『チェンジ』

↓「遠方の友人・知人の消息に触れる…」という気分で新作に触れるという感じになっている、少し馴染んだシリーズの新作で、登場すると知って早速に手配して入手した。

チェンジ 警視庁犯罪被害者支援課8 (講談社文庫)



↑休日の夕べに紐解き始めると、夜、早朝、日中とドンドン時間を設けて頁を繰り続け、素早く読了に至った。と言うよりも、紐解き始めると「遠方の友人・知人」という感覚も抱くシリーズの主要人物の動向に、頁を繰る手が「停められない」という感じになってしまうのだ…

本作は<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズの8作目である。この<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズは独特な面白さが在る。

主人公の村野秋生は、将来を嘱望された優秀な捜査員であったのだが、交際中の女性と街で過ごしていた休日に大きな交通事故の巻き添えで負傷してしまった。怪我が或る程度癒えて職場復帰の際、村野は敢えて希望して「犯罪被害者支援課」の仕事に携わる。「犯罪被害者支援課」とは、事件や事故に巻き込まれてしまった人達へのケアという事柄を担う。苦しみ、混乱する関係者を慮り、急いで事情聴取をしようとする捜査員達との間に入って、一応“身内”でありながらも捜査員達の聴取に「待ったをかける」というような真似も辞さない訳だ。

その村野自身や「犯罪被害者支援課」の人達が関わる事案の顛末が描かれるのがこのシリーズだ。淡々と事件を捜査するというような“警察モノ”とは一味違うような独特な面白さが在るシリーズで、少し気に入っている。

「犯罪被害者支援課」というのは、事件を取り扱う各所轄の担当者の手が及び悪いような事案を手伝う建前であるが、事件や事故に巻き込まれた人達へのケアは長期化することから、民間団体である支援センターというモノも存在し、そのセンターとの連携も「犯罪被害者支援課」の大切な役目だ。この支援センターには、村野が事故に巻き込まれた際に一緒に居た元交際相手の西原愛が携わっている。

村野とこの西原愛とは一緒に居合わせた場面で事故に巻き込まれている。村野も負傷したが、愛はより大きな負傷で車いす生活を余儀なくされてしまっている。そういうことから、2人は“交際”という関係を解消したが、それでも「犯罪被害者支援課」と「支援センター」とに各々関わっているので仕事上の関係は続いている。そして村野は「直接の職場関係者以外で、何処かの店で一緒に食事を摂る」という人物は、考えてみれば愛しか思い当たらないという、何やら微妙な間柄が長く続いていた。(シリーズを通じて出て来る事柄である…)

その愛の車椅子を押している村野が在って、支援センターの事務所の辺り、西早稲田で昼食を摂る話しをしている辺りから本作の物語は起こる。

愛との関係の経過に想いを巡らせながら、警視庁の在る霞ヶ関も愛が居る事務所の在る西早稲田も、愉しい昼食に好適な店が少ないというようなことを話していた村野に連絡が入った。新宿で「通り魔」と見受けられる事件が発生し、複数の負傷者が発生し、死亡者も生じているかもしれないということであった。「犯罪被害者支援課」も現場に向かうことになったので、向かって欲しいということだった。村野は愛に静かに事情を告げて、タクシーを拾って現場に駆け付けた。

村野が現場へ着けば、急報を受けた所轄署員達、捜査員達が出て規制線を設け始めているような様子だった。未だ事件の恐怖の空気も漂う感であり、負傷していて病院への搬送を待つという状態の人達も視えた。何が如何なったのか、整理把握出来ていない「生の現場」である。

様子を視ていた村野は少し驚いた。捜査員と見受けられる男が、事件で負傷したと見受けられる男性に乱暴に詰め寄って「話しを聴かせろ!」と迫っている。他の捜査員が脇で困惑して制止しようともしている。村野はその男が「追跡捜査係」の沖田であると気付いた。

沖田刑事の「追跡捜査係」とは、発生から時日が経って、捜査が詰まっている事案に関して、改めて捜査をするという「未解決事件専任」の捜査グループである。たった今発生した事件の現場に駆け付ける担当ではない。と言って、警察官の沖田が偶々酷い事が起こった現場に居合わせれば「手を貸そう!」ということになるのかもしれない。が、そういう様子にも視えない。明らかに「事件で負傷した人に乱暴に詰め寄っている」というようにしか視えない妙な様子だ。

村野は沖田刑事に近付いて「刃物を振るって通行人を負傷させたという事件で怪我をしている人については、とりあえず病院への搬送が最優先である筈で、無茶な聴取をすべきでもない。更に沖田刑事の担当は、たった今発生した事件ではない筈だ」と説き、制止し、他の捜査員達と共に沖田刑事を男性から引き離した。

沖田刑事が詰め寄っていた負傷者は栗岡という、自動車修理工場に勤めている男だった。8年前に発生した強盗殺人事件の容疑者として浮上したが、容疑が固まらないままで、事件は未解決なままであった。沖田刑事はこの栗岡をマークし始めていた。少し距離を置いて尾行していた時、栗岡が事件に巻き込まれた。そして沖田刑事は現場に飛び込んで、村野が見掛けたような様子であったのだった。

「犯罪被害者支援課」では、この新宿での通り魔事件の各被害者に関して、分担して対応することになった。村野は栗岡という男性を担当することになった。病院で意識を失ってしまった栗岡の怪我は思いの外に重いもので、近親者との連絡が必要であった。栗岡は単身者だった。そして過去に事件に関わったことも在って、長野市内に在るという実家の家族とは疎遠であり、村野は苦慮する。

他方、沖田刑事は栗岡が8年前の事件で容疑者として浮上しながら詰め切れなかった経過を探り始める。8年前の事件とは、商店街の惣菜店の店舗兼住宅で、鍵を巧みに開けて侵入した犯人が店の現金を奪ったのだが、その際に店を営んでいた女性と、偶々泊まっていた女性の孫である女子大生を刃物で刺してしまったという事件だった。女性は負傷して療養生活を続け、やがて他界したが、女子大生は即死だった。沖田刑事は、未来が在る大学生の命が奪われてしまった事案であることから、様々な角度で解決に向けて調べ始めていた。

というようなことなのだが、本作は<警視庁犯罪被害者支援課>のシリーズでありながら、4割程度は<追跡捜査係>のシリーズの物語のようでもある。村野が視点人物になる部分と、沖田が視点人物になる部分とが概ね交互に出て展開する。栗岡の事情で苦慮する村野と、栗岡を巡る事案を調べる沖田は“共闘”して行くこととなる。そして「やや意外?」な真実が明かされてしまう。

題名の「チェンジ」は意味深長だ。シリーズの主人公である村野や周辺の変化ということ、事件関係者の立場の変化ということ、世の中の変化ということ等、様々な含意が感じられる。

「遠方の友人・知人の消息に触れる…」という気分で新作に触れるこのシリーズである。「今後」にも期待したい感だ…

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