『初心の業 ボーダーズ 4』

↓愉しく読んでいるシリーズの新作だ。

初心の業 ボーダーズ 4 (集英社文庫)



↑入手して頁を繰り始めると、なかなか読むことを停められなくなり、素早く読了に至った。

本作の物語は警視庁の架空の部署に所属する捜査員達の物語である。5人のメンバーが在る部署で、シリーズ各巻で主要視点人物が変わっている。今般はその4作目で、4人目の主要視点人物で本作は展開していることになる。

「架空の部署」というのは、担当すべき部署が不明朗な事案に対応することを主任務とする「SCU」こと「特殊事件対策班」である。そういうことだが、「キャップ」こと班長の公安出身であるという結城警視の動きで随意に活動していて、部内での軋轢のタネのようになっている様子も在ると示唆されている。

この班には結城警視の下に4人の捜査員が在る。捜査一課出身で、現場や映像等を見て、他の者が見落とすようなことに気付く独特な勘、或いは「目」を持つ八神。自動車やバイクの整備や運転が得意で、コンピュータの利活用に非常に通じている若い最上。「女性として初めての部長を目指す」と上昇志向が強く、警部補に昇任した、事案を整理して対応策を練って、纏め役として適切に支持を出すことに秀でた朝比奈。これまでのシリーズでは、八神、最上、朝比奈を各作で中心視点人物に据えていた。

4人目が綿谷警部だ。組織犯罪対策部で暴力団関係の事案を担当していたという経歴で、柔道、剣道、空手の有段者で勇名を馳せているという一面も在る。SCUの中では、キャップの結城警視に次ぐ年長者で、階級も警視に次ぐ警部ということになる。この綿谷警部が本作の主要視点人物となっている。

本作の物語である。

綿谷警部は故郷の盛岡に在った。警察署長を務めて退職し、80歳になっても元気だった、敬愛している父が急病で倒れて救急搬送されたのだ。医学部に進んでいた、仲が好かった高校の同級生が主治医を務めているという。様子を見に、綿谷警部は盛岡の病院に駆け付けたのである。

看護師経験の在る姉の助言で速やかに救急搬送をしたということで、症状は比較的軽いというのだが、綿谷の父は脳梗塞で倒れたのだった。身体の一部に麻痺が生じてしまうようなことも考えられ、母や姉、更に綿谷警部本人も色々な懸念に動揺している。そういう中、綿谷警部は連絡を受けた。

綿谷警部が暴力団関係事案の担当であった6年前、抗争に関連して敵対していた組の組長を射殺してしまった男を追い、取り逃がしてしまった。男は指名手配犯ということになっていた。暴力団対策の捜査員が男を見出して尾行したところ、男は新幹線で移動し、盛岡で列車を下りた。そして捜査員の尾行に気付いたらしく、逃げようとする中で高齢の夫妻が2人で住んでいる民家に立て籠もってしまったのだという。所縁が深い被疑者で、捜査員対情報提供者という交流経過さえ在った綿谷警部に、岩手県警による対応へ協力するようにという話しになったのだ。

他県の進行中の事案に、出て行って関与するというのも異例なことだが、因縁の相手の事件なので綿谷警部は現場へ駆け付け、岩手県警の捜査員達に協力して人質となってしまった民家の夫婦を解放させ、被疑者を取り押さえるべく協力した。

その時の騒動から、禍々しい事件の蓋が開いてしまう。綿谷警部自身も事件の展開に巻き込まれる。警視庁、岩手県警、千葉県警と方々の機関の捜査員達を巻き込む展開の中、綿谷警部やSCUの面々が活躍し、事件の解決を目指して行くことになる。

警視庁の架空の部署、その所属の捜査員が動くという「飽く迄もフィクション」な物語だが、次第につかみどころの無さを増す犯罪集団や、外国の犯罪者が絡む事案が増えているかもしれないような様子や、日本の都道府県警の仕組を度外視した犯罪の広域化というような様相の中、恐るべき犯罪を阻止しようとする物語は興味深い。加えて本作では、50歳目前で様々な思うところも在る綿谷警部が、敬愛する父の急病で色々と動揺して人生を見詰めるような感が何か胸に迫る。父の急病の件等で動揺する中、綿谷警部自身が危険な目に遭ってしまい、それを跳ね返すように必死に捜査活動を続ける。

SCUの面々の個性や、少人数で活動する遊軍的な班での活動の故に互いを補って目標に向けて邁進する雰囲気という、過去3作品の積み上げの成果も在ると思うが、本作はこのシリーズの各作品の中で「最も読ませる」というように思った。

「ボーダーズ」と銘打たれたSCUのシリーズであるが、続くのであれば、次作はキャップこと結城警視が中心視点人物というのが順当かもしれない。が、新しいメンバーが迎えられ、その新しいメンバーが中心視点人物になる展開も在るような感じがする。更に言えば、異動で転出するメンバーが中心視点人物になる新シリーズが登場し、SCUのメンバーが助っ人のように登場するということも考えられる。シリーズのファンを自認する者の勝手な妄想だが。

非常に愉しく読んだ作品で、広く御薦めしたい。

この記事へのコメント