『沈黙法廷』

↓「週末のお愉しみに…」と金曜日に紐解き始めた小説だが、非常に面白いので土曜日の夜までに一気に読了に至ってしまった…

沈黙法廷 (新潮文庫)



↑本当に頁を繰る手が停まらなくなってしまう…

「刑事事件」というモノは、事件発生が確認されて警察が捜査し、被疑者が逮捕され、それが起訴され、裁判が行われて判決が出るというまでで「一件落着」であろう。

一般に、事件を扱う“刑事モノ”、“警察モノ”の物語は、捜査が展開して被疑者が明らかになり、逮捕されるような時点までが描かれる。が、本作は<事件>、<逮捕>、<公判>と大きく3つの章で構成され、事件発生から警察による捜査の展開、逮捕された被疑者の公判というように「一件落着」までの全ての流れが描かれる物語ということになっている。

物語の冒頭…女性と一緒に出掛けようと待ち合わせをしていて、件の女性が現れずに待ちぼうけとなってしまっている若者が現れる。決して恵まれている境遇でもなく、一生懸命に働いている若者が、一寸した経過で知り合った女性に惹かれて交際というような感じになっていたのだったが、どうしたものか約束の場所に現れずに連絡も巧く取れなくなってしまった…読んでいて「可哀相に過ぎるじゃないかぁ!?」と思う場面だった。更に…夜の警察署で、聞き込み捜査から引揚げて来た刑事が、見慣れない人達が署に現れて、何やら剣呑な雰囲気になっている場面に出くわす。やって来たのは、“勾留却下”ということになった男の身柄を引取りに乗り込んで来た、少し名前が知られているやり手の弁護士だった…

というように、いきなり物語が動いているかと思えば、これは序章だった…直後に<第1章>が徐に始まるのだ…

訪問販売のセールスマンが、赤羽署管内の旧い住宅を訪ねた。嘗ては商店兼住居であった建物には60代の男性が1人で暮らしている。高価な業務用マッサージチェアを訪問販売の業者から買い求めた経過が在ったということで、この男性は「脈が在る」と、“点検商法”と呼ばれる住宅リフォームを手掛けるセールスマンはこの家を訪ねたのだった。

セールスマンは男性の家、嘗ては店だった部分でインターホンを鳴らしたが反応を得られなかった。視れば施錠はされていない。戸を開けて中へ入ってみる。声を掛けても無反応だ。上って様子を伺った。そうすると、セールスマンも知っている大きなマッサージチェアに男性が座った状態で全く動かない。多分、死んでいる…逃げ出したくなる中、セールスマンは110番通報をした。

そして現場に乗り込んで来たのが赤羽署の伊室刑事だった…伊室刑事の或る程度限られた殺人事件捜査の経験に照らして、件の男性は「絞殺された」と考えるべきであると見受けられた…そして捜査活動が始まる。捜査一課の捜査員達も投入され、赤羽署に捜査本部が設けられた。

件の男性が死亡したと見受けられる頃の前後に出入が在った人物達を調べ、電話の受信・発信や室内に在ったパソコンのネット利用の履歴や電源を入れた、逆に切った時間帯というような記録、銀行口座に残る出納の記録等を丹念に調べるのだ。同時に現場での鑑識、遺体の解剖というようなことも行われる。

そういう中で、家事代行業、所謂ハウスキーパーでこの事件の在った家を訪ねていた経過の在る女性、山本美紀が浮上する。件の男性が死亡したと見受けられる日、山本美紀は頼まれた仕事のために訪問をした。反応が無いので、施錠されていなかった戸を開けて、嘗ては店舗であった辺りに入って様子を伺ったが、それでも無反応なので家を離れ、「一寸出ていた…」とでも連絡が入るかもしれないと近所の駅の辺りを歩き、何も連絡が無いので帰ってしまったとしていた。

この山本美紀に注目した捜査本部は、彼女に署へ同行願って詳しく事情を聴取しようとした。そして彼女の住まいを訪ねてみれば、埼玉県警の大宮署の捜査員達と鉢合わせてしまった…大宮署管内で、1年半前に死亡した男性のことで不審な点が在るということになり、ハウスキーパーの仕事で出入という係わりが在った山本美紀に事情聴取をしようとしているのだというのである…

こういうようになって来ると「警視庁VS埼玉県警」という“張り合い”になり、これが捜査に影を落とすことにもなって行く…更に事件が「連続不審死」という様相に報じられるようにもなって行く…

そうしている間に山本美紀は警視庁に逮捕され、更に起訴されて公判が始まる。罪状は強盗殺人で裁判員裁判という形になる…

山本美紀の弁護人を引受けたのは矢田部弁護士だった。矢田部弁護士は刑事事件の弁護の世界では少し知られているやり手である。

そして<第3章>の公判の行方という展開になって行く…

というように、曲折も発生する事件と捜査の展開が在って、被疑者の逮捕とその後の公判までが描かれた、なかなかにボリューム感溢れる作品なのだが、そういうボリューム感が気にならない程度に夢中になってしまった…

公判前整理という手続を経て行われるという裁判員裁判なのだが、そういう手続に関してもかなり詳細に描かれていて、なかなかに読み応えが在る。本作は、その後半の方を取って「法廷サスペンス」と評することも出来るが、全般として「事件モノ」、「警察モノ」とも評することが可能であると思う。要は双方を要素を存分に愉しむことが叶う物語になっている。

序章の冒頭に登場した「可哀相に過ぎるじゃないかぁ!?」と思った若者だが…作中で確りと出番は在る…

とにかく面白い作品で、広く御薦めしたい!!

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