↑身に降りかかった事件を乗り越え難く、酒浸りのようになってしまい、何年も無為に過ごした感であった警視庁の高城警部が失踪課に異動したという辺りから始まったシリーズである。失踪課は架空の部署であるようだが、そこに所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズ各作品である。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。
本作の物語は年始の休暇時季が過ぎた1月前半頃ということになっている。
物語の冒頭、高城警部が自家用車を駆ってアクアラインを往き、千葉県を目指して移動中という状況から始まっている。(本筋と然程関係が深くない話題だが、個人的には飛行機に乗っていて眼下に見たものの、何らかの形で走った経過が無い道路なので、気に入っているシリーズの小説の主人公がこの道路を移動する様子が凄く興味深かった。)
物語の話題に戻る。高城が酒浸りというような状態に陥ってしまい、更に離婚に至る切っ掛けとなった、乗り越え難かった身に降りかかった事件というのは娘の失踪であった。姿を消してしまった当時、娘は7歳の小学1年生だった。その娘の失踪から7年程を経た頃、高城は失踪課へ異動し、その活動を続ける中、間違いなく死亡したということが判明したのでもない限り、娘を探すことは続けるべきだと考え、行動するようになっていたのだ。そういう中、時間が経って19歳になっている娘の状況ということで、当該の年齢で身元がハッキリしない女性の遺体が発見されたというような情報が在ると、現場に出向いてそれを視るということをしていた。3時間程度以内であれば、車を飛ばして現地へ向かうのが動き易いと、高城は自家用車を求めるということもしたのであった。
7歳の女児であった娘も19歳になっているであろうが、黒子や3歳の頃の火傷の小さな痕等の特徴は変わらないと見受けられるので、それを確認することや、コンピュータで造った「19歳を推定する顔の感じ」という画も持っていて憶えており、更に失踪した頃に提供したDNA鑑定向けのデータもデータベースに在るので、照合もできるということで高城は方々を訪ねていた。今般は千葉県の富津へ向かっていた。遺体が発見され、その件の対応をしている地元警察署と連絡を取り、案内役として若手捜査員が出るというようなことにもなり、高城は富津を訪ねて地元警察署の捜査員と会い、発見された遺体を検め、発見現場の様子等を視た。
富津の遺体は娘ではないと確かめ、高城は食事を摂って都内へ引揚げ、渋谷中央署の中に在る職場である失踪課第三分室へ顔を出そうというようなことを考えていた。そこで連絡を受けた。
失踪課第三分室に寄せられた相談は、高校3年生が姿を消したという内容だった。甲子園にも出場した高校の中心選手、強打者で、ドラフト1位指名でプロ野球入りということになっている生徒だった。この生徒は富津の出身で、高校進学時に東京都内の高校に進み、寮生活をして練習に励んで試合に出場して活躍していたのだという。高城がこの失踪者の出身地である富津に偶々居合わせた。そこで富津に居る中学時代の友人達や両親等、本人を知り得る人達の事情聴取を行って欲しいということになった。が、プロ野球の各チームがキャンプ入りする前の、新人選手がチームの寮に入るような予定が近いことから、姿を消した件が不用意に拡がらないように慎重な捜査が求められた。
この高校球児の事案の他方、渋谷中央署管轄下の恵比寿駅前交番に在る21歳の巡査が、制服着用で勤務をしていた中で姿を眩ませた。按配が悪いことに、件の警察官は拳銃を持っていたらしい。渋谷中央署の中に間借りしていう失踪課第三分室の面々もこの巡査の失踪の件でも奔走することになった。
高城は高校球児の問題の捜査に勤しむ。件の高校生の高校は荻窪に在った。高城が嘗て妻や失踪した娘と住んで居た地区である。高校球児の問題に取組む中で、高校の生徒達が絡む別件や、その別件に件の生徒の関与が噂される等、高城は嘗て高校球児であった経過も在る醍醐刑事を主な相方にしながら事案に取組んだのだが、荻窪で動き回ると色々と思い出す事柄も在る。そして、10年程を経て、嘗ての顔見知りに出くわすというような場面も在った。
こういうようなことで、自身の問題に向き合いながら、捜査対象の若者が妙な不利益を被らないように、何とか探し出して彼を案じる両親等を安心させたいと高城は奔走する。やがて高城が衝撃を受けてしまう出来事が待っている。
シリーズ各作品の事案の中では、「事の次第が明らかになってみれば…」という「ドッキリ」的な感じが強い内容かもしれない。が、何か好い事にも好くない事にも向き合いながら動く人生を静かに見詰めながら生きる様子が折り重なる社会というようなことに想いが巡る。本作は何か酷く余韻が深い。事件関係者達の「その後」が殊更に気になる。加えて、高城のその後が気になる。そんなことで素早く、これの次となる第9作を手にせざるを得なかった。
「失踪してしまう」という異常な事案には、事案の数だけの事情、物語が在るものである。そういうモノに向き合う、自身がかなり「訳アリ」な主人公が登場するこのシリーズは非常に興味深い。巡り合って善かったシリーズだ。広く御薦めしたい。
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