『犬の報酬』

↓書店で入手しようとした際、御店の方と「最近、またこの作家の文庫が少し出ていますね…」と話題にした。意外に多くの先品に触れている作家の作品だ。作家が何本か展開しているシリーズではなく、独立した篇の小説である。

犬の報酬 (中公文庫 と 25-57)



↑頁を繰る手が「停まらなかった」というよりも「停めることが出来なかった」と表現する方が妥当かもしれない。時間を設け易い休日に読んでいたということも手伝い、作中で展開する事態の行方が非常に気になり、時間を設けてドンドンと読み進めて素早く読了に至ってしまった。

本作は立場が異なる2人の主要視点人物が設定され、適宜その視点人物が入れ替わりながら、作中の事案が次第に進展する。

物語の冒頭は、“自動運転”という自動車に関する技術開発の試験が行われていて、その試験の中で不具合が起こるという辺りから起こる。

そして第一の主要視点人物である伊佐美が登場する。伊佐美は自動車メーカーの<タチ自動車>の総務課に勤める社員で40歳だ。広報担当者として、5年程前に「リコール隠し」という問題の対応で力を尽くした経過も在るという人物で社内では評価も高い。この伊佐美に冒頭の、技術開発試験車輛の事故の情報が伝わる。

そんな頃、違う場所に在る第二の主要視点人物が登場する。畠中である。全国紙<東日新聞>の社会部の遊軍記者で、次の異動では何処かのデスクに就任すると言われている40歳だ。簡単に何処の何者かは明かせないものの、有力な情報提供者が登場し、タチ自動車に関連する情報を得て“特ダネ”ということになる記事を発表することとなった。タチ自動車による“自動運転”の試験運転車輛が公道での試運転の際に事故を起こし、車輛に乗った社員が軽傷を負っただけであったにせよ、事故の事実を明らかにしなかったということを糾弾する内容の記事だった。

<タチ自動車>では、“自動運転”という重要な技術開発に関連する事故という事案に関して、少し違う角度の問題が部内で取上げられていた。事故に関して、新聞社に情報を漏らした者が誰かということだ。その件に関して社長からの直々の指示で対応チームが極秘に設けられた。伊佐美はそれに関わる羽目になる。

他方、<東日新聞>の畠中は<タチ自動車>の事案を取り扱うキャップのような具合になり、何人かの後輩達を率いて取材を継続し、独自に得た有力な情報提供者とも接点を保ち続けていた。

ということで展開する事案に関して、如何いうように展開するのかは、本作に関心を覚えた皆さんに各々読んで頂くべき筋合いであろう。

本作では、狭い意味での業界自体の将来ということに留まらないような、国の産業界の未来を如何こうするような技術開発と、それを巡る一寸したトラブルに関連する報道というようなことが、如何いう波紋を拡げるかという些か「大きな設定」の物語になる。ここまで「大きな設定」となると、休日に愉しむ小説の作中世界の事案に留まってしまうのかもしれない。が、そこまで大袈裟なことでもない範囲であれば、“会社の利益”、“社会正義”、“自己実現”というような少し異なる要素がぶつかり合うというような事柄は「実は意外に多い?」というような気もする。

「小説の作中世界の事案に留まってしまう」かのようでいて、「存外に身近に在る?」という雰囲気で展開する物語…一寸夢中になった…広く御薦めしたい!

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