『英雄の悲鳴 ラストライン7』

気に入っているシリーズの新作に出くわすと、「遠方の友人の近況」に触れるような気分で愉しく読むことが出来る。

↓本作もその気に入っているシリーズの新作だ。紐解き始めると、頁を繰る手を停めることが困難というのを通り越し、停めることが不可能という程度に夢中になって読み進めた。今作はこのシリーズの各作品の中でも抜きん出たような感じになるかもしれない。

英雄の悲鳴 ラストライン7 (文春文庫 と 24-26)



↑加えてこのシリーズに関しては、主要視点人物或いは主人公が自身と同世代なので強く親近感を覚えて夢中になるというような要素も在るかもしれない。

「ガンさん」こと岩倉刑事は50歳代半ばに差し掛かっている。昇進して役職に就くようなことに関心はなく、現場捜査員として活動し続けることを希望している。シリーズが始まった頃、思うところが在って警視庁本部捜査一課から所轄署の刑事課に異動した。蒲田や立川で勤務したが、また本部の捜査一課に戻っている。本作はその捜査一課に戻った「ガンさん」こと岩倉刑事が取組む事案の物語である。

捜査一課では係単位で行動する。取組むべき事案が生じると、決められた順番で係単位で方々の捜査本部に出向いて捜査活動に入る。現在、捜査一課では少し以前からの連続殺人と見受けられる事件のために多くの係が捜査方々の本部に出ていたが、岩倉刑事の係はそれらの事件の担当にならず、待機状態が続いていた。岩倉刑事が捜査一課に異動した少し後、女性の伊東美咲刑事が異動で同じ係になった。岩倉刑事が所轄に出た時、新人刑事として一緒に仕事をした経過が在るのだが、なかなかに優秀な女性捜査員で、岩倉刑事は頼みにもしていた。

待機状態が続いていて些か倦んだような気分にもなっていた時、現場に出ることになった。町田市内の公園で、刺殺と見受けられる男性の遺体が発見され、町田署に捜査本部が設けられた。岩倉刑事は伊東刑事達と町田へ向かって捜査活動に就く。町田署の若い捜査員達を率いて、岩倉刑事は伊東刑事を相棒にして捜査に取組み、不明朗であった男性の身元に迫った。そしてその人物像を調べようとしていた。

そんな活動の最中、捜査本部が設けられた町田署で妙な話しが起っていた。早朝とも言い得るような深夜の時間に、負傷している女性が街に在って、通り掛かったタクシーの運転士が救急車を呼んで、女性が保護されたのだという。病院に収容された女性だが、如何した訳か病院から抜け出してしまって行方がよく判らないというのだ。やがてその事案を扱った地域課が騒がしい感じになった。岩倉刑事と近い年代の男性が地域課に捻じ込んでいる。聞けば大学生の娘が早朝の変な時間に帰宅し、大事な用事が在ると称して自家用車で出てしまい、連絡が付かなくなっているのだという。行方不明なので真面目に探してくれと騒いでいたのだ。岩倉刑事は男性の話しを聴いて宥めた。結果、娘の件で激しい調子で騒ぐ男性と「話しが出来る岩倉刑事」というようなことになってしまっていた。

刺殺と見受けられる男性の一件、姿を消した女子大生の一件と並行して対応が進む。女子大生の一件は失踪課の捜査員達も乗り出してくる。岩倉刑事は両方の事案に関わるようになって行く。やがて意外な事の真相が明らかになって行くのである。

なかなかに優秀な伊東刑事と岩倉刑事のコンビの感じ、町田署の若い捜査員達を導こうとする岩倉刑事の感じ、大学生の娘が在る50歳代男性として事態を見詰める岩倉刑事の感じと、色々と好い要素が多い本作だ。意外に過ぎる事実が明かされようという時、慌てずにそれを確かめようとする。そして如何なるのかという辺りも、少し重い感じになって行っている。少し深い余韻が残る感じだ。

シリーズ作品なので、過去の作品を踏まえた本作ということも在る。が、本作は「或る大ベテランの捜査員が在って…」というような、独立した作品、または本作を第1作とする新シリーズという感じでも差支えないかもしれないような感じだ。このシリーズの各作品の中で、殊更に強く記憶に残る感だ。

本作読了後、直ぐにこのシリーズの行方が気になった。次作にも期待したい。

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