『謙信の軍配者』

“足利学校”で出逢った3人の若者は、“軍配者”と呼び習わされた「軍事行動等のコンサルタント」として各々に回り逢った主君に仕えて戦国の世の年月を過ごしていたが、その3人を描く3部作の3作目が文庫で登場した。

↓登場を心待ちにしていた“第3部”である!!

富樫倫太郎/謙信の軍配者 上 中公文庫


富樫倫太郎/謙信の軍配者 下 中公文庫
↑大変に愉しく読了した!!

↓この第3部の以前の作品が下記である…
>>『早雲の軍配者』(第1部)
>>『信玄の軍配者』(第2部)

そして『謙信の軍配者』に至る。何かタイトルを視ると、3人の人物を各々に主人公とした別々の3作品のようにも見えるが…実は1つの長編を3部構成に仕上げ直していったような感じの作風で、各作品を各々にも愉しめるのだが、「一連の大河ドラマ」として非常に面白いモノになっていると思う。

『謙信の軍配者』とは宇佐美冬之助だ。元は曾我冬之助として関東管領上杉家の陣営に在ったが、第2部の終盤で戦に敗れて囚われの身になってしまったところから逃れ、越後に至って長尾景虎(後の上杉謙信)に仕えることになる。『謙信の軍配者』は、この宇佐美冬之助の物語という建前だが…本音は『信玄の軍配者』の主人公であった四郎佐こと山本勘助の“その後”という色彩が濃いような印象を受ける…或いは…3部作の3人の主役級の中で「真の主役」は、この四郎佐こと山本勘助なのかもしれない…

『謙信の軍配者』では、“型破り”な長尾景虎に仕えるようになった冬之助のその後、彼と何度も干戈を交えることになる信玄こと武田晴信との因縁、両者の互いに対する想い、その武田晴信に使え続ける山本勘助のその後、家族を得た山本勘助の人生が鮮やかに描かれる。

本作では「家族を得た山本勘助の人生」に纏わる部分が強い印象を残す。母親が病を得てしまったことにしょげ返る四郎(長じて武田勝頼となる…)を諭しながら、赤子の間に失ってしまった初めての息子の一件が夫婦間で“陰”になっていたことに思い至る様…やがて産れた2番目の息子に最初の息子と同じ名を与えて慈しむ様…“逆境を負う”という共通項から深く理解し合い、互いを敬愛する夫婦の様…そうした様子に心打たれるものが在る…

本作では冬之助の“軍配者”としての印象がやや薄い…彼が仕える長尾景虎は正しく“型破り”で、「毘沙門天の化身」と言われるような、「定石というものを外して、敗戦らしい敗戦が殆ど無い」という勇将である。が…本作の最終盤では「山本勘助の最後にして最強の敵」として、武田陣営の状況に鑑みて、更に“四郎佐”時代からの友人として知り得る山本勘助の性格や考え方の傾向に鑑みて、「山本勘助の献策」を鋭く読み解く様子を見せる…

足利学校で回り逢って、互いをかけがえの無い友と思う風摩小太郎、山本勘助、曾我冬之助の3人が「何時か戦場で、互いの陣営を率いた状態で見えよう」という“約束”が果たされる日を願い続けていた訳だが、各々が人生の終焉に向かって行く様が描かれて、この壮大な物語は幕を閉じて行く…非常に強い余韻が残る…

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