『THE LEGEND & BUTTERFLY』

↓御近所の書店で見掛けて入手した文庫本だ。気軽に読める分量で、素早く読了に至った。

THE LEGEND & BUTTERFLY (角川文庫)



↑題名は「レジェンド・アンド・バタフライ」と読む。英語の題なのだが、実はこれが“時代モノ”なのである。

本作は「織田信長夫妻」の物語である。

織田信長と言えば、虚実入り混じって色々なことが伝わっていて、劇中人物として登場する小説や映像作品は夥しい数になると思う。そうした小説や映像作品には多く触れているが、それでも網羅しているのでもない。伝わっている様々な行動に関しても、多様な解釈が在り得て、興味尽きないという人物であると思う。

美濃国から尾張国へ、信長に嫁いだ女性は「美濃」から採った“濃”という呼び名で知られている。幾つか名が伝わっているようではあるのだが、彼女についても劇中人物として登場する小説や映像作品は夥しい数になると思う。本作では専ら濃という呼称だ。夫の信長に関しては、吏僚として近侍していたという人物が綴ったとされる伝記的な記録や、軍事紛争の指揮官として、為政者として前面に出ている関係上、伝わっている事柄も豊富だ。対して濃という女性に関しては、詳しく色々な事が伝わっているのでもない。有名な武将の周辺に在った女性―妻や娘―に関しては、年齢を重ねて“〇〇院”等と号しての活動が伝えられている例も在るが、この濃に関してはそういう話しは聞かない。故に「想像の翼が羽ばたく」という余地も大きいかもしれない人物であるとも思う。

本作はこの“織田信長”と“濃”との「夫婦としての歩み」に光を当て、嫁いだ際に出会って以降の信長の歩みの中での「夫婦」の経過を描いている。“織田信長”と“濃”の2人が主要視点人物で、信長目線の部分と濃目線の部分とが概ね交互に折重なっている。出会いと、そこからの年月の経過の中、互いに互いの存在に関する意識が変遷し、信長が「途轍もない“ビッグネーム”」になって行く中で、互いに「直截に語り合い悪い」というようになって行く関係性というように物語が展開する。凄く惹かれた。

実は本作は、「近く公開される映画のノベライズ」なのだそうだ。映画の脚本を下敷きに綴られた小説である。それ故か「画が思い浮かぶ描写」が連なっている。そういう中で、“合戦絵巻”というのとも一味違う具合で、「覇道を往く魔王」という振舞いをしようとする信長と、その陰に在った濃という「夫婦の物語」が展開する。本作だが、映画と無関係に「やや新しい着想」の時代モノという感じで愉しかった。その他方、本作の下敷きになった脚本を使う映画も、機会が在れば観たいというようにも思った。所謂「メディアミックス」というようなことで本作は登場したのかもしれないが、本作も御薦めしたい。

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