↓この近衛前久が“近衛前嗣”を名乗っていた時期を背景とする物語である。
戦国秘譚 神々に告ぐ(上)
戦国秘譚 神々に告ぐ(下)
↑非常に興味深く読了したところである。
本作の視点人物としては“近衛前嗣”なので、以下はそれで統一するが…
近衛前嗣は、後奈良天皇の崩御が間近であると感じ、容態の好くない帝が臥せっている御所に駆けつけた。朝廷の威光が衰退していた難しい時代であった。帝は駆けつけた近衛前嗣に、「朝廷の今後を頼む」としながら、また近衛前嗣が想いを寄せる祥子内親王を巡って謎めいた言葉を残して他界した。
天皇の崩御という事態になれば、“大葬の礼”を催さなければならず、喪が明けてからは次代の天皇の“即位の礼”を催さなければならない。多額の資金も必要であれば、都の警備の問題なども在り、なかなかに厄介だ…
この頃…都を実効支配していた勢力は三好長慶の一派であった。幕府の将軍であった足利義輝は都を追い出され、近江に亡命中であった。近衛家は将軍家との結び付きが強い…他方で朝廷内では三好一派に接近している公家達も在る…近衛前嗣は、こうした中で「幕府と朝廷との復権」を目指して活動を始める…
近衛前嗣が“行動”を始めた時期…三好一派が圧倒的な実力を持っていて、その名が知られた「戦国の雄」とでもいうような各地の大名は、未だ「勢力基盤を固めつつある」というような状況だ…こうした中で、近衛前嗣は、各地の力を結集して、三好一派を駆逐することを目論むのだが…彼の前に立ちはだかるのは、三好長慶に仕える松永久秀(弾正)である…
近衛前嗣の計略と、それを挫く松永久秀の対決、暗闘…それを軸に、「神々を祭る」ことで権威を持ち続けて来た朝廷という存在の意義を問うような内容も展開する…そして祥子内親王を巡る秘密も明かされて行く…
本作の中では、斬新な戦術を駆使して台頭して来た織田信長が、後に深い関りを持つことになる近衛前嗣や松永久秀と出会うという場面も在る…そして若き織田信長も少し活躍する…
本作の主人公としての近衛前嗣…面白い!!朝廷をリードする近衛家の後継者で、若くして関白に任じられた貴公子であるが、朝廷や幕府の明日を考えて「自ら動く」人物である。能書家で笛の演奏が得意で、学識が在る他方で、縁が在る薩摩の島津家から献上された短筒を愛用する射撃の名手でもあり、鷹狩りや乗馬も得意だ…こんな近衛前嗣が、躍動する物語である…
朝廷や幕府というような、永く続いた権威が揺らいだ時代に、その権威の根幹と向き合い、同時に来る時代でのそれらの在り方を模索しようとした貴公子の物語…一言で本作を語るとそういうことになるであろうか?そして祥子内親王を巡る、伝奇モノ、恋愛モノという要素も在る…
「永く続いた権威が揺らいだ時代」とさり気なく言ってみたが…或いはそういう辺りに“今日性”が深く根差しているかもしれない…
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