『帰還』

↓表紙カバーのイラストにイメージが在るが、少し知られている三重県の四日市で観られるという工業地帯の夕景や夜景を写真に撮るという営為が、物語日最初の方に出て来る。

帰還 (文春文庫 と 24-19)



↑何か、作品に捕えられてしまったかのように、頁を繰る手が停められず、早朝から深夜に至るまで、随時時間を設けてドンドン読み進めて素早く読了に至った。

松浦恭司が品川駅で新幹線の列車に乗車するという辺りから物語は始まる。車内には東京駅で既に乗車した、一緒に出掛けることになった高本歩美と本郷太郎が在って、合流して移動開始だ。

3人は全国紙に既に30年程勤めていて、現在は各々に東京の本社に在る。記者として仕事を始めた当初、彼らは三重県の津に在る支局に在った。松浦、高本、本郷の3人は同期なのだが、もう1人の同期に藤岡裕己が在った。この藤岡が急逝してしまった。藤岡は四日市で支局長ということになって記者として活動していたのだが、事故で他界したということで、同期の3人は新幹線の列車で名古屋に出て、近鉄の列車に乗換えて四日市へ向かい、通夜、告別式に出ようということにしたのだ。

地方支局での仕事をする記者が少ないということで、希望者が募られた時に藤岡は応募をし、そして四日市で活動することになった。藤岡は津の支局に在った頃に知り合った女性と結婚していて、三重県を度々訪れるというような縁は在るが、望んで四日市で活動するとした事情や想いを誰も詳しくは聴いていなかった。

藤岡は写真撮影も得意であったのだが、最近は四日市で所謂“工場夜景”というような写真を撮り、それを中心にした連載記事を手掛けていて好評を博していた。その連載記事に用いる写真の撮影と見受けられる状況で、海に転落して死亡したということだった。

若き日に藤岡と一緒に仕事をした松浦は知っていた。台風の最中、藤岡は川に転落してしまったことが在り、水を怖がっていて、加えて水泳が得意な訳でもないということをである。藤岡に関して、薄暗い水辺で夜景写真を撮るにしても、海に転落する可能性が危惧されるような無茶をする筈が無いと松浦には思われたのだ。

通夜の後、松浦は事故現場を視に行く。現場の様子を視て、引っ掛かったモノが大きくなるばかりであった。藤岡が何を想いながら四日市に在り、何故事故死しなければならなかったのか、よく判らないことを知りたいという想いを、松浦、高本、本郷の3人が各々に抱いた。

そして3人は連絡を取り合いながら「藤岡の死の真相?」を探ろうとするのである。

本作の主要視点人物は、事件現場の四日市に出向いて動き回ることになる松浦ということになるが、章によって高本や本郷に切り替わる場合も在る。或いは、同じ作者の作品で多々見受けられるような感じである。

学校を卒業して社会人になり、新聞記者の仕事に就いてから30年程を経た4人―1人は他界したが…―が物語の中心ということになる。藤岡の人生に関しては松浦が解き明かすような感になるが、松浦自身や、高本や本郷には各々の50歳代に入るまでの経過が在り、直面している現在の懸念や、今後への想いが在る。そんなことも吐露されるような物語だ。

実は…自身はこの作中の4人と同じような世代だ。振り返られる彼らの人生の感じが、何やら酷くよく判る。そして、「藤岡の想いは何処に?」という謎が順次解き明かされる物語は、一寸夢中になる。

藤岡の想いを探ろうとする3人のような年恰好となれば、納得しているような、納得していないような自身の人生への想いというようなことが多々在り、漠然とした、または少し具体的な形での少し先への懸念も出て来る。それは、作中で旧交を縁に出逢う周辺の人々に関しても一定程度共通する事項として描かれる。

「記者が他界した仲間の事情を探ろうとする」という、或る種の探偵モノの枠に収まらないような、平成に元号が改まって日が浅かったような頃に社会に出て50歳代に入っているような世代の人生を問うような、味わい深い作品だと思った。

振り返ると、最近はこの作者の作品を比較的多く読んでいるように思うが、気に入る作品が多い…

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