『讐雨 刑事・鳴沢了』

↓最近読み続けているシリーズの第6作だ。頁を繰る手が停められなくなり、夢中で素早く読了してしまった。と言うより、そうならざるを得ないとも思う。

讐雨 刑事・鳴沢了 (中公文庫 と25-50) [ 堂場 瞬一 ]



↑本作もシリーズ各作品同様、主要視点人物たる刑事の鳴沢了の目線で綴られる。一人称で綴られる感じは何処となく外国の探偵モノの小説の翻訳という雰囲気も帯びるように思う。

本作の題名である。「驟雨」(しゅうう)という言葉が在る。急に降り出して、急に止むというような、不安定な感じの俄かな強い雨のことを示すようだ。これと同じ音だが、「讐雨」(しゅうう)は少し独特な字を使った造語になるのだと思う。「讐」という字は「復讐」というような具合で用いるが、これは「むくいる」、「あだ」というようにも読ませる。「讐雨」(しゅうう)という語句には、恐らく「むくいる」という意図が、雨のように強弱様々で降り注ぐという様子を示しているのかもしれない。実際、本作の物語は雨の時間帯も少し多い梅雨の時季に展開している。

物語は鳴沢了がハンドルを握り、東多摩署の同僚である萩尾聡子と共に車で移動中という様子から起こる。

鳴沢は青山署から東多摩署に異動した。異動して早々に捜査本部が設けられる事件が発生する。本部の捜査一課の捜査員達も加わり、連日のように事件に取組んだ。2人の子どもが在って、子育て中なので「ママ」というニックネームの萩尾聡子とは行動を共にする場面が多く、苦労を分かち合って来た。事件の被疑者が確保され、事件の様子を確かめる裏付け捜査という段階での活動中であった。事情を聴取に出掛けて東多摩署へ引揚げようとしていたのだ。恐らく、捜査本部は近々に解散ということになる状況だ。

鳴沢を含む多くの捜査員達が取り組んだ事件とは、小学校低学年の女児を誘拐して殺害し、髪の毛を切って束にして保護者に送り付け、遺体の首を切って埋めてしまうという、誘拐、殺害、死体損壊、死体遺棄という恐るべき内容の事件だった。しかもそれが3件も立て続けに発生した。そんな恐ろしいことを仕出かした男、間島を確保することに力を尽くしたのである。

大掛かりな活動で連日忙しかったことから、萩尾は少々休暇を取って休みたいというようなことを車中で話題にした。そういう穏やかな様子であったのだが、少し先の路肩に車輛が停止した状態であるのが見えた。妙な停車だと首を傾げると、不意に爆発が起こった。停まっていた車輛の直ぐ脇を走行中の車輛が爆発で弾かれ、後ろの車輛にぶつかり、そのぶつけられた車輛が鳴沢と萩尾が乗った車にぶつかったのだ。

鳴沢が気付けば病院だった。爆発で3台の車輛が影響を受けた。鳴沢達も病院に搬送されて手当てを受けた。萩尾は余り気にならない傷だったが、鳴沢は少し頭にダメージを受けた。切れてしまった箇所の出血を止めた。頭のダメージなので、病院に居て検査をする等した方が善いという医師の勧めを度外視し、鳴沢は萩尾と共に東多摩署に向かい、状況を報告した。

そして妙なことが判った。「間島を釈放しろ」という要求、要求が容れられなければ無差別に爆破を行うという脅迫状が東多摩署に届いていたのだった。その脅迫状の関連で路肩の車輛が爆破という事態が起こったと見受けられる。間島を確保する迄の捜査は段落しているが、今度はこの「間島を釈放しろ」という要求と爆破の脅迫に対処しなければならなくなってしまった。

街で暮らす多くの人々を人質にするかのような脅迫という中、鳴沢を含む捜査員達が奔走する。「間島を釈放しろ」という要求の真意は何なのか。何者がそのような要求をしているのか。そして爆破という危険を阻止しなければならない。そして行き着く真相は如何に。

ということで、緊迫する最終盤迄、眼が離せない様子が続く。手紙や電話で警察側と接触する犯行グループは、その動きを弄ぶように、要求を押し出し、そして爆破を繰り返す。変なパニックにもなりかねないので、警察側の対応も難しい。捜査員達は色々な角度で事態を調べて行く。鳴沢も今般は非常に熱い。

こういう事件の展開の他方、鳴沢個人の周囲でも色々と在る。鳴沢は親友の妹で、家庭内暴力に悩んで離婚し、息子と共に暮らしていた内藤優美と交際するようになっていた。優美の息子の勇樹も鳴沢に懐いていて、遠からず結婚を意識もしている。が、優美の友人の話しが切っ掛けで勇樹がテレビドラマの子役にスカウトされたことから、優美と勇樹はニューヨークに行っていた。メールや電話で優美、またはその兄とやり取りという状態が少し続いている。今般の難しい事件の最中ながら、そうした部分の動きも在る。

警察に確保された凶悪犯の釈放を求めるというだけでも異様な感じなのだが、要求を通すべく爆弾を使って脅迫というのは更に途轍もない。そんな異常事態でスリリングな物語ではある。他方、本作は「罪と罰」、「罪の報い」、「深い傷を負わされた、または心を壊された被害者周辺の想い」というような事件や事件を扱う刑事達の根源的な事柄を論じようとするかのような面も在る物語であったと思う。緊迫のクライマックスの後の終章部分を読むと、何か涙ぐむような気もした。余韻が深い。御薦め!

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