↑警察の捜査員が活躍する物語を綴るということで、作者がその地位を確立した作品ということになるであろう。この『雪虫』を嚆矢として「鳴沢了」が活躍するシリーズが展開するのだ。更に作者は幾つものシリーズを手掛けることになって行く。
2025年現在、「50年程前」とでも言えば1970年代であろう。昭和40年代というような感じだ。対して、本作にも「50年程前」という話題が在るのだが、それが昭和20年代というような感じになっている。1950年代という感じだ。多少、首を傾げたくなったのだったが、本作は2001年頃に初めて登場している。2001年頃から視ると、「50年程前」は昭和20年代、または1950年代ということになる。こういうような辺りに少し以前の作品という事実が滲むのだが、作品は概ね四半世紀を経ても全く色褪せていないと思う。
美しい情景描写の中、熱いモノを秘めた青年刑事が事件の謎と隠された事実に向き合うという感じである。
冒頭、もう直ぐ雪の季節というような頃、日本海岸をバイクで疾走しているという様子から幕が開く。鳴沢了の趣味が愛車のSRでのツーリングなのだ。そういうことをしていれば携帯電話に連絡が入る。呼び出しである。鳴沢了はそれに応じて引揚げ、仕事に取り掛かる。
鳴沢了は新潟県警の捜査一課に在る刑事だ。捜査本部を設けるような事件で捜査一課の捜査員達が活動することになったので、非番で愉しんでいたツーリングを切り上げたのだ。そして先輩刑事と共に湯沢へ向かった。
湯沢で発生していたのは、78歳で独り暮らしの老女が他殺と見受けられる遺体で発見されたという事件であった。毎朝のように姿を見掛ける老女を見掛けないと気になった隣人が様子を見に家に近付いた。施錠されていない戸が少し開いているという不審な状況だったので思い切って開けて中を見た。うつ伏せで老女が玄関に倒れていた。何かの病気で倒れたのだと思った隣人が「大丈夫か?」と老女の身体に手を掛けた時、腹の側に血溜まりが在ることと、既に死亡しているらしいことに気付いた。大変に驚き、警察に通報した。そして警察が本格的に捜査を始めることになったのだ。
この事件の捜査本部は、湯沢を管轄している魚沼署に設けられた。通常、事件発生地を管轄する所轄署に本部が設けられると、その所轄署の署長が本部長ということになり、関係者の顔合わせという意味合いも在る最初の捜査本部の会議には署長が顔を出す。今般の本部の本部長を務めるのは鳴沢署長であった。捜査本部に参加することになった鳴沢了の父である。
鳴沢了の家は、祖父も父も刑事だ。祖母も母も他界していて、鳴沢は男が3人の家庭で育った。刑事として現役であった父とは接点が少な目で、一線を退いた後であった祖父の傍で育ったような感じだ。何時の間にか鳴沢了は「刑事になる」というように考えていた。更に、「刑事に産れた」とまで思ってもいた。東京の大学を卒業した後、新潟県警に奉職して刑事になり、捜査一課で勤めることになった29歳である。
こんな鳴沢が、魚沼署の若い刑事、大西と組むことを基本にして、事件の捜査に加わる。その顛末、そして鳴沢了個人の色々なことという物語だ。
自宅で襲われて死亡した老女は、家族や縁者が居ないような孤独な暮らし振りであった。時々、祈祷のようなことをしていたという。やがて50年程前に2千人とも3千人とも言われた会員を擁した団体の代表を務めた経過が在ったことが判る。或る種の新興宗教のような感の団体で、彼女は言わば教祖だったのだ。そういう次元の古い経過と、現在の時点で進行する事件とが交差する中で、鳴沢達が真相を解き明かすことに挑むのだ。
その最中で、鳴沢の父や祖父との色々なことや、偶然に出くわした中学校の同級生だった女性との関り等、色々と織り込まれている。詩情溢れるような、それと同時にクールな雰囲気の物語が、雪が降り積もり始める予兆が感じられる寒い新潟で展開する。
非常に夢中になった。シリーズ各作品も読みたくなる。御薦めだ。
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