『野心 ボーダーズ3』

シリーズになっている小説の新しい作品に出会うと、遠くの友人や知人の消息を聞くというような感で、作品を愉しく素早く読むことになる。

↓そういう感じで、愉しく素早く読了に至った一冊である。

野心 ボーダーズ 3 (集英社文庫)



↑シリーズ3冊目となっている。このシリーズは「SCU」(=Special Case Unit)こと「特殊事件対策班」の面々を主要視点人物としている。5人のメンバーが在り、各作品で主要視点人物が毎回交替となっている。

「SCU」(=Special Case Unit)こと「特殊事件対策班」というのは、警視庁の中の機構で、言わば「特命班」である。新橋に在るビルにオフィスを構えている。担当すべき部署が曖昧な事案等、随意の事案を取扱う。結城警視がキャップで、以下は綿谷、八神、朝比奈、最上と様々な部署の出身である各員が在る。過去の作品では八神、最上が主要視点人物を務めた。今回は女性刑事の朝比奈が主要視点人物となっている。

朝比奈は昇任試験に合格して警部補となった。警部補昇任後の研修に参加し、所属している「SCU」のオフィスに暫く振りに戻った。こういう辺りから物語は起る。

八神の同期である捜査二課の宮原が相談に訪れた。5年前の特殊詐欺事件の捜査で、犯行グループのリーダーと目されながら逮捕を免れたという人物が在る。この秋山という男が、特殊詐欺事件に関わった者達、または捜査で浮かんだ関係者と目される者達と接触しているような様子が伺えるのだという。警戒し、監視するような活動が必要と考える宮原だが、捜査二課では取上げられない。そこで随意の事案を取扱うSCUに話しを持込んだということだった。

SCUではこの宮原が持ち込んだ事案に着手する。所謂“デイトレーダー”ということで、ネット取引による株式投資等を自宅で行っているということになっていて、自宅マンションに在る場合が多い秋山を朝から夕方迄の時間帯に監視しようとしていた。

或る日の夕方、秋山が外出し、監視をしていた朝比奈と八神は彼を追った。そして辿り着いた銀座の商業施設で、煙が充満して火災らしい状況が発生する。朝比奈は居合わせた人達を避難誘導しようとするのだが、倒れ込んでいた女子高生を見付けて援けようとした。と、その時に爆発が発生した。朝比奈が気付いた時には病院に在った。吹き飛ばされた衝撃で、左の鎖骨を折る怪我を負ってしまって、現場では気を失っていたのだった。

病院に朝比奈から事情を聴こうという捜査員達が現れた。朝比奈は驚いた。煙と爆発の騒動の最中、施設のテナントの宝石店から高額な宝石等が多量に盗まれる事件が起こってしまっていたというのだ。そんなことも在って、朝比奈の現場での行動に関して部内で問題視しようという動きも起こり、監察が動くことになる。

こういうようなことで、様々な出来事が続々と起こる中、SCUの面々が可能なように動き回り、そして「如何なって行く?」という物語なのだ。「こう来る??」という展開の続出で、頁を繰る手が停められなくなってしまう。

朝比奈は「女性で初めての“部長”を目指す」と公言している。警視庁部内での上昇志向を強く有している。本作では、そういうことを言いながら警察で勤務するようになった個人的な背景に関する内容も出て来る。

更に、事件現場で負傷してしまった朝比奈だが、「事件の被害者」ということなので、同じ作者の別シリーズである<支援課>が登場する。<支援課>の柿谷晶は、朝比奈由宇とは警視庁の同期入庁で、友人同士であったのだった。こういう内容も出て来て、少し面白い。

題名の「野心」は、朝比奈が抱く上昇志向の事であるというようにも思えるのだが、それに止まらない意味が込められている。それに行き当たるのが本作の物語の肝かもしれない。

警視庁で勤務する警察官には異動が在る。作中、朝比奈に関しても、昇任の際の慣行で所轄に係長として異動するという話しが出ている。この辺りも「今後は?」と少し気になる面は在る。シリーズ各作品で、毎回のように視点人物を替えているのだが、「異動」が関連すれば現在在る5名に留まらず、無制限に色々な作中人物が登場し得る。

更に別シリーズの主要人物の出演というのも、この作者はよくやるのだが、本作でもそういう例が見受けられ、多少頬が緩む。

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