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↑現代史というような範囲であるが、都市の歴史、産業の歴史というような色彩が濃い事項を背景とした、関係者達のドラマということになる。
表紙カバーのイラストは「地下鉄の電車」と判る。本作は、現在の東京メトロの銀座線の御話しだ。表紙カバーのイラストは初めて走った電車をイメージしていると見受けられるが、現在の銀座線ではこの最初期の車輛を意識したデザインの車輛が活躍中ということも在る。(2022年に久々に立寄った東京で、その銀座線の車輛を見掛けた。古風な外観を意識する鉄道車輛というのは凄く好いかもしれないと思って眺めた。)
「地下鉄」は、現在の大都市部では「在るのが当然の社会資本」で「便利な輸送サービス」で、大都市や周辺に住んで居る方にとっては「毎日のように利用」というモノだ。これが「国内では全く初めて登場する迄、或いは登場した頃」ということには想い等廻らないのが普通であると思う。そういう想い等廻らない、「当たり前なモノの初めて」というのは興味深いと思うのだが、本作は正しくそういう具合だ。地下鉄を建設して運行しようという想いを抱いた人が建設に向けて奔走し、やがて誰も実際に手掛けたことが無い工事の現場で奮戦する人達の動きが在って、工事が竣工して列車の運行が始まり、その後の様子が在る。本作は現在の東京メトロの銀座線が「初めての地下鉄道」として登場して行くような頃と、現在の東京メトロの銀座線の全体が姿を現して行くような頃の様子という物語である。
早川徳次(はやかわのりつぐ)(1881-1942)という人物が在る。本作の主要視点人物の一人だ。色々な経過で“浪人”というような立場になった中で英国視察という機会を何とか得る早川徳次はロンドンの地下鉄を知って、東京にその地下鉄を建設して運行する事業を起こすことを夢見るようになる。着工迄のの奮戦や、路線が順次延伸されて列車が動く中での色々なことや、晩年迄の様子が本作で描かれる。
早川徳次を主要視点人物の一人とした。他にも主要視点人物が在って、適宜それが切り替わり、現在の東京メトロの銀座線を巡る物語が展開している。
道賀竹五郎(どうがたけごろう)という人物が在る。大倉土木の社員で、初めての地下鉄道建設で現場総監督となった人物である。5つの部門を各々束ねる監督達を指揮しながら工事に勤しんだ人物だ。この竹五郎の目線で、工事に携わった監督達のこと、彼らの相互の関係や、「初めて」という仕事の中で起こる様々な事柄が描かれている。
五島慶太(ごとうけいた)(1882‐1959)という人物が在る。本作の最後に近い方で主要視点人物となっている。早川徳次の「東京地下鉄道」に対して「東京高速鉄道」という会社が登場する。浅草・新橋の「東京地下鉄道」に対して、渋谷・新橋の「東京高速鉄道」ということで、後に新橋で両者の路線が繋がって現在の東京メトロの銀座線が成立する。本作で、五島慶太は早川徳次が起そうとする事業に協力的だった官僚という立場から、“東横線”を起こして行く事業家になり、「東京高速鉄道」に関わって色々と在るという事柄が描かれている。
早川徳次はかない苦しい資金繰りで、色々な不利な条件を乗り越えて「東京地下鉄道」の経営を続け、「軌道に乗った」とも言い難いかもしれない中、御本人は「半ば燃え尽きた?」という様子になったと見受けられる。そこに年来の知人、更に友人である五島慶太が殆ど同年代ながらも「父を超えようとする息子」という感じで現れ、2社の路線を結び付けて直通運転にしてしまう。前半の「挑戦の物語」に対するこの後半も少し引き込まれた。
トンネルの彼方に輝く電車の前照灯は、地中に輝く星のように見えるかもしれない。そんな様子が当たり前になっていく現代への道筋を拓いた多くの人達の物語という本作はなかなかに面白い。広く御薦めしたい。

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