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↑<刑事ヴァランダー>のシリーズでよく知られる作家だが、単発の作品も多い。この邦題を英訳から引っ張って来たという『北京から来た男』もそうした単発の大作である。<刑事ヴァランダー>でも、主人公の勤務する地方都市で発生した事件に、思いも掛けない国際的な拡がりが視られたり、関係者の永年の怨恨が絡まる等、時間や空間を超えた展開を解き明かして行く物語が多いのだが…本作も、小さな村での事件が国中を驚かせ、そしてそこに時間や空間を超えた拡がりや想いが絡まるという「この作家の作品らしい」感じの物語だった…大変に興味深く読み進んだ…
物語は…スウェーデンの北の方の小さな村から始まる…
冒頭に、雪原を掛ける狼が小さな村に迷い込み、妙なモノを食べるという、「不気味であると同時に美しい」というような場面を描写した序章が入るのだが…そこを訪ねる男の挿話から入っている…
北の小さな村を訪ねていたのは、60代の写真家である。文化活動への助成も受けて、彼は過疎の村の風景や、そういう村に暮らす高齢者の様子を撮影するという活動を展開中であった。その彼が村に立寄ると…住民は居る筈だが、人の気配が感じられない…
人の気配が感じられない中、住宅の様子を調べ始め、男は驚愕した…多数の住民が刃物で惨殺されている。或いは十数名と見受けられる村民が全員殺害されてしまっているかもしれない状況だったのだ…
前代未聞の、過疎の村での大量殺人という事態…各メディアを賑わせることになる…
事件現場からかなり遠い、南スウェーデンの都市であるヘルシングボリで裁判官を務めている女性、ビルギッタ・ロスリングが在った。ビルギッタは何時ものように裁判官の仕事に勤しみながら暮らしていたが、列車の乗務員をしている夫が求めて来てダイニングに置いて在ったタブロイド紙に眼を留めた。
ビルギッタは、普段はタブロイド紙は読まない方なのだが、掲載されている“大事件”現場の写真に「見覚え」が在った。そして母親に関連する古い資料を引っ繰り返し始めた…
ビルギッタの父親は船員だったというが、彼女の誕生を楽しみにしていながら、海難事故のために彼女が生まれる以前に他界してしまっていた。彼女は母子家庭だったが、母の生い立ちを少し聞いていた。母は事情で小さな村に養女に出された経過を有していた。その「養父母の家」というようなことで、視た記憶が在る写真と、タブロイド紙に掲載の現場の家屋の写真とが「重なった」訳だ…
血圧が上がってしまい、病気療養ということで休暇取得を医師に勧められてそのとおりにしたビルギッタは、「母の養父母が殺害?」という案件が気になり、現場となった北の村を訪ね、捜査員達とも接触をする…
そこでビルギッタが偶々知るのは…村に居た一族の出である男が、19世紀に米国へ移住していて、そこで鉄道建設の仕事に従事した経過が在り、書簡や克明な日誌が残されていたということだった。そこには拉致されて来た中国人労働者を酷使して、過酷な現場で建設工事を進めた経過等が綴られていた…
他方…中国では「新進の経済人」として大きな影響力を行使するようになった男が、何やら蠢いていた…
2006年の或る日、スウェーデン北部の過疎の村で、十数人の高齢者が惨殺されてしまうという事件が在り、それが1860年代の米国、中国での出来事と不思議な結び付きを見せる…どういうことなのか?
ビルギッタは1949年生まれと設定されている。大学生だったのが1968年頃…彼女が振り返り、友人との思い出話の中で話題にする1960年代や1970年代の世界と、2006年の世界…そして、米国で鉄道建設が盛んにおこなわれた時代として描写される1860年代辺りの世界…それらが混然となって作中世界が形成されるのだが、何か「中国と世界」、「世界と中国」というような事柄が滾々と説かれているような感である…
時間や空間を自在に往来し、それぞれの世界が“映画”のように描写されながら展開する物語…「意外な展開」が繰り返され、どういうようになるのか予想も付き悪いままに頁を繰る手が停められなくなってしまう…
広くお薦めしたい作品だ!!


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