『東大生に教える日本史』

↓大変に愉しく読了した。「教える」ということで、大学の講義の雰囲気で8つの篇を纏めている。順次読み進めると素早く読了に至ってしまう。

東大生に教える日本史 (文春新書 1483)



↑専門的な研究に携わる著者が、その知見を基礎にしながら、広く一般向けに話しを纏めて綴るというのは、凄く新書らしいと思う。

著者が東京大学に勤めているので「東大生に教える」となっているが、これは偶々であって、他大学に在れば「X大生」に替っていただけであろう。内容は寧ろ「誰にでも興味深く学ぶことが出来る日本史」というようなことなのだと思う。鎌倉時代以降の事柄が扱われ、8つの篇=講義が一冊に収められているのだ。

著者は大学の研究所で活動をしていて、御自身の御研究の半ば一環で、研究者を志す方が大半を占める大学院生の指導を行っているのだそうだ。そういう様子なので、日頃は学部の学生、研究者以外の様々な進路に向かって行くであろう新入生のような人達に講義をする機会は無いそうだ。

ところが、教養課程に学ぶ新入生に向けて講義を行うという機会が生じた。そこで著者は、大学新入生達が付き合って来た「受験の日本史」とは一味違う話しをしようと準備した。そういう講義の内容を読物として整理したのが本書である。

本書の8篇、8回の講義で扱われるのは所謂「武家政権の時代」である。契機となる出来事が幾つも在って、鎌倉幕府が成立して動き始める。本書では年号や用語を覚えるような方向に話しは展開しない。或る出来事や成立した体制の以前と、何が如何変わり、何故そういうようになったのかという推論を重ねる。著者は「歴史」というのは、史料を精読して積上げて行くモノに加えて、何らかの理由で欠けてしまった部分や、何かの思惑で敢えて綴られていない可能性も在る部分を「推理」しながら繋いで行く面が在るとしている。そしてその「推理」を巡って「諸説在る」というようなことになって論争のような感じにもなるのである。

本書では、鎌倉に武士、殊に御家人達の幕府が登場し、それまでの時代と何が変わったのかという辺りの話しから入る。やがて源頼朝が他界した後、後継者となった息子達が排されて、鎌倉幕府は維持されるが、それが何故だったのかというようなこと、承久の乱による揺らぎとその後の体制の強化という話し、更に元寇での変化とそれに対応しようとした勢力が排されて揺り戻しが在ったという事等が論じられている。こういうように「考えながら移り変わる時代を観る」ということが「歴史を学ぶ」ということなのだと示しているのが本書の内容だ。

鎌倉時代の後も、室町幕府は本拠地を何故京都にしたのか、どのように展開したか、更に織田信長の「革命的」な要素、戦国大名達と“権威”というモノの関係、豊臣秀吉の際立った特徴、彼らに対する徳川家康、そして江戸幕府の展開や江戸時代から明治時代への変遷、加えて宗教を巡る動きというようなことが本書の各篇では取上げられている。何れも「考えながら移り変わる時代を観る」という流儀で語られている。ここで余り諄く語るべきでもない。是非、本書を読んでみるべきだと思う。

本書は「歴史を学んでみる」というのは「こういうようなこと!」と教えてくれるような気がする。そして「現在に連なる様々なモノ」が時間を掛けて形成されたような所謂「武家政権の時代」の「肝要な要素」が或る程度網羅されてもいると思う。広く御薦めしたい一冊だ。

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