『献心 警視庁失踪課・高城賢吾』

興味を覚えてシリーズ第1作を読んだ。気に入ったので既刊のシリーズ各作品を順次読み進めた。既にシリーズ10作品が揃っている状態である。纏めて入手し、毎日のように各作品を読み続ける羽目に陥った。「羽目に」としたが、本当に「停められない…」というように読み進めたくなってしまうシリーズなのだ。

↓今般、10作品在るシリーズの第10作を夢中で読んだ。読了して凄く深い余韻に浸る。

献心 警視庁失踪課・高城賢吾 (中公文庫) [ 堂場瞬一 ]



↑警視庁の架空の部署である失踪課で活動する高城警部が主要視点人物となっている。身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった高城が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。各作品は、高城の一人称による語りという体で綴られ、何処となく外国作品の翻訳的な感じがしないでもない。探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂うのだ。

シリーズの小説にも色々な感じのモノが在ると思う。本作の作者は警視庁の警察官達が活躍するシリーズを何本も展開している。何れも、シリーズの作品が重ねられる中で半年や1年というような時間が過ぎ、何作も続く中でそういう時間経過が5年間以上にもなる。そういう時間の流れの中、作中で起こる様々な事案の顛末と共に、シリーズ各作品に登場する主要な人物達の身近に起こる事やその展開も描かれる。そういうことで「人の人生の中での動き、変化」が読者の側に迫って来る。

この「失踪課」のシリーズは、高城警部が向き合うことになる様々な事案の顛末と合せて、彼の中での変化、変化を反映した行動というようなことが描かれる。7歳の娘が失踪してしまったという出来事が在り、全く事情が判らないままに年月が過ぎる。7年間程というもの、高城は離婚もしてしまって、酒浸りになってしまっていて、配属された所轄署で半ば居眠りしているばかりのような有様だった。そういう状態から、明確な結論が出ていない娘の件に関しても調べるというようになって行く。やがて娘の死という事実に直面するのである。こうした高城の足跡が各作品を通じて順次描かれるというシリーズだと思う。

そして本作の物語になる。

冒頭、次の人事を巡って、人事問題を司る関係者達が話し合っているような描写が在る。そして物語が始まる。

高城の警察学校の同期に長野警部が在る。捜査一課で“長野班”を率いて活躍している。この長野の案内で、高城は或る会社員に会って話しを聴こうとしていた。

高城の娘が失踪してしまったのは12年前のことである。が、他殺を示唆する頭部に傷が在る状態の白骨遺体が、全焼してしまった家屋の基礎部分から発見されてから、未だ2ヶ月弱である。他殺の可能性が高い白骨遺体ということで捜査本部が設けられ、捜査活動が行われていた。長野は部下達も動かしてこの事案の捜査に携わっていた。そういう中、12年前の高城の娘の一件の時に、それらしい女児を視たと思うとしている人物が現れた。

高城の娘の件に関して、高城自身は「近親者の事件」ということで捜査に携わることを禁じられてしまっていた。が、長い付き合いの友人でもある長野は、高城がこの或る会社員に会って詳しく証言を聴くべきだと考えたのだった。

そしてこの会社員と会って話してみたのだが、最初に「視た」としていたものが「判らない」と曖昧な話しになってしまった。

不自然な話しであるので、長野は部下達を動かしてこの会社員の様子を探ろうとした。そうした中、会社員は弁護士を雇い、その弁護士を差し向けて行き過ぎた捜査活動で迷惑を被っていると抗議をした。やがてマスコミがこの件を取上げるかもしれないというような動きを見せ始めた。

その他方、白骨遺体の発見とDNA鑑定によって身元が確定してから2ヶ月程度とは言え、実質的に12年も前の事件なので捜査は難航している。結局、高城自身や失踪課第三方面分室の捜査員達も捜査本部を手伝うことになって行く。そして高城の娘が失踪した当時の、小学校に在った児童達やその保護者達への聴取が薄かったということになり、当時の全校児童を対象に接触を試みる運びになる。

なかなか連絡が付かない人物が何人か在った中、事件から少し経って都内で転校し、その後は秋田県に移っているという高城の娘の同級生と母親とが在った。母親の実家の旅館で仕事をしていたらしいのだが、旅館が廃業していて行方がよく判らなくなってしまっていたのだった。高城はこの母子に関して調べるべく、盛岡へ出て、母子の足跡を探って秋田県の東寄りな地域を走り回る。

証言の趣旨を翻すようなことや、弁護士を依頼して警察に強硬に抗議するような真似をした会社員の意図は何なのか。行方がよく判らない様子の同級生母子の行方と、その方々を転々としたような行動の理由は何なのか。そして高城の娘が死亡して埋められた経過の真相は如何だったのか。高城は必死にそれらを解き明かそうとし、明らかになる事実に向き合って行くことになる。

本作は、この作者が時々やっている「他シリーズの主要人物達の客演」が見受けられる。刑事総務課の大友(「アナザーフェイス」)、「追跡捜査係」の西川と沖田が登場している。捜査を巡って新聞社が動いているようだということが在って、その辺のことを調整し、その顛末を新幹線で東北へ出発する高城に伝えるべく東京駅に現れる大友。12年も前に起きた事件の被害女児が白骨化して発見という異常な事態の中、捜査本部に入って活動している西川や沖田。そういうような様子が一寸面白い。「追跡捜査係」の2人に関しては、過去の捜査で及ばなかったと見受けられる事柄を掘り起こして「これをやろう!」と提言し、捜査本部の参謀長のように活躍する西川、本部の設けられた署の駐車場片隅に設けられた喫煙コーナーで高城と語らう沖田というような感じだったが、何か凄く印象に残る。

ゲストの他、このシリーズのレギュラーと呼ぶべき第三方面分室の面々も各々に活躍する。更に第三方面分室が間借りしている渋谷中央署の警務課に異動し、分室時代は「オヤジさん」と慕われていた法月や、その娘で弁護士の法月はるかも大事な役割を果たしている。

レギュラーと呼ぶべき面々の中、女性の明神刑事もシリーズで描かれた日々の中で少しずつ変わった。尖っていて不機嫌な感じだったのは、不本意な「玉突き人事」での失踪課への異動であったからだ。やがて、不機嫌な感じは後退し、基本的に多少尖っているものの、硬軟使い分けて捜査活動に励み、頼もしい存在になって行く。そしてキツい言い方をするような場面も在るが、個人的な心の問題を抱える高城に親身かもしれない。他方、第9作に至って明神自身に個人的な問題が生じ、それに何とか折り合いをつけて仕事に勤しんでいる。この第10作でも高城を援けて活躍する。

『献心』という本作の題である。これは「献身的」の「献身」を少しアレンジしたのだと思う。他社へのサポートというような「献身」だが、「身」というよりも「心」ということ、精神的に応援する、応援されるというような意味であるような気がする。そして本作中、この「精神的に応援する、応援される」に何重もの意味が込められているように感じる。

素晴らしいシリーズに出逢い、全10作を読了して善かった。本作を、同時にシリーズ各作品を広く御薦めしたい

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