『霜の降りる前に』

少し気に入ったシリーズの新作、関連作品というようなモノが登場すると「多少の御無沙汰をした友人、知人の近況が不意に気になる…」というような感覚で、本を手にしてしまう…

↓スウェーデン南部、スコーネ地方の街、イースタ警察署のクルト・ヴァランダー警部が帰って来た!!

ヘニング・マンケル/霜の降りる前に 上 創元推理文庫


ヘニング・マンケル/霜の降りる前に 下 創元推理文庫
↑ヴァランダー警部関係の作品としては、少し久し振りに翻訳の文庫が登場した本作…大変興味深く、夢中で読了に至ってしまった…

イースタという街は実在の街で、対岸のポーランドとのフェリーが発着している港町で、近隣にスコーネ地方最大の街であるマルメーが在り、そのマルメーの対岸はデンマークのコペンハーゲンである。

そういう地域で、1990年代以降の複雑な情勢等とも相俟って、思いも掛けない展開をする事件が発生し、ヴァランダー達捜査員がそれに立ち向かう…ヴァランダーはイースタ署内の古株の刑事で、シリーズ中で年上の関係者がどんどん退職する等しているので、何時の間にか署内で最年長の部類に入っているように見える。加えて、記者発表に立ち会って、事件概要の説明をしたり「その他の詳しいことは調査中だ!」と言う場面等が見受けられることから、「日本の地方の警察署の刑事課長」のような立場なのかもしれない…事件捜査の件だけではなく、家族等の身近な人達も含めた「人間クルト・ヴァランダー」も深く描かれていて、非常に面白いシリーズなのである…

1990年代に書き綴られたシリーズであるが、かなり間隔が開いて、2009年に「最後」の作品が登場しているという。「最後」としたが…作者のヘニング・マンケルが2015年10月に逝去してしまったので、残念ながら以降の新作は登場しない…未訳の作品の翻訳は出て来るであろうが…

本作『霜の降りる前に』であるが、これは厳密には「クルト・ヴァランダーが主人公のシリーズ」とは言い難いかもしれない。本作の主人公はリンダ・ヴァランダー…クルト・ヴァランダーの娘である…リンダ・ヴァランダーは、父クルトと離婚してしまったその元妻モナとの間の娘なのだ…

本作の冒頭…カルト教団の集団自殺事件で、生き残った男が在って、何処へともなく去って行くプロローグが掲げられる…やがてイースタの湖で、謎めいた男が、湖の白鳥に火を着けるという怪異な行動を取っている場面になる…

そういう不思議な始まり方から、リンダ・ヴァランダーが登場する…リンダは間も無く30歳になろうとしている。色々と曲折が在ったが、警察学校に入って卒業し、イースタ警察署で勤務することが決まっていた。(作中の描写を視ると、スウェーデンではストックホルムの警察学校で学んだ後、本人の希望等で全国各地の地方警察署で勤務するようになっているようだ。そして、本人の希望やその他の事由で広域異動も在り得るように見える…)

リンダはイースタ警察署での勤務が始まるまでの間、父クルトのアパートに居候していた。自身で借りたアパートへ移るのは、勤務が始まる辺りということになっていたのだ。リンダはイースタで、少女時代の友人達と再会し、シングルマザーになっていたセブランや、医学生をしているというアンナと頻繁に会うようになっていた…

そんな或る日、リンダがアンナを訪ねると、アンナは妙なことを言い出した。アンナは実質的な母子家庭で育っていた。父親はアンナが6歳位の頃にふらりと出て行ってしまい、その後は音信が途絶えてしまっていたのだった。アンナは、その父親を、列車運行の都合で不意に時間が出来てしまったマルメーで時間を潰していた時に視掛けたと言うのだ。概ね24年も会っていない父親であると、特定出来るものなのか、判らないとリンダは思うのだが、アンナは「間違いない!」と強く言う…

そういうことが在って、また会う約束をしたリンダは、アンナを訪ねた。アンナは、何の断りも無しに約束を無視するようなタイプではないが、会うことになっていたアンナの自宅に姿が見えない。そして全然連絡が着かない。リンダは心配する。

リンダは父のクルトにアンナの件を相談するが、クルトは「事件性の在る失踪と断じることが出来るような状況とは言い難い」とし、「捜してみる!」とするリンダに「失踪者捜索任務の警察官ではない!」として行動を自重するように促す。それでもリンダは独自にアンナの件を探ろうとする。

そうしていた間に、次々と奇妙なことが起こった。牛舎から子牛が引き出され、生きながらに火を付けられるという一件…そして廃れてしまった古い小道の研究をしているという女性研究者が失踪という一件…やがてその失踪したらしい女性は、森の中の小屋で惨殺体で発見された…

リンダはアンナの件を独自に追う中、惨殺されてしまった女性とアンナとの間に接点が在った可能性に気付く…

こうしてリンダは、警察署での勤務を始める以前の段階で、展開していた怪異な事件の捜査に加わるような型となってしまった。

どんどん色々な展開が在る中、リンダは身体を張るような按配で事件に向き合って行くことになる。どのような展開になるのか?是非、本書を!!

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