『鉄の骨』

↓「人気作家の有名作品」ということになる。評価も高い…

鉄の骨 [ 池井戸潤 ]

価格:905円
(2014/8/29 14:00時点)
感想(50件)



↑「今更、御紹介するまでも…」と思う面は在るのだが、それでも非常に愉しかったので話題にしたい…

中堅ゼネコンに勤めて4年目の富島平太は、マンション建設現場の仕事に勤しんでいた。「大きな建物を建てる仕事」を目指していた平太は、現場の仕事に熱中していた。

そんなある日、本社勤務を命じる辞令を受け取ることとなった。本社へ行ってみれば、現場とは随分と雰囲気も違う。配属されたのは業務課という部署で、大型工事の入札や受注に向けた各種の準備に取組むことになっている。が、他方で“談合課”というようにも言われている部署である。

“談合”というものを“必要悪”とする、余所では受け容れられ悪い論理の中、平太は仕事に取組むことになる。そうした中、「大きな談合の陰に必ず居る」という、“天皇”とまで呼ばれる「談合の黒幕」と目される人物と出逢うが、その人物が同郷であり、更に母と関わりが在ったということも仄めかされる。更に、業務課を所管する常務の指示で、平太はその人物との窓口のような型に収まってしまった。

そんな他方で、学生時代のサークルで知り合っていて、就職後に偶然に再開したことが切っ掛けで交際していた野村萌との関係が揺れていた。大手銀行に勤務する萌と、中堅ゼネコンに勤務する平太は、互いに「全く異なる価値基準」の下で生きている間に、何か埋め難い溝のようなものを造ってしまっていた。萌に関しては、銀行の先輩であり、エリートと目される男が言い寄るようにもなっている。

やがて平太の会社は、総工費が2000億円前後になろうという地下鉄工事の落札を目指すことになる。通常、この種の大型工事は数社で連合(JV)を組んで取組むが、平太の会社は単独での落札を目指すという方針で準備を開始した。コストを切り詰めるべく、部材調達費等の交渉に勤しむ。

そうした中、“調整”と呼ばれる談合の話しが湧き上がる。平太の会社では、行き詰ったコスト削減目標に関して、新工法を導入するという構想で何とか巧く行きそうだという情勢になっていた。そういう中だけに、談合という流れに関しては抵抗も大きかった。

地下鉄工事の落札の行方は?平太と萌の関係は?なかなかに読ませてくれる!!実際、「続き…」ということになって、細目に時間を設けてどんどん読み進めてしまった…

本作は「談合」という問題に関して、突然にその世界に投げ込まれた熱血漢な若者や、全く違った価値観に立脚して批判的に視ている人達というような劇中人物達の目線で説こうとしているような“社会派”的な部分が在る。そうした意味で「実録風企業モノ」という感がする…

他方で、本作は談合に関与する各社の関係者の動きに、その種の不正や、背後に蠢く政治家を逮捕することを目指す地検特捜部の密かな活動が絡まり、“経済事件”を巡る“謎解き”というような味わいも深い…

更に、「社会に出て極々日が浅い」ということで、各々に必死で、それぞれの場に在りながら“共闘”的な心の繋がりを持っていた平太と萌との関係が“曲がり角”を迎えて行くというような部分は“恋愛モノ”風であるし、自身の夢を追って仕事をしていた平太が、不本意と言えば不本意な役目を担う中で、郷里の母が病気になるなど、何か“青春譚”、“人生譚”というムードも漂う。

本作を読み進めることに関しては、“社会派”的な部分、“経済事件”を巡る“謎解き”という部分、“恋愛モノ”風な部分、“青春譚”或いは“人生譚”というムードと、多彩な要素が各々に「作品の頁をどんどん繰る理由」となりそうである。

実際、私は“社会派”的な部分、“謎解き”という部分、“青春譚”という部分のそれぞれが非常に気になりながら頁を繰っていた。殊に“青春譚”という部分では…その尊さを深く意識しない程度にまで「大切なこと」となっていたものが、何かわけの判らない切っ掛け、或いは切っ掛けさえよく判らない中で脆くも崩れてしまう様や、平太や萌が各々にそうしたものを見直すようになって行く様には引き込まれるものが在った…

この作者の作品…“社会派”的?事件の“謎解き”?“青春譚”?実に「分類」が難しい…どうしても「分類」して安心しようとするような面が誰にでも在るのかもしれないが…本作は「所謂“分類”を超えている」という楽しさが溢れている物語のように思う…

巻末の解説で知ったが…本作は当初『走れ平太』という仮題だったらしい…これ!なかなかに好い…正しく、若き熱血漢が部外者には解り難い世界に投げ込まれて奔走し、謎が多い状況の中を走り回り、萌との関係や体調を崩してしまう母のことで走り回る…正しく『走れ平太』という感がする…

「今更、御紹介するまでも…」と思うような「人気作家の有名作品の一つ」である本作だが、非常に愉しいので未読の皆さんにはお勧めしたい。

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