『サンクトペテルブルクから来た指揮者』

↓札幌の書店で視掛け、題名に在る「サンクトペテルブルク」に惹かれてしまった…ロシア第2の都市の名が題に入っている小説作品…スウェーデンのミステリーである。

サンクトペテルブルクから来た指揮者 (ハヤカワ文庫NV) [ カミラ・グレーベ ]



↑物語は「2003年のモスクワ」を舞台にしたスリリングなモノである。紐解き始めると「で…どうなる?!」と「続き」が気になって我慢ならなくなり、ドンドンとページを繰ってしまう…そして素早く読了だ…

「2003年のモスクワ」というのも、何となく「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)という雰囲気の舞台だ…作者は連名になっているのだが、この連名の作者の一人が2000年代初頭のロシアでの経験を有していて、そこでの見聞に着想を得た物語であるということだ…

物語の冒頭は、サンクトペテルブルクで弁護士活動をしているスウェーデン人の挿話から起こる。このスウェーデン人弁護士が、何時ものように仕事をしていたが、何やら禍々しい事態に巻き込まれてしまう…

そして本作の主人公ということになる、モスクワの投資銀行に勤める男、トム・ブリクセンが登場する。トムは「故郷を離れたい」という事情―内容は作中で次第に明らかに…―も在って、ロシアに流れて来て定着し、10年程度になるという人物である。

このトムの数少ない親しい友人にフレドリク・カストループが在る。モスクワで個人事務所を構えている弁護士である。フレドリクの交際相手で同居しているロシア人女性のオルガ・オクロワに関して、トムは過去に色々と在った経過も在る。オルガにはクセニアという6歳になる娘が在って、これはフレドリクの子ではないが、現在では親子同様に暮らしている。

トム・ブリクセンが勤める投資銀行では、大手石油会社が手掛けようとしている別な石油会社の買収計画に関する業務を請け負った。これの担当者、責任者にトムは抜擢された。「近年のロシアで最大の買収事案」であり、トムにとっては大きなチャンスだ。

その多方、友人のフレドリク・カストループはモスクワでの仕事を止めて、オルガとクセニアを伴ってロンドンへ移るという計画に着手している。資産を整理しようとしていたが、その中にトムが携わることになった買収事案の鍵となる株が在るということを偶然に知ってしまう。

そして、この買収劇に関わった人達がショッキングな事件に巻き込まれ始める…当局では、セルゲイ・スクロフ検事が指揮官に任じられ捜査を始めた。スクロフ検事は、長年の馴染であるモスクワ市警察のベテラン刑事、ヴィターリー・マルキン警視と共に事件の謎を追う…

2000年代初めのロシア…1990年代の混迷を克服しようとしていたような時代…台頭した、或いはし過ぎた“新興財閥”を巡って色々な事態が生じた時代…1990年代末のチェチェン紛争が尾を引いてテロ事件が続発した時代…経済成長のようなものも目立った時代…色々な背景が在る「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)である。本作では、そういう舞台でショッキングな出来事が続発するが、“絵空事”感覚が薄い…「在りそう…」に見える…怖いが…

本作は、禍々しい事件に巻き込まれて行くトムや、捜査に勤しむスクロフ検事やマルキン警視の活躍を愉しむ、不穏な事態の謎を明かすエンターテイメントというのが基軸だ…が、「過去」を追いやろうとしているトムが自身の現在の人生に向き合って行くようになる物語でもあり、現在となっては“歴史”な雰囲気にもなっている時代、「ワンスアポンアタイム…」(一昔前)のモスクワを「かなりリアル」に描く作品でもある…大変に興味深い!

物語の終末の辺りを見ると…「この後のトム?」というのが気になる…<訳者あとがき>によれば、スウェーデンでは“続篇”に相当する作品も出ているようだ…何れ翻訳で紹介されるということも希望したい…

この記事へのコメント