『蝦夷太平記 十三の海鳴り』

↓本書の登場を知って「期待し得る、非常に面白そうな作品」と思っていたが…新刊本として書店に入ったのを見て、「文庫化を待つか…」と思いながら「入手して読みたい!」という強い想いも沸き上がり…結局、一晩考えてから、天候が悪い休日なので読書に興じようかと、思い切って求めてみて…期待どおり、否、期待の何倍も面白いので一挙に読了に至ってしまった!

蝦夷太平記 十三の海鳴り



↑古く“蝦夷”と呼ばれた東北地方北部の勢力に属した人達の物語…何か「北の国の伝説の英雄譚」という浪漫溢れる物語だった…「浪漫溢れる物語」というように感じたが、他方で何となく思う以上に海上交易が盛んだった中世の東北地方北部や北海道という考察も反映されていて、非常に興味深い内容を含んでいる…

↓愉しく読了したばかりの作品の“シリーズ”ということで登場した1冊なので、酷く興味が沸いて手にしたという経過だった。出版社によるプロモーション映像も見付けた…


本作は先行していた作品の『婆娑羅太平記 道誉と正成』『士道太平記 義貞の旗』よりも「少し前の時期」を背景にしている。『婆娑羅太平記 道誉と正成』『士道太平記 義貞の旗』は「鎌倉幕府が滅んで行ってしまう戦いそのもの」を背景にしているが、本作はその戦いへ進んで行く時勢の中での東北地方北部の動きを背景としている。

本作の主要視点人物は安藤新九郎季兼(あんどうしんくろうすえかね)という青年だ。作中では殆どの場面で「新九郎」なので、以後「新九郎」とするが…

新九郎が<朝日丸>という船で航海していて、津軽地方の十三湊(とさみなと)へ引揚げようとしているという場面から物語は起こる。

新九郎は、古くは「蝦夷」と呼ばれた人達の流れを汲む安藤一族の若者だ。安藤一族は津軽地方等に勢力を持っていて、日本海側の日本国内各地や北海道、更に太平洋側へ乗り出す場合さえ在る海洋交易等を進めている一族だった。そして一族の代表は“蝦夷管領”と称していた。これは鎌倉幕府の最有力者ということだった北条得宗家が任じる役職で、交易による利益を北条得宗家へ上納する役目だったのである。

新九郎が十三湊へ引揚げ、航海の後始末や<朝日丸>の整備に取り掛かろうとすれば、一族の長で蝦夷管領を務める、やや縁遠い感の父である安藤季長から館に呼び出される。

呼び出された用向きは、一族の勢力圏である出羽の能代で叛乱が発生し、それを抑えようと出陣した次兄が討死したので、その叛乱を制するようにということだった。こうして新九郎は、全国の争乱にも繋がる津軽や出羽での争いの中に身を投じて行くことになるのだ…

新九郎が活動する主な舞台は、津軽や出羽と現在の東北地方北部、更に北海道の南側ということになる。作中には「蝦夷」と呼ばれた人達の流れを汲む東北地方北部の勢力に属する人達、鎌倉時代以降に東北地方に入った武士の流れを汲む人達、交易のパートナーとなっているアイヌ、そのパートナーとなっている人達に対峙するアイヌ、更に全国に倒幕の挙兵を募る後の大塔宮や彼に惹かれる各地の人達という多彩な人士が登場する。

新九郎は恵まれた体躯で膂力も在るが、武道の鍛錬を積んだ人物ではない。自身を「船乗り」と定義するような男である。その新九郎が勇を振るい、相談役となっている孫次郎や、弟分のようなアイヌの若者のアトイや他の人達と手を携えて、「交易で栄える豊かな北の国」を目指して戦う…

ハッキリ言えば、これまでの“時代モノ”の小説等で、新九郎が取上げられている例は思い当たらず、更にこの鎌倉幕府が滅びて行く少し前の東北地方北部というような事柄が題材になっている例も思い当たらない。そういう「新天地!!」を拓いた、浪漫溢れる作品だと思った。なかなかに愉しいので、広く薦めたい!

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