異動ということになった。非常に暑い時季ではあるが、暑さで力が入らないというような次元を通り越し、何か気が抜けたような職場であると鳴沢は感じた。

新たな署へ異動し、管轄区域の様子を少し知ろうと、鳴沢は動き回ってみた。「代議士が川に落ちて死亡」という「事故」の現場とされる橋の辺りを通り掛かり、鳴沢は様子を観た。酒が入っていたにしても、不注意か何かで川へ転落してしまうような橋なのだろうかと、鳴沢は疑問を抱く。そして鳴沢は、急ぐような課題が在るのでもないことから、代議士が川へ落ちたと見受けられる時間帯に関する目撃情報を探そうと、近隣で訊き込みを試みた。

やがて鳴沢は、死亡した代議士らしき男性と、何者か判らない女性が橋の辺りに居て、遠目に言い争っているようにも見えたという目撃談に行き当たる。この話しをしたのは、夜に様子を視た翌朝に旅行に出ていたという近隣住民で、「事故」ということで西八王子署が活動していた日には居なかったので、刑事に事情を尋ねられるようなことも無かったというのだ。鳴沢は、目撃談を話した人達の事情という以前に、近隣への訊き込みも熱心に行わず、「事故」である「ということにしてしまった」というようにも感じていた。

やがて死亡した代議士に関しては、不正な献金、贈収賄というような事案でも名前が挙がっているらしいという噂も在って、その件での自殺という可能性も排除し得ないと鳴沢は思った。それにしても、「言い争っていたように見えた」という目撃情報が在る以上、他殺という可能性も排除し悪い。やがて「事故」での処理は不適切であったかもしれないということに警視庁内部でなって行き、捜査一課の要員が西八王子署に派遣され、事案の究明に取組む運びとなって行く。

こうして鳴沢が見出す事の真相は如何にという物語だ。少し夢中になってしまう。

少し遡った時期のことを知っている市役所OBの郷土史家と偶々知り合って情報源としているようなことの他方、死亡した代議士の後援会長に恫喝を受けるような場面や、第1作で出逢っていて以降の作品にも登場場面が在った人物やその家族の関りが在るというような場面も在る。また捜査一課の捜査員を投入しての活動という中、藤田心という捜査一課の刑事が登場し、鳴沢の相方ということになる。藤田は、離婚してしまった際に元妻が連れて行ってしまった幼い娘に会い悪いのが辛いと零しながらも、軽口を叩く明るい男で「鳴沢ストッパー」等と称し、事件解決へ向けて只管突進する感も否めない鳴沢を援け、支えようとする気の好い男という感じだ。この相方とのやり取り、そういう中で進む事態が興味深い。

八王子は「東京都」の中、「都下」と言われる地域であるが、何か保守系有力政治家を中心とする地方に見受けられるような様子が在るとされている。そういう中での色々な事情の中で起こった「事故」という「ことにされた」という「事件」を真直ぐな鳴沢が浮き上がらせて解決へ導くのである。

前作の物語は“警視庁”を代表して交流が在るニューヨーク市警へ研修に出ている中、パートナーとなる筈の女性の息子で「近い将来の義理の息子」が巻き込まれた事件とは言え、色々な事情を度外視して少年を援けようと奔走し、所謂“組織犯罪”の関係者を蹴散らすような暴れ方をしてしまった。そして「彼を置いておき悪い」と東京へ送り返されてしまった。そうした意味で西八王子署赴任は「左遷」だ。が、それでも飽く迄も抱いた疑問の答えを見出そうとする鳴沢の真直ぐさが好い。そうした中で「“事故”という話しではない…自殺か、他殺か、これは“事件”だ!」ということになって行くのである。

本作を読んで清々しい気分になった。「ことにする」と声の大きな人達が言って、それに従って何とか形を作ろうとする人達も在るような中、鳴沢は真直ぐに「少し変ですよね?」と調べ始め、やがて「色々と考えるべき」となって行く。そしてことの真相が明かされる。明かされる真相は、「過去の遺恨が解かれる」という“金田一耕助”というようなモノを感じさせる面も在った。

「覆いを被せるようにして何かを隠してしまおうとするというようなこと」に鳴沢が挑む。気の好い男という感じの藤田とのコンビで事態を突破する様子が非常に爽やかかもしれない。広く御薦めしたい感だ。

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