『有楽斎の戦』

史上の人物達の中には「よく知られているようで、実はそれ程知られているのでも…」という人達が在ると思う。

<本能寺の変>で斃れたという織田信長は非常によく知られている。が、その弟であり、<大坂の陣>にも関わっている織田有楽斎となると、名前に聞き覚えが在るにしても然程知られてはいないのではないだろうか?

↓本作はその織田有楽斎が登場する物語である…

有楽斎の戦 (講談社文庫) [ 天野 純希 ]



↑適当な分量の一冊で、直ぐに読了に至ってしまったが…なかなかに面白い!

本作は6つの短篇から成っている。各々、別な時期に書き綴られて来た短篇のように思うのだが、それでも各篇が「一つの長篇の1章」という様相にも見える。

中心視点人物が織田有楽斎である3つの篇が1番目、3番目、6番目に配される。そして2番目の中心視点人物は博多商人の島井宗室、4番目では小早川秀秋、5番目では松平忠直となっている。

これらの各篇を連ね、<本能寺の変>、<関ヶ原合戦>、<大坂の陣>という大きな事件を潜った作中人物達の時代が綴られる訳である。そして、3つの大きな事件の何れにも関わる人生を送った人物が織田有楽斎ということになる。そして、織田、豊臣、徳川と移ろった時代の中で生き残って来た人物ということにもなる。

有楽斎は、源五郎長益を名乗っていた。織田陣営に在って、特段に武功を挙げたのでもない。戦と直接に関係が無い場面で負傷して参陣出来なくなってしまうことが在った等、寧ろ「武運拙い」という感の人物だ。他方で、信長と交流が在った千利休に師事した茶の湯には魅せられて夢中になり、その方面では少しは知られる人物というようになって行く。

この有楽斎は、<本能寺の変>の混乱から逃げ延びる。その後、彼は如何に生きたか?<関ヶ原合戦>は?<大坂の陣>は?これらの3つの事件に関連し、有楽斎の目線で、また各々の事件に関わった別な人物達の目線で物語が綴られて行く。

或る程度知られている出来事の「中心的な人物」という程でもない「関係者」という存在を中心視点人物に据えて展開させる物語の綴り方というのも意外に面白いものである。

過ぎる程に偉大な兄の下で、寧ろ軽侮されているかもしれない末弟…それでも見出した生甲斐のようなモノに打ち込みたいが、安穏としても居られない時代を生き抜かなければならない。そんな有楽斎が愛おしくなる各篇だった…

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