↑主要視点人物の一人称の回想風な綴り方、詩情が滲むような街の描写、主要視点人物と周囲の人達の交流や来し方、次々と起こる出来事が収斂する様子等、夢中にさせてくれる要素が渦を巻いている。
刑事として警視庁に勤める鳴沢了という男が主要視点人物ということになる。警察署の1階、警務課で相談等で来庁する人達を迎えるカウンターの辺りを鳴沢了が通り掛かる辺りから物語が起る。
鳴沢が通り掛かると、60歳代位と見受けられる人達がグループになって訪れ、色々と申し立てていて「責任者を出せ!」、「署長は居ないか!」と騒いでいる。「騙された」と詐欺被害を訴えようとしている様子ではある。鳴沢は彼らに対応するようにと居合わせた署員に押し出されるのだが、グループになって「求め訴える」とワイワイ言われても御話しということになり悪い。困惑していると先輩刑事の横山が現れ、2階の会議室で彼らの話しを聴くということになった。鳴沢は彼らを会議室へ案内したのだった。
鳴沢は青山署へ異動となっていた。生活安全課に在る。グループが訪れて訴えようとした詐欺というような事案も担当する。鳴沢が主に関わった刑事課で扱う事案とは少し違う。そういうことだが、時々当直に就くというのはどの課の刑事も同じだ。夜、鳴沢は共に当直の任に就いていた刑事課の池澤と出動していた。
出動した先は、家庭内暴力の問題で悩む女性が一時的に滞在すべく、そういう人達を支援しようという団体が用意したマンションだった。そこに滞在している女性の夫が在ら阿われて暴れるという事態が生じたので、団体の関係者が通報し、交番の警察官が出て、その後に署の当直への連絡で鳴沢達が現場に出たという様子だった。
そんな一件の後、鳴沢は学生時代に1年間の米国留学をしていた際のルームメイトが来日する計画で、久し振りに会うことを楽しみにしていた。偶然にも、その友人と地下鉄駅で出くわし、祖父母の家に同道することになった。その古い友人の祖父母の家で、思い掛けない出会いも待っていた。
こうした展開の中、青山署にグループになって訪れた人達の詐欺案件の捜査が進められ、事態が進展する中で色々な事も起きて行く。「K社」と呼び習わすことになった詐欺事件の会社の幹部達を調べる中、妙な人物達との交流というような事態にも行き当たる。
こういうような中で、事態は不思議な巡り方をする。鳴沢が活動の中で出くわした人物達の不思議な関係が明かされて行くこととなるのだ。
そういうことなのだが、新潟での経緯、新たに仕事を始めた多摩署での経緯と、色々と在った鳴沢が、新たに出会った人との関係を築いて行く中で、そうした過去を乗越えて行こうというような展開にもなって行く。或いは、シリーズが長く続いて行く入口になっているのかもしれないのが本作であると思う。
勿論、本作は完全なフィクションである。が、それでも詐欺事件の会社の悪辣さが非常にリアルで、先輩の横山と共にそれに立ち向かう鳴沢が驚き呆れる様に共感する。華々しい感じでもない、一定以上に「実在する問題」の様相を踏まえたかのような本作の展開は引き込まれる何かが在る。
本作を読むと、「そして鳴沢は?」と次作以降をとりあえず読んでみたくなってしまう。
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