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↑自身にとっては「遠い国の小さな街に住んでいる愛すべき男」というような親近感を覚えるような主人公、クルト・ヴァランダー刑事が向き合う“最後の事件”に夢中になってしまった…
スウェーデン南部のスコーネ地方は、なだらかな地形の中に様々な街が連なっていて、隣国のデンマークや対岸の欧州大陸の国々に通じる港、または巨大な橋梁を擁するような地方である。そのスコーネ地方で最大の都市、デンマークのコペンハーゲンの対岸に在るマルメーから少し東側にイースタ(“イースタッド”と記す場合も多いが、このシリーズの翻訳では専ら“イースタ”とされている。独特な抑揚のスウェーデン語でここの地名を発音すると、多分“イースタ”と聞こえるのだと思う…)という、人口規模が然程大きくない港町が在る。クルト・ヴァランダーは、このイースタの警察署に勤めている刑事だ。
クルト・ヴァランダー刑事を主人公とするシリーズは1990年代に好評を博してドンドン作品が登場した。本作の前に、「若き日のヴァランダー」という内容の短編集が登場し、そこから間隔が開いて本作が登場している…
本作のクルト・ヴァランダー刑事は59歳になっていて、もう少しで60歳を迎え、やがて警察の仕事を退くことも現実味を帯びているような状態である。娘のリンダも警察に奉職していて、マルメーで刑事になっている。そのリンダが、マルメーとコペンハーゲンを往来しながら金融関係の仕事をしているパートナーと同棲し、娘を授かった。クルト・ヴァランダー刑事も“祖父”ということになったのだ。
クルト・ヴァランダー刑事は、年齢相応の衰えを自身で「認めたくなくとも自覚せざるを得ない…」という状況に在った。そんな中、思いも寄らない失態で謹慎する羽目に陥った中であったのだったが、娘のリンダから連絡を受けた。彼女のパートナーであるハンスの両親から、ハンスの父親であるホーカン・フォン・エンケの誕生日の祝宴に招かれたということだった。クルト・ヴァランダーは招きに応じて、ストックホルムでのフォン・エンケ家の宴席に出掛けた。
娘のリンダのパートナーであるハンスの父親、ホーカン・フォン・エンケは潜水艦の艦長を経験している海軍高官であった人物だ。「フォン・〇〇」というのは貴族の流れを汲む家柄の姓で、クルト・ヴァランダーは事前には少々身構えていた感であったが、ホーカン・フォン・エンケは温かく礼を尽くして彼を迎えた。祝宴の参加者が会場内の方々で歓談をしている最中、ホーカン・フォン・エンケはクルト・ヴァランダーを会場の隅の小部屋に誘う。少し静かな中でゆっくり語ろうということなのだが…ホーカン・フォン・エンケはクルト・ヴァランダーに自身が嘗て関わった、1980年代初め頃の潜水艦の領海侵犯疑惑と事案への対応に関連する軍や政府での色々な出来事というようなことを徐に語り始めたのだった。
クルト・ヴァランダーは、妙な話しの“聴き役”をやらされてしまったのだったが、話しをしていた際のホーカン・フォン・エンケの様子に「引っ掛かる感じ」を抱いていた。そういう記憶も未だハッキリ残るような時期に連絡を受けた。ホーカン・フォン・エンケが、日課にしていた散歩に出たまま何時までも戻らず、失踪してしまったのだという。
「身内の問題」ということで、クルト・ヴァランダーはホーカン・フォン・エンケの失踪について、可能な範囲で調査を行うということにした。
こうしてホーカン・フォン・エンケの失踪を巡る様々な事柄と向き合うことになったクルト・ヴァランダーは、次第に事の真相に迫って行く…それが本作の物語である。
クルト・ヴァランダーを生み出したヘニング・マンケルは2015年に他界している。内容的に“最終章”の本作は2009年に発表されている。従って本作は、その2009年頃の少し前の出来事ということになっている。
ヴァランダー刑事が活躍するシリーズ…1990年代に入った辺りで、難しい年代の娘が在って、妻との関係が面倒になって別居、離婚という状況になる男、1970年代位に社会に出た世代の男が主人公だが、1990年代というのは、そういう世代の人達が想像するような範囲を超えてしまうような出来事も平気で起こってしまうような時代に突入していた…そんな中でヴァランダー刑事は奮戦する。そして、他方でヴァランダー刑事自身の人生の頁も繰られている。
そんなシリーズが幕を引いた…読後に何やら大きな感慨を覚えてしまった…


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