『維新の肖像』

↓手頃な分量の時代モノの小説だが、なかなかに重厚な感じのする作品だった…

維新の肖像 (角川文庫)



↑「明治150年」という中、昨年末に文庫で登場した作品だ…或いは「こういう年にこそ…」と読むべき一冊かもしれない…

重厚な物語は「二重構造」のように展開する。そういう意味では、時代モノの小説として「やや異色?」な感じがする。が、描こうとしている人物や時代に関して「少し下った時代に誰かが色々な人の話しを聴いている」というようなスタイルで展開する作品は幾つか読んだ記憶も在り、それ程に違和感は無い…

この物語は、所謂「薩摩藩邸焼討」という事態が展開しようとしていた時、江戸府中警備の任務に就いていた諸大名の一つである二本松丹羽家の家中に在った士、宗形昌武や周囲の人達の動きから描き始められる…

そして不意に1930年代に入った辺りの、アメリカの大学町に部隊が移る。アメリカの大学で歴史学者として活動する、60歳代に差し掛かろうという准教授の朝河貫一の様子が綴られる…

かの鳥羽伏見の戦いへ突き進んで行く所謂「薩摩藩邸焼討」の頃、二本松丹羽家の士として現場に居た宗形昌武は、作中で経緯が判るようになってはいるが、後に朝河正澄と名乗ることになる。彼は朝河貫一の父だ…

米国で歴史学者として活動する朝河貫一は、一時帰国して父に会った際、父から柳行李を貰った。中身を顧みることはなかったが、相当に時間を経てその中身に触れて衝撃を受けることになる。父が自身で綴ったモノや、書簡、或いはその下書きや写しが丁寧に整理されたモノがギッシリと詰まっていたのだ…

朝河貫一は、二本松丹羽家も参画した奥羽越列藩同盟のような幕府方が政府方と交戦に及んで敗れたという歴史に関して、「守旧派が無益な抵抗をして、奥羽に甚大な被害が生じてしまった」というような否定的な観方をしていた。が、日清戦争や日露戦争を経ての様々な動きに触れる中で、「違和感」を感じるようになり、「明治維新は何だったのか?」と考えながら時局を論じることもするようになっていた…そうした中で、父が遺した史料に出会うのである…

物語は戊辰戦争の渦中に在る父の様子と、1930年代に差し掛かった頃の米国の大学町に在る息子の様子が交互に描かれながら進む…

本作を読んでいて…何か息子の方、1930年代に差し掛かって60歳代に入った歴史学者というのが「作者の分身」に思えた…文庫本の末尾に在る説明では、本作は2015年に登場し、昨年末に文庫化されたということである。或いは「明治150年」という「盛り上がり(?)」のような中、それが近付いている状況下、「で…その明治維新とは?」と考えて問い掛けたい作者が在って、その作者自身と作中の朝河貫一とが「酷く重なる」のだ…

大きな影響を及ぼすような出来事というものは、多分「功罪相半ば」ということが多いような気がする…明治維新を巡る様々な挿話に題材を求めた小説や、様々な研究のようなモノには随分と触れている…そうした中で触れた本作だが…或いは「“正義”が“蔑ろ”にされたかもしれない?」という事が、明治維新の中には「在ったかも知れない?」ということに思い至らざるを得なくなる一面が在る…

また本作は、何となく反発して父を受け入れ難くなっていた息子が、改めて若き日の父の姿を知って、父が秘めていた思いに気付き、他界して久しい父を思い出すというような「反目し合った感の父子が和解する」というようなストーリーでもあると思う。

多彩な要素を含む、重厚で意義深いような作品…お薦めだ!

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