『浄土の帝』

「やや比喩的?」な言い方になるのかもしれないが、“院政”という言い方を時々耳にする。名目上の、その時点でのトップに対して、より大きな実力を発揮している先代や先々代のトップが居て、活躍しているような事例を指し示す…

現在の制度下では、天皇陛下は“譲位”をすることが出来ないことになっているので存在しないが、嘗てはそれが出来ることになっていて、“上皇”或いは出家して僧侶資格を得て“法皇”と呼ばれた、やや妙な言い方かもしれないが「天皇位経験者」というものが存在した。そういう「天皇位経験者」が、皇位継承者決定で強い発言権を発揮するようになり、荘園の寄進で財力が集まり、その威光の下で力を振るう人達も現れた。そういうようなことが行われていた時期の政治状況を“院政”と呼んだ。“上皇”や“法皇”の御所を“院”と呼んでいたことから起こった言い方らしい…

そんな「“院政”の時代」というのは、平安時代の末の方、「武家政権の時代」へ移って行く辺りに相当する。殊に名前が売れている院と言えば…白河院、鳥羽院、後白河院ということになるであろう…

↓その後白河院が主人公となっている小説が在る!!

安部龍太郎/浄土の帝
↑大変に興味深く読了した!!

雅仁皇子は、当時は“今様”と呼ばれた歌謡に打ち込み、それがが得意で、気楽な暮らし振りだったが…皇位継承者を巡る鳥羽院と崇徳院との争いの最中、近衛帝が若くして病死したことを受けて、“ワンポイントリリーフ”的に皇位を継ぐこととなる。これが後白河帝である…

後白河帝の時代…鳥羽院の寵臣であった信西法師が専横を振るっていた時期で、政争が武力衝突に発展した「保元・平治の乱」も発生し、殺伐とした時代で、朝廷の権威が損なわれようとしていた時代でもあった…そういう「揺れていた時代」の皇族であった後白河院は、“何”を目指したのか?というのが、本作のテーマだ…

後白河院は、晩年近くには源平の争乱の“黒幕”的なイメージの動きも見せており、何か“悪役”風な扱い方をされがちなのだが…本作に出て来るのはそういう晩年近くの前に相当する、三十三間堂を竣工させる頃までの半生である…

本作では“間接的”にではなく、“直接的”に後白河院の様子が描かれる。小説の視点人物に据えられているのである。彼の眼線で、当時の貴族達の駆け引きや、武士達の戦いが活き活きと描かれている。そんな中で後白河院が目指したもの…或いは「天皇と日本人」、「日本人と天皇」というような深いテーマをも考えさせてくれる内容だ…

“時代モノ”の中には、こんな時代を背景にした作品は豊富とも言い難く、やや馴染みが薄い人物達が活躍している作品だが、これが面白い!!

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