『特捜部Q―知りすぎたマルコ』

一定の人気が在る“シリーズ”の小説については、「或る時に、偶々“第X作”に出逢う」というようなことが往々にして在る。必ずしも「第1作から順番に読む」という訳でもない。それでも、出逢った“第X作”が面白いと、順次シリーズの各作品を紐解いてみたくなる。

↓これは“シリーズ”の“第5作”となる作品だ。シリーズの過去作品で詳述されている事項への言及は在るが、それでも「全く初めて出逢った作品」として十二分に愉しい!!デンマークの人気作品の翻訳で、各国でも翻訳されていて、なかなかの人気シリーズとなっているという…

特捜部Q―知りすぎたマルコ― 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)




特捜部Q―知りすぎたマルコ― 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)



↑題名に付いている“特捜部”で察せられるように、これは事件モノだ…これまでのシリーズ各作品の中、「最も」と言ってしまっても構わない程度に、“事件”は「ややこしい拡がり」を見せる…

作中の“特捜部Q”とは、デンマークのコペンハーゲンに在る警察本部に設けられた小さな捜査班―本部ビルの地下の、発足当時に偶々空いていた場所に、無理矢理に設けたようなオフィスである…―で、「未解決事件担当」である。ベテラン刑事のカール・マーク警部補が捜査班長となっていて、“刑事”ということでもない警察職員2名がアシスタントだ。2名のアシスタントは、シリアからの移民であるというアサドに、やや風変わりな女性であるローセで、なかなかに面白いメンバーだ…

作品は、風変わりなアシスタントを従えて「未解決事件担当」の仕事に勤しんだり、私生活上の色々なことが在る警部補のカールと周辺の話しが展開する他方、事件関係者等の各々の時間に発生している出来事が描写される。「各々の時間」が描かれ、やがてそれらが「未解決事件担当」の仕事の中で交差し、事態が動いて行く…

本作もまた、「各々の時間」が描かれ、やがてそれらが「未解決事件担当」の仕事の中で交差し、事態が動いて行くというスタイルが踏襲されている。これが好い訳だが…

冒頭の方では、アフリカのカメルーンで事態が惹起している…デンマーク政府による支援で「環境の変化によって、生活が揺らいでいる少数派の部族のために、農園を興す」という事業が展開中だった。しかし、何やら事が思うように運ばず、現地人の担当者が苛立っている…その背後には、デンマーク外務省関係者によって密かに行われていた“不正”が在った…

他方、コペンハーゲンで…マルコという15歳の少年の物語が展開している…

マルコは“クラン”と自称する集団に身を置いていた。結局、そこで生まれ育ったのだが…“クラン”とは、各地を動き回り、指導者が少年少女に物乞いやスリや盗みをさせているというような「犯罪集団」に他ならなかった。マルコは、そういう在り方に嫌気が射していた。「普通な家族生活」をして、学校で学び、出来れば何かの専門職になれる知識を身に着けて、普通に生きたかった。そういう想いが募る中、マルコは“クラン”の指導者達が、自分達を“道具”と観てとんでもないことをしていることや、窃盗関連どころではない重大犯罪に手を染めていることに気付き、“クラン”から逃げ出す。そして逃げ出した時に、重大犯罪を示唆する証拠に触れてしまう…

カール達は、なかなか真相が解けずにいた女性の変死事件に関する捜査に勤しんでいた。“刑事”の基礎的な仕事に関する経験が浅いローセを“聞き込み”に引っ張り出す等したが、彼女の大胆な推理も在って、捜査は進捗する。そして、前作で描かれた事件の捜査の中で負傷してしまっていたアサドも復調しつつ在った。

やがて…或る少女が、義父(継父)ということになる外務省勤務だった行方不明の男性の情報提供を求めるために出していたチラシが登場する…

“クラン”関係者から身を隠しながら、親切な人達の支援も在って、何とか暮らしているマルコは、チラシを視て、自身が目撃してしまった“クラン”の指導者達の重大犯罪に関連していることに思い至る…

“聞き込み”に出ていた先でチラシを眼に留めたローセは、気になったチラシをオフィスに持ち帰った。そして該当すると視られる行方不明者に関して調べ始めた…

チラシに在った行方不明の外務省職員は、アフリカのカメルーンへ出張し、予定より早く帰国した後から行方が判らなくなっていて、2年近くになっている。“特捜部Q”は、手を掛けていた女性の変死に関する一件が殆ど片付いたことから、この男性の一件に着手した…

マルコは“クラン”の指導者の秘密を知って追われる身では在ったが、このチラシに出くわした辺りから、激しい追跡を受ける状況に陥ってしまった…様々な知恵を駆使し、マルコは必死に逃げている…

他方、カール達は外務省職員の周辺を色々な角度で探っている最中、マルコらしい人物に気付き始める…

“特捜部Q”の面々、マルコ、そして事件の原因となった事態に関連して蠢く人々、その他の関係者の「各々の時間」がどのように交錯し、事態はどういう具合になって行くのか?かなり夢中になってしまう…

本作では、マルコが「題名の一部」にさえなっているように、正しく「作中の事態のキーマン」になってしまっている。不幸な境涯を何とかして抜け出し、生き延びようと必死なのだが…「重大な秘密を知ってしまった?」ことから追われ、追う者達はマルコとささやかな接点が在った人達に暴力を振るって脅すということを仕出かすため、彼らとマルコの関係が変わってしまい、マルコは悔し涙を流す。こういう関係の場面…少し目頭が熱くなる…

シリーズの作品では、主要な作中人物達の他に「第X作のキーマン」というような人物達が登場し、時には少し先の「第X+Y作」に出る場合も無いではない。本作のマルコは「シリーズの先の作品で、機会が在れば再会したい人物」と感じた…

このシリーズは、一定程度「実在の何か」をヒントに創作している面も在るようだ。第4作では、作中で描かれた古い事象―これが一寸「酷い」お話しなのだが…―の一部に関して、残念ながら実在したということも伝えられている。或いは、本作の「途上国支援の資金を巡る政府関係部局の官吏による不正」というような事象や、マルコが抜け出そうとした“クラン”のような犯罪集団は、実在しているのかもしれない…残念ではあるが…

シリーズの作品に親しんで、「あれ?少し前に読んでいたモノの“次”だ…」と気付いて入手して読んでいると…「遠くの、やや御無沙汰な友人達の消息に触れる」ような、何処となく温かい気持ちが湧き上がることもある。今作では…前作で負傷したアサドが復調して行く感じが、少し嬉しかった…

本作は「シリーズの中の1作で、最も最近に出た」というモノではあるが、「独立した一作」として実に好い!!

この記事へのコメント