↑警視庁の架空の部署である失踪課に所属して活動する高城警部が主要視点人物となり、一人称の語りのように綴られているこのシリーズである。シリーズ各作品には、探偵が活躍する所謂“ハードボイルド”を想起させる雰囲気も漂う。
本作の物語は、警視庁で人事異動が行われた3月最初の頃の或る日から始まる。
高城警部は失踪課第三方面分室で一緒に活動していた法月警部補が制服姿で現れた様子に多少驚いている。私服姿の見慣れた様子とは違う。定年が近く、心臓を患った経過の故に、閑職というように見做されていた失踪課に異動していた法月だが、頼もしいベテラン捜査員で高城は頼りにしていた。法月は年長者として高城に助言をする場面さえ在ったのだ。分室内では「オヤジさん」と仲間たちに慕われていた。高城がそういうように呼び始めたのだったが。そういう様子であって、法月自身も失踪課勤務継続を望んでいたが、制服着用で出勤して様々な事務等を行う渋谷中央署の警務課に異動ということになったのだった。異動して程無く、同じ渋谷中央署に間借りしている失踪課第三方面分室に法月が現れ、高城と話している。
高城が失踪課に異動して以来、色々な事案が発生して分室のメンバーが奔走していたが、異動で分室を出た法月には心残りが在った。古い失踪事件を少し調べてみようという思いを遂げられなかったのだ。法月は関係の概要資料の写しを持っていたのだが、それを高城に託した。
法月が高城に資料を託したのは5年前に発生した事案である。介護関係で用いるロボットの研究に取組んでいた技術者が会社から姿を消して帰宅しなかった。行方が判らないということになった。そしてその旨を警察へ届出たということが在った。が、行方が判らないという話しになった頃から39時間程度を経て、高速道路で多くの車輛を巻き込む事故が発生した。事故現場で、事故車の1台に乗っていた男性が如何した訳か抜け出して姿を消してしまっているということが判明した。この姿を消した男性が、行方が判らないと届出が在ったロボットの研究を手掛ける技術者に似ているという話しになっていた。
事故現場で姿を消した男性が似ているようだという話しが出て以降、件の技術者に万する情報は全く無かった。銀行口座の資金の出し入れ、クレジットカード等の利用、携帯電話の使用というような記録も無いのだ。が、何らかの事由で死亡してしまったというようなことが断定出来る何かが在るのでもないのだ。飽く迄も「行方不明のままに5年」である。
加えてこの5年前の技術者に纏わる事案の頃、失踪課というような、行方不明者の捜索を専らとするような部署が在ったのでもなかった。そうしたことも踏まえ、高城は分室の各員を動かしながら事案の捜査に取組んで行くことにした。
そういう他方、分室の阿比留室長は以前とは様子が変わってしまった。刑事部の傍流と見做される失踪課から、本流と見做される捜査一課等でのポストへの異動を希望するという上昇志向が見えなくなった。定時に出勤し、定時に退勤するという様子で、自席でデスクワークをしているばかりとなった。高城としては、法月の異動を断るというような、分室の陣容を護るような、可能であった筈の動きを見せなかったこと、そして後任に刑事部で捜査活動をした経験が殆ど無い交通部の然程評判が好いのでもない人物を容れたこと等、不満が多くなっていた。そして、偶々手間が掛かる事案が無かった中で、分室内の活気も失われたような様子だったのだ。
こうした中で5年も前の技術者の行方不明事案の捜査が始まる。そういう中、行方不明の技術者の生存を示唆する出来事が発生した。勤めていた会社に、本人の署名が入ったメッセージが届くのである。
こういう中、進行する会社での事件と、事件の重要参考人または被疑者となってしまった行方不明者の捜索という状況が進み、高城達が奮戦することになる。捜査陣が行き当たった真相は如何に。
こういうことで意外な事態が次々に起こって行くことになるのだが、少し夢中になってしまった。
力が入り過ぎる纏め役というのも困るが、力が抜け過ぎる纏め役というのも困る。そんな中で分室のナンバーツーということになっている高城は、各員を巧く動かして事案に取組む。そして事案に関して乗り出して来た熱血漢、高城の警察学校の同期である捜査一課の長野警部と組んで動く場面も在る。また分室の捜査員を著しい危険に晒す訳にも行かないと、長野とやり合うような場面も在る。
「5年間も行方不明」という異常事態と向き合うというような事に関して、高城が様々に考えを巡らせるような描写も一部に在るのだが、少し考えさせられる。そしてこれは、高城自身の乗り越え難かった身に降りかかった事件にも通じることとなる。更に、事案が解決した後の後日談的に、高城、法月、加えて分室の捜査員である明神が語らう場面が在るのだが、その場面の余韻が深い。
何本もの警視庁の警察官達が活躍するシリーズを手掛ける作者は、或るシリーズで別のシリーズに登場する部署や主要人物の名を出すようなことをする場合が多く在る。そんな中で「失踪課の高城」というのが在る程度頻繁に出る。そんなことからこのシリーズに関心を寄せたのだったが、出逢えて非常に善かったシリーズである。
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