『全悪 警視庁追跡捜査係』

親しんでいるシリーズの小説の新作と出くわすと凄く嬉しいものだ。少し遠くに居て頻繁に会えるのでもない友人達の消息に触れられるような気になる。

↓そういう親しんでいるシリーズの新作だ。大変に愉しく読み進めた。

全悪 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫 と 5-17)



↑頁を繰る手が停め悪くなり、素早く読了に至った。

「警視庁追跡捜査係」というのは、色々な事由で未解決となっている事件の捜査に取組む係ということになっている。その係の捜査員である沖田刑事や西川刑事が中心視点人物となって物語は進む。シリーズの中には、両刑事の何れかの出番が少な目な作品も在ったと思うが、両刑事の何れかが中心視点人物になる部分が概ね交互に出て展開するという例が殆どだ。

この作者のシリーズ作品だが、作品が重ねられる都度に年数が重ねられ、作中の主要人物達も年齢を重ねている。「警視庁追跡捜査係」のシリーズが始まった頃、沖田刑事や西川刑事は30歳代の最後の方という感じだが、作品が重ねられて40歳代になり、本作では50歳代に入ったという様子だ。本作はシリーズの第13作ということになる。

本作の物語である。

追跡捜査係の係長が捜査員達に指示したのは、四半世紀以上の事件で、色々と経過も在って、結果的に未解決ということになっている殺人事件の捜査だった。殺害された男性の名に因んで「富田事件」と通称されている。

「富田事件」である。新宿区内で会社員の男性が殺害され、防犯カメラの映像で死亡推定時刻の少し前に一緒に居たことが判明した、殺害された男性に貸した1千万円もの金の返済が無いと揉めていた野澤という人物が被疑者として拘束されていた。この被疑者が起訴されたが、公判の中で新たな事実が判明し、野澤は無罪となった。そして野澤は警察に対して賠償を求める訴訟を起こして勝訴し、警視庁は野澤に謝罪している。結果、この「富田事件」は未解決のまま時日が過ぎた。時効は廃止されているので、四半世紀以上を経ても捜査は続いていることになっている。この事件を解決しようとする訳だ。

沖田刑事や西川刑事というベテランを中心に追跡捜査係は活動を始める。殺害された男性のことを知り得る関係者を見出して事情を尋ねる等するが、流石に事件が古いので感触は必ずしも好くない。

活動を始めたばかりである中、沖田刑事は追跡捜査係の前係長であった鳩山から連絡を受けた。鳩山は異動で所轄署の刑事課長を務めるようになっている。鳩山は、未解決になってしまっている5年前の強盗事件の捜査に力を注ごうとしていた。そこで若い捜査員にそれを担当させようとしているが、沖田に彼らを導く役を頼みたいというのだ。「富田事件」に取組み始めたばかりであるのだが、追跡捜査係の現在の係長に話しも通っているということになり、沖田刑事は鳩山の話しを聴くべく鳩山が居る所轄署を訪ねる。そして刑事になって日が浅い2人の捜査員と共に活動を始める。

沖田刑事が若い捜査員と向き合うことになった事件は、資産家の高齢男性が一人で住む邸宅に強盗が押入り、邸内に在った1億5千万円程度と見受けられる現金が強奪されたという事件だった。事件の際、高齢男性は暴行を受けており、頭の怪我が原因で動けない状態に陥り、5年間もそのままで全く回復出来ないというのだ。鳩山は高齢男性と折り合いが悪い息子、またはその周辺に何かが在ると見ていた。若い捜査員に少し面倒な事件の解決を目指して捜査する経験を積ませる、研鑽をするということで沖田刑事が指南役として呼ばれたのだった。

こうして西川刑事を中心にしたグループが「富田事件」に引き続き取組み、沖田刑事と若手2人が5年前の強盗事件に取組むということで捜査員達の活動が続く。そういう中、各々の捜査で情報が集まって行く。やがて一見無関係な2つの事件が交差する。

こんな物語である。50歳代に入った沖田刑事や西川刑事は、昇進して役職を得るという方向ではなく、一捜査員として現場で活動し続けることを望んでそのようにしているのだが、捜査員達の中で年長者ということになり、追跡捜査係の大ベテランということになっていることから、最近の作品では若い捜査員達を導くというような役目を負いながら動くという展開が増えているように見受けられる。本作でもそういうような具合になっている。

色々な意味で“悪”ということになる人物、“悪”に翻弄される人物と色々と出て来るのだが、何か「価値在る人生?」というようなことを考えさせられた。そしてそういう人物を見詰める捜査員達の眼差しが、何やら熱い。或いは過去の捜査の「誤り」を正すような活動なのだが、そういう活動を地道に展開する捜査員達の様子が興味深い。

このシリーズも何処迄続くのか?何時も非常に興味深い。本作も御薦めだ。

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