『江戸の犯罪録 長崎奉行「犯科帳」を読む』

↓長い間に亘って綴られていたという貴重な史料を読み込んで判る内容が紹介されている一冊で、なかなかに興味深かった。

江戸の犯罪録 長崎奉行「犯科帳」を読む (講談社現代新書 2757)



↑出先の書店で見掛けて入手し、ゆっくりと読んだ。

江戸時代の長崎には長崎奉行所という官署が在った。江戸時代には幕府が直轄した各地の主要な都市での仕事を行う「遠国奉行」と総称される奉行が任命され、その奉行が現地に入って仕事をする場所が奉行所だった。

この時代の奉行所では、警察、刑事裁判も含めて地域の様々な事柄に纏わる業務が行われていた。奉行所というのは、現代で言えば、地方の様々な役目の役所や官署を幾つも兼ね備えたような機関であったのだ。その割には奉行所の機構は小規模なのだが、その辺は町に色々な役目を担う人達が在って、奉行所はそういう人達を指導して色々な仕事を進めたということである。長崎奉行所の場合は、その場所柄の故に貿易の取り締まり、厳格な管理を図っていた外国船関係や外国人が滞在した場所(「出島」や「唐人屋敷」)でのモノや人の出入りを巡る事柄等も扱ったという。

その長崎奉行所には、様々な取締に纏わる事項を記録した文書が遺された。17世紀半ばから幕末期の19世紀半ばに至る迄の約200年間に亘る記録が伝えられているのだという。重大な犯罪、種々の規則に関する違反、人々の揉め事の始末、その他色々なことが在って、犯罪とその捜査や処罰の顛末が主要な記録内容となっている。綴り続けられ、編纂され、編纂されたモノが後代に再度編纂される場合も在って、幕府の体制が終焉した後も大切にされて様々な研究の材料となっている。それが<犯科帳>である。

本書はその<犯科帳>を紐解き、「江戸時代の長崎という都市と人々」の姿を読み取ろうとしている。都市と人々とを読み取る際のツールとして犯罪事案の記録を利用しているのである。色々な人達が在って、彼らの間での摩擦、抱えている悩みや色々な事情が噴出する時に犯罪事案が発生するというものであろう。そこに着目する訳だ。

本書では江戸時代の長崎で起こっていた様々な出来事が取上げられている。「抜荷」と呼ばれる密貿易、唐人屋敷等からのモノの持出しや持込みというような、長崎という場所柄の故の事案、その関連が多いのだが、様々な内容が在って興味深い。現代とは価値観や、価値観に関連する行動様式の違いが在る時代なので「そういうようになる?」という部分も多い。が、時代は変わっても人間は変わらないのかもしれないと変に納得するような部分も多く在った。

実は長崎を何度か訪れた想い出も在る。本書の中に出て来る地名を見て「あの辺りの江戸時代?」と思いも巡らせた。本書の末尾には江戸時代の街や周辺が少し判る折り畳み式の地図も付いている。こういうのを少し見ながら本書を読み進めるのも面白いと思う。

江戸時代の各地の都市だが、人の流動性が現代よりも低かったと見受けられる中、各々の地域の様々な事情が目立った筈である。長崎というのは「通商」が生業の核を成すような都市で、関連する様々な仕事を担う人達の流動性が非常に高い地域というのが特徴でもあった。そういう中での様々な人達の生き様が<犯科帳>からは垣間見える訳だ。

偶々出くわした本だが、なかなかに興味深かった。

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