“戦国”と言えば、こういう時期のイメージが強いように思うのだが、実を言えば、15世紀末の辺りから、概ね16世紀全般を通じて争いが絶えない“戦国”と呼ぶべき状況は続いていた。16世紀は“前半”も争いが絶えない状態だったのだが、そんな16世紀前半に題材を求めた時代モノに出会った。
↓これがその、16世紀前半の時期に題材を求めた作品だ。
↑足利幕府の12代将軍である義晴に対し、同じ足利の血筋の義維(よしつな)を擁立し、堺に幕府を開いたという動きが在ったのだが、その堺公方府の立役者であった三好元長が主役だ…非常に面白い物語で、夢中で読了した…
本作を眼に留めて、入手して読んでみようと思い立ったのは…最近、他作品を愉しく読んだ経過が在る作家の作品であることに加え、堺を訪ねた際に耳にした“三好元長”が劇中人物として活躍するらしいことが判ったからだ…
堺で妙国寺に立ち寄った。妙国寺は、嘗て読了した『等伯』という小説にも出て来る場所で、興味が在った。嘗ては盛大な伽藍を擁する寺院だったが、戦災によってそれらは損なわれ、現在は1970年代の建物なのだが、堺の歴史を伝える場所でなかなか面白い。奥で視られる大きな蘇鉄は見事である…この妙国寺の見学は、拝観料を払って、ガイドの案内で中に所蔵される資料を視るというスタイルなのだが、そのガイドのおじさんの話しに“三好元長”が登場した…幕末期、堺の港で警備任務に就いていた土佐の武士達がフランス船関係者と悶着を起こし、フランス人を銃で撃って殺害してしまった。「関係者の処分」ということになり、武士達が切腹をすることになった。その切腹の場所が妙国寺で記念碑も在る。切腹には色々と作法が在るというが、その中に「憤怒や無念を示す」ということで、「斬った腹から腸を引き出して撒き散らす」という壮絶なモノが在るのだという。土佐の武士達の中に、それをやってのけた人が在るのだという。これをやったという事例は、必ずしも多く伝わっていないようだが、あの時のガイドのおじさんは、「昔、堺で活躍した武将の三好元長が、色々と裏切られて口惜しさと怒りを胸に腹を斬った時、これをやったと伝えられている」という話しをしていた。
そういうように、「昔、堺で活躍した…」と堺市内に在住していると見受けられるガイドのおじさんが「さらり」と名を出した“三好元長”が登場する物語…惹かれるものが在った訳だ…
三好元長の一族は、阿波の細川一族の被官の家柄である。細川一族というのは、幾つもの分家が在るが、“京兆家”と呼ばれる本家筋が在って、その本家の代表が室町幕府の最重要な要職である管領(かんれい)を輩出していた。三好一族は、この細川の“京兆家”の家中に在って重きを為していたのである。
物語は、9歳だった元長が父の討死を伝えられる辺りから起こされる。父とは心理的な蟠りのようなものが在ったのだが、それは元長が「実は父の子ではない」という話しが在ったからだ。祖父が母を手籠めにして身篭り、そして産れたのが元長であるという「不義の子」説が在った…そうした中で元長は成長して行くこととなる。
時代は、有力な武士達が幾つもの陣営に分かれて際限なく争いを続ける様相だった。三好一族は元長の祖父である之長を中心に、京都を巡る争いを続けていた。元長も戦陣に出るようになっていた。そして元長は、戦で疲弊している国を何とか立て直したいという思いを抱くようになって行く…そうした中、京都で後年に大きな役目を負って行く家臣になる少年、久一郎に出会った。(この久一郎が好い!!そして、最後は意外な展開も…)
やがて三好之長の陣営が敗れ、之長も討死した後、元長は阿波に引揚げて暮らすようになる。そこでは“弟”のような存在の足利義賢(後の義維)や細川六郎と暮らしていた。各々、将軍家の血筋、細川京兆家の血筋である。3人は、力を合わせて「戦の無い世」を創ることを目指そうとした…
そして時は流れ…彼らは畿内進出を図り、堺に上陸して堺を拠点とし、“堺公方府”を立ち上げた。将軍の義晴は近江に在り、“管領”と称して彼を擁する細川高国も健在だ。将軍(高国)陣営と堺公方陣営が対立する情勢が続く…
物語は、この高国らの陣営と堺公方陣営の争い、そして堺公方陣営が深刻な内訌に突き進んでしまう様相を描く…戦いと謀略の日々の中、元長や六郎や義維はどうなって行くのか…
本作は、戦乱に明け暮れる世相の中で理想を掲げた、兄弟分のような存在だった元長や六郎の昂揚と離間を通奏低音としながら、猛将達の勇戦や駆け引きを繰り返して決着する戦、忍びの暗闘、恐るべき謀略、智勇備えた傑出した人物との出会い、妻子との愛など、様々なメロディーが展開する、「壮大でありながら、適度に纏まった交響楽」のような作品だと思う。
散ってしまう元長は息子を遺す…可能であれば…畿内で権勢を振るうことになる三好長慶となって行く、この息子の物語も登場すると面白いと思った…
堺では「昔の堺で…」とガイドのおじさんがさらりと名前を出した三好元長…一般には然程知名度が高いでもないのではなかろうか?そういう人物を主人公に据えた物語だが、非常に面白い!!
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