↓そうした「必ずしも作品が豊富でもない時代を背景とする“時代モノ”」に出会った。これがなかなかに面白かった!!
彷徨える帝(上)
彷徨える帝(下)
↑「必ずしも作品が豊富でもない時代」を背景としていると同時に、“伝奇”としての面白さにも溢れる作品で、一寸夢中になった…
「必ずしも作品が豊富でもない時代」を背景としている他方、本作の作中人物として、比較的知られている史上の人物である足利義教が登場している。
足利義教(1394-1441)…室町幕府の第6代将軍であった人物だ。
室町幕府の時代というものは、鎌倉幕府が倒されて建武の新政が興った後、足利尊氏が建武の新政を排して幕府を開いたことで始まる。建武の新政を興した後醍醐天皇は、幕府が開かれる辺りで排されてしまったが、それによって幕府が擁していた“北朝”と、吉野の山中に逃れた後醍醐天皇の後裔による“南朝”とが並立し、戦乱のタネになる等の混乱が続いた。室町幕府の3代将軍だった足利義満の時代、強大になった幕府の威光も背景に在って「南北朝の統一」が成ったとされる…
しかし…「南北朝の統一」の際に、北朝系、南朝系の皇子が交互に皇位を継承するとした約束が在ったにも拘らず、それが反故になった事等を受け、その後も“後南朝”とでも呼ぶべき一派が活動し、混乱は永く続いてしまっていた…そして、その辺は余り詳しく語られていない、或いはそういう時代を背景としたような“時代モノ”の作品は稀である…本作は、その稀な作品の一つである…
足利義教の表舞台への登場も、その「“後南朝”とでも呼ぶべき一派が活動していることによる混乱」を含む時代のことであった…足利義満の後を受けて足利義持が4代将軍となり、更に息子の足利義量が5代将軍に据えられた。他方で足利義持は実権を維持し続けていた…1425年に5代将軍の足利義量が急逝し、4代将軍だった足利義持が政務を代行する体制となった。やがて1428年に至り、足利義持も病に斃れてしまった。そして、足利義持の弟達の中から“籤引き”で選ばれた後継者が足利義教で、足利義持の逝去後、彼は6代将軍となった…
本作の物語は、この足利義教が幕府の権威の強化、中央集権的統治の実現に向けて苛烈な支配を強めていたという時代を背景に綴られ始める…
プロローグ的に…能楽師の観阿弥が、駿河での興行中に襲撃されてしまうという場面が配される…そして時間が経つ…
“後南朝”の流れを汲む北畠道円の下に在った若者、北畠宗十郎…将軍である足利義教の近習として仕える、駿河の今川家に縁の深い朝比奈範冬…彼らは各々に密命を受ける…「後醍醐天皇に縁が在る」という、また「重大な秘密が隠されている」という“能面”を探し出して入手するという密命だった…
件の“能面”は、同時代人の記憶に新しい、守護大名と幕府方の戦いの背後で蠢いていたものらしいが、宗十郎や範冬は各々にその謎を追う…
そうしている中でも、“後南朝”の流れを汲む北畠道円は南朝系皇子の即位を目指し、反幕府的勢力の結集と武力蜂起に向けて暗躍する…京都に在った将軍と対立的だった鎌倉公方の足利持氏を巡る動き等が展開する…
“能面”が秘める「重大な秘密」とは何か?それは人々や時代にとってどのような意味を持つのか?宗十郎や範冬の物語が展開し、やがて両者は争うことになって行く…
「謎解き」的な物語である以上、仔細にはこれ以上踏み込まないが…本作は密かに伝えられる後醍醐天皇の思い、それを受け止めようとし、色々と考える宗十郎を通じて、「日本の社会というようなものは、どういうものなのか?」を問い、考えているような感もする。そうした重厚なものが、“伝奇”という華麗な包装紙に包まれて提示されている…というようにも思った…
そして…史上の足利義教も“非業の最期”というような運命だが…本作中の足利義教もそれを免れていない…そこへ至るまでというのが、本作の一つの軸にもなっているように思った。
なかなかに楽しめる作品だと思う!!
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